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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1097415
審判番号 不服2002-922  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-02-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-01-17 
確定日 2004-05-26 
事件の表示 平成11年特許願第228028号「両面刷枚葉オフセット印刷機」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月15日出願公開、特開2000- 43229〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は、平成5年6月25日に出願した特願平5-155124号(優先権主張平成5年3月24日(以下「本件優先日」という。)及び同年3月30日)の一部を特許法44条1項の規定により新たな特許出願としたものであると主張して、平成11年8月11日に出願されたものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成14年2月18日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりの次のものと認める。
「紙くわえ爪を設けた圧胴の上部に1個のブランケット胴と1個の版胴およびインキング機構を上下方向に配置した3胴タイプの独立した表面印刷ユニットと、紙くわえ爪を設けた他の圧胴の下部に1個のブランケット胴と1個の版胴およびインキング機構を上下方向に配置した3胴タイプの独立した裏面印刷ユニットとを交互に各複数を水平方向に配列し、各圧胴径を版胴およびブランケット胴径の倍径にして各圧胴を接続してなり、各表面印刷ユニット相互間、及び各裏面印刷ユニット相互間に、各印刷ユニットを構成する1個又は相隣る2個の圧胴の上部又は下部であって、各印刷ユニットを構成する上下方向に設置されたブランケット胴、版胴及びインキング機構間に、作業者の入れる操作スペースを設けて成り、枚葉紙の表面と裏面とを時間差をつけて、一色毎交互に多数色を1回の紙通しで印刷することを特徴とする両面刷枚葉オフセット印刷機。」

第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭58-147364号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜コの記載が図示とともにある。
ア.「少なくともそれぞれ1つの圧胴とゴム胴と版胴とインキ機構と湿し機構とを備えかつそれぞれ同じ構成ユニットとして構成された複数の印刷機構を有する枚葉紙オフセット輪転印刷機であって、各ゴム胴の軸線が一平面内にあり、各圧胴の軸線が前記ゴム胴の軸線を含む平面に対して平行な別の一平面内に配置されている形式のものにおいて、ゴム胴(・・・59,60,61,62)及び圧胴(・・・63,64,65,66)が互いに接してそれぞれ一列に配置されており、各印刷ユニットのそれぞれ1つの圧胴が順次に隣接する印刷ユニットのゴム胴に接触せしめられており、ゴム胴の軸線と圧胴の軸線との間の結合線がジグザグ線(C)を形成しており、この結合線が70°から175°までの角度(α)で互いに傾けられており、前記各ゴム胴と圧胴とにグリッパが設けられていることを特徴とする、枚葉紙オフセット輪転印刷機。」(1頁左下欄5行〜右下欄3行、特許請求の範囲第1項)
イ.「前記ゴム胴(・・・59,60,61,62)及び圧胴(・・・63,64,65,66)がそれぞれ水平に並べて配置されている、特許請求の範囲第1項・・・記載の枚葉紙オフセット輪転印刷機。」(1頁右下欄7〜11行、特許請求の範囲第3項)
ウ.「本発明は少なくとも1つの圧胴とゴム胴と版胴とインキ機構と湿し機構とを備えかつそれぞれ同じ構成ユニットとして構成された複数の印刷機構を有する枚葉紙オフセット輪転印刷機であって、各ゴム胴の軸線が一平面内にあり、各圧胴の軸線が前記ゴム胴の軸線を含む平面に対して別の一平面内に配置されている形式のものに関する。
