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審決分類 審判 訂正 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正する A61K
管理番号 1095345
審判番号 訂正2003-39257  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-02-02 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2003-12-03 
確定日 2004-02-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3402195号に関する訂正審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第3402195号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は,特許第3402195号(平成10年5月11日特許出願(特願平10-127510号),特許法第41条第1項の規定に基づく優先権主張:特願平9-124166号(平成9年5月14日出願),平成15年2月28日設定登録)に係る願書に添付した明細書を本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものである。すなわち,特許請求の範囲を,
「【請求項1】 フルオロメトロンとヒドロキシプロピルメチルセルロース,メチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースから選択される少なくとも1種の水溶性セルロース誘導体とを含有する水性懸濁液剤であって,水溶性セルロース誘導体の濃度が0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲内にあり,かつフルオロメトロンと水溶性セルロース誘導体の割合がフルオロメトロン1重量部に対し水溶性セルロース誘導体0.0005〜0.1重量部であるフルオロメトロン分散粒子の再分散性の良い水性懸濁液剤。
【請求項2】 水溶性セルロース誘導体がヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはメチルセルロースである請求項1記載の水性懸濁液剤。
【請求項3】 点眼剤である請求項1または2に記載の水性懸濁液剤。
【請求項4】 点鼻剤である請求項1または2に記載の水性懸濁液剤。
【請求項5】 フルオロメトロンとヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する水性懸濁点眼剤であって,ヒドロキシプロピルメチルセルロースが0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲内にあり,かつフルオロメトロンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの割合がフルオロメトロン1重量部に対しヒドロキシプロピルメチルセルロース0.0005〜0.1重量部であるフルオロメトロン分散粒子の再分散性の良い水性懸濁点眼剤。
【請求項6】 フルオロメトロンとメチルセルロースを含有する水性懸濁点眼剤であって,メチルセルロースが0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲内にあり,かつフルオロメトロンとメチルセルロースの割合がフルオロメトロン1重量部に対しメチルセルロース0.0005〜0.1重量部であるフルオロメトロン分散粒子の再分散性の良い水性懸濁点眼剤。
【請求項7】 フルオロメトロンとヒドロキシプロピルメチルセルロース,メチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースから選択される少なくとも1種の水溶性セルロース誘導体とを含有する水性懸濁液剤において,0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲内となるよう水溶性セルロース誘導体を添加し,かつフルオロメトロン1重量部に対し水溶性セルロース誘導体が0.0005〜0.1重量部の割合となるよう調製することにより水性懸濁液剤中のフルオロメトロン分散粒子の再分散性を良くする方法。
【請求項8】 フルオロメトロンの水性懸濁点眼剤において,ヒドロキシプロピルメチルセルロースが0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲内で,かつフルオロメトロン1重量部に対しヒドロキシプロピルメチルセルロースが0.0005〜0.1重量部の割合となるよう調製することにより水性懸濁点眼剤中のフルオロメトロン分散粒子の再分散性を良くする方法。
