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審決分類 |
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 無効としない C25D 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない C25D 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 無効としない C25D 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない C25D 審判 全部無効 特174条1項 無効としない C25D |
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管理番号 | 1095625 |
審判番号 | 無効2002-35253 |
総通号数 | 54 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2001-10-10 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2002-06-19 |
確定日 | 2004-04-19 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3244177号「プリント基板用治具に用いるクリップ」の特許無効審判事件についてされた平成15年 5月14日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成15年(行ケ)第0232号平成15年 9月29日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3244177号についての手続きの経緯の概要は、以下のとおりである。 平成11年6月4日 原特許出願 (特願平11-158739号) 平成13年2月27日 本件分割特許出願 (特願2001-53010号) 平成13年3月29日 手続補正書提出 平成13年10月26日 特許権の設定登録 平成14年6月19日 無効審判請求 平成15年5月23日 無効審判審決(全部無効) 平成15年6月4日 高裁出訴(平成15年(行ケ)第232号) 平成15年6月6日 訂正審判請求 (訂正2003-39113号) 平成15年8月21日 訂正審判審決(訂正容認) 平成15年8月27日 訂正審判審決確定 平成15年9月29日 高裁判決言渡(無効審判審決取消) 平成15年11月5日 訂正審判(訂正2003-39113号)の確定された訂正内容に対する請求人への審尋(回答なし) II.本件訂正発明 平成15年6月6日付け訂正審判請求(訂正2003-39113号)は、平成15年8月21日に審決で認容されたので、本件特許3244177号に係る本件訂正後の発明(以下、「本件訂正発明」という)は、訂正後の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】プリント基板の両側端縁部を遊嵌するガイド溝を有し、互いに対向配設された一対の二股状支持部を有する保持部材と、該一対の保持部材間の間隔を調節自在に固定する幅決め調節部材とからなる治具本体の前記プリント基板を前記保持部材に係止するクリップにおいて、該クリップは、前記保持部材の前記ガイド溝に前記プリント基板を係止するために挿入されるプリント基板に直交する先端部とこれに連なり前記保持部材の一対の二股状支持部に向かって湾曲した湾曲部とからなる先端挿入部と、これに連なり前記保持部材の縦壁部に延び該縦壁部に弾発係合する弾性屈曲部と、これに連なり前記保持部材の縦壁部を弾圧支持する弾圧部と、これに連なり前記保持部材の縦壁部に巻回する係止部と、これに連なり前記保持部材に着脱するための把持部とからなることを特徴とするプリント基板メッキ用治具に用いるクリップ。」 III.請求人の主張 訂正審判(訂正2003-39113号)の確定された訂正内容について、平成15年11月5日に請求人福井工業株式会社に対して審尋したが、請求人からは回答がなされなかったから、請求人の請求の趣旨及び理由は審判請求時のとおりのものである。 即ち、請求人は、証拠として下記の甲第1号証〜甲第6号証を提出し、本件訂正特許は、下記(a)〜(d)の理由により特許法第123条第1項第1号、第2号及び第4号の規定によって無効とすべきものである旨主張している。 記 (a)本件特許の請求項1に係る発明は、原出願の出願当初の明細書及び図面に記載されていない事項を含むものであって、本件特許出願は、特許法第44条第1項の規定による適法な分割出願ではなく、出願日はそ及しない。 