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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F25B
管理番号 1096291
異議申立番号 異議2002-72254  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-11-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-09-18 
確定日 2004-02-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3265821号「蓄冷器」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3265821号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯

特許第3265821号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成6年4月27日に出願され、平成14年1月11日にその特許の設定登録(同年3月18日特許掲載公報発行)がなされたが、同年9月18日に高橋喜美夫より、請求項1ないし3(全請求項)に係る発明についての特許異議の申立てがなされ、当審により平成15年6月27日付けの取消理由通知がなされ(同年7月11日発送)、同年8月29日付けで訂正請求書及び意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について

1 訂正請求の内容

平成15年8月29日付けの訂正請求書(以下「本件訂正」という。)は、本件の願書に添付した明細書を以下のとおり訂正することを請求するものである。
・訂正事項a
特許請求の範囲請求項1の「蓄冷材が充填されてなる蓄冷器において、前記蓄冷材は、少なくともCe,Nd,Pr,Dy,Ho,Er,Tmの1種又は2種以上を含有する希土類元素20〜95at%と、少なくともAgを含有する添加物5〜80at%とから成る磁性体であることを特徴とする蓄冷器。」を次のように訂正すること。
「蓄冷材が充填されてなる蓄冷器において、前記蓄冷材は、希土類元素Rとして少なくともCe,Nd,Pr,Dy,Ho,Er,Tmの1種又は2種以上を含有する希土類元素20〜95at%と、少なくともAgを含有する添加物5〜80at%とから成る磁性体であり、RAg化合物、RAg2化合物の少なくとも一つを含有していることを特徴とする蓄冷器。」
・訂正事項b
訂正事項aの訂正に伴い、発明の詳細な説明中の段落「0007」の末尾の記載「磁性体としたことである。」を、次のように訂正すること。
「磁性体であり、RAg化合物、RAg2化合物の少なくとも一つを含有しているものとしたことである。」
・訂正事項c
訂正事項aの訂正に伴い、発明の詳細な説明中の段落「0014」中の記載「少なくともAgを含有する添加物5〜80at%とから構成したので、磁気変態点が略10〜30KとなるRAg化合物やRAg2化合物やRAg化合物とRAg2化合物との混在した組織が主に生成することから、」を、次のように訂正すること。
「少なくともAgを含有する添加物5〜80at%とし、RAg化合物、RAg2化合物の少なくとも一つを含有する構成としたので、」
・訂正事項d
訂正事項aの訂正に伴い、発明の詳細な説明中の段落「0038」中の記載「少なくともAgを含有する添加物5〜80at%とから構成したので、」を、次のように訂正すること。
「少なくともAgを含有する添加物5〜80at%とから構成し、RAg化合物、RAg2化合物の少なくとも一つを含有する構成としたので、」

2 本件訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

・訂正事項aについて
訂正事項aの訂正は、請求項1の記載に「希土類元素Rとして」と「RAg化合物、RAg2化合物の少なくとも一つを含有している」を加入するものであるが、前者は訂正前の請求項1に記載のあった「希土類元素」を単に重複して記載しただけであり、後者は蓄冷材の構成要件を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。また、この訂正に係る構成は、願書に添付した明細書(特許明細書)の段落「0008」、「0014」の記載に基づくものと認められるから、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
・訂正事項bないしdについて
訂正事項bないしdの各訂正は、特許請求の範囲の記載との整合を図るため、発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。また、この訂正に係る構成は、特許明細書の段落「0008」、「0014」の記載に基づくものと認められるから、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび

したがって、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の各規定に適合するので、これを認容する。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明

