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審決分類 審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許 無効とする。(申立て全部成立) E04G
管理番号 1095892
審判番号 審判1995-26534  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1995-12-06 
確定日 2004-04-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第1937145号「建築用内部足場」の特許無効審判事件についてされた平成11年8月20日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成11年(行ケ)第330号平成15年3月25日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第1937145号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第1937145号は、昭和62年9月22日に出願され、平成6年7月27日に出願公告(特公平6-56053号公報)され、平成7年6月9日に設定登録がなされ、平成7年12月6日に本件無効審判が請求され、平成8年6月10日及び平成10年4月30日に答弁書が提出され、平成11年8月20日に、本件審判の請求は成り立たない旨の審決がなされ、平成11年10月6日に上記審決に対する訴えが東京高等裁判所になされ、同裁判所において平成11年(行ケ)第330号事件として審理され、平成15年3月25日に、特許庁が平成11年8月20日にした審決を取り消す旨の判決が言い渡され、当該判決は確定した。
そこで、本件無効審判事件についてさらに審理し、平成15年12月1日付けで無効理由が通知され、平成16年2月2日付けで被請求人より意見書が提出された。

第2 請求人の主張及び無効理由通知における無効理由

1.請求人の主張
請求人は、請求書において、本件の特許請求の範囲に記載された発明(以下、本件発明という。)についての特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、本件発明は、その出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された、他の実用新案登録出願である、実願昭62-135450号、又は実願昭62-136056号の、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された考案と同一であって、しかも本件発明の発明者が上記他の出願に係る考案の考案者と同一であるとも、本件発明の出願の時において、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件発明に係る特許は、特許法第29条の2第1項の規定に違反してなされたものである旨主張し、以下の証拠を提出した。
甲第1号証:実公平4-50354号公報(実開平1-41545号)
甲第2号証:実公平7-621号公報(実開平1-41591号)

2.無効理由通知における無効理由の要旨
東京高等裁判所の平成11年(行ケ)第330号、平成11年(行ケ)第331号、平成11年(行ケ)第332号を併合した判決において、請求人大喜商事株式会社の元代表の本谷憲朗は、少なくとも本件発明の共同発明者の一人である旨判示されたが、出願手続きにおける書類によれば、本件発明の発明者として上木原純一郎が記載され、出願人として中山弘道と上木原純一郎が記載されており、本件発明の発明者の一人である本谷憲朗が、本件特許の出願人である中山弘道または上木原純一郎に本件発明について特許を受ける権利を譲渡したとも考えらないことから、本件発明の特許は、発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものであって、平成5年改正前の特許法第123条第1項第4号に該当する。

第3 被請求人の主張

1.請求人の主張に対して
請求人が引用する出願1(実願昭62-135450号)の実用新案登録、及び出願2(実願昭62-136056号)の実用新案登録、公告は、考案者でない者がその考案について登録を受ける権利を承継しないものの出願に対してなされた登録、公告であって、引用の実用新案登録は無効とされるべきものである。また、冒認による出願であるので先願権は存在せず、引用の先願、先登録の真の考案者は本審判被請求人であり、特許法第29条の2第1項の適用はないものである旨主張し、以下の証拠を提出した。
乙第1号証:広島地裁福山支部平成6年(モ)第333号訴状
乙第2号証:平成6年6月3日付けの中山弘道の陳述書
乙第3号証:昭和62年7月28日付けの本谷憲朗から上木原純一郎宛ての書簡
乙第4号証:実公平4-50353号公報
乙第5号証:広島地裁福山支部平成6年(ワ)第452号、同平成9年(ワ)第166号事件の平成9年9月25日及び平成9年11月27日の土肥潤一の証人調書
乙第6号証の1、2:広島地裁福山支部平成6年(ワ)第452号事件の平成7年10月26日及び平成8年2月8日の本谷憲朗の本人調書
また、証人として、本谷憲朗、中山弘道を申請した。

2.無効理由に対して
判決は、上木原は発明者(考案者)の一人であると認定したが、本谷が発明者(考案者)の一人であるとは認定されず、発明者(考案者)の認定方法を教示するにとどまる。本件発明において、本谷は単なる発明の補助者にすぎない。