よって、本件特許発明は、甲第5号証、または甲第6号証に記載された発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである(特許法第123条第1項第2号)。 (b)本件特許出願は、手続補正によって新規事項が追加されているので、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである(特許法第123条第1項第1号)。 (c)本件特許は、特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第123条第1項第4号)。 (d)本件特許の請求項1に係る発明は、原出願前の請求人の実施により進歩性を欠き、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(特許法第123条第1項第2号)。 (1)甲第1号証:特許第3244177号公報 (2)甲第2号証:本件特許出願の原出願に添付の明細書及び図面の謄本 (3)甲第3号証:本件特許出願に添付の明細書及び図面の謄本 (4)甲第4号証:本件特許出願に対する平成13年3月29日提出の手続補正書謄本 (5)甲第5号証:特開2000-178797号公報 (6)甲第6号証:特開2000-345396号公報 IV.甲号各証の記載事項 1.甲第1号証:特許第3244177号公報 本件特許時の明細書及び図面が記載され、その特許請求の範囲は次のとおりである。 「【請求項1】プリント基板の両側端縁部を遊嵌するガイド溝を有し、互いに対向配設された一対の二股状支持部を有する保持部材と、該一対の保持部材間の間隔を調節自在に固定する幅決め調節部材とからなる治具本体の前記プリント基板を前記保持部材に係止するクリップにおいて、該クリップは、前記保持部材のガイド溝に前記プリント基板を係止する先端挿入部と弾性屈曲部と前記保持部材の縦壁部を弾圧支持する弾圧部と前記保持部材に係止する係止部と把持部とを備えていることを特徴とするプリント基板用治具に用いるクリップ。 【請求項2】前記先端挿入部は、挿入されるプリント基板に直交する先端部とこれに連なり前記保持部材の一対の二股状支持部に向かって湾曲した湾曲部とからなる請求項1に記載のプリント基板用治具に用いるクリップ。」 2.甲第2号証:本件特許出願の原出願に添付の明細書及び図面の謄本 (2a)発明の名称を「プリント基板メッキ用治具」とする発明であって、特許請求の範囲の請求項1には、クリップに関して、「前記クリップは、前記保持部材の前記ガイド溝に前記プリント基板を係止する先端挿入部と弾性屈曲部と前記保持部材の縦壁部を弾圧支持する弾圧部と前記保持部材に係止する係止部と把持部とを備え、 前記先端挿入部は、挿入されるプリント基板に直交する先端部とこれに連なり前記保持部材の一対の二股状支持部に向かって湾曲した湾曲部とからなり、・・・」(【請求項1】7〜11行)と記載され、 (2b)【発明の属する技術分野】欄には、「本発明は、電子機器におけるプリント基板に金又は銅メッキ等のメッキ処理を行う際に、プリント基板をメッキ処理液の浴槽内に保持するためのプリント基板メッキ用治具に関する。」(【0001】)、 【従来技術】の説明の後には、「そこで、簡単な構造で、プリント基板を確実に固定でき、プリント基板の着脱が容易で、安価なプリント基板メッキ用治具が提供された。」(【0008】)と記載されている。 3.甲第3号証:本件特許出願に添付の明細書及び図面の謄本 (3a)本件特許出願時の特許請求の範囲は次のとおりである。 「【請求項1】プリント基板の両側端縁部を遊嵌するガイド溝を有し、互いに対向配設された一対の二股状支持部を有する保持部材と、該一対の保持部材間の間隔を調節自在に固定する幅決め調節部材とからなる治具本体と、前記プリント基板を前記保持部材に係止するクリップとからなり、前記プリント基板をメッキ槽内に保持するプリント基板用治具において、 前記クリップは、前記保持部材の前記ガイド溝に前記プリント基板を係止する先端挿入部と弾性屈曲部と前記保持部材の縦壁部を弾圧支持する弾圧部と前記保持部材に係止する係止部と把持部とを備え、 前記一対の二股状支持部を構成する一方の支持部が、前記保持部材の縦壁部に対して直角に配設され、他の支持部が、前記一方の支持部に対して開度を有するように配設されていることを特徴とするプリント基板メッキ用治具。 【請求項2】前記先端挿入部は、挿入されるプリント基板に直交する先端部とこれに連なり前記保持部材の一対の二股状支持部に向かって湾曲した湾曲部とからなる請求項1に記載のプリント基板メッキ用治具。」 (3b)【発明の属する技術分野】には、「本発明は、電子機器におけるプリント基板に金又は銅メッキ等のメッキ処理を行う際に、プリント基板をメッキ処理液の浴槽内に保持するためのプリント基板メッキ用治具に関する。」