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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) C07C
管理番号 1096154
審判番号 審判1998-35402  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-12-20 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-08-31 
確定日 2004-05-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第2133265号発明「芳香族カーボネート類の連続的製造法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2133265号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I 手続の経緯

本件特許第2133265号は、平成2年12月27日に出願(優先権主張平成1年12月28日、以下「本件優先日」という。)され、平成7年10月4日に出願公告(特公平7-91236号)され、平成9年11月14日に特許権の設定登録がされ、その後、平成10年8月31日に請求人日本ジーイープラスチックス株式会社より本件特許の特許無効の審判の請求がなされ、その後被請求人より平成10年12月22日に答弁書が提出され、請求人より平成13年6月20日に弁駁書が提出され、被請求人より平成15年8月19日に答弁書(第2回)が提出されたものである。(なお、答弁書、弁駁書と表示された書類以外の書類提出については記載を省略した。)

II 本件発明

本件特許発明は、特許明細書及び図面の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】触媒の存在下にジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させて、アルキルアリールカーボネート、ジアリールカーボネート又はこれらの混合物からなる芳香族カーボネート類を製造するに当たり、原料化合物である該ジアルキルカーボネート及び該芳香族ヒドロキシ化合物を、連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該蒸留塔内で該触媒と該原料化合物を接触させることによって反応させながら、副生する脂肪族アルコールを蒸留によってガス状で連続的に抜き出し、生成した該芳香族カーボネート類を塔下部より液状で連続的に抜き出すことを特徴とする芳香族カーボネート類の連続的製造法。
【請求項2】均一系触媒を連続多段蒸留塔に連続的に供給することにより触媒を存在させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】触媒が固体触媒であり、連続多段蒸留塔内部に固体触媒を配置することにより触媒を存在させる、請求項1記載の方法。」

III 当事者の主張及び証拠方法

1 請求人の主張の概要

請求人は、「特許第2133265号はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として審判請求書において次の3つを挙げおよそ次のように主張している。

理由1
本件の請求項1〜3の発明は、本件優先日前に頒布された甲第1〜6号証、又は甲第8〜11号証(要すれば更に甲第6、7号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
そして、請求人は上記理由1の主張を立証する証拠方法として審判請求時に甲第1〜12号証を提出し、その後、理由1に関し更に甲第26〜32、49、50、51号証を追加した。

理由2
本件の請求項1〜3の発明は、本件優先日前に外国で頒布された甲第13号証に記載された発明であり、又はそれに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
理由2の主張を立証する証拠方法として審判請求時に甲第13〜22号証を提出し、その後甲第33〜41号証を提出した。

理由3
本件の請求項1〜2の発明は、本件優先日前に、日本国内において公然知られたので、特許法第29条第1項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
請求人は、理由3の主張を立証する証拠方法として審判請求時に甲第23〜25号証を提出し、その後甲第28〜30、42〜48、52号証を提出した。
また理由3に関し証拠方法として下記証人の証人尋問を申請した。
証人:山形文一
東京都品川区小山7-7-17

2 請求人の証拠方法

以下理由1〜3に関する証拠を示すが、訂正された証拠については訂正後の甲号証等を示す。

甲第1号証 :平田光穂著「最新蒸留工学」日刊工業新聞社、昭和45年、207〜247頁
甲第2号証 :米国特許第2,829,153号明細書(1958年)
甲第3号証 :Petrole et Techniques、No.350、1989年、p.36〜40
甲第4号証 :quaderni dell´ingegnere chimico italiano、1974年、p.36〜40
甲第5号証 :Petrole et Techniques、No.329、1986年、p.34〜38
甲第6号証 :Ger, Chem. Eng.3,1980年,p.252〜257
甲第7号証 :ING. CHIM. ITAL.,V.21,N.1-3, GEN-MAR. 1985年、p.6〜12
甲第8号証 :特開昭54-48733号公報
甲第9号証 :特開昭54-48732号公報
甲第10号証:特開昭61-291545号公報
甲第11号証:特開平 1-275548号公報
甲第12号証:特開昭51-105032号公報
甲第13号証:ENICHEM SINTESI ISOLA 19-RAVENNA IMPIANTO DIFENILCARBONATO DESCRIZIONE PROCESSO ED IMPIANTO DICEMBRE 1985
(エニケム シンテシ社がラベンナ市に提出した建設許可申請書に添付されたプロセス説明書と図面の写し)(訂正前、甲第13号証の1)
甲第14号証:COMUNE DI RAVENNA CONCESSIONE CONCESSIONE N゜1902/86 DATA 16 DIC 1986(ラベンナ市が出した建設許可書の写し)(訂正前、甲第14号証の1)
甲第15号証:LEGGI E DECRETI LEGGE 6 agosto 1967,N.765(イタリア国の1967年8月6日の法律第765の公報写し)(訂正前、甲第15号証の1)
甲第16号証:Gulminelli女史のステートメント、 1996年12月21日付
甲第17号証:Gulminelli女史のステートメント、1997年2月6日付
甲第18号証:Gulminelli女史のステートメント、1997年8月26日付
甲第19号証:ラベンナ市当局のStringa氏のステートメント、1997年11月28日付
甲第20号証:Cisilino氏(元ラベンナ市の役人)のステートメント、1997年6月4日付
甲第21号証:Ribolzi教授の鑑定書、1998年1月8日付
甲第22号証:Stringa氏のステートメント、 1998年2月10日付
甲第23号証:EniChem Synthesis DIPHENYLCARBONATE PROCESSTECHNICAL ECONOMIC NOTE October,1987(三井石油化学株式会社がエニケム社から受領した書面)
甲第24号証:「DMC法DPC打合せ」62・10・24 山形(記)
甲第25号証:SECRECY AGREEMENT(ENICHEM SYSTHESIS SpA と三井石油化学株式会社の秘密保持契約。1987年11月9日。)
甲第26号証:ヨーロッパ特許第461274号に対する特許異議決定書の写し(本件特許に対応する。)
甲第27号証:PCT/JP90/01734請求の範囲の写(発明の名称:芳香族カーボネートを連続的に製造する方法)
甲第28号証:European Chemical News,13 November 1989,p.44
甲第29号証:Chemical Marketing Reporter,vol.236,December4,1989,No.23
甲第30号証:Europa Chemie 35・36/89,p.585
甲第31号証:Dialog(R)File 319:Chem Bus News Base (C)1998 Royal Soc Chemistry
甲第32号証:Babcock Distillation with Chemical Reaction,Lehigh University,1976
甲第33号証:中山信弘、注解特許法、青林書院第二版 191〜197頁
甲第34号証:川口博也、民商法雑誌 第84巻 第2号 196〜201頁
甲第35号証:紋谷暢男、注釈特許法、有斐閣ミドル・コンメンタール 71〜76頁
甲第36号証:盛岡一夫、ジュリスト昭和61年6月10日号、243〜245頁
(甲第33〜36号証は「頒布された刊行物」についての論文。)
甲第37号証:Tanzarella氏(ミラノの弁護士)の鑑定書、1998年7月30日付(訂正前、甲第37号証の1)
甲第38号証:Ribolzi教授の鑑定書(第2)(訂正前、甲第38号証の1)
甲第39号証:Massaro氏のデクラレーション、 1998年10月7日付(訂正前、甲第39号証の1)
甲第40号証:Ravenna市が出した証明書、1998年10月14日付(訂正前、甲第40号証の1)
甲第41号証:弁理士ツムステイン博士(エニケム社代理人)からヨーロッパ特許庁への手紙1996年11月5日付
甲第42号証:カサールからの山形宛のファクシミリ書面、1988年9月30日
甲第43号証:山形文一の陳述書(平成11年5月17日)
甲第44号証:マイケル モダンの陳述書(1998年9月16日)
甲第45号証:アレン コーの陳述書(1998年9月23日)
甲第46号証:リナルド ペライヤの陳述書(1998年9月30日)
甲第47号証:ゼネラルエレクトリック社とエニケム社との秘密保持契約、1988年11月15日締結
甲第48号証:日本ジーイープラスチックス社とエニケム社との秘密保持契約、1989年7月6日締結
甲第49号証:WO83/03825号公報
甲第50号証:米国特許第1,400,849号明細書
甲第51号証:特開昭51-75044号公報
甲第52号証:DMC/DPC三者会談議事録
(1988年10月6日、東京で開催した会議)
甲第2〜4号証(抄訳文)
甲第5号証(抄訳文2)
甲第6号証(抄訳文2)
甲第7号証の抄訳文(2)
甲第13号証の抄訳(訂正前、甲第13号証の1の抄訳)
甲第14号証の抄訳(訂正前、甲第14号証の1の抄訳)
甲第15号証の抄訳(訂正前、甲第15号証の1の抄訳)
甲第16〜22号証の抄訳
甲第37〜40号証(訳文又は抄訳)
甲第23、25、32号証の抄訳
甲第26、27〜31、44〜48号証の訳文
甲第41、49、50号証の抄訳
甲第42号証の抄訳
(参考資料)
参考資料1:甲第13号証の英訳(訂正前、甲第13号証の2)
参考資料2:甲第14号証の英訳(訂正前、甲第14号証の2)
参考資料3:甲第15号証の英訳(訂正前、甲第15号証の2)
参考資料4:甲第37号証の英訳(訂正前、甲第37号証の2)
参考資料5:甲第38号証の英訳(訂正前、甲第38号証の2)
参考資料6:甲第39号証の英訳(訂正前、甲第39号証の2)
参考資料7:甲第40号証の英訳(訂正前、甲第40号証の2)

