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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1096210
異議申立番号 異議2003-71621  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-06-25 
確定日 2004-03-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3360073号「飲料」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3360073号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第3360073号の請求項1ないし5に係る発明についての出願は、平成13年2月22日に特許出願され、平成14年10月11日にその特許の設定登録がなされ、その後、株式会社伊藤園及び安江泰子より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年12月17日に訂正請求がされたものである。

II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
(a)特許請求の範囲の請求項1、2、3及び4において、特許請求の範囲の減縮を目的として「飲料」を「容器詰飲料」と訂正する。
(b)特許明細書の段落【0001】、【0005】、【0006】、【0007】、【0027】、【0028】、【0029】、【0031】、【0032】(2箇所)、【0039】において、明りょうでない記載の釈明を目的として「飲料」を「容器詰飲料」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項(a)については、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された「飲料」を「容器詰飲料」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
また、上記訂正事項(b)は、訂正事項(a)との整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、これら訂正事項は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する同法第126条第2項及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立
1.訂正明細書の請求項1ないし5に係る発明
訂正後の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1ないし5」という。)は、同日付の訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 次の非重合体成分(A)、非重合体成分(B)及び成分(C):
(A)非エピ体カテキン類、(B)エピ体カテキン類、(C)水溶性高分子を含有し、それらの含有重量が飲料500mL当り、
(イ)(A)+(B)=300〜2500mg
(ロ)(A)=70〜2250mg
(ハ)(A)/(B)=0.25〜9.0、
(ニ)(C)/((A)+(B))=1/20〜10/1
である容器詰飲料。
【請求項2】 飲料のpHが3〜7である請求項1記載の容器詰飲料。
【請求項3】 茶の抽出液に茶抽出物の濃縮物を添加したものである請求項
1又は2記載の容器詰飲料。
【請求項4】 半発酵茶、発酵茶から選ばれた茶の抽出液に茶抽出物の濃縮物を添加したものである請求項1〜3のいずれか1項記載の容器詰飲料。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれか1項に記載された飲料を容器に充填した容器詰飲料。

2.株式会社伊藤園よりの異議申立
A.異議申し立ての理由の概要
異議申立人は、下記の甲第1号証ないし甲第23号証を提出して、
(1)訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2ないし11号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであり、或いは甲第16号証、甲第18号証、甲第19号証又は甲第20号証に記載の発明と、甲第2号証ないし甲第11号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであり、また、訂正前の本件請求項2及び5に係る発明は、甲第1号証、甲第16号証、甲第18号証、甲第19号証又は甲第20号証に記載の発明、並びに甲第2号証ないし甲第11号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであり、さらに、訂正前の本件請求項3及び4に係る発明は、甲第1号証又は甲第16号証に記載の発明、甲第2号証ないし甲第11号証に記載の発明、並びに甲第18号証又は甲第19号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、
(2)本件の特許請求の範囲の記載は明確でないから、同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、及び
(3)本件明細書は当業者が容易に実施できるように記載されていないから、同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、
旨主張している。

甲第1号証:朝賀昌志“加熱緑茶飲料の抗菌物質の検索”、第37回財団
法人東洋食品研究所顧問会 研究報告要旨(開催日:平成1
0年10月9日、開催場所:東洋食品工業短期大学講堂)、
23〜30頁及びその証明書
甲第2号証:日本味と匂学会誌 Vol.6、No.3、1999年12
月発行、665〜668頁
甲第3号証:堀江秀紀ら“茶の味成分に関する新たな検討 2.玉露の味
についての考察”日本味と匂学会誌. Vol.7、No.
3、2000年12月発行、611〜614頁
甲第4号証:Beverage Japan No.98、1990年2
月号、71〜72頁
甲第5号証:Beverage Japan No.99、1990年3
月号、8頁
甲第6号証:特開2000-228953号公報
甲第7号証:社団法人菓子総合技術センター“分岐サイクロデキストリン”
菓子用新素材の適正利用技術シリーズNo.13、昭和63
年3月24日発行、22頁
甲第8号証:特開平10-4919号公報
甲第9号証:村山涼二“清涼飲料の最近の技術動向”食品工業 第41卷
第13号、1998年7月15日、45〜49頁
甲第10号証:Beverage Japan No.111、1991
年3月号、16頁
甲第11号証:Beverage Japan No.195、1998
年3月号、21頁
甲第12号証:「新茶業全書」社団法人静岡県茶業会議所編、昭和63年
10月1日発行、476〜481頁
甲第13号証:Yoshihiro Komatsu et al.
”Effect of pH and Temperat
ure on Reaction Kinetics
of Catechchins in Green Te
a Infusion”.Biosci.Biochem
.,57(6)、1993、907〜910頁
甲第14号証:朝賀昌志“緑茶飲料の抗菌効果に及ぼす加熱の影響”、
第36回財団法人東洋食品研究所 顧問会議事録(開催日
:平成9年10月9日、開催場所:東洋食品工業短期大学
講堂)、11〜23頁
甲第15号証:末松伸一ら“茶類飲料缶詰の成分変化に及ぼすpHの影響”
日本食品工業学会誌、第39卷第2号、1992年2月、
178〜182頁
甲第16号証:特開平8-298930号公報
甲第17号証:特開平10-36260号公報
甲第18号証:特開平6-311875号公報
甲第19号証:特開2000-256345号公報
甲第20号証:特開平3-164136号公報
甲第21号証:中川到之“茶の品質とカテキンに関する研究”茶業試験場
研究報告,第6号、農林省茶業試験場、昭和45年3月
24日発行、100〜105頁
甲第22号証:特開平4-311348号公報
甲第23号証:「新茶業全書」社団法人静岡県茶業会議所編、昭和63年
10月1日発行、476〜477頁