(【0001】) (3c)クリップの構成について、「図7に示すように、プリント基板14を保持部材12に係止するクリップ31は、保持部材12のガイド溝15にプリント基板14を係止する先端挿入部311と弾性屈曲部312と保持部材12の縦壁部17を弾圧支持する弾圧部313と保持部材12に係止する係止部314と把持部315とからなる。先端挿入部311はガイド溝15に挿入されるプリント基板14に直交する先端部311aとこれに連なり、対称形の二股部16に向かって湾曲Rした湾曲部311bとからなる。」(【0013】)と図7を参照してクリップ構成の説明が記載され、 (3d)この説明に続き、「手で把持部315を把持しながらプリント基板14の端縁部をガイド溝15に遊嵌した後、先端部311aをガイド溝15に係合して、プリント基板14を保持部材12に係止しすると、湾曲Rした湾曲部311bの弾発力により先端部311aは強く二股部16にに係合する。弾性屈曲部312と弾圧部313は保持部材12の二股部16と縦壁部17を弾圧支持しプリント基板14を保持部材12に安定して係合することを補助する。係止部314は保持部材12の背面側の縦壁部17に巻回することにより、クリップ31が保持部材12に安定して係合することを更に助成するとともに、弾性屈曲部312とともに保持部材12からクリップ31を離脱する際に弾発力で外しやすく屈曲している。」(【0013】)と記載され、 (3e)作用の説明として、「上記構成からなるプリント基板のメッキ用治具の使用に際しては、治具本体30において、・・・複数のプリント基板14の端縁部をガイド溝15,15に上方から落とし込むように順次遊嵌することができる。次にクリップ31の把持部315を指で把持してクリップ31の先端挿入部311をガイド溝15に係合してプリント基板14を保持部材12の二股状支持部部16に係止し、弾性屈曲部312と弾圧部313を保持部材12の背面側に設けられた縦壁部17に弾発係合し、係止部314を保持部材12の背面側の縦壁部17に巻回することにより、湾曲Rした湾曲部311bの弾発力が先端部311aを二股部に挿入されたプリント基板14に直交して強く係合するので、クリップ31が保持部材12に安定して係合し、クリップ31によりプリント基板14を保持部材12に安定して係合するのである。そして、プリント基板14を図7(ハ)の矢印方向に引っ張っても湾曲部312が二股部状支持部方向に湾曲しているので、その弾発力によりプリント基板14は保持部材12及びクリップ131から離脱することはない。」(【0014】)と記載されている。 4.甲第4号証:本件特許出願に対する平成13年3月29日提出の手続補正書謄本 「【請求項1】プリント基板をメッキ槽内に保持するプリント基板用治具に用いるクリップにおいて、該クリップは、保持部材のガイド溝に前記プリント基板を係止する先端挿入部と弾性屈曲部と前記保持部材の縦壁部を弾圧支持する弾圧部と前記保持部材に係止する係止部と把持部とを備えていることを特徴とするプリント基板用治具に用いるクリップ。 【請求項2】前記先端挿入部は、挿入されるプリント基板に直交する先端部とこれに連なり前記保持部材の一対の二股状支持部に向かって湾曲した湾曲部とからなる請求項1に記載のプリント基板用治具に用いるクリップ。」 5.甲第5号証:特開2000-178797号公報 発明の名称を「プリント基板メッキ用治具」とし平成12年6月27日に公開された公開特許公報であって、特許請求の範囲には、「【請求項1】プリント基板の端縁部を遊嵌するガイド溝を設けた対向する一対の保持部材と、該保持部材間の間隔を調節自在に固定する幅決め幅決め調節部材とからなる治具本体と、プリント基板を前記保持部材に係止するクリップとからなるプリント基板メッキ用治具において、治具本体は、外方且つ後方に屈曲してなることを特徴とするプリント基板メッキ用治具。 【請求項5】前記クリップは、前記保持部材のガイド溝にプリント基板を係止する先端挿入部と弾性屈曲部と前記保持部材の縦壁部を弾圧支持する弾圧部と前記保持部材に係止する係止部と把持部とからなる請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のプリント基板メッキ用治具。 【請求項6】前記先端挿入部は、挿入するプリント基板に直交する先端部とこれに連なり前記保持部材の二股部に向かって湾曲した湾曲部とからなる請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のプリント基板メッキ用治具。」(【請求項1、5、6】)と記載されている。 (6)甲第6号証:特開2000-345396号公報 本件特許出願の原出願の、即ち甲第2号証の公開特許公報であって、特許請求の範囲には、「【請求項1】プリント基板の両側端縁部を遊嵌するガイド溝を有し、互いに対向配設された一対の保持部材と、同一対の保持部材間の間隔を調節自在に固定する幅決め調節部材とからなる治具本体と、前記プリント基板を前記保持部材に係止するクリップとからなり、前記プリント基板をメッキ槽内に保持するプリント基板用治具において、 同治具本体は、外方且つ後方に屈曲形成され、 前記クリップは、前記保持部材の前記ガイド溝に前記プリント基板を係止する先端挿入部と弾性屈曲部と前記保持部材の縦壁部を弾圧支持する弾圧部と前記保持部材に係止する係止部と把持部とを備え、 前記先端挿入部は、挿入されるプリント基板に直交する先端部とこれに連なり前記保持部材の一対の二股状支持部に向かって湾曲した湾曲部とからなり、 前記一対の二股状支持部を構成する一方の支持部が、前記保持部材の縦壁部に対して直角に配設され、他の支持部が、前記一方の支持部に対して開度を有するように配設されていることを特徴とするプリント基板メッキ用治具。」(請求項1)が記載されている。 V.当審の判断 1.無効理由(a)について (1-1)適法な分割出願であるか否かについて 請求人は、「前記先端挿入部は、挿入されるプリント基板に直交する先端部とこれに連なり前記保持部材の一対の二股状支持部に向かって湾曲した湾曲部とからなる」構成を備えていない請求項1に係るクリップは、原出願の出願当初の明細書及び図面(甲第2号証)には記載されていないので、本件特許の請求項1に係る発明は、原出願の出願当初の明細書及び図面に記載されていない事項を含むものであると主張している。 (1-2)そこで検討するに、上記「II.本件訂正発明」で記載したとおり、本件訂正発明は、本件特許時の請求項2、即ち先の訂正審判に係る訂正前の請求項2(甲第1号証)で特定されていた「前記先端挿入部は、挿入されるプリント基板に直交する先端部とこれに連なり前記保持部材の一対の二股状支持部に向かって湾曲した湾曲部とからなる」構成を備えたクリップに特定されたから、本件訂正発明は、原出願の出願当初の明細書及び図面に記載されていた事項の範囲内のものである。 よって、本件特許出願は、特許法第44条第1項の規定による適法な分割出願であって出願日はそ及する。 (1-3)以上のとおり、本件特許出願は、特許法第44条第1項の規定による適法な分割出願であって出願日はそ及するから、本件特許出願後に公開となった甲第5号証(特開2000-178797号公報)、甲第6号証(特開2000-345396号公報)は、本件特許出願前に頒布された刊行物として採用することはできない。 したがって、本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。 2.無効理由(b)について (2-1)本件特許出願は、平成13年3月29日の手続補正によってそれまでは全体システムたる治具全体に対応付けていた目的を、その部品たるクリップのみに対応付け、該クリップのみにより目的を達成できる旨変更し、該クリップに関する具体的記載を、「従来技術」から「発明の実施の形態」へ移動し、それに伴って請求項としたもので該補正は、新規事項が追加されているので、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである旨、請求人は主張している。 (2-2)そこで、本件の特許出願時の明細書及び図面(甲第3号証)について検討する。 当該明細書には、【発明の属する技術分野】欄に、「本発明は、電子機器におけるプリント基板に金又は銅メッキ等のメッキ処理を行う際に、プリント基板をメッキ処理液の浴槽内に保持するためのプリント基板メッキ用治具に関する。」(上記摘記事項(3b))と記載され、段落【0013】、【0014】(上記摘記事項(3c)〜(3e))には、図7を参照してクリップの説明がなされており、これらの記載に基づき、平成13年3月29日の手続補正がなされているものである。 そして、本件特許は、出願当初の全体システムたる治具全体に対応付けていた目的を、その部品たるクリップのみに対応付け、該クリップのみにより目的を達成できる旨に変更し、該クリップに関する具体的記載を、「従来技術」から「発明の実施の形態」へ移動し、それに伴って請求項としたものには違いないが、上記手続補正に係る事項は、出願時の明細書及び図面に記載されている事項であることも明らかであるから、当該補正は、新規事項が追加されているとすることはできない。 したがって、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものではない。 3.