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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効としない B65G
管理番号 1097378
審判番号 無効2001-35381  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-10-04 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-08-29 
確定日 2004-05-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第3106194号「スライスされた食パンの分割装置及び分割供給方法」の特許無効審判事件についてされた平成14年3月26日付けの審決に対し、東京高等裁判所において該審決を取り消す旨の判決(平成14年(行ケ)第215号、平成14年12月25日判決言渡し)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯

(1)特許第3106194号の請求項3及び4に係る発明(以下、総称して「本件発明」、また、それぞれを「本件発明3及び4」という。)の特許は、平成5年3月26日に特許出願(平成5年特許願第105850号)されたものが、平成12年9月8日に特許権の設定の登録がなされたものである。
(2)これに対し、平成13年8月29日に、株式会社オシキリ(以下、「請求人」という。)より、本件発明の特許を無効にすることについて審判請求がなされた。
(3)その後、平成13年9月26日に、審判請求書の副本が特許権者である株式会社大生機械(以下、「被請求人」という。)に送達され、期間を指定して答弁書を提出する機会が与えられ、該指定期間内である平成13年11月19日に、訂正請求がなされた。
なお、該訂正請求は、平成15年4月28日に、取り下げられた。
(4)平成14年3月26日に、「訂正を認める。本件発明3及び4に係る特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」旨の審決がなされ、その審決の謄本の送達があった日(平成14年4月5日)から30日以内である平成14年5月2日に東京高等裁判所に訴えが提起された(平成14年(行ケ)第215号)。
(5)その後、平成14年7月5日に、特許権者である株式会社大生機械(以下、「被請求人」という。)より、「特許第3106194号の願書に添付された明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正する。」旨の審判請求がなされ、訂正2002-39153号事件として審理がなされた結果、平成14年10月30日に、本件訂正を認める旨の審決がなされ、その謄本は、平成14年11月11日に被請求人に送達された(審決が確定した)。
(6)そこで、平成14年12月25日に、上記(5)の訂正により本件発明3の要旨の認定を結果として誤ったことになるとして、上記(4)の審決を取り消す旨の判決の言い渡しがなされ、その後、その判決は確定した。
(7)そして、さらに審理され、その審理の過程で、平成15年3月17日に、請求人より、弁駁書が提出された。


II.請求人の主張

請求人は、「本件発明3及び4に係る特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求め、その無効とする理由(以下、「無効理由」という。)として、概略、次のように主張している。

1.無効理由
(1)本件発明3及び4は、いずれも、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件発明3及び4の特許は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
したがって、本件発明3及び4の特許は、いずれも、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。
<証拠方法>
甲第2号証:米国特許第2,247,696号明細書
甲第3号証:特開平1-271322号公報
甲第4号証:特開平2-265815号公報
甲第5号証:特開平4-8499号公報
甲第6号証:米国特許第2,211,433号明細書
甲第7号証:特開平4-223925号公報
ア.審判請求書において、「補足説明」として、審査経過が不自然である旨記載しているが、無効理由を示したものではない。(平成14年2月20日口頭審理調書1頁参照)
イ.甲第6号証の位置付けは、「パンに摺接作用が働くと、不都合が生じるという課題は、既に知られていたこと」を示し、甲第2号証の技術的背景を示す例である。(平成14年2月20日口頭審理調書第1頁参照)
ウ.甲第2号証と甲第6号証の発明者が同じであること及びそれらの記載からみて、甲第2号証の発明者であるA氏は、「摺動分割方式」における問題点を認識し、その上で、「仕切り板」挿入の前に、分割を行い隙間を形成し、そこに仕切り板を挿入することにより問題の解決を図った、と解するのが自然である。(平成14年2月26日付けの上申書4頁25行目〜6頁2行目)
(2)上記I.(5)の訂正後の請求項3に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件特許発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
したがって、本件特許発明の特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。(上記I.(7)の弁駁書2頁17〜19行目)
カ.本件特許発明は、請求項1や請求項2が規定する機械的構成を内容とする装置の発明ではなく、本件特許の出願当初に「スライスされた食パンの分割装置」の発明として記載されていた明細書から、装置を構成するエレメントを捨象することより抽出されて(例えば、「上部押さえ」との装置的エレメントがあげられているが、その具体的構成は全く規定が無く、また、「下方から上方へ仕切り板を挿入する」との規定はあるが、これは以下で述べる甲第2号証に示されている“スライス食パンを、それを押し出して排出する際に用いられるガイドとしての仕切り部材のあるコンベア上に落とすことによって「同仕切り部材を食パンの隙間に下方から上方へ動かすことによって設定する」”という概念をも含むような広い規定となっている)概念規定された方法の発明であり、当該装置の発明との関係では、同装置の発明に対する着想のレベル若しくはそれに近いものまで抽象化された規定であるということができる。
着想から、具体的な機械的構成を有する装置の発明にまで到るには、当業者によるそれなりに創意工夫が必要とされるが、着想は、一般的に、出願時に公知の技術を基に自由な連想(公知技術の観念上での改変、組合せ、置換え等)を通して得られるものである。
従って、着想レベルもしくはそれに近いレベルでの概念規定がされている発明の進歩性判断には、そのような公知技術思想の観念上での改変、組合せ、置換え等が、当業者にとって容易であったか否か、という視点からの判断が必要であると考える(逆にいうならば、概念的に規定されている発明から、それに対応する実施例等の具体例(構造等)を観念して、その具体例の改変、置換え、組合せ等の容易さを考え、進歩性を判断すべきではない)。(同弁駁書2頁22行目〜19行目)
キ.甲第2号証には、
「スライサーから排出された食パンを、先ず分割して隙間を形成し、形成された隙間に搬送用ガイドとしての仕切り部材を挿入し(具体的には、仕切り部材が設定されているコンベアの上に落とし)、その後、その仕切り部材に沿って、同食パンを押し出して排出する(ことにより、従来技術で問題となっていた「仕切り板と食パンの間の抵抗のため食パンがゆがんだり、抜け出してしまったりする不具合」を解消した)食パンの分割供給方法」
の開示がなされている。
これは、本件特許発明の基本をなす重要な技術思想である。
しかも、“ガイドとしての仕切り部材を食パンの隙間に対して下方から上方へ相対的に動かして設定する”という、訂正後の請求項3における主要なものではないが新たに入れられた限定事項の開示もなされている。(同弁駁書3頁22行目〜4頁8行目)
ク.本件審判請求時においては、甲第2号証が訂正前の請求項3及び請求項4の発明と実質的に全く同じ技術思想を開示しているとの認識の下、これを主要な先行技術として論じ、甲第3号証は、あくまでも補助的な先行技術として取り上げていたが、この甲第3号証には、
『互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上に横並びにされた物品を載置し、相隣る前記受け板の間の間に複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された物品の間に複数個の隙間を形成させ、分割された物品を排出することを特徴とする横並びに搬送されてきた物品の分割供給方法』
の開示がなされており、これは今般の訂正審判で加えられた主要な技術思想と実質的に同一の内容をなすものであり、本件特許発明すなわち訂正後の請求項3の発明に対しては極めて重要な先行技術である。
しかも、甲第3号証の開示する発明は、「特許・実用新案審査基準」で「動機付け」判断の具体例としてあげている「技術分野の関連性」、「課題の共通性」という点から判断すれば、極めて強い「動機付け」を有するものである。
更に、得られる効果においても、本件特許発明のものと実質的に全く同じものを示している。(同弁駁書4頁9行目〜5頁1行目)
ケ.斯様な視点から考えるならば、甲第3号証を甲第2号証に適用して本件特許発明を構成することに、それを妨げる特段の事情も見つけられず、本件特許発明はこれら先行技術に基づき当業者が容易に発明できたものと言わざるを得ない。(同弁駁書5頁2〜5行目)


