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審決分類 |
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 H05K 審判 全部申し立て 2項進歩性 H05K 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 H05K 審判 全部申し立て 1項1号公知 H05K |
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管理番号 | 1094599 |
異議申立番号 | 異議2003-70251 |
総通号数 | 53 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2001-08-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-01-20 |
確定日 | 2004-01-28 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3312618号「はんだ槽へのはんだの追加供給方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3312618号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1. 手続の経緯 特許第3312618号は、平成12年2月3日出願の特願2000-25859号に係り、平成14年5月31日に設定登録(請求項の数3、特許公報発行日平成14年8月12日)がなされ、その後、平成15年1月20日付で西山幸代より全請求項に関して、また、同年2月10日付で株式会社日本スペリア社より請求項1、2に関して、それぞれ特許異議の申立てがあったので、当審において当該各申立ての理由について検討のうえ、取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成15年10月27日付で、特許異議意見書の提出と共に、訂正請求がされたものである。 第2. 訂正請求の適否についての判断 1 訂正の内容 特許権者が求めている訂正の内容は、以下のイ〜ヘのとおりである。 イ 特許請求の範囲の請求項1冒頭の、 「Cu含有鉛フリーはんだを入れたはんだ槽にはんだを追加供給する方法において」という記載を、 「プリント基板のはんだ付け用のCu含有鉛フリーはんだを入れたはんだ槽に減量したはんだを追加供給する方法において」という記載に訂正する。 ロ 同じく、請求項2の「Ga等が一種以上添加された」という記載を、 「Gaが一種以上添加された」という記載に訂正する。 ハ 発明の詳細な説明(段落【0020】)に関して、上記イの訂正事項の趣旨に合致する訂正をする。 ニ 発明の詳細な説明(段落【0022】)中の、「このはんだ槽で浸漬法によりテレビ用プリント基板を512枚はんだ付けしたところで液面センサーが作動し、警報が発せられた。このとき溶融はんだの液面は初期の位置から5mm下がり、はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.90質量%となっていた。そこでCuを全く含まないSn-3.5Agの合金を初期と同じ液面になるまで追加供給した。」という記載を、 「このはんだ槽で浸漬法によりテレビ用プリント基板をはんだ付けした。はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.90質量%となっていた。そこでCuを全く含まないSn-3.5Agの合金を追加供給した。」という記載に訂正する。 ホ 同じく(段落【0023】)中の、「このはんだ槽で浸漬法によりオーディオ用プリント基板を920枚はんだ付けしたところで液面センサーが作動し、警報が発せられた。このとき溶融はんだの液面は初期の位置から4mm下がり、はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.87質量%となっていた。そこで所定のCu含有量よりも少ないSn-0.3Cu-3.5Agの合金を初期と同じ液面になるまで追加供給した。」という記載を、 「このはんだ槽で浸漬法によりオーディオ用プリント基板をはんだ付けした。はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.87質量%となっていた。そこで所定のCu含有量よりも少ないSn-0.3Cu-3.5Agの合金を追加供給した。」という記載に訂正する。 ヘ 同じく(段落【0024】)中の、「このはんだ槽で浸漬法によりビデオ用プリント基板を485枚はんだ付けしたところで液面センサーが作動し、警報が発せられた。