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審決分類 |
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A01H |
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管理番号 | 1097311 |
審判番号 | 不服2001-8448 |
総通号数 | 55 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1994-04-19 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2001-05-21 |
確定日 | 2004-05-19 |
事件の表示 | 平成 4年特許願第261509号「植物細胞ゲノムへの発現可能な遺伝子の導入法」拒絶査定に対する審判事件[平成 6年 4月19日出願公開、特開平 6-105629]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
〔1〕本件出願は、特願昭62-129585号(優先権主張1983年1月13日、EP)の特許出願をもとの出願として分割出願した特願平4-261509号の特許出願に係り、その特許請求の範囲第1項には下記の通り記載されている。 【請求項1】 細胞のゲノムへ安定に組み込まれた外来DNAを含む細胞を含む双子葉植物であって、 (a)該外来DNAは、野生型Tiプラスミドの内部T-DNA配列からの腫瘍の増殖を支配するT-DNA遺伝子を含まず、そして (b)該外来DNAは、 i)コード配列、および ii)該コード配列の天然プロモーター配列以外の外来性のプロモーター配列を含み、該プロモーター配列は、該コード配列を含む下流の配列の転写を制御して、該細胞中でRNAを産生させるプロモーター領域、を含む少なくとも1つの所望の遺伝子を含む、ことを特徴とする植物。 〔2〕これに対して、原審の拒絶査定後前置審査において平成13年9月27日付で通知された拒絶理由は、概ね以下の通りである。 特許請求の範囲第1項中の(b)(ii)に記載される「該コード配列の天然のプロモーター配列以外の外来性のプロモーター配列を含み、該プロモーター配列は、該コード配列を含む下流の配列の転写を制御して、該細胞中でRNAを産生させるプロモーター領域」として、発明の詳細な説明において実施例などで具体的に記載されているのは、T-DNA由来のnosプロモーターのみであって、それ以外のいかなる配列を用いればよいのかについては例示すらない。したがって、この出願は、明細書及び図面に本願に係る発明について当業者が容易に実施できる程度に発明の詳細な説明が記載されていないので、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。 〔3〕そこで、まず特許請求の範囲第1項の記載を検討するに、当該第1項には「細胞のゲノムへ安定に組み込まれた外来DNAを含む細胞を含む双子葉植物」自体に係る発明が記載されているが、その外来DNAを規定する要件(a)は、外来DNA中に積極的に含む遺伝子は規定されておらず、単にT-DNA配列由来の腫瘍増殖遺伝子が含まれないことが規定されているにすぎないから、実質的には当該外来DNAは要件(b)により、i)コード配列が、ii)該コード配列本来のプロモーター以外の「外来性プロモーター」であって、「植物細胞内で転写を制御しRNA産生機能を有するプロモーター」により転写制御されていることが規定されているのみである。 そうすると、上記第1項に記載される発明は、その当時外来遺伝子を植物細胞ゲノムに安定に組み込むための技術として唯一利用可能であった「Tiプラスミドベクター」を用いる以外の手法であって現在では広く用いられている植物形質転換法、例えばパーティクルガン法などを用いることではじめて細胞内に安定に導入できるようになった「外来DNA」も含まれるものであり、また当該「外来DNA」としては、導入したい「外来遺伝子」の上流に、当該遺伝子本来のプロモーター以外の「植物細胞内で機能する外来性のプロモーター」を繋いだ「キメラ遺伝子」が全て包含されている。 一方、本件明細書に具体的に記載された形質転換法は「Tiプラスミドベクターを用いるアグロバクテリウム感染法」のみであることはもちろん、「外来遺伝子」と繋いだ「植物細胞内で機能する外来性プロモーター」としては、T-DNA境界配列に隣接して内在するプロモーターである「nos-プロモーター」のみである。 即ち、本件明細書中での「細胞のゲノムへ安定に組み込まれた外来DNAを含む細胞を含む双子葉植物」としての唯一の実施例は、正常に成長したタバコ植物体での発現が実際に確認されたオクトピンシンターゼの場合(【0106】など)であるが、中間クローニングベクター作製までは具体的に記載されているジヒドロフォレートレダクターゼの場合(【0100】など)を含めても、各「外来遺伝子」をT-DNA境界配列に隣接したnosプロモーターの隣りに挿入させたTiプラスミドベクターが用いられている。なお、当該ベクターは明細書中で「nosプロモーターを含んでいるプラスミドベクター」などと呼ばれている(【0098】など)。 