このような形式の、3胴式印刷機構を備えた公知の印刷機は、単数または複数の引渡しドラムまたはグリッパチエーン装置を用いて枚葉紙を2つの印刷機構の間で搬送するように構成されている。・・・4胴式印刷機構も同じような形式で互いに結合することができる。・・・公知印刷機の枚葉紙搬送機構においては各印刷機構の間に付加的な構成部材が必要とされるので、製造費用が高くなってしまう。」(2頁左下欄11行〜右下欄12行)
エ.「本発明の構成を使用すれば単に必要とされる構成部材の数を減少させることができるばかりではなく、この印刷機全体の組立て長さをも短縮することができる」(2頁右下欄末行〜3頁左上欄1行)
オ.「図示の実施例においてはゴム胴17、18、19、20の直径と圧胴21、22、23の直径は互いに等しくかつ版胴13、14、15、16の直径の2倍になるように構成されている。」(3頁右上欄13〜16行)
カ.「インキ機構、湿し機構及び版胴に対する接近性と印刷機全体の組立て長さは、版胴、ゴム胴、圧胴の直径の大きさによって決定される。原則的には各印刷機構の3つの胴の大きさを等しく設計し、外周面に版板を張設できるように版胴の直径を選んでおくことができる。この構造は紙判の小さい幅の狭い印刷機が対象となる。印刷機全体の組立て長さの短縮化と構成部材に対する接近至便性とに対する2つの相反する要求に申分なく応える構造は第1図に示されている。この構造においてはゴム胴17,18,19,20の直径と圧胴21,22,23の直径とには版胴13,14,15,16の直径の2倍になるような大きさが選ばれている。」(3頁右下欄1〜15行)
キ.「第1図ではこの印刷機は4色表印刷と1色裏印刷とを行なう改造様式で示されている。このためには、表印刷機構3、4の間の突合わせ縁部の下方に裏印刷ユニット32が配置されている。この裏印刷ユニット32は版胴33、インキ機構34及び湿し機構35を有している。版胴33は、ゴムブランケットが張られてゴム胴として使用されている圧胴23に接触せしめられている。」(4頁右上欄11行〜末行)
ク.「第2図に示された実施例においても同様に構成ユニットとして構成された表印刷機構51、52、53、54が設けられており、これらは第1図に示された印刷機の表印刷機構1、2、3、4と同じ形式で構成されている。これらの表印刷機構の下方には4つの裏印刷ユニット55、56、57、58が設けられており、これらは第1図に示された裏印刷ユニット32と同様に構成されている。表印刷機構51、52、53、54の各ゴム胴59、60、61、62は圧胴63、64、65、66と協働する。これらの圧胴はどれもゴムブランケットが張られて裏印刷ユニットのゴム胴として使用される。ゴム胴59、60、61、62、圧胴63、64、65、66には全てグリッパが設けられている。」(4頁左下欄11行〜右下欄5行)
ケ.「ゴム胴59のグリッパによって掴まれた枚葉紙を汚さないでゴム胴59と圧胴63の間の印刷ラインに案内するために、吸引装置69が設けられている。・・・枚葉紙とゴム胴59との間に付加的に空気クッションを形成するためには、フロントグリッパ68の上方に空気吹出しノズル列73を設けておくことができる。」(4頁右下欄8行〜5頁左上欄2行)
コ.「任意数の表印刷機構で多色表印刷機を構成することもできる。さらにこの形式の印刷機は表印刷機構で施されるインキ数と同数になるまでは裏印刷ユニットを加えて印刷様式を改造することができる。」(5頁右上欄2〜6行)

2.引用例記載の発明の認定
引用例では、第2図の符番59〜62で示される4つの胴を「ゴム胴」と称し、符番63〜66で示される4つの胴を「圧胴」と称しているが、「ゴム胴」と「圧胴」の構造上・材質上の相違を認めることはできず、「圧胴」は記載キ,クにあるように裏印刷ユニットの「ゴム胴」として機能するものであり、明記はないものの「ゴム胴」が裏印刷ユニットの「圧胴」として機能することは自明である。すなわち、引用例における「ゴム胴」及び「圧胴」との表現は、表印刷機構における機能に着目して命名されたものにすぎない。そこで、以下では「表側ゴム胴」及び「裏側ゴム胴」ということにする。
引用例記載の「表印刷機構」とは、1つの圧胴、1つのゴム胴、1つの版胴とインキ機構と湿し機構とを備えたユニットとして構成されたものであるが、そのうち「圧胴」は裏印刷のための「ゴム胴」として機能するものであるから、用語の統一を図るため、表印刷機構から「圧胴」を除いたものを「表ユニット」といい、「裏印刷ユニット」に「圧胴」(裏側ゴム胴)を加えたものを「裏ユニット」ということにする。
記載オは第1図についての説明であるが、第2図の「ゴム胴」、「圧胴」及び「版胴」の直径の関係についても当然当てはまる。