III.被請求人の主張

被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人が主張する無効理由に対して、概略、次のように反論している。

1.無効理由に対する反論
(1)本件発明3及び4は、その出願前に頒布された甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとは到底言えないものであり、これを容易に発明できたものとする請求人の主張は失当である。
ア.甲第2号証に記載されたスライス食パン分割供給装置では、スライス食パンが仕切部材14、15及びサイド・ガイド16、16’と摺動されつつ移動される間に2つに分割されるものであり、その分割操作中、スライス食パンの切断面と側面は仕切部材14、15及びサイド・ガイド16、16’の面と密着した状態で摺動されます。この点で、この分割方式は、本件発明の明細書に従来の分割方式として記載の「分割面に仕切り板を置いて食パンの搬送通路を仕切るやり方でスライス食パンを分割する」方式と同等である。(平成14年2月20日付け口頭審理陳述要領書にて補正された答弁書3頁11〜18行目参照)
イ.甲第2号証では、この分割方式について、「食パンに損傷を与えることなく分割することができる」と評価していて、この摺動分割方式のスライス食パン分割供給方式について何らの問題点も認識されていません。従って、この甲第2号証を見ても、本件発明において指摘している欠点を認識し、その解決を発明の課題として設定するようなことは全然出て来ないというべきである。(答弁書3頁28行目〜4頁6行目参照)
ウ.本件発明3、4は、受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成させて分割し、受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間の隙間に仕切り板を挿入して、受け板上に載置されて分割された食パンが横に倒れたりするのをその仕切り板で防いで、所定枚数毎に分割された状態を保って押し出して排出するという分割方法を提供しています。(答弁書4頁17〜21行目参照)
エ.甲第2号証の装置に対して、本件発明が対象とするスライス食パンとは全く無関係な、パレットに載せた積載物のロボット搬送や、移動台に載せられたICデバイスの次工程搬送などを対象としている甲第3号証や甲第4号証に記載の供給方式を探し出して来てそれを適用することを考えるなどという必要性は甲第2号証の何処にも示唆すらされていません。(答弁書4頁27行目〜5頁2行目参照)
オ.甲第3号証と甲第4号証には、連続供給されて来る物品列を先端部のものからそのまま分離して次工程へ送り出してゆく連続供給装置が記載されているに過ぎないのであります。このように、甲第3号証と甲第4号証に記載されたものは、「スライス食パンを載置した受け板の間に隙間を形成させることによって受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成させ、受け板の上に載置されたスライス食パンの所定枚数毎の間の隙間に仕切り板を挿入して所定枚数毎に分割し、その所定枚数毎の複数群に分割された食パンを押し出して排出する」という本件発明3、4によるスライス食パンの分割方式と全く異なっている。(答弁書6頁19〜27行目参照)
カ.甲第2号証に記載の摺動分割方式と本件発明の無摺動の分割方式とは、隙間の形成させ方が全く異なっています。しかも、甲第2号証に記載の分割方式では、2分割がせいぜいで、3分割以上の多分割は非常に困難になると思われます。(平成14年2月20日付け口頭審理陳述要領書4頁10〜13行目参照)
キ.本件発明の分割の概念と甲第2号証の分割の概念は、異なる。すなわち、本件発明は、隙間を作るだけで分割が達成されているのに対し、甲第2号証のものは、隙間と分割ガイドを組み合わせて分割が達成されている。(平成14年2月20日口頭審理調書1頁参照)
ク.甲第2号証のものは、パンの側面、底面や分割ガイドと摺動が問題となる。甲第2号証のものは、何カ所かの摺動を回避することが出来ないといった欠点を有する。(平成14年2月20日口頭審理調書1頁参照)


