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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09B
管理番号 1094533
異議申立番号 異議2000-72901  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-01-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-28 
確定日 2004-01-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3003664号「フタロシアニン結晶とそれを用いた電子写真感光体」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3003664号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3003664号の発明は、平成1年3月15日(優先権主張 昭和63年4月15日 日本)に出願された特願平1-64801号の分割出願として平成10年2月16日に出願されたものであって、平成11年11月19日にその特許の設定の登録がされ、その後、富士電機株式会社及び斉藤郁央により特許異議の申立てがされ、取消理由通知がされ、その指定期間内である平成12年12月25日付けで訂正請求がされ、特許権者、異議申立人双方に審尋がされ、双方からそれに対する回答がされたものである。
2.訂正の適否について
2.1訂正の内容
a.特許請求の範囲の請求項5の記載について、「チタニルフタロシアニン化合物を含有することを特徴とする」とあるのを、「チタニルフタロシアニン化合物を使用することを特徴とする」と訂正する。
b.発明の詳細な説明の段落番号【0043】について、「析出した結晶を濾過する。結晶を酸が残留しなくなるまで」とあるのを、「析出した非結晶を濾過する。この非結晶を酸が残留しなくなるまで」と訂正する。
c.段落番号【0041】の記載について、「800mm近傍」とあるのを、「800nm近傍」と訂正する。
2.2訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、本件発明の実施の形態に適合させて、「含有」を「使用」と訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
訂正事項bは、段落番号【0028】の「上記のようにして得られた非結晶性チタニルフタリシアニン化合物をテトラヒドロフラン中で処理を行い、新たな安定した結晶を得る。」との記載からみて、「結晶」と記載した誤記を「非結晶」と訂正するもので誤記の訂正に該当する。
訂正事項cは、赤外線の波長の単位としてmmと記載した誤記を正しい単位nmと訂正するもので誤記の訂正に該当する。
そして、これらの訂正事項は、いずれも新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2.3むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立てについて
3.1異議申立ての理由の概要
異議申立人富士電機株式会社(以下、「申立人1」という。)は、訂正前の本件明細書には記載不備があり、特許法第36条第4項及び第6項第2号の要件を満たしていない。また、甲第1号証(特願昭62-173640号(特開昭64-17066号公報))を提出して、訂正前の本件の請求項1ないし5の発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、取り消すべき旨主張している。
異議申立人斉藤郁央(以下、「申立人2」という。)は、甲第1号証(特開昭64-17066号公報)、甲第2号証(特開昭62-67094号公報)、甲第3号証(特開昭59-166959号公報)を提出して、訂正前の本件請求項1ないし5に記載された発明は、甲第1、2又は3号証に記載された発明であるか、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1ないし5の発明に係る特許は、特許法第29条第1項、第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべき旨主張している。
3.2本件発明
2.3で示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1ないし5」という。)は、訂正明細書の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】赤外吸収スペクトルにおいて、1332±2cm-1,1074±2cm-1,962±2cm-1,783±2cm-1に特徴的な強い吸収ピークを示す、

(式中、X1,X2,X3,X4は各々独立的に各種ハロゲン原子を表し、n,m,l,kは各々独立的に0〜4の数字を表す。)で表されるフタロシアニン結晶。
【請求項2】赤外線吸収スペクトルにおいて、さらに729±2cm-1,752±2cm-1,895±2cm-1,1059±2cm-1,1120±2cm-1,1288±2cm-1,1490±2cm-1に強い吸収を有するものであることを特徴とする請求項1記載のフタロシアニン結晶。
【請求項3】CuKαを線源とするX線回析スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2度)が27.2度に最大の回析ピークを示し9.7度、24.1度に強い回析ピークを示し、かつ11.8度、13.4度、15.2度、18.2度、18.7度に特徴的なピークを示す請求項1または請求項2記載のフタロシアニン結晶。
【請求項4】非結晶性チタニルフタロシアニン化合物をテトラヒドロフランにて処理することによって得られる、赤外吸収スペクトルにおいて1332±2cm-1,1074±2cm-1,962±2cm-1,783±2cm-1に特徴的な強い吸収ピークを示し、かつCuKαを線源とするX線回析スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2度)が27.2度に最大の回析ピークを示し9.7度、24.1度に強い回析ピークを示し、かつ11.8度、13.4度、15.2度、18.2度、18.7度に特徴的なピークを示すことを特徴とするフタロシアニン結晶。