記載カの「接近性」及び「接近至便性」とは、印刷機に対して作業者が作業するに際して接近が至便であることを意味し、これは作業者の入れる操作スペースが確保されているということである。
記載コによれば、表ユニット及び裏ユニットの各インキはそれぞれ別色であり、多色印刷を行うものである。
そうすると、記載ア〜ケを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例には次の発明が記載されているものと認定できる。
「1つの表側ゴム胴、1つの版胴及びインキ機構を備えた表ユニット4つと、1つの裏側ゴム胴、1つの版胴及びインキ機構を備えた裏ユニット4つを有し、
表側ゴム胴と裏側ゴム胴は、その軸線間の結合線のなす角度が70°から175°となるように、枚葉紙の供給元から表側・裏側・表側・裏側・表側・裏側・表側・裏側の順に連接して設けられており、
4つの表側ゴム胴と4つの裏側ゴム胴は、それぞれ水平に並べて配置されており、
表ユニットの各版胴は各表側ゴム胴の上部に、及び裏ユニットの各版胴は各裏側ゴム胴の下部にそれぞれ設けられており、
表ユニットの各インキ機構は各版胴の上部に、及び裏ユニットの各インキ機構は各版胴の下部にそれぞれ設けられており、
4つの表側ゴム胴と4つの裏側ゴム胴にはグリッパが設けられており、
4つの表側ゴム胴と4つの裏側ゴム胴の直径は、8つの版胴の直径の2倍であり、作業者の入れる操作スペースが確保されている枚葉紙オフセット多色刷り輪転印刷機。」(以下「引用例発明」という。)

3.本願発明と引用例発明との一致点及び相違点の認定
引用例発明の「グリッパ」及び「インキ機構」は本願発明の「紙くわえ爪」及び「インキング機構」にそれぞれ相当し、引用例発明が「多数色を1回の紙通しで印刷することを特徴とする両面刷枚葉オフセット印刷機」であることはいうまでもない。
引用例発明の「ゴム胴」は「ブランケット胴」とも称されるものである(「表側ゴム胴」、「裏側ゴム胴」ともに)。
引用例発明の「表ユニット」と本願発明の「表面印刷ユニット」とは、表面印刷用として構成された「1個のブランケット胴と1個の版胴およびインキング機構」を上下方向に配置したユニットである点、及び複数を水平方向に配列したユニットである点で一致し、本願発明の「表面印刷ユニット」が上記に加え「圧胴」を備えた3胴タイプの独立した印刷ユニットであるのに対し、引用例発明の「表ユニット」は「圧胴」を含まない点で相違する。引用例発明の「裏ユニット」と本願発明の「裏面印刷ユニット」との関係も同様である。また、引用例発明の「表ユニット」と「裏ユニット」が、水平方向に関して交互に配列されていることは明らかである。要するに、表側のユニットと裏側のユニットを「交互に各複数を水平方向に配列し」た点において、本願発明と引用例発明とは一致する。
引用例発明の「表側ゴム胴」及び「裏側ゴム胴」と本願発明の「圧胴」は、表側及び裏側のユニットを構成する胴のうちもっとも下側又は上側に位置する胴である点、「紙くわえ爪を設けた」点、互いに接続される胴である点、並びにそれらの胴径が版胴の倍径である点で一致する。
したがって、本願発明と引用例発明とは、
「1個のブランケット胴と1個の版胴及びインキング機構を備え、版胴及びインキング機構をブランケット胴の上部に配置した表側のユニットを複数有し、
1個のブランケット胴と1個の版胴及びインキング機構を備え、版胴及びインキング機構をブランケット胴の下部に配置した裏側のユニットを複数有し、
表側のユニット及び裏側のユニットとを交互に各複数を水平方向に配列し、
表側のユニットの最下部に位置する胴と及び裏側のユニットの最上部に位置する胴は、版胴の倍径にして順次接続されており、作業者の入れる操作スペースを設けて成り、多数色を1回の紙通しで印刷することを特徴とする両面刷枚葉オフセット印刷機。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉表側のユニットにつき、本願発明が「1個のブランケット胴と1個の版胴及びインキング機構」に加えて、それらよりも下部にある「圧胴」を有する3胴タイプの独立した印刷ユニットであるのに対し、引用例発明の「表ユニット」は「圧胴」を有さない2胴タイプであり、圧胴を有さないため独立した印刷ユニットともいえない点。
〈相違点2〉裏側のユニットにつき、本願発明が「1個のブランケット胴と1個の版胴及びインキング機構」に加えて、それらよりも上部にある「圧胴」を有する3胴タイプの独立した印刷ユニットであるのに対し、引用例発明の「裏ユニット」は「圧胴」を有さない2胴タイプであり、圧胴を有さないため独立した印刷ユニットともいえない点。
