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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服20061739 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 (訂正、訂正請求) 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1094425 |
審判番号 | 不服2000-9643 |
総通号数 | 53 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2004-05-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2000-06-28 |
確定日 | 2004-03-04 |
事件の表示 | 平成11年特許権存続期間延長登録願第700044号「セファゾリンナトリウムのα型結晶」拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.本件特許及び本件発明 特許第2600883号(以下、本件特許という。)は、平成1年1月31日(特願平1-23588号、特許出願に基づく優先権主張昭和63年2月5日:特願昭63-26337号)に出願され、平成9年1月29日に特許権の設定登録がされたものであって、その請求項1に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載のとおりのものである。 【請求項1】含水量が13.0%〜15.8%であるセファゾリンナトリウムのα型結晶。 2.本件出願 本件特許権存続期間の延長登録出願(以下、本件出願という。)は、平成11年4月27日に出願され、平成12年5月18日付けで拒絶査定がされ、平成12年6月28日に審判請求がされたものである。本件出願には、以下の参考資料が添付されている。 参考資料1 特許第2600883号公報 参考資料2 特許第2600883号の登録原簿 参考資料3 承認書 承認番号21100AMZ00084000号 参考資料4 承認書 承認番号21100AMZ00083000号 参考資料5 平成10年12月8日官報(部分) 参考資料6 試験計画書及び試験計画書変更書 参考資料7 製薬関係通知集(部分) 参考資料8 製造承認申請書添付資料概要(部分) 本件出願は、特許発明の実施について特許法第67条第2項の政令に定める処分を受けることが必要であったとして、2年5日の特許権存続期間の延長を求めるものであり、その政令で定める処分として、以下の内容を特定している。 (1)延長登録の理由となる処分 薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認 (2)処分を特定する番号 承認番号21100AMZ00084000号 (3)処分を受けた日 平成11年2月4日 (4)処分の対象となった物 一般名称 セファゾリンナトリウム水和物 (5)処分の対象となった物について特定された用途 ブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌、大腸菌、肺炎桿菌、変形菌の本剤感受性菌株による下記感染症 敗血症、亜急性細菌性心内膜炎 浅在性化膿性疾患群:毛嚢炎、ひょう疽、せつ、せつ腫症、粉瘤、 カルブンケル、丹毒、膿瘍、潰瘍、フレグモーネ、術後創感染症、 創傷感染症、火傷、熱傷、褥瘡、上気道感染症(咽・喉頭炎、扁桃炎)、 耳せつ、鼻せつ、麦粒腫、全眼球炎 深在性化膿性疾患群:乳腺炎、リンパ管(節)炎、骨髄炎、関節炎 呼吸器感染症:急・慢性気管支炎、気管支拡張症、気管支肺炎、肺炎、 慢性呼吸器疾患時の二次感染 肺化膿症(肺膿瘍)、膿胸、胸膜炎 胆道感染症:胆管炎、胆嚢炎 腹膜炎 尿路感染症:腎盂腎炎、腎盂炎、膀胱炎、尿道炎 婦人科感染症:バルトリン腺炎(膿瘍)、子宮頸管炎、子宮内膜炎、 子宮旁結合織炎、子宮内感染、骨盤腹膜炎、産褥熱 耳鼻科感染症:中耳炎、副鼻腔炎、耳下腺炎 3.原審の拒絶理由の概要 原審の拒絶の理由は、「この出願に係る特許発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、この出願は、特許法第67条の3第1項第1号に該当する」というものであり、より具体的には、「すでに医薬品製造承認のなされたセファゾリンナトリウム(最初の承認は昭和46年4月14:「最近の医薬(第23集)」(薬事日報社)を参照日)と実質的に同一の物であり、効能・効果も同じセファゾリンナトリウム水和物に対する医薬品製造承認に基づき、特許権の存続期間を延長することはできない。」旨を指摘(平成11年6月29日付拒絶理由通知書)し、さらに「承認に係るセファゾリンナトリウム水和物はセファゾリンナトリウムに水が水和しただけのものであって、実質的有効成分はセファゾリンナトリウムであり、効能・効果がブドウ球菌等による敗血症等の感染症である医薬品の実施はすでになされていた承認で可能であった」旨を指摘(平成12年5月18日付拒絶査定書)している。 4.請求人の主張 請求人は、審判請求書において、セファゾリンナトリウム水和物は、セファゾリンナトリウムと、(1)結晶形が異なる、(2)光に対する安定性が優れている、(3)溶解時間が短縮されている、点において異なることを挙げて、「製剤原料としてすでに医薬品製造承認がなされていたセファゾリンナトリウムとは決して実質的に同一ではない」と主張し、「本件特許発明のセファゾリンナトリウムのα型結晶の実施はすでになされていたセファゾリンナトリウムの承認によっては不可能であって、今回の承認を得ることが必要不可欠の前提条件であり、それを受けるために本件特許発明は2年以上の間その実施をすることができなかった」ことを述べている。 5.当審の判断 (5-1)延長登録制度における「物」について 特許法第68条の2は、「特許権の存続期間が延長された場合・・・の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となった第67条第2項の政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。」と定めている。