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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A41B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A41B
管理番号 1094743
異議申立番号 異議2002-71042  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-04-19 
確定日 2004-03-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第3222089号「パンツタイプ紙おむつ」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについてした異議の決定に対し、東京高等裁判所において決定取消の判決(確定済み。以下「本件判決」という。)があったので、さらに審理の上、次のとおり決定する。 
結論 特許第3222089号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許についての手続の経緯は、およそ次のとおりである。
(1)特許出願 平成2年5月23日(特願平2-133638号の分割出願)
(2)特許権の設定の登録 平成13年8月17日
(3)特許掲載公報の発行 平成13年10月22日
(4)鈴木康之より特許異議の申立て 平成14年4月19日
(5)取消理由通知書の発送 平成14年10月1日
(6)特許権者より特許異議意見書の提出及び訂正請求 平成14年12月2日
(7)異議の決定(訂正認容、申立てがあった請求項に係る特許の全部取消し) 平成15年1月21日
(8)前記決定の取消しの訴えの提起〔東京高等裁判所平成15年(行ケ)第77号〕 平成15年3月5日
(9)訂正審判の請求(訂正2003-39094) 平成15年5月14日
(10)前記訂正審判の請求の取下げ 平成15年10月28日
(11)再度の訂正審判の請求(訂正2003-39224) 平成15年10月23日
(12)前記訂正審判の審決(訂正認容) 平成15年12月11日(平成15年12月24日確定)
(13)本件判決の言渡(前記決定の全部取消し) 平成16年1月21日

2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明は、前記1の(12)の確定審決により、特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正が認容され請求項2が削除された明細書及び図面の記載から見て、明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認められるところ、その記載は次のとおりである。
【請求項1】
「透液性トップシートと不透液性バックシートの間に吸収体を有し、かつ脚回り部分にフラップ部分を有し、前身頃と後身頃の両側が固定されたパンツタイプの紙おむつであって、
前記前身頃両側部間及び前記後身頃両側部間よりそれぞれ幅狭の、製品紙おむつの股下部を有し、
前身頃の一方の側部から一方の脚回りに沿い、さらに製品紙おむつの股下部を巡って前記吸収体を横切り他方の脚回りに沿い前身頃の他方の側部に至る、製品の長手方向中心側に湾曲して設けられた複数本の糸ゴムからなる第1の弾性伸縮部材を有し、
後身頃の一方の側部から一方の脚回りに沿い、さらに製品紙おむつの股下部を巡って前記吸収体を横切り他方の脚回りに沿い後身頃の他方の側部に至る、製品の長手方向中心側に湾曲して設けられた複数本の糸ゴムからなる第2の弾性伸縮部材を有し、
前記股下部において前記第1の弾性伸縮部材と第2の弾性伸縮部材とは交差せず離間しており、股下部において前記第1の弾性伸縮部材と第2の弾性伸縮部材との離間距離が3cm以下であり、
前記バックシートは、第1のバックシートと裏面を構成する不織布からなる第2のバックシートからなり、これらの間に前記第1の弾性伸縮部材及び第2の弾性伸縮部材が固定されていることを特徴とするパンツタイプ紙おむつ。」