【請求項5】導電層と感光層を備えた電子写真感光体において、該感光層中に電荷発生物質と電荷移動物質を有し、電荷発生物質として、請求項1または請求項2または請求項3または請求項4記載のチタニルフタシアニンを使用することを特徴とする電子写真感光体。」
3.4引用刊行物に記載された事項
当審が平成12年10月10日付けで通知した取消理由において引用した刊行物1(特開昭64-17066号公報(申立人2の提出した甲第1号証))には、次のイ〜ヘの事項が記載されている。
イ.「1.CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角2θの主要ピークが少なくとも9.5度±0.2度、9.7度±0.2度、11.7度±0.2度、15.0度±0.2度、23.5度±0.2度、24.1度±0.2度及び27.3度±0.2度にあるチタニルフタロシアニンを含有する感光体。」(特許請求の範囲)、
ロ.「イ.産業上の利用分野 本発明は感光体、例えば電子写真用感光体に関し、特にプリンタ、複写機等に使用されかつ可視光より長波長光、半導体レーザー光に対して高感度を示す感光体に関するものである。」(第1頁左欄12〜19行)、
ハ.「本発明によるチタニルフタロシアニンは・・・、その基本構造は次の一般式で表わされる。

(但し、X1、X2、X3、X4はCl又はBrを表わし、n、m、l、kは0〜4の整数を表わす。)」(第3頁右上欄4〜10行)、
ニ.「本発明によるチタニルフタロシアニンの製造方法を例示的に説明する。まず、例えば四塩化チタンとフタロジニトリルとをα-クロロナフタレン溶媒中で反応させ、これによって得られるジクロロチタニウムフタロシアニン(TiCl2Pc)をアンモニア水等で加水分解することにより、α型チタニルフタロシアニンを得る。これは、引き続いて、2-エトキシエタノール、・・・テトラヒドロフラン・・・等の電子供与性の溶媒で処理することが好ましい。次に、このα型チタニルフタロシアニンを50〜180℃、好ましくは60〜130℃の温度において結晶変換するのに十分な時間攪拌もしくは機械的歪力をもってミリングし、本発明のチタニルフタロシアニンが製造される。なお、上記のα型チタニルフタロシアニンの別の作製方法としては、TiCl2Pcを望ましくは5℃以下で硫酸に一度溶解もしくは硫酸塩にしたものを水または氷水中に注ぎ、再析出もしくは加水分解し、α型チタニルフタロシアニンが得られる。」(第3頁左下欄4行〜同右下欄6行)、
ホ.「上記のようにして本発明の感光体が得られるが、その特長は本発明において用いるチタニルフタロシアニンの感光波長域の極大値が817nm±5nmに存在するため、半導体レーザー用感光体として最適であること、このチタニルフタロシアニンは極めて結晶形が安定であり、他の結晶形への転移は起り難いことである。このことは上記した本発明のチタニルフタロシアニンの製造、性質のみならず、電子写真用感光体を製造するときや、その使用上でも大きな長所となるものである。・・・また、本発明に係るチタニルフタロシアニンは、溶剤、熱、機械的歪力に対する結晶安定性に優れ、感光体としての感度、帯電能、電位安定性に優れるという特長を有する。」(第10頁左下欄10行〜同頁右下欄7行)、
ヘ.「(合成例1)α型チタニルフタロシアニン10部と、磨砕助剤として食塩5乃至20部、分散媒として(ポリエチレングリコール)10部をサンドグラインダーに入れ、60℃乃至120℃で7乃至15時間磨砕した。・・・容器より取り出し、水及びメタノールで磨砕助剤、分散媒を取り除いた後、2%の希硫酸水溶液で精製し、ろ過、水洗、乾燥して鮮明な緑味の青色結晶を得た。この結晶はX線回析、赤外線分光により、第1図の本発明のチタニルフタロシアニンであることが分かった。また、その赤外線吸収スペクトルは第4図の通りであった。」(第10頁右下欄10行〜第11頁左上欄7行、第1図、第4図)、
ト.「実施例1 合成例1の本発明のチタニルフタロシアニン1部、分散用バインダー樹脂、ポリビニルブチラール樹脂(・・・)1部、テトラヒドロフラン100部を超音波分散機を用いて15分間分散した。得られた分散液をワイヤーバーで、アルミニウムを蒸着したポリエステルフィルムよりなる導電性支持体上に塗布して、厚さ0.2μmの電荷発生層を形成した。・・・電荷発生層上に塗布し乾燥して、厚さ18μmの電荷輸送層を形成し、以って本発明の写真感光体を作成した。・・・実施例2 実施例1の電荷輸送物質にかえて、下記構造の電荷輸送物質を用いた他は、実施例1と同様の電子写真感光体を作成した。この感光体の分光感度分布は第5図の如くに長波長感度が良好であった。・・・(化合物例2)」(第11頁右上欄7行〜左下欄下から4行、第5図参照)。
3.5本件発明の出願日について
本件発明1ないし5を特定する事項である「赤外吸収スペクトル」については、原出願である特願平1-64801号の国内優先権主張の基礎とする特願昭63-93051号(以下、「先の出願」という。)の当初明細書に記載がなく、また自明な事項でもないので、「赤外吸収スペクトル」を発明の特定事項とする発明には、先の出願に基づく優先権の主張の効果を認めることができない。
したがって、本件発明1ないし5は、先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明であるとはいえないから、本件発明1ないし5についての特許法第29条等の適用については、本件発明1ないし5の出願は、当該先の出願の時にされたものとはみなされず(平成5年法律第26号による改正前の特許法第42条の2第2項参照。)、原出願の出願日である平成1年3月15日とみなされる。
3.6対比・判断
[本件発明4について]
本件の出願前頒布された刊行物1の摘示イ.(特許請求の範囲)には、「CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角2θの主要ピークが少なくとも9.5度±0.2度、9.7度±0.2度、11.7度±0.2度、15.0度±0.2度、23.5度±0.2度、24.1度±0.2度及び27.3度±0.2度にあるチタニルフタロシアニン」の結晶が記載され、さらに第1図にチタニルフタロシアニンのX線回折図が掲げられている。
本件発明4のCuKαを線源とするX線回析スペクトルは、「ブラッグ角(2θ±0.2度)が27.2度に最大の回析ピークを示し9.7度、24.1度に強い回析ピークを示し、かつ11.8度、13.4度、15.2度、18.2度、18.7度に特徴的なピークを示す」ものであるが、本件発明4の27.2度、9.7度、24.1度、11.8度、15.2度のピークは、刊行物1の特許請求の範囲に記載された27.3度、9.7度、24.1度、11.7度、15.0度のピークに相当するし、また、13.4度、18.2度、18.7度のピークは、刊行物1記載のチタニルフタロシアニン結晶の第1図をみると、その付近に明らかにピークがあることが認められる。