このとき溶融はんだの液面は初期の位置から6mm下がり、はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.92質量%となっていた。そこでCuを全く含まないSnを所定の液面になるまで追加供給した。」という記載を、 「このはんだ槽で浸漬法によりビデオ用プリント基板をはんだ付けした。はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.92質量%となっていた。そこでCuを全く含まないSnを追加供給した。」という記載に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項及び拡張・変更の存否 上記イ、ロの訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。 そして、上記ハの訂正事項は、発明の詳細な説明において、上記訂正事項イの訂正事項と同趣旨となる訂正をして、明細書の前後における齟齬の解消を図るもので、明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当する。 更に、上記ニ〜ヘの訂正事項は、実質上、誤記の訂正に該当するものと認められる。 また、上記の各訂正事項は、いずれも願書に添付された明細書に記載されている事項の範囲内のものと認められるし、その訂正の趣旨からみて特許請求の範囲を実質的に拡張または変更するものでもない。 なお、この点に関して、特許異議申立人株式会社日本スペリア社は、上記のうちの、訂正事項ロ(「Ga等」を「Ga」とする訂正)は、新規事項の追加に該当する旨主張しているが、「Ga」が願書に添付された明細書に記載されていることは明らかであるし、「Ga等」という記載を、Ga以外の金属を必須とする趣旨のものとは解せないから、上記訂正事項ロが新規事項の追加に該当するとはいえない。 3 訂正請求の認容 以上のとおり、上記イ〜ヘの訂正事項は、平成15年改正前の特許法第120条の4第2項各号に掲げる事項を目的とするものであり、同じく同条第3項で準用される、特許法第126条第3項及び第4項の各規定に適合するので、当該訂正の請求を認める。 第3.特許異議の申立てについての判断 1 本件特許発明 上記第2.で示したように、上記の訂正請求が認められるから、特許異議申立てに係る本件特許発明は、上記訂正に係る明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】プリント基板のはんだ付け用のCu含有鉛フリーはんだを入れたはんだ槽に減量したはんだを追加供給する方法において、所定組成の鉛フリーはんだからCu成分だけを除去した合金、または所定組成の鉛フリーはんだのCu含有量よりもCu成分が少ない合金をはんだ槽に供給してCu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整することを特徴とするはんだ槽へのはんだ追加供給方法。 【請求項2】前記Cu含有鉛フリーはんだが、Sn-Cu合金、或いはSn-Cu合金にAg、Bi、In、Sb、Zn、Ni、P、Ge、Gaが一種以上添加された合金であることを特徴とする請求項1記載の方法。 【請求項3】前記Cu含有鉛フリーはんだが、Sn-Cu-Ag合金であることを特徴とする請求項2記載の方法。 2 西山幸代の主張する特許異議申立理由について 特許異議申立人西山幸代は、本件特許に係る上記各請求項の発明は、下記の甲第1〜5号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることが出来ない発明であって、当該各請求項に係る発明の特許は取り消すべきである旨主張しているので、先ずこの点について検討する。 (1)甲各号証記載事項の概要 <甲第1号証> 特許異議申立人西山幸代が甲第1号証として提出した特開平10-180482号公報(以下、「第1引用例」という)には、次のa〜dの記載がある。 a 「【0010】本実施の形態による高強度はんだ合金は・・・錫(Sn)および鉛(Pb)の2元合金をベースとし、このベースに銀(Ag)・・・銅(Cu)をそれぞれ添加し溶解させることによってはんだの強度を向上させたものである。」(第2頁右欄) b 「【0036】また、このCuの添加によって、特に、図10に示したような噴流方式による自動はんだ付け装置(ウェーブ・ソルダリング装置)100において、新しいはんだ合金を投入した場合の稼働直後に起こる、急激なCuの増加による組成の変化を防止する効果も期待できる。」(第6頁左欄) c 「【0037】この自動はんだ付け装置100においては、一般にはんだ槽104内のはんだ中のCu濃度が0.29重量%以上になると、Sn-Cuの金属間化合物が析出する。