IV.当審の判断

1.本件特許発明
本件の審判請求において、当初、無効の対象とされた本件発明3及び4は、既に、上記I.(5)の審決により「本件訂正を認める」とされ、その審決が確定していることからみて、該訂正後の願書に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項3に係る発明(「本件特許発明」)の要旨は、該訂正後の願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項3に記載された次のとおりのものと認める。
そして、該特許請求の範囲の請求項3に係る発明(「本件特許発明」)のみが、当審において判断すべき対象の発明である。
「【請求項3】 互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置しスライス食パンの上部を上部押さえで保持した後、相隣る前記受け板の間と、前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させ、前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出することを特徴とするスライスされた食パンの分割供給方法。」

2.甲号各証に記載された発明
(1)甲第2号証:米国特許第2,247,696号明細書
甲第2号証には、次のような事項が記載されている。
ア.「この発明は、スライスされた食パンの分割の方法及び手段に関し、私の1938年11月25日出願で継続中の…米国出願第242,432号…の主題に関係する。」(1頁左欄1〜6行目)
イ.「これから、より詳細に、また、参照番号を使って、私の発明の具体的実施例が示されている図面を参照するが、Aは、好ましくは垂直方向で往復動するナイフタイプの食パンスライス装置を示しており、その食パン排出側部分は搬送コンベアBを構成しており、このコンベアは、好ましくは、複数のクロスバーb、b’と、横断方向で調節可能な斜めに曲げられたサイドガイドs、s’を備えるチェーン駆動フライトタイプのものとされる。」(1頁左欄54行目〜同頁右欄8行目)
ウ.「搬送コンベアBの食パン排出端部には、包装機械コンベアCが設けられており、このコンベアは、好ましくは、一般的に用いられている移動ポケットタイプのものとされ、分割された食パンを間欠的に受け入れて動き、包装機械D内に間欠的に進むようにされている。」(1頁右欄11〜16行目)
エ.「スライス装置Aは、その食パン排出端部に、横断方向に延びる分割プレート1が設けられ、該分割プレートは、その長手方向において、2つの食パン支持スライド2,3に分けられ、それらスライドは、お互いに離れる方向で斜め下方に延び、且つ、スライス機械Aの食パン排出端部から離れる方向であって且つ搬送コンベアBの側部縁に向かう横断方向において、傾斜が増大するようになっている。その結果、それらスライド及びスライス機械グリッドプレートgとによって、図3,4,5,6に最もよく示されるように、実質的に同一平面にある交差線4,5が形成されている。
スライス装置Aのフレームに形成されたスリーブ6に調整可能にL型のブラケット7が取り付けられており、このブラケットは前方に延びる水平に設定された脚部8を有し、ホールドダウンプレート9を変位可能に支持している。このホールドダウンプレートは、図2及び5に最もよく示されているように、食パン分割プレート1の上を横断方向に延び、且つ、下方にある同プレートの部分に形状が一致するように曲げられ若しくは湾曲されている。
搬送コンベアBの両側から上方に延びる一対のアーム10の間には、水平にクロスバー11が延び、その両端がこれらアームに取り付けられており、該クロスバーは、下方へ吊り下げられたハンガーアーム13の設けられているスリーブ12を変位可能に支持している。
ハンガーアーム13の両側面には、一対の湾曲デバイダーガイド(divider guide)14,15が、稜線4の後方端部近くで、同稜線の両側に等間隔だけ離して位置決めされており、それぞれが、対応する食パンスライド2,3に対する全ての地点において、同スライドに対して実質的に直角となるような形状とされている。同様に、サイドガイドs,s’は、それらの後端すなわち食パン受入れ端16,16’において、それぞれ、ガイド14,15に対して実質的に平行で均一な間隔をあけた関係になるように曲げられる。ガイド14,15は、搬送コンベアB上を前方に延びる。図3に示され、最も良く分かるように、ガイド14,15は相互に収束するように形成されて、それらの前端において統合されて、単一となって連続してコンベアB上を延びる中間ガイド17となっている。」(1頁右欄19行目〜2頁左欄7行目)
オ.「各スライスされた食パンLは、スライス装置Aを通って進められると、分割プレート1上に出て移送されるが、この分割プレートの稜線4は、その食パンが分割されるべき、選択されたスライス切り口(slice cut)と一致するように位置決めされる。従って、食パンLが当該分割プレート1を通って前方へ動くに従い、選択されたスライス切り口の両側の食パンの部分は、スライド2,3の傾斜角度に倣い、その結果、当該食パンは稜線4の周りで、本のように分け拡げられすなわち分割され、2つの分断ローフl,l’とされる。それぞれの分断ローフは、サイドガイド部分16,16’によって落下するのを防止される。分断ローフl,l’が分割プレート1を通って進められるにつれて、それらの間の角度は増大し、同分断ローフl,l’の内向きの、すなわち、対向する面の間の隙間が増大される。そのようになった地点で、食パン分断ローフl,l’の内向き面は、図5に最もよく示されるように、曲げられたホールドダウンプレート9の下で、デバイダーガイド14,15の前方の端部を越えて進められる。
最終的には、食パン分断ローフl,l’は分割プレート1の後方縁を越えて、搬送コンベアB上に落とされ、図1及び6において最もよく分かるように、フライトb,b’によって一個ごと、包装機械コンベアCに進められる。」(第2頁左欄第14〜43行)
ヘ.「加えて、私は、私のこの機械が、スライスされた食パンのスライス片のどれにも損傷を与えること無しに、スライスされた食パンを分割すること、並びに、食パンが分割されるべき特定のスライス切り口に対する特定の若しくは慎重な判断を要する、どのような調整も必要でないことが分かった。」(2頁右欄第27〜32行目)