そして、本件明細書の段落番号【0043】には、本件発明1ないし4の一態様と認められる、実施例1で得られたチタニルフタロシアニン結晶のX線回折図が図2のようであったとしているが、これと刊行物1記載の上記第1図に示されるX線回折図と対比すると、ピークと谷の位置及びその強度が概ね一致し、全体的に格別の相違は見あたらない。
そこで、本件発明4と上記刊行物1記載の発明とを対比する。
前述のとおり両者のX線回折図に相違する点がないから、両者は、「CuKαを線源とするX線回析スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2度)が27.2度に最大の回析ピークを示し9.7度、24.1度に強い回析ピークを示し、かつ11.8度、13.4度、15.2度、18.2度、18.7度に特徴的なピークを示すフタロシアニン結晶。」である点で一致し、本件発明4が(1)非結晶性チタニルフタロシアニン化合物をテトラヒドロフランにて処理することによって得られる点、(2)赤外吸収スペクトルにおいて1332±2cm-1,1074±2cm-1,962±2cm-1,783±2cm-1に特徴的な強い吸収ピークを示す点が刊行物1に明記されていない点で、一応相違する。
その相違する点を検討する。
(1)この発明の非結晶性フタロシアニンのX線(回折)スペクトルは、段落番号【0054】の記載からみて、図8のものに相当するものと認められる。刊行物1にはα型フタロシアニンの二例のX線回折図を第2図、第3図として掲げているが、第3図のものは、第2図と比較すると、X線強度が小さく、結晶が未発達(α型結晶が少なく非結晶を多く含むもの)なものと推認できる。そして、本件図8をみると、刊行物1の第3図と同じ位置に弱いピークが認められ、多少のα型結晶を含むものと推認される。
また、刊行物1(摘示ニ参照)には、電子供与性の溶媒として、テトラヒドロフラン中で処理することを示唆する記載があり、さらに本件発明4のフタロシアニン結晶は、本件明細書の段落番号【0031】に記載されているように、「他の結晶形への転移がなく、きわめて安定した良好な結晶」であり、製造手段によらず当該結晶の同定ができるものであるから、この非結晶を出発原料とする製造手段を構成に採用することに格別の意義は認められない。
(2)両者のチタニルフタロシアニン結晶のX線解析図が一致し、さらに、化学構造式(本件明細書の段落番号【0014】〜【0016】の【化2】及び請求項1の【化1】、刊行物1摘示ハ.)及び分光感度特性図(本件図面第1図、刊行物1の第5図)にも格別の差異が認められないし、該結晶の物性(安定性)についての記述も、本件明細書の段落番号【0031】の「本発明のチタニルフタロシアニンは、テトラヒドロフラン中で更に加熱攪拌を加え、結晶成長の促進を行ってもX線回折図及び赤外吸収スペクトルにおいて大きな変化を示さず、他の結晶形への転移がなくきわめて安定した良好な結晶である。」と刊行物1の摘示ホ.「このチタニルフタロシアニンは極めて結晶形が安定であり、他の結晶形への転移は起り難いことである。・・・また、本発明に係るチタニルフタロシアニンは、溶剤、熱、機械的歪力に対する結晶安定性に優れ、・・・。」と実質的に同一内容である。
このように、チタニルフタロシアニン結晶を同定する主たる要件であるX線回折図、化学構造式、分光感度特性図、結晶の物性(安定性)についての記載内容がすべて一致していることからみて、両者は同一化学構造、かつ同一結晶形を有することは明白であるから、赤外吸収スペクトルも格別相違しないものと推認できるといえる。
したがって、本件発明4は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[本件発明1について]
刊行物1に記載された発明と対比すると、本件発明4の判断での相違点(2)赤外吸収スペクトルにおいて1332±2cm-1,1074±2cm-1,962±2cm-1,783±2cm-1に特徴的な強い吸収ピークを示す点が刊行物1に明記されていない点で一応相違する。
その相違点について、本件発明4の相違点(2)の判断に記載した理由のとおりである。
したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[本件発明2について]
本件発明1で規定する赤外吸収スペクトルを更に追加する限定をしているが、その点について、本件発明4の相違点(2)の判断に記載した理由のとおりである。
したがって、本件発明2は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[本件発明3について]
本件発明1ないし2の発明に更にX線回折スペクトルの回折ピークを限定しているが、本件発明4の判断で一致点として記載したとおりである。
したがって、本件発明3は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[本件発明5について]
本件発明1ないし4のチタニルフタロシアニンを使用した電子写真感光体を規定しているが、同じ構造の電子写真感光体は摘示ト.で示した実施例1、2に記載されている。
したがって、本件発明5は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3項に該当し、特許を受けることができない。
4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5は、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1ないし5に係る特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フタロシアニン結晶とそれを用いた電子写真感光体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外吸収スペクトルにおいて、1332±2cm-1,1074±2cm-1,962±2cm-1,783±2cm-1に特徴的な強い吸収ピークを示す、

【化1】
(式中、X1,X2,X3,X4は各々独立的に各種ハロゲン原子を表し、n,m,l,kは各々独立的に0〜4の数字を表す。)で表されるフタロシアニン結晶。
【請求項2】
赤外吸収スペクトルにおいて、さらに729±2cm-1,752±2cm-1,895±2cm-1,1059±2cm-1,1120±2cm-1,1288±2cm-1,1490±2cm-1に強い吸収を有するものであることを特徴とする請求項1記載のフタロシアニン結晶。