第4 本件発明

本件発明は、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「表面に滑り止めを施した一対のパネルを同一高さでつき合せ状態に配置し、つき合せ端の反対側のパネルの端部の前後それぞれに伸縮自在な脚部を回動自在に取付け、パネルのつき合せ端部の下方の四隅部に設けられた伸縮自在な脚部と、脚部の挿入部と、両パネルを股がるように左右の脚部の挿入部間に横架した横杆と、前後の脚部の挿入部間に架設した連接部材と、横杆と各パネルのつき合せ端部との間を内側のリンクと外側のリンクで連結し、外側のリンクの連結ピン間距離を内側のリンクの連結ピン間距離より長くしてパネルと2個一組のリンクと横杆の間に不等脚台形リンク機構を形成し、パネルのつき合せ端部と反対側のパネル端部に取付けた脚部の下方と連接部材とをロッドで連結し、各脚部の下端それぞれにキャスターを取り付けるとともに、伸縮自在な脚部の長さを調整する高さ調整用ロックを各脚部に設け、各パネルを上記不等脚台形リンク機構により水平状態から垂直状態に回動したとき各パネル間に適宜間隔をあける状態とするとともにパネルのつき合せ端の反対側の端部の脚部をロッドでパネル裏面側に回動して横方向への突出を少なくしたことを特徴とした建築用内部足場」

