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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01M
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1097903
異議申立番号 異議2002-71213  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-09-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-05-07 
確定日 2004-03-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3244314号「非水系電池」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3244314号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3244314号の出願は、平成4年11月10日(優先権主張平成3年11月13日)になされ、平成13年10月26日に、その発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について特許異議申立て(特許異議申立て1:小矢崎杏二、特許異議申立て2:飯島清、特許異議申立て3:株式会社ユアサコーポレーション、特許異議申立て4:尾谷勉、特許異議申立て5:鈴木邦明、特許異議申立て6:新神戸電機株式会社)がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年1月6日に訂正請求がなされ、訂正拒絶理由通知がなされた後、再度取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年8月6日に、平成15年1月6日付け訂正請求を取り下げるとともに、訂正請求がなされたものである。

2.平成15年8月6日付け訂正請求の訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
a.特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】リチウム金属或いはリチウムを吸蔵放出可能な材料から成る負極と、正極とを有する非水系電池において、
上記正極の活物質として、LiaMbNicCodOe(MはAl、Mn、Sn、In、Fe、Cu、Mg、Ti、Zn、Moから成る群から選択される少なくとも一種の金属であり、且つ0<a<1.3、0.02≦b≦0.5、0.02≦d/c+d≦0.9、1.8<e<2.2の範囲であって、更にb+c+d=1であり、0.34<cである)を用いることを特徴とする非水系電池。」を
「【請求項1】リチウム金属或いはリチウムを吸蔵放出可能な材料から成る負極と、正極とを有する非水系電池において、
上記正極の活物質として、LiaMbNicCodOe(MはAl、Fe、Cu、Mg、Zn、Moから成る群から選択される少なくとも一種の金属であり、且つ0<a<1.3、0.02≦b≦0.5、0.02≦d/c+d≦0.9、1.8<e<2.2の範囲であって、更にb+c+d=1であり、0.34<cである)を用いることを特徴とする非水系電池。」
に訂正する。
b.特許請求の範囲の請求項2を削除する。
c.明細書の【0006】(特許公報の【0006】第5〜6行)の「(MはAl、Mn、Sn、In、Fe、Cu、Mg、Ti、Zn、Mo・・・」を、「(MはAl、Fe、Cu、Mg、Zn、Mo・・・」に訂正する。
d.明細書の【0030】(特許公報の【0030】第11〜13行)、及び、同【図面の簡単な説明】の【図8】の「Fe、Cu、Mn、Al、Sn、In、Mg、Ti、Zn、Moを使用」を、「Fe、Cu、Al、Mg、Zn、Moを使用」に訂正する。
e.明細書の【0017】(特許公報の【0017】第6行)の「放電容量が飛躍的に増大している」を、「放電容量が増大している」に訂正する。
f.明細書の【0018】(特許公報の【0018】第9行)の「Li1.0Mn0.1Ni0.45Co0.45O2.0」を、「Li1.0Cu0.1Ni0.45Co0.45O2.0」に訂正する。
g.明細書の【0010】(特許公報の【0010】第2行)の「〔第1実施例〕」を削除するとともに、同【0010】の「本発明の第1実施例」(特許公報の【0010】第2行)、「〔実施例〕」(特許公報の【0010】第4行)」、及び、「本発明の一実施例」(特許公報の【0010】第4行)を、ともに「参考例」に訂正する。
h.明細書の【0012】(特許公報の【0012】第7行)の「上記実施例」を、「上記参考例」に訂正する。
i.明細書の【0013】(特許公報の【0013】第3行)、及び、同【0015】(特許公報の【0015】第1行及び第8行)の「本発明」を、「参考例」に訂正する。
j.明細書の【0018】(特許公報の【0018】第4行)の「〔第2実施例〕」を 、「〔第1実施例〕」に訂正する。
k.明細書の【0018】(特許公報の【0018】第11行)の「前記第1実施例の実施例」を、「前記参考例」に訂正する。
l.明細書の【0019】(特許公報の【0019】第3〜4行)、及び同【0025】(特許公報の【0025】第3〜4行)の「前記第1実施例に示す比較例」を、「前記比較例」に訂正する。
m.明細書の【0019】(特許公報の【0019】第5〜6行)、同【0021】(特許公報の【0021】第11行)、同【0022】(特許公報の【0022】第10行)、同【0024】(特許公報の【0024】第11行)、同【0025】(特許公報の【0025】第5〜6行)、同【0027】(特許公報の【0027】の第11行)、及び、同【0028】(特許公報の【0028】第10行)の「前記第1実施例」を、「前記参考例」に訂正する。
n.明細書の【0024】(特許公報の【0024】第4行)の「〔第3実施例〕」を、「〔第2実施例〕」に訂正する。
o.図面の図8における「M:Mn,Al,Si,Sn,In,Mg,Ti,Zn,Mo」を、「M:Al,Mg,Zn,Mo」に訂正する。