3 被請求人の主張の概要

一方、被請求人は、請求人の各理由に対しておよそ次のように反論している。

(1)無効理由1に対し、被請求人は甲第1〜12号証のいずれもから、又これらをどのように組み合わせても本件特許発明は当業者が容易に想到できるものではない旨主張し、乙第1、2号証を提出し、その後乙第11〜16号証を提出した。
(2)無効理由2に対し、被請求人は「甲第13号証の1は本件優先日前に第3者に複写、閲覧は許されていなかった。仮に甲第13号証の1が閲覧・複写可能であったとしても、甲第13号証の1の原本は頒布された刊行物ではなく、このことを前提とする本件発明が特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項に該当するとする主張は根拠を欠くものである。」旨主張した(10年12月22日付け答弁書、45、49頁参照)。
被請求人は反論の根拠として、答弁書と共に乙第3、4、5、10号証、乙第6号証の1、7,8号証の1、乙第7号証の2、乙第6,8号証の2を提出した。
(3)無効理由3に対し、被請求人は、請求人の本件発明が公然知られた発明であるとする主張はいずれも失当であって、採用されるべきでない旨主張した。

4 被請求人の証拠方法

以下理由1〜3に関する証拠を示す。

乙第1号証 :甲第5号証の英訳文
乙第2号証 :甲第3号証の英訳文
乙第3号証 :東京高裁昭和50年(行ケ)第97号判決
乙第4号証 :平成10年(ワ)第10545号 被告第1準備書面(特許権者との訴訟)
乙第5号証 :エニケム社とGEとの契約書
乙第6号証の1:Marabini & Farini の法律鑑定書
乙第6号証の2:乙第6号証の1の英訳
乙第7号証の1:Trevisan & Amadio の法律鑑定書
乙第7号証の2:乙第7号証の1の和訳
乙第8号証の1:Marabini & Farini のRibolzi法律鑑定書に対する反論書
乙第8号証の2:乙第8号証の1の英訳
乙第9号証 :甲第14号証の1の表紙の和訳(1頁)及び4、5枚目の36)〜41)項の和訳(2、3頁)
乙第10号証 :「Bartoli Flavio」(エニケムの設計者)の印鑑
乙第11号証 :「PhOH転化率と芳香族カーボネート生産性」
乙第11号証の1:関連EP特許異議事件の答弁書
乙第11号証の2:同上に添付したデクラレーション付実験証明書
乙第12号証 :エステル交換法による芳香族カーボネートの製造方法の系譜(1974〜1998)
乙第13号証 :米国特許第4,045,464号明細書
乙第14号証 :平成10年(ワ)第10545号、特許差し止め等請求事件の乙第4号証
乙第15号証 :Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Vol.B4,p.321-326
乙第16号証 :Chemical Processing,1987年、2月号、27,28,30,32頁