上記第2において本件訂正が認められた結果、本件の特許請求の範囲請求項に係る発明は、つぎのとおりのものである。
【請求項1】蓄冷材が充填されてなる蓄冷器において、
前記蓄冷材は、希土類元素Rとして少なくともCe,Nd,Pr,Dy,Ho,Er,Tmの1種又は2種以上を含有する希土類元素20〜95at%と、少なくともAgを含有する添加物5〜80at%とから成る磁性体であり、RAg化合物、RAg2化合物の少なくとも一つを含有していることを特徴とする蓄冷器。
【請求項2】請求項1の蓄冷器において、
前記添加物は、B,Al,In,Si,Ge,Ga,Sn,Au,Mg,Zn,Pd,Pt,Re,Cs,Ir,Fe,Mn,Cr,Cd,Hg,Os,P,La,Yの内の少なくとも1種の元素を含有していることを特徴とする蓄冷器。
【請求項3】請求項2の蓄冷器において、
前記少なくとも1種の元素の含有量は、5at%以下であることを特徴とする蓄冷器。」
(なお、上記請求項1〜3に係る各発明を、以下「本件発明1」〜「本件発明3」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)

2 特許異議の申立て理由の概要

(1)本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。また、本件発明1ないし3は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
したがって、本件発明1ないし3に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当するので、取り消されるべきものである。
(2)本件発明1は、特許法第36条第4項又は第5項に規定された要件を満たしていない。したがって、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当するので、取り消されるべきものである。
〔証拠方法〕
甲第1号証:特開平1-310269号公報
甲第2号証:KHJ Buschow, Intermetallic compounds of rare earths and non-magnetic metals, The Institute of Physics, Vol.42, Number 8, August 1979, pp.1396-1399, 1438, 1448-1451

3 本件発明1について

(1)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証は、本件発明の出願前に国内で頒布された、低温蓄熱器の発明に関する公開特許公報(以下「引用例1」という。)であって、その発明の詳細な説明中には次の記載がある。

(i)「本発明は、蓄熱物質が充填された低温蓄熱器において、一般式(I)
AMz …(I)
(但し、式中のAはY、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選ばれる少なくとも1種の希土類元素、MはNi、Co及びCuから選ばれる少なくとも1種の金属、zは0.001≦z≦9.0を示す)にて表わされる1種又は2種以上からなる磁性体を蓄熱物資として充填したことを特徴とする低温蓄熱器である。」(2頁左下欄3〜13行)

(j)「また、上記一般式(I)のMの一部をB、Al、Ga、In、Si等で置換された磁性体を、一般式(IV)・・・・として下記に示す。但し、これら置換金属の中でFeはFe-Feの直接交換作用が強く、過剰に置換すると比熱ピークを示す温度が77K以上とかなり高温になるため、Ni等のMへの置換量は0.3以下にすることが必要である。
A(M1-yXy)z …(IV)
(但し、式中のAはY、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選ばれる少なくとも1種の希土類元素、MはNi、Co及びCuから選ばれる少なくとも1種の金属、XはB、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Ag、Au、Mg、Zn、Ru、Pd、Pt、Re、Cs、Ir、Fe、Mn、Cr、Cd、Hg、Osから選ばれる少なくとも1種の化合物構成元素、yは0≦y<1.0 、好ましくはy≦0.5 、zは0.001≦z≦9.0を示す)にて表わされる1種又は2種以上からなる磁性体。」(4頁左上欄7行〜右上欄7行)

(k)「また、一般式(I)にて表わされる化合物を2種以上の混合集合物とした磁性体を用いることによって、比熱ピークがブロードとなり、熱容量が減少するものの、より広い温度範囲で比熱が大きくなり、低温蓄熱器の復熱特性を向上できる。
更に、低温蓄熱器の温度勾配に合せて磁気転移点(比熱がピークを示す温度)の異なる複数種の磁性体を積層して充填することによって、復熱特性が一層優れた低温蓄熱器を得ることができる。」(4頁左下欄15行〜右下欄3行)

