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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1097135 |
審判番号 | 不服2002-6798 |
総通号数 | 55 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-04-18 |
確定日 | 2004-05-14 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第 83767号「インクジェットプリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年10月29日出願公開、特開平 8-281965〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明の認定 本願は平成7年4月10日の出願であって、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は平成13年11月1日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりの次のものと認める。 「インクヘッドにインクを供給するインクカートリッジを着脱可能に保持する機構を備えたキャリッジと、前記キャリッジ以外の場所に設けられ、廃インクカートリッジを着脱可能に保持する機構と、前記廃インクカートリッジの有無を検出する検出器と、前記インクカートリッジによるインク交換が終了したことを検出する検出器と、これら2つの検出器の出力に基づいて前記インク交換が終了し、かつ前記廃インクカートリッジが装着されていることが検出できた場合にのみ、印字ルーチンへの復帰を可能とする制御手段を備えたインクジェットプリンタ。」 第2 当審の判断 1.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-20350号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア及びイの記載が図示とともにある。 ア.「本発明は、インクジェット記録装置に関し、詳しくは、記録ヘッドにインクを供給するインクカートリッジと記録ヘッドから空吐出によって排出された廃インクを収納する廃インクカートリッジとが個別に交換可能なインクジェット記録装置に関する。」(2頁左上欄3〜8行) イ.「〔従来の技術〕・・・インクカートリッジと廃インクカートリッジとが別個に設けられているインクジェット記録装置では、上述のようにインクの残量を検知する手段の外に、廃インクカートリッジの装着の有無を検知する手段が必要であった。」(2頁左上欄9行〜右上欄2行) 2.引用例1記載の発明の認定 そうすると、引用例1に「従来の技術」として記載されたインクジェット記録装置は次のようなものである。 「インクカートリッジと廃インクカートリッジとが個別に交換可能に設けられており、インク残量検知手段及び廃インクカートリッジ装着の有無を検知する手段を有するインクジェット記録装置。」(以下「引用例発明1」という。) 3.本願発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定 引用例発明1の「インクカートリッジ」が「インクヘッドにインクを供給する」ものであること、並びに引用例発明1が「インクカートリッジ」及び「廃インクカートリッジ」それぞれを「着脱可能に保持する機構」を備えることは自明である。 引用例発明1の「廃インクカートリッジ装着の有無を検知する手段」及び「インクジェット記録装置」と本願発明の「廃インクカートリッジの有無を検出する検出器」及び「インクジェットプリンタ」に相違はない。 したがって、本願発明と引用例発明1とは、 「インクヘッドにインクを供給するインクカートリッジを着脱可能に保持する機構、廃インクカートリッジを着脱可能に保持する機構、及び前記廃インクカートリッジの有無を検出する検出器を備えたインクジェットプリンタ。」である点で一致し、以下の各点で相違する。 〈相違点1〉本願発明が「キャリッジ」を有し、その「キャリッジ」が「インクカートリッジを着脱可能に保持する機構」を備え、「廃インクカートリッジを着脱可能に保持する機構」は「キャリッジ以外の場所に設けられ」ているのに対し、引用例発明1が「キャリッジ」を有するかどうか、並びに「インクカートリッジを着脱可能に保持する機構」及び「廃インクカートリッジを着脱可能に保持する機構」がどこに設けられるのか明らかでない点。 