IV 甲各号証、乙各号証等の記載事項

本件発明との関連から甲号証、乙号証の記載の一部を摘示又は記載を要約すると次のようになる。

・甲第1号証
甲第1号証には次のような記載がある。
(イ)「反応蒸留とは蒸留性能を良好にするために蒸留と反応とを合併した操作とも言えようし、また、反応率を向上させるために蒸留分離の力を借りた操作とも言えよう」(208頁)、「操作条件あるいは操作方式を適当に選ぶことによって反応と蒸留分離が効果的に遂行される。」(209頁、「6.1.3反応蒸留の操作基本型」の項)と記載されている。
(ロ)「エステル化反応は液相平衡反応の代表的なものであり、反応蒸留に適した要素を有している。・・・エステル-エタノール-水の3成分系共沸物がこの塔の留出物として得られる」(212頁)と記載されている。
(ハ)反応原料の一部が共沸混合物として塔頂から出てしまう場合は、その原料を過剰に供給し、分離回収されたものから再利用する等の工夫で反応蒸留を実施することができること(215頁)が記載されている。
・甲第3号証
反応蒸留(蒸留塔を使用)による反応で塔内に固体触媒を配置することが記載されている。
(第2頁の図)
・甲第5号証
甲第5号証には、平衡反応において生成物分離手段として、吸収、抽出なども考えられるものの、「最も多くの実験的及び理論的研究の対象となってきたのは反応蒸留である」(甲第5号証第2,第3段落)と記載されている。
・甲第6号証
甲第6号証は、「蒸留を上置した反応に対する反応器の選択」と題す論文であり、次のような記載がある。
(イ)「反応の平衡定数及び各成分の相対揮発度(沸点)は容易に決定可能な反応系の特性である。これらのデータを用い、下図の典型的なケースを参照して、省エネルギーの見地から、反応蒸留器と、蒸留器を載せたバッチ反応器のいずれを選択すべきかを速やかに決定することができる。表1にその結果を示す。」と記載されている。(甲第6号証252頁)
(ロ)「平衡反応を工業的なスケールで実施する際、化学的平衡をずらす手段として反応に蒸留工程を結合することが、平衡定数の大きさに応じて多かれ少なかれ重要である。」と記載されている。(甲第6号証252頁左欄2行〜5行)
(ハ)工業的規模での平衡反応を実施する方法として、「a)反応塔(連続)」,「b)塔付きのバッチ反応器(不連続)」,「c)CSTR又は反応器カスケード(連続)」の三つが挙げられ(甲第6号証252頁図1)、使用装置に着目すると基本的な装置単位は、2種類であり、「a)反応塔」と「b)塔付きのバッチ反応器」であると記載されている。(甲第6号証252頁右欄下から7行〜1行)
(ニ)「表1」には,A,B,C,Dの相対揮発度をそれぞれ「1.0」,「1.1」,「4.0」,「0.1」としたときに、平衡定数「K」値が「10」,「1」,「0.01」と小さくなるほど,反応蒸留塔は蒸留器付きバッチ反応器より好ましいことが示されている。(甲第6号証252頁右欄)
(ホ)「反応塔の使用」に関し「下記の前提を含む:1.反応は、反応塔の棚上の合計滞留時間が十分であるべく充分に速くなければならない。2.活性化エネルギーは低くなければならない。・・・3.反応は強く発熱であっても、強く吸熱であってもならない。・・・好ましくない。」と記載されている(253頁左欄1行〜4行)。
(ヘ)反応器の比較が、AとBを反応させCとDを生成させる反応(但しB,Cは平衡の両側においてより揮発性の成分。Cは最大の比揮発度を有すると仮定する。すなわち、BはAよりも揮発性が大であり,CはDよりも揮発性が大であり,かつCが最も揮発性が大である。)についてのものであることが記載されている。(253頁左欄18〜23行)
(ト)「A,B二つの反応物がぼぼ同等の揮発度を有すると仮定し、Dは非常に揮発度が小さいと仮定する。・・・このような特殊な場合には反応蒸留器のエネルギー的な優位性は最大のものとなる。」と記載されている。(甲第6号証253頁左下欄下から17行〜9行)
(チ)「反応蒸留器は、もし平衡定数が小さければ特に有利であると想定できるかも知れない。平衡定数が大きければ大きい程、すなわち、とにもかくにも、反応が速やかに進行すればする程、平衡をずらすと言う反応蒸留器の特別な能力はより重要でなくなるであろう。これらのことが下記において検討され、定量的に示されるであろう。」と記載されている。(甲第6号証253頁右欄第1段落)
(リ)「cont.」は反応蒸留を示し、「disc.」は蒸留塔付きバッチ反応を示すと記載されている。(甲第6号証254頁右欄1行〜3行)
(ヌ)「図6はAとBの相対揮発度が非常に異なる時(1:3)、・・・反応蒸留器の優位性はほとんどなくなってしまっている。しかしながら,Bの相対揮発度を増加すると、BとCの相対揮発度の比が同時に変わることに留意しなければならない。おそらく、BとCの分離と言う問題が非常に大きくなったため,他の違いはもはや明白に注目すべきものではなくなったのであろう。」と記載されている。(甲第6号証255頁右欄〜左欄)
(ル)「この省エネの利点の減少は、別別の段に反応物質を導入することで妨げることができる。」と記載されている。(甲第6号証255頁右欄21行〜23行)
(ヲ)「最初の実験的検討は一般にバッチ方式で行われることに留意することが必要である。もし、反応系が反応蒸留器に理想的に適合するのであれば、蒸留器を載せた反応フラスコで行われるバッチ方式の実験は反応物と生成物を反応蒸留器における場合よりも激しい熱的条件にさらすであろう。これは選択率の大きなロスを引き起こし、このプロセスを実験的検討の段階で放棄させることになりかねない。このような場合には、反応蒸留器ではより高い選択率が得られるかも知れないことを、初期の段階で評価することが重要である。」と記載されている。(甲第6号証256頁右欄第3段落)
・甲第7号証
甲第7号証(抄訳文2)には、「ジメチルカーボネート:有機化学品製造の為の新しい構成材料」と題する論文であり次のような記載がある。
「カルボニル化プロセス」の項には、
(イ)「高級カーボネートのうち、芳香族カーボネートは特有の位置にある;特にジフェニルカーボネート(DPC)は、芳香族ポリカーボネート、・・・の生産のために工業的に用いられる。現在のDPC製法は、原料としてホスゲンに基づく。」、
(ロ)「一方、AA.はDMCとフェノールから出発する合成プロセスを開発した。・・・(略)・・・[「反応図4・DMC/フェノール反応」は(ロ)’に示す。]・・・初めに、適当なエステル交換反応触媒を見つけることが必要であった。そして、いくつかの触媒系(表3)のスクリーニングが行われ、チタン誘導体を用いて有望な結果が見い出された。実施条件についてのより詳細な研究は、アニソールの目立つ形成なしで、中間体フェニルメチルカーボネート(PMC)及び幾分かのDPCさえを得るようにAA.を導いた。そして、種々のチタン塩(TiCl4、アルコキシドなど)から出発して、触媒添加の後で反応媒体中でチタンテトラフェノレートが迅速に形成されることが見出された。従って、この物質種が、初期の実験の後では、反応媒体中における二次的生産物の存在を避ける為に、常に用いられた。過剰のDMC及び未反応のフェノールの除去後に、PMCのDMC及びDPCへの不均化反応を、同じ触媒を用いて比較的高い速度かつ高収率で実施することができた。これは、DPC合成プロセスにおける第2段階を成す。一緒に生成したDMCは、第1段階にリサイクルされうる。この反応シークエンス(図3)に基づく製造プロセスが現在開発中である。」、
(ロ)’「反応図4」には、
フェノール+DMC・・>アニソール+メタノール+CO2、
フェノール+DMC・・>PMC+メタノール、
PMC・・>DPC+DMC
の反応が示されている。
(ハ)「表3」は、「DMCとフェノールからフェニルメチルカーボネートの合成」と題するもので、使用触媒「TiCl4」の欄には、「フェノール転化率%」、「PMC選択率%」、「アニソール選択率%」がそれぞれ「24」、「>99」、「<1」であることが、また使用触媒「Ti(OPh)4」ではそれらがそれぞれ「21」、「>99」、「<1」であることが記載されており、表の外には「条件:DMC/フェノール=5モル/モル、触媒/フェノール=0.05モル/モル、時間=5〜8時間、圧力=1atm、温度=98〜100℃」の記載がある。
(ニ)「DPC製造プロセス」と題する「図3」には、DMCとフェノールが「PMC合成反応器」に導入され次いで「DPC合成反応器」をへてDPCが合成されること、DMCがリサイクルされること、R1に続くS1工程にはa,b工程が付加され、S2工程にはc、d工程が付加されることが示され、説明として「R1 PMC合成反応器;R2 DPC合成反応器; S1 PMC精製;S2 DPC精製;a フェノールリサイクル;b DMCリサイクル;c PMCリサイクル:d 触媒リサイクル」の記載(以上、9頁左欄下から12行〜10頁左欄図3)がある。なお、9頁左欄下から7行等に記載の「AA.」は著者の意味と解される。
・甲第8号証
甲第8号証には、エステル交換反応により芳香族炭酸エステルを製造する方法が記載され、「アルコールを塔頂で分離除去しながら、エステル交換反応混合物を比較的長いカラム中で必要とされる反応温度に加熱する。」(4頁右下欄)とある。
・甲第9号証
甲第9号証は、芳香族炭酸エステルの製法に関するもので、カラムの溜め部で加熱して反応を実施することが記載(実施例参照)されており、また、DMCと反応生成物であるメタノールとが共沸混合物を形成することが記載されている。
・甲第10号証
甲第10号証は、反応蒸留塔を用いる炭酸エステルの製法に関するもので、バッチ式で反応を実施することが記載されており、また、平衡反応をより生成物側に効率的にずらし,高い生産速度及び収率とすることが望まれることが記載されている。
・甲第12号証
甲第12号証には、高収率、高選択率で芳香族炭酸塩を製造(蒸留塔を備える反応塔使用)する方法が記載されており、また、同方法は脱炭酸反応によりアニソールを副生するものであることが記載されている。
・甲第28号証
ジメチルカーボネートとフェノールのエステル交換反応に基づくジフェニルカーボネート(DPC)の製造方法がラヴェンナ工場で使用されていること(年産4000トン)が記載されている。
・甲第29号証
エニケム社のラヴェンナのDPCプラントはDMCとフェノールのエステル交換反応に基づいており、年産4000トンの能力を有すことが記載されている。
・甲第30号証
ジフェニルカーボネートがジメチルカーボネートとフェノールのエステル交換反応によって製造されていることが記載されている。
・甲第49号証
甲第49号証(抄訳)には「本発明は、「反応蒸留」と呼ばれうるプロセスによる酢酸メチルの製造に関する。」(1頁2〜4行)、「本発明のプロセスにおいて用いられる最小滞留時間は、・・・好ましくは、滞留時間は、約2.4時間である。」(4頁22〜31行)、「・・・酢酸メチル/メタノール共沸物が形成する。」(15頁35行〜16頁1行)と記載されている。