【請求項9】 フルオロメトロンの水性懸濁点眼剤において,メチルセルロースが0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲内で,かつフルオロメトロン1重量部に対しメチルセルロースが0.0005〜0.1重量部の割合となるよう調製することにより水性懸濁点眼剤中のフルオロメトロン分散粒子の再分散性を良くする方法。」
から,
「【請求項1】 フルオロメトロンとヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する水性懸濁点眼剤であって,ヒドロキシプロピルメチルセルロースが0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲内にあり,かつフルオロメトロンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの割合がフルオロメトロン1重量部に対しヒドロキシプロピルメチルセルロース0.0005〜0.1重量部であるフルオロメトロン分散粒子の再分散性の良い水性懸濁点眼剤。
【請求項2】 フルオロメトロンの水性懸濁点眼剤において,ヒドロキシプロピルメチルセルロースが0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲内で,かつフルオロメトロン1重量部に対しヒドロキシプロピルメチルセルロースが0.0005〜0.1重量部の割合となるよう調製することにより水性懸濁点眼剤中のフルオロメトロン分散粒子の再分散性を良くする方法。」
と訂正することを求めるものである。

2.当審の判断
上記訂正事項は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4,6,7及び9を削除するとともに,残った請求項5及び8に付された番号をそれぞれ請求項1及び2に付し直すものである。
このような訂正は,特許請求の範囲の一部の請求項全体をそのまま削除する点については「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり,また請求項の番号を付し直す点については,特許法第36条第6項第4号の規定に適合するように特許法施行規則第24条の2第2号の規定に従って連続番号とするためのものであるから,「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものである。
そして,当該訂正は,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

ところで,本件特許に係る出願の審査過程で出願人に通知された拒絶理由において引用された刊行物である特開平8-295622号公報,特開昭60-161915号公報,特開平4-288013号公報,特開平8-151332号公報及び特開平3-135924号公報には,そのいずれにもフルオロメトロンとヒドロキシプロピルメチルセルロースとを特定の割合で配合した再分散性の良い水性懸濁点眼剤は記載されていない。そして,本件訂正後の請求項1及び2に係る発明は,フルオロメトロンとヒドロキシプロピルメチルセルロースとを特定の割合で配合することにより訂正明細書に記載された格別の効果を奏することは明らかであるから,本件訂正後の請求項1及び2に係る発明は,上記いずれの刊行物に記載された発明であるとも,これらの刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるとも認められない。
そうすると,訂正後における特許請求の範囲の請求項1及び2にそれぞれ記載されている事項により特定される発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない発明ではない。

3.むすび
したがって,本件審判の請求は,特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし,かつ,同条第2項〜第4項の規定に適合するものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
再分散性の良い水性懸濁液剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】フルオロメトロンとヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する水性懸濁点眼剤であって、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲内にあり、かつフルオロメトロンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの割合がフルオロメトロン1重量部に対しヒドロキシプロピルメチルセルロース0.0005〜0.1重量部であるフルオロメトロン分散粒子の再分散性の良い水性懸濁点眼剤。