第5 本件発明の発明者について

1.東京高等裁判所の判示事項
東京高等裁判所の平成11年(行ケ)第330号、平成11年(行ケ)第331号、平成11年(行ケ)第332号を併合した判決(以下、単に「判決」という。)において、本件発明の発明者及び請求人の元代表取締役本谷憲朗と本件発明との関係について次のように判示された。(当審注:上記判決において、原告は、中山弘道こと中山弘通と上木原純一郎であり、被告は、大喜商事株式会社であり、本件発明は「本件発明」と記載されている。)
(1)事実関係について
「(1) 原告中山は,昭和39年から平成2年まで,建設用資材の販売等や内装工事を業とする大興物産株式会社(以下「大興物産」という。)の従業員であった者であり,大興物産を退社した後,大喜産業(本件訴訟の原告補助参加人)を設立してその代表取締役に就任し,現在に至っている。
原告上木原は,昭和60年から大興物産の従業員として勤務している者である。
原告中山が大興物産に勤務していた当時,同原告と原告上木原とは,上司と部下の関係にあった。
(2) 原告上木原は,昭和59年ころ・・・建物のエレベーターに搬入して作業現場まで持ち上げることができる移動式の内装工事現場用の足場を開発しようと思い立った。
原告上木原は,具体的には,折り畳むことができ,キャスター(方向自在小車輪)を用いることにより,折り畳んだ状態でも広げた状態でも移動できるようにした内装工事現場用足場を想定し,いくつかの業者に依頼して,試作品の製作を試みたものの,出来上がった試作品の重量が重すぎるなど,実用性のある製品は,なかなか製作できなかった。
原告上木原は,昭和62年の春ころ,長崎県のホテルの宴会場にあったテーブル様のものを見て,この製品を製作する技術のあるところならば,かねてから構想していた移動式の足場を製作することができるかもしれないと考え,原告中山と相談した上で,上記ホテルに同製品を納入していたオリバー社に問い合わせたところ,同製品が被告の製作した「ポータブルステージ」という名称の製品(以下,この製品一般を「ポータブルステージ」という。)であることが判明したため,同社を通じて被告と連絡をとった。
(3) 被告は,もと額縁製造販売の仕事をしていた本谷憲朗(以下「本谷」という。)が,ホテルの宴会場の備品等の製造販売等をすることを目的として,昭和55年に設立した会社である。ポータブルステージは,ホテルの宴会場等において使用される折り畳み式のステージ台であり,被告の主力商品の一つであった。
ポータブルステージは,四隅に脚を取り付けた天板2枚を組み合わせることによって1枚の脚付きの床として構成する構造の台であり,2枚の天板は,合わせ目部分を境として,背中合わせに垂直に立てて折り畳むことができるものであった。2枚の天板の合わせ目部分の脚部には移動用のキャスターが付けられていた。台の高さについては,高さを調節できないものと,脚部で2段階に高さを調節できるものとがあった。天板を折り畳むための蝶番は,2枚の天板を両側から同時に持ち上げて立てなければ畳めない仕組みのものであり,片側ずつ立てて折り畳むことのできる仕組みのものではなかった。
(4) 原告上木原は,当時被告の従業員であった土肥に対し,被告のポータブルステージを参考にして,これに似た建設現場の足場を製作したいと述べ,被告において試作品を製作するよう依頼した。この際,原告上木原は,建設用足場として,軽く,移動可能で,折り畳み自由なものがほしいとの希望を伝え,具体的には,エレベーターに乗せることができるように折り畳んだときの高さを1950ミリメートル,幅450ミリメートルから600ミリメートルの間とすること,広げたままで平行移動することができるようにキャスターを付けること,作業中に足場の下が見えるようにすること,広げたときに950ミリメートルから1150ミリメートルの間で高さの調節ができることを,略図を用いて説明し,要望した。被告は,同原告の上記要望に対し,試作品を製作することを承諾した。
(5) 被告は,建築用備品に関する知識に乏しかったため,上記試作品を製作するに当たっては,工事の実際と試作品のイメージをつかむため,本谷が,実際に工事現場に行って,従来の足場を用いた工事の状況を見るなどした。
(中略)
被告は,ポータブルステージの製作を依頼していた有限会社スガハラ機工(以下「スガハラ機工」という。)に,ポータブルステージを基にこれを改良して,上記足場の試作品を製作するように依頼した。スガハラ機工は,被告から製作の注文を受けたポータブルステージを海生工業株式会社(以下「海生工業」という。)に製作させていたことから,被告代表者である本谷,スガハラ機工の代表者である菅原實(以下「菅原」という。)及び海生工業の代表者である松本朝信(以下「松本」という。)らが,試作品の製作について,打合せをし,検討を重ねた。
菅原と土肥は,試作品に用いる蝶番について,奈良県にあるホテルにあった他社製品のステージに用いられていた蝶番の形を写してきて,この蝶番の形を元に改良を加えて試作品の蝶番を製作した。
海生工業の松本は,試作品の製作の過程で,本谷の意向を受けて,試作品についての図面のほとんどを作図した。
本谷は,原告上木原に対し,昭和62年7月28日付けで,「先日は御多忙中,接見戴き誠にありがとうございました。さて製作中の足場でございますが,とりあえず一回目の提案をさして戴きます。着案された御社様を中心に考えてのものでございます。ご見当をお願い致します。製品の進度ですが,二種類の型で考案,目下製作中ですが,簡単な方の一台は今月中に完成しますが,一方の高機能の製品の方が,八月十日頃に完成致します。」と記載した書簡(甲第3号証)を送付した。
(6) 被告は,昭和62年8月ころ,蝶板とキャスターのついた卓球台様の試作品を完成した。この試作品は,ほぼ,原告上木原の要望どおりのものであり,その構成は,基本的にはポータブルステージの構成をそのまま流用したものであって,ただ,大きなパイプを用いないことにしたり,全体の機構を単純にしたりして軽量化を図っていること,天板を片方ずつ立てて折りたたむことのできる構造の蝶番を採用していること,高さの調節が細かくできるようにしていること,キャスターが全部の脚部に付けられていることなどの点で,ポータブルステージとは異なっていた。
(中略)
その後,上記試作品は製品化され,「セーフティーベース」という商品名で大興物産を通じて販売された。本谷が昭和63年ころ大興物産に提出した「セーフティベース」に関する提案書(甲第13号証)中には,「1.この製品は,大喜商事(株)のポータブルステージの機構を応用し,内装工事足場として開発し,工事準備のスピード化と安全足場を目的に製品化したものである。」,「2.この安全足場は,大興物産(株)の着案であり,製作考案は大喜商事(株)が担当し,開発したものである。」との記載がある。
原告中山は,平成2年ころ大興物産を退社し,大喜産業を設立してその代表取締役に就任した。本谷は,大喜産業の取締役に就任した。大喜産業は,被告が製造した「セーフティーベース」と同一の商品を,「シフト・ステージ」という商品名で販売した(以下,これらの商品を併せて「本件商品」という。)。
その後,被告が自ら本件商品を販売するようになったため,被告と大喜産業らとの間で本件商品の販売をめぐる紛争が発生し,今日に至っている。
(7) 被告は,昭和62年9月3日に,本件考案1につき,発明者を本谷として本件登録出願1を,同月4日に,本件考案2につき,発明者を本谷として本件登録出願2をした。
原告らは,同年9月22日に,本件発明につき,発明者を原告上木原として,本件特許出願をした。
本件考案1及び本件発明は,いずれも本件商品を元に構成され,特許出願ないし実用新案登録出願されたものであり,本件考案2は,本件商品のうちの蝶番の部分だけについて,実用新案登録が出願されたものである。
本件商品は,本件登録実用新案1,2及び本件特許の構成要件をいずれも充足している。」(判決書10頁4行ないし14頁25行)
(2)「(2)原告らは,原告上木原は,本件発明及び本件考案1,2の共同発明者ないし共同考案者の一人とみるべきである,と主張する。
発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいい(特許法2条1項),考案とは,自然法則を利用した技術的思想の創作をいう(実用新案法2条1項)。発明者・考案者とは,これら技術的思想の創作に実質的に関与した自然人をいう,と解すべきである。
ある者を,ある技術的思想の創作に実質的に関与したものとして発明者・考案者と評価することができるかどうかは,必ずしも容易に決定できることではなく,その決定には多大の困難を伴うことも少なくない。結局のところ,具体的事案において,その技術的思想の内容や,その者がその技術的思想の創作過程において果たした役割の内容,程度などを総合的に勘案して決する以外にないというべきである。
ア 本件発明及び本件考案1について
本件発明及び本件考案1は,いずれも,従来,建築物の内装工事のうち天井等の高所作業を行う場合に用いる仮設足場について,脚立,足場板,ゴムバンドなどを用いて設営していたことによる問題点(運搬,設置上の不便や作業中の安全管理上の問題点など)を解決することを目的としてなされたものである(甲第4,第5号証)。
1で認定したところによれば,原告上木原は,上記課題を認識し,この課題を解決するため,被告の商品であるポータブルステージを建設現場の足場に転用することを思い付き,被告に対し,試作品の製作を依頼し,被告の代表者である本谷らは,ポータブルステージを製作した技術を基礎として,本件商品(これは,本件発明及び本件考案1,2の実施例に相当する。)を製作したものということができる。
本件商品とポータブルステージとは,少なくとも,四隅に脚を取り付けた2枚の天板を組み合わせることによって1枚の脚付きの床とするものであり,2枚の天板を,合わせ目部分を境として,背中合わせに垂直に立てて折り畳むことができ,折り畳んだ状態でキャスターにより移動することができる,という基本的な態様において一致する。
被告は,主としてホテルの備品を製造,販売する会社であり,建築物の内装工事の実情には疎く,原告上木原の指摘があるまで,ポータブルステージを建築現場に転用するという発想を持ったことはなく,ポータブルステージを転用した仮設足場の試作品を製造するようにとの依頼を受けて,初めて,工事現場を視察するなどして内装工事の実情を把握し,試作品の製造にとりかかったものであることは前記のとおりである。原告上木原が着想するより前に,ポータブルステージのような基本的な態様を有する建築用足場を製造する発想が公知ないしは自明であったことを認めるに足りる証拠はない。
上に述べたところによれば,本件発明及び本件考案1においては,ポータブルステージの上記の基本的な態様を建築工事現場に転用するという着想を持つこと自体が,発明ないし考案の実現において,大きな地位を占めるものであることが明らかである。原告上木原は,このような重要な地位を占める着想をした者として,着想のみであっても,本件発明及び本件考案1の,少なくとも共同発明者の一人には当たると評価すべきである。
しかも,原告上木原は,上記着想を提供するにとどまらず,前記1(4)で認定したとおり,ポータブルステージを建設現場の足場とするための製品の仕様について,本件発明及び本件考案1の構成要件の細部にまで及んではいないものの,軽量化等の具体的な要望を被告に告げている。このように,ポータブルステージの基本的な態様を建築足場に使用するとの着想及びそのための製品の仕様についての大まかであるが一定の方向性が与えられれば,既にポータブルステージが存在する状態の下でこれを具体化することに,さほど困難があったとは考えにくく,現実に著しい困難があったことを認めるに足りる証拠もない。
被告は,原告らは,基本的な課題,アイデアを提示し,製品の規格,仕様,性能についての発注者としての要望,指示,要求をしたにすぎない,と主張する。
しかしながら,被告のこの主張は,原告上木原が試作品の製作を依頼したのは,ポータブルステージの存在を前提にしてのことである,という事実を忘れたものというべきである。
確かに,前提にするものが何もない状態で,すなわち,ポータブルステージ(あるいはこれに代わる何か)のない状態で,なされたものであったのであれば,原告上木原によってなされた依頼に対して被告の主張するような評価を下すことも,十分可能であろう。しかし,現実には,同原告が依頼したときには,既にポータブルステージは商品として売り出され使用されていたのであり,同原告は,これを見て,これを仮設足場に転用することに着想し,この着想に基づき,これを現実化すべく,試作品の製作を依頼したのである。そして,この依頼を受けて被告が製作した試作品がポータブルステージの基本的な構造をそのまま流用したものにすぎなかったこと,同原告が発注者としてなした要望,指示,要求は,いずれも,ポータブルステージの規格,性能を大幅に変更するようなものでなかったことは,むしろ,被告自身の強調するところである。そうだとすると,本件商品を発明するに当たり,原告上木原の上記着想が果たした役割を,被告のように低く評価することができないことは明らかというべきである。被告の主張は,本件商品の発明者の認定に当たっては,ポータブルステージを既存のものとしてその存在を出発点に考えなければならないのに,そうしないで,ポータブルステージそのものの発明者であることをもって本件商品の発明者としようとするものであり,前提において誤っているという以外にない。」(判決書17頁2行ないし20頁1行)
(3)「(3)以上のとおり,原告上木原は,少なくとも本件商品の共同発明者ないし共同考案者の一人であり,本件各無効審判事件における結論は,これを前提に導かれなければならないのに,審決は,これを認定しないままに論を進めたものであり,審決のこの誤りが,いずれの審判事件についても,その結論に影響を及ぼすことは明らかである。」(判決書20頁23行ないし21頁1行)