(2)甲第2号証に記載された事項

甲第2号証は、本件発明の出願前に外国において頒布された刊行物(以下「引用例2」という。)であって、その中には、希土類元素と非磁性金属間で形成される金属間化合物の物理的性質、組成及び結晶構造、特に磁気的性質に関する論文が掲載されている。

(3)引用例1及び引用例2記載の各発明に基づく容易想到性の検討について

ア 引用例1記載の発明

引用例1の上記(i)及び(j)の記載によれば、引用例1には、次の事項からなる発明が実質的に記載されていると認められる。
・蓄冷材が充填されてなる蓄冷器において、前記蓄冷材は、一般式AMZにて表される磁性体の1種又は2種以上を含有するものであること。
・一般式AMzのA元素は、少なくともCe,Nd,Pr,Dy,Ho,Er,Tmから選ばれる少なくとも1種の希土類元素であること。
・A元素の含有率は、10〜99.9at%であること。
・一般式AMzのMの一部が置換されたM1-yXyとする磁性体(0≦y<1.0)において、X元素は、B,Al,Ga,In,Si,・・・,Ag,・・・から選ばれる少なくとも1種の化合物構成元素であること。
・M1-yXyの含有率は、0.1〜90at%であること。

イ 対比・一致点・相違点

本件発明1と引用例1記載の発明を対比してみると、両者は、少なくとも、
「蓄冷材が充填されてなる蓄冷器において、前記蓄冷材は、希土類元素Rとして少なくともCe,Nd,Pr,Dy,Ho,Er,Tmの1種又は2種以上を含有する希土類元素20〜95at%と、少なくともAgを含有する添加物5〜80at%とから成る磁性体」である点で一致するが、次の点で相違すると認められる。
本件発明1は、前記蓄冷材が「RAg化合物、RAg2化合物の少なくとも一つを含有している」のに対し、引用例1には、一般式AMzのMの一部が置換されたM1-yXyとする磁性体(0≦y<1.0)において、X元素として選ばれる少なくとも1種の化合物構成元素として、Agが例示されているに止まるものであること。(以下「相違点という。)

ウ 相違点の検討

本件明細書の記載によれば、本件発明は、比熱が10〜30Kでは小さくなるという従来技術の蓄冷材の問題点を解決するために、磁気変態点付近では比熱のピークが存在することから、磁気変態点が略10〜30KとなるRAg化合物、RAg2化合物、RAg化合物とRAg2化合物との混在した組織を生成することにより、10〜30Kでの比熱を向上させるものであると認められる。
これに対し、引用例1には、上記アに摘示した事項に加えて、上記(k)の記載によれば、磁性体の磁気転移点(比熱がピークを示す温度)の異なる複数種の磁性体を積層して充填することにより、比熱ピークがブロードとなり、より広い温度範囲で比熱が大きくなるという一層良好な特性を得られることが記載されている。
また、引用例2の表(Table)A10(1449頁)には、キュリー温度TC又はネール温度TNが10〜30Kを中心として分布するCeAg,PrAg,NdAg,DyAg,HoAg,ErAg,TmAg化合物が開示され、更に、ネール温度TNが10〜30Kを中心として分布するDyAg2,HoAg2,ErAg2,TmAg2化合物が開示されている。そして、キュリー温度とは強磁性体の磁気転移温度であり、ネール温度とは反強磁性体の磁気転移温度である。
そうすると、当業者であれば、本件明細書の段落【0006】に記載された「10〜30Kで比熱が大きく、10〜30Kでの蓄熱効率を向上させ得る蓄冷材」を技術的課題を解決しようとする際に、引用例2のキュリー温度又はネール温度が10〜30Kを中心として分布するRAg化合物、RAg2化合物の少なくとも一つを引用例1に記載された発明に適用して本件発明1を構成することは容易であったというべきである。
したがって、本件発明1は、引用例1及び2に記載された各発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 本件発明2について