【請求項2】フルオロメトロンの水性懸濁点眼剤において、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲内で、かつフルオロメトロン1重量部に対しヒドロキシプロピルメチルセルロースが0.0005〜0.1重量部の割合となるよう調製することにより水性懸濁点眼剤中のフルオロメトロン分散粒子の再分散性を良くする方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、再分散性の良い水性懸濁液剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】水に難溶性の薬物を点眼、点鼻および注射剤などに製剤化する場合、薬物を懸濁させた水性懸濁液剤とすることが考えられる。このような水性懸濁液剤は長時間放置すると、分散粒子である薬物(以下、単に分散粒子という場合もある)が凝集し分散粒子が大きくなったり、分散粒子が沈降し、沈降した分散粒子がケーキングなどの2次凝集を起こすので、できるだけ分散粒子の凝集や沈降を防いだり、また、凝集や沈降を防ぐことができなくても、容易に元の懸濁状態に戻るような懸濁液剤を得るよう努力が払われてきた。
【0003】その一つの方法として、分散粒子を小さくし、分散粒子と分散媒との比重を小さくし、分散媒の粘度を大きくすることで粒子の沈降を防ぐことが考えられてきた。かかる場合、分散媒の粘度を大きくするため水溶性高分子などの懸濁化剤および/または粘稠剤の濃度は0.2〜5.0w/v%の範囲で調製されるのがふつうであった。しかし、懸濁化剤および/または粘稠剤がこれらの濃度範囲内でも、粒子の沈降を完全に防ぐことはできず、分散粒子が沈降、沈積してケーキングを起こし均一に再分散しないことが問題となっていた。
【0004】他の方法として、薬物の粒子サイズを大きくし再分散性を良くする方法が考えられるが、点眼剤では粒子サイズが大きくなると点眼時に違和感や眼刺激を生じ、また、点鼻剤では粒子サイズが大きいと噴霧容器から噴霧できない。さらに、注射剤では注射針を通して投与できないなどの欠点があった。
【0005】近年、有用な薬効を発揮する医薬品の中には難溶性の薬物も多く、点眼剤、点鼻剤、注射剤などの水性液剤として供給するためには、水性懸濁液剤を用いざるを得ない場合も多くなってきた。しかし、これまでの水性懸濁液剤は再分散性に問題があり、長時間振盪分散しなければ均一な濃度の液剤とすることが困難な場合も多く、容易に調製できる再分散性の良い水性懸濁液剤が要望されていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は分散粒子の凝集やケーキングを起こさない再分散性の良い水性懸濁液剤を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】そこで発明者らは上記問題を解決するため、鋭意研究を重ねたところ、水性懸濁液剤の表面張力と再分散性の間に一定の関係が存在することを見いだし本発明を完成した。すなわち、本発明は、液剤の表面張力が低下をはじめる濃度から表面張力の低下が停止する濃度範囲内の水溶性高分子と、難溶性薬物を含有してなる水性懸濁液剤に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】後記する実験例1に示すように、液剤に水溶性高分子を添加していくと、液剤は表面張力の低下をはじめ、さらに添加を続けると表面張力の低下は停止し、ほぼ一定の表面張力を保つようになる。逆に水性懸濁液剤の分散粒子は、水溶性高分子を添加し、液剤の表面張力が低下しはじめる時点から再分散性が良好となり、表面張力の低下が停止するまでその良好な再分散性は維持される。その後表面張力の低下が停止し一定の表面張力を保つようになると、分散粒子の再分散性は徐々に悪化するようになる。水溶性高分子が全く入っていない場合には分散粒子が凝集し液表面に浮遊するため均一な懸濁液剤を調製することができない。
【0009】液剤の表面張力が低下をはじめる水溶性高分子の濃度および液剤の表面張力の低下が停止する水溶性高分子の濃度は、通常、水性懸濁液剤に使用される難溶性薬物の含有量に応じ増加するが、難溶性薬物の物性、化学的構造、濃度、粒子径などにより異なる。また、液剤の表面張力が低下をはじめる水溶性高分子の濃度および液剤の表面張力の低下が停止する水溶性高分子の濃度は、水溶性高分子の種類によっても異なるが、液剤の表面張力が低下をはじめる水溶性高分子の濃度は、通常0.00001〜0.01w/v%、とりわけ0.00005〜0.005w/v%であり、液剤の表面張力の低下が停止する水溶性高分子の濃度は、通常0.0001〜0.1w/v%、とりわけ0.001〜0.01w/v%である。本発明の水性懸濁液剤の水溶性高分子は通常、0.00001〜0.1w/v%、好ましくは0.00005〜0.05w/v%、より好ましくは0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲内で調製されうる。水溶性高分子と難溶性薬物の割合は、難溶性薬物1重量部に対して通常、0.0001〜0.2重量部、好ましくは0.0005〜0.1重量部、より好ましくは0.0005〜0.05重量部である。