B.甲各号証の記載内容
甲第1号証には、「加熱緑茶飲料の抗菌物質の検索」との表題の下に、「今回、緑茶加熱生成抗菌物質を同定するために、緑茶と紅茶、ウーロン茶の抗菌活性とカテキン類を比較し、加熱緑茶飲料からの分離精製を試みたので報告する。」(23頁10〜11行)、及び「緑茶、紅茶の各飲料の高速液体クロマトグラムを図3に示す。同様の方法で分析した没食子酸とカテキン類の組成を表1に示す。・・・未加熱緑茶ではEGCgとEGCで大半を占
め、ECgとECは少なく、加熱処理により緑茶カテキン類はエピマー化し
た。・・・総カテキンに対するカテキンの割合を見ると、緑茶は未加熱も加
熱した試料もどちらもカテキン類が総カテキンの90%を占めた。」(24
頁14〜20行)と記載され、表1(29頁)には、各種茶飲料のカテキン
類組成が示され、この表1中の120℃加熱の緑茶飲料のカテキン量が97.1mg/100mlであることが示されている。
甲第2号証には、「ペクチンが渋味を修飾していることが示唆された。そこで、茶浸出液やカテキン類溶液にペクチンを添加して官能検査したところ、5人の被験者のうち3人に渋味の緩和効果が感ぜられた。」(667頁2〜4行)及び「「火入れ」及び「深蒸し」において苦渋味が緩和されるのは、これらの工程において増加するペクチンが、茶カテキン類の渋味を抑制するためである。」(668頁6〜8行)と記載されている。
甲第3号証には、「玉露由来の多糖類についても、・・・・・玉露飲用時にカテキン類に由来する渋味を緩和している可能性が高い。実際にカテキン類やタンニン酸の水溶液(1,000mg/l)の濃度で共存させると、これら渋味物質を口に含んだときの渋味が緩和されることが指摘された。」(612頁)と記載されている。
甲第4号証には、ポリデキストロースを添加した茶飲料が市販されていることが、甲第5号証には、ポリデキストロースを添加した烏龍茶が市販されていることが、それぞれ記載されている。
甲第6号証には、「【請求項3】粉末茶の沈降防止のための増粘多糖類が更に添加されている請求項2記載の抹茶飲料」(特許請求の範囲)及び「【請求項6】前記増粘多糖類は、ネイティブジェランガム、キサンタンガム、及びデキストリンからなる群より選ばれる一つ以上のものであることを特徴とする請求項3から5いずれか記載の抹茶飲料」(特許請求の範囲)と記載されている。
甲第7号証には、「7.分岐サイクロデキストリンの利用例と効果」との見出しの下に「分岐CDやCDの利用は、その特殊な包接機能を活用し、揮発性成分の保持、特異臭のマスキング、苦味の除去、・・・・・などを目的とし、食品の品質向上、付加価値向上をはかるもので、・・・・・」(22頁)と記載されている。
甲第8号証には、「【請求項1】カテキン類1重量部に対して、カフェインを0.1重量部以下の量で含有し、サイクロデキストリンを0.1〜20.0重量部の量で含有していることを特徴とする飲食物。」(特許請求の範囲)及び「本発明では、これらのサイクロデキストリンのうちでは、β-サイクロデキストリンが特に苦味・渋味の低減効果に優れるため好ましい。」(4頁5欄9〜11行)と記載されている。
甲第9号証には、「「十六茶」(アサヒ飲料);ハトムギ、緑茶、大麦、玄米、大豆、ハブ茶、ウーロン茶、昆布、ヨモギ、霊芝、クコ、熊笹、柿の葉、シイタケ、アマチャヅル、ミカンの皮、ビタミンC」(46頁)と記載されている。
甲第10号証には、「「華茶果茶」は、中国産の半発酵茶にライチ果汁をブレンドしたもの。」(16頁)と記載されている。
甲第11号証には、「「天地人 すらっと茶」は、ハト麦をベースに3種類の野菜を含む8種類の自然の素材をブレンドした無糖茶飲料。」(21頁)と記載されている。
甲第12号証には、「緑茶中には、苦味、渋味のあるタンニン、・・・・・など、種々の可溶性の味成分が含まれている。」(477頁2〜4行)及び「茶のタンニンであるカテキンの味の特徴は、遊離型カテキンは渋味が弱く、温和な苦味があり、ガレートのタイプのものは強い苦渋味があるが、・・・・・比較的さらりとしていることである。」(477頁13〜16行)
と記載されている。
甲第13号証には、「-ECはそのエピマーである-Cに変化したと思われる。・・・・・本結果は、反応生成物がpH5.5以下では-ECの減少とともに比例的に増加し、pH6.0以上では著しく減少し、溶液の褐色化が加速されることを示した。」(908頁左欄〜右欄)と記載されている。
甲第14号証には、緑茶飲料の抗菌効果に及ぼす加熱の影響について記載され、そこにはさらに「緑茶飲料を加熱殺菌するとエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートの緑茶カテキン類が減少することが報告されている。異性化では、加熱でエピカテキンがエピマーであるカテキンになることが報告されている。」(11頁下から6〜4行)、「緑茶カテキン類の加熱に伴う変化を図7に示した。4種類の緑茶カテキン類エピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピカテキンが加熱により減少し、それに伴いこれらのエピマーが増加した。」(15頁6〜8行、22頁図7)、及び「緑茶飲料を100℃以上の温度で加熱することにより、緑茶飲料の抗菌活性が増加することが少なくとも明らかになった。この抗菌活性を示す成分は未同定であるが、カテキン除去でカテキン類と同様の挙動を示すことから、カテキン類の異性化物、重合物、分解物が関係していると考えられる。」(16頁8〜11行)と記載され、また、市販日本茶系飲料の総カテキンと可溶性固形分の関係が図示されている(20頁図3参照)。
甲第15号証には、「緑茶缶詰の加熱殺菌により-ECが減少し、逆に+Cの増加するのがわかった。・・・・・従って、緑茶缶詰の加熱における+Cの増加については抽出直後において+Cは非常に少ないのに対し、-ECが多くこれが加熱により+Cに異性化するためと考えられる。」(181頁左欄)と記載されている。
甲第16号証には、「【請求項1】 渋みを低減した茶抽出物または茶飲料。【請求項2】 ポリフェノール類を配糖化することにより渋みを低減した茶抽出物または茶飲料。【請求項3】 茶抽出物または茶飲料が、不発酵茶,半発酵茶,発酵茶,後発酵茶などの茶葉を原料としたものである請求項1記載の渋みを低減した茶抽出物または茶飲料。【請求項4】 茶抽出物または茶飲料をデキストリン,サイクロデキストリンおよび澱粉のうちの少なくとも1種と混ぜ、これにサイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることを特徴とする渋みを低減した茶抽出物または茶飲料の製造方法。【請求項5】 サイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼが バチルス・ステアロサーモフィラス由来のものである請求項4記載の茶抽出物または茶飲料の製造方法。 【請求項6】 請求項1記載の渋みを低減した茶抽出物または茶飲料を含有する飲食物。」(特許請求の範囲)、「本発明の目的は、茶に含まれる生理活性成分を含んだままで、渋みを低減した茶抽出物または茶飲料を提供することである。さらに、渋みを低減した茶抽出物または茶飲料を飲食物をはじめとして、化粧品,医薬品などの広い分野で十分に活用できるようにすることである。」(段落【0004】)、「本発明者らは茶抽出物または茶飲料の渋みの低減に関して、・・・茶抽出物または茶飲料をデキストリン,サイククロデキストリン,澱粉もしくはこれらの混合物と混ぜ、これにサイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることによって、渋みを低減した茶抽出物または茶飲料が得られることを見いだした。」(段落【0005】)、「本発明は、渋みを低減した茶抽出物または茶飲料、より具体的にはポリフェノール類を配糖化することにより渋みを低減した茶抽出物または茶飲料に関し、さらに茶抽出物または茶飲料をデキストリン,サイクロデキストリンおよび澱粉のうちの少なくとも1種と混ぜ、これにサイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることを特徴とする渋みを低減した茶抽出物または茶飲料の製造方法に関する。」(段落【0006】)、「上記の実施例および対照例で得た各粉末ならびに原料の緑茶抽出物(商品名:ポリフェノン60、三井農林株式会社製)を該緑茶抽出物の濃度で2000ppm相当となるように溶解した。」(段落【0022】)、及び「本発明の渋みを低減した茶抽出物および茶飲料は、生理活性成分であるポリフェノール類を含んだままで、従来の茶飲料や茶抽出物が持つ強い渋みが効果的に改善されている。そのため、このものは飲食物のみならず、嗜好品,化粧品,医薬部外品,医薬品などの広い分野に応用可能である。」(段落【0036】)と記載されている。
甲第17号証には「ポリフェノン60(三井農林株式会社製、組成:(-)エピガロカテキン 21.0%,(-)エピカテキン 7.3%,(-)エピガロカテキンガレート 29.2%,(-)エピカテキンガレート 7.9%)等がある。」(段落【0009】)と記載されている。
甲第18号証には、「飲料にポリフェノール類成分を添加し、沸点未満の加熱温度で高圧加圧して殺菌処理を行うことを特徴とする飲料の処理方法。」(特許請求の範囲)、「本発明において処理対象とする飲料としては、・・・・・例えば、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶、コーヒーなどが挙げられる。」(段落【0009】)及び「本発明においてポリフェノール類成分としては、発酵茶から抽出して得られるポリフェノール類、例えば没食示酸、クエルセチン、ケムフェロール、・・・・・テオガリンなどのデプシドなどを使用することができるが、特にテアフラビンが有効である。」(段落【0010】)と記載されている。
甲第19号証には、「ポリフェノール類のその他の機能としては、・・・・・紅茶、緑茶、ウーロン茶、・・・・・等の飲食品に添加してその商品価値を高めることができる。」(段落【0026】)と記載されている。
甲第20号証には、「(a)水少なくとも80重量%:(b)カテキン・・・群より選択されるフラバノール類少なくとも0.05重量%:及び(c)フルーツフレーバー、・・・群より選択されるフレーバー物質少なくとも0.2重量%:を含むことを特徴とする飲料。」(特許請求の範囲の請求項1)、及び「飲料中におけるカテキン類又はフラバノール類の量は様々である。しかしながら、少なくとも約0.02%が用いられ、約0.05〜約1.0%が好ましい。」(4頁左下欄下から3行〜右下欄1行)と記載されている。
甲第21号証には、「カテキンの味質を検討したところ、遊離型カテキンは苦味を呈し、・・・・・エステル型カテキンは強い苦味と瞬間的な収れん味はあるが、・・・・・」(105頁)と記載されている。
甲第22号証には、緑茶飲料の製造法に関し「・・・・・その後抽出液のpHを約5.5〜7.0の中性域に調整してから、瓶、プラスチック容器等の好ましくは透明容器に詰め、常法によって殺菌処理を行い、・・・・・」
(段落【0008】)と記載されている。
甲第23号証には、煎茶中にアミノ酸類、遊離還元糖、水溶性ペクチン、可溶分などの味成分が含まれていることが記載されている。(476頁の表2参照)