〈相違点2〉本願発明が「インクカートリッジによるインク交換が終了したことを検出する検出器」を備え、この検出器と「廃インクカートリッジの有無を検出する検出器」の「出力に基づいて前記インク交換が終了し、かつ前記廃インクカートリッジが装着されていることが検出できた場合にのみ、印字ルーチンへの復帰を可能とする制御手段を備え」るのに対し、引用例発明1は「インク残量検知手段」を有するものの、「インクカートリッジによるインク交換が終了したことを検出する検出器」を備えるかどうか、及び本願発明の上記「制御手段」を備えるかどうか明らかでない点。 4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断 (1)相違点1について 原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-60991号公報(以下「引用例2」という。)は発明の名称を「インクジェット記録装置および排インク処理方法」とする公開公報であって、そこには、 「(実施例5)次に、インク供給タンクおよびインク回収タンクを記録ヘッドと一体化せずに記録装置に固定したものを図6に示す。」(段落【0051】)、 「図6で、キャリッジ11には、イエロー、マゼンダ、シアンおよび黒の各記録ヘッド、1y、1m、1c、1kが装着されている。」(段落【0052】)、 「吸引されたインクは、不図示の別のチューブ(図ではチューブ60の後部に位置する。)によって、インク回収タンク21に回収される。」(段落【0054】)、 「回収されたインクでインク回収タンクが満杯になると、インク供給タンク21を交換する。」(段落【0056】)、及び 「(実施例6)実施例5と同様の考え方で、インク供給タンクあるいはインク回収タンクのいずれか一方を記録装置に固定し、他方をヘッドと一体化させても実施例5同様の効果が得られる。」(段落【0057】) との各記載があり、「インク供給タンク」及び「インク回収タンク」は、本願発明及び引用例発明1の「インクカートリッジ」及び「廃インクカートリッジ」とそれぞれ格別異なるものではない。そして、段落【0052】の上記記載は、(実施例5)だけでなく(実施例6)にも当てはまるものである。 段落【0057】記載の(実施例6)において、ヘッドはキャリッジに装着されるのであるから、インク供給タンク・インク回収タンクのうちヘッドと一体化させたタンクは、それを着脱可能に保持する機構がキャリッジに設けられているといえ、記録装置に固定させたタンクは、それを着脱可能に保持する機構がキャリッジ以外の場所に設けられているといえる。(実施例6)には、インク供給タンクがヘッドと一体化される場合とインク回収タンクがヘッドと一体化される場合の2とおりあるが、相違点1に係る本願発明の構成とは、このうちの前者の場合にほかならない。 引用例発明1を改良したものとして、「インクカートリッジおよび廃インクカートリッジを個々に装着可能な保持部材と、保持部材に関連して配設され、廃インクカートリッジを装着しない限り、インクカートリッジの装着を許可せず、インクカートリッジを装着した状態では廃インクカートリッジの取外しを禁止する着脱規制手段とを具えた」(引用例1第2頁左下欄5〜11行)ものでは、インクカートリッジと廃インクカートリッジの配置関係に制約が加わるかもしれないが、引用例発明1ではそのような問題はないから、それぞれを保持する機構を引用例2(実施例6)のように配することに困難性はない。 そして、引用例2の(実施例6)では、前示のとおり2とおりの配置があるが、逆にいうと2とおりの配置しかなく、そのうちの1つを選択することは、これを妨げる事情がない限り設計事項というべきである。そればかりか、廃インクカートリッジにインクが回収されるのは記録ヘッドの回復動作時であるが、この回復動作はキャリッジ及び記録ヘッドが適宜の固定位置にある時に行われるのに対し、記録動作時にはキャリッジ及び記録ヘッドが固定位置にないのであるから、インクカートリッジを着脱可能に保持する機構をキャリッジに設ける方がより自然であるといえる。 以上のとおりであるから、相違点1に係る本願発明の構成は、引用例発明1に引用例2(実施例6)の配置構成を採用することにより、当業者が容易に想到できたものである。 (2)相違点2について 相違点2に係る本願発明の構成のうち、「インクカートリッジによるインク交換が終了したことを検出する検出器」については、本願明細書に「インクカートリッジ1-4の交換を検出する手段を兼ねるインクエンド検出器1-8が設けられている。・・・インクエンド検出器1-8は、インクカートリッジ1-4のラミネートパック1-5のインク残量が、小量もしくは無くなったことを検出し、ユーザーに対してインクの交換を促せるものである。」(段落【0006】)と記載されていることからみて、「インクエンド検出器」(引用例発明1の「インク残量検知手段」と異ならない。)を用いたものであってもよい。 