3 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人は、後記の証拠方法を提出し、要旨次の申立て理由(ア)及び(イ)により、請求項1及び2に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。なお、甲第2号証は、本件分割出願の原出願である特願平2-133638号出願に係る公開特許公報である。
(ア)本件特許出願は、明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に不備があるから、旧特許法第36条第3項又は第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない。
(イ)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。仮に、特許請求の範囲における「弾性伸縮部材」が「湾曲した弾性伸縮部材」に訂正されたとしても、その点は甲第3号証刊行物に記載されており、そのような訂正後の発明も、甲第1及び3号証の各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第2
9条第2項の規定により特許を受けることができない。
(証拠方法)
甲第1号証:特開昭62-21802号公報(以下「刊行物1」という。)
甲第2号証:特開平4-28364号公報
甲第3号証:特開昭57-117602号公報(以下「刊行物2」という。)

4 特許異議の申立ての理由についての判断
(1)申立て理由(ア)について
(1-1)特許異議申立人は、申立て理由(ア)において、具体的には、要旨次のように主張している。
「本件特許出願の原出願に係る甲第2号証3頁右上欄第12〜17行の『排尿口は、男子の場合前身頃の長手方向中心から約1/3の個所、女子の場合にはほぼ中心部であるが、本発明者は、前身頃の脚回り部分に弾性伸縮部材が存在すれば脚回りからの横漏れを防止できることを知見した。逆に、後身頃側の弾性伸縮部材については必須でない。』旨の記載から見ても、おむつの脚回りに形成されるギャザーは、男女の排尿口の位置に対応させて『脚回りからの漏れ防止効果』を奏するために、特に中央部から前身頃側にかけて連続して形成されることが必須であるところ、請求項1に係る発明では、第1及び第2の弾性伸縮部材が吸収体を横切る位置は前身頃側でも後身頃側でも良いから、それらが吸収体を横切る位置が前身頃側の場合、両者には最大3cmの離間距離があり、男子の排尿口に対応する前身頃側の脚回りに形成されるギャザーに不連続部分が生じて、ここからの横漏れが発生し得る。そうすると、脚回りからの漏れ防止のためには、両弾性伸縮部材が吸収体を横切る位置は、中央から後身頃側寄りに偏って配置されることが必要であって、請求項2に係る発明の『第1の弾性伸縮部材の股下部が製品の長手方向中心より後身頃方向に延在している』との要件は、脚回りからの漏れ防止という効果を奏するためには、請求項1に係る発明においても必須であるから、これを欠く請求項1に係る発明は、旧特許法第36条第4項第2号の規定を満たさない。また、本件特許明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明においては、『股下』なる用語意味が不明瞭であるため、請求項1及び2に係る発明にいう『股下部』がどこを指すものか不明確であり、本件特許発明を容易に実施することができないから、本件明細書は旧特許法第36条第3項に規定を満たさない。」
(1-2)しかし、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の主たる目的は、連続大量生産に適し、かつ脚回りからの漏れ防止効果が高く、しかも特に製品の外観が優れたものとすることにあり(本件明細書段落【0007】参照)、本件発明においては、これらの目的がバランスよく達成できる範囲内で具体的に個々の構成要件を組み合わせて実施することができればよいから、同発明が、「第1の弾性伸縮部材の股下部が製品の長手方向中心より後身頃方向に延在している」を必須の構成要件とするものとはいえない。