【0010】本発明で使用される水溶性高分子は、薬学的に使用される水溶性高分子であれば種類は問わず使用できるが、中でも水溶性セルロース誘導体および水溶性ポリビニル系高分子が好適に使用できる。水溶性セルロース誘導体としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられ、とりわけヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースが好ましい。水溶性ポリビニル系高分子としては、例えばポリビニルピロリドンK25、ポリビニルピロリドンK30、ポリビニルピロリドンK90、ポリビニルアルコール(部分けん化物、完全けん化物)などが挙げられる。
【0011】本発明に使用される難溶性薬物は、日本薬局方にいう溶解性を示す用語の「やや溶けにくい」、「溶けにくい」、「極めて溶けにくい」および「ほとんど溶けない」の何れの溶解性を示すものでもよく、最終処方の形態としたときに水性懸濁液剤として提供されるもの全てが含まれる。
【0012】本発明に使用される難溶性薬物の具体的な例としては、例えばステロイド性抗炎症剤、消炎鎮痛剤、化学療法剤、合成抗菌剤、抗ウイルス剤、ホルモン剤、抗白内障剤、血管新生抑制剤、免疫抑制剤、プロテアーゼ阻害剤、アルドース還元酵素阻害剤などが挙げられる。ステロイド性抗炎症剤としては、例えば酢酸コルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、ベタメサゾン、プレドニゾロン、プロピオン酸フルチカゾン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、ロテプレドノール、フルオロメトロン、ジフルプレドナート、フランカルボン酸モメタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、酢酸ジフロラゾン、吉草酸ジフルコルトロン、フルオシノニド、アムシノニド、ハルシノニド、フルオシノロンアセトニド、トリアムシノロンアセトニド、ピバル酸フルメタゾン、酪酸クロベタゾンなどが挙げられる。消炎鎮痛剤としては、例えばアルクロフェナク、アルミノプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、エピリゾール、オキサプロジン、ケトプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、ジフルニサル、ナプロキセン、ピロキシカム、フェンブフェン、フルフェナム酸、フルルビプフェン、フロクタフェニン、ペンタゾシン、メチアジン酸、メフェナム酸、モフェゾラクなどが挙げられる。化学療法剤としては、例えばサラゾスルファピリジン、スルファジメトキシン、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、スルファメトピラジン、スルファモノメトキシンなどのサルファ剤、エノキサシン、オフロキサシン、シノキサシン、スパルフロキサシン、チアンフェニコール、ナリジクス酸、トシル酸トスフロキサシン、ノルフロキサシン、ピペミド酸三水和物、ピロミド酸、フレロキサシン、レボフロキサシンなどの合成抗菌剤、アシクロビル、ガンシクロビル、ジダノシン、ジドブジン、ビタラビンなどの抗ウイルス剤、イトラコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、フルシトシン、ミコナゾール、ピマリシンなどの抗真菌剤が挙げられる。ホルモン剤としては、例えばインスリン亜鉛、プロピオン酸テストステロン、安息香酸エストラジオールなどが挙げられる。抗白内障薬としては、例えばピレノキシンなどが挙げられる。血管新生抑制剤としては、例えばフマギリンおよびその誘導体などが挙げられる。免疫抑制剤としては、例えばシクロスポリン、ラパマイシン、タクロリムスなどが挙げられる。プロテアーゼ阻害剤としては、例えば〔L-3-トランス-エトキシカルボニルオキシラン-2-カルボニル〕-L-ロイシン(3-メチルブチル)アミド(E-64-d)などが挙げられる。アルドース還元酵素阻害剤としては、例えば5-(3-エトキシ-4-ペンチルオキシフェニル)チアゾリジン-2,4-ジオンなどが挙げられる。
【0013】本発明に使用される難溶性薬物の濃度は使用する薬物の種類、用途、用法などにより異なるが、通常0.01〜10.0w/v%、好ましくは0.1〜5.0w/v%である。
【0014】本発明の水溶性懸濁液剤は表面張力に変化を与えない範囲で難溶性薬物および水溶性高分子のほかに緩衝剤(炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩、グルタミン酸、クエン酸塩、ε-アミノカプロン酸など)、等張化剤(グリセリン、マンニトール、ソルビトール、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ホウ酸など)、安定化剤(エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなど)、界面活性剤〔ポリソルベート80、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油、チロキサポール、塩化ベンザルコニウムなど〕、保存剤(パラオキシ安息香酸エステル類、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノールなど)、pH調整剤(塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸など)、その他の添加剤など公知の化合物を適宜添加してもよい。
