ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A23K |
---|---|
管理番号 | 1093894 |
審判番号 | 無効2000-35460 |
総通号数 | 53 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1987-07-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-08-31 |
確定日 | 2004-01-20 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2139541号発明「養魚飼料用添加物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2139541号発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2139541号の特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下、「本件特許発明」という。)の出願は、昭和61年1月30日に特許出願され、出願公告(特公平6-93821号公報)後、特許異議の申立てがなされ、平成9年12月2日に拒絶査定され、平成9年審判第21462号として前置審査され、拒絶査定が取り消されて、平成10年12月18日に発明の数:1として設定登録がなされた。 その後、請求人により平成12年8月31日に本件無効審判が請求され、被請求人は平成12年11月28日に答弁書及び訂正請求書を提出して訂正を求め、請求人は平成13年7月4日に弁ぱく書を提出しているものである。 2.訂正の可否 平成12年11月28日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という)の可否について以下検討する。 (1)本件訂正請求の内容 <訂正事項a> 特許請求の範囲第1項の記載「1.アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とする、ニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイ、またはウナギの飼料中に配合する養魚用ペレット飼料用添加物。」を、「1.アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とする、ニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイ、またはウナギのペレット飼料の中に配合する養魚用ペレット飼料用添加物。」(注:下線は訂正により加入された記載を示す。)に訂正する。 <訂正事項b> 願書に添付した明細書(平成10年8月10日付け手続補正書(甲第17号証その17)で全文訂正された明細書第2頁下から9〜8行の記載「飼料中に」を、「ペレット飼料の中に」に訂正する。 (2)訂正の可否についての判断 上記訂正事項aは、ペレット飼料用添加剤の飼料への配合形態を、ペレット飼料の表面にまぶしたり被覆したりするものではないことを明りょうにするために、明りょうでない記載の釈明を目的として特許請求の範囲の記載を訂正するものであり、上記訂正事項bも、同様に発明の詳細な説明の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また、これらの訂正事項は、願書に添付した明細書の実施例2に記載されている。 そして、これらの明細書の訂正によって、特許請求の範囲が実質上拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、本件訂正請求は、平成6年法改正前の特許法第134条第2項ただし書及び特許法第134条第5項において準用する平成6年法改正前の同法126条第2項の規定に適合しているので、当該訂正を認める。 3.本件特許発明 本件特許発明は、本件訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。 「1.アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とする、ニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイ、またはウナギのペレット飼料の中に配合する養魚用ペレット飼料用添加物。」 4.請求人の主張及び証拠方法 請求人は次のような無効理由を主張し、証拠方法として甲第1〜17号証を提出している。 <無効理由> (無効理由その1) 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 (無効理由その2) 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、またそうでないとしても、甲第4号証と甲第5号証、甲第10号証に記載された発明に基づき当業者が容易に想到しえたものであり、特許法第29条第2項の発明に該当するものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 (無効理由その3) 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第5号証と甲第10号証に記載された発明に基づき当業者が容易に想到しえたものであり、特許法第29条第2項の発明に該当するものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:Progressive Fish‐Culturist,47,No.1,p55‐59,1985 甲第2号証:Carbohydrate Research,67(1978),p127‐138 甲第3号証:ビタミン,Vol.41,No.6(1970),p387-398 甲第4号証:特関昭52一136160号公報 甲第5号証:Chen-Hsiung(Eldon)Lee,″SYNSTHSES AND CHARACTERIZATION OF L‐ASCORBATE PHOSPHATES AND THEIR STABILITIES IN MODEL SYSTEMS″(1976)の内容を撮影したマイクロフィルム(国立国会図書館昭和54年(1979年)3月14日受入:国立国会図書館所蔵マイクロフィルム資料:DI 77-05510) 甲第6号証:特公昭45一4497号公報 甲第7号証:米国特許第3、954、809号明細書(1976年) 甲第8号証:Chem.Pharm.Bull.,17(2),p387‐393,1969 甲第9号証:Chem.Pharm.Bull.,19(2),p341‐354,1971 甲第10号証:荻野珍吉編「魚類の栄養と飼料」,1及び292-306頁(昭和55年11月15日(株)恒星社厚生閣発行) 甲第11号証:Comp.Biochem.Physiol.,16,p317‐319(1965) 甲第12号証:Acta histochem.Bd.47,S.8‐14(1973) 甲第13号証:Acta histochem.Bd.53,S.206‐210(1975) 甲第14号証:Endokrinologie,Band68.Heft 1.1976.S.80‐85 甲第15号証:特公平6-93821号公報「特許法(平成6年法律第116号による改正前。)