C.判断
(1)特許法29条2項違反について
(本件発明1について)
(一)先ず、異議申立人が主張する異議理由・根拠の1、即ち、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明と甲第2ないし11号証に記載の発明を組み合わせることにより、当業者において容易に想到し得たものであるとの主張について検討する。
甲第1号証には、上記したように、未加熱と120℃に加熱した緑茶中に含まれるカテキン類の組成が示され、これを本件発明1にならって、飲料500mL当たりの各カテキン量として計算すると、
未加熱 120℃加熱
(A) 非エピ体カテキン 21.65 234.9
(B) エピ体カテキン 443.0 250.6
となり、120℃加熱処理した緑茶の場合、(A)+(B)=485.5、(A)=234.9、(A)/(B)=0.937と換算される。
これら数値をみると、甲第1号証の表1に記載の120℃加熱処理後の緑茶飲料は、本件発明1において特定する(イ)、(ロ)、(ハ)の条件を満たすものであるということはできる。
しかしながら、以下に示す理由により、甲第1号証の表1に記載の120℃加熱処理後の緑茶飲料は、「流通させる緑茶飲料(容器詰緑茶飲料)」を想定して調整した緑茶サンプルではないというべきである。
すなわち、(i)甲第1号証は、緑茶飲料を100℃以上に加熱処理することで緑茶の抗菌活性が増加したという知見に基づいて、緑茶を加熱することで生成する抗菌活性物質を同定するために、緑茶等の抗菌活性とカテキン類を比較分析し、その実験結果を示したものであるが、該抗菌活性物質の検索、同定においては、カテキン類を高濃度で含む緑茶をサンプルとして用いた方が検索、同定し易いことは容易に予想でき、表1に記載の上記緑茶は「該抗菌活性物質の同定用サンプル」であると解するのが自然であること、(ii)一般に緑茶を「容器詰緑茶飲料」として製品化する場合には、緑茶の呈味性、外観、貯蔵安定性等について販売用緑茶飲料としての適性を検討するのが通常であるところ、甲第1号証の表1に記載の120℃加熱緑茶飲料が、「容器詰緑茶飲料」としての適性がある旨の記載は甲第1号証の何処にもないこと、(iii)甲第1号証の「1.茶飲料の調製法 茶飲料の調製には一度煮沸脱気した純水を用いた。緑茶は60℃・・・の純水に茶葉を加え撹拌後、250メッシュ ナイロン濾布で濾した。」という記載からは、甲第1号証に記載の緑茶飲料が、従来公知の「容器詰緑茶飲料」と同一の浸出条件で製造されたものか否か不明である(甲第1号証の上記箇所には、純水と茶葉の使用量、浸出時間等の数値が具体的に記載されていない。)こと、及び(iv)異議申立人が提出した甲第1ないし23号証の証拠からは、本件特許の出願時にHPLC法で測定して少なくとも300mg/500mLのカテキン類を含有する緑茶が、市販緑茶飲料として公知あるいは周知であったという事実は見出せない(本件明細書の段落【0033】の記載からみて、本件発明1においては、HPLC法でカテキン類の含有量を測定しているものと認める。)こと、以上の事実を踏まえると、甲第1号証の表1に記載の緑茶飲料は、緑茶中の抗菌活性物質を同定する実験に供した単なるサンプルであると認めるのが相当である。
上記したとおり、甲第1号証の表1に記載の120℃加熱処理した緑茶は、抗菌活性物質を検索、同定するためのサンプルであり、甲第1号証には、上記緑茶が「容器詰緑茶飲料」として適性があることを教示する記載は何もないのであるから、茶飲料にペクチン、ポリデキストロース、キサンタンガム等の水溶性高分子を添加して、茶の苦味、渋味を軽減することが甲第2ないし11号証に記載されていることを考慮したとしても、甲第1号証の記載に基づいて本件発明1のような容器詰飲料とすることは、当業者において容易に想到し得ることではない。
そして、本件発明1は、請求項1に記載の構成を採用することにより、カテキン類を高濃度に含有しながら、苦味、渋味等の呈味が改善され、更にのどごし感も良好である等特許明細書に記載されたとおりの効果を奏するものである。
したがって、異議申立人の上記主張は採用しない。

(二)次に、異議申立人が主張する異議理由・根拠の2、即ち、本件発明1は、甲第16号証、甲第18号証、甲第19号証又は甲第20号証に記載の発明と、甲第2号証ないし甲第11号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるとの主張について検討する。
甲第16号証には、ポリフェノン60(三井農林株式会社製)を緑茶抽出物の濃度で2000ppmとなるように溶解したと記載され、甲第17号証には、ポリフェノン60(三井農林株式会社製)の組成が「(-)エピガロカテキン 21.0%,(-)エピカテキン 7.3%,(-)エピガロカテキンガレート 29.2%,(-)エピカテキンガレート 7.9%」であることが記載されている。
かかる記載を捉えて、異議申立人は、ポリフェノン60(三井農林株式会社製)を緑茶抽出物の濃度で2000ppmとなるように溶解した溶液を飲料として製品化すれば、本件発明1の(イ)の条件を満たす飲料となる旨主張するが、上記「ポリフェノン60(三井農林株式会社製)を緑茶抽出物の濃度で2000ppmとなるように溶解した溶液」は、以下に示すとおり、
製品化を前提とした緑茶飲料ではないというべきである。
甲第16号証に記載の発明は、茶抽出物または茶飲料をデキストリン、サイクロデキストリン、澱粉もしくはこれらの混合物と混ぜ、これにサイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることによって、茶抽出物または茶飲料の渋味を低減化したものである。
異議申立人が指摘する「上記の実施例および対照例で得た各粉末ならびに原料の緑茶抽出物(商品名:ポリフェノン60、三井農林株式会社製)を該緑茶抽出物の濃度で2000ppm相当となるように溶解した。」との箇所は、それに続く「これら3種類のサンプルについて3点比較法で試験を行い、渋味が少ないものを選択させ評価した。なお、官能検査は20人のパネラーに対して行った。」との記載から明らかなように、上記サイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることによる渋味低減効果を確認する目的でなされた比較実験について説明した箇所であり、しかも、「原料の緑茶抽出物(商品名:ポリフェノン60、三井農林株式会社製)を該緑茶抽出物の濃度で2000ppm相当となるように溶解した。」という記載でもって示される緑茶サンプルは、渋味等の呈味性に問題がある比較例として扱われている。
上記比較実験においては、カテキン類を高濃度で含む緑茶飲料を対照サンプルとして選択した方が、サイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ作用による渋味低減効果をより強調できることは容易に予想できることであり、上記対照サンプルは単なる比較実験用サンプルであると解されること、加えて、甲第16号証には、従来公知の茶飲料に比べて高濃度のカテキン類を含有する茶飲料を提供するという技術的課題について言及する記載は何もないこと、及び異議申立人が提出した甲第1ないし23号証の証拠からは、本件特許の出願時にHPLC法で測定して少なくとも300mg/500mLのカテキン類を含有する緑茶が、市販緑茶飲料として公知あるいは周知であったという事実は見出せないことを併せ考慮すると、甲第16号証において比較例(対照例)として示される緑茶飲料は、甲第16号証に係る発明における上記酵素作用の効果を確認する比較実験に供した単なる実験用サンプルであるというべきである。
してみると、茶飲料にペクチン、ポリデキストロース、キサンタンガム等の水溶性高分子を添加して、茶の苦味、渋味を軽減することが甲第2ないし11号証に記載され、かつ、本件特許の出願時に容器詰茶飲料を加熱殺菌することが当業者の慣用手段であったことを考慮したとしても、甲第16号証の記載に基づいて本件発明1のような容器詰飲料とすることは、当業者において容易に想到し得ることではない。