また、前記訂正審判による訂正により、本件発明にいう「製品紙おむつの股下部」とは、「前記前身頃両側部間及び前記後身頃両側部間よりそれぞれ幅狭の、製品紙おむつの股下部」のことであることが明らかとなり、これは、その後の、「前身頃の一方の側部から一方の脚回りに沿い、・・・第2の弾性伸縮部材を有し」との規定から見て、各弾性伸縮部材が、各身頃の左右両側部から巡って製品紙おむつの長手方向中心側に湾曲して設けられる一定の領域であるところの、製品としての紙おむつにおいて各身頃の左右両側部間に当たる部分より下方全体にわたって存在する、これら両側部間の間隔よりそれぞれ幅狭となっている部分〔これは、製品となる前の紙おむつの展開図(図1参照)では、長手方向中央部のくびれ部分全体に相当する。〕を意味するものと認められるから、本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明における「製品紙おむつの股下部」という用語の意味は明確である。なお、請求項2は削除され、同請求項についての特許異議申立人の指摘は該当しないものとなった。
したがって、本件明細書の記載に不備はない。

(2)申立て理由(イ)について
申立てに係る請求項2は訂正により削除されたので、以下請求項1に係る本件発明についてのみ判断する。
(2-1)刊行物1及び2の記載内容
(2-1-1)刊行物1(特開昭62-21802号公報)には、次の1a〜1jの事項ほかが図面(第1〜4図)とともに記載されている。
1a (特許請求の範囲の第1項)「パンツ本体が、着用者の肌に接する透水性トップシートと、該トップシートと反対側に位置する不透水性バックシートと、該両シートの間に介在する吸収性コアと、ウエストバンドと一対のレッグホールとにそれぞれ有する伸縮部材とを含み、次の事項を備えることを特徴とする使い捨て吸収性パンツ。
a.前記パンツ本体がクロッチを中心として折り返されて対向側縁が接合されていること。
b.前記吸収性コアが前記パンツ本体の前後側領域にわたって連続するとともに前記クロッチ領域が狭く形成されていること。
c.前記ウエストバンドと前記一対のレッグホールとの前記各伸縮部材がそれぞれ前記トップシートと前記バックシートとの間に伸長下に接着されていること。」
1b (2頁右下欄7〜16行)「前記パンツの構成部材としては、従来の使い捨ておむつに使用されているようなもの、たとえば、(中略)前記バックシートとしてはプラスチックフィルム・防水加工繊維不織布、(中略)前記伸縮部材としては糸状またはリボン状のゴム・比較的広幅の発泡体・熱可塑性にして熱処理によって伸縮性を示すプラスチックフィルムをそれぞれ利用しうる。」
1c (3頁左上欄9〜末行)「第1図において、パンツ本体1はその全体を符号1で示してある。パンツ本体1は、一方の被覆シートである縦長方形の透水性トップシート2と、他方の被覆シートである同型の不透水性バックシート3と、吸収性コア4と、ウエストバンド用伸縮部材5a,5bと、一対のレッグホール用伸縮部材6a,6b,6c,6dとを含む。トップシート2には不織布、バックシート3にはプラスチックフィルム、吸収性コアにはフラッフパルプのマット状体とその上下面に配置した吸水紙、伸縮部材5a,5b,6a,6b,6c,6dには比較的広幅(10〜30mm)のウレタンホームを、それぞれ使用してある。」
1d (3頁右上欄3〜8行)「また、バックシート3の上面の横方向の仮想折り返し線Xを境として縦方向に若干の間隔をおいて対向し、かつ横方向対向側縁間の中央領域を残す対向領域には、伸縮部材6a,6b,6c,6dを伸張下にホットメルト型接着剤によってそれぞれ接着してある。」
1e (3頁右上欄16行〜左下欄3行)「さらに、これら伸縮部材と吸収性コアとを接着したバックシート3の上面には、これと同形同大のトップシート2をホットメルト型接着剤によって接着してあり、この場合、トップシート2は、その周縁と、伸縮部材伸縮部材,6a,6cと6b,6dとの間の領域とにおけるバックシート3との間をシールし、かつ、吸収性コア4とも接合するように接着してある。」
1f (3頁左下欄4〜11行)「このように積層して形成したパンツ本体1は、トップシート2とバックシート3とを、仮想折り返し線X上において、吸収性コア4の中央領域の対向側縁から若干外向へ間隔をおいた位置からトップシート2とバックシート3の対向外側縁までの間を直線7に切断してある。この切断は、第1図中二点鎖線で示すように、横方向に長い楕円形8になされてもよい。」