【請求項3】
CuKαを線源とするX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2度)が27.2度に最大の回折ピークを示し9.7度、24.1度に強い回折ピークを示し、かつ11.8度、13.4度、15.2度、18.2度、18.7度に特徴的なピークを示す請求項1または請求項2記載のフタロシアニン結晶。
【請求項4】
非結晶性チタニルフタロシアニン化合物をテトラヒドロフランにて処理することによって得られる、赤外吸収スペクトルにおいて1332±2cm-1,1074±2cm-1,962±2cm-1,783±2cm-1に特徴的な強い吸収ピークを示し、かつCuKαを線源とするX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2度)が27.2度に最大の回折ピークを示し9.7度、24.1度に強い回折ピークを示し、かつ11.8度、13.4度、15.2度、18.2度、18.7度に特徴的なピークを示すことを特徴とするフタロシアニン結晶。
【請求項5】
導電層と感光層を備えた電子写真感光体において、該感光層中に電荷発生物質と電荷移動物質を有し、電荷発生物質として、請求項1または請求項2または請求項3または請求項4記載のチタニルフタロシアニン化合物を使用することを特徴とする電子写真感光体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新たな結晶形を有するチタニルフタロシアニン化合物及びそれを用いた高感度な電子写真感光体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来からフタロシアニン類金属フタロシアニン類は、優れた光導電性を示すことが知られており、一部は、電子写真感光体に使用されている。近年、ノンインパクトプリンタ技術の発展に伴い、レーザ光やLEDを光源とする高画質高速化の可能な電子写真方式の光プリンタが広く普及しつつあり、それらの要求に耐える感光体の開発が盛んである。
【0003】
特に、レーザを光源とする場合、小型、安価、簡便さ等の点から、多くは半導体レーザーが用いられるが、現在これらに用いられる半導体レーザーの発振波長は、近赤外域の比較的長波長に限定されている。従って、従来電子写真法の複写機に用いられてきた可視領域に感度を有する、感光体を半導体レーザー用に用いるのは不適当であり、近赤外域に遮光感度を持つ感光体が必要となってきている。
【0004】
この要求を満たす有機系材料としては従来、スクアリック酸メチン系色素、インドリン系色素、シアニン系色素、ピリリウム系色素、ポリアゾ系色素、フタロシアニン系色素、ナフトキノン系色素等が知られているが、スクアリック酸メチン系色素、インドリン系色素、シアニン系色素、ピリリウム系色素は長波長化が可能であるが実用的安定性(くり返し特性)に欠け、ポリアゾ系色素は長波長化が難しく、かつ、製造面で不利であり、ナフトキノン系色素は感度的に難があるのが現状である。
【0005】
これに対し、フタロシアニン系色素は、600nm以上の長波長域に分光感度のピークがあり、かつ感度も高く、中心金属や、結晶形の種類により、分光感度が変化することから、半導体レーザー要求色素として適していると考えられ、精力的に研究開発が行われている。
【0006】
これまで検討が行われたフタロシアニン化合物の中で780nm以上の長波長域において高感度を示す化合物としては、x型無金属フタロシアニン、c型銅フタロシアニン、バナジルフタロシアニン等を挙げることが出来る。
【0007】
一方、高感度化のために、フタロシアニンの蒸着膜を電荷発生層とする積層型感光体が検討され、周期律表IIIa族及びIV族の金属を中心金属とするフタロシアニンのなかで、比較的高い感度を有するものが幾つか得られている。このような金属フタロシアニンに関する文献として、例えば特開昭57-211149号、同57-148745号、同59-36254号、同59-44054号、同59-30541号、同59-31965号、同59-166959号公報などがある。しかし、蒸着膜の作製には高真空排気装置を必要とし、設備費が高くなることから上記の如き有機感光体は高価格のものとならざるを得ない。
【0008】
これに対し、フタロシアニンを蒸着膜としてではなく、樹脂分散層とし、これを電荷発生層として用いて、その上に電荷移動層を塗布して成る複合型感光体も検討され、このような複合型感光体としては無金属フタロシアニン(特願昭57-66963号)やインジウムフタロシアニン(特願昭58-220493号)を用いるものがありこれらは比較的高感度な感光体であるが、前者は800nm以上の長波長領域において急速に感度が低下する等の欠点を有し、又、後者は電荷発生層を樹脂分散系で作製する場合には実用化に対し感度が不充分である等の欠点を有している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
又、特に近年比較的高感度な電子写真特性を持つチタニルフタロシアニンを用いるものについて検討されており(特開昭59-49544号公報、同61-23928号公報、同61-109056号公報、同62-275272号公報)は各種結晶形により特性に差異があることが知られている。これらの各種結晶型を作成するためには、特別な精製、特殊な溶剤処理を必要としており、これら製造方法の違いにより各種の物性の異なる材料を作製することが可能となる。その処理溶剤は、分散塗布膜形成時に用いられるものとは異なっている。これは得られる各種結晶が、成長処理溶剤中では、結晶成長し易く、同溶剤を塗布用溶剤として用いると、結晶形、粒径の制御が難しく、塗料の安定性がなく、結果として、静電特性が劣化し、実用上不適当であるからである。その為通常は、塗料化の際には結晶成長を促進し難いクロロホルム等の塩素系溶剤が用いられる。しかしこれらの溶剤は、チタニルフタロシアニンに対して分散性が必ずしも良くなく、塗料の分散安定性の面で問題である。
【0010】
即ち、塗料化の際に用いる溶剤中で、結晶安定性があり、分散性の良く、更に光感度のすぐれたチタニルフタロシアニン化合物結晶を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記欠点を改良し、かつ更に高感度な電荷発生剤として実用化できるチタニルフタロシアニンの化合物結晶変態挙動について鋭意検討した結果、きわめて溶剤安定性のある、分散性の良い、高い光電変換効率の新規結晶形の開発に成功し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、非結晶性のチタニルフタロシアニン化合物を分散溶媒として最適な溶媒、具体的にはテトラヒドロフランにて処理結晶化された新規なx線回折パタンおよび赤外吸収スペクトルを示す、優れた光導電性を有するチタニルフタロシアニン化合物に関する。