・乙第11号証
バッチカラム法の最大生産性を示す甲第12号証実施例13やメタノールの共沸剤としてベンゼンを用いる甲第10号証の実施例1に比べて本件発明の生産性がきわめて高いことが記載されている。

V 当審の判断

本件請求人の主張する無効理由1について検討する。

(1) 無効理由1について

無効理由1について、請求人が主張する要点は、弁駁書に記載されたとおりの「本件請求項1〜3の発明(以下、本件第1〜3発明という。)は、甲第7号証と甲第6号証又は第5号証及び甲第8または10号証に基づいて、要すれば甲第1〜4、51号証を参照して、当業者が容易に発明をすることができた」というものである。

(2)甲第7号証記載の発明

請求人が提出した甲第7号証(抄訳文2)の上記摘示(ロ)、(ハ)によれば、ジメチルカーボネート(DMC)とフェノールをチタン誘導体触媒下で反応させ、アニソールの目立つ形成なしにフェニルメチルカーボネート(PMC)とメタノールを生成させたこと(第1段階の反応)、得られたPMCを同じ触媒下で不均化反応させ高収率でジフェニルカーボネート(DPC)とDMCを得ること(第2段階の反応)が記載されている。
そして、第1段階、第2段階の使用触媒がそれぞれ「アルキルアリールカーボネート化触媒」、「ジアリールカーボネート化触媒」であることは明白であり、各段階が反応装置内で行われること、第2段階の後生成したDPCを得ることは自明であるから、甲第7号証には、「DMCとフェノールからPMCを製造するに際して、(A)DMCとフェノールを第1の反応装置内で「アルキルアリールカーボネート化触媒」の存在下に反応させ、PMCを生成させる工程、
(B)PMCを含む反応生成物を第2の反応装置内で「ジアリールカーボネート化触媒」の存在下に反応させ、DPCとDMCを生成させる工程、
を含むDPCの製造法」が開示されているものと認められる。

(3)証拠との対比

(3-1)本件第1発明について

当審での甲号証との対比においては、ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させジアリールカーボネートを2段階で製造する製法の第1段階の製法である「ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させてアルキルアリールカーボネートとする製法(以下、引用発明1という。)」が記載されている甲第7号証を本件第1発明と比較することとする。

(a)対比

本件第1発明(前者)と引用発明1(後者)とを対比すると、両者は、
ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物からアルキルアリールカーボネートを製造するに際して、ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物を反応装置内で「アルキルアリールカーボネート化触媒」の存在下に反応させ、アルキルアリールカーボネートを生成させ副生する脂肪族アルコールを抜き出し、一方、生成したアルキルアリールカーボネートを抜き出す工程を含むアルキルアリールカーボネートの製造法である点で共通するが、
前者では、ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物からアルキルアリールカーボネートを製造するに際してジアリールカーボネートも製造される芳香族カーボネート類の製造法であるのに対し、後者ではこの点について記載されていない点(相違点1)、
前者では、製造方法が連続的製造方法であり、反応装置が連続多段蒸留塔であり、ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物が該連続多段蒸留塔内に連続的に供給され、副生する脂肪族アルコールを蒸留によってガス状で連続的に抜き出し、一方、生成したアルキルアリールカーボネートを塔下部より液状で連続的に抜き出すと特定されているのに対し、後者では製造方法が連続的製造方法であるかどうかと反応装置がどのようなものであるかが明らかでなく、したがって、ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物が該連続多段蒸留塔に内に連続的に供給され、副生する脂肪族アルコールが蒸留によってガス状で連続的に抜き出され、一方、生成したアルキルアリールカーボネートが塔下部より液状で連続的に抜き出されるのかどうかが明らかでない点(相違点2)、
で相違しているものと認められる。

(b)相違点についての判断

(i)相違点1について

ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させて、アルキルアリールカーボネート、ジアリールカーボネート又はこれらの混合物から成る芳香族カーボネート類が得られることはよく知られたことであるから、引用発明1もジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物からアルキルアリールカーボネートを製造するに際してジアリールカーボネートも製造される芳香族カーボネート類の製造法であると認められ、この点において両者の発明に実質的な差異はない。

(ii)相違点2について

(い)本件第1発明と引用発明1との相違点2についての判断

(引用発明1に係る反応の実施可能性についての認識について)