判決の摘記(1)における事実認定によれば、請求人大喜商事株式会社の元代表の本谷憲朗は、上木原の依頼に基づき、実際に工事現場に行って,従来の足場を用いた工事の状況を見るなどすると共に、スガハラ機工の代表者である菅原實(以下「菅原」という。)及び海生工業の代表者である松本朝信(以下「松本」という。)らが、試作品の製作について、打合せをし、検討を重ね、さらに、菅原と土肥は、試作品に用いる蝶番について、奈良県にあるホテルにあった他社製品のステージに用いられていた蝶番の形を写してきて、この蝶番の形を元に改良を加えて試作品の蝶番を製作し、大喜商事は,昭和62年8月ころ、蝶板とキャスターのついた卓球台様の試作品を完成した。この試作品は、ほぼ、上木原の要望どおりのものであり、その構成は、基本的にはポータブルステージの構成をそのまま流用したものであったが、大きなパイプを用いないことにしたり、全体の機構を単純にしたりして軽量化を図っていること、天板を片方ずつ立てて折りたたむことのできる構造の蝶番を採用していること、高さの調節が細かくできるようにしていること、キャスターが全部の脚部に付けられていることなどの点で、ポータブルステージとは異なったものであった。
そうすると、試作品は、ポータブルステージに改良を加えたものであり、改良に当たって、上木原純一郎の要望のもと、本谷憲朗、スガハラ機工の代表者菅原實及び海生工業の代表者松本朝信らが打合せをし、検討を重ね、更には、蝶番に関し、大喜商事従業員の土肥も関与していることになる。そして、試作品におけるポータブルステージとは異なった点が、改良した点であったといえ、上木原がこの改良した点の全てを着想したとはいえない。
一方、本件発明は、試作品における上記改良点(例えば、不等脚台形リンク機構や、各脚部に設けた高さ調整用ロック)を構成要件に含むものであるから、本件発明には、上木原の要望をもとに、具体的にどのように関与したかは明確でないが、本谷、菅原、松本、更には土肥が関与していたことになる。
このことは、判決において摘記(2)に記載したように、「(2)原告らは、原告上木原は、本件発明及び本件考案1、2の共同発明者ないし共同考案者の一人とみるべきである、と主張」していることからも分かるように、上木原は、本件発明は上木原一人で発明したと認識していないことと整合する。
ここで、本谷は、大喜商事株式会社の代表者として、ポータブルステージを製作した技術を基礎とし、実際に工事現場に行って従来の足場を用いた工事の状況を見るなどしていることから、本件発明に積極的に関わっていたといえる。