引用例1の上記(j)の記載によれば、引用例1には、次の事項が記載されていると認められる。
・MXは、そのX元素がB,Al,In,Si,Ge,Ga,Sn,Au,Mg,Zn,Pd,Pt,Re,Cs,Ir,Fe,Mn,Cr,Cd,Hg,Osである少なくとも1種のものであること。
そして、本件発明2は本件発明1を引用するものであり、本件発明1については、前示したとおりである。
そうすると、本件発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるか、又は引用例1及び2に記載された各発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 本件発明3について

本件発明3は、本件の請求項3において、請求項2を引用して、「少なくとも1種の元素の含有量を5at%以下である」としたものであるが、この数値限定の臨界的意義について、本件明細書には明示の記載はない。してみると、本件発明3におけるこの構成は、引用例1の4頁左上欄7行〜右上欄7行の記載、特にyについての数値範囲に基づいて、当業者であれば容易に想到できた設計事項であるというべきである。
そして、本件発明3は本件発明2を引用するものであり、本件発明2については、前示したとおりである。
そうすると、本件発明3は、引用例1及び2に記載された各発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび

以上のとおり、本件発明1ないし3は、いずれも引用例1及び2に記載された各発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、本件発明1ないし3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
蓄冷器
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 蓄冷材が充填されてなる蓄冷器において、
前記蓄冷材は、希土類元素Rとして少なくともCe,Nd,Pr,Dy,Ho,Er,Tmの1種又は2種以上を含有する希土類元素20〜95at%と、少なくともAgを含有する添加物5〜80at%とから成る磁性体であり、RAg化合物、RAg2化合物の少なくとも一つを含有していることを特徴とする蓄冷器。
【請求項2】 請求項1の蓄冷器において、
前記添加物は、B,Al,In,Si,Ge,Ga,Sn,Au,Mg,Zn,Pd,Pt,Re,Cs,Ir,Fe,Mn,Cr,Cd,Hg,Os,P,La,Yの内の少なくとも1種の元素を含有していることを特徴とする蓄冷器。
【請求項3】 請求項2の蓄冷器において、
前記少なくとも1種の元素の含有量は、5at%以下であることを特徴とする蓄冷器。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、低温で比熱の大きい蓄冷材が充填された蓄冷器に関するもので、各種の冷凍機に利用される。
【0002】
【従来の技術】
スターリング式、GM(ギホードマクマホン)式、パルス管式等の各種の蓄冷器を使う冷凍機には、冷凍能力の向上という点から蓄冷材が充填された蓄冷器が必須になる。この蓄冷器は、一方向に流れる圧縮された作動ガスから熱を奪ってその熱を蓄えると共に、反対方向に流れる膨張した作動ガスに蓄えた熱を伝達するものである。
【0003】
従来、蓄冷器内に充填される蓄冷材としては、銅や鉛等の合金が多用されている。ところが、銅や鉛からなる蓄冷材では、格子系の比熱しかもたないため、比熱は40K以上では大きいものの、20K以下の極低温で過度に小さくなる。そのため、前記蓄冷材が充填された蓄冷器を冷凍機(特に多段式の冷凍機)内で使用した場合には、圧縮された作動ガスから充分に熱を吸収することができず、又、膨張した作動ガスに充分に熱を伝達することができなくなる。その結果、前記蓄冷材が充填された蓄冷器を冷凍機では、極低温に到達させることができないという問題点があった。
【0004】
