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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1095533
審判番号 不服2002-15129  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-09-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-08-08 
確定日 2004-04-15 
事件の表示 平成 5年特許願第 53677号「固体高分子電解質燃料電池」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 9月22日出願公開、特開平 6-267563〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]本願発明
本願は、平成5年3月15日の出願であって、平成14年9月9日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その請求項1,2に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1,2に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は次のとおりのものである。

「燃料、酸化剤の供給圧力より引っ張り強度が大きい高分子イオン交換膜からなる電解質の両側に軟質性を有する多孔質カーボン電極を夫々配置した電極接合体と、前記電極接合体を中心に挟み、燃料、又は酸化剤、又は電解質補給水の供給流路を確保するために、前記電極接合体との間に未支持間隔を有した供給流路溝を備えた配流板とを具備し、前記電極接合体の厚さをt、未支持間隔をWとしたとき、厚さtと未支持間隔Wの比がW/t≦7であることを特徴とする固体高分子電解質燃料電池。」(以下、請求項1に係る発明を、「本願発明」という。)

[2]引用刊行物
(1)原査定の拒絶理由に引用した、本願出願前に頒布された刊行物である特開平3-102774号公報(以下、「刊行物1」という。)には、下記の事項が記載されている。
1-ア.「固体高分子電解質膜の両面にガス拡散電極を接合し、水素若しくは酸素供給溝を設けたガスセパレータをそれぞれの電極の背面に密着させた燃料電池において・・・」(特許請求の範囲第1項)

1-イ.「ガスセパレータに設ける水素、酸素・・・の供給溝の大きさは、供給する流体の圧力損失が大きくならず、集電抵抗が大きくならない範囲で、かつ、所定の強度が得られるものであればよい。例えば、溝の幅を1.0mm以下・・・とすることが好ましい。」(第3頁左上欄第7〜12行)

1-ウ.「固体高分子電解質膜は、厚さ0.17mmのデュポン製ナフィオン117膜を用い、水素極及び酸素極は、ともに白金粉末、親水性カーボンブラック及びポリ四フッ化物からなる親水性反応層と、疎水性カーボンブラック及びポリ四フッ化物からなる疎水性ガス拡散層とを有し、該親水性反応層を上記電解質膜に接触するように重ねてホットプレスで接合した。電極の厚さは0.5mm・・・である。ガスセパレータは・・・溝の幅が0.5mm・・・のものを用い、上記電極の疎水性ガス拡散層に密着させて燃料電池セルを構成した。」(第4頁右下欄第5〜17行)

(2)同引用刊行物である特開平4-267062号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「燃料電池用ガスセパレータ」に関し、以下の事項が記載されている。
「固体高分子電解質膜及び2枚のガス拡散電極との接合体(・・・)30枚と、上記セパレータ31枚とを交互に重ね合せて燃料電池とした。この燃料電池に燃料ガスとしてH2(水蒸気加湿)を2.5kg/cm2G・・・、酸化剤ガスとしてO22.5kg/cm2G・・・をそれぞれ供給し・・・」(【0021】)

[3]対比
刊行物1には、固体高分子電解質膜の両面にガス拡散電極を接合し、水素若しくは酸素供給溝を設けたガスセパレータをそれぞれの電極の背面に密着させた燃料電池であって(1-ア)、厚さ0.17mmのデュポン製ナフィオン117膜である固体高分子電解質膜に、白金を含む親水性反応層と、疎水性カーボンブラック及びポリ四フッ化物からなる疎水性ガス拡散層とよりなる水素極及び酸素極を、その親水性反応層を上記電解質膜に接触するように重ねてホットプレスで接合してなり、電極の厚さが0.5mmであるとともに、その疎水性ガス拡散層にガスセパレータを密着させてなり、ガスセパレータには、幅は0.5mmの溝が設けられている(1-ウ)ものが記載されている。そして、厚さ0.17mmの固体高分子電解質膜と厚さ0.5mmの水素極及び酸素極との接合体よりなる電極接合体の厚さは、1.17mmであるから、刊行物1には、「デュポン製ナフィオン117膜である固体高分子電解質膜の両側に、白金を含む親水性反応層と、疎水性カーボンブラック及びポリ四フッ化物からなる疎水性ガス拡散層とよりなる水素極及び酸素極を配置した電極接合体と、前記電極接合体を中心に挟み、燃料、又は酸化剤を供給するための溝を備えたガスセパレータを具備し、前記電極接合体の厚さに対する前記溝の幅の比が0.5/1.17である固体高分子電解質燃料電池。」の発明が記載されているといえる。(以下、この発明を「刊行物1発明」という。)