この規定は、特許権の存続期間延長登録の制度の趣旨、立法の経緯及び条文の文言に照らし、存続期間が延長された後の特許権の効力につき、一方では、処分と無関係な範囲には及ぼさないこととすると同時に、他方では、期間延長後の特許権者の権利主張の実効性を確保するため、処分単位で認めることとしないで、その処分において特定の用途が定められている場合には、処分の対象となった物につき、その処分において定められた特定の用途について実施する場合全般にまで拡大して及ぼしたものであることが明らかである。これを前提とした場合、特許法第68条の2のみならず、特許法第67条及び67条の3にいう「特許発明の実施」の文言についても、具体的な処分の対象そのもの(品目)を単位としてではなく、処分の対象となった「物」と、その処分において定められた特定の「用途」によって特定される範囲のものすべてを単位として解釈するのが自然かつ合理的である。(平成10年(行ケ)362号判決) そうすると、延長登録が認められるためには、同じ「物」と「用途」によって特定される範囲において既に別の処分を受け特許発明の実施をすることができるようになっていないことが必要である。 ところで、医薬品における「物」とは「有効成分」に相当するが、薬事法においては、医薬品の有効成分が既承認の医薬品の有効成分と完全に同一な物質でない場合は、それがきわめて類似していても新有効成分医薬品としての承認を受けなければならないとされている。したがって、薬事法による取り扱いに倣えば「物」の同一性は物質として完全に同一であることを意味することとなる。 しかしながら、承認された医薬品が含有する具体的な有効成分と完全に一致する場合のみ「物」が同一であるとすると、その処分にもとづき、期間延長登録がされても、その有効成分の効能効果に影響しない形態上の変更を施し別の有効成分とすることによって第三者はたやすく類似の医薬品の実施を行うことができるから(例えば、有効成分が「化合物Aのナトリウム塩」である場合、それと同じ効能効果を有する「化合物Aのカリウム塩」の使用は特許権の効力の範囲外となる)、特許権者の権利主張の実効性を確保することができないことになる。 上記した特許法第68条の2で処分単位で認めることとせず、処分対象の物につきその処分において特定された用途について実施する場合全般にまで拡大して及ぼしたことの趣旨からすれば、その「物」についても、その処分の対象となった医薬品が含有する具体的な有効成分と完全に一致する「物」とせず、それと実質的に同一の有効成分(例えば処分を受けた具体的な有効成分と形態は異なるが同等の効能効果を保持する化合物)については同じ「物」と解するのが制度の趣旨にかなうとすべきである。 (5-2)「セファゾリンナトリウム水和物」と「セファゾリンナトリウム」との同一性について 上記の「物」の考え方に従い「セファゾリンナトリウム水和物」が「セファゾリンナトリウム」と「物」として同一であるかどうかにつき検討する。 「セファゾリンナトリウム水和物」が「セファゾリンナトリウム」の水和物であることは、その名称自体から、また参考資料4に添付された医薬品承認申請書の4頁[備考2]の[備考]の欄及び参考資料5の5頁上段の記載から明らかである。 そして、参考資料1の1頁左下〜右下欄には「セファゾリンナトリウムは広い抗菌スペクトルを有する抗菌剤であり、用時溶解型注射剤として広く用いられている。」、参考資料5の5頁下段には「本品は、用時液状として用いる「セファゾリンナトリウム水和物」の注射剤である。」と記載されているとおり、「セファゾリンナトリウム水和物」も「セファゾリンナトリウム」も用時溶解して使用されるものであることからみても、水和物であることによる効能・効果の相違が生じるとは考えられない。そうすると、「セファゾリンナトリウム水和物」の医薬品の有効成分としての効能効果はセファゾリンナトリウムに基づくものであって、医薬品の有効成分としては両者は実質的に同一であるということができる。 (5-3)請求人が、「セファゾリンナトリウム水和物」と「セファゾリンナトリウム」との違いとして挙げる(1)結晶形の相違(2)光安定性(3)溶解時間の相違は、「セファゾリンナトリウム」の物質としての形態上の違いに基づくものであって、これにより製剤・保存等の取り扱い上の利点をもたらすとしても、医薬品の有効成分としての差異をもたらすものではなく、両者が実質的に同一の有効成分であるという上記認定を左右するものではない。 (5-4)請求人は、「本件特許発明の実施には、今回の承認を得ることが必要であり、それを受けるために本件特許発明は2年以上実施できなかった」と述べている。しかし、薬事法においては品目毎の承認が必要とされるが、一方、存続期間の延長登録制度における発明の実施は、品目を単位としてではなく、有効成分である「物」と効能・効果である「用途」によって特定される範囲を単位として解釈されるものである。そうすると、特定の品目に係る発明の実施に薬事法上の承認が必要であったとしても、その承認が直ちに特許法第67条第2項に規定する処分に該当するものではない。 そして、上に述べたとおり「セファゾリンナトリウム水和物」と医薬品の有効成分として実質的に同一である「セファゾリンナトリウム」については、本件承認における効能・効果と同じ効能効果(ブドウ球菌等による敗血症等の感染症)について既に実施できていたのであるから、本件承認は特許法第67条第2項に規定する処分に該当するということはできない。 5,むすび 以上のとおりであるから、本件延長登録出願に係る処分については、既にその承認に係る有効成分と実質的に同一の「物」について同一の「用途」に実施できていたものであって、これを最初の処分ということはできない。 したがって、本件延長登録に係る処分は、本件発明の実施に必要な処分であったとは認められないから、本件出願は特許法第67条の3第1項1号の規定に該当し、本件特許権存続期間の延長登録を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-01-06 |
結審通知日 | 2004-01-08 |
審決日 | 2004-01-22 |
出願番号 | 特願平11-700044 |
審決分類 |
P
1
8・
71-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉住 和之 |
特許庁審判長 |
竹林 則幸 |
特許庁審判官 |
深津 弘 森田 ひとみ |
発明の名称 | セファゾリンナトリウムのα型結晶 |
代理人 | 田伏 英治 |