〈相違点3〉表側のユニットの最下部に位置する胴及び裏側のユニットの最上部に位置する胴であって接続される胴につき、本願発明では「圧胴」であり、圧胴径をブランケット胴径の倍径としているのに対し、引用例発明では「表側ゴム胴」及び「裏側ゴム胴」であり、当然ブランケット胴径の倍径とすることなどあり得ない点。
〈相違点4〉操作スペースにつき、本願発明が「各表面印刷ユニット相互間、及び各裏面印刷ユニット相互間に、各印刷ユニットを構成する1個又は相隣る2個の圧胴の上部又は下部であって、各印刷ユニットを構成する上下方向に設置されたブランケット胴、版胴及びインキング機構間に、作業者の入れる操作スペース」としているのに対し、引用例発明の操作スペースはそれと異なる(引用例の第2図からみて、「各表ユニット相互間、及び各裏ユニット相互間に、各印刷ユニットを構成する1個又は相隣る2個の表側ゴム胴の上部又は裏側ゴム胴の下部であって、各ユニットを構成する上下方向に設置された版胴及びインキング機構間に、作業者の入れる操作スペース」といえる。)点。
〈相違点5〉本願発明では「枚葉紙の表面と裏面とを時間差をつけて、一色毎交互に」多数色を印刷するのに対し、引用例発明では「枚葉紙の表面と裏面とを時間差をつけて、一色毎交互に」とはいえない点。

4.相違点についての判断
(1)相違点1及び相違点2について
引用例発明では、表側1色目の印刷は、1番目の表側ゴム胴と裏側ゴム胴が圧接する時点で行われ、枚葉紙が1番目の表側ゴム胴と接触する機会はこの時だけである。また、それ以前に枚葉紙が1番目の表側ゴム胴に接触するのを防止するため、実施例では吸引装置や空気吹出しノズル列が採用されている。ところが、表側の2色目以降の印刷については、裏側ゴム胴と一度圧接した後、もう一度裏側ゴム胴(先の裏側ゴム胴とは別の胴である)に圧接するまで、枚葉紙は2番目以降の表側ゴム胴に接触し続けており、裏側ゴム胴と圧接する機会が2度あるのだから、印刷ずれが起こりやすいことは当業者には明らかである。裏側の1色目から3色目までの印刷も同様である。
請求人も「この印刷機(審決注;引用例発明)は、2つのブランケット胴からなる第一の印刷部から第二の印刷部への紙渡しの際にも同じ印刷紙に印圧がかかり、同じ画像が2度転写されるため、二重印刷または汚れが付着することから、実際の印刷機として使用することは不可能である。」(平成14年6月3日付け手続補正書(方式)4頁19〜22行)と主張しており、この主張はその限度において概ね誤りではない。
このように、引用例発明は印刷品位を考えた場合には、相当程度改善の余地がある発明であるといえ、印刷品位を劣化させる原因となっている構成が、2色目以降の表側ゴム胴が裏側ゴム胴と2回圧接すること、及び3色目までの裏側ゴム胴が表側ゴム胴と2回圧接することにあることは明らかである。
他方、引用例の記載エにある「必要とされる構成部材の数を減少させることができる」の「構成部材」とは、記載ウによれば「単数または複数の引渡しドラムまたはグリッパチエーン装置」のような「枚葉紙搬送機構」のことであり、引用例発明では、印刷自体に不可欠な表側ゴム胴と裏側ゴム胴を連接させたことにより、これらゴム胴に枚葉紙搬送機能が備わり、そのため余分の枚葉紙搬送機構が不要となり、「印刷機全体の組立て長さをも短縮することができ」たものである。
そうであるならば、余分の枚葉紙搬送機構が不要となるような引用例発明の構成を維持したまま、印刷品位を向上できるように、検討を加えることは当業者であれば当然行うべき作業といえる。
表裏両面に1回の紙通しで印刷を行うことができる輪転印刷機において、表面印刷ユニット及び裏面印刷ユニットとして圧胴、ブランケット胴、版胴及びインキング機構を有する(圧胴以外は1個とは限らない)印刷ユニットの表面側の圧胴と裏面側の圧胴を連接させて、各印刷ユニット間に専用の枚葉紙搬送機構を設けない構成としたものは、原査定の拒絶の理由に引用した特開昭60-64849号公報(本願明細書に従来技術の1つとして紹介された特公平3-21346号公報はその公告公報である。)のほか米国特許第1282642号明細書(1918年発行)及び特開昭63-87234号公報にみられるように本件優先日当時周知である(以下、この輪転印刷機を「周知印刷機」という。)。そしてこの周知印刷機であれば、連接しているのはインクが付着されない圧胴同士であって、各ブランケット胴が圧胴と圧接するのは1回限りであるから、引用例発明におけるような印刷品位の劣化は生じない。