【0013】
以下本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明で用いられるチタニルフタロシアニンは、一般式
【0015】

【化2】
【0016】
(式中、X1,X2,X3,X4は各々独立的に各種ハロゲン原子を表し、n,m,l,kは各々独立的に0〜4の数字を表す。)で表される化合物である。
【0017】
本発明に用いられるチタニルフタロシアニンのうち、特徴に好適なものは、チタニルフタロシアニン(TiOPc)、チタニルクロロフタロシアニン(TiOPcCe)及びそれらの混合物である。
【0018】
本発明において用いられるチタニルフタロシアニン化合物は、例えば1,2-ジシアノベンゼン(p-フタロジニトリル)またはその誘導体と金属または金属化合物から公知の方法に従って、容易に合成することができる。
【0019】
例えば、チタニウムオキシフタロシアニン類の場合、下記(1)または(2)に示す反応式に従って容易に合成することができる。
【0020】

【化3】
【0021】
有機溶剤としては、ニトロベンゼン、キノリン、α-クロロナフタレン、β-クロロナフタレン、α-メチルナフタレン、メトキシナフタレン、ジフエニルエーテル、ジフエニルメタン、ジフエニルエタン、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル等の反応に不活性な高沸点有機溶剤が好ましく、反応温度は通常150℃〜300℃、特に200℃〜250℃が好ましい。
【0022】
本発明においては、かくして得られる粗チタニルフタロシアニン化合物を非結晶化処理の後、テトラヒドロフランにて処理する。その際、予め適当な有機溶媒類、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類を用いて縮合反応に用いた有機溶剤を除去した後、熱水処理するのが好ましい。特に熱水処理後の洗液のpHが約5〜7になるまで洗浄するのが好ましい。
【0023】
引き続いて、2-エトキシエタノール、ジグライム、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ピリジン、モルホリン等の電子供与性の溶媒で処理することがさらに好ましい。
【0024】
非結晶性チタニルフタロシアニン化合物は単一の化学的方法、機械的な方法でも得られるが、より好ましくは各種の方法の組合せによって得ることができる。
【0025】
たとえば、アシッドペースティング法、アシッドスラリー法、等の方法で粒子間の凝集を弱め、次いで機械的処理方法で摩砕することにより非結晶性粒子を得ることができる。摩砕時に使用される装置としては、ニーダー、パンバリーミキサー、アトライター、エッジランナーミル、ロールミル、ボールミル、サンドミル、SPEXミル、ホモミキサー、ディスパーザー、アジター、ジョークラッシャー、スタンブルミル、カッターミル、マイクロナイザー等があるが、これらに限られるものではない。また、化学的処理方法として良く知られたアシッドペースティング法は、95%以上の硫酸に顔料を溶解もしくは硫酸塩にしたものを水または氷水中に注ぎ再析出させる方法であるが、硫酸および水を望ましくは5℃以下に保ち、硫酸を高速攪拌された水中にゆっくりと注入することにより、さらに条件良く非結晶性粒子を得ることが出来る。
【0026】
その他、結晶性粒子を直接機械的処理できわめて長時間摩砕する方法、アシッドペースティング法で得られた粒子を前記溶媒等で処理した後摩砕する方法等がある。
【0027】
非結晶性粒子は、昇華によっても得られる。例えば、真空下に於て各種方法で得られた原材料のチタニルフタロシアニン化合物を500℃〜600℃に加熱し昇華させ、基板上にすみやかに析出させることにより得ることができる。
【0028】
上記の様にして得られた非結晶性チタニルフタロシアニン化合物をテトラヒドロフラン中にて処理を行い、新たな安定した結晶を得る。テトラヒドロフランの処理方法としては各種攪拌槽に非結晶性チタニルフタロシアニン化合物1重量部に対し5〜300重量部のテトラヒドロフランを入れ攪拌を行う。温度は加熱、冷却いずれも可能であるが、加温すれば結晶成長が早くなり、又、低温では遅くなる。攪拌槽としては通常のスターラーの他、分散に使用される。超音波、ボールミル、サンドミル、ホモミキサー、ディスパーザー、アジター、マイクロナイザー等や、コンカルブレンダーV型混合機等の混合機等が適宜用いられるがこれらに限られるものではない。これらの攪拌工程の後、通常はろ過、洗浄、乾燥を行い、安定化したチタニルフタロシアニンの結晶を得る。この時ろ過乾燥を行わず、分散液に必要に応じ樹脂等を添加し、塗料化することもでき、電子写真感光体等の塗布膜として用いる場合、省工程となりきわめて有効である。
【0029】
このようにして得られた本発明のチタニルフタロシアニンの赤外吸収スペクトルを図4に示す。このチタニルフタロシアニンは、吸収波数(cm-1、但し±2の誤差を含むものとする。)で1332、1074、962、783、に特徴的な強いピークを示す。更に729、752、895、1059、1120、1288、1490、等に強い吸収を有するものである。又、このチタニルフタロシアニンのCu-Kαを用いたX線回折図を図2及び図3に示す。このチタニルフタロシアニンは、X線回折図において各ブラッグ角2θ(但し、±0.2の誤差範囲を含むものとする。)で27.2度に最大の、及び9.7度、24.1度に比較的強いピークを有するものである。更に11.8度、13.4度、15.2度、18.2度、18.7度に特徴的なピークを示す。Nメチルピロリドン処理をしたチタニルフタロシアニンのX線回折図(図7)と赤外吸収スペクトル(図6)とアシッドペースト法[モザー・アンド・トーマス著「フタロシアニン化合物」(1963年発行)に記載されているα形フタロシアニンを得るための処理方法]により処理したチタニルフタロシアニンのX線回折図(図8)赤外吸収スペクトル(図5)も合わせて示す。これらのX線回折図から前記の方法で得られるチタニルフタロシアニンが新規なものであることがわかる。
【0030】