2-2.訂正の目的の適否・新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の記載「MはAl、Mn、Sn、In、Fe、Cu、Mg、Ti、Zn、Moから成る群から選択される少なくとも一種の金属であり」を、「MはAl、Fe、Cu、Mg、Zn、Moから成る群から選択される少なくとも一種の金属であり」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項bは、訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項c、d、g〜nは、発明の詳細な説明の該当する記載を、訂正事項aと整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項eは、図3との整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項fは、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項oは、図8を、訂正事項aと整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした図面の訂正に該当する。
そして、上記いずれの訂正も、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

2-3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについての判断
3-1.各異議申立人の申立ての理由の概要
(1)特許異議申立人小矢崎杏二(以下、「申立人1」という。)は、下記の甲第1号証を提出して、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから取り消されるべき旨主張している。
甲第1号証:特願平3-50487号(特開平4-267053号公報参照)

(2)特許異議申立人飯島清(以下、「申立人2」という。)は、下記の甲第1号証を提出して、請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するから、請求項1に係る発明の特許は取り消されるべきであり、また、請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから取り消されるべき旨主張している。
甲第1号証:特開平4-267053号公報
なお、申立人2は、証拠方法として特開平4-267052号公報(甲第1号証)を公知の刊行物として提出しているが、請求項1に係る発明の出願は、優先権主張日である平成3年11月13日にされたものと認められるから、特開平4-267052号公報は、本件優先日前に頒布された刊行物ではない。
よって、申立人2の提出した甲第1号証は、請求項1に係る発明の新規性進歩性に関する証拠方法としては採用しない。

(3)特許異議申立人株式会社ユアサコーポレーション(以下、「申立人3」という。)は、下記の甲第1号証を提出して、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから取り消されるべき旨主張している。
甲第1号証:特願平3-50487号(特開平4-267053号公報参照)

(4)特許異議申立人尾谷勉(以下、「申立人4」という。)は、下記の甲第1号証を提出して、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから取り消されるべき旨、また、下記の甲第2〜5号証を提出して、請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、また甲第2、3号証に記載された発明に基づいて、さらには甲第3、4、5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明の特許は取り消されるべき旨主張している。
甲第1号証:特願平3-50487号(特開平4-267053号公報参照)
甲第2号証:特開昭63-121258号公報
甲第3号証:特開昭63-299056号公報
甲第4号証:特開昭62-90863号公報
甲第5号証:特開平3-201368号公報

(5)特許異議申立人鈴木邦明(以下、「申立人5」という。)は、下記の甲第1、2号証を提出して、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項2に係る発明も、甲第2号証に記載された従来技術が本件の優先日当時の技術水準であることを参酌すると、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る発明の特許は取り消されるべき旨主張している。
甲第1号証:特開昭63-121258号公報
甲第2号証:特開平4-267053号公報