第64条の規定による補正」(公報発行日:平成11年9月13日) 甲第16号証:The American Journal of Clinical Nutrition,32,No.2,p325‐331 甲第17号証:本件の出願審査手続の中で提出・送付された書類一式 その1:昭和61年1月30日特許出願明細書(特願昭61-16739号) その2:昭和62年7月31日公開特許公報(特開昭62-175142号) その3:平成5年11月30日発送拒絶理由通知書 その4:拒絶理由引例(特開昭49-24783号明細書) その5:平成6年1月28日提出意見書 その6:平成6年1月28日提出手続補正書 その7:平成6年11月24日公告特許公報(特公平6-93821号) その8:平成7年2月24日提出特許異議申立書 その9:平成7年5月25日提出特許異議申立理由補充書 その10:平成8年4月22日提出特許異議答弁書 その11:平成8年4月22日提出手続補正書 その12:平成8年5月26日提出特許異議弁駁書 その13:平成9年12月2日発送特許異議の決定謄本 その14:平成10年1月23日提出手続補正書 その15:平成10年3月13日提出審判請求理由補充書 その16:平成10年6月9日発送拒絶理由通知書 その17:平成10年8月10日提出意見書に代わる手続補正書 その18:平成10年9月18日起案特許査定 さらに、請求人は弁ぱく書に添付して次の甲第18〜24号証を提出している。 甲第18号証:日本公定書協会編「化粧品原料基準第二版注解I」-1984-、薬事日報社、第9〜11頁及び第812〜813頁 甲第19号証:鹿児島大学水産学部助教授の越塩俊介の見解書 甲第20号証:Paul A.Seibの宣誓書 甲第21号証その1:Yun‐Teh S.(Doreen)Liangの宣誓書 甲第21号証その2:Yun‐Ten S.(Doreen)Liangの実験ノート番号Xの第42頁 甲第22号証:Journal of Faculty of Fisheries,Prefectural University of Mie,Vol.6,No.3,p.291‐301,December 15,1965 甲第23号証:Journal of Faculty of Fisheries,Prefectural University of Mie,Vol.6,No.3,p.303‐311,December 15,1965 (8)甲第24号証:「改訂第5版飼料ハンドブック」、第98頁、昭和44年12月30日第1版発行、平成3年10月28日改訂第5版発行、日本科学飼料協会発行 5.被請求人の主張 被請求人は、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるどころか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に成し得た発明でもなく、また、甲第4号証の記載に甲第5号証および甲第10号証の記載を組合せてみても、本件特許発明はこれらの甲号証の記載から容易になしえた発明ではないし、甲第5号証と甲第10号証の記載に基づいて容易に想到できるものではないから、本件特許を無効とすべき理由はない、と主張して、次の乙号証を提出している。 乙第1号証:Annals New York Acadenny of Sciences.p81-101(1975) 乙第2号証:米国特許第4,179,445号明細書(1979年(昭和54年)12月18日特許) 乙第3号証:J.Nutr.108,p1761-1766(1978) 乙第4号証:魚に対する給餌および栄養摂取に関する第3回国際シンポジウム、ロシユ・ワークショップ-魚生産における餌添加物-(1989年8月29日、鳥羽国際ホテル)講演(2)要旨 乙第5号証:「ビタミン」53巻2号(2月)p63-68、1979 乙第6号証:J.Nutr.121,p1622-1626(1991) 6.甲号証の記載事項 甲第4号証、甲第5号証及び甲第10号証には、それぞれ次の事項が記載されている。 (6-1)甲第4号証 甲第4号証は、アスコルビン酸のリン酸エステルの製法に関する発明について、次の事項が記載されている。 (4a)発明の概要 「本発明は広範囲の食品に使用しうる安定な栄養価値のあるビタミンC源として有用なホスホリル誘導体類を製造するためのモノアスコルビル-およびジアスコルビル-2-ホスフエートの合成法に関する。」(第2頁右上欄下から5〜1行) (4b)誘導体の酸素及び熱に対する安定性 「L-アスコルビン酸は、それを特定の化学誘導体に変えることによって、酸素及び熱に対して一層安定化されうることが知られている。特にL‐アスコルベート2-ホスフェートまたはL-アスコルベート2-サルフェートの如きアスコルビン酸の2-位置の無機エステル類は、L-アスコルビン酸のように容易に酸化されない。さらには、L-アスコルビン酸の2-ホスフェート及び2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し、動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ、このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている。ホスフェートエステル基を開裂することが知られている酵素が 動物の消化系に存在するから、かかる2-ホスフェートエステルは、殆ど全ての動物中で活性を示すと考えられる。」(第3頁左上欄1〜16行) (4c)マグネシウム塩の使用例 「L-アスコルベート2-ホスフェートを合成するいくつかの方法が過去に提案されてきておりまた該ホスフェートエステルが期待通り高ビタミンC効力を有することが示されている。例えば、・・・は、モルモット(guineapig)にL-アスコルベート2-ホスフェートマグネシウム塩を給餌または注射すると、モルモットが尿中にL-アスコルベートを排泄することを発表している・・・。L-アスコルベート2-ホスフェートを与えられた動物にとつて排泄されたL-アスコルビン酸の量は、等量のL-アスコルビン酸を与えた動物によつて排泄された量と同じであった。これらの結果は、L-アスコルベート2-ホスフェートは腸内で定量的にL-アスコルベートと無機燐酸塩とに変化することを示している。」(第3頁左上欄末行〜右上欄13行) (4d)発明の目的 「従って、本発明の最も重要な目的は、分析化学的に純粋な状態で容易に回収でき、しかも酸素の存在によりまたは高熱条件下で活性を失うことなく食品系におけるビタミンC源またはビタミンプレミックスとして使用しうるアスコルビン酸のホスフェートエステルを高収率で製造するための工業的に使用しうる方法を提供することにある。」(第3頁左下欄9〜15行) (4e)実施例1の製造、単離された化合物 第一反応成分として5,6-o-イソプロピリデン-L-アスコルビン酸(IAA)を、第二反応成分としてオキシ塩化燐を用いる製造具体例の実施例1(第6頁左下欄14行〜第9頁右上欄14行)には、「実質上純粋なマグネシウムL-アスコルベート2一ホスフェートを自由流動粉末として得た(収率約86%)。」ことが記載され(第8頁右下欄7〜9行)、また、このマグネシウム塩を遠心分離捕集した際の上澄液と捕集後のマグネシウム塩を洗浄したエタノール洗液とから、バリウムL-アスコルベート2‐ホスフェートが回収されること(第8頁右下欄10〜20行)、さらには、これらを処理して、トリシクロヘキシルアンモニウムL-アスコルベート2‐ホスフェート(TCHAP)を単離、回収することができることが記載されている(第8頁右下欄末行〜第9頁右上欄14行)。 (4f)実施例2の製造、単離された化合物 第一反応成分として5,6-o-ベンジリデン-L-アスコルビン酸を用いた実施例2(第9頁右上欄15行〜左下欄11行)には、「目的とする塩、L-アスコルベート2‐ホスフェート(TCHAP)は、実施例1と実質上同じ収率及び純度で得られた。」と記載されている(第9頁左下欄9〜11行)。 (4g)実施例3の製造、単離された化合物 第一反応成分としてL-アスコルビン酸またはD-イソアスコルビン酸を用いた実施例3(第9頁左下欄12行〜右下欄16行)には、マグネシウムL‐アスコルベート2一ホスフェートが5水和物固体基準で計算して収率65%、トリシクロヘキシルアンモニウムL-アスコルベート2-ホスフェートが収率51%で得られたことが記載されている(第9頁右下欄9〜16行)。 (4h)実施例4の製造、単離された化合物 実施例4(第9頁右下欄17行〜第10頁右上欄下から15行)では、収率28.9%でバリウムビス-(L-アスコルビル)2、2’-ホスフェートを得たことが記載されている(第10頁12〜15行)。 (4i)実施例5の製造、単離された化合物 純粋な結晶性TCHAPのトリシクロヘキシルアンモニウム・カチオンを別の所望カチオンに置換して別の誘導体を製造する実施例5(第10頁右上欄下から14行〜左下欄6行)には、固体のナトリウムL-アスコルベート2-ホスフェートを収率95%で得たこと、また、置換カチオンとしてバリウム、カリウム、マグネシウムおよびマグネシウムなどを有する、その他の塩も同様に製造できることも記載されている。 (6-2)甲第5号証 「L-アスコルベート ホスフェートの合成と特徴づけ及びモデル系におけるそれらの安定性」と題する論文である甲第5号証には、次の事項が記載されている。 (5a)魚にもL-アスコルビン酸(ビタミンC)が必要 「序 説 L-アスコルビン酸(ビタミンC)が、ヒト、サル及ひモルモットの生育及び健康に必要てあることは広く知られている。最近の調査は、また、ビタミンCが魚の食養生の必須要件(dietary requirement)であることを証明している(Halver,1974)。微生物に関し、この点については殆と知られていない。L-グロノ-β-ラクトン オキシダーゼを欠くため、一定の動物及ひ魚において食物供給源が、必要である。該酵素は、L-グロノラクトンからその2-又は3-ケト誘導体を生成し、そのケト誘導体は互変異化して、ビタミンCを生成する。」(第16頁第1行〜第8行) (5b)特に安定な誘導体 「特に、L-アスコルベート2-ホスフェート(この化合物は先の報告者によりL-アスコルベート3-ホスフェートとして間違って特定された)又はL-アスコルベート2-サルフェートのようなL-アスコルビン酸の2-ヒドロキシにおける無機エステルは、脱水アスコルビン酸に、容易に酸化しない。L-アスコルベート2-サルフェートは食物内で非常に安定であることが示されているが(Quadri et al ,1975)、残念なことにこの誘導体は、モルモット用(Campeau et al ,1973)又は霊長類用(Tolbert and Baker,1976)のビタミンCの食物供給源として働かず、それは多分、硫酸誘導体の低い腎臓のしきい値のためであろう。しかし、L-アスコルベート2-サルフェートは、魚用にビタミンCの有効な供給源である(Halver et al,1973)。」(第17頁下から12行〜下から3行) (5c)L-アスコルベート2-ホスフェートの調製 (5c-1)マグネシウム塩からトリシクロヘキシルアンモニウム塩へ変換 第47〜51頁の「1.6.L-アスコルベート2-ホスフェートの調製」の項、および第94〜98頁の「3.L-アスコルベート2-ホスフェートの調製」の項には、前記甲第4号証の実施例1と同様、5,6-o-イソプロピリデン-L-アスコルビン酸(IAA)とオキシ塩化燐(塩化ホスホリルともいう。)を用いて、マグネシウムL-アスコルベート2一ホスフェートを粉末として得た(収率約86%)こと(第47頁下から2行〜末行、第98頁3〜5行)、また、このマグネシウム塩をトリシクロヘキシルアンモニウムL-アスコルベート2‐ホスフェート(TCHAP)に変換して精製された結晶として単離、回収できること(第47頁末行〜第50頁3行、第98頁13〜22行)が記載されている。 (5c-2)トリシクロヘキシルアンモニウム塩からその他の塩へ変換 そして、「トリシクロヘキシルアンモニウムL-アスコルベート2‐ホスフェートは、シクロヘキシルアンモニウムイオンを置換した他のカチオン基を含む塩に容易に変換することができる。この置換は、(1)TCHAP溶液を遊離酸型のカチオン交換樹脂に通し、流出液を遊離塩基の添加によりpH9.0に調整することによってか、あるいは(2)TCHAP水溶液を所望のカチオン基を含むカチオン交換樹脂に通した後、カラム流出液を濃縮することによって、行われる。この方法で、L-アスコルベート2‐ホスフェートのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ニコチンアミド、L-リジン、等の様々な塩を調製することができる。」(第50頁下から7行〜第51頁2行)と、無機塩の製法について前記記載(4i)と同様の記載がなされている。 (5c-3)食用のL-アスコルベート2-ホスフェート塩 「5.2 食用のL-アスコルベート2-ホスフェート塩 ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ニコチンアミド及びL-リシンのような様々な食用塩を調製した。これらのL-アスコルベート2-ホスフェート塩を、トリシクロヘキシルアンモニウム塩から、Amberlite IR‐120(H+)を通過させ、続いて塩基の添加による流出液のpH9.0への調整により調製した。カルシウム塩の調製のための手順は、その方法を詳細に説明している。全ての塩は、例外の可能性があるカリウム塩を除き、無定形固体である。 カルシウムL-アスコルベート2-ホスフェート:トリシクロヘキシルアンモニウムL-アスコルベート2-ホスフェート(1.00g)を水(〜10ml)に溶解し、その水溶液を強酸性カチオン交換樹脂であるAmberlite IR-120(H+)12mlに通した。カラムを2容量の水て洗浄し、流出夜をあわせ、次いで水酸化カルシウムの添加によりpH9.0に調整した。水分を蒸発させて、カルシウムL-アスコルベート2一ホスフェート0.574gを融点220〜2400(分解)で得た。UV吸収に基づく収率の割合は、82.9%であった。」(第102頁下から8行〜末行、第104頁1〜8行) (5d)L-アスコルベート2-ホスフェートの安定性 (5d-1)無機塩の安定性 「ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム及びバリウムのような無機塩は、トリシクロヘキシルアンモニウム塩よりも安定である。」(第51頁17行〜18行) (5d-2)空気及び窒素に対する安定性 「2.4 L-アスコルベート2-ホスフェート及びL-アスコルベートの空気及び窒素に対する安定性 モデルシステムを用いて、L-アスコルベート2-ホスフェート及びL-アスコルベートの空気に対する安定性を測定した。