さらに、表面印刷側圧胴と裏面印刷側圧胴を連接させて、少なくとも一方の面に多色刷りを行うような両面刷り輪転印刷機は、本件優先日の一世紀以上前に頒布された米国特許第511095号明細書(1893年発行)にも記載されていることから、当業者が当然熟知しているものと解される。
また、これらの輪転印刷機であって、表面印刷ユニット又は裏面印刷ユニットを複数有する場合(特開昭60-64849号公報記載のものがそうであるし、ブランケット胴を有しないけれども米国特許第511095号明細書もしかりである。)、それと反対面印刷ユニットの圧胴が、複数存する側の印刷ユニットに対しての引渡しドラムの役割をそれぞれ果たしていることは、1つの印刷ユニットとして圧胴、ブランケット胴、版胴及びインキング機構を有するものを、引渡しドラムを介して複数設けた片面輪転印刷機の構成(例えば、「オフセット印刷機」(高柳茂直他著、日本印刷新聞社より昭和61年第2刷り発行)47頁図2.4.5若しくは74頁図2.5.2又は「平板印刷技術-知識と実務-」(平板印刷技術編纂委員会編、日本印刷技術協会より昭和54年第2版発行)284頁図23.3参照。)との比較から明らかである。
そうすると、引用例発明において表側ゴム胴と裏側ゴム胴を連接させた構成と、周知印刷機において表面印刷側圧胴と裏面印刷側圧胴を連接させた構成とは、胴の連接により余分の枚葉紙搬送機構を不要とした点で共通するものである。
そうであれば、引用例発明における表ユニット及び裏ユニットの構成に圧胴を追加し、周知印刷機同様のユニット構成とした上で、表側圧胴と裏側圧胴が連接する構成とすることは当業者にとって想到容易というよりない。この場合、引用例発明の表側ゴム胴及び裏側ゴム胴に備わっている「グリッパ」(紙くわえ爪)は、枚葉紙を移送する圧胴に配されなければならないこと、並びに、表ユニットでは圧胴の上部にブランケット胴と版胴及びインキング機構を上下方向に配置した構成となること、及び裏ユニットでは圧胴の下部にブランケット胴と版胴及びインキング機構を上下方向に配置した構成となることは自明である。さらに、ユニットに圧胴が追加されれば、そのユニットは独立した印刷ユニットということができる。
もっとも、引用例発明では連接されるものが表側ゴム胴と裏側ゴム胴、すなわちブランケット胴であるため、各ユニットには1つの版胴及び1つのゴム胴しか設けられていないが、周知印刷機においては連接されるものが圧胴であるため、その圧胴には1つしか版胴及びゴム胴を対応させることができないわけではない。実際、前掲特開昭60-64849号公報及び特開昭63-87234号公報においては、1つの圧胴に2つのブランケット胴及び2つの版胴を対応させた5胴タイプの印刷ユニットが示されている。しかし、前掲米国特許第511095号明細書には、一方の面は複数色印刷でありながら、1つの圧胴に1つの版胴を対応させた印刷ユニットが記載されており、同文献ではブランケット胴が用いられていないけれども、同文献記載の両面刷り輪転印刷機において版胴と圧胴間にブランケット胴を介在させる構成とする場合には、ブランケット胴と版胴は同数(前掲特開昭60-64849号公報及び特開昭63-87234号公報もそうである。)となるべきであるから、3胴タイプの印刷ユニットとするのが自然である。さらに、片面印刷ではあるものの前掲「オフセット印刷機」47頁図2.4.5及び74頁図2.5.2並びに「平板印刷技術-知識と実務-」284頁図23.3に記載のものも3胴タイプの印刷ユニットである。3胴タイプとするか5胴タイプとするかに限っては、両面印刷であるか片面印刷であるかは関係がなく、主として輪転印刷機の設置スペース及び印刷サイズ等により選択すべき設計事項にすぎない。
以上を総合すれば、引用例発明の「表ユニット」及び「裏ユニット」を、1個の圧胴の上部(「表ユニット」の場合)又は下部(「裏ユニット」の場合)に1個のブランケット胴と1個の版胴およびインキング機構を上下方向に配置した3胴タイプの独立した印刷ユニット構成に変更すること、すなわち相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成に至ることは、上記周知印刷機の存在にかんがみ当業者が容易に想到できたことである。