このようなSn-Cuの金属間化合物が析出すると、はんだ付け表面がざらつき、はんだ付け性も悪くなる。従って、最大添加量は0.25重量%としてCuの添加範囲を0.1〜0.25重量%に決定し、本実施の形態では0.2重量%とした。」(同) d 「【0039】・・・本発明によるはんだ合金によれば、錫(Sn),鉛(Pb),銀(Ag),アンチモン(Sb),銅(Cu)とを含む組成とすると共に、Snは64〜66重量%、Agは0.8〜1.5重量%,Sbは0.3〜1.0重量%,Cuは0.1〜0.25重量%,Pbは残りの範囲の組成をもつように構成した」(第6頁左欄〜右欄) <甲第2号証> 同じく、甲第2号証(特開平1-168826号公報、以下、「第2引用例」という)には、次の記載がある。 「従来の技術 半田付け装置の半田槽に貯留した溶融半田に半導体のリード線をつけ、リード線の半田付け加工をある程度行うと、リード線の材質である銅分が半田槽の250℃〜300℃の温度範囲の溶融半田内に溶け出して化合物となり、溶融半田の温度が次第に低下し、半導体のリード線への半田付け工程が不可能となる。」(第1頁左欄第17行〜同右欄第4行) 「問題点を解決するための手段 ・・・半田循環槽に設けた半田冷却手段が半田循環槽内の循環する溶融半田を徐々に冷却して溶解半田に溶け出した銅分を析出し、溶融半田内の析出した銅分のみを取除く。」(第2頁左上欄第7行〜同右上欄第2行) <甲第3号証> 同じく、甲第3号証(特開昭62-89567号公報、以下、「第3引用例」という)には、次の記載がある。 「銅基材の材料を錫含有率の高いはんだに浸漬してはんだづけを行う際に、はんだ貯槽中のはんだが・・・短時間で約2%の銅を取り込む。このはんだは銅基材の表面部と更に反応して、銅と錫とが金属間化合物類・・・「エタ相」(etha fase)・・・を形成する。はんだよりも融点が高いエタ相は沈積してスラッジを形成して堆積し、はんだを使用不能の状態にする場合もある。」(第2頁右下欄第12行〜第3頁左上欄第1行) 「好ましい実施例では、錫・アンチモンはんだ・・・を使用し、はんだ槽に開始時及び周期的に上記の錫・アンチモンはんだを添加する。・・・本発明実施中、カスケード流しの余剰はんだは槽に戻され、(フィンと伝熱管からの)銅が槽中に蓄積され始めて、・・・好ましい温度下では銅含有率は約1.6乃至2.2%程度にまで上昇する。このような状態のはんだが銅基材面と接触すると、接触面から追加された銅は・・・エタ相を形成し、形成されたエタ相は・・・伝熱管上に保持される。これにより、・・・槽中でのスラッジの形成が回避される。・・・余剰のはんだを除去する目的だけでなく組立体をはんだの溶融温度範囲以下に急速に冷却するためにも、はんだづけ後約5秒以内・・・に空気吹付け冷却を行う。」(第4頁右上欄第10行〜同右下欄第9行) <甲第4号証> また、同じく、甲第4号証(特開平2-84266号公報、以下、「第4引用例」という)には、次の趣旨の記載がある。 「自動はんだ付けに使用される半田槽の内部では、例えば、錫(Sn)と鉛(Pb)との重量比が63:37の割合から成る」共晶はんだが溶融されており、「静止式または噴流式のいずれのはんだ槽においても、はんだの酸化」が起こるが、「このようなはんだの酸化とは、正確には錫(Sn)の選択的な酸化」であり、「はんだ中の錫のみが酸化物となって減少」する。 従来は、「作業者が不足したと思われる分量」の錫をはんだ槽に投入していたが、「作業者の勘に頼るところが多く、客観性に欠け」るため、従来の方法に代えて、「一定容積のはんだ重量を測定し、はんだ組成に応じて異なるはんだ重量から組成変化したはんだ中の錫の不足分を検出し、その不足分の錫を補給するはんだ組成管理方法」とする。(第1頁右下欄第4行〜第2頁右上欄第6行参照) <甲第5号証> 更に同じく、甲第5号証(特開平11-221695号公報、以下、「第5引用例」という)には、Cu含有の無鉛はんだ合金、あるいは、当該合金として、Bi、In、Ag、Zn等を含むものが開示されている。(第2頁左欄、【請求項1】〜【請求項9】参照) (3)発明の対比、判断 上記1で認定した本件特許発明のうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という)は、「プリント基板のはんだ付け用のCu含有鉛フリーはんだを入れたはんだ槽に減量したはんだを追加供給する方法において、」という前段の構成(前段構成)と、「所定組成の鉛フリーはんだからCu成分だけを除去した合金、または所定組成の鉛フリーはんだのCu含有量よりもCu成分が少ない合金をはんだ槽に供給してCu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整する」という後段の構成(後段構成)とを備えるものである。 