【0015】なお、水性懸濁液剤の表面張力に影響を与えるような添加剤、例えば界面活性剤などを使用する場合には、界面活性剤を配合する前に表面張力を測定し、水溶性高分子濃度を決定した後に界面活性剤を添加することが好ましい。本発明の水性懸濁液剤のpHは特に限定されるものではないが、通常4〜9、好ましくは5〜8であり、水性懸濁液剤の目的とするpHで表面張力を決定するのが好ましい。
【0016】本発明の水性懸濁液剤は点眼剤、点鼻剤、注射剤、内服剤およびローション剤などとして好適に利用できる。
【0017】本発明を以下の試験例および実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0018】試験例1.表面張力と再分散性試験〔方法〕懸濁化剤を0.000001〜0.5w/v%の濃度範囲となる溶液を調製し、被検薬を添加し水性懸濁液剤とした。それぞれの水性懸濁液剤の表面張力をディヌーイ式表面張力計K122(クラス社製)を用いて測定した。ついで5mlの無色ポリプロプレン容器に充填し、25℃で4日間静置後、容器をバリアブルミックスローターVMR-5(60rpm,井内社製)で回転(60回転/分)させ、再分散するまでの時間を測定した。また、肉眼により分散粒子の状態を観察した。懸濁化剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース〔メトローズ60SH(TC-5E);信越化学工業株式会社製、以下HPMCと略記する〕、メチルセルロース(メトローズSM-25;信越化学工業株式会社製、以下MCと略記する)、ポリビニルピロリドン(K30;BASF社製、以下PVPと略記する)を使用した。被検薬は、フルオロメトロン0.05w/v%、0.1w/v%、インドメタシン0.2w/v%、1.0w/v%を使用した。
【0019】〔結果〕
フルオロメトロン0.1w/v%懸濁液における表面張力と再分散時間におよぼすHPMCの濃度の関係フルオロメトロン0.1w/v%懸濁液における表面張力と再分散性の関係を図1に示す。HPMCが0.0001w/v%から表面張力が低下し0.01w/v%で表面張力の低下がほぼ停止した。一方、HPMCが0.000005〜0.0001w/v%では再分散に要する時間は2秒であったが、分散粒子が凝集、浮遊し、均一な懸濁液剤とならなかった。HPMCが0.0001〜0.01w/v%では再分散に要する時間は4秒以下で、すみやかに再分散し、分散粒子の凝集も認められず、均一な懸濁液剤となった。またHPMCが0.01w/v%以上では再分散に要する時間は5秒以上となり、再分散性が悪化することが判明した。HPMCとフルオロメトロンの好適な割合は、フルオロメトロン1重量部に対して、0.001〜0.1重量部であった。
【0020】(2)フルオロメトロン0.05w/v%懸濁液における表面張力におよぼすHPMCの濃度の関係HPMCが0.0001w/v%(表面張力;65.1mN/m)から表面張力が低下し0.002w/v%(表面張力;50.5mN/m)で表面張力の低下がほぼ停止した。当該濃度範囲でのフルオロメトロンの再分散時間は約6秒で、分散状態は良好であった。HPMCとフルオロメトロンの好適な割合は、フルオロメトロン1重量部に対して、0.002〜0.04重量部であった。
【0021】(3)フルオロメトロン0.1w/v%懸濁液における表面張力と再分散時間におよぼすMCの濃度の関係MCが0.0001w/v%以下の濃度では表面張力が72.5mN/mでほぼ一定であった。MCが0.0001w/v%から表面張力が低下し、0.01w/v%での表面張力は54.5mN/mとなり、表面張力の低下がほぼ停止した。一方、MCが0.0001w/v%以下の濃度では再分散に要する時間は2秒以下であったが、分散粒子が凝集、浮遊し、均一な懸濁液剤とならなかった。MCが0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲では、再分散に要する時間は9〜10.7秒で、速やかに均一に分散し、分散粒子の凝集は認められなかった。また、MCが0.01w/v%以上の濃度では再分散に要する時間は20秒近くとなり、再分散性が悪化することが判明した。MCとフルオロメトロンの好適な割合は、フルオロメトロン1重量部に対して、0.001〜0.1重量部であった。
【0022】(4)インドメタシン0.2w/v%懸濁液における表面張力と再分散時間におよぼすHPMCの濃度の関係HPMCが0.0001w/v%以下の濃度では表面張力が72mN/mでほぼ一定であった。HPMCが0.0001w/v%から表面張力が低下し、0.01w/v%での表面張力は48mN/mとなり、表面張力の低下がほぼ停止した。一方、HPMCが0.0001w/v%以下の濃度では再分散に要する時間は7秒以下であったが、分散粒子が凝集、浮遊し、均一な懸濁液剤とならなかった。HPMCが0.0001〜0.01w/v%の濃度範囲では、再分散に要する時間は6.3〜8.3秒で、速やかに均一に分散し、分散粒子の凝集は認められなかった。また、HPMCが0.01w/v%以上の濃度では再分散に要する時間は12秒以上となり、再分散性が悪化することが判明した。HPMCとインドメタシンの好適な割合は、インドメタシン1重量部に対して、0.0005〜0.05重量部であった。