1g (3頁右下欄3〜9行)「第3図には他の実施例を示してあり、この実施例においては、第1図に示す実施例の伸縮部材6aと6c,6bと6dをそれぞれ連続した状態に相当する長い伸縮部材11a,11bを使用し、これらを一点鎖線で方形に囲んで示す領域12においてだけ接着してあり、その他の構成は第1図に示す実施例と実質的に同じである。」
1h (3頁右下欄10〜17行)「第4図にはさらに他の実施例を示してあり、この実施例においては、前記伸縮部材6a,6b,6c,6dまたは前記伸縮部材11a,11bを一つに連続した状態に相当する長くて広幅の伸縮部材13を使用し、第1図に示す実施例の前記切断7を伸縮部材13とともになし、これを一点鎖線で方形に囲んで示す領域14においてだけ接着してあり、その他の構成は第1図に示す実施例と実質的に同じである。」
1i (4頁左上欄4〜10行)「また、第3図・第4図に示す実施例において、前記11a,11b,13は一点鎖線で囲んで示す領域12,14においてだけ接着されていることをそれぞれ述べたが、(中略)それらの接着は横方向に連続してもよい。」
1j (4頁左上欄11〜19行)「なおまた、図示例の切り込み線7は、仮想折り返し線X、すなわち、パンツ本体1の縦方向長さの中心(1/2)の位置にあるが、着用者の臀部が位置する領域(後身頃)をその腹部が位置する領域(前身頃)よりも広く形成するなどの理由から、仮想折り返し線Xよりもその腹部側に偏倚して位置するように設けてもよく、この場合には、当然のことながら、伸縮部材6a,6b,6c,6d,11a,11b,13も、そのように位置することはいうまでもないし、」
刊行物1の前記1gによれば、第3図(展開平面図)のものの実施例では、その他の構成は第1図(展開平面図)に示すものの実施例と実質的に同じであるところ、
(i)第1図に関する前記1fの「このように積層して形成したパンツ本体1は、トップシート2とバックシート3とを、仮想折り返し線X上において、吸収性コア4の中央領域の対向側縁から若干外方向へ間隔をおいた位置からトップシート2とバックシート3の対向外側縁までの間を直線7に切断してある。」との記載によれば、当該切断によって、第3図記載のパンツ本体1がクロッチを中心として折り返され対向側縁が接合されて形成された使い捨て吸収性パンツには、レッグホール10a,10bが形成されること。
(ii)第1図に関する前記1dの「バックシート3の上面の横方向の仮想折り返し線Xを境として縦方向に若干の間隔をおいて対向し、かつ横方向対向側縁間の中央領域を残す対向領域には、伸縮部材6a,6b,6c,6dを伸張下にホットメルト型接着剤によってそれぞれ接着してある。」との記載によれば、前記(i)で形成された使い捨て吸収性パンツのレッグホール10a,10bの周囲にはフラップ部分が形成されること及び伸縮部材11aと伸縮部材11bとはそれぞれ製品パンツのクロッチ領域において交差していないこと。
がそれぞれ理解される。
そこで、刊行物1の前記1a〜1iの記載事項を第1〜4図(便宜的に、第1図における仮想折り返し線Xより上方を前身頃、下方を後身頃とする。)を参照しながら総合すると、同刊行物には次の「発明A」が記載されていると認められる。
なお、ここで、「クロッチ」とは、刊行物1の4頁右上欄12行に「前記一対のレッグホール間、すなわち、クロッチ」との記載があることや「仮想折り返し線X」とクロッチの位置が一致することから見て、左右のレッグホールの各内縁を結ぶ部分(着用者の股下に当接する部分)を意味する用語と認められる。
【発明A】
「着用者の肌に接する透水性トップシート2と、該トップシート2と(着用者の肌と)反対側に位置する不透水性バックシート3との間に吸収性コア4を有し、かつレッグホール10a,10b周囲にフラップ部分を有し、クロッチを中心として折り返されて前身頃と後身頃の対向側縁が接合された使い捨て吸収性パンツであって、
前身頃の一方の側縁からレッグホール10a周囲に沿い、さらに製品パンツのクロッチ付近を巡って吸収性コア4を横切りレッグホール10b周囲に沿い前身頃の他方の側縁に至る、全長にわたって略直線状に設けられた伸縮部材11aを有し、
後身頃の一方の側縁からレッグホール10a周囲に沿い、さらに製品パンツのクロッチ付近を巡って吸収性コア4を横切りレッグホール10b周囲に沿い後身頃の他方の側縁に至る、全長にわたって略直線状に設けられた伸縮部材11bを有し、