(6)特許異議申立人新神戸電機株式会社(以下、「申立人6」という。)は、下記の甲第1、2号証を提出して、請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、請求項1、2に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、また、請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。さらに本件明細書の【0017】には記載不備があるから、請求項1、2に係る発明の特許は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり取り消されるべき旨主張している。
甲第1号証:特願平3-50487号(特開平4-267053号公報参照)
甲第2号証:英国公開特許第2242898号明細書

3-2.当審による取消理由の概要
平成15年6月9日付け取消理由の概要は、次のとおりである。
(引用証拠)
先願明細書:特願平3-50487号(特開平4-267053号公報参照)
刊行物1:特開昭63-121258号公報
刊行物2:特開昭63-299056号公報
刊行物3:特開昭62-90863号公報
刊行物4:特開平3-201368号公報
刊行物5:英国公開特許第2242898号明細書
(1)請求項1に係る発明について
(理由1)請求項1に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一である。
(理由2)請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるか、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(理由3)請求項1に係る発明は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)請求項2に係る発明について
(理由4)請求項2に係る発明は、刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(理由5)請求項2に係る発明は、刊行物1、6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。なお、本件の優先権主張の基礎である特願平3-296114号(出願日:平成3年11月13日)の明細書又は図面には請求項2に記載される事項は記載されていないから、請求項2に係る発明は、本件の実際の出願日である平成4年11月10に出願されたものと認める。
(3)本件明細書の記載について
(理由6)本件明細書の【0017】、【0018】には、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない不備がある。

3-3.本件発明
上記訂正は、上記2で示したとおりこれを認めることができるから、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】リチウム金属或いはリチウムを吸蔵放出可能な材料から成る負極と、正極とを有する非水系電池において、
上記正極の活物質として、LiaMbNicCodOe(MはAl、Fe、Cu、Mg、Zn、Moから成る群から選択される少なくとも一種の金属であり、且つ0<a<1.3、0.02≦b≦0.5、0.02≦d/c+d≦0.9、1.8<e<2.2の範囲であって、更にb+c+d=1であり、0.34<cである)を用いることを特徴とする非水系電池。」

3-4.先願明細書及び引用刊行物に記載された事項
当審が平成15年6月9日付けで通知した取消理由において引用した上記先願明細書及び引用刊行物1〜5には、それぞれ次のとおりの事項が記載されている。

先願明細書:特願平3-50487号(特開平4-267053号公報参照、申立人1、3、4、6の提出した甲第1号証と同じ)
実施例3には、炭酸リチウムと炭酸コバルトと酸化ニッケルと二酸化マンガンとをLi:Co:Ni:Mnのモル比が5:2:2:1になるように秤量し、実施例1と同様の工程で作製した電池が記載され、実施例1には、リチウム箔負極、正極活物質原料を、混合、焼成、粉砕して得た正極活物質を用いて作製した正極、非水電解液及びセパレータを用いて電池を作製することが記載されている(【0012】〜【0014】、【0016】)。

刊行物1:特開昭63-121258号公報(申立人4の提出した甲第2号証、申立人5の提出した甲第1号証と同じ)
層状構造を有し、一般式 AxByCzDwO2 [但しAはアルカリ金属から選ばれた少なくとも1種であり、Bは遷移金属であり、CはAl,In,Snの群から選ばれた少なくとも1種であり、Dは(a)A以外のアルカリ金属、(b)B以外の遷移金属、(c)IIa族元素、(d)Al,In,Sn,炭素,窒素,酸素を除くIIIb族,IVb族、Vb族、VIb族の第2〜第6周期の元素,の群から選ばれた少なくとも1種を表わし、x,y,z,wは各々0.05≦x≦1.10、0.85≦y≦1.00、0.001≦z≦0.10、0.001≦w≦0.10の数を表わす。]で示される複合酸化物を正極として用い、負極としてリチウム金属を用いる非水系二次電池が記載され(特許請求の範囲、実施例1)、Aはアルカリ金属から選ばれた少なくとも一種であり中でもLiが好ましく(第2頁左下欄第14〜16行)、Bは、遷移金属を表わし中でもNi,Coが好ましく、また、遷移金属のうち2種以上含み、かつ、合計されたy(xはyの誤記と認める。)値が0.85≦y≦1.00の範囲を逸脱しない場合も含んでいること(第2頁右下欄第5〜10行)が記載されている。
さらに、電池は、サイクル特性、自己放電特性に優れること(第5頁右上欄第12〜15行)が記載され、実施例1において、酸化スカンジウム0.002モルの代りに酸化スカンジウム0.001モルと酸化ニッケル0.002モルを用いたものである実施例7として、第4表には、Li1.01Co0.95Sn0.04Sc0.001Ni0.001O2が開示され(第6頁右上欄下から第6〜末行、第4表)、実施例1〜6、8〜17には、BがCoである正極活物質が記載されている(第5頁右上欄第19行〜左下欄末行、第2、4、5表)。