沸騰水中及び蒸気中では、L-アスコルベート2-ホスフェート及びL-アスコルベートは、一次速度論で消滅し(第78頁の図23)、順に半減期78時間及び8.6時間を有することか見出された。従って、酸素に対して、前者は後者よりも約9倍安定てあった。しかし、窒素流下、L-アスコルベート2-ホスフェートは、L-アスコルベートよりも5倍だけ安定であった(第78頁の図23)。すなわち、中庸のpHで空気に対して、L-アスコルベート2-ホスフェートは、L-アスコルベートよりも非常に安定である。」(第77頁下から11行〜末行) (5d-3)沸騰アルカリ及び酸に対する安定性 「2.5 L-アスコルビン酸の2-ホスフェート及び2-サルフェートの沸騰アルカリ及び酸に対する加水分解安定性 L-アスコルビン酸の2-ホスフェート及び2-サルフェートの双方は熱酸及びアルカリ中で一次速度論にしたがって消滅した。強沸騰アルカリ(pH13)中で、2-ホスフェートエステルは、2-サルフェートエステルとほぼ同じ安定性を有する;前者は22.5時間の半減期、他方、後者は19.2時間の半減期を有する(第80頁の図24)。 強沸騰酸(pH1.0)中で、L-アスコルベート2-ホスフェートは52.8分の半減期を有するが、2-サルフェートエステルは僅か3.6分の半減期しか持たない;前者は後者より約15倍安定であった。強沸騰アルカリにおけるL-アスコルベート2-ホスフェートを強沸騰酸中のそれと対比すると、その化合物はpH1.0におけるよりもpH13における方が約26倍安定であった(第80頁の図24)。」(第79頁1行〜13行) (5d-4)安定性の調査条件 「6 L-アスコルベート ホスフェート類の安定性の調査 6.1 酵素加水分解試験 仔牛腸粘膜アルカリホスホターゼ(1.0mg、1.9単位/mg、Sigma)を、0.01MトリシクロヘキシルアンモニウムL-アスコルベート2-ホスフェート、0.01Mナトリウムビス(L-アスコルベート)2,2’-ホスフェート、又は推定ビス(L-アスコルベート)2,6’-ホスフェート(L-アスコルビン酸のホスホリル化混合物から調製用ペーパークロマトグラフィーにより単離されたRa値0.2の成分)のいずれか0.5mlとともに、0.025Mトリス-Cl緩衝液(pH8.0)中、25°でインキュベーションした。コントロールサンプルは、酵素を添加せずに試験した。アリコート(5μ1)を、0、0.5、1、2及び16時間て採取し、展開溶媒I及びIIと共にクロマトグラフした(1.2.2.ペーパークロマトグラフィー、第84頁参照)。アルカリホスフオターゼとともにだけ、トリシクロヘキシルアンモニウムL-アスコルベート2-ホスフェートは、L-アスコルビン酸及び無機ホスフェートに開裂した、すなわち30分で、L-アスコルベート2-ホスフェートの消滅と共に、L-アスコルビン酸及び無機ホスフェートの量は増加した。結果は、異なる3種のスプレーにより観察された(1.2.2.ペーパークロマトグラフィー、第84頁参照)。上記の全ての実験において、L-アスコルビン酸のこれら3種のリン酸エステルのコントロールサンプルは、加水分解的な分解(破壊)は見られなかった。結果は、また、高速液体クロマトグラフィーを用いることにより確認された(1.2 3 高速液体クロマトグラフィー、第84頁)。 6.2 空気又は窒素に対するL-アスコルベート2-ホスフェート及びL-アスコルべ-トの安定性 マグネシウムL-アスコルベート2-ホスフェート(570mg、1.5mMole)又はカリウムL-アスコルベート(322mg、1.5mMole)を、沸騰するまて予め加熱した水100mlに溶解した。還流状態で加熱する間、窒素流又は空気流(1気圧、25°で24ml/分)を、その溶液に通気した。反応混合物のアリコートを時間と共に採取し、L-アスコルベート2-ホスフェートの分析を高速液体クロマトグラフィー(1.2.3.高速液体クロマトグラフィー、第84頁)を用いて行った。L-アスコルビン酸の分析は.蛍光分析により行った(Deutsch and Weeks,1965)。 6.3.アルカリ及び酸に対するL-アスコルビン酸の2-リン酸エステル及び2-硫酸エステルの安定性 マグネシウムL-アスコルベート2-ホスフェート(570mg、1.5mMole)又はカリウムL-アスコルベート2-ホスフェート(500mg、1.5 mMole)を、塩の添加前に予め両方とも沸騰しておいた水酸化物水溶液100ml(pH13.0)に溶解した。反応混合物からのアリコートを時間と共に採取し、L-アスコルベート2-ホスフェートについての分析を高速液体クロマトグラフィーて行った(1 2.3.高速液体クロマトグラフィー、第84頁)。」(第104頁9行〜第105頁末行) (6-3)甲第10号証 甲第10号証には、「1.1 魚類養殖の現状」として、内水面養殖の主要魚種はウナギ、コイ、ニジマス、アユであること(第1頁11行〜17行)、養魚用配合飼料について、現在養殖されている主要魚種のマス、コイ、マダイ、ハマチでは固形のペレットの形態で使用され、配合飼料の組成としてマスを対象魚としてビタミン混合されていること、ビタミン混合の具体的組成としてマス、ニジマス、キャットフィッシュ(ナマズ)を対象魚とするものにアスコルビン酸を配合する組成があること(第292頁3行〜第295頁下から8行)、そして、ペレット飼料は養魚飼料に広く使用され、その製造工程では配合飼料に高温、高圧がかかること、その結果、固形飼料を製造するときにはビタミンCの損失があること、また保存時にもビタミンCが損失すること(第295頁下から8行〜第297頁下から4行)が記載されている。 7.本件特許発明と甲第4号証記載の発明との対比 (1)甲第4号証記載の発明 甲第4号証の前記記載(4a)の「・・ビタミンC源として有用な」、及び同(4d)の「酸素の存在によりまたは高熱条件下で活性を失うことなく食品系におけるビタミンC源またはビタミンプレミックスとして使用しうる」とは、「アスコルビン酸活性を示す有効成分として」使用しうることを意味するものと認められる。 また、甲第4号証の製法発明において具体的に製造され、純粋な状態で回収されている化合物は、前記記載(4e)〜(4g),(4i)の如く、いずれも「L-アスコルベート-2-ホスフェートの塩類」であり、同(4b)の「さらには、L-アスコルビン酸の2-ホスフェート及び2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し、動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ、このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている。」という記載、そして「魚の餌」とは「魚の飼料」であるし、同(4c)の「L-アスコルベート2-ホスフェートマグネシウム塩」をモルモットに与えた先例の記載からして、甲第4号証には、 「アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルベート2-ホスフェートの塩を含有する、魚の飼料の補充剤」が記載されているものと認められる。 (2)一致点、相違点 本件特許発明と上記甲第4号証記載の発明とを対比すると、両者は、「アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルベート2-ホスフェートの塩を含有する、魚の飼料の補充剤」である点で一致するものの、次の点で相違する。 (相違点1) 対象とする魚について、本件特許発明では「養魚」であって、「ニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイ、またはウナギ」の飼料に使用するものであると特定されているのに、甲第4号証記載の発明では、単に「魚」の飼料に用いられるとしか記載されていない点。 (相違点2) 補充対象の飼料形態が、本件特許発明では、「ペレット飼料」であるのに対し、甲第4号証記載の発明では補充される飼料の形態については何も記載されていない点。 (相違点3) 飼料に補充する際の態様が、本件特許発明では、「ペレット飼料の中に配合するペレット飼料用添加物」として用いられるのに対し、甲第4号証記載の発明では、「餌」すなわち飼料に補充する際の補充形態については何も記載されていない点。 8.相違点についての判断 (1)相違点1について 飼料が給餌される魚は、「養魚」に他ならない。 また、ニジマス、アユ、ハマチ、タイ、コイ、ウナギなどは、甲第10号証にも記載の如く、養魚の代表的な魚種であり、ヒメマス、シロザケ、アマゴ、ヤマメ、ハマチも、日本における養魚対象魚種としては周知のものである。 そして、魚にもビタミンC、すなわちL-アスコルビン酸が必要であることは、前記記載(5a)にも記載の如く、本件特許出願前公知の事項であり、甲第10号証に実際にアスコルビン酸が配合された養魚用飼料も知られているものである。 そうすると、前記記載(4a)、(4b)のように、L-アスコルビン酸の酸素及び熱に対しての不安定さを改良し、その代替品として記載されている「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩類」を含有する魚の飼料の補充剤を使用する対象魚種として、養魚として日本においてよく知られた、ニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイ、ウナギなどを選定して使ってみるようなことは、当業者であれば容易に想到し得る範囲内のことである。 (2)相違点2、3について 「ペレット飼料」は、甲第10号証に記載されているように、養魚用の飼料の形態としては広く使用されているものである。 そして、ペレット飼料の製造工程では、ビタミンCもペレット飼料の中に配合され添加されること、配合飼料混合物に高温、高圧がかかる結果、ペレット飼料を製造するときにはビタミンCの損失があること、また飼料保存時にもビタミンCが損失することも、甲第10号証に記載されているように、本件特許出願前に知られた事項(前記(6-3)参照)であるから、従来配合されているビタミンCに代えて、その酸素及び熱に対しての不安定さを改良した、ビタミンCの誘導体である「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩類」を魚の飼料の補充剤として使用する際に、「ペレット飼料の中に配合するペレット飼料用添加物」として使用することも、当業者であれば普通に採用する補充時の使用態様にすぎない。 (3)被請求人の主張について (3-1)被請求人は、無効理由その2について、L-アスコルビン酸の2-サルフェートの塩をニジマスの飼料添加物として用いたことが記載されている乙第1号証、甲第4号証記載の発明の出願の優先権主張の基礎となった米国出願の特許明細書である乙第2号証、L-アスコルビン酸の2-サルフェートの塩を補って飼育した場合ナマズではその利用効率が低い可能性があることを示唆する乙第3号証、並びに請求人会社が本件特許出願後にL-アスコルビン酸2-サルフェートの吸収性及び有効性に疑問があることを示唆する内容を発表している乙第4号証を引用しつつ、大略次のように答弁している(答弁書第15〜25頁)。 (イ)甲第4号証記載の発明はアスコルビン酸ホスフエート類(アスコルビン酸ホスフエート構造を有する化合物の総称)の製造方法に関する発明と解されるもので、その製造プロセスをみても反応生成物として遊離酸としてのアスコルビン酸ホスフエートが生成しており、従来技術の説明としての前記記載(4b)に魚の餌の補充剤として用いられることが知られていると記載されている「L-アスコルビン酸の2-ホスフエートおよび2-サルフェート誘導体類」 が具体的にどのような化合物を指すのか判然としないし(特に、請求人が主張するように「塩としてのL-アスコルビン酸2-ホスフェート」を指すと解すると、どのようなカチオン種との塩を指すのか全く不明であり)、また、「魚」とは具体的にどのような魚種を指すのか、また、「魚の餌の補充剤」とは、どのような形態のものか不明であって、その記載は非常に概括的かつ舌足らずであって明瞭でなく、 (ロ)さらに、L-アスコルベート2-ホスフェートの塩が熱および酸素に対して安定であり、また、L-アスコルベート2‐ホスフェートが殆ど全ての動物中で活性を示すであろうと示唆されているとしても、当業者には、L-アスコルベート2‐ホスフエートを塩としてペレット飼料中に配合したとき、餌飼料中での安定性、給餌したとき水中での安定性、ペレット飼料から水中への溶出性、および本件特許発明の対象魚の体内での吸収性、活性などが明らかにならない以上、その有用性は全く見通せず、L-アスコルベート2-ホスフエートを特定の魚種のペレット飼料の中に配合することは容易に想到できることではないものであり、 (ハ)しかも、本件特許発明は、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステル類を塩の形態で含み、特定の魚種に対するペレット飼料の中に配合されるものであって、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステル(遊離酸)を魚の餌のビタミンC補充剤としてチャネルキャットフィッシュに与えた場合と比較して、予想される域を越える格別優れた効果を奏するから、本件特許発明は、甲第4号証に記載された発明、あるいは、これと甲第5および10号証に記載された発明から容易になし得た発明ではない。 (3-2)確かに、前記記載(4b)の「L-アスコルビン酸の2-ホスフエートおよび2-サルフェート誘導体類」は、その記載のみでは具体的にどのような化合物を指すのか特定されるものではないが、甲第4号証には、従来技術として、L-アスコルビン酸の2-ホスフエートエステル誘導体類が容易に酸化されず、魚の餌の補充剤として用いられ、殆ど全ての動物中でビタミンC活性を示すことが記載され、前記記載(4b)に続けて、同(4c)に魚に対してではないが動物に対して使用したとして記載されているL-アスコルビン酸の2-ホスフエートエステル誘導体は、そのマグネシウム塩すなわちL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルのマグネシウム塩である。さらに前記記載(4d)に発明の目的として、上記従来技術記載に対応した有用性である「酸素の存在によりまたは高熱条件下で活性を失うことなく食品系におけるビタミンC源またはビタミンプレミックスとして使用しうる」アスコルビン酸の2‐ホスフエートエステルを分析化学的に純粋な状態で容易に回収でき、高収率で製造するための工業的に使用できる方法を提供することが記載されている。そして、甲第4号証記載の発明で分析化学的に純粋な状態で容易に回収でき、高収率で製造するための工業的に使用できる方法で製造された化合物は、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩のみである(前記記載(4e)〜(4i)参照)。