そこで、上記問題点を解決するために提案された蓄冷器としては、特開平1-310269号公報に示されるものが知られている。その代表例として、格子系の比熱だけでなくスピン系の比熱をもつEr3Niからなる磁性体の蓄冷材が充填された蓄冷器が開示されている。このものは、20K以下の極低温でその比熱が銅や鉛からなる蓄冷材よりも大きいため、銅や鉛からなる蓄冷材よりも20K以下(特に10K未満)の極低温において蓄熱効率を向上できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記したEr3Niからなる蓄冷材では、磁気変態点(即ち磁気的状態間の相転移)が8K付近に存在することから、比熱が10K未満で大きいものの、10〜30Kでは小さくなる。このため、10K未満の極低温では蓄熱効率が高くなるものの、10〜30Kで蓄熱効率が不充分である。従って、上記したEr3Niからなる蓄冷材では、10〜30Kの冷凍を発生する冷凍機には適用し難いという問題点がある。
【0006】
故に、本発明は、10〜30Kで比熱が大きく、10〜30Kでの蓄熱効率を向上させ得る蓄冷材をもつ蓄冷器を提供することを、その技術的課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記技術的課題を解決するために本発明において講じた技術的手段は、蓄冷材が充填されてなる蓄冷器において、蓄冷材を、少なくともCe,Nd,Pr,Dy,Ho,Er,Tmの1種又は2種以上を含有する希土類元素20〜95at%と、少なくともAgを含有する添加物5〜80at%とから成る磁性体であり、RAg化合物、RAg2化合物の少なくとも一つを含有しているものとしたことである。
【0008】
ここで、前記Ce,Nd,Pr,Dy,Ho,Er,Tmの1種又は2種以上を含有する希土類元素とAgを用いた蓄冷材では、図1から明らかなように、RAg化合物,RAg2化合物,RAg化合物とRAg2化合物との混在した組織が生成する。そして、これらの化合物の磁気変態点が略10〜30Kとなり、磁気変態点付近では比熱のピークが存在することから、略10〜30Kで比熱を向上させることができる。
【0009】
希土類元素の含有量が20at%未満(即ち添加物の含有量が80at%より多い)であると、例えば図2及び図3に示すEr-Ag及びHo-Agの状態図から明らかなように、その磁気変態点が略10〜30KとなるRAg化合物やRAg2化合物やRAg化合物とRAg2化合物との混在した組織が全く生成しない。さらに、スピン系の比熱しかもたないAg単体の相を生成することから、10〜30Kでの比熱を向上させることができない。一方、希土類元素の含有量が95at%より越える(即ち添加物の含有量が5at%未満である)と、10K前後での比熱が低下することが実験的に確認された。
【0010】
又、希土類元素Rの含有量が20〜50at%のときには、RAg化合物とRAg2化合物との混在した組織を生成させることができることから、図1に示すように、その混在した組織の比率に応じて比熱のピークを調整可能となる。一方、希土類元素Rの含有量が50〜95at%のときには、RAg化合物とRとの混在した組織を生成させることができることから、その混在した組織の比率に応じて比熱のピークを調整可能となる。
【0011】
Agを用いたものでは、その熱伝導率が従来のNiよりも大きいことから、熱交換能力の向上に寄与する。
【0012】
上記技術的手段において、5〜10Kの比熱を向上させるために、前記添加物内に、B,Al,In,Si,Ge,Ga,Sn,Au,Mg,Zn,Pd,Pt,Re,Cs,Ir,Fe,Mn,Cr,Cd,Hg,Os,P,La,Yの内の少なくとも1種の元素を含有させることが望ましい。これらの元素が作る化合物は、磁気変態点が30K以下であるので、5〜10Kの比熱を一層向上させることができる。
【0013】
ここで、10〜30Kでの比熱を低下させないようにするために、これら元素の含有量を、5at%以下にすることが望ましい。5at%よりも多くなると、10〜30Kでの比熱が低下する恐れがある。
【0014】
【作用】