甲第7号証の図3に記載された引用発明1の反応が平衡反応であって、(a)平衡定数が極めて小さく、(b)かつその反応速度も小さく、(c)引用発明1の反応の反応原料であるDMCと反応生成物であるメタノールとが共沸混合物を形成し、(d)脱炭酸反応によりアニソールを副生するものであることはそれぞれ知られている。((a),(b)は技術常識(特開平1-265062号公報2頁左上〜右下欄参照)であり、(c)は甲第9号証(特開昭54-48732号公報2頁右上欄)、(d)は甲第7号証9頁右欄Scheme4参照。)
そして、引用発明1の反応でPMCを製造する場合に、低沸点反応生成物であるメタノールを除去できる蒸留塔付きバッチ反応器が用いられていること(甲第8ないし第10、第12号証)、及び、この製造方法には生産速度、収率、選択性が不十分であるという欠点があることは、本件優先日当時既に知られていた。(甲第12号証(特開昭51-105032号公報2頁左上欄11行〜12行)すなわち、引用発明1に係る反応の種類の反応が工業的に実用化することができる可能性のあるものであることは、上記のとおり蒸留塔付きバッチ反応器で既に知られていたことなのである。
また、引用発明1の反応を含むジアリールカーボネートの製法が工業的に実用化されている点については甲第28号証ないし甲第30号証にも記載されているところである。
そうすると、引用発明1に係る反応については、製造が全体として合理的に行い得る設計であることは明らかであり、その合理的といえる製造プロセスを「図3」(10頁)に示すものであり、該プロセスによるPMCの製造を可能にすることを積極的に公表するものであり、ホスゲンを用いない図3に記載のPMC製造プロセスであっても効率よくプロセスが構成し得ることを期待させるものであるから、引用発明1に係る反応は、本件優先日において、甲第7号証の記載自体からして、また、さらには、引用発明1の反応を含むジアリールカーボネートの製法の工業的実用化についての甲第28号証ないし甲第30号証の記載をも考慮して、工業的に実用化することができる可能性があるといえるものである。

(引用発明1に係る反応に反応蒸留手段を適用する動機付けについて)

そして、平衡反応において、生成物ができる方向の反応を進行させるのに、蒸留により生成する低沸点生成物を除去する手段が適することは、従来からよく知られていることである。甲第1号証には、「エステル化反応は液相平衡反応の代表的なものであり、反応蒸留に適した要素を有している。・・・エステル-エタノール-水の3成分系共沸物がこの塔の留出物として得られる」(甲第1号証212頁9行〜18行)との記載があり、甲第6号証には,「平衡反応を工業的なスケールで実施する際、化学的平衡をずらす手段として反応に蒸留工程を結合することが、平衡定数の大きさに応じて多かれ少なかれ重要である。」(甲第6号証252頁左欄2行〜5行)との記載がある。甲第5号証には、平衡反応において生成物分離手段として、吸収、抽出なども考えられるものの、「最も多くの実験的及び理論的研究の対象となってきたのは反応蒸留である」(甲第5号証第2,第3段落)との記載もある。そして、引用発明1の反応は平衡反応なのである。
そうすると、甲第7号証の図3記載の引用発明1のような平衡反応の「PMC合成反応器」として、平衡反応で従来から用いられる蒸留手段を備えた装置の中から有利なもの、有利であることが期待されるものが採用されるのはごく当然のことである。

(甲第6号証記載の事項の認定判断について)