【0023】(5)インドメタシン1.0w/v%懸濁液における表面張力と再分散時間におよぼすHPMCの濃度の関係HPMCが0.0005w/v%以下の濃度では表面張力が72.73mN/mでほぼ一定であった。HPMCが0.0005w/v%から表面張力が低下し、0.005w/v%での表面張力は49.7mN/mとなり、表面張力の低下がほぼ停止した。一方、HPMCが0.0005w/v%以下の濃度では再分散に要する時間は7秒以下であったが、分散粒子が凝集、浮遊し、均一な懸濁液剤とならなかった。HPMCが0.0005〜0.005w/v%の濃度範囲では、再分散に要する時間は7.3〜16秒で、速やかに均一に分散し、分散粒子の凝集は認められなかった。また、HPMCが0.005w/v%以上の濃度では再分散に要する時間は20秒以上となり、再分散性が悪化することが判明した。HPMCとインドメタシンの好適な割合は、インドメタシン1重量部に対して、0.0005〜0.005重量部であった。
【0024】(6)フルオロメトロン0.05w/v%懸濁液における表面張力におよぼすPVPの濃度の関係PVPが0.0002w/v%(表面張力;72.3mN/m)から表面張力が低下し0.001w/v%(表面張力;69.5mN/m)で表面張力の低下がほぼ停止した。PVPとフルオロメトロンの好適な割合は、フルオロメトロン1重量部に対して、0.004〜0.02重量部であった。
【0025】(7)フルオロメトロン0.1w/v%懸濁液における表面張力におよぼすPVPの濃度の関係PVPが0.0003w/v%以下の濃度では表面張力が72.5mN/mでほぼ一定であった。PVPが0.0003w/v%から表面張力が低下し、0.002w/v%での表面張力は69.5mN/mとなり、表面張力の低下がほぼ停止した。当該濃度範囲でのフルオロメトロンの再分散時間は約6秒で、分散状態は良好であった。また、PVPが0.002w/v%以上の濃度では再分散に要する時間は18秒以上となり、再分散性が悪化することが判明した。PVPとフルオロメトロンの好適な割合は、フルオロメトロン1重量部に対して、0.003〜0.02重量部であった。
【0026】以上の結果から、水性懸濁液剤の表面張力は、添加する水溶性高分子の種類、難溶性薬物の種類および濃度により異なるが、水溶性高分子の種類に関係なく、表面張力が低下をはじめる水溶性高分子の濃度から表面張力の低下が停止する濃度範囲内において、難溶性薬物の再分散の良好な懸濁液剤を調製できることが分かった。
【0027】試験例2.苛酷条件での再分散性試験〔方法〕後記する実施例2および4の点眼剤を調製し、5mlのポリプロピレン容器に充填した。200Gで10分間遠心して懸濁粒子を沈降させた後、容器をバリアブルミックスローターVMR-5(60rpm、井内社製)で回転(60回転/分)させ、再分散するまでの時間を測定した。〔結果〕実施例2および4の点眼剤の再分散時間は、各々4および7秒であった。肉眼観察における再分散後の懸濁液剤は、微細な粒子が均一に分散していた。以上の結果は、本発明の水性懸濁液剤は、懸濁粒子を遠心器で強制沈降させるという苛酷な条件のもとにおいても再分散性に影響を与えず、また、緩衝剤や保存剤の影響を受けないことが分かった。
【0028】
実施例1 点眼剤 フルオロメトロン 0.1g メチルセルロース 0.0006g 塩化ナトリウム 0.85g リン酸水素2ナトリウム・12水和物 0.1g 塩化ベンザルコニウム 0.005g 0.1N塩酸 適量(pH7.0)
精製水 全100ml精製水約80mlにメチルセルロースを加温して分散させた後、室温まで冷却して溶かした。この溶液に塩化ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム・12水和物および塩化ベンザルコニウムを加えて溶かし、0.1N塩酸を加えてpHを7に調製した。フルオロメトロンを加え、ホモジナイザーにより均一に懸濁させた。精製水を加え100mlとし、フルオロメトロン懸濁点眼剤を調製した。
【0029】
実施例2 点眼剤 フルオロメトロン 0.05g メチルセルロース 0.00125g 塩化ナトリウム 0.9g リン酸2水素ナトリウム・2水和物 0.1g 塩化ベンザルコニウム 0.005g 0.1N水酸化ナトリウム 適量(pH7.0)
精製水 全100ml実施例1と同様にフルオロメトロン懸濁点眼剤を調製した。
【0030】
実施例3 点眼剤 フルオロメトロン 0.02g メチルセルロース 0.0001g 塩化ナトリウム 0.85g リン酸水素2ナトリウム・12水和物 0.1g 塩化ベンザルコニウム 0.005g 0.1N塩酸 適量(pH7.0)
精製水 全100ml実施例1と同様にフルオロメトロン懸濁点眼剤を調製した。