一方、遊離酸としてのL‐アスコルビン酸の2-リン酸エステルは、塩のように「収率」データの記載もなく、単に製造過程における溶液状態の中間生成物であって、塩の場合のように結晶化という精製、単離手段も適用できず、それが分析化学的に純粋な状態で高収率で製造されたとの記載はない。一般に遊離酸状態の化合物が液状で精製、単離され製品として流通している例があるとしても、甲第4号証記載の「L-アスコルビン酸の2-ホスフエート誘導体類」という記載が、前記記載にもかかわらず、遊離酸としてのL‐アスコルビン酸の2-リン酸エステルのみに限られると解すべき理由はない。 そうすると、前記記載(4b)の「L-アスコルビン酸の2-ホスフエート誘導体」とは、「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩」、すなわち「L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩」をも含む化合物を意味すると甲第4号証の記載をみた当業者が把握できる事項であるから、前記7(1)の如く甲第4号証には「アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩を含有する、魚の飼料の補充剤」が記載されているものと認められるものである。 なお、乙第2号証の被請求人指摘箇所の英文記載がどうあれ、甲第4号証とは別の刊行物であるから、甲第4号証の記載自体から上記の点が把握できることに変わりはない。 (3-3)本件特許発明において対象とされている魚種は、淡水での養魚も海水での養魚も含まれ、特定の分類に属する魚に限られるわけでもなく、養殖魚として周知のものが10種列挙されているものであり、「魚の餌の補充剤として用いる」という魚種についての具体的な記載がない甲第4号証の記載に接した当業者でも、使用対象として想到する魚種として格別困難性があると認められるようなものではないことは、前記(1)のとおりである。しかも、被請求人自身、対象魚がこの10種に限られるものではないことを、本件特許の出願公告前に明細書に追加記載しているものである(甲第17号証その6参照)。 そして、乙第1、3,4号証は、「L-アスコルビン酸の2-硫酸エステルのカリウム塩」に関するもので、該硫酸エステル化合物が魚種によって活性なビタミンC源としての作用効果に差異があるとしても、ニジマスには有効であり、「L‐アスコルビン酸-2‐リン酸エステルの塩」とは別異の化合物についての知見であるから、甲第4号証の記載に関わらず、「L‐アスコルビン酸-2‐リン酸エステルの塩」の使用結果を確認もすることもなく、ニジマスを含む一般的な養殖魚の飼料用の添加剤として使用してみることを断念する要因となるものではない。 (3-4)また、甲第10号証にも記載の如く、養魚のペレット飼料中に配合したビタミンC源には熱及び酸素に対する安定性が求められるという解決すべき問題点がある以上、ビタミンC源として使用しうるL-アスコルベート2-ホスフェートの塩が熱および酸素に対して安定であり、また、ホスフェートエステル基を開裂することが知られている酵素が消化系に存在するからL-アスコルベート2‐ホスフェートエステルが殆ど全ての動物中で活性を示すであろうと教示されている甲第4号証の記載は、同号証に接した当業者にとって、L-アスコルベート2‐リン酸エステルの塩をビタミンC源として周知の養魚のペレット飼料中に配合し使用してみようとする動機付けには十分なものであり、ペレット飼料中に配合したときの餌飼料中での安定性、給餌したとき水中での安定性、ペレット飼料から水中への溶出性、および本件特許発明の対象魚の体内での吸収性、活性などの物性をすべて確認した後でなければ、その有用性は全く見通せず、L-アスコルベート2-ホスフエートを特定の魚種のペレット飼料の中に配合することは容易に想到できることではない旨の被請求人の主張は妥当なものではない。 (3-5)そして、本願特許発明による効果についても、本件特許明細書の実施例2、第2表で比較されているデータは、「アスコルビン酸-2,6-ジパルミテート」の場合を除いて、養魚に給餌する際にペレット飼料中に残存しているビタミンC源化合物量が多くなければ、ビタミンC代替品としての作用を十分果たし得ない、という当然の結果を示しているものである。 その中で「L-アスコルベート2‐リン酸エステルの塩」が優れた生存率を示していることは、アスコルビン酸との比較においては甲第4号証の記載(4b)から当然である。また、同記載(4b)の「L-アスコルビン酸は、それを特定の化学誘導体変えることによって、・・・知られている。特にL-アスコルベート2-ホスフエート・・・の如きL-アスコルビン酸の2-位置の無機エステル類は、L-アスコルビン酸のように容易に酸化されない。」という、「L-アスコルビン酸の2-位置の無機エステル類」について「特に」とその安定性を特記している記載から、エステル化炭素位置も異なり無機エステルでもない「アスコルビン酸ステアレート」の残存率が低いことも予想外のことではない。さらに、甲第8号証第393頁24〜26行にも記載の如く遊離酸状態のL-アスコルベート2‐リン酸エステルは強酸性の物質であり、「L-アスコルベート2-ホスフエート」が酸性下におけるよりアルカリ性下の方が相当安定である(甲第5号証の前記記載(5d-3)、甲第8号証第392頁の表II、同頁下から2行〜第393頁8行参照)から、遊離酸状態のものよりL-アスコルベート2‐リン酸エステルの塩の方がより熱や酸素に対して安定であることは、当業者の予測できる事項である以上、遊離酸状態のものとの比較においも、より有利な効果は予測される範囲内のものである。なお、アスコルビン酸のC-2位とC-6位のOH基が共にパルミテートエステル化されている化合物である「アスコルビン酸-2,6-ジパルミテート」については、リン酸エステルのマグネシウム塩に比べて、生体におけるアスコルビン酸への変換率が1/3の低率であることが本願特許出願前知られている化合物である(甲第3号証第392頁右欄1行〜第393頁左欄4行参照)から、そのような化合物との対比において養魚用のペレット飼料用添加剤として優れていたからといって、格別の効果を奏するものと評価することはできない。 ところで、甲第1号証に記載されたチャネルキャットフィッシュの飼養試験では、予めフローティングペレットに押し出し成形された飼料に、L-アスコルビン酸、L-アスコルベート2-サルフェート、L-アスコルベート2-ホスフェート、L-アスコルビルパルミテートの4種のビタミンC源をゲル化した1%のでんぷん溶液中に溶解し、次いで飼料に噴霧して添加するという、本件特許明細書の実施例2におけるペレット飼料へのビタミンC源の添加方法とは異なる方法で、全ての飼料がkgあたり等量のL-アスコルビン酸を含むようにビタミンC源が添加されており(第56頁左欄17〜36行参照)、第57頁の表3のアスコルビン酸添加の結果の生存率が100%であることからみても、添加されたビタミンC源が給餌された飼料では実質的に添加量を保たれているようにして行われた試験・研究であると認められるものである。そうすると、ビタミンC源の損失が生じる加熱成形によりペレット飼料が調製され、かつ室温で2週間放置して、残存率が化合物ごとの安定性に応じて変化しているペレット飼料を給餌している本件特許明細書の比較試験例2の結果を、甲第1号証記載の試験結果と直接比較することは、妥当なものではない。 