一方、上記各引用例をみると、本件発明1の上記前段構成及び後段構成のいずれについても開示するものがない。 もっとも、上記第5引用例記載のCu含有「無鉛はんだ合金」は、実質上「Cu含有鉛フリーはんだ」といえるものであるし、銅を含有する半田、あるいは、鉛を含有しない半田(鉛フリーはんだ)を、半田槽に入れて半田付けする手法が、第1引用例及び第3引用例に開示されていて、しかも、「はんだ槽に減量したはんだを追加供給する」こと自体は、ほぼ自明の事項ともいえるところから、本件発明1の上記前段構成については、上記各引用例の記載事項によって示唆されているといえる。 しかし、本件発明1における上記後段構成についてみると、上記第2引用例及び第3引用例記載の発明は、溶融半田中で過剰となった銅成分を、冷却による析出等の手段により除去しようとするものであるし、また、第4引用例記載の発明は、共晶半田の組成成分のうち、選択的な酸化によって生じる「錫の不足分」を補給するというものであるから、本件発明1の上記後段構成に係る、「Cu成分が少ない合金をはんだ槽に供給してCu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整する」点については、上記いずれの引用例によっても示唆されているとはいえない。 そして、本件発明1では、上記後段構成を備えることによって、明細書記載のとおりの作用効果を奏することが認められるから、本件発明1については、上記各引用例記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件請求項2以下の発明について 本件請求項2以下の発明は、本件発明1を引用し、これを更に限定する発明であって、本件発明1と同様に、上記各引用例記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 3 株式会社日本スペリア社の主張する特許異議申立理由について (1)明細書の記載不備に関する主張について 特許異議申立人株式会社日本スペリア社(以下、「スペリア社」という)は、本件請求項2の発明に係る「Ag、Bi、In、Sb、Zn、Ni、P、Ge、Gaが一種以上添加された合金」が、実質上、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない旨主張する。 この点について検討すると、発明の詳細な説明中、「実施例」としては、たしかに、Sn-Cu合金(実施例3)、Sn-Cu-Ag合金(実施例1及び2)のみが言及されており、Bi以下を添加する合金についての実施例は示されていないが、上記甲第5号証にも示されるように、当該技術分野においては、Ag以外のBi等の金属を添加する無鉛半田合金もよく知られており、また、本件各発明の趣旨からみて、Bi等を添加する合金を使用した場合はその作用効果を期待しがたいといった特段の理由もみあたらないから、当該Bi等を添加する合金についての実施例が記載されていないからといって、明細書の記載に不備があるとすることはできない。 スペリア社は更に、上記第2で検討した、訂正前の明細書に記載されていた、はんだ使用量に関する数値(訂正事項ニ〜ヘ参照)が想定しがたいものであることや、「Ga等」という記載(訂正事項ロ参照)は不明瞭であるとする記載不備の理由も主張しているが、当該不備については、上記訂正により解消されている。 (2)本件特許発明が公知の発明であるとする主張について スペリア社は、同社が提出した甲第2及び3号証は、本件特許に係る出願日より前に作成されたものであって、当該甲各号証には、本件請求項1及び2に係る発明が記載されており、しかも、当該甲各号証の作成に関与した西村哲朗等は秘密保持義務がない第三者であるから、上記本件各請求項の発明は、特許法第29条第1項に規定する発明に該当する旨主張する。 そこで上記の主張について検討すると、スペリア社提出の甲第1、4号証によれば、上記の甲第2及び3号証は、本件特許に係る出願日(平成12年2月3日)よりも後に出願された、特願2000-47437号(出願日平成12年2月24日)に関する出願打ち合わせのための内部資料等であると認められる。そうすると、このような特許出願関連の内部資料等の作成に関与した西村哲朗等については、仮に、守秘義務に関する明示的な契約は存在しないとしても、スペリア社がいう「秘密保持義務がない第三者」に該当するとみるのは常識的ではない。 しかも、上記西村等に秘密保持義務がなかったことを示す証拠や、上記甲第2及び3号証の内容が、本件特許に係る出願日より前(即ち、上記出願の出願日より前)において、「公然知られた」状態にあったことを示す証拠が提出されているわけでもない。 