カ.図3,4,5,6の表示及び上記記載事項エ、オからみて、同図3,4,5,6から、「分割プレート1上の食パンの隙間に一対のデバイダーガイド14,15を挿入して食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l’に分割された食パンを押し出して排出すること」が看取できる。
これらの記載事項によると、甲第2号証には、次のとおりの発明(以下、「甲2号発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「【甲2号発明】食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜線4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び、前方に進むに従って傾斜が増大する食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上をスライスされた食パンLを前方に動かし、食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l’の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成させ、前記分割プレート1上の食パンの前記1個の隙間に側方から一対のデバイダーガイド14,15を挿入して食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l’に分割された食パンを押し出して排出するスライスされた食パンを分割して次の工程のために供給する方法。」
(2)甲第3号証:特開平1-271322号公報
甲第3号証には、全体の記載からみて、次のような発明(以下、「甲3号発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「【甲3号発明】 分割コンベア(5)のコンベア(6)(7)が本体部に対して近接・離間可能に並列に支持された分割コンベア(5)の上に積載品(2)を載置した後、相隣る前記本体部とコンベア(6)(7)の間に1個の隙間を形成させ、さらに、相隣る前記コンベア(6)(7)の間に1個の隙間を形成することによって前記コンベア(6)(7)の上に載置された積載品(2)の積載品山(21)と(22)の間に隙間を形成させて積載品山(21)と(22)に分割し、分割された積載品山(21)(22)を1山ずつロボット等によりつかみ取り次工程へと移す積載品の分割方法。」
(3)甲第4号証:特開平2-265815号公報
甲第4号証には、全体の記載からみて、次のような発明(以下、「甲4号発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「【甲4号発明】 互いに近接・離間可能に並列に支持された2個の移動台12を筺体10に対して近接・離間可能に並列に支持してそれらの上に多数のICデバイス2を載置した後、相隣る前記移動台12及び筺体10の間に2個の隙間を形成させることによって前記移動台12及び筺体10の上に載置された1個のICデバイス2、他の1個のICデバイス2及び残りのICデバイス2の間に2個の隙間を形成させ、分離された1個のICデバイス2と他の1個のICデバイス2を同時に次工程に移送するICデバイス2を所定ピッチ間隔に分離配置する方法。」
(4)甲第5号証:特開平4-8499号公報
甲第5号証には、次のような事項が記載されている。
ア.「第1図から第3図において、1は…細長い食パンBを横にしてスライサー2へ供給するトレイである。
スライサー2においてスライスされた食パンBは、仕切板5によって所定枚数毎区分された状態(図示の場合は3分割)でエンドレスのインフィードコンベア3上へ供給される。」(3頁右上欄15行目〜同頁左下欄4行目)
イ.「インフィードコンベア3は仕切バー4の間隔だけ間欠的に駆動され、スライサー2から出る食パンBの後端を仕切バー4に係合させて間欠的に後述のアウトフィードコンベアへと送る。」(3頁左下欄7〜12行目)
ウ.第1〜4図の記載及び技術常識を参酌すると、同第1〜4図から、「スライスされた食パンの所定枚数毎の複数個の間に側方から仕切板5を挿入すること」が看取できる。
これらの記載事項によると、甲第5号証には、次のとおりの発明(以下、「甲5号発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「【甲5号発明】スライスされた食パンの所定枚数毎の3つの群の間に側方から2つの仕切板5をそれぞれ挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出するスライスされた食パンの分割供給方法。」
(5)甲第6号証:米国特許第2,211,433号明細書
甲第6号証には、全体の記載からみて、次のような発明(以下、「甲6号発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「【甲6号発明】 スライス食パンを1個の楔状のブレード24に向けて進行させ、食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l’に分割し、一対のガイド部材20,22及び21,23により仕切られたスライス食パンを並列に搬送して包装コンベアに供給する方法。」
(6)甲第7号証:特開平4-223925号公報
甲第7号証には、全体の記載からみて、次のような発明(以下、「甲7号発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「【甲7号発明】 成形された容器を成形機の口板(4)からコンベヤ(6)へ取り出すための押出し装置において、プシャフィンガ(20、22、24)が容器のラインの方向に相対的に移動できるように設けられており、押出し装置は、コンベヤ(6)上の容器の間隔が口板(4)上の容器の間隔から変えられるように、プシャフィンガを、口板(4)上の容器に接触する位置と、コンベヤ(6)上に容器を解放する位置との間で移動させるための手段を備えている取出し装置。」