この点請求人は、「引用例1(審決注;引用例)(第2図)の印刷機、この独立していない、それだけで印刷できない機構に、それだけで印刷できる3胴タイプ、5胴タイプの印刷機を用いる機構は構成できない。」(平成14年6月3日付け手続補正書(方式)3頁末行〜4頁2行)、「引用例1には、このような「B-Bタイプ」の印刷機を、本願発明のような「3胴構成からなる表面印刷ユニットおよび裏面印刷ユニット」に変換することについての示唆もないから、これから本願発明が容易であるとすることの論理性もない。」(同書4頁3〜6行)、「引用例1に示されている技術思想は、・・・B-Bタイプの印刷機全体の長さの短縮技術であって、B-B特有の技術思想を発展させるものではあるが、他の印刷機に通用する汎用技術ではなく、又、汎用技術にはなり得ないものである。」(同書5頁1〜5行)などと主張するが、これら主張は、あるタイプの印刷機において開発された技術思想を別のタイプの印刷機には適用できない旨の主張であって、引用例発明の技術的意義、本件優先日当時の技術水準及びその当時の周知技術を考慮しない主張であるから、採用できない。

(2)相違点3について
相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成に至ることが当業者にとって想到容易であることは既に述べたとおりであり、相違点3に係る本願発明の構成のうち、表側のユニットの最下部に位置する胴及び裏側のユニットの最上部に位置する胴を圧胴とし、圧胴同士を接続することは、その結果にすぎない。また、印刷原理上、版胴の直径は印刷サイズによって決定され、ブランケット胴及び圧胴の直径は版胴と同径か又はその整数倍でなければならない。
引用例の記載カによれば、引用例発明において表側ゴム胴及び裏側ゴム胴の直径を版胴の直径の2倍とした理由が、作業者の入れる操作スペースを確保することにあることは明らかである。ここで、相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成を採用した場合には、連接される胴は圧胴となり、この圧胴の直径を大きくしておかないと作業者の入れる操作スペースが確保されないけれども(中間胴を別途用いれば別である)、ブランケット胴をあえて版胴よりも大きくする理由がない。そのことは、前掲特開昭60-64849号公報において、ブランケット胴(同文献では「ゴム胴」と表現されている。)は版胴と同径であり、圧胴だけがそれら胴の3倍径となっていることからも明らかである。ここで、倍径とするか3倍径とするかは、版胴の大きさや1つの圧胴に配置される版胴及びブランケット胴の数から、適当なスペースを確保できる径とするだけの設計事項である。さらに、前掲「オフセット印刷機」47頁図2.4.5及び74頁図2.5.2並びに「平板印刷技術-知識と実務-」284頁図23.3に記載のもの(これら図では、版胴、ブランケット胴、圧胴及び引渡しドラムはそれぞれ「P」、「B」、「I]及び「T」と表記されている。)において、版胴とブランケット胴は同径に描かれ、圧胴と引渡しドラムはそれらよりも大きく描かれており、周知印刷機はこの引渡しドラムを反対面印刷用の圧胴としたものであるから、相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成を採用した場合、圧胴だけを版胴及びブランケット胴の倍径とすることは設計事項というよりない。
以上のとおりであるから、相違点3に係る本願発明の構成は、相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成を採用した場合の設計上でしかなく、相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成に至ることが当業者にとって想到容易である以上、相違点3に係る本願発明の構成に至ることも当業者にとって想到容易である。

(3)相違点4及び相違点5について
相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成に至ることが当業者にとって想到容易であることは既に述べたとおりであり、その場合「各表面印刷ユニット相互間、及び各裏面印刷ユニット相互間に、各印刷ユニットを構成する1個又は相隣る2個の圧胴の上部又は下部であって、各印刷ユニットを構成する上下方向に設置されたブランケット胴、版胴及びインキング機構間に、作業者の入れる操作スペースを設け」た構成とならざるを得ず、また多数色の印刷は「枚葉紙の表面と裏面とを時間差をつけて、一色毎交互に」ならざるを得ない。
すなわち、相違点4及び相違点5は相違点1及び相違点2とは独立した相違点ではなく、相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成に至ることが当業者にとって想到容易である以上、相違点4及び相違点5に係る本願発明の構成に至ることも当業者にとって想到容易である。