したがって、上記甲第2及び3号証の記載内容について検討するまでもなく、本件請求項1、2に係る本件特許は特許法第29条の規定に違反して受けたとするスペリア社の主張は採用できない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、本件各請求項に係る特許は、いずれの特許異議申立人の主張する理由およびその提出した証拠によっても、取り消すことはできない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 はんだ槽へのはんだの追加供給方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 プリント基板のはんだ付け用のCu含有鉛フリーはんだを入れたはんだ槽に減量したはんだを追加供給する方法において、所定組成の鉛フリーはんだからCu成分だけを除去した合金、または所定組成の鉛フリーはんだのCu含有量よりもCu成分が少ない合金をはんだ槽に供給してCu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整することを特徴とするはんだ槽へのはんだ追加供給方法。 【請求項2】 前記Cu含有鉛フリーはんだが、Sn-Cu合金、或いはSn-Cu合金にAg、Bi、In、Sb、Zn、Ni、P、Ge、Gaが一種以上添加された合金であることを特徴とする請求項1記載の方法。 【請求項3】 前記Cu含有鉛フリーはんだが、Sn-Cu-Ag合金であることを特徴とする請求項2記載の方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、Cuが含まれた鉛フリーはんだをはんだ槽で使用して減量したはんだを追加供給するときに、はんだ槽内の鉛フリーはんだのCu成分を一定に保つようにする供給方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 テレビ、ビデオ、ラジオ、コンピューター、複写機、通信機器等の電子機器はプリント基板に電子部品を搭載したものが使用されている。この電子部品はプリント基板に堅固に固定されているとともにプリント基板と電気的に良好な導通がなされていなければならない。そのため電子部品とプリント基板の接続には、はんだが使用されている。 【0003】 従来から電子機器に使用されているはんだは、Sn-Pb、特に63Sn-Pbの共晶はんだであった。この共晶はんだは溶融温度が183℃という低い温度であるため、はんだ付け時に電子部品やプリント基板等のワークに対して熱損傷を与えることがないばかりでなく、濡れ性が良いためはんだ付け不良が少ないという優れた特長を有している。 【0004】 ところで電子機器は故障したり古くなって使い勝手が悪くなったりした場合、これらの電子機器は廃棄処分されるが、ケースや電子機器の中に組み込まれているプリント基板が合成樹脂であり、またフレーム、電子部品のリード、プリント基板の導体等が金属であるため焼却処分ができない。そこで電子機器の処分の多くは埋め立て処分となっている。 【0005】 しかしながら電子機器を埋め立て処分した場合、地下水を汚染するということが問題視されるようになってきた。つまり最近は化石燃料の多用から大気中に硫黄酸化物が大量に放出されるようになってきており、この大気中を通過する雨は酸性雨となって地中に染み込む。そして地中に染み込んだ酸性雨が埋め立て処分された電子機器のはんだ付け部に接すると、酸性雨は、はんだ中の鉛成分を溶出させ、さらに地中に浸透して地下水に混入するようになる。このように鉛成分を含んだ地下水を長年月間にわたって飲料用に使用すると、鉛成分が体内に蓄積されて鉛中毒を起こすと言われている。そこで最近では、電子機器のはんだ付けとして鉛を全く含まない所謂「鉛フリーはんだ」の使用が推奨されるようになってきている。 【0006】 鉛フリーはんだとは、Snを主成分とし、これにCu、Ag、Bi、In、Ni、Zr、P、Ge、Ga等を適宜添加したものである。特に電子機器のはんだ付けにはSnにCuを少量添加したSn-Cu系の鉛フリーはんだが多く使用されている。Cuは、はんだの機械的特性を向上させるばかりでなく、ワークからのCuの溶出を防止する効果がある。Cuの溶出とは、多くのワークのはんだ付け部がはんだ付け性と電気伝導性に優れたCuであり、Cuのはんだ付け部が溶融したはんだに接触すると、溶融はんだ中にCuが溶け込んで、はんだ中のCu成分の含有量が多くなってしまうことである。 【0007】 はんだ中のCu成分が必要以上に多くなり過ぎると、はんだ自体のはんだ付け性を阻害してはんだ付け不良を発生させる。またはんだ中に溶解度を越えてCu成分が増えるとSn・Cuの金属間化合物が析出し、液相線温度が高くなる。はんだの液相線温度の上昇は、必然的にはんだ付け温度も高くせざるを得なくなるため、ワークに熱損傷を与えるようになる。