3.本件特許発明と甲2号発明ないし甲4号発明との対比
(1)本件特許発明と甲2号発明との対比
本件特許発明と甲2号発明とを対比すると、甲2号発明の「食パンの複数枚からなる分断ローフl,l’の対向する面の間に隙間を増大して形成させ」は、その技術的意義において、本件特許発明の「食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成させ」に相当し、以下同様に、「食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l’に分割された食パン」は「所定枚数毎に分割された食パン」に、「スライスされた食パンを分割して次の工程のために供給する方法」は「食パンの分割供給方法」に、それぞれ相当する。
また、本件特許発明の「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板」と甲2号発明の「その上をスライスされた食パンLを前方に動かし、食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l’の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成させる、食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜線4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び、前方に進むに従って傾斜が増大する食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1」とは、「食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成することに寄与する底部支持板」の限度において一致し、本件特許発明の「食パンの複数個の隙間に下方から上方に挿入される仕切り板」と甲2号発明の「食パンの1個の隙間に側方から挿入される一対のデバイダーガイド14,15」とは、共に少なくとも食パンの分割状態を維持する機能を有するから「介在物」の限度において一致していると認めることができる。
してみると、本件特許発明と甲2号発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成することに寄与する底部支持板の上の食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成させ、前記底部支持板上の食パンの前記隙間に介在物を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する食パンの分割供給方法。
<相違点>
ア.本件特許発明では、「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置しスライス食パンの上部を上部押さえで保持した後、相隣る前記受け板の間と、前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形成させ」及び「前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方より上方に仕切り板を挿入し」となっているのに対し、甲2号発明では、「食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜線4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び、前方に進むに従って傾斜が増大する食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上をスライスされた食パンLを前方に動かし、食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l’の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成させ」及び「前記分割プレート1上の食パンの前記1個の隙間に側方から一対のデバイダーガイド14,15を挿入して」となっている点(以下、「相違点ア」という。)。
(2)本件特許発明と甲3号発明との対比
本件特許発明と甲3号発明とを対比すると、甲3号発明の「相隣る前記コンベア(6)(7)」は、その技術的意義において、「相隣る受け板」に相当し、以下同様に、「次工程へと移す」は「排出する」に、それぞれ相当する。
また、本件特許発明の「スライスされた食パン」と甲3号発明の「積載品(2)」とは、「被供給物」の限度において一致し、本件特許発明の「食パンの所定枚数毎」と甲3号発明の「積載品山(21)(22)」とは、「供給単位の被供給物」の限度において一致し、本件特許発明の「スライスされた食パンの分割供給方法」と甲3号発明の「積載品の分割方法」とは、「被供給物の分割供給方法」の限度において一致していると認めることができる。
してみると、本件特許発明と甲3号発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上に被供給物を載置した後、相隣る前記受け板の間に隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された被供給物を供給単位の間に隙間を形成させ、供給単位の分割された被供給物を次の工程のために排出する被供給物の分割供給方法。
<相違点>
イ.被供給物の種類及び載置される態様について、本件特許発明では、「スライスされた食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成させ、所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出するスライスされた食パンの分割供給方法」となっているのに対し、甲3号発明では、「積載品(2)の積載品山(21)と(22)の間に隙間を形成させて積載品山(21)と(22)に分割し、分割された積載品山(21)(22)を取り次工程へと移す積載品の分割方法」となっている点(以下、「相違点イ」という。)。
ウ.受け板の構成、隙間の数及び分割の態様について、本件特許発明では、「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置しスライス食パンの上部を上部押さえで保持した後、相隣る前記受け板の間と、前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させ、前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する」となっているのに対し、甲3号発明では、「分割コンベア(5)のコンベア(6)(7)が本体部に対して近接・離間可能に並列に支持された分割コンベア(5)の上に積載品(2)を載置した後、相隣る前記本体部とコンベア(6)(7)の間に1個の隙間を形成させ、さらに、相隣る前記コンベア(6)(7)の間に1個の隙間を形成することによって前記コンベア(6)(7)の上に載置された積載品(2)の積載品山(21)と(22)の間に隙間を形成させて積載品山(21)と(22)に分割し、分割された積載品山(21)(22)を1山ずつロボット等によりつかみ取り次工程へと移す」となっている点(以下、「相違点ウ」という。)。
(3)本件特許発明と甲4号発明との対比
本件特許発明と甲4号発明とを対比すると、甲4号発明の「2個の移動台12及び筺体10」は、その技術的意義において、本件特許発明の「受け板」に相当し、以下同様に、「所定ピッチ間隔に分離配置する方法」は「分割供給方法」に相当する。
また、本件特許発明の「スライスされた食パン」と甲4号発明の「ICデバイス2」とは、「被供給物」の限度において一致し、本件特許発明の「食パンの所定枚数毎」と甲4号発明の「1個のICデバイス2、他の1個のICデバイス2」とは、「供給単位の被供給物」の限度において一致していると認めることができる。
してみると、本件特許発明と甲4号発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上に被供給物を載置した後、相隣る前記受け板の間に複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された2個の供給単位の被供給物と所定の被供給物の間に複数個の隙間を形成させ、分割された被供給物を排出する被供給物の分割供給方法。
<相違点>
エ.被供給物の種類及び載置される態様について、本件特許発明では、「スライスされた食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成させ、所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出するスライスされた食パンの分割供給方法」となっているのに対し、甲4号発明では、「多数のICデバイス2のうちの、1個のICデバイス2、他の1個のICデバイス2及び残りのICデバイス2の間に2個の隙間を形成させ、分離された1個のICデバイス2と他の1個のICデバイス2を同時に次工程に移送するICデバイス2を所定ピッチ間隔に分離配置する方法」となっている点(以下、「相違点エ」という。)。
オ.受け板の構成、隙間の数及び分割の態様について、本件特許発明では、「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置しスライス食パンの上部を上部押さえで保持した後、相隣る前記受け板の間と、前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させ、前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する」となっているのに対し、甲3号発明では、「互いに近接・離間可能に並列に支持された2個の移動台12を筺体10に対して近接・離間可能に並列に支持してそれらの上に多数のICデバイス2を載置した後、相隣る前記移動台12及び筺体10の間に2個の隙間を形成させることによって前記移動台12及び筺体10の上に載置された1個のICデバイス2、他の1個のICデバイス2及び残りのICデバイス2の間に2個の隙間を形成させ、分離された1個のICデバイス2と他の1個のICデバイス2を同時に次工程に移送する」となっている点(以下、「相違点オ」という。)。