次に、甲第7号証の図3記載の引用発明1の「PMC合成反応器」として、平衡反応で従来から用いられる蒸留手段を備えた装置の中から有利なものを特定することができるのかどうかについて検討する。
(イ) 平衡反応で従来から用いられる蒸留手段を備えた装置として典型的なものに、反応塔(連続)と塔付きバッチ反応器(不連続)とがある。すなわち,甲第6号証には、工業的規模での平衡反応を実施する方法として、「a)反応塔(連続)」、「b)塔付きのバッチ反応器(不連続)」、「c)CSTR又は反応器カスケード(連続)」の三つが挙げられてはいる(甲第6号証252頁図1)ものの、使用装置に着目すると基本的な装置単位は、2種類であり、「a)反応塔」と「b)塔付きのバッチ反応器」であるものとされている(甲第6号証252頁右欄下から7行〜1行)。そして、この「反応塔(連続)」は、「連続多段蒸留塔」を意味している(本審決においては,これを「反応蒸留塔」といい、その方法を「反応蒸留」という。また「塔付きのバッチ反応器(不連続)」を「蒸留塔付きバッチ反応器」といい、その方法を「蒸留塔付きバッチ反応」という。)。
(ロ) 平衡反応であり、生産速度が低いことが知られていた引用発明1に係る反応においては、平衡反応をより生成物側に効率的にずらし、高い生産速度及び収率とすることが望まれていた。(甲第10号証1頁右下欄)また、引用発明1の反応は,アニソールを副生しやすい反応であることは知られているから(甲第12号証(特開昭51-105032号公報)2頁左上欄11行〜12行)、選択率を向上させることも望まれていたということができる。
してみると、甲第7号証の図3に記載された引用発明1の「PMC合成反応器」を選択する場合に、平衡反応で従来から用いられる蒸留手段を備えた装置、すなわち、蒸留塔付きバッチ反応器と反応蒸留塔から、工業化上有利なものとして、目的物を高い生産速度、収率で、高い選択率で得ることができるもの(あるいは有利であることが期待されるもの)を選択するのは当然のことである。
そして、引用発明1に係る反応において、反応蒸留塔の方が蒸留塔付きバッチ反応器よりも転化率及び選択率の向上、さらには生産速度の向上の側面で、より大きく期待できることが甲第6号証に示されていることは、次に述べるとおりであるから、当業者が「PMC合成反応器」に反応蒸留塔(連続多段蒸留塔)を選択することに格別の困難性はない。
(ハ) 甲第6号証は、「蒸留を上置した反応に対する反応器の選択」と題する論文であり、反応蒸留塔と蒸留塔付きバッチ反応器を比較している(甲第6号証252頁左欄及び右欄)。
甲第6号証において、両者の比較は、典型的な平衡反応 A+B←→C+D の場合について行われている。上記式において、BはAよりも揮発性が大であり、CはDよりも揮発性が大であり、かつCが最も揮発性が大である。(甲第6号証253頁左欄18行〜24行)
甲第6号証の文頭に記載された要約には、「反応の平衡定数及び各成分の相対揮発度(沸点)は容易に決定可能な反応系の特性である。これらのデータを用い、下図の典型的なケースを参照して、省エネルギーの見地から、反応蒸留器と、蒸留器を載せたバッチ反応器のいずれを選択すべきかを速やかに決定することができる。表1にその結果を示す。」(甲第6号証252頁)と記載され、その結果を一覧として記載する「表1」には、A,B,C,Dの相対揮発度をそれぞれ「1.0」,「1.1」,「4.0」,「0.1」としたときに,平衡定数「K」値が「10」,「1」,「0.01」と小さくなるほど、反応蒸留塔は蒸留器付きバッチ反応器より好ましいことが示されている。(甲第6号証252頁右欄)
そして、甲第6号証の本文には、「反応蒸留器は、もし平衡定数が小さければ特に有利であると想定できるかも知れない。平衡定数が大きければ大きい程、すなわち、とにもかくにも、反応が速やかに進行すればする程、平衡をずらすと言う反応蒸留器の特別な能力はより重要でなくなるであろう。これらのことが下記において検討され、定量的に示されるであろう。」(甲第6号証253頁右欄第1段落)と記載され、「4.平衡定数の影響」との見出しの下に、相対揮発度の設定を前記のとおりと設定し、平衡定数を変化させてシミュレーションを行っている。(甲第6号証255頁左欄)
甲第6号証の図5は、その結果を示している。図中、「cont.」は反応蒸留を示し、「disc.」は蒸留塔付きバッチ反応を示す。(甲第6号証254頁右欄1行〜3行)甲第6号証の図5は、平衡定数Kが0.01のとき(実線)、熱投入量の大小にかかわらず反応蒸留が蒸留塔付きバッチ反応よりも著しく大きい転化率を常に与えること、逆に、達成すべき転化率が決まっている場合を想定する(すなわち縦軸の所定の位置でグラフを見る)と、反応蒸留が蒸留塔付きバッチ反応よりも著しく小さい熱エネルギーで足りることを示している。そして、同図は、平衡定数Kが1(長鎖線)と大きくなると、反応蒸留の優位性の差が縮まり、平衡定数Kが10(鎖線)とさらに大きくなると、その差はより小さくなることを示している(甲第6号証255頁左欄)。前記表1の記載は、この結果をまとめたものである。
甲第6号証の図5の記載は、平衡定数が大きければ、殊更に反応蒸留を用いて平衡をずらすよう構成する必要はないが、平衡定数が小さいと反応蒸留を用いて平衡をずらす効果が顕著になり、エネルギー的観点からも、転化率の観点からも、反応蒸留が蒸留塔付きバッチ反応よりも優位であることを示している、ということができる。
(ニ) 引用発明1の反応
PhOH+DMC←→MeOH+MPC
におけるそれぞれの相対揮発度の関係は、上記シミュレーションの反応式 A+B←→C+D
の記号で表すと D<A<B<C となることは技術常識である。
この相対揮発度は、甲第6号証の図5で検討された上記の相対揮発度の条件 D<A<B<Cに相当する。
甲第6号証の図5で検討された反応における相対揮発度の条件は、「A,B二つの反応物がぼぼ同等の揮発度を有すると仮定し、Dは非常に揮発度が小さいと仮定する。・・・このような特殊な場合には反応蒸留器のエネルギー的な優位性は最大のものとなる。」(甲第6号証253頁左下欄下から17行〜9行)とされる反応蒸留に理想的な相対揮発度の条件(D<A=<B<C)のものである。ここで、「A,B二つの反応物がぼぼ同等の揮発度」とは,1:3未満とされる(「相対揮発度が非常に異なる時(1:3)」(甲第6号証255頁左欄5.の下2行)。引用発明1の反応のそれが,1:3未満でないことは技術常識であるから、上記理想的な条件からはずれていることになる。
しかしながら、甲第6号証において、「A,B二つの反応物がほぼ同等の揮発度」であるということが、理想的な条件のうちの非常に重要な要件であるとされている、というわけではない。すなわち、甲第6号証の「5.AとBの相対揮発度が異なるとき」の項には、先の検討条件におけるBの相対揮発度を「1.1」から「3」としてAとBとを異なる相対揮発度とした場合について、「図6はAとBの相対揮発度が非常に異なる時(1:3)、・・・反応蒸留器の優位性はほとんどなくなってしまっている。しかしながら、Bの相対揮発度を増加すると、BとCの相対揮発度の比が同時に変わることに留意しなければならない。おそらく、BとCの分離と言う問題が非常に大きくなったため、他の違いはもはや明白に注目すべきものではなくなったのであろう。」(甲第6号証255頁右欄〜左欄)と記載されており、甲第6号証の著者は、AとBとの相対揮発度差の増大より、BとCの相対揮発度差の減少の方が重要であるとしている。したがって、「A,B二つの反応物がほぼ同等の揮発度」でなかったとしても、BとCとの相対揮発度が大きい場合には、直ちに反応への反応蒸留適用が阻害されることになるものではないということができる(これに加えて、甲第6号証には、AとBの相対揮発度の間の差の減少がもたらすエネルギーの優位性の減少について、「この省エネの利点の減少は,別別の段に反応物質を導入することで妨げることができる。」(甲第6号証255頁右欄21行〜23行)と、AとBに相対揮発度に差があっても、反応物の供給位置の変更で解決し得ることも示されている。)。
(ホ) 引用発明1の反応の平衡定数Kが0.01より小さいことは技術常識であるが、これに対し、甲第6号証には、平衡定数が0.01より小さい反応例はない(甲第6号証)。
しかしながら、引用発明1の反応は、たとい平衡定数が0.01より小さいものであるとしても、平衡を生成物側にずらし得る平衡反応であるという点においては、平衡定数0.01の場合と特段変わるものではない。
したがって、平衡定数が0.01より小さい領域でも、平衡定数が0.01の場合と同じ傾向であると考えるのが自然であり、このように考えるべきことを妨げる事実も見当たらない。平衡定数が小さいほど反応蒸留の方が蒸留塔付きバッチ反応よりも利点が大きくなることが示されているのであるから、例示されている平衡定数より小さい平衡定数の反応へ反応蒸留の適用を試みることに何ら困難はないというべきである。
平衡定数が小さくなるほど、蒸留塔付きバッチ反応に比べて、省エネルギー及び転化率の利点が大きくなることが明確に示されている反応蒸留を、前提とされる相対揮発度関係の特徴の主要な部分が共通し、かつ平衡定数が小さい反応であることが知られている引用発明1の反応へ適用することは、当業者にとって格別困難なことではなかったというべきである。
(ヘ) 甲第6号証には、上記のとおり、平衡定数が小さくなるほど、反応蒸留の方が、蒸留塔付きバッチ反応より省エネルギー及び転化率の利点が大きくなることが明確に示されているだけでなく、選択率も後者の方が高いことも示唆されている。