また、甲第18号証には、飲料にテアフラビンなどのポリフェノール類成分を添加し、加熱殺菌処理を行って飲料を製造することが、甲第19号証には、紅茶、緑茶、ウーロン茶等の茶飲料にポリフェノール類を添加できることが、甲第20号証には、水少なくとも80重量%、カテキン・・・群より選択されるフラバノール類少なくとも0.05重量%、及びフルーツフレーバー、・・・群より選択されるフレーバー物質少なくとも0.2重量%を含む飲料が、それぞれ記載されているが、これらの刊行物には、カテキン類を高濃度で含む飲料としたときに苦味、渋味が強すぎる等の本件発明1の技術的課題について言及する記載は何もなく、まして飲料500mL当たりの非エピ体カテキン類(A)とエピ体カテキン類(B)の含有量について、(A)+(B)=300〜2500mg、(A)=70〜2250mg、及び(A)/(B)=0.25〜9.0とすることを教示する記載は何もない。
そして、本件発明1は、上記構成を採用することにより、カテキン類を高濃度に含有しながら、苦味、渋味等の呈味が改善され、更にのどごし感も良好である等本件明細書に記載されたとおりの効果を奏するものである。
してみると、茶飲料にペクチン、ポリデキストロース、キサンタンガム等の水溶性高分子を添加して、茶の苦味、渋味を軽減することが甲第2ないし11号証に記載され、かつ、本件特許の出願時に容器詰茶飲料を加熱殺菌することが当業者の慣用手段であったことを考慮したとしても、甲第18号証、甲第19号証又は甲第20号証の記載に基づいて本件発明1のような容器詰飲料とすることは、当業者において容易に想到し得ることではない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用しない。

(三)さらに、異議申立人が主張する異議理由・根拠の3、即ち、本件発明1の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の条件で規定される範囲はあまりに広く、その全ての範囲で本件発明1の苦味、渋味の改善効果が認められるとはいえないから、本件発明1の進歩性は認められないとの主張について検討する。
本件明細書には、水溶性高分子として食品添加物で使用できる水溶性高分子が具体的に挙げられている(段落【0020】、【0021】参照)こと、本件発明1の上記(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の条件の技術的意義について明確に記載されている(段落【0014】、【0018】、【00119】、【0024】参照)こと、本件明細書の実施例1ないし11において、本件発明1で規定する上記(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の条件を満たすことにより、本件明細書に記載の効果が奏されることが具体的に裏付けられていること、及び異議申立人は、水溶性高分子を用い、かつ本件発明1の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の条件を満していても、本件明細書に記載の苦味、渋味の改善効果が奏されないことがあり得ることを客観的に裏付ける試験データを何ら提出していないことを併せ考慮すると、本件発明1は、水溶性高分子を用い、かつ上記(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の条件を満たすことにより、本件明細書に記載されたとおりの効果を奏するものと認めるのが相当である。
したがって、異議申立人の上記主張は採用しない。

(本件発明2及び5について)
本件発明2及び5は、本件発明1を引用する発明であるところ、甲第22号証に飲料のpHを3〜7にすることが一般的であることが記載されていることを参酌したとしても、本件発明2及び5は、本件発明1の上記判断と同様の理由により、甲第1号証、甲第16号証、甲第18号証、甲第19号証又は甲第20号証に記載の発明、並びに甲第2号証ないし甲第11号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

(本件発明3及び4について)
本件発明3及び4は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1の上記判断と同様の理由により、甲第1号証又は甲第16号証に記載の発明、甲第2号証ないし甲第11号証に記載の発明、並びに甲第18号証又は甲第19号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

(2)特許法36条6項違反について
異議申立人は、請求項1に記載の「水溶性高分子」がどんな物であるか不明確であり、また、請求項1に記載の「(C)の量」が、文言通り飲料中の水溶性高分子の総量であるのか、それとも、別途添加する水溶性高分子の量であるのか不明瞭である旨主張する。
しかし、本件明細書には、請求項1に記載の「水溶性高分子」の例として多数の物質が例示されており、かかる記載に基づいて当業者は具体的な物を想定できるし、また、上記「(C)水溶性高分子の量」は、文言通り容器詰飲料中の水溶性高分子の総量を意味することは明らかである。
したがって、異議申立人の上記主張は採用しない。

(3)特許法36条4項違反について
異議申立人は、本件発明1では「(ハ)(A)/(B)=0.25〜9.0」を要件としているが、本件明細書の記載からは、どのようにすれば(A)/(B)の比率をこの範囲に調整できるのか不明であり、まして、実施例1ないし11以外の条件で、本件発明1が特定する(イ)〜(ハ)の条件を満足する飲料を製造することは困難であり、本件明細書は当業者が容易に実施できるように記載されているとは認められない旨主張する。
しかし、本件明細書には、エピ体カテキン類を非エピ体カテキン類に転換する方法が具体的に記載されている。(例えば、段落【0017】参照)
さらに、本件明細書の実施例には、上記(イ)〜(ハ)の条件を満たす飲料とするために市販カテキン製剤AないしCが使用できることが記載され、かつ、これらの市販カテキン製剤のカテキン類含有量、非エピ体含有量、及び配合量が具体的に記載されているのであるから、これらの記載に基づいて当業者は上記(イ)〜(ハ)の条件を満たす飲料を製造することができるものと認める。
したがって、異議申立人の上記主張は採用しない。

3.安江泰子よりの異議申立
A.異議申し立ての理由の概要
異議申立人は、下記の甲第1号証ないし甲第9号証を提出して、
(1)訂正前の本件請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明、或いはこれらの証拠に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第1項第3号、或いは同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである、
(2)本件明細書の発明の詳細な説明の記載に不備があり、訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、及び
(3)特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるとは言えないことから、訂正前の本件請求項1ないし5に係る発明は、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、
旨主張している。

甲第1号証:特開平6-256180号公報
甲第2号証:特開2000-116327号公報
甲第3号証:特開2000-228953号公報
甲第4号証:ビバリッジ ジャパン No.206(平成11年2月
15日発行)
甲第5号証:ビバリッジ ジャパン No.213(平成11年9月
20日発行)
甲第6号証:ビバリッジ ジャパン No.214(平成11年10月
20日発行)
甲第7号証:特開2001-158号公報
甲第8号証:「食品と開発」Vol.35(6)2000年6月1日発行
甲第9号証:特開平4-346937号公報