4.甲2号発明に甲3号発明を適用することについて
先ず、請求人は、「本件特許発明は、甲2号発明に甲3号発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。」旨(上記II.1.(2)ケ参照)主張しているので、これについて検討する。
(1)本件特許発明と甲2号発明との対比における相違点アの検討及び判断
該相違点アに係る本件特許発明の構成要件の技術的意義は、訂正後の願書に添付された明細書の記載「【従来の技術】 焼き上がった長い食パンをスライスしたのち、1斤、1斤半…毎に包装するため分割する必要がある。従来は、スライスした食パンを搬送する通路に、分割する厚さに対応する間隔で、スライス刃に続く薄い仕切り板を設け、スライス後の食パンを分割された状態で包装装置に送っていた(特願平2-109817号など)。
この仕切り板で搬送通路を仕切るやり方だと仕切り板と食パンの間の抵抗のため食パンが歪んだり、抜け出してしまったりする不具合があった。また、分割量を変更する度に仕切り板の位置を変える必要があり、そのときは装置の稼働を停めて作業をやるが、その作業が煩わしい上に、相当の装置稼働停止時間を必要とするという欠点があった。」(段落【0002】)、「本発明によって食パン上部押さえを設けた装置としたものでは、底部における受け板による前記作用に加え、受け板上のスライス食パンを食パン上部押さえで保持した状態で分割動作が行なわれるので、軟らかい食パンでも分割動作中に倒れたりすることなく確実に分割される。また、本発明のスライス食パンの分割供給方法によれば、スライス食パンが載置された受け板と上部押さえを、それぞれ互いに離間させることによって、受け板上に載せられた状態のままでスライス食パンを歪ませたり脱落させることなく分割させることができる。」(段落【0007】)、「本発明の分割装置によれば、スライス後の食パンを仕切りなしの通路を搬送してきて、それをその場で確実に分割できるので、従来のもののようにスライス食パンが搬送中に歪んだり脱落したりすることがない。…また本発明により、スライス食パンを上下で保持して分割できるものとして構成すれば、軟らかい食パンも確実に分割できる。また、本発明のスライス食パンの分割供給方法によれば、スライス食パンを受け板上に載せた状態のまま、その受け板を互いに離間させることで、歪ませたり脱落させることなく、そのスライス食パンを所定枚数毎に確実に分割させることができる。」(段落【0019】)及び技術常識からみて、該構成要件を具備することにより、「仕切りなしの通路を搬送してきたスライス後のスライス食パンを受け板上に載せた状態のまま、受け板と協動する上部押さえで保持した状態で、スライス食パンを所定枚数毎に複数の隙間ができるように、その受け板を互いに離間させるので、分割動作中に仕切り板と食パンの間の抵抗がなく、それ故、軟らかい食パンでも分割動作中に倒れたり、食パンを歪ませたり脱落させることなく、スライス食パンを所定枚数毎の3つ以上の群に確実に分割させることができる。」といったものと解することができる。
これに対し、上記相違点アに係る甲2号発明の構成要件では、スライスされた食パンLを食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上を動かすことにより、2つの分断ローフl,l’の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成させることを必須とするものであることから、スライス食パンを所定枚数毎の2つの群に分割させるものであって、しかも、分割動作中に食パンと周囲の間の抵抗が不可避なものである。
そして、該甲2号発明は、その構成要件「食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜線4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び、前方に進むに従って傾斜が増大する食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上をスライスされた食パンLを前方に動かし、食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l’の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成させること」及びそれを実施するための具体的な構成からみて、スライスされた食パンLに複数の隙間を形成して、食パンの複数枚からなる3つ以上の分断ローフとすることが可能ではないので、このように複数の隙間を形成することを妨げる特段の事情があると解することができる。
また、甲3号発明をみると、「積載品(2)から積載品山(21)(22)の群を分割すること」及び「積載品山(21)(22)の群を2つの積載品山(21)(22)に分割すること」は、いずれも1個の隙間を形成することにより、2つの群に分割するものであって、この点において甲2号発明と共通するものの、「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置した後、相隣る前記受け板の間に複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させること」を構成要件とする本件特許発明と相違する。
加えて、該甲3号発明は、分割された2つの積載品山(21)と(22)を同時に押し出すような工程を含むものでないことから、2つの積載品山(21)と(22)の隙間に仕切板を挿入する必然性もない。
そうすると、この限りでは、甲3号発明を甲2号発明に適用しても、直ちに本件特許発明の構成要件に至るわけではないし、むしろ、甲3号発明及び甲2号発明には、甲3号発明を甲2号発明に適用し、さらに、それを上記相違点アに係る本件特許発明の構成要件のように変更することを妨げる特段の事情があるというべきである。
してみると、上記相違点アは、格別なものであるというほかない。
(2)甲2号発明に甲3号発明を適用することについてのむすび
したがって、上記請求人の「本件特許発明は、甲2号発明に甲3号発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。」旨の主張は、合理性のないものであって、採用することができない。