甲第6号証の「結語」には、「最初の実験的検討は一般にバッチ方式で行われることに留意することが必要である。もし、反応系が反応蒸留器に理想的に適合するのであれば、蒸留器を載せた反応フラスコで行われるバッチ方式の実験は反応物と生成物を反応蒸留器における場合よりも激しい熱的条件にさらすであろう。これは選択率の大きなロスを引き起こし、このプロセスを実験的検討の段階で放棄させることになりかねない。このような場合には、反応蒸留器ではより高い選択率が得られるかも知れないことを、初期の段階で評価することが重要である。」(甲第6号証256頁右欄第3段落)と記載されている。
この記載が、反応蒸留に実際には適するはずの反応であっても、これを実験室の蒸留塔付き反応フラスコ(バッチ式)で行なうと、反応蒸留におけるものより厳しい熱的条件にさらされ副反応が起こり選択率が小さくなることから、この段階でプロセスを断念することになりかねないことを指摘して、それを防ぐため、反応蒸留で実施すれば、蒸留塔付き反応フラスコ(バッチ式)による場合より選択率が高くなる傾向があることを念頭に置くよう注意を喚起するものであることは、明らかである。
DMCとフェノールとを反応させてPMCを作る引用発明1の反応において、熱分解反応によってアニソールが副生すること及びアニソールの副生を抑制することが望ましいことは、前記のとおり周知のことである。
そして、反応蒸留において転化率が向上し、選択率が向上すれば、転化率に選択率をかけたものである収率もまた向上することが期待できるのである。
したがって、選択率及び収率を向上させるという観点からも、引用発明1の反応に反応蒸留を選択することについて十分な動機付けがあったということができる。
(ト) 以上によれば、引用発明1の反応を担当する「PMC合成反応器」に反応蒸留器(連続多段蒸留塔)を選択することは、当業者が容易に想到し得たことであると認められる。
(チ) 被請求人は、甲第6号証記載のシミュレーションが省エネルギーの観点から検討されていることを挙げ、これを根拠に、そもそもこの結果を実用上可能であることすらわかっていない引用発明1に係る反応に適用しようとするはずがない、と主張している。
しかしながら、甲第7号証の第3図に記載された種類の平衡反応が、揮発成分の蒸留により平衡反応をずらすことにより、実用化することができるものであることは、甲第8ないし第10、第12号証に記載されたとおり既に知られていたことであり、また、この反応を実施しようとするとき、この種の反応装置として反応蒸留塔と蒸留塔付きバッチ反応器があることは予想することができることも、前述のとおりである。そして、甲第6号証は、上記二つのうち、どちらが有利かを検討する場合において、参考にし得るものなのである。
そうすると、甲第6号証記載の上記シミュレーションは、省エネルギーの観点から検討されたものではあるものの、そこからは省エネルギーのことしか分からない、などということはないのである。そして、その各グラフからは、エネルギー消費の観点のみならず、転化率の観点からも、両反応方式の優劣をみることができることは明らかである。すなわち、転化率を所与とすると、必要なエネルギーの多寡によって両方法の優劣を比較することができるし、逆に投入エネルギーを同じくしてどちらの方法が高い転化率を与えるかを比較することもできるのであるから、被請求人の上記主張には理由がない。
(リ) 被請求人は、反応速度が速いことを前提とした甲第6号証記載のシミュレーション結果を、反応速度が遅いことが知られた引用発明1に係る反応に適用することはできない、と主張している。
甲第6号証における「反応は,反応塔の棚上の合計滞留時間が十分であるべく充分に速くなければならない。」(甲第6号証253頁左欄2行〜4行)との記載は,表現が明確でなく、「反応塔の棚上の合計滞留時間が十分」がどの程度をもって十分と想定しているのか、「充分に速く」がどの程度をもって十分速いというのか必ずしも明りょうではない。しかし、反応が、少なくとも、実用可能な程度に平衡が生成物側にずれる程度に速くあるべきことは、「平衡をずらすと言う反応蒸留器の特別な能力」(甲第6号証253頁右欄13行〜14行)を蒸留塔付きバッチ反応器と比較するこのシミュレーションの前提として当然のことである。
そして、引用発明1の反応の反応速度は,遅いといってもバッチ式で平衡をずらしてPMCが製造できる程度には速い速度であるから(甲第7号証9頁右欄TAB.3)、瞬間反応ではないにしても反応を実用可能な程度にずらすことができる程度の速度ではあるということができる。
また、反応塔の反応液の滞留時間は,比較的広範囲に長くも短くもできるものである(本件明細書では、「滞留時間」について「通常0.001〜50時間」としている。また、甲第49号証に記載された反応蒸留では、反応は異なるものの、滞留時間は約2.4時間(甲第49号証4頁12行〜5頁3行)と時間単位で示される程度に長い時間をとることができることが知られている。)。
このような状況の下で、甲第6号証の上記記載が、引用発明1の反応に反応蒸留を適用することを思いとどまらせるものであるとすることはできないというべきである。
被請求人は、甲第6号証に記載されたシミュレーションは、同号証の(6)式(甲第6号証254頁左欄)に示されているように、非常に速く平衡に達する反応(瞬間反応)を前提としている、と主張している。しかし、甲第6号証におけるシミュレーションの前提となるモデル式は、単にそれ以降の計算を簡単にするための単純化したものにすぎない(甲第6号証253頁右欄〜254頁左欄)。このシミュレーションにおける単純化の意味は、シミュレーションは、一定の前提をおいた分析であるが、前提が重要な条件を満たしていれば、条件の一部に変更があってもそれによってどのような変化が生じるのか、ある程度は予測可能ということなのであり、予測可能であるからこそ、化学装置の設計にシミュレーションが頻繁に利用されるのである。
したがって、「反応は、反応塔の棚上の合計滞留時間が十分であるべく充分に速くなければならない。」としても、この要件を満たすものを、被請求人が主張するように瞬間反応に限定すべき理由はない。
また、被請求人は、甲第6号証に記載されたシミュレーションは、活性化エネルギーの低い反応であってかつ強い発熱反応でも強い吸熱反応でもない反応を前提としており(甲第6号証253頁左欄2行〜4行)、これらの条件を満足しない引用発明1の反応に甲第6号証に記載されたシミュレーションを適用することはできないとも主張している。しかし、甲第6号証に記載されたこれら2つの条件は、相対的な話にしかすぎず、しかも、「活性化エネルギー」、「発熱」、「吸熱」がどの程度になれば「反応塔」を適用することの利点がなくなるのかが明らかでなく、これらの適否を判断する基準が明確でないのであるから、これらの条件の記載の存在を引用発明1の反応に反応蒸留を適用することを思いとどまらせる根拠とすることもできない。
(ヌ) 被請求人は、引用発明1の塔頂成分であるメタノールは共沸混合物を形成して塔頂成分純度が70%を越えないほど低いのであるから、塔頂生成物の要求純度が99.9%程度と高い甲第6号証に記載された知見は、塔頂成分純度が70%を越えないほど低い引用発明1の反応へ適用することができないものである、と主張している。
しかしながら、甲第6号証の上記知見は、反応蒸留と蒸留塔付きバッチ反応との間の優位さの差が小さい場合(図6)であっても、塔頂生成物の要求純度を99.9%から98%へと下げれば(図7)、反応蒸留がはっきり有利になるというものである。すなわち、低沸点生成物Cと低沸点反応物Bの蒸留での分離が困難であると、BとCとの分離に要するエネルギーが増大する結果、反応蒸留の蒸留塔付きバッチ反応とのエネルギー上の優位性に差がなくなるものの、塔頂で得られる生成物C中に少々多くの反応物Bが混ざってもよいとする(塔頂生成物における生成物Cの要求純度を下げる)と、BとCとの分離に要するエネルギーが減少するため、反応蒸留のエネルギー上の優位性が明確になることを意味するものである。
したがって、塔頂の要求純度を下げると反応蒸留のエネルギー上の優位性が明確になるという甲第6号証の上記知見は、むしろ引用発明1の反応へ反応蒸留を選択する動機付けになるものである。
また、反応原料の一部が共沸混合物として塔頂から出てしまう場合は、甲第1号証の215頁に記載された反応例にもあるとおり、その原料を過剰に供給し、分離回収されたものから再利用する等の工夫で反応蒸留を実施することができるのであり、塔頂から共沸混合物が出ることは、反応蒸留の当該反応への適用を阻害することになるものではない。
(ル)そして、引用発明1の反応の反応器に、反応蒸留器(連続多段蒸留塔)を適用する場合において、副生する脂肪族アルコールを含む低沸点成分を蒸留によってガス状で連続的に抜き出すようにし、一方、生成したアルキルアリールカーボネートを含む高沸点成分を塔下部より液状で連続的に抜き出すようにすることは自明であり、反応蒸留器(連続多段蒸留塔)を適用する製造方法が連続的製造方法であることも自明である。
(ヲ) 以上のとおり、甲第6号証には、引用発明1の反応の反応器に、反応蒸留器(連続多段蒸留塔)を適用する強力な示唆があるということができるのであるから、本件第1発明は、引用発明1及び甲第6号証から容易に想到することができたものということができるものである。