本発明で使用する他のチタニルフタロシアニン化合物は、ハロゲン原子又はその置換位置又はその置換数の相違にも拘らず、それらの赤外吸収スペクトルには、共通の前記4個の強い特定ピークが認められる。またX線回折図にも、共通の3個の強い特定ピークが認められる。
【0031】
本発明のチタニルフタロシアニンは、テトラヒドロフラン中で更に加熱攪拌を加え、結晶成長の促進を行ってもX線回折図及び赤外吸収スペクトルにおいて大きな変化を示さず、他の結晶形への転移がなくきわめて安定した良好な結晶である。
【0032】
感光体は、導電性基板上に、アンダーコート層、電荷発生層、電荷移動層の順に積層されたものが望ましいが、アンダーコート層、電荷移動層、電荷発生層の順で積層されたもの、アンダーコート層上に電荷発生剤と電荷移動剤を適当な樹脂で分散塗工されたものでも良い。又、これらのアンダーコート層は必要に応じて省略することもできる。本発明によるチタニル系フタロシアニン化合物を電荷発生剤として適当なバインダーを基板上に塗工し、きわめて分散性が良く、光電変換効率がきわめて大である電荷発生層を得ることができる。
【0033】
塗工は、スピンコーター、アプリケーター、スプレーコーター、バーコーター、浸漬コーター、ドクターブレード、ローラーコーター、カーテンコーター、ビードコーター装置を用いて行い、乾燥は、望ましくは加熱乾燥で40〜200℃、10分〜6時間の範囲で静止または送風条件下で行う。乾燥後膜厚は0.01から5ミクロン、望ましくは0.1から1ミクロンになるように塗工される。
【0034】
電荷発生層を塗工によって形成する際に用いるバインダーとしては広範な絶縁性樹脂から選択でき、また、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセンやポリビニルピレンなどの有機光導電性ポリマーから選択できる。好ましくは、ポリビニルブチラール、ポリアリレート(ビスフェノールAとフタル酸の縮重合体など)、ポリカーボネート、ポリエステル、フエノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド、ポリビニルピリジン、セルロース系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリスチレン、ポリケトン、ポリ塩化ビニル、塩ビ-酸ビ共重合体、ポリビニルアセタール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、メラミン樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の絶縁性樹脂を挙げることができる。電荷発生層中に含有する樹脂は、100重量%以下、好ましくは40重量%以下が適している。またこれらの樹脂は、1種または2種以上組合せて用いても良い。これらの樹脂を溶解する溶剤は樹脂の種類によって異なり、後述する電荷発生層やアンダーコート層を塗工時に影響を与えないものから選択することが好ましい。具体的にはベンゼン、キシレン、リグロイン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、酢酸エチル、メチルセロソルブ、などのエステル類、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロルメタン、ジクロルエタン、トリクロルエチレンなどの脂肪族ハロゲン化炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノ、メチルエーテルなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類、及びジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類が用いられる。
【0035】
電荷移動層は、電荷移動剤単体または結着剤樹脂に溶解分散させて形成される。電荷移動物質は公知のものいずれも用いることができる。電荷移動物質としては電子移動物質と正孔移動性物質があり、電子移動物質としては、クロルアニル、ブロモアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7-トリニトロ-9-フルオレノン、2,4,5,7-テトラニトロ-9-フルオレノン、2,4,7-トリニトロ-9-ジシアノメチレンフルオレノン、2,4,5,7-テトラニトロキサントン、2,4,8-トリニトロチオキサントン等の電子吸引性物資やこれら電子吸引物質を高分子化したもの等がある。
【0036】
正孔移動物質としては、ピレン、N-エチルカルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-メチル-N-フェニルヒドラジノ-3-メチリデン-9-エチルカルバゾール、N,N-ジフェニルヒドラジノ-3-メチリデン-9-エチルカルバゾール、N,N-ジフェニルヒドラジノ-3-エンチリデン-10-エチルフェノチアジン、N,N-ジフェニルヒドラジノ-3-メチリデン-10-エチルフェノキサジン、P-ジエチルアミノベンズアルデヒド-N,N-ジフェニルヒドラゾン、P-ジエチルアミノベンズアルデヒド-N-α-ナフチル-N-フェニルヒドラゾン、P-ピロリジノベンズアルデヒド-N,N-ジフェニルヒドラゾン、2-メチル-4-ジベンジルアミノ、ベンズアルデヒド-1’-エチル-1’-ベンゾチアゾリルヒドラゾン、2-メチル-4-ジベンジルアミノベンズアルデヒド-1’-プロピル-1’-ベンゾチアゾリルヒドラゾン、2-メチル-4-ジベンジルアミノベンズアルデヒド-1’、1’-ジフェニルヒドラゾン、9-エチルカルバゾール-3-カルボキサルデヒド-1’-メチル-1’-フェニルヒドラゾン、1-ベンジル-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-6-カルボキシアルデヒド-1’、1’-ジフェニルヒドラゾン、1,3,3-トリメチルインドレニン-ω-アルデヒド-N,N-ジフェニルヒドラゾン、P-ジエチルベンズアルデヒド-3-メチルベンズチアゾリノン-2-ヒドラゾン等のヒドラゾン類、2,5-ビス(P-ジエチルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、1-フェニル-3-(P-ジエチルアミノスチリル)-5-(P-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-(キノリル(2))-3-(P-ジエチルアミノスチリル)-5-(P-