B.甲各号証の記載内容
甲第1号証には、腸内環境改善組成物に関し「実施例1 タンニン類として、茶の熱水抽出物の限外濾過膜処理画分を凍結乾燥した粉末を、水溶性食物繊維として、グアーガム粉末にアスペルギルス属菌由来のβ-マンナーゼを40〜45℃で24時間を作用させた後、噴霧乾燥した粉末を、それぞれ用いて、重量比で1:17となるように混合し、本発明組成物を得た。得られた組成物のタンニン類の成分組成は、(+)-カテキン 3.5%,(+)-ガロカテキン 14.8%,(+)-ガロカテキンガレート 11.6%
,(-)-エピカテキン 7%,(-)-エピカテキンガレート 4.6%,
(-)-エピガロカテキン 15.0%及び(-)-エピガロカテキンガレート 18.0%であった。・・・・・実施例2 実施例1で得られた本発明品100gにアップルフレーバー2gと水を加えて全容2リットルとし、
滅菌済褐色ビン(110ml)に100mlずつ充填、アルミキャップで密封後、120℃、30分間滅菌し、本発明品入りドリンク(A)20本を調製した。」(4頁の実施例1及び2)と記載されている。
甲第2号証には、茶飲料に関し「本発明において利用されるフコイダン含有物の主成分であるフコイダンは、主としてフコースからなる分子量10万前後の硫酸化多頭類であって、フコース単位の一部は硫酸エステル化されている。」(2頁2欄40〜43行)、「本発明に従い、フコイダン含有物を茶抽出液に添加すれば、茶飲料製造後の保存期間に生じる綿状沈殿物(フロック)等の二次沈殿の発生を防止することができる。また、本発明によれば、フコイダン含有物を添加することにより、茶本来の良好な風味を失うことなく、まろやかで飲みやすい風味豊かな茶飲料とすることができる。なお、苦味を有する茶飲料においては、苦味の低減効果も認められる。」(3頁4欄1〜8行)、及び「実施例1 静岡産緑茶(やぶきた種)25gを75℃のイオン交換水1kgに添加し、3分間静置抽出する。100メッシュステンレスフィルターを用いて茶葉を粗濾過後、30℃以下に冷却した抽出液を3000回転/分10分処理して、清澄液を得る。この清澄液を3倍希釈後、品質安定化のためアスコルビン酸ナトリウム50mg%を添加し、重曹を加えてpHを6.0に調整する。さらにオキナワモズク抽出物(・・・・・フコイダン含量70%)を、・・・・・添加して撹拌する。それらを190g缶に入れ、121℃で10分間の殺菌処理を行って本発明製品を得た。」(3頁実施例1)と記載されている。
甲第3号証には、「ジェランガム、キサンタンガム、カードランなどの増粘多糖類は(・・・・・)、増粘剤、安定剤、ゲル化剤に分類される食品添加物であり、水中の粒子の分散や油脂の乳化を安定させたりする働きをするものである・・・・・」(3頁4欄21〜25行)と記載され、さらに牛乳14.5%、グラニュー糖5.6%、抹茶0.4%、乳化剤0.04%、安定剤(増粘多糖類)0.25%、V.E製剤0.03%、クチナシ青色素0.011%、アスコルビン酸Na0.03%、重曹0.01%の配合割合からなる抹茶飲料(4頁抹茶飲料配合表)が記載されている。
甲第4号証には、「『冷し抹茶』(280g、3pスチール缶)は、97年2月に発売した同名商品の中身・・・・・原材料表記は、砂糖、抹茶、香料、ビタミンC、安定剤(増粘多糖類)。」(28頁)と記載されている。
甲第5号証には、「『クリーミーティー』(280g、3pスチール缶、・・・・・)は、コクのある紅茶と生クリームを使用。区分は紅茶飲料。原材料表記は、牛乳、砂糖、脱脂粉乳、紅茶、クリーム、香料、乳化剤、安定剤(カラギナン)。」(8頁)と記載されている。
甲第6号証には、「『抹茶』は、生乳50%に宇治の玉露と抹茶を使用。無脂乳固形分5.5%、乳脂肪分2.2%。原材料表記は、生乳、乳製品、ぶどう糖果糖液糖、抹茶、玉露、セルロース、香料、乳化剤、安定剤(増粘多糖類)。」(11頁)と記載されている。
なお、甲第7ないし9号証に記載された事項の摘記は省略する。

C.判断
(1)特許法29条1項3号違反について
甲第1号証の実施例1には、茶の熱水抽出物の限外濾過膜処理画分を凍結乾燥した粉末と水溶性植物繊維であるグァーガム酵素分解物を噴霧乾燥した粉末を重量比で1:17で混合した組成物が記載され、該組成物のタンニン類の成分組成が、(+)-カテキン 3.5%,(+)-ガロカテキン 14.8%,(+)-ガロカテキンガレート 11.6%,(-)-エピカテキン 7%,(-)-エピカテキンガレート 4.6%,(-)-エピガロカテキン 15.0%及び(-)-エピガロカテキンガレート 18.0%であることが記載されている。
また、その実施例2には、上記組成物100g、アップルフレーバー2gと水を加え全容2リットルとし、滅菌済褐色ビン(110ml)に100mlずつ充填、密封した後、加熱殺菌して容器入りドリンクを製造することが記載されている。
かかる記載を捉えて、異議申立人は、水溶性高分子を用い、かつ本件発明1で特定する(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の条件を満たす容器入り茶飲料は、甲第1号証に記載されている旨主張する。
上記主張について検討すると、一般に茶の熱水抽出物には、タンニンだけでなく、テアニン、カフェイン、糖類、他の水溶性可溶成分等が含まれており、甲第1号証に記載の「茶の熱水抽出物の限外濾過膜処理画分を凍結乾燥した粉末」には、タンニン以外にも多数の成分が含まれているものと推認できるが、甲第1号証には、上記限外濾過膜処理画分を凍結乾燥した粉末のタンニン濃度について触れる記載は全くない。(実施例1には、組成物のタンニン類の成分組成として、各種カテキンの含有比率が記載され、これらを合計すると74.5%となるが、茶の抽出物に含まれるカテキン類総量は7.2%程度であり、他にテアニン、カフェイン、糖類等の水溶性可溶成分が多量に含まれていることを考えると、上記粉末に占めるタンニン総量が74.5%であるということは不自然であり、あり得ない。)
そうすると、甲第1号証の実施例2に記載の容器入り飲料のカテキン類の含有量を算出できないことは明らかであり、本件発明1で特定する(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の条件を満たす容器入り茶飲料が甲第1号証に記載されているということはできず、異議申立人の上記主張は採用しない。
甲第2号証には、緑茶にモズク抽出物等のフコイダン含有物を添加することにより、製造後の保存時においても綿状沈殿物等の二次沈殿を生じることなく、しかも風味の良い茶飲料を製造することが、甲第3号証には、粉末茶の沈降防止のための増粘多糖類(水溶性高分子)を添加して抹茶飲料を製造することが、甲第4号証には、安定剤として増粘多糖類を添加した抹茶飲料が、甲第5号証には、安定剤としてカラギナンを添加した紅茶飲料が、甲第6号証には、安定剤として増粘多糖類を添加したミルク仕立て抹茶飲料が、それぞれ記載されているが、本件発明1で特定する(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の条件を満たす容器入り茶飲料については何も記載されていない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明であるということはできない。
また、本件発明2ないし5は、請求項1を引用する発明であるから、本件発明1における判断と同様に、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明であるということはできない。