Cuのはんだ中への溶出を抑制するには、予めはんだ合金中にCuを少量添加しておくと、ワークが溶融はんだに接触したときにCuの溶出を少なくできることは分かっており、従来よりSn-Pbはんだでも、はんだ中に予めCuを添加してワークからのCuの溶出を抑えることがなされていた。 【0008】 ところで鉛フリーはんだの使用方法としては、鏝付け法、リフロー法、浸漬法がある。 【0009】 鏝付け法とは、線状はんだの中心にフラックスが充填された脂入りはんだを用い、はんだ鏝で脂入りはんだを溶かしながらはんだ付け部にはんだを付着させるものである。 【0010】 リフロー法とは、粉状はんだと液状フラックスから成るソルダペーストをはんだ付け部に塗布しておき、ワークとともにリフロー炉のような加熱装置で加熱してソルダペーストを溶融させることによりはんだ付けを行なうものである。 【0011】 浸漬法とは、はんだ槽内ではんだを溶融させておき、該溶融はんだにワークを接触させることにより、はんだ付け部にはんだを付着させるものである。 【0012】 鏝付け法によりCu含有の鉛フリーはんだでCuのワークにはんだ付けした場合、はんだの溶融時間が短いためワークからCuが溶出することがなく、しかもはんだ付け部に供給するはんだは常に新しい脂入りはんだであるため、はんだ自体にCuが増えることがない。 【0013】 リフロー法によりCuが含有された鉛フリーはんだでCuのワークにはんだ付けした場合も、はんだ付け部に供給するはんだは新しいはんだであるため、はんだ付け部にCuが増えることはない。 【0014】 しかしながら浸漬法によりCuが含有された鉛フリーはんだでCuのワークにはんだ付けした場合、はんだ中にCuが含有されていてもはんだ槽内のはんだに所定量以上のCuが増えて、前述のように融点の上昇やはんだ付け不良という問題が発生することがあった。本発明は、Cu含有鉛フリーはんだでCuのワークにはんだ付けを行なった場合、はんだ槽内のはんだに所定量以上のCuが混入しないはんだの供給方法を提供することにある。 【0015】 本発明者らは、浸漬法でCuのワークをはんだ付けしたときに、はんだ付け部にCuが増える原因について鋭意研究を重ねた結果、はんだ槽中のはんだが高温で溶融しており、しかもはんだ槽に入れられたはんだが大量のワークに接触してはんだ付けがなされるためであることが分かった。つまり浸漬法では、はんだ付け時に溶融はんだがワークと接する時間は短いものであり、一つのワークから溶出されるCuはごく僅かである。しかしながら、一つのワークから溶出するCuの量が僅かであっても大量生産ではんだ付けされるワークの数が多いため、はんだ槽中のはんだに溶出するCuの量はトータルとして多くなってしまう。その結果、はんだ槽内のCu量は所定量をはるかに超えてしまうようになる。このように大量のCuが含まれた鉛フリーはんだは、はんだ付け性が悪くなり、またはんだを完全に溶融状態にするためはんだの温度も高くせざるを得ず、電子部品やプリント基板を熱損傷させてしまうことになる。 【0016】 浸漬法では、はんだ槽内の溶融はんだがワークに付着していくため、多数のワークをはんだ付けすると、はんだ槽中のはんだの量が少なくなる。浸漬法は、ワークを一定の位置ではんだ槽中の溶融はんだに接触させてはんだ付けするものであり、はんだの液面は一定でないと正常なはんだ付けができなくなる。つまりはんだ槽中のはんだが多数のワークのはんだ付けでワークに付着して少なくなり、はんだの液面が下がってしまうと、溶融はんだが一定位置にあるワークに接することができなくなって、はんだの付着しない未はんだとなってしまう。 【0017】 そのため、はんだ槽では溶融はんだの液面を常に監視する液面センサーを設置しておき、はんだの量が少なくなって、はんだの液面が下がったときには液面センサーが警報を発するようになっている。この警報が発せられたならば、作業者や自動供給装置が棒状はんだやワイヤー状はんだをはんだ槽に供給して所定の液面を保つようにしている。 【0018】 一般に、はんだの液面が下がったときに、はんだ槽に供給するCu含有鉛フリーはんだは、Cuの含有量が所定の成分のものであった。例えば鉛フリーはんだのCuの所定量が0.5質量%であれば、供給する鉛フリーはんだのCuの含有量も0.5質量%のものであった。このように、はんだ槽内の鉛フリーはんだと同一成分のはんだを追加供給すると、はんだ槽内のはんだ中のCu量が所定の量よりも増えて前述のような問題を発生させていた。 【0019】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、多数のワークをはんだ槽中のワークに接触させるためにワークからCuが溶出してCuの含有量が増えるが、この増えたCuを所定のCu含有量に戻すことができればCuの異常増加による前述のような問題点を解決できるようになることに着目して本発明を完成させた。 