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-(ピリジン(2))-3-(P-ジエチルアミノスチリル)-5-(P-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-(6-メトキシ-ピリジル(2))-3-(P-ジエチルアミノスチリル)-5-(P-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-(ピリジル(3))-3-(P-ジエチルアミノスチリル)-5-(P-ジエチルアミノスフェニル)ピラゾリン、1-(レピジル(2))-3-(P-ジエチルアミノスチリル)-5-(P-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-(ピリジル(2))-3-(P-ジエチルアミノスチリル)-4-メチル-5-(P-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-(ピリジル(2))-3-(α-メチル-P-ジエチルアミノスチリル)-5-(P-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-フェニル-3-(P-ジエチルアミノスチリル)-4-メチル-5-(P-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-フェニル-3-(α-ベンジル-P-ジエチルアミノスチリル)-5-(P-ジエチルアミノフェニル)-6-ピラゾリン、スピロピラゾリンなどのピラゾリン類、2-(P-ジエチルアミノスチリル)-6-ジエチルアミノベンズオキサゾール、2-(P-ジエチルアミノフェニル)-4-(P-ジエチアミノフェニル)-5-(2-クロロフェニル)オキサゾール等のオキサゾール系化合物、2-(P-ジエチルアミノスチリル)-6-ジエチルアミノベンゾチゾール等のチアゾール系化合物、ビス(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル0-フェニルメタン等のトリアリールメタン系化合物、1,1-ビス(4-N,N-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)ヘプタン、1,1,2,2-テトラキス(4-N,N-ジメチルアミノ-2-メチルフェニル)エタン等のポリアリールアルカン類、1,1-ジフェニル-P-ジフェニルアミノエチレン等のスチルベン系化合物、4,4’-3メチルフェニルフェニルアミノビフェニル等のトリアリールアミノ系化合物、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリビニルアクリジン、ポリ-9-ビニルフェニルアントラセン、ピレン-ホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂、ポリメチルフェニルシリレン等のポリシリレン樹脂等がある。
【0037】
これらの有機電荷移動物質の他に、セレン、セレン-テルルアモルファスシリコン、硫化カドミウムなどの無機材料も用いることができる。
【0038】
また、これらの電荷移動物質は、1種または2種以上組合せて用いることができる。電荷移動層に用いられる樹脂は、シリコン樹脂、ケトン樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂ポリアリレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル、スチレンコポリマー、アクリロニトリル-ブタジエンコポリマー、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリスルホン、ポリアクリルアミド、ポリアミド、塩素化ゴムなどの絶縁性樹脂、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレンなどが用いられる。
【0039】
又、これら樹脂に通常用いられる各種添加剤、例えば紫外線吸収剤や酸化防止剤等を適宜添加することは劣化防止に有効である。
【0040】
塗工方法は、スピンコーター、アプリケーター、スプレーコーター、バーコーター、浸漬コーター、ドクターブレード、ローラーコーター、カーテンコーター、ビードコーター等装置を用いて行い、乾燥後膜厚は5から50ミクロン、望ましくは10から20ミクロンになるように塗工されるものが良い。これらの各層に加えて、帯電性の低下防止と、接着性向上などの目的でアンダーコート層を導電性基板上に設けることができる。アンダーコート層として、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン610、共重合ナイロン、アルコキシメチル化ナイロンなどのアルコール可溶性ポリアミド、カゼイン、ポリビニルアルコール、ニトロセルロース、エチレン-アクリル酸コポリマー、ゼラチン、ポリウレタン、ポリビニルブチラールおよび磁化アルミニウムなどの金属酸化物が用いられる。また、金属酸化物やカーボンブラックなどの導電性粒子を樹脂中に含有させても効果的である。
【0041】
又、本発明の材料は図1の分光感度特性図に示すように800nm近傍の波長に吸収ピークがあり、電子写真感光体として複写機、プリンターに用いられるだけでなく、太陽電池、光電変換素子および光ディスク用吸収材料としても好適である。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例について説明する。例の中で部とは、重量部を示す。
【0043】
(実施例1)o-フタロジニトリル20.4部、四塩化チタン部7.6部をキノリン50部中で200℃にて2時間加熱反応後、水蒸気蒸留で溶媒を除き、2%塩化水溶液、続いて2%水酸化ナトリウム水溶液で精製し、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミドで洗浄後、乾燥し、オキシチタニウムフタロシアニン(TiOPc)21.3部を得た。このチタニルフタロシアニン2部を5℃の98%硫酸40部の中に少しずつ溶解し、その混合物を約1時間、5℃以下の温度を保ちながら攪拌する。続いて硫酸溶液を高速攪拌した400部の氷水中に、ゆっくりと注入し、析出した非結晶を濾過する。この非結晶を酸が残量しなくなるまで蒸留水で洗浄し、ウエットケーキを得る。そのケーキ(含有フタロシアニン量2部と仮定して)をTHF100部中で約5時間攪拌を行い、ろ過、THFによる洗浄を行い乾燥後、1.7部のチタニルフタロシアニンを得た。この様にして得た物の赤外吸収スペクトルは図4の様な新しいものであった。又X線回折図は図2のようであった。