【0031】
実施例4 点眼剤 フルオロメトロン 0.05g ポリビニルピロリドン K30 0.0015g 塩化ナトリウム 0.9g リン酸2水素ナトリウム・2水和物 0.1g 塩化ベンザルコニウム 0.005g 0.1N水酸化ナトリウム 適量(pH7.0)
精製水 全100ml精製水約80mlにポリビニルピロリドン、塩化ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム・2水和物および塩化ベンザルコニウムを加えて溶かした。0.1N水酸化ナトリウムを加えてpHを7に調製した。フルオロメトロンを加え、超音波により均一に懸濁させた。精製水を加え全量を100mlとし、フルオロメトロン懸濁点眼剤を調製した。
【0032】
実施例5 点眼剤 スルファモノメトキシン 0.1g ヒドロキシプロピルメチルセルロース 0.001g 酢酸ナトリウム 0.1g 塩化ベンザルコニウム 0.005g 塩化ナトリウム 0.9g 0.1N塩酸 適量(pH5.0)
精製水 全100ml精製水約80mlにヒドロキシプロピルメチルセルロースを加温して分散させた後、室温まで冷却して溶かした。この溶液に塩化ナトリウム、酢酸ナトリウムおよび塩化ベンザルコニウム加えて溶かし、0.1N塩酸を加えpHを5に調製した。スルファモノメトキシンを加え、ミルにより均一に懸濁させた。精製水を加え100mlとし、スルファモノメトキシン懸濁点眼剤を調製した。
【0033】
実施例6 点鼻剤 酢酸ヒドロコルチゾン 0.1g ヒドロキシプロピルメチルセルロース 0.0008g リン酸2水素ナトリウム 0.1g パラオキシ安息香酸メチル 0.026g パラオキシ安息香酸プロピル 0.014g 濃グリセリン 2.6g 0.1N水酸化ナトリウム適量(pH7.0)
精製水 全100ml精製水約80mlにパラオキシ安息香酸メチルおよびパラオキシ安息香酸プロピルを加温して溶かした。この溶液にヒドロキシプロピルメチルセルロースを分散させた後、室温まで冷却して溶かした後、濃グリセリン、リン酸2水素ナトリウムを加えて溶かした。0.1N水酸化ナトリウムを加えてpHを7に調製した。酢酸ヒドロコルチゾンを加え、ミキサーにより均一に懸濁させた。精製水を加え100mlとし、酢酸ヒドロコルチゾン懸濁点鼻剤を調製した。
【0034】
実施例7 注射剤 安息香酸エストラジオール 5.0g ヒドロキシプロピルセルロース 0.03g クロロブタノール 0.3g 塩化ナトリウム 0.9g 精製水 全100ml精製水約80mlにクロロブタノールを加温して溶かした。この溶液にヒドロキシプロピルセルロースを分散させた後、室温まで冷却して溶かした。塩化ナトリウムを加えて溶かし、安息香酸エストラジオールを加え、ホモジナイザーにより均一に懸濁させた。精製水を加え100mlとし、安息香酸エストラジオール懸濁注射剤を調製した。
【0035】
実施例8 内服剤 メフェナム酸 3.0g メチルセルロース 0.01g ソルビトール 20g 5%パラオキシ安息香酸エチル液 1ml 精製水 全100ml精製水約50mlにメチルセルロースを分散させた後、室温まで冷却して溶かした。この溶液にソルビトールおよび5%パラオキシ安息香酸エチル液を加えて溶かした。メフェナム酸を加え、ホモジナイザーにより均一に懸濁させた。精製水を加え100mlとし、安息香酸エストラジオール懸濁内服剤を調製した。
【0036】
実施例9 ローション剤 インドメタシン 7.5g ヒドロキシプロピルセルロース 0.04g dlカンフル 0.1g 精製水 全100ml精製水約50mlにヒドロキシプロセルロースを分散させた後、室温まで冷却して溶かした。この溶液にdlカンフルを加えて溶かした。インドメタシンを加え超音波により均一に懸濁させた。精製水を加え100mlとし、インドメタシン懸濁ローション剤を調製した。
【0037】
【発明の効果】本発明の水性懸濁液剤は再分散性が良好であるので、点眼剤、点鼻剤、注射剤、内服剤およびローション剤などの優れた水性懸濁液剤として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】試験例1において0.1w/v%フルオロメトロン懸濁液における表面張力と再分散時間におよぼすHPMCの濃度の関係を示す。図中-●-は表面張力を、-◆-は再分散時間を示す。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2004-02-10 
出願番号 特願平10-127510
審決分類 P 1 41・ 832- Y (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 清野 千秋山口 昭則  
特許庁審判長 眞壽田 順啓
特許庁審判官 松浦 新司
横尾 俊一
登録日 2003-02-28 
登録番号 特許第3402195号(P3402195)
発明の名称 再分散性の良い水性懸濁液剤  
代理人 谷 良隆  
代理人 谷 良隆  

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