【0020】 本発明は、プリント基板のはんだ付け用のCu含有鉛フリーはんだを入れたはんだ槽に減量したはんだを追加供給する方法において、所定組成の鉛フリーはんだからCu成分だけを除去した合金、または所定組成の鉛フリーはんだのCu含有量よりもCu成分が少ない合金をはんだ槽に供給してCu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整することを特徴とするはんだ槽へのはんだ追加供給方法である。 【0021】 【発明の実施の形態】 本発明に適応するCuが含まれた鉛フリーはんだとは、Sn-Cuの二元合金、或いはSn-Cu合金にAg、Bi、In、Sb、Zn、Ni、P、Ge、Ga等が一種以上添加された三三元以上の合金である。また本発明で追加供給する合金としては、Sn-Cuの二元合金の場合、所謂二種以上の金属が溶け合わされた合金でなくSn単体でもよいし、或いは所定のSn-Cuの二元合金よりもCuの含有量の少ないSn-Cuの二元合金であってもよい。 【0022】 【実施例】 (実施例1) 大型のはんだ槽中に所定の成分としてSn-0.75Cu-3.5Agの鉛フリーはんだを500Kg入れておく。このはんだ槽で浸漬法によりテレビ用プリント基板をはんだ付けした。はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.90質量%となっていた。そこでCuを全く含まないSn-3.5Agの合金を追加供給した。そしてSn-3.5Agの合金を追加供給後のはんだ槽内のCuの含有量を測定したところ、Cuは0.76質量%となっており略所定の鉛フリーはんだに近い成分となっていた。 【0023】 (実施例2) 中型のはんだ槽中に所定の成分としてSn-0.75Cu-3.5Agの鉛フリーはんだを380Kg入れておく。このはんだ槽で浸漬法によりオーディオ用プリント基板をはんだ付けした。はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.87質量%となっていた。そこで所定のCu含有量よりも少ないSn-0.3Cu-3.5Agの合金を追加供給した。そしてSn-0.3Cu-3.5Agの合金を追加供給後のはんだ槽内のCuの含有量を測定したところ、Cuは0.80質量%となっており略所定の鉛フリーはんだに近い成分となっていた。 【0024】 (実施例3) 大型のはんだ槽中に所定の成分としてSn-0.75Cuの鉛フリーはんだを500Kg入れておく。このはんだ槽で浸漬法によりビデオ用プリント基板をはんだ付けした。はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.92質量%となっていた。そこでCuを全く含まないSnを追加供給した。そして Snを追加供給後のはんだ槽内のCuの含有量を測定したところ、Cuは0.74質量%となっており略所定の鉛フリーはんだに近い成分となっていた。 【0025】 【発明の効果】 以上説明したように、本発明によれば浸漬法でCu含有鉛フリーはんだのはんだ付けを行なった場合、はんだ槽内のはんだ中にワークからCuが溶出してCu濃度が高くなっても、追加供給するはんだにCuが全く含まれていなかったり、或いは所定の鉛フリーはんだのCu含有量よりも少なかったりするため、はんだ槽中のはんだのCu含有量を所定の鉛フリーはんだと略同一のCu含有量にすることができる。従って、本発明のはんだの供給方法で、はんだ槽にはんだを追加供給すれば、はんだ付けしたワークに熱損傷を与えるようなことがないばかりでなく、はんだ付け不良の発生も非常に少なくなるという従来にない優れた効果を奏するものである。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-01-09 |
出願番号 | 特願2000-25859(P2000-25859) |
審決分類 |
P
1
651・
531-
YA
(H05K)
P 1 651・ 532- YA (H05K) P 1 651・ 121- YA (H05K) P 1 651・ 111- YA (H05K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中川 隆司 |
特許庁審判長 |
神崎 潔 |
特許庁審判官 |
鈴木 法明 出口 昌哉 |
登録日 | 2002-05-31 |
登録番号 | 特許第3312618号(P3312618) |
権利者 | 千住金属工業株式会社 |
発明の名称 | はんだ槽へのはんだの追加供給方法 |
代理人 | 広瀬 章一 |
代理人 | 濱田 俊明 |
代理人 | 広瀬 章一 |