5.甲2号発明に甲4号発明を適用することについて
次いで、請求人は、「本件特許発明は、甲2号発明に甲4号発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。」旨(審判請求書9頁23行目〜11頁22行目参照)主張しているので、これについて検討する。
(1)本件特許発明と甲2号発明との対比における相違点アの検討及び判断
上記4.(1)で検討したように、甲2号発明は、その構成要件「食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜線4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び、前方に進むに従って傾斜が増大する食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上をスライスされた食パンLを前方に動かし、食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l’の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成させること」及びそれを実施するための具体的な構成からみて、スライスされた食パンLに複数の隙間を形成して、食パンの複数枚からなる3つ以上の分断ローフとすることが可能ではないので、このように複数の隙間を形成することを妨げる特段の事情があると解することができる。
また、甲4号発明をみると、本件特許発明と一致する点を有するものの、相違点エ及びオを有することは、前示のとおりである。
そして、該相違点オを検討すると、甲4号発明においては、「互いに近接・離間可能に並列に支持」されているのは、「2個の移動台12」であって、「筺体10」は、不動のものであるから、「2個の移動台12」との関係は、「互いに近接・離間可能」ではない。また、甲4号発明においては、「1個のICデバイス2」及び「他の1個のICデバイス2」は、本件特許発明の「食パンの所定枚数毎」に対応するかもしれないが、「残りのICデバイス2」は分離作業中刻々変化するものであるから、本件特許発明の「食パンの所定枚数毎」に対応するとはいえない。さらに、甲4号発明においては、本件特許発明の「前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する」ような「隙間への仕切り板の挿入」を具備していないし、また、甲4号発明の実施例をみても、その構造上、「1個のICデバイス2」、「他の1個のICデバイス2」及び「残りのICデバイス2」の間に「下方から上方へ仕切り板を挿入して」それらを分割することが直ちに容易といえるものではない。
そうすると、この限りでは、甲4号発明を甲2号発明に適用しても、直ちに本件特許発明の構成要件に至るわけではないし、むしろ、甲4号発明及び甲2号発明には、甲4号発明を甲2号発明に適用し、さらに、それを上記相違点アに係る本件特許発明の構成要件のように変更することを妨げる特段の事情があるというべきである。
してみると、上記相違点アは、格別なものであるというほかない。
(2)甲2号発明に甲4号発明を適用することについてのむすび
したがって、上記請求人の「本件特許発明は、甲2号発明に甲4号発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。」旨の主張は、合理性のないものであって、採用することができない。