(4)本願発明の進歩性の判断
相違点1〜相違点5に係る本願発明の構成に至ることは当業者にとって想到容易であり、これら相違点に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用例発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

5.その他
以上のとおりであるが、前掲米国特許第511095号明細書(以下、本項では「前世紀刊行物」という。)に記載の発明(同じく「前世紀発明」という。)を出発点とした場合、本願発明に進歩性がないことはなお一層明らかである。もちろん、前世紀刊行物は原査定の拒絶の理由に引用された文献ではないから、本項は傍論であって審決の理由とするものではない。
本願発明と前世紀発明との相違は次の3点である。
(a)各印刷ユニットにつき、本願発明では1個の圧胴の上部又は下部に1個のブランケット胴1個の版胴及びインキング機構を上下方向に配した有する3胴タイプ独立したオフセット印刷ユニットであるのに対し、前世紀発明の印刷ユニットはブランケット胴を有さず、オフセット印刷ユニットかどうかもわからない点。
(b)本願発明の印刷ユニットは、両面とも複数あるが、前世紀発明の印刷ユニットは、片面は複数であるが他の面のユニットが複数であるかどうか、又は複数とする場合にどのような配置構成となるか明確でない点。
(c)胴径及び操作スペースについて、本願発明では「各圧胴径を版胴およびブランケット胴径の倍径にして各圧胴を接続してなり、各表面印刷ユニット相互間、及び各裏面印刷ユニット相互間に、各印刷ユニットを構成する1個又は相隣る2個の圧胴の上部又は下部であって、各印刷ユニットを構成する上下方向に設置されたブランケット胴、版胴及びインキング機構間に、作業者の入れる操作スペースを設けて成」るのに対し、前世紀発明では、圧胴が版胴の倍径とは認められず、操作スペースがあるのかどうかもわからない点。

相違点aについては、本件優先日当時、1個の圧胴、1個のブランケット胴、1個の版胴及びインキング機構を有する3胴タイプの独立したオフセット印刷ユニットを用いた印刷機は周知である。前世紀発明の印刷ユニットをこの周知の印刷ユニットに代えることに困難性はない。その際、1個のブランケット胴、1個の版胴及びインキング機構を圧胴の上部又は下部に上下方向に配することは設計事項である。
相違点bについては、前世紀刊行物には「本発明の目的は一方の面上に一色あるいはそれ以上の色で、そして他方の面上に複数の色でシートを印刷することにあり」(1頁13〜15行)、「他の印刷対がシートの一方の面又は両面上に追加の色を印刷するために使用されてもよいが、それらが如何に置かれるべきかは明らかである」(1頁89〜91行)及び「複数の圧胴の軸は水平面内又はほぼ水平面内にある」(1頁94〜96行)との各記載があり、水平面内又はほぼ水平面内に配置される圧胴の数を増加することによって、両面多色刷りができることは自明である。
相違点cについては、作業者の入れる操作スペースを確保することは、当業者が当然配慮すべき事項であり、圧胴が連接したタイプの前掲特開昭60-64849号公報においても、圧胴径が他の胴径より大きくなっている。その際、倍径とすることは設計事項である。
したがって、本願発明は、前世紀発明及び本件優先日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

第3 むすび
本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができない以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-03-12 
結審通知日 2004-03-23 
審決日 2004-04-06 
出願番号 特願平11-228028
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小泉 順彦畑井 順一  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 清水 康司
津田 俊明
発明の名称 両面刷枚葉オフセット印刷機  
復代理人 高橋 三雄  
代理人 橘 哲男  
復代理人 土橋 皓  

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