(2)特許法29条2項違反について
当該技術分野において、カテキン類は、コレステロール上昇抑制作用等の生理作用を有することが知られ、多量のカテキン類を容易に摂取できる形態の飲料が望まれていたが、生理的有用性を目的としてカテキン類を高濃度配合した場合、得られる飲料は苦味、渋味が強すぎるものになってしまうという問題があったところ、本件発明1は、飲料500mL当たりの非エピ体カテキン類(A)とエピ体カテキン類(B)の含有量を、(A)+(B)=300〜2500mg、(A)=70〜2250mg、及び(A)/(B)=0.25〜9.0の範囲にすると共に、水溶性高分子(C)を「(C)/((A)+(B))=1/20〜10/1」の範囲で含有させることにより、上記技術的課題を解決して、カテキン類を高濃度に含有しながら、苦味、渋味等の呈味が改善され、のどごし感の良好な容器詰飲料を提供できるようにしたものである。
これに対して、甲第1号証ないし甲第6号証には、水溶性高分子物質を添加してなる茶飲料が記載されているが、カテキン類を高濃度で含む茶飲料における本件発明1の上記技術的課題について言及する記載は何もなく、まして、飲料500mL当たりの非エピ体カテキン類(A)とエピ体カテキン類(B)の含有量を、(A)+(B)=300〜2500mg、(A)=70〜2250mg、(A)/(B)=0.25〜9.0、及び(C)/((A)+(B))=1/20〜10/1にすること、及びかかる構成に基づいて、カテキン類を高濃度に含有しながら、苦味、渋味等の呈味が改善され、のどごし感の良好な容器詰飲料が得られることを教示する記載は何もない。
してみると、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、甲第7号証は、本件出願後に頒布された刊行物であるから、かかる刊行物に基づく異議申立人の主張は採用しない。
また、本件発明2ないし5は、請求項1を引用する発明であるから、本件発明1における判断と同様に、甲第1号証ないし甲第6号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)特許法36条4項違反について
異議申立人は、甲第8号証及び甲第1号証の記載によれば、少なくとも緑茶において、非エピ体カテキン類(A)とエピ体カテキン類(B)の含有量を比較すると、(A)/(B)<1となることが一般的であるが、(A)/(B)値を1より大とする具体的手段が本件明細書中に何ら記載されておらず、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
しかし、本件明細書には、エピ体カテキン類を非エピ体カテキン類に転換する方法が具体的に記載され(例えば、段落【0017】参照)、また本件明細書の実施例には、使用する市販カテキン製剤AないしCのカテキン類含有量及び非エピ体含有量が数値でもって具体的に記載され、さらに、実施例1ないし11には、使用するカテキン製剤、その配合量、その時の(A)/(B)値が具体的に記載されているのであるから、これらの記載に基づいて、(A)/(B)値が1より大である飲料を当業者において容易に調製することができるので、異議申立人の上記主張は採用しない。
また、異議申立人は、甲第9号証に記載されているように、水溶性高分子を所定濃度以上含有する場合には、ゼリー状に固まってしまうが、高濃度の水溶性高分子を含ませた状態で、カテキン類を含有する飲料とする具体的手段については、本件明細書中に何ら記載されておらず、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
しかし、本件明細書には、使用できる水溶性高分子が多数例示されており(段落【0020】参照)、これら例示の水溶性高分子の性質、性状も当業者において周知であることから、本件明細書に記載されている範囲内で高濃度の水溶性高分子を含ませる場合でも、ゼリー状に固まらない水溶性高分子を選択することは当業者において容易であり、異議申立人の上記主張は採用しない。

(4)特許法36条6項違反について
異議申立人は、本件請求項1においてカテキン類の総重量を「飲料500mL当たり(A)+(B)=300〜2500mg」と限定しているが、6頁表1によれば、最大でも643mg(実施例2)までの飲料についてしか評価しておらず、644mg〜2500mgまでの範囲については、苦味のマスキングがなされているか否か不明であり、同じく非エピ体カテキン類の含有重量を「飲料500mL当たり(A)=70〜2250mg」と限定している点についても、6頁表1によれば、最大でも352mg(実施例2)までの飲料についてしか評価しておらず、353mg〜2250mgの高濃度領域において同様の効果が奏されるか不明であり、同じく水溶性高分子と総カテキン類の含有重量比を「(C)/((A)+(B))=1/20〜10/1」と限定している点についても、6頁表1によれば、最大でも4.50(実施例8)までの飲料についてしか評価しておらず、水溶性高分子の含有量を更に高くしたときの効果が不明であり、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されているとは言い難い旨主張する。
しかし、異議申立人は、上記主張を裏付けるための具体的試験データを何も提出していない。
本件発明1において特定する上記(イ)ないし(ニ)の数値限定の技術的意義については、本件明細書の段落【0014】、【0018】【0019】、【0023】等に記載されており、これらの記載及び実施例1ないし11及び比較例1ないし4の記載からみて、上記(イ)ないし(ニ)の条件を同時に満たせば、本件明細書に記載の効果を奏するものと認めるのが相当である。