2.また、実用新案登録第1981339号は、本件発明より19日前の昭和62年9月3日に、考案者本谷憲朗、出願人大喜商事株式会社として出願され、実用新案登録請求の範囲には次のように記載されている。
「二重管によるストツパーピン付きの伸縮柱を四つ角に配置し、これらの二重管である伸縮柱の外管同志を梁材と桁材とで接合する軸組本体と、軸組本体の梁間の中間付近を境として背中合わせに起立できる二枚の作業床と、キヤンテイーレバーを外管の上部に形設させた二重管によるストツパーピン付き伸縮柱とを設け、展開した作業床の上面にヒンジの一部を突出させず、かつ、二枚の作業床が背中合わせに起立できるように、L字状の平板を二枚一組に組み合わせた特殊ヒンジ二組で、前記軸組本体の梁材と二枚の作業床の一端とをそれぞれ枢支連結し、該二枚の作業床の各々の他端裏面に対して、前記キヤンテイーレバーを外管の上部に形設させた二重管によるストツパーピン付き伸縮柱のキヤンテイーレバーの末端付近を枢着させ、該キヤンテイーレバーを外管の上部に形設させた二重管によるストツパーピン付き伸縮柱の内管の下端付近に梁ブラケツトを突設させ、該梁ブラケツトと前述の軸組本体の桁材とをコンネクテイングロツドで枢支連結し、前述の各々の伸縮柱の下端にキヤスターを設置したことを特徴とする内装用仮設足場」
上記実用新案登録請求の範囲に記載された考案は、本件発明と実質的に同じであり、実施例における図面もほぼ同じ内容である。
このように、ほぼ同じ発明(考案)がほぼ同じ時期に発明者(考案者)と出願人を異なって前後して出願されることは極めて希であって、上記1で検討したことを考えると、これら発明(考案)は共同で開発されていたものが、互いに、別個に出願されたことを伺わせる。