上記技術的手段によれば、蓄冷材を、少なくともCe,Nd,Pr,Dy,Ho,Er,Tmの1種又は2種以上を含有する希土類元素20〜95at%と、少なくともAgを含有する添加物5〜80at%とし、RAg化合物、RAg2化合物の少なくとも一つを含有する構成としたので、従来のEr3Niから成る磁気変態点が10K以下(略8K)の蓄冷材と比較して、10〜30Kでの比熱を向上させることができる。
【0015】
又、Niより熱伝導率の大きいAgを用いたので、熱交換能力を一層向上させることができる。
【0016】
以上より、10〜30Kでの蓄熱効率を向上させることができ、上記技術的手段による蓄冷器を10〜30Kの冷凍を発生する冷凍機に適用可能となる。
【0017】
【実施例】
〔実施例1〕
Erブロック6.99g(60at%)とAgブロック3.01g(40at%)とをアーク溶解炉に配置し、アーク溶解炉内を真空吸引した後、アルゴンガスにて置換する。その後、アーク溶解して蓄冷材を製造し、5×5×7mmに切断する。ここで、図2に示す状態図から、上記の如く製造した蓄冷材は、ErAg化合物(磁気変態点21K,比熱ピーク14〜15K)及びEr(磁気変態点20K,比熱ピーク19K)の混在した組織であることが分かる。
【0018】
次に、上記の如く製造した蓄冷材の比熱をGe温度計を用いて断熱法により略3〜25Kで測定した。ここで、断熱法とは、断熱条件下で試料(ここではインゴット)にジュール熱ΔQを加えたときの温度変化ΔTを測定して、ジュール熱ΔQを温度変化ΔTで割った値を比熱ΔCとする方法である。この比熱測定結果を図4に示す。
【0019】
図4から明らかなように、実施例1の蓄冷材では、Er3Niを用いた蓄冷材(従来例1)及びPbを用いた蓄冷材(従来例2)と比較して、略8.5〜25Kでの比熱が大きくなっている。これは、実施例1の蓄冷材は、ErAg化合物(磁気変態点18K)及びEr(磁気変態点20K)の混在した組織であることから、両者の磁気変態点の影響から、比熱のピークが略16Kに存在するためであると考えられる。
【0020】
又、実施例1の蓄冷材では、Erを用いた蓄冷材(比較例)と比較して、略8.5〜18Kでの比熱が大きくなっている。これは、実施例1の蓄冷材の比熱のピークが略16Kに存在するためであると考えられる。
【0021】
更に、実施例1の蓄冷材では、Erを用いた蓄冷材(比較例)と比較して、略21〜25Kでの比熱が大きくなっている。これは、Erが磁気変態点によるスピン系の比熱を主にもっているのに対し、実施例1の蓄冷材では格子系の比熱しかもたないAgを含有しているためと考えられる。
【0022】
尚、実施例1の蓄冷材の比熱のピークが比較的に大きくなっているが、これは、Agの比重の大きさや格子系の比熱が関与するものと考えられる。
【0023】
〔実施例2〕
Erブロック7.84g(70at%)とAgブロック2.16g(30at%)とをアーク溶解炉に配置したこと以外は、実施例1と同様である。ここで、図2に示す状態図から、実施例2の蓄冷材も、ErAg化合物(磁気変態点21K,比熱ピーク14〜15K)及びEr(磁気変態点20K)の混在した組織であることが分かる。尚、この組織において、ErAg化合物の比率が、実施例1と比較して小さくなっている。
【0024】
実施例2の蓄冷材の比熱を実施例1と同様に測定し、その測定結果を図4に示す。
【0025】
図4から明らかなように、実施例2の蓄冷材でも、Er3Niを用いた蓄冷材(従来例1)及びPbを用いた蓄冷材(従来例2)と比較して、略8.5〜25Kでの比熱が大きくなっている。これは、実施例2の蓄冷材も、ErAg化合物(磁気変態点21K)及びEr(磁気変態点20K)の混在した組織であることから、比熱ピークが15〜20K付近に存在すると考えられる。
【0026】
又、実施例2の蓄冷材では、Erを用いた蓄冷材(比較例)と比較して、略8.5〜18Kでの比熱が大きくなっている。これは、実施例1の蓄冷材の比熱のピークが略16Kに存在するためであると考えられる。
【0027】
更に、実施例2の蓄冷材では、Erを用いた蓄冷材(比較例)と比較して、略21〜25Kでの比熱が大きくなっている。これは、Erが磁気変態点によるスピン系の比熱を主にもっているのに対し、実施例1の蓄冷材では格子系の比熱しかもたないAgを含有しているためと考えられる。