IV.むすび
以上のとおりであるから、異議申立人 株式会社伊藤園及び安江泰子の異議申立ての理由及び提出した証拠によっては、本件請求項1ないし5に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
容器詰飲料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】次の非重合体成分(A)、非重合体成分(B)及び成分(C):
(A)非エピ体カテキン類、(B)エピ体カテキン類、(C)水溶性高分子を含有し、それらの含有重量が飲料500mL当り
(イ)(A)+(B)=300〜2500mg、
(ロ)(A)=70〜2250mg、
(ハ)(A)/(B)=0.25〜9.0、
(ニ)(C)/((A)+(B))=1/20〜10/1
である容器詰飲料。
【請求項2】飲料のpHが3〜7である請求項1記載の容器詰飲料。
【請求項3】茶の抽出液に茶抽出物の濃縮物を添加したものである請求項1又は2記載の容器詰飲料。
【請求項4】半発酵茶、発酵茶から選ばれた茶の抽出液に茶抽出物の濃縮物を添加したものである請求項1〜3のいずれか1項記載の容器詰飲料。
【請求項5】請求項1〜4のいずれか1項に記載された飲料を容器に充填した容器詰飲料。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は容器詰飲料に関する。苦味、渋味等の呈味を改善したカテキン類を高濃度に含有する容器詰飲料に関する。
【0002】
【従来の技術】緑茶、紅茶、ウーロン茶等の茶飲料は、カテキン類の効果としては、コレステロール上昇抑制剤(特許1620943号公報)やαアミラーゼ活性阻害剤(特許登録第3018013号公報)等に、その生理的な有益性が示されている。このような生理効果を発現させるためには、成人での摂取量としては、一日当り4〜5杯のお茶を飲むことが必要であり(食品工業、35巻、(14)、26-30頁、1992年)、カテキン類を高濃度配合する技術の開発が望まれていた。しかし、カテキン類高濃度配合系では、茶(茶葉)から抽出されたカテキン類、カフェイン、タンニン等の各成分によって苦味、渋味が醸し出される。適度な苦味、渋味は風味のうえから不可欠なものではあるが、過度の苦味、渋味は一般的嗜好には好まれない。一般的に苦味の評価方法としては、硫酸キニーネを使用する方法が知られている。硫酸キニーネを使用した苦味強度の測定法(等価濃度試験法/官能検査 ハンドブック 編者:日科技連官能検査委員会 発行所(株)日科技連出版社)を指標とした場合、5以上では、苦味がひどく飲料に適さなくなる。各種カテキン類濃度の飲料についてみると、カテキン類濃度300mg/500mLで、指標6を越え、カテキン類濃度900mg/500mLでは、10以上となって、刺激感を伴うようになる。したがって、生理的有用性を目的としてカテキン類を高濃度配合した場合、得られる飲料は苦味、渋味が強すぎるものとなってしまい、常飲する飲料としては問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】カテキン類の生理作用をより効果的に発現させるためにはカテキン類の摂取量を増やすことが必要である。カテキン類を摂取する上で多量のカテキン類を容易にとりやすい飲料形態が、嗜好性・市場性から望ましい。有効成分であるカテキン類の増量を行う方法として、粉砕した茶葉を添加する方法(特開平10-2344301号公報)が提案されている。しかしながら、この方法においては、粉砕物を高濃度配合した場合、粉っぽくなり、のどごし、後味に違和感が強い。更に、製造、流通過程を経由して提供される飲料としては、飲用時、有効成分である粉砕した茶葉が底に沈んでいたり、上面に浮遊していたりすることとなる。特に、ペットボトル等の透明容器を使用した場合、このような沈殿等の存在する状態は外観上商品価値を大きく損なうものである。また、生理的効果を提供する飲料において、沈殿物の生成は、飲用の際、全体を振ったり攪拌する等の、粉砕した茶葉が均一に分散した状態にする操作を要求することとなる。
【0004】また、カテキン製剤等を利用して、カテキン類を溶解状態で添加する方法(特開平2-182176号公報)が提案されている。しかしながら、溶解したカテキン類は苦味、渋味を醸し出すことから、多量に添加された飲料は、苦味、渋味が強すぎるものとなってしまい、飲用者に、時として、苦痛を与えてしまう問題が生ずる。従って、生理的有効性を発現するために必要な長期的あるいは日常的な飲用が不可能である。
【0005】本発明の目的は、苦味、渋味等の呈味が改善された高濃度でカテキン類を含有する容器詰飲料に関する。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は、高濃度でカテキン類を含有する飲料のカテキン類の非重合体の非エピ体及びエピ体を特定の含有量比率であるものに、更に水溶性高分子を含有させることにより、苦味、渋味を緩和することが、多量にカテキン類を摂取することができる容器詰飲料を得られることを見出した。
【0007】本発明は、次の非重合体成分(A)、非重合体成分(B)及び成分(C):
(A)非エピ体カテキン類、(B)エピ体カテキン類、(C)水溶性高分子を含有し、それらの含有重量が飲料500mL当り
(イ)(A)+(B)=300〜2500mg、
(ロ)(A)=70〜2250mg、
(ハ)(A)/(B)=0.25〜9.0、
(ニ)(C)/((A)+(B))=1/20〜10/1
である容器詰飲料を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明でカテキン類とは、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類及びエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類をあわせての総称である。
【0009】本発明に使用するカテキン類は、Camellia属、例えばC.sinensis、C.assaimica及び、やぶきた種又はそれらの雑種から得られる茶葉から製茶された、煎茶、番茶、玉露、てん茶、釜入り茶等の緑茶類や、総称して烏龍茶と呼ばれる鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶等の半発酵茶、紅茶と呼ばれるダージリン、アッサム、スリランカ等の発酵茶の茶葉から水や熱水、場合によってはこれに抽出助剤を添加したもので抽出してもよい。
【0010】茶を抽出する方法については、攪拌抽出等の方法により行う。また抽出時の水にあらかじめアスコルビン酸ナトリウム等の有機酸又は有機酸塩類を添加しても良い。また煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつついわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する方法も併用してもよい。また、茶葉から抽出するかわりに、茶抽出物の濃縮物を水に溶解あるいは希釈して用いても、茶葉からの抽出液と茶抽出物の濃縮物とを併用してもよい。
【0011】ここでいう茶抽出物の濃縮物とは、茶葉を熱水もしくは水溶性有機溶媒により抽出された抽出物を濃縮したものであり、特開昭59-219384号公報、特開平4-20589号公報、特開平5-260907号公報、特開平5-306279号公報等に詳細に例示されている方法で調製したものをいう。市販の東京フードテクノ(株)「ポリフェノン」、(株)伊藤園「テアフラン」、太陽化学(株)「サンフェノン」、サントリー(株)「サンウーロン」等が挙げられる。そのほか、カテキン類は他の原料起源のもの、カラム精製品及び化学合成品でも使用できる。茶抽出物の濃縮物の形態としては、固体、水溶液、ラスリー状等種々のものが挙げられる。茶抽出物の濃縮物を溶解、希釈する媒体(以下抽出液と記載する)は、水、炭酸水、一般に抽出された茶類等が挙げられる。
【0012】ポリフェノールは抽出前の茶葉の発酵状態が進むにつれて増加するので、水又は茶抽出物に各種茶抽出物の濃縮物を添加する場合は、特に緑茶抽出物の濃縮物が好ましい。
【0013】特に、添加する緑茶抽出物の味との関係から、カテキン類濃度を上げても、半発酵茶であるウーロン茶や、発酵茶である紅茶との組み合せは、カテキン類の苦味、渋味が更に緩和され、嗜好性が優れていて好ましい。
【0014】非重合体であって水に溶解状態にある成分(A)及び成分(B)の合計量、すなわちカテキン類含有量は、飲料500mL当り300〜2500mgであるが、好ましくは400〜1300mg、更に好ましくは500〜1300mg、特に500〜800mg含有するのが好ましい。この範囲の含有量であると多量のカテキン類を容易にとり易く、苦味・渋味、収斂性の改善効果が水溶性高分子との併用で用意に発現し易い。
【0015】飲料中で総ポリフェノール中のカテキン類の含有率としては、製造直後でカテキン量が10重量%以上で、好ましくは20重量%以上である。また、カテキン類の含有量の30〜98重量%、好ましくは40〜90重量%が、エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、ガロカテキンから選ばれたものであると、飲料としての呈味が更に優れ好ましい。ここでエピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、ガロカテキンは1種以上含有するが、通常は全て含有される。
【0016】茶葉中においては、カテキン類は大部分がエピ体として存在しているが、熱、酸及びアルカリ等の処理により立体異性体である非エピ体に変化する。エピ体と非エピ体との性質の違いについては、同一組成式でもエピ体に比べ非エピ体は融点の大幅な降下等が認められ、成分によってはエピ体と非エピ体との混合比により、更に融点降下する場合等がある。しかしながら、非エピ体とエピ体との機能性の違いについて検討はほとんどされていない。
【0017】非エピ体カテキン類は、緑茶類、半発酵茶類又は発酵茶類からの抽出液や茶抽出物の濃縮物を水溶液にして、例えば40〜140℃、0.1分〜120時間加熱処理して得ることができる。また非エピカテキン類含有量の高い茶抽出液の濃縮物を使用してもよい。それらは単独又は併用してもよい。
【0018】また、成分(A)は、飲料500mL当り70〜2250mg含有するが、好ましくは140〜2250mg、特に140〜1880mgを含有するのが好ましい。この量であると、水溶性高分子を添加した時の苦味、渋味の改善効果がより有効である。
【0019】更に成分(A)と成分(B)の含有重量比は(A)/(B)=0.25〜9.0であるが、好ましくは0.43〜9.0、より好ましくは0.43〜5.67、特に0.54〜5.67が好ましい。この範囲であると水溶性高分子を添加した場合の呈味の改善効果が顕著である。
【0020】本発明で使用する成分(C)の水溶性高分子としては、食品添加物で使用できる水溶性高分子が挙げられ、例えば、アラビアガム、アルギン酸、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、グアーガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、ゼラチン、タマリンド種子多糖類、タラガム、ファーセレラン、ペクチン、ローカストビーンガム、分枝デキストリン、ポリデキストロース、カルボキシメチルセルロース等が例示される。飲用時ののどごしの点から、特にアラビアガム、ポリデキストロース、カルボキシメチルセルロース、ペクチンが好ましい。
【0021】また、天然物に含まれている水溶性高分子を利用することができる。使用できる天然物で、水溶性高分子を含有するものとしては、ブルーベリー、温州みかん等の果実類、かんぴょう、大根、ごぼう、モロヘイヤ、めきゃべつ、ほうれんそう、とうもろこし、大豆もやし等の野菜類、小麦、米等の穀類、あずき、大豆、えんどう等の豆類、昆布、ひじき、わかめ等の海藻類、しいたけ、えのきたけ、まいたけ、まつたけ、エリンギィ等のきのこ類、玉露、煎茶、ウーロン茶、紅茶等の茶類が挙げられる。飲用時ののどごしの点から、特に、果実類、野菜類、茶類が好ましい。
【0022】天然物を使用した場合の飲料中の水溶性高分子の定量方法としては、溶媒分画、再沈により単離し、重量により定量する方法、特定の酵素で処理後、同様の操作にて定量する方法、GPCによる方法、加水分解後ガスクロマトグラフィーにて定量する方法、薄層クロマトグラフィーで他成分と分離後、試薬にて発色させ定量する方法、乾固物として近赤外分光法にて定量する方法がある。
【0023】水溶性高分子の配合時の形態は、粉末に限らず、溶液、あるいは懸濁状態でも良い。
【0024】更に、カテキン類含有量(A)+(B)と水溶性高分子含有量(C)との比率、つまり水溶性高分子含有量をカテキン類含有量で除した値((C)/((A)+(B)))は0.05〜10であり、好ましくは0.05〜5であり、より好ましくは0.08〜2である。この範囲であると飲料ののどごし感もよく、飲料の苦味の改善効果が十分に得られる。
【0025】水溶性高分子の作用機構についてはいまだ明らかではないが、水溶性高分子がカテキン類と水素結合等による弱い会合体を形成し、舌の味蕾細胞の苦味受容部への吸着を抑制し、あるいは味蕾細胞自体に吸着し、カテキン類の苦味受容部への接触を抑制すると推察される。
【0026】飲料のpHは、25℃で3〜7、好ましくは4〜7、特に5〜7とするのが、味及びカテキン類の化学的安定性の点から好ましい。
【0027】本発明の容器詰飲料は、外観上の商品価値、容器の材質、飲用時の内容物の均一化の手間を省く点で、ヘーズ値は40以下が望ましく、好ましくは20〜0.1、特に15〜0.3が好ましい。飲料の濁りについては、茶葉粉末の他、カテキン類やカテキン類の酸化によって生成した酸化ポリフェノールが飲料成分と相互作用することにより生じる場合もあり、また、製造プロセス上、茶葉粉末を添加しなくても、茶葉から抽出して茶抽出液を調製する時の濾過条件等が緩いと、飲料中に茶葉微粉末が混入してくるため、結果として濁る場合がある。
【0028】本発明の容器詰飲料は、そのままでも飲料とすることもできるし、他の緑茶、紅茶、ウーロン茶等の茶類だけでなく、果汁等の他の飲料成分と組み合わせることで、幅広い範囲のカテキン含有飲料を提供することが可能である。例えばソフトドリンクである炭酸飲料、果汁エキス入り飲料、野菜エキス入りジュースや、ニアウォーター、スポーツ飲料、ダイエット飲料等に適宜添加することもできる。
【0029】本発明の容器詰飲料には、茶由来の成分にあわせて、処方上添加しても良い成分として、酸化防止剤、香料、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を単独、あるいは併用して配合しても良い。
【0030】飲料に使用される容器は、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の形態で提供することができる。ここでいう飲料とは希釈せずに飲用できるものをいう。
【0031】また本発明の容器詰飲料は、例えば、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で製造される。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。更に、酸性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを中性に戻すことや、中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻す等の操作も可能である。
【0032】本発明の容器詰飲料は高濃度のカテキン類を含有させ、かつ非エピ体含有量を多くし、更に水溶性高分子を含有することにより、苦味、渋味の改善された容器詰飲料を提供するものである。
【0033】
【実施例】以下の実施例においては、飲料のカテキン類の測定法は、島津製作所製高速液体クロマトグラフィー(型式SCL-10AVP)を用い、オクタデシル基導入液体クロマトグラフ用パックドカラム L-カラム TM ODS(4.6mmφ×250mm:財団法人化学物質評価研究機構製)を装着し、カラム温度35℃でグラジエント法により行った。移動相A液は酢酸を0.1mol/L含有の蒸留水溶液、B液は酢酸を0.1mol/L含有のアセトニリトル溶液とし、試料注入量は20μL、UV検出器波長は280nmの条件で行った。飲料の濁度は株式会社 村上色彩技術研究所製のヘーズ・透過率計(型式HR-100)を用い、ガラスセル(光路長10mm横35mm縦40mm)に飲料を入れて1分後のヘーズ値(H)を25℃で測定した。
【0034】実施例で用いた成分
(1)カテキン製剤
市販カテキン製剤A カテキン類含有量77%、非エピ体含有量6.9%(伊藤園社製)
市販カテキン製剤B カテキン類含有量86%、非エピ体含有量13.6%(東京フードテクノ社製)
市販カテキン製剤C カテキン類含有量34%、非エピ体含有量9.5%(東京フードテクノ社製)
(2)茶抽出物
・ウーロン茶抽出物
ウーロン茶葉にイオン交換水を加え、浴比25、90℃にて5分間抽出し、二枚重ねの二号濾紙にて濾過、濾液を凍結乾燥した。カテキン類含有量21.3%・緑茶抽出物
緑茶葉にイオン交換水を加え、浴比25、70℃にて5分間抽出し、二枚重ねの二号濾紙にて濾過、濾液を凍結乾燥した。カテキン類含有量30.2%
(3)水溶性高分子
・水溶性高分子A
煎茶葉にイオン交換水を加え、浴比25、90℃で5分間抽出後、二枚重ねの2号濾紙にて濾過を行い、得られた濾液を凍結乾燥し固形物を得た。この固形物の20%水溶液500mLを攪拌下、95%エタノール2Lに滴下、滴下後、30分攪拌を続け、静置後、上清を除いた。残留物に95%エタノール1Lを加え攪拌、静置後上清を除く操作を3回繰り返し、2号濾紙にて濾過、濾紙上の固形分を回収、50℃にて乾燥を行い乾固物を得た。乾固物3gを日本栄養・食糧学会誌46(3),244(1993)の方法に従い、酵素処理及び再沈殿をさせ、2号濾紙にて濾過、濾紙上の固形分として水溶性高分子Aの量とした。
・水溶性高分子B
煎茶葉にイオン交換水を加え、浴比25、90℃で5分間抽出後、二枚重ねの2号濾紙に濾過を行い、得られた濾液を凍結乾燥し固形物を得た。固形物2.0gをビーカーにとり、リン酸緩衝液150mLで溶かした。なお、リン酸緩衝液は1Lの水にリン酸二水素ナトリウム48g、アスコルビン酸20g、EDTA-2Na 1gをそれぞれ溶かし、水酸化ナトリウムでpHを3.9に調製したものを用いた。試料を溶解した液を4℃下、3000回転/分で15分間遠心分離した。次に沈殿物を除いた液を分液ロートに移した。酢酸エチル450mLで3回抽出し、水相に水を飽和したブタノール110mLを加え、静かに振り1日以上静止した。この水相を受け、窒素で溶媒を完全に留去した。この水相を透析膜(ダイアライシスメンブラン27、wako社製)にとり6日間透析した。透析完了後、凍結乾燥して水溶性高分子Bを得た。
【0035】実施例1
イオン交換水800gに表1の所定量の茶抽出物乾燥物、市販カテキン製剤Bを加え、更に水溶性高分子を加えて均一に溶解した。アスルコビン酸Na 0.3gを加え、5%重曹水溶液を適量加えることによりpH6.2とし、更にイオン交換水を加え全量を1000gとした。
【0036】
【表1】