そこで、本願発明(前者)と、刊行物1発明(後者)とを対比すると、後者の「デュポン製ナフィオン117膜である固体高分子電解質膜」、「疎水性カーボンブラック及びポリ四フッ化物からなる疎水性ガス拡散層」、及び「ガスセパレータ」は、それぞれ、前者の「高分子イオン交換膜からなる電解質」、「多孔質カーボン電極」、及び「配流板」に相当し、さらに、後者の配流板の「溝」は、前者の「燃料、又は酸化剤の供給流路」に相当し、配流板の「溝の幅」は、前者の「供給流路を確保するために、前記電極接合体との間に未支持間隔」に相当するから、両者は、「高分子イオン交換膜からなる電解質の両側に多孔質カーボン電極を夫々配置した電極接合体と、前記電極接合体を中心に挟み、燃料、又は酸化剤の供給流路を確保するために、前記電極接合体との間に未支持間隔を有した供給流路溝を備えた配流板とを具備し、前記電極接合体の厚さをt、未支持間隔をWとしたとき、厚さtと未支持間隔Wの比がW/t=0.5/1.17である固体高分子電解質燃料電池。」である点で一致し、以下の点で、一応の相違がみられる。

相違点1:前者の高分子イオン交換膜は、燃料、酸化剤の供給圧力より引っ張り強度が大きいものであるのに対して、後者のものは、燃料、酸化剤の供給圧力に対する引っ張り強度の大きさが不明である点。
相違点2:前者の多孔質カーボン電極は、軟質性を有するのに対して、後者のものは軟質性を有するかどうか不明である点。

[4]判断
(1)相違点1について
本願発明の高分子イオン交換膜は、本件明細書の記載によると、「例えば、スルホン酸基を持つフッ素樹脂イオン交換膜」【0002】であって、「その引っ張り強度が140〜210kgf /cm2 と非常に大きく、通常の運転圧力(常圧〜6kgf /cm2 程度)で破断することはない。」【0009】ものである。
これに対して、刊行物1には、「デュポン製ナフィオン117膜」が高分子イオン交換膜として例示されているが、「デュポン製ナフィオン」が、固体高分子電解質燃料電池の高分子イオン交換膜として常用されている「スルホン酸基を持つフッ素樹脂イオン交換膜」であり、その引っ張り強度が「140〜210kgf /cm2 (2000〜3000psi)」であることは、周知の事実である(要すれば、電気学会 燃料電池運転性調査専門委員会編「燃料電池発電」初版 1994年5月20日 コロナ社発行,p.118〜120参照)。よって、本願発明と刊行物1発明とにおける高分子イオン交換膜の引っ張り強度は同程度であるといえる。
また、刊行物1には、燃料、酸化剤の供給圧力が示されていないが、固体高分子電解質燃料電池において、例えば、刊行物2には、燃料ガス、及び酸化剤ガスを2.5kg/cm2G(「2.5kgf /cm2」と同じ)で供給すること、特開平5-21080号公報には、3kgf /cm2 で供給することが記載されているし、特開平3-208258号公報には、燃料電池発電システムに供給するガス圧は通常5〜7ataが選ばれることが記載されているから、固体高分子電解質燃料電池の燃料、酸化剤の供給圧力は、通常の範囲であれば、高々7ata(約6.9kgf /cm2 )程度のものであるといえ、刊行物1発明における供給圧力も、通常の範囲である蓋然性が高いものである。そして、本願発明でも通常の供給圧力(運転圧力)を採用しているから、本願発明と刊行物1発明における供給圧力は同程度であるといえる。
してみると、刊行物1発明における高分子イオン交換膜の引っ張り強度と、燃料、酸化剤の供給圧力とは、ともに本願発明と同程度であり、両者の大小関係も本願発明のそれと同様のものであるといえるから、相違点1は、実質的な相違点とはいえないものである。
なお、仮に、刊行物1発明における供給圧力が通常の範囲を越えているとしても、その供給圧力を被る高分子イオン交換膜が耐え得る引っ張り強度よりも大きな圧力で供給することは、高分子イオン膜の破断を引き起こすから、あり得ないことである。したがって、結局、刊行物1発明における「デュポン製ナフィオン」の引っ張り強度は、燃料、酸化剤の供給圧力より大きいものであるといえ、相違点1についての上記結論を覆すことはできない。