製品パンツのクロッチ付近において伸縮部材11aと伸縮部材11bとは交差せず離間しており、
不透水性バックシート3は、プラスチックフィルムや防水加工繊維不織布からなり、透水性トップシート2と不透水性バックシート3との間に伸縮部材11a及び伸縮部材11bが接合されている使い捨て吸収性パンツ。」
(2-1-2)刊行物2(特開昭57-117602号公報)の主として特許請求の範囲、2頁右上欄2〜6行、4頁右上欄10〜14行、4頁右下欄11〜14行等の記載を図面(第1〜6図)を参照しながら総合すると、同刊行物には次の2aの事項が記載されていると認められる。そして、第2〜3図には、弾性部材が使い捨ておしめブリーフの上下方向に直線状及び円弧状に付設される様子が示されている。
2a 「使い捨ておしめブリーフにおいて、足開口部の外周部を湾曲凹弧状とし、当該外周部に延伸状態で弧状に弾性部材を付設すること。」

(2-2)対比判断
(2-2-1)前認定のとおり、本件発明において、「前記前身頃両側部間及び前記後身頃両側部間よりそれぞれ幅狭の、製品紙おむつの股下部」とは、各弾性伸縮部材が、各身頃の左右両側部から巡って製品紙おむつの長手方向中心側に湾曲して設けられる一定の領域であるところの、製品としての紙おむつにおいて各身頃の左右両側部間に当たる部分より下方全体にわたって存在する、これら両側部間の間隔よりそれぞれ幅狭となっている部分〔これは、製品となる前の紙おむつの展開図(図1参照)では、長手方向中央部のくびれ部分全体に相当する。〕を意味するものである。
(2-2-2)そこで、本件発明と発明Aとを対比すると、発明Aにいう
「着用者の肌に接する透水性トップシート2」、「該トップシート2と(着用者の肌と)反対側に位置する不透水性バックシート3」、「吸収性コア4」、「レッグホール10a,10b周囲」、「クロッチを中心として折り返されて前身頃と後身頃の対向側縁が接合された」、「使い捨て吸収性パンツ」、「製品パンツ」、「側縁」、「レッグホール10a周囲」、「レッグホール10b周囲」、「伸縮部材11a」、「伸縮部材11b」、「接合されている」は順に、本件発明にいう
「透液性トップシート」、「不透液性バックシート」、「吸収体」、「脚回り部分」、「前身頃と後身頃の両側が固定された」、「パンツタイプの紙おむつ」又は「パンツタイプ紙おむつ」、「製品紙おむつ」又は単に「製品」、「側部」、「一方の脚回り」、「他方の脚回り」、「第1の弾性伸縮部材」、「第2の弾性伸縮部材」、「固定されている」に相当すると認められる。
さらに、発明Aにいう「クロッチ」とは、前認定のとおり、左右のレッグホールの各内縁を結ぶ部分(着用者の股下に当接する部分)を意味する用語であり、また、本件発明にいう「製品の長手方向中心」とは、製品紙おむつの一方の脚回りの下端内縁と他方の脚回りの下端内縁とを結ぶ部分〔着用者の股下に当接する部分。これは、製品となる前の紙おむつの展開図(図1参照)では、長手方向中心の部分に相当する。〕をいうものと解されるから、発明Aにいう「クロッチ」は、本件発明にいう「製品の長手方向中心(製品紙おむつの長手方向中心)」に相当すると認められる。
そして、発明Aの使い捨て吸収性パンツ(パンツタイプ紙おむつ)が、本件発明における前認定のような、「各弾性伸縮部材が、各身頃の左右両側部から巡って製品紙おむつの長手方向中心側に湾曲して設けられる一定の領域であるところの、製品としての紙おむつにおいて各身頃の左右両側部間に当たる部分より下方全体にわたって存在する、これら両側部間の間隔よりそれぞれ幅狭となっている部分〔製品となる前の紙おむつの展開図(図1参照)では、長手方向中央部のくびれ部分全体〕」という意味での、前身頃両側部間及び後身頃両側部間よりそれぞれ幅狭である「製品紙おむつの股下部」を有するものでないことは明らかである。
そうすると、本件発明と発明Aとは、次の一致点で一致し、相違点1〜4で相違すると認められる。
【一致点】
「透液性トップシートと不透液性バックシートの間に吸収体を有し、かつ脚回り部分にフラップ部分を有し、前身頃と後身頃の両側が固定されたパンツタイプの紙おむつであって、
前身頃の一方の側部から一方の脚回りに沿い、前記吸収性体を横切り他方の脚回りに沿い前身頃の他方の側部に至る、第1の弾性伸縮部材を有し、
後身頃の一方の側部から一方の脚回りに沿い、前記吸収性体を横切り他方の脚回りに沿い後身頃の他方の側部に至る、第2の弾性伸縮部材を有し、