そうすると、前記の如く、使用対象魚種においても、添加飼料及び配合添加形態においても、極く普通の構成であって、甲第4号証に記載された発明、及び甲第5号証並びに甲第10号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものである本件特許発明の構成自体を、そのような試験条件の異なるデータの対比に基づく被請求人のその効果が予想される域を超えているとする主張によって、容易に想到し得るものであるという判断を変更して、当業者が容易に想到し得ないものであるとすることはできない。 8.むすび 以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第4号証に記載された発明、及び甲第5号証並びに甲第10号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、平成5年改正前の特許法第123条第1項第1号に該当し、その特許を無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 養魚飼料用添加物 (57)【特許請求の範囲】 1)アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とする、ニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイ、またはウナギのペレット飼料の中に配合する養魚用ペレット飼料用添加物。 【発明の詳細な説明】 産業上の利用分野 本発明は養殖魚類に対してアスコルビン酸活性を有し、かつ飼料中で安定な、特に経時的に安定なアスコルビン酸誘導体を含有する養魚飼料用添加物に関する。 従来の技術 L-アスコルビン酸(ビタミンC)は養殖魚類において欠乏または不足すると壊血病症状を呈し死に至る等の重大な被害が発生することが知られている。例えば、1962年に各地のニジマス養魚場で脊椎のわん曲を主徴とする異常魚が多発したが研究の結果アスコルビン酸の不足によることが証明された(日本水産学会第31巻第818頁〜826頁)。さらに昭和42年日本水産学会年会でニジマス、ヒメマスおよびシロザケ稚魚のアスコルビン酸欠乏による変形症の報告がある。また、アユでは食欲不振、軽度の眼球突出、ヒレ基部の出血、えらぶた、下頸部の損傷などの欠乏症、ハマチ稚魚では接餌量減少、成長停止、脊椎わん曲、体色異変、高へい死率などの欠乏症、ウナギでは食欲低下、成長停滞のほかヒレ、頭部の出血などがおこる。さらにまた、ニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイ、ウナギなどの養殖に供される魚類は飼育中のストレスなどで天然魚に比較してアスコルビン酸要求量が高く飼料中のアスコルビン酸が不可欠である。 従って、養魚飼料にはアスコルビン酸を含むビタミン類が添加され、給餌されている。ところが、アスコルビン酸は水溶性ビタミンの中でも特に不安定なものであるため、飼料中に添加した場合に分解が起こる。とりわけ、蛋白源である魚粉中では特に不安定であり、ニジマス用飼料のように魚粉が半ば以上を占めるような配合のものでは分解によるビタミンCの力価の低下の問題は非常に大きい。 さらに、養魚用ペレット飼料は、エクストルーダーやペレッターなどを用いて高温下に混練することによって調製されるため、すなわち、調製時には高温高圧下に高剪断力が付与されるため、L-アスコルビン酸は、養魚飼料に添加しても速やかに失活し、その活性を持続させることはできない。 発明が解決しようとする課題 上記の事情に鑑み、安定な、特に経時的に安定な、アルコルビン酸活性を充分に有する養魚用ペレット飼料用添加物が強く求められている。本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を特定の養魚の飼料中に配合した場合に、飼料調製時における劣化分解が最小限に抑えられ、且つ、安定性がよく、特に長期間にわたってアスコルビン酸の力価の低下がほとんどないことを見出した。さらに、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を配合した養魚飼料で各魚種を飼育したところ、アスコルビン酸欠乏による脊椎わん曲、眼球突出などの壊血病症状を防止し、へい死率を極端に低下させ、平均体重を増加させるなどの好結果をもたらすことを見出し、本発明を完成した。 課題を解決するための手段 本発明によれば、アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とする、ニジマス、ヒメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイまたはウナギのペレット飼料の中に配合する養魚用ペレット飼料用添加物が提供される。 以下、本発明を詳しく説明する。 本発明で使用されるL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類はL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩であれば格別限定されないが、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩が好ましい。 アスコルビン酸要求量は魚種や育成段階により異なる。ニジマス、アマゴ、アユ、アマダイ、ハマチなどはアスコルビン酸欠乏症による変形魚が発生する場合が多い。また、ビタミン類は摂取したタンパク質を始めとする各種栄養素の正常な代謝に必要であり、一般に代謝の盛んな若齢期にその要求性が高いが、アスコルビン酸は仔稚魚期における骨格形成に必要な結晶組織コラーゲンの生合成にとって必須である。さらに、ふ化後からアスコルビン酸を含む飼料を摂取するまでの間は産卵前の卵のアスコルビン酸含有量がふ化した仔魚の正常な骨格形成因子となるため、仔稚魚用飼料、親魚用飼料ともにアスコルビン酸の重要性が強調される。 本発明で用いるL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩は、例えばニジマス稚魚の場合には飼料1kgあたり2ミリモル以上添加されればコラーゲンの代謝異常に基づく変形魚の発生を予防することができ、負傷、細菌感染にも充分対応できるようになる。L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩はいずれも魚体内の酵素によりL-アスコルビン酸となり、アスコルビン酸活性を発揮する。 本発明において、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類の配合量は、一概には規定し難いが、対象とする養殖魚の種類、使用目的、添加混合されるべき飼料成分、組成その他の要因により適宜決定される。 本発明の飼料用添加物の対象となる養魚は養殖用の魚種であって、ニジマス、シメマス、シロザケ、アユ、アマゴ、ヤマメ、ハマチ、タイ、コイまたはウナギである。 本発明の養魚用ペレット飼料用添加物は通常使用されている養魚飼料組成に添加して用いることができる。例えば、魚粉などの蛋白源、α-デンプン類、ビタミン類、その他の飼料組成であるが、蛋白源が50%以上含まれる飼料にL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を添加しペレット化することができ、飼料中でのアスコルビン酸活性は長期間にわたって持続される。 