【0037】飲料の呈味の評価を、パネラー4名により次の方法で行った。苦味、渋味は複数の成分あるいはいろいろな溶解状態にある成分に由来するため、飲料を口に含んだ直後(飲用初期)、口中に数秒間含んでいる時(飲用中期)、飲み込んだ直後(飲用後期)の三期に分けて評価した。評価の基準は以下とした。
「6+」:渋味、苦味が著しく強く、刺激を感ずる。
「5+」:渋味、苦味が著しく強い。
「4+」:渋味、苦味がかなり強い。
「3+」:渋味、苦味が強い。
「2+」:渋味、苦味が少し強く感じられる。
「1+」:渋味、苦味がやや感じられる。
【0038】比較例の飲料1〜4においては苦味レベルが、3+以上にあり常飲するには難があったが、本発明の飲料1〜11は苦味レベルが1+〜2+にあり常飲に適する。
【0039】
【発明の効果】本発明の容器詰飲料は、カテキン類を高濃度に含有しながら、苦味、渋味等の呈味が改善され、更にのどごし感も良好である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-02-12 
出願番号 特願2001-47282(P2001-47282)
審決分類 P 1 651・ 537- YA (A23L)
P 1 651・ 536- YA (A23L)
P 1 651・ 113- YA (A23L)
P 1 651・ 121- YA (A23L)
最終処分 維持  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 種村 慈樹
柿沢 恵子
登録日 2002-10-11 
登録番号 特許第3360073号(P3360073)
権利者 花王株式会社
発明の名称 容器詰飲料  
代理人 竹内 三郎  
代理人 花田 吉秋  
代理人 市澤 道夫  
代理人 花田 吉秋  

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