前記第1の弾性伸縮部材と第2の弾性伸縮部材とは交差せず離間しているパンツタイプ紙おむつ。」
【相違点1】
本件発明では、前身頃両側部間及び後身頃両側部間よりそれぞれ幅狭の、製品紙おむつの股下部を有し、第1及び第2の弾性伸縮部材はそれぞれ、製品紙おむつの股下部を巡って吸収体を横切り、かつ、製品の長手方向中心側に湾曲して設けられるとするのに対し、発明Aでは、そのような製品紙おむつの股下部を有さず、したがってまた、第1及び第2の弾性伸縮部材はそれぞれ、単に、製品の長手方向中心付近を巡って吸収体を横切り、かつ、全長にわたって略直線状に設けられる点。
【相違点2】
本件発明では、第1の弾性伸縮部材及び第2の弾性伸縮部材について、複数本の糸ゴムからなる第1の弾性伸縮部材及び複数本の糸ゴムからなる第2の弾性伸縮部材であるとするのに対し、発明Aでは、それに言及しない点。
【相違点3】
本件発明では、製品紙おむつの股下部において第1の弾性伸縮部材と第2の弾性伸縮部材とは交差せず離間しており、股下部において第1の弾性伸縮部材と第2の弾性伸縮部材との離間距離が3cm以下であるとするのに対し、発明Aでは、製品紙おむつの長手方向中心付近において第1の弾性伸縮部材と第2の弾性伸縮部材とは交差せず離間しているものの、その離間距離に言及しない点。
【相違点4】
本件発明では、不透液性バックシートは、第1のバックシートと裏面を構成する不織布からなる第2のバックシートからなり、これらの間に第1の弾性伸縮部材及び第2の弾性伸縮部材が固定されているとするのに対し、発明Aでは、不透液性バックシートは、プラスチックフィルムや防水加工繊維不織布からなるものの、透液性トップシートと不透液性バックシートとの間に第1の弾性伸縮部材及び第2の弾性伸縮部材が固定されている点。
(2-2-3)先ず、相違点1について検討する。
パンツタイプ紙おむつにおいて、前身頃両側部間及び後身頃両側部間よりそれぞれ幅狭の、製品紙おむつの股下部を有するものとすること自体は、例えば刊行物2の前記2aの記載事項にもあるように、本件出願前に当業界において周知であるが、この周知技術においては、弾性伸縮部材は、製品紙おむつの股下部を巡って吸収体を横切り、かつ、製品の長手方向中心側に湾曲して設けられるものではない。
したがって、このような周知技術を勘案しても、相違点1をなす「前身頃両側部間及び後身頃両側部間よりそれぞれ幅狭の、製品紙おむつの股下部を有し、第1及び第2の弾性伸縮部材は、それぞれ、製品紙おむつの股下部を巡って吸収体を横切り、かつ、製品の長手方向中心側に湾曲して設けられる」とする構成は、当業者に容易に想到されない。
一方、本件発明では、当該構成を採用することによって、相違点4をなす「第1のバックシートと裏面を構成する不織布からなる第2のバックシートとの間に第1の弾性伸縮部材及び第2の弾性伸縮部材が固定されている」とする構成と相まって、着用時、第1及び第2の弾性伸縮部材の弾性力により、着用者の股下に当接する吸収体を前身頃方向及び後身頃方向(つまり上部)に持ち上げて、吸収体を着用者に対しフィットさせて漏れを防止する等の格別の作用効果を奏するものと認められる。
(2-2-4)してみると、その余の相違点2〜4について検討するまでもなく、本件発明は、刊行物1〜2に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認められない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-01-21 
出願番号 特願平9-134048
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A41B)
P 1 651・ 534- Y (A41B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 千葉 成就渕野 留香  
特許庁審判長 鈴木 公子
特許庁審判官 山崎 豊
杉原 進
登録日 2001-08-17 
登録番号 特許第3222089号(P3222089)
権利者 大王製紙株式会社
発明の名称 パンツタイプ紙おむつ  
代理人 永井 義久  

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