【0044】
又、この物質の質量分析、及び元素分析を行ったところ、オキシチタニウムフタロシアニンであることが確認された。この様にして得たチタニウムオキシフタロシアニン0.4g、ポリビニルブチラール0.3g、THF30gと共にサンドミルで分散した。この分散液をアルミニウム蒸着層を有するポリエステルフィルム上にフィルムアプリケーターで乾燥膜厚が0.2μmとなる様に塗布し、100℃で1時間乾燥し、電荷発生層を得た。この様にして得られた電荷発生層の上に電荷移動剤としてジエチルアミノベンズアルデヒド-N,N-ジフェニルヒドラゾン100部およびポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学Z-200)100部トルエン/THF(1/1)500部に溶解した溶液を乾燥膜厚が15μmとなる様に塗布し電荷移動層を形成した。
【0045】
この様にして、積層形の感光層を有する電子写真感光体を得た。この感光体の半減露光量(E1/2)を静電複写機試験装置(川口電気製作所EPA-8100)により測定した。即ち暗所で-5.5KVのコロナ放電により帯電させ、次いで照度51uxの白色光で露光し、表面電位の半分に減衰するのに必要な露光量E1/2(eux.sec)を求めた。
【0046】
(実施例2a)電荷移動物質に4-ジベンジルアミノ-2-メチルベンズアルデヒド、1,1’-ジフェニルヒドラゾンを用いた以外実施例1と同様にし電子写真特性を測定した。
【0047】
(実施例2b)実施例2aに更に2-ヒドロキシ-4-メトキンベンゾフェノンを2部添加した以外実施例1と同様にし電子写真特性を測定した。
【0048】
(実施例3)電荷移動物質に1-フェニル-1,2,3,4テトラヒドロキノリン6カルボキシアルデヒド1,1’ジフェニルヒドラゾンを用いた以外実施例1と同様にし、評価した。
【0049】
(実施例4)実施例1において硫酸処理後のウエットケーキを5%の塩酸で洗浄を行い中性になる迄ろ過水洗を行い乾燥した。得られたチタニルフロシアニンの0.4部をTHF30部と共にボールミルに入れ10時間分散し、一部を取出しX線回折像を調べた。結果図3のような結晶形を示した。次に同ボールミルにポリエステル樹脂0.3部を追加し、8時間分散を続け塗料を得た。この分散液をポリアミド樹脂を0.3μmコーティングしたアルミ板上に簡素膜厚が0.3μmになるように塗布し電荷発生層を得た。その上に電荷移動剤として1,1Pジメチルアミノベンズ4,4ジフェニル2ブチレンを用いた他の実施例1と同様にして感光体を作成し、測定した。
【0050】
(実施例4b)実施例4に更に2,4ビスn-(オクチルチオ)-6-(4ヒドロキシ3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン4部を添加した他は実施例1と同様にして感光体を作成し測定した。
【0051】
(実施例5)実施例1と同様にして得た電荷発生層を精製したポリメチルフェニルシリレン50部をトルエン100部に溶解させ乾燥膜厚が12μmとなる様に塗布し電荷移動層を形成した。以下実施例1と同様に電子写真特性を測定した。
【0052】
(実施例6)実施例1で得られたチタニルフタロシアニン1部とP-ジエチルアミノベンズアルデヒド-1,1ジフエニルヒドラゾン0.7部、ポリエステル樹脂(バイロン200東洋紡製)をテトラヒドロフラン、トルエン(1/1)混合液に溶解した溶液42部をガラスビーズと共にガラス容器にてペイントコンディショナーで分散した後、乾燥膜厚が12μmとなる様にアルミ板上に塗布し、単層型電子写真感光体を作成した。帯電印加電圧を+5.5KVとした以外は実施例1と同様に測定し特性を評価した。
【0053】
(比較例1,2)実施例1で得られる硫酸処理前のオキシチタニウムフタロシアニンをNメチルピロリドンにて洗浄処理を行い赤外吸収スペクトルで図6に見られる結晶を得た(比較例1)。この結晶のX線スペクトルを図7に示す。
【0054】
又、硫酸処理直後に得られる非結晶性フタロシアニンの赤外吸収スペクトルは図5の様であった(比較例2)。この結晶のX線スペクトルを図8に示す。
【0055】
これらを用いそれぞれ分散溶媒をジクロルメタン、トリクロルエタン混合液(1/1)に変更した以外は実施例1と同様にして感光体を作成し、評価した。
【0056】
【表1】

【0057】
【発明の効果】
以上のように本発明の材料は、新規な安定な結晶体であり、溶剤に対し安定な為、塗料とする場合、溶剤選択が容易になり、分散の良好な、寿命の長い塗料が得られるので、感光体製造上重要な、均質な製膜が容易となる。得られた電子写真感光体は、特に半導体レーザ波長域に対して高い光感度を有し、特に高速・高品位のプリンタ用感光体として有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
実施例により得た本発明の感光体の分光感度特性図。
【図2】
本発明によるチタニルフタロシアニン化合物のX線回折図。
【図3】
本発明によるチタニルフタロシアニン化合物のX線回折図。
【図4】
本発明によるチタニルフタロシアニン化合物の赤外吸収スペクトル図。
【図5】
比較例2により得られた公知のチタニルフタロシアニンの赤外吸収スペクトル図。
【図6】
比較例1により得られた公知のチタニルフタロシアニンの赤外吸収スペクトル図。
【図7】
比較例1により得られた公知のチタニルフタロシアニンのX線回折図。
【図8】
比較例2により得られた公知のチタニルフタロシアニンのX線回折図。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2001-10-18 
出願番号 特願平10-32736
審決分類 P 1 651・ 113- ZA (C09B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 井上 千弥子  
特許庁審判長 花田 吉秋
特許庁審判官 佐藤 修
西川 和子
登録日 1999-11-19 
登録番号 特許第3003664号(P3003664)
権利者 日本電気株式会社
発明の名称 フタロシアニン結晶とそれを用いた電子写真感光体  
代理人 福田 修一  
代理人 河合 信明  
代理人 京本 直樹  
代理人 京本 直樹  
代理人 篠部 正治  
代理人 福田 修一  
代理人 河合 信明  

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