無効理由(c)について (3-1)請求人は、本件特許は、(ア)特許請求の範囲の記載が、「弾性屈曲部」、「弾圧部」、「係止部」、「把持部」の各構成要件の位置関係、全体的な配置や構造が明示されていないため、特許を受けようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、 又(イ)原出願、本件特許出願、手続補正のいずれでも従来技術の説明は「治具」であるのに、本件特許明細書においては、目的、効果すなわち課題が「クリップ」に置き換えられているため、全体の技術思想としての脈絡が不明であり、また、段落【0018】最終行その他において「一対の二股状支持部を構成する一方の支持部材の内の、メッキ液の流れ方向下流側の支持部材を、保持部材に対してほぼ直角に配設すること」と、「プリント基板がクリップの弾性力により挟持」されることとの技術的関連性は理解不能であり、更に、発明の効果欄(段落【0022】2〜5行)に「そして、プリント基板を引っ張っても〜(中略)〜離脱することはない。」とあるのは、請求項2の発明の特有の効果であって、請求項1を含む発明全体の効果として、発明の構成と効果が矛盾する結果となっている。よって、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないので、本件特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨、主張している。 (3-2)そこで検討するに、特許請求の範囲の請求項1の記載は、先の訂正審判での訂正により、クリップの「先端挿入部」、「弾性屈曲部」、「弾圧部」、「係止部」、「把持部」の各構成要件の位置関係、全体的な配置や構造が明確に記載されたものとなり、特許請求の範囲の請求項1の記載は特許を受けようとする発明が明確であって、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしている。 また、本件特許明細書において、「クリップ」に係る目的、課題、効果の記載について不明確であるということはなく、また段落【0018】最終行その他において「一対の二股状支持部を構成する一方の支持部材の内の、メッキ液の流れ方向下流側の支持部材を、保持部材に対してほぼ直角に配設すること」と、「プリント基板がクリップの弾性力により挟持」されることとの技術的関連性に係る明りょうでない記載は、先の訂正審判での訂正により解消しており、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものである。 よって、本件特許明細書には請求人が主張する記載不備はなく、本件特許は、特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 4.無効理由(d)について 請求人は、少なくとも平成10年3月頃から、本件特許にかかるクリップとは形状を異にしたクリップの製造、販売を行っており、本件特許請求項1に係る発明は、その出願前に公知である前記クリップに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると、請求人は主張している。 しかしながら、進歩性を欠くと立証する証拠が何も提出されておらず、本件訂正発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとすることはできない。 VI.むすび 以上のとおりであるから、無効審判請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明に係る特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり決定する。 |
審理終結日 | 2004-02-19 |
結審通知日 | 2004-02-24 |
審決日 | 2003-05-14 |
出願番号 | 特願2001-53010(P2001-53010) |
審決分類 |
P
1
112・
537-
Y
(C25D)
P 1 112・ 536- Y (C25D) P 1 112・ 55- Y (C25D) P 1 112・ 113- Y (C25D) P 1 112・ 121- Y (C25D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 正紀 |
特許庁審判長 |
城所 宏 |
特許庁審判官 |
市川 裕司 三崎 仁 |
登録日 | 2001-10-26 |
登録番号 | 特許第3244177号(P3244177) |
発明の名称 | プリント基板用治具に用いるクリップ |
代理人 | 小野 明 |
代理人 | 遠山 勉 |
代理人 | 松倉 秀実 |
代理人 | 永田 豊 |
代理人 | 高橋 俊彦 |
代理人 | 草野 浩一 |