6.請求人の他の主張等についての検討
請求人は、「当業者が、甲5号発明の技術課題を抱えた状態で、甲2号発明を知り、甲3号発明及び甲4号発明に係る分割手段を知った場合、この分割手段を甲2号発明の分割手段として採用することは、当業者にとって、容易にできたものである、ということができる。」旨(審判請求書10頁29行目〜11頁7行目参照)主張している。
そこで、該主張について以下検討する。
甲第5号証によれば、甲5号発明のようにスライス食パンを所定枚数毎の3つの群に分割させることが本件特許発明に係る出願前に周知の技術的事項であったものと解することができる。
そうすると、甲第2号証及び甲第5号証に接した当業者にとって、甲5号発明のようなスライス食パンを所定枚数毎の3つ以上の群に分割させるものおいても、甲2号発明の技術思想をもって、隙間を形成して分割したいとする動機付けは、生じるものと解する余地があるかもしれない。
ところで、甲5号発明においては、スライスされた食パンの所定枚数毎の3つの群の間に側方から2つの仕切板5をそれぞれ挿入することにより、スライスされた食パンを所定枚数毎の3つ以上の群に分割するものである以上、2つの仕切板5は、スライスされた食パンを所定枚数毎の3つ以上の群に分割する機能を有するものであって、その2つの仕切板5の間隔には本件特許発明のような「隙間」が考慮されていないことは、明らかである。
また、甲5号発明の仕切板5のよる分割態様では、本件特許発明に係る訂正後の願書に添付された明細書の記載「【従来の技術】 焼き上がった長い食パンをスライスしたのち、1斤、1斤半…毎に包装するため分割する必要がある。従来は、スライスした食パンを搬送する通路に、分割する厚さに対応する間隔で、スライス刃に続く薄い仕切り板を設け、スライス後の食パンを分割された状態で包装装置に送っていた(特願平2-109817号など)。
この仕切り板で搬送通路を仕切るやり方だと仕切り板と食パンの間の抵抗のため食パンが歪んだり、抜け出してしまったりする不具合があった。また、分割量を変更する度に仕切り板の位置を変える必要があり、そのときは装置の稼働を停めて作業をやるが、その作業が煩わしい上に、相当の装置稼働停止時間を必要とするという欠点があった。」(段落【0002】、特願平2-109817号は甲第5号証の出願番号である)のような欠点があることも明らかである。
ところが、甲2号発明は、請求人も認める(上記II.1.(1)イ及びウ参照)ように、甲6号発明のような「スライス食パンを1個の楔状のブレード24により食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l’に分割するもの」の問題点を解決したものであって、上記甲5号発明が有する欠点の全てまで解決しようとしたものではない。
確かに、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証及び甲第5号証に接した当業者にとって、「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置した後、相隣る前記受け板の間に複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させ」たいと希望又は着想するかもしれないが、そのような希望又は着想のみでは発明が成立したことにならず、方法の発明であっても、発明が成立したというためには、その方法を実施できるだけの装置等の具体的な裏付けを要することは、特許法第36条第4項で規定される明細書の記載要件に照らしても明らかである。
これに対し、請求人は、「着想から、具体的な機械的構成を有する装置の発明にまで到るには、当業者によるそれなりに創意工夫が必要とされるが、着想は、一般的に、出願時に公知の技術を基に自由な連想(公知技術の観念上での改変、組合せ、置換え等)を通して得られるものである。
従って、着想レベルもしくはそれに近いレベルでの概念規定がされている発明の進歩性判断には、そのような公知技術思想の観念上での改変、組合せ、置換え等が、当業者にとって容易であったか否か、という視点からの判断が必要であると考える(逆にいうならば、概念的に規定されている発明から、それに対応する実施例等の具体例(構造等)を観念して、その具体例の改変、置換え、組合せ等の容易さを考え、進歩性を判断すべきではない)。」(上記II.1.(2)カ参照)と主張している。
しかしながら、着想と発明が異なることは、明らかであって、着想が当業者にとって容易になし得る着想であっても、その着想を実施可能なまでに完成させた発明が当業者にとって容易になし得る発明であるとまで直ちにいえないことも明らかである。
ただ、実施例等の具体例(構造等)で裏付けられた上位の概念で規定した発明は、該実施例等の具体例(構造等)と異なる具体例(構造等)を包含する場合があると考えられるが、このような場合において、該発明の容易想到性というには、そのように包含される具体例(構造等)等を根拠として示す必要がある。
そこで、請求人が提示した証拠に記載された甲5号発明に同甲2号発明を適用することについて検討する。
甲5号発明に甲2号発明を適用しようとすると、甲5号発明がスライスされた食パンの所定枚数毎の3つの群に分割するものであって、しかも、「2つの仕切板5」の間隔には本件特許発明や甲2号発明のような「隙間」が考慮されていないのに対し、甲2号発明がスライスされた食パンの所定枚数毎の2つの群に分割するものであって、それを実現する具体例(構造等)がスライスされた食パンの所定枚数毎の2つの群に分割することのみ可能であって、3つの群に分割するように改変することを想定するものでないばかりか、そのように改変する余地がないものと解される。
そうすると、甲5号発明及び甲2号発明には、甲5号発明に甲2号発明を適用することを妨げる特段の事情があるというべきである。
また、仮に、甲5号発明に甲2号発明を適用すべく、甲5号発明の「2つの仕切板5」の間隔を甲2号発明のような「隙間」を考慮した値に拡げることまでできたとする。
次いで、このように「隙間」を考慮した間隔の「2つの仕切板5」に対応すべく、甲2号発明の分割態様を適用しようとしても、甲2号発明を実現する具体例(構造等)がスライスされた食パンの所定枚数毎の2つの群に分割することのみ可能であるから、甲2号発明の分割態様を適用することができない。
そこで、甲2号発明の分割態様に代えて、甲4号発明の分割態様を適用しても、「スライス食パンの上部を上部押さえで保持した後、前記上部押さえの間に複数個の隙間を形成させること」及び「受け板の上に載置された食パンの複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出すること」の点で本件特許発明の構成要件を欠くものにしか至らない。
確かに、甲2号発明の実施例のホールドダウンプレート9は、本件特許発明の「上部押さえで保持する」ことを示唆するものであるが、甲2号発明の「一対のデバイダーガイド14,15」は、分割プレート1上の食パンの1個の隙間に側方から挿入するものであって、本件特許発明の上記「仕切り板の挿入態様」と異なる。
また、仮に、甲2号発明の実施例の中間ガイド17を本件特許発明の「仕切り板」に対応するものとしても、該中間ガイド17は、一対のデバイダーガイド14,15に続いて分割プレート1上の食パンの1個の隙間に側方から挿入され、その後、分割された食パンが落下することにより、相対的に上方に移動するものであって、本件特許発明のように食パンの隙間に下方から上方へ挿入されるものではない。
なお、軽量なスライスされた食パンに対して、隙間に側方から仕切り板を挿入すると、たとい、スライス食パンの上部を上部押さえで保持したとしても、分割不十分な際にスライス食パンとスライス食パンが接触することにより、仕切り板と食パンの間の抵抗のために抜け出してしまったりする恐れがあり、上部押さえの態様が甲2号発明の実施例のホールドダウンプレート9のように食パンが前方へ動くことを許容するものであっては、その傾向が一層強いと解されるが、本件特許発明のように食パンの隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入するものでは、上部押さえ方向と逆方向に仕切り板が挿入されるので、分割不十分等によりスライス食パンとスライス食パンが接触しても、仕切り板と食パンの間の抵抗のために抜け出してしまうようなことがないことは、その構成からみて明らかである。
しかしながら、甲4号発明にあっては、そのような仕切り板の挿入態様を採用する必然性がないばかりか、仕切り板の挿入態様の採用が可能なものでもない。
そして、請求人が提示した全証拠を参酌しても、本件特許発明の構成要件である「スライス食パンの上部を上部押さえで保持した後、前記上部押さえの間に複数個の隙間を形成させること」及び「受け板の上に載置された食パンの複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出すること」が当業者にとって容易に想到できたものであるとの根拠を見出すことができない。
したがって、上記請求人の「当業者が、甲5号発明の技術課題を抱えた状態で、甲2号発明を知り、甲3号発明及び甲4号発明に係る分割手段を知った場合、この分割手段を甲2号発明の分割手段として採用することは、当業者にとって、容易にできたものである、ということができる。」旨の主張は、合理性のないものであって、採用することができない。
さらに、請求人の他の主張を全て考慮しても、上記判断を覆す根拠を見出すことができない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明についての特許は、請求人が主張した無効理由及び証拠によっては無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-03-12 
結審通知日 2002-03-15 
審決日 2002-03-26 
出願番号 特願平5-105850
審決分類 P 1 122・ 121- Y (B65G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一色 貞好  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 清田 栄章
西野 健二
飯塚 直樹
石原 正博
登録日 2000-09-08 
登録番号 特許第3106194号(P3106194)
発明の名称 スライスされた食パンの分割装置及び分割供給方法  
代理人 伊藤 茂  
代理人 石川 新  

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