(ろ)本件第1発明の効果についての判断

本件第1発明の構成に想到することは、上記のとおり、容易である。そして、その奏する効果として被請求人の主張するものは、単にその構成が奏する効果を確認したにすぎない程度のものである。このような効果によって、構成自体によっては進歩性の認められない本件第1発明に進歩性を認めることはできないところである。
しかも、甲第7号証記載の引用発明1に係る反応における「PMC合成反応器」に反応蒸留器(連続多段蒸留塔)を適用したものが、蒸留塔付きバッチ反応器に比し、高生産速度、高収率及び高選択率であるという作用効果を奏することは、次のとおり甲第6号証から予測されるものである。

(生産速度、収率について)

上記のとおり、平衡定数が小さい平衡反応において、蒸留塔付きバッチ反応におけるより反応蒸留の方が転化率(反応物量に対する全生成物量の割合であり、例えば,引用発明1の反応におけるDMC基準の転化率は、(PMC+アニソール)/DMCとなる。)が高いことが予測されることは、反応蒸留を採用する理由の一つであるから、本件第1発明において、反応蒸留を採用したことにより、蒸留塔付きバッチ反応を採用した場合よりも、転化率が高くなるのは当然の結果である。そして、収率は、転化率に選択率(生成物量に対する目的の生成物量の割合であり、例えば、引用発明1の反応におけるPMCの選択率は、PMC/(PMC+アニソール)となる。)を乗じたものである。引用発明1の反応におけるPMCの収率は、PMC/DMCとなるから、転化率及び選択率の両方が高ければ収率が高くなるのである。そして、選択率が反応蒸留において高くなることが予測されることは、下記の選択率についての項に記載したとおりであるから、本件第1発明において収率が高くなることは、当然予測されたことである。
したがって、平衡定数が小さい反応に反応蒸留を適用している本件第1発明に係る反応が、蒸留塔付きバッチ反応に比し、高生産速度、高収率であろうことは、十分に予測されたものである。
被請求人は、本件第1発明の高生産速度、高収率の効果について縷々主張しているが、本件第1発明の効果は単に反応蒸留を採用した場合に奏する効果にすぎないから、本件第1発明は当業者が予期し得ない格別の効果を奏するものとはいえないものである。
この点に関して、被請求人は、乙第11号証を提出し、本件発明の「実施例1」の結果は従来例(バッチ反応器を使用する例及び共沸剤を使用するする例)よりもジアリールカーボネートの生産速度と、選択率の点で優れている旨の主張をしているが(15年8月19日付け審判事件答弁書(第2回)、2〜3頁)、「実施例1」の結果は「連続多段蒸留塔」の使用において特定の反応条件、塔の使用条件(例えば、反応温度、反応液の供給と流出の速度、塔充填物の大きさ、空間率等。)を設定したときの結果であり、他方、反応温度、反応液の供給と流出速度、充填物の大きさ、空間率のような反応条件及び塔の使用条件は、本件の特許請求の範囲(請求項1)においては特定されていないのであるから、特定条件において生じる「実施例1」の結果は、「連続多段蒸留塔」を使用し反応と蒸留を連続的に行うという本件第1発明の構成要件のみによりもたらされるものであるとは認められないものである。

(選択率について)

甲第6号証の「結語」には、バッチ方式の方が反応蒸留より激しい熱的条件にさらされ選択率が低くなることが示されていることは、前記のとおりである。したがって、本件第1発明に係る反応における副反応であって熱分解反応であるアニソールの副生は、バッチ方式より反応蒸留において抑制されることは容易に予測されたことであり、その結果、PMCの選択率が高いことも容易に予測されたことである。


以上のとおりであり、本件第1発明は、甲第6、7号証に記載の発明に基づき、甲第1,5,8〜10,12,28〜30,49号証記載の発明及び周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明することができたものである。

(3-2)本件第2発明について

請求項2は、使用触媒が反応液に溶解性であることを規定したものである。しかし、甲第7号証記載の第1段及び第2段の反応で使用するチタン誘導体(触媒)が反応液に溶解性のものであることは明らかであるので、この点は本件第2発明と甲第7号証記載の発明とを対比したとき実質的な差異ではない。
そうすると、本件第2発明と甲第7号証記載の発明との相違点は、上記(3-1)(a)に記載したとおりであるが、これらの相違点については既に判断したとおりである。
したがって、本件第2発明は、甲第6、7号証に記載の発明に基づき、甲第1,5,8〜10,12,28〜30,49号証記載の発明及び周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明することができたものである。

(3-3)本件第3発明について

本件第3発明と甲第7号証記載の発明は、上記(3-1)(a)に記載した相違点に加え、請求項3の記載事項が発明の構成要件である点で相違する。そして上記(3-1)(a)に記載の相違点についての判断は既に述べたとおりである。
本件の請求項3における、使用触媒を固体触媒とし塔内に配置する点であるが、甲第3号証の第2頁の図には反応蒸留(蒸留塔を使用)による反応で塔内に固体触媒を配置することが記載されている。したがって、甲第7号証記載のDPC製造において、各反応工程において多段蒸留塔を使用する際、触媒として固体触媒を選びこれを塔内に配置することは当業者が必要に応じて適宜なし得ることと認められる。
よって、本件第3発明は、甲第6、7号証に記載の発明に基づき、甲第1,3,5,8〜10,12,28〜30,49号証記載の発明及び周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明することができたものである。

そして、被請求人のその余の主張を検討してみても上記結論は左右されるものではない。

VI むすび

以上のとおりであるから、本件第1〜3発明は、本件優先日前に頒布された甲第6,7号証に記載の発明に基づき、甲第1,3,5,8〜10,12,28〜30,49号証に記載の発明及び周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件第1〜3発明に係る特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-02-18 
結審通知日 2004-02-23 
審決日 2004-03-26 
出願番号 特願平2-408068
審決分類 P 1 112・ 121- Z (C07C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 脇村 善一  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 西川 和子
唐木 以知良
登録日 1997-11-14 
登録番号 特許第2133265号(P2133265)
発明の名称 芳香族カーボネート類の連続的製造法  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 松井 光夫  

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