3.以上のことを総合的に判断すると、本件発明において、発明者として記載された上木原純一郎の外に、本谷憲朗は少なくとも共同発明者の一人であるというべきである。
判決において、「原告上木原は,このような重要な地位を占める着想をした者として,着想のみであっても,本件発明及び本件考案1の,少なくとも共同発明者の一人には当たると評価すべきである。」と判示しているのは、本件発明は、上木原の着想のもと、他の者が関わって発明されたものであることをいっているのである。そして、共同発明者の一人は少なくとも本谷憲朗であるといえる。

4.被請求人の主張に対して
被請求人は、平成16年2月2日付けの意見書において、判決において、上木原は発明者(考案者)の一人であると認定したが、本谷が発明者(考案者)の一人であるとは事実認定されず、発明者(考案者)の認定方法を教示するにとどまり、また、本谷は単なる発明の補助者にすぎない旨主張する(2頁ないし4頁の「二」項)。
しかしながら、上記したように、上木原の要望(上記1の(1)における(4)によれば、「建設用足場として,軽く,移動可能で,折り畳み自由なものがほしいとの希望を伝え,具体的には,エレベーターに乗せることができるように折り畳んだときの高さを1950ミリメートル,幅450ミリメートルから600ミリメートルの間とすること,広げたままで平行移動することができるようにキャスターを付けること,作業中に足場の下が見えるようにすること,広げたときに950ミリメートルから1150ミリメートルの間で高さの調節ができることを,略図を用いて説明し,要望した」)を具体化したのは本谷、菅原、松本、土肥であるといえ、本谷は、大喜商事株式会社の代表者として、ポータブルステージを製作した技術を基礎とし、実際に工事現場に行って従来の足場を用いた工事の状況を見るなどしていることから、本件発明に積極的に関わっていたといえるから、本谷を単なる補助者ということはできない。

5.一方、出願手続きにおける書類によれば、本件発明の発明者として上木原純一郎が、出願人として中山弘道と上木原純一郎が記載されており、本件発明の共同発明者の一人である本谷憲朗より、本件特許の出願人である中山弘道または上木原純一郎に本件発明について特許を受ける権利が譲渡されたとの主張、立証は全くなく、かえって、本件発明と実質的に同じ考案である実用新案登録第1981339号に係る考案について、考案者として本谷憲朗が記載され、出願人として大喜商事株式会社が記載されていることに関して、別途無効審判(平成8年無効第15217号)事件においていわゆる冒認を無効理由として争われていることから、本件発明の特許は、発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものであって、平成5年改正前の特許法第123条第1項第4号に該当する。

6.仮に、本谷が本件発明の共同発明者の一人でないとしても、判決において、本件発明は、上木原一人で発明されたものではないと判示されている以上、共同発明者が誰であったとしても、その共同発明者から、本件特許の出願人である中山弘道または上木原純一郎に本件発明について、特許を受ける権利が譲渡されたとの主張、立証がないのであるから、上記の判断を左右するものではない。

第6 まとめ

以上のように、本件発明に係る特許は、平成5年改正前の特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-07-23 
結審通知日 1999-08-13 
審決日 1999-08-20 
出願番号 特願昭62-237735
審決分類 P 1 112・ 152- Z (E04G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊波 猛  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 山田 忠夫
長島 和子
登録日 1995-06-09 
登録番号 特許第1937145号(P1937145)
発明の名称 建築用内部足場  
代理人 戸島 省四郎  
代理人 戸島 省四郎  
代理人 三原 靖雄  

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