原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-284953号公報(以下「引用例3」という。)には、「カートリッジ型ヘッドの装着の有無を確認した後、印字動作を開始するので、カートリッジ型ヘッドの未装着の状態で印字動作を開始することがなくなり」(7頁右下欄2〜5行)及び「カートリッジ型ヘッドの装着の有無の検出を、インク残量の検出とともに、インク残量検出手段で行う」(7頁右下欄9〜11行)との各記載があり、「カートリッジ型ヘッドの未装着の状態で印字動作を開始することがなくなり」とある以上、カートリッジ型ヘッドの交換時において、カートリッジ型ヘッドが未装着の状態で印字ルーチンに復帰することもありえ、そのことが不都合とされていることは明らかである。そして、引用例3に記載のものはインクカートリッジとインクヘッドが一体型のものであるが、これらが別体型であっても、何らかの対策を講じない限り、インクカートリッジ未装着のまま印字ルーチンに復帰すること、及びかかる印字ルーチンへの復帰が不都合であることは明らかである。また、引用例3記載の「インク残量検出手段」と引用例発明1の「インク残量検知手段」に相違はないから、引用例3記載の上記不都合な状況を回避するために、引用例発明1の「インク残量検知手段」を用いて、インクカートリッジ装着の有無を確認し、それを条件として印字ルーチンへの復帰を行うことに困難性はない。そして、インク交換時においてインクカートリッジ装着を確認することは、インク交換が終了したことの検出である。 引用例発明1において、廃インクカートリッジが装着されていない場合に記録を行うことは可能かもしれないが、記録を強行すれば本来廃インクカートリッジに回収されるべきインクが回収されなくなり、不都合をきたすことは何人の眼にも明らかである。引用例発明1において「廃インクカートリッジの有無を検出する検出器」が設けられていることの理由が、上記不都合を回避することにあることは、特段の記載がなくとも自明である。もっとも、上記不都合を回避するためには、廃インクカートリッジが存在しないことを検出した場合に、その旨のメッセージを表示し、使用者に注意を促すといった手段も考えられないわけではないから、廃インクカートリッジが装着されていることが検出できたことを印字ルーチンへの復帰の条件と必ずしなければならないわけではない。そうではあるが、メッセージを表示し使用者に注意を促したとしても、不注意等により誤って記録を強行する可能性は十分予測されることである。これに対し、廃インクカートリッジ装着検出を印字ルーチンへの復帰の条件とすれば、不注意等による記録強行をも回避できるのであるから、かかる印字ルーチンへの復帰の条件を採用することは設計事項程度であり、当業者にとって何の困難性もない。 以上によれば、「インクカートリッジによるインク交換が終了したことを検出する検出器」を備え、この検出器出力に基づいてインク交換が終了したことが検出できたことを印字ルーチンへの復帰の条件の1つとすること、及び廃インクカートリッジが装着されていることが検出できたことを印字ルーチンへの復帰の他の条件とすることには困難性がなく、これら2つの条件がともにそろった時に限り印字ルーチンへ復帰するということは、相違点2に係る本願発明の「制御手段」を備えることにほかならない。 したがって、相違点2に係る本願発明の構成は、引用例発明1及び引用例3記載の技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。 (3)本願発明の進歩性の判断 相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成は、いずれも当業者にとって想到容易であり、これら相違点に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本願発明は、引用例発明1並びに引用例2及び引用例3記載の技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第3 むすび 本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができない以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-03-16 |
結審通知日 | 2004-03-17 |
審決日 | 2004-03-30 |
出願番号 | 特願平7-83767 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大元 修二 |
特許庁審判長 |
砂川 克 |
特許庁審判官 |
中村 圭伸 津田 俊明 |
発明の名称 | インクジェットプリンタ |
代理人 | 木村 勝彦 |
代理人 | 西川 慶治 |