(2)相違点2について
本願発明の多孔質カーボン電極は、本件明細書の記載によると、具体的には、「カーボンブラックとポリ四弗化エチレン等をシート状に成形したシート構造」であり、「軟質性で、しかも剪断力には弱い多孔質カーボン電極」である(【0009】)。そして、その「軟質性」とは、燃料、酸化剤の供給圧力の印加により、四辺を固定された自由面が変位して剪断力を生じる程度の軟質な物性を有することを示すものといえる(【0010】、【0011】)。
これに対して、刊行物1発明における多孔質カーボン電極は、「疎水性カーボンブラック及びポリ四フッ化物からなる疎水性ガス拡散層」であり、第7図に示された水素極32及び酸素極33の形状からみると、シート状に成形したシート構造であることも明らかであり、固体高分子電解質燃料電池用の電極であって、燃料、酸化剤の供給圧力を受けるという使用環境においても共通するものである。
そして、共通する用途における共通する使用環境において、同一材料、同一形状よりなる部材が、共通する物性を示すことは明らかであるといえるから、刊行物1発明の多孔質カーボン電極も、本願発明のそれと共通する物性、すなわち軟質性を有するものであるといえる。
よって、相違点2も、実質的な相違点とはいえない。

なお、仮に、刊行物1発明の多孔質カーボン電極が軟質性を有さない場合を想定して、本願発明における「軟質性」の技術的意義について、以下に検討する。
刊行物1発明の軟質性を有しない多孔質カーボン電極は、供給圧力の変動に対してより変位し難く、より剪断力による破壊が起き難くなるから、W/tについては、本願発明におけるその上限値を超える値が許容されるはずであるが、実際には、本願発明のW/tの上限値を越えない本願発明と重複する値を採用しており、それは、「供給する流体の圧力損失、集電抵抗、所定の強度」(1-イ)等に鑑みて、設計的に定められた溝幅Wに基づき規定された数値である。そして、本願発明におけるW/tの数値限定も、刊行物1記載の従前より行われてきた数値範囲と重複するから、この数値限定は、多孔質カーボン電極の「軟質性」により一義的に規定された新規な範囲ということはできない。
また、本件発明の「軟質性」を有する多孔質カーボン電極は、剪断力に弱いものであって、刊行物1発明の軟質性を有さない多孔質カーボン電極の方が、剪断力に強いといえるので、「軟質性」であることが、本願発明に新たな作用、効果をもたらすものでもない。
そうすると、本願発明における多孔質カーボン電極の「軟質性」は、本願発明に、W/tを新規な範囲に設定するという従前と異なる構成をもたらすものでもなく、また、新たな作用、効果をもたらすものでもないから、格別な技術的意義を伴わない、単なる物性の限定であるにすぎないといえる。
よって、仮に、相違点2が実質的な相違点であっても、相違点2における本願発明の構成に、格別の進歩性を見出すことはできない。

[5]むすび
以上のとおり、本願発明は本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-02-10 
結審通知日 2004-02-17 
審決日 2004-03-02 
出願番号 特願平5-53677
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 進  
特許庁審判長 奥井 正樹
特許庁審判官 吉水 純子
綿谷 晶廣
発明の名称 固体高分子電解質燃料電池  
代理人 村松 貞男  
代理人 坪井 淳  
代理人 河野 哲  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 橋本 良郎  
代理人 風間 鉄也  

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