【0028】
尚、実施例2の蓄冷材の比熱のピークが比較的に大きくなっているが、これは、Agの比重の大きさや格子系の比熱が関与するものと考えられる。
【0029】
尚、実施例2の蓄冷材では、比熱のピークが略16.5K付近に存在して実施例1の蓄冷材よりも比熱のピークが高温側へずれているが、これは、蓄冷材内の混在した組織において、AgEr化合物の比率が、実施例1の蓄冷材と比較して小さくなっているためであると考えられる。
【0030】
〔比較例〕
Er10gを溶解して蓄冷材を製造したもので、この蓄冷材の比熱を実施例1と同様に測定し、その測定結果を図4に示す。
【0031】
図4から明らかなように、比較例の蓄冷材は、18〜21K付近での比熱は実施例1,2よりも大きいものの、15K以下での比熱は実施例1,2のみならず従来例1と比較して小さい。これは、比熱のピークが20K付近に存在するためであると考えられる。
【0032】
〔従来例1〕
Erブロック8.95g(75at%)とNiブロック1.05g(25at%)とをアーク溶解炉に配置したこと以外は、実施例1と同様である。ここで、従来例1の蓄冷材は、Er3Ni(磁気変態点8K)であり、その比熱を実施例1と同様に測定し、その測定結果を図4に示す。
【0033】
図4から明らかなように、従来例1の蓄冷材は、8K以下での比熱は大きいが、8.5K以上での比熱は実施例1,2と比較して小さくなっている。これは、Er3Niの磁気変態点が8Kに存在し、比熱のピークが7K付近に存在するためであると考えられる。
【0034】
〔従来例2〕
Pb10gを溶解して蓄冷材を製造したもので、この蓄冷材の比熱を実施例1と同様に測定し、その測定結果を図4に示す。
【0035】
図4から明らかなように、従来例2の蓄冷材は、25K以下での比熱は実施例1,2と比較して小さくなっている。これは、格子振動にもとづく格子系の比熱が温度降下と共に著しく低下すると共にスピン系の比熱をもたないためであると考えられる。
【0036】
尚、実施例1,2に係る蓄冷材が充填された蓄冷器は、30K以下特に8.5〜30Kの冷凍を発生するスターリング式,GM式,パルス管式,ゾルベー式,共鳴管式等の各種の冷凍機に適用できる。又、多段冷凍機の温度に合わせて、各段に用いることも可能である。
【0037】
【発明の効果】
本発明は、以下の如く効果を有する。
【0038】
蓄冷材を、少なくともCe,Nd,Pr,Dy,Ho,Er,Tmの1種又は2種以上を含有する希土類元素20〜95at%と、少なくともAgを含有する添加物5〜80at%とから構成し、RAg化合物、RAg2化合物の少なくとも一つを含有する構成としたので、10〜30Kでの比熱を向上させることができる。その結果、10〜30Kでの蓄熱効率を向上させることができ、10〜30Kの冷凍を発生する冷凍機に適用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係る蓄冷材内に存在する合金の磁気変態点を示すグラフである。
【図2】
Ag-Erの状態図である。
【図3】
Ag-Hoの状態図である。
【図4】
本発明の実施例1,2及び従来例1,2の低温での比熱特性を示すグラフである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-12-18 
出願番号 特願平6-90161
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (F25B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 上原 徹  
特許庁審判長 橋本 康重
特許庁審判官 会田 博行
原 慧
登録日 2002-01-11 
登録番号 特許第3265821号(P3265821)
権利者 アイシン精機株式会社
発明の名称 蓄冷器  

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