実施例および比較例 次に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより制限するものではない。 実施例1および比較試験例1 白魚粉55%、α-ポテトスターチ32%、大豆油5%、マックコラム塩3%、アスコルビン酸を含まないビタミン混合物5%からなるペレット飼料(基本飼料)を調製し、これをアスコルビン酸欠乏区飼料とした。この基本飼料成分1kgにさらにアスコルビン酸の2ミリモルを加えて調製したものをアスコルビン酸添加区飼料、また基本飼料成分1kgにL-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム2ミリモルを加えて調製したものを本発明化合物添加区飼料とした。但し、ビタミン混合物5gには、塩酸チアミン6mg、リボフラビン20mg、塩酸ピリドキシン4mg、ビタミンB120.009mg、ニコチン酸80mg、塩化クロリン800mg、イノシトール400mg、パントテン酸カルシウム28mg、ビオチン0.6mg、葉酸1.5mg、α-トコフェノール40mg、メマデイオン4mg、カルシフェロール0.05mg、酢酸レチネン20mg、セルローズ3596mgが含まれる。以上のペレット飼料をニジマスの浮上稚魚に飽食量を給餌し、100日間飼育した。各試験区あたり200尾を飼育し、給餌回数は給餌開始の0〜80日後が1日6回、81〜100日後が1日4回とした。飼料は給餌開始の50日前に調製したものを使用した。経時的に各区のニジマス稚魚の平均体重を調査した。また、各区の生存尾数、変形尾数を経時的に調査し、第1表に示した。 その結果、平均体重に区間の差はほとんどなかった。しかし、アスコルビン酸欠乏区と比べ、アスコルビン酸類添加区では変形魚の出現数、死亡率が低下し、特にL-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウムを添加した区では変形尾数の出現を完全に抑えた。 実施例2 魚粉55%、サケ白子5%、クリルS.W.5%、イカ内蔵5%、イカ肝油5%、大豆レシチン4%、バリン0.3%、イソロシン0.2%、コーンスターチ5%、ミネラル混合物5%、グルテン8%、ビタミンCを除いたビタミン混合物5.0%、ω3-HUFA1%、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム0.01%及び残分として大豆粉を添加して100%とし、この原料を粉砕後にミキサーで十分混合しカルフォルニア・ペレット・ミル社製ペレットミル(内部温度70〜100℃)で常法により平均粒径5mmのペレットに加熱成型し、100℃で送風乾燥した。次に、この飼料を粉砕し稚魚用飼料とした。高速液体クロマトグラム法(HPLC法)でL-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウムを測定したところ添加量の95%が残存していた。 実施例3 魚粉35%、コーンミール30%、マックコラム塩3%、ビタミン混合物5.0%、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム0.01%および残分に大豆粉を添加して100%とし、この原料を粉砕後にミキサーで十分混合した後、ウエンガー社製エクストールーダーミルによりクッカー水分含量28%に調湿し、蒸煮し、エクストルーション成型した。この成型物を2段式バンドドライヤーにより温度120〜170℃で乾燥させ、平均粒径100mmの水産用魚用エキスパンションペレット飼料を製造した。高速液体クロマトグラム法でL-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウムを測定したところ添加量の96%が残存していた。 比較試験例2 第2表に示すL-アスコルビン酸誘導体類0.1ミリモルをそれぞれ、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウムのみを除いた他は実施例2と同じ組成の飼料に同じ製造方法で配合成型した後粉砕し、製造直後の飼料中のL-アスコルビン酸-2-リン酸誘導体類の残存率を測定した。次に室温で2週間放置し同様に飼料中のL-アスコルビン酸誘導体類の残存率を測定し、この飼料を平均体重2.6gのハマチ(モジャコ)に投与し3ヶ月間にわたって飼養試験を実施し、試験終了時にハマチの増量率、生存率、肝臓中のアスコルビン酸濃度を測定し、総合評価としてアスコルビン酸誘導体類を添加した飼料のハマチに対する有効性を調べた。 比較試験例3 本発明のL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類の養魚類に対するアスコルビン酸への酵素的変換活性を確認するため、第3表の魚類について以下の実験を行い活性の存在することを確認した。 養殖魚類の肝臓と腸を新鮮な状態で摘出し臓器重量を測定し、50倍の冷水を加えて冷温下でホモジナイズし上澄液を取り1:1で混合し、これを酵素液とした。次に0.05%重量のL-アスコルビン酸誘導体類を含むpH5.0、pH7.0及びpH9.0のバッファー溶液8mlの入った試料瓶を35℃に保ち、酵素液2mlを添加して35℃の水浴中で1時間放置した後、異なるpHで反応させた酵素液を1:1:1で混合し酵素反応を止めた。解凍直後、2%メタリン酸溶液を加えて50mlとした後、2%メタリン酸でさらに50倍に希釈し、その20μlをHPLC分析して残存しているL-アスコルビン酸エステル類の濃度を求め、反応前の濃度に対する加水分解率を求めた。その結果50%以上の高い加水分解活性が認められたものについては○を記入し、50%未満のものについては×を記入した。その結果全てのL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類に、試験した全ての魚類の酵素液に対して50%以上の高い加水分解活性が確認された。 発明の効果 L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類は養魚飼料に配合しペレット飼料とすることができ、長期間の保存に対して安定で、本発明で対象としている養殖魚類においてアスコルビン酸活性を発揮することができる。そして、本発明の養魚用ペレット飼料配合用添加物の使用により養殖魚類の成長率の向上、へい死率の低下、品質の向上などの効果をあげることができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2002-03-20 |
結審通知日 | 2002-03-26 |
審決日 | 2002-04-08 |
出願番号 | 特願昭61-16739 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
ZA
(A23K)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 長井 啓子、坂田 誠 |
特許庁審判長 |
後藤 千恵子 |
特許庁審判官 |
石川 昇治 鈴木 寛治 |
登録日 | 1998-12-18 |
登録番号 | 特許第2139541号(P2139541) |
発明の名称 | 養魚飼料用添加物 |
代理人 | 内田 幸男 |
代理人 | 津国 肇 |
代理人 | 篠田 文雄 |
代理人 | 内田 幸男 |