そして、nosプロモーター以外のプロモーターに関しては、【0051】に望まれるプロモーターの一般的性質についての願望的記述はあるものの、どのような由来のどのような配列のプロモーターが代替できるかという具体的な記載はない。 本件請求人が平成14年3月29日付意見書と同日付で提出した手続補足書の参考資料に添付された各参考文献を検討しても、これら文献中には植物中で「組織特異的」及び/又は「誘導的」に発現している各種植物遺伝子もしくは植物ウイルス(CaMV)遺伝子を、植物ゲノムもしくはCaMVゲノムでクローニングし、配列決定したことが記載されているにすぎない。これらクローニングされた各種遺伝子の上流配列は、当該遺伝子自身の転写制御に関わる「プロモーター領域」であると推定することができ、当該遺伝子が「組織特異的」及び/又は「誘導的」に発現している状況からみて、その上流の「プロモーター領域」が、当該遺伝子自身を植物個体中で「組織特異的」及び/又は「誘導的」に転写させるための制御に関わっていることは推定できるとしても、それに留まるものである。当該「プロモーター領域」に対して別の「外来遺伝子」を繋いで「キメラ遺伝子」とすることすら明示されているわけではない。 ところで、nosプロモーターは、植物細胞にとって、また繋がれる目的遺伝子にとっては「外来」のプロモーター配列ではあるとしても、植物に遺伝子を導入するために用いるアグロバクテリウム細菌にとっては、Tiプラスミド内の「内在性プロモーター」に過ぎない。 上述の如く、Tiプラスミドベクターを用いる植物細胞への遺伝子導入法が本件優先日当時唯一利用可能な植物形質転換方法であったことを考慮すれば、Tiプラスミドにとっての内在性プロモータであるnos-プロモーターと外来遺伝子の「キメラ遺伝子」発現が成功したからといって、直ちに他の植物由来プロモーターもしくは植物ウイルスプロモーターに外来遺伝子を繋いだ場合にも適用できることにはならないことは明らかである。 そうしてみると、本件明細書中において「植物細胞内で機能する外来性のプロモーター」として具体的に開示されているのはnosプロモーターのみであるとするのが相当であり、本件優先日当時の技術常識を考慮しても、それ以外のプロモーターが開示されているとすることはできない。 なお、本件優先日後の出願人自身の文献(Nature 303,209-213(19,MAY 1983))中には、本件発明と同様nosプロモーターに繋いだ外来遺伝子の植物での発現例が複数例記載されているが、当該文献中における従来技術の記述中(第209頁右欄最終段落〜第210頁右欄第1段落)には、本件優先日前には、Tiプラスミドを用いてタバコ植物ゲノム内に、細菌、動物及び植物由来の外来遺伝子の導入が多数試みられたが、いずれも形質転換タバコ植物細胞内での転写が起こらず遺伝子発現に失敗したことと共に、筆者等はその失敗の原因が当該外来遺伝子本来のプロモータ配列を植物の転写機構が転写シグナルとして認識できないことにあると推論し、当文献(本件発明)における外来遺伝子発現の成功がnos由来のプロモーター配列と外来遺伝子コード配列との「キメラ遺伝子」としたことによりもたらされたことが記載されている。このことは、請求人自身が本文献投稿日である1983年3月30日当時においても、Tiプラスミドを用いる場合に形質転換植物細胞内で転写シグナルとして機能するプロモーター配列はnosプロモーターのみであると認識していたことを示すものであり、ほぼ同時期の他の文献(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80,4803-4807(Aug.1983))で植物細胞内発現が確認されたキメラ遺伝子もnosプロモーターと外来遺伝子(選択マーカー遺伝子)との組み合わせである。 したがって、本件優先日前の技術常識を勘案しても、本件明細書中には、少なくとも特許請求の範囲第1項に記載される(b)ii)の「該コード配列の天然のプロモーター配列以外の外来性のプロモーター配列を含み、該プロモーター配列は、該コード配列を含む下流の配列の転写を制御して、該細胞中でRNAを産生させるプロモーター領域」としては、nosプロモーター以外のプロモーターについて当業者が容易に実施できる程度の開示がなされていないといわざるを得ない。 〔4〕以上述べたとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲第1項に記載された発明について当業者が容易に実施できるように記載されていないから、本願は、特許法第36条第3項に規定する要件を満たさない。 |
審理終結日 | 2003-12-25 |
結審通知日 | 2004-01-06 |
審決日 | 2004-01-07 |
出願番号 | 特願平4-261509 |
審決分類 |
P
1
8・
531-
Z
(A01H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鵜飼 健、斎藤 真由美 |
特許庁審判長 |
佐伯 裕子 |
特許庁審判官 |
種村 慈樹 田村 聖子 |
発明の名称 | 植物細胞ゲノムへの発現可能な遺伝子の導入法 |
代理人 | 青山 葆 |
代理人 | 田村 恭生 |