刊行物2:特開昭63-299056号公報(申立人4の提出した甲第3号証と同じ)
リチウム又はリチウム合金よりなる陰極と、LiyNixCo(1-x)O2(但し、0<x≦0.75、y≦1)よりなる陽極と、有機電解溶液よりなる有機電解質二次電池が記載され(特許請求の範囲、第1頁左欄第14〜18行)、陽極としてLiCoO2のコバルト原子の一部をニッケル原子で置換したものを用いているので、放電容量を増加させることができ、保存特性も大幅に向上することが可能であることも開示されている(第5頁右下欄第5〜13行)。

刊行物3:特開昭62-90863号公報(申立人4の提出した甲第4号証と同じ)
下記Iを活物質とする正極と、Li、Na等の軽金属又はその合金負極、LixFe2O3、LixFe3O4、LixWO2等の金属酸化物負極、導電性高分子負極、又は炭素質材料負極と、非水電解液を有する二次電池が記載され(特許請求の範囲、第8頁右上欄第4〜12行)、さらに、Aのアルカリ金属は中でもLiが好ましく、Mの遷移金属は、中でもNi、Coが好ましいことも記載されている(第3頁左下欄第3〜5行、同第13〜14行)。
I:層状構造を有し、一般式 AxMyNzO2 (但しAはアルカリ金属から選ばれた少なくとも一種であり、Mは遷移金属であり、NはAl,In,Snの群から選ばれた少なくとも一種を表わし、x,y,zは各々0.05≦x≦1.10、0.85≦y≦1.00、0.001≦z≦0.10の数を表わす。)で示される複合酸化物。
さらに、電池は、サイクル特性、自己放電特性に優れることが記載され(第9頁左上欄第9〜10行)、実施例42〜46には、BがCoである正極活物質が、実施例47には、BがNiである正極活物質が記載されている(第19頁左下欄第1〜16行、第10、11、12表)。

刊行物4:特開平3-201368号公報(申立人4の提出した甲第5号証と同じ)、
リチウムまたはリチウム化合物を負極とし、式 LixCo(1-y)MyO2 で表わされ、0.85≦X≦1.3、0.05≦Y≦0.35であり、MはW、Mn、Ta、Ti、Nbの群より選んだ少なくとも一種である正極活物質を用いた非水電解質二次電池が記載され(特許請求の範囲の請求項1)、電池はサイクル特性が向上したものであること(第5頁左下欄第7〜13行)も記載されている。

刊行物5:英国公開特許第2242898号明細書(申立人6の提出した甲第2号証と同じ)
層状リチウム遷移金属酸化物は、リチウムカチオンと、遷移金属カチオンTと、酸素アニオンとから成り、該遷移金属カチオンTは、コバルトカチオン、及び、コバルトカチオンとニッケルカチオンの混合物から選択したものであり、コバルトカチオンとニッケルカチオンの不等混合物を含むものとしてもよく、その場合、ニッケルカチオンは該混合物中における前記遷移金属カチオンTのせいぜい25%以下という低い割合で混合物を構成すること(第1頁第2、4節)、また、該酸化物は、遷移金属カチオンTに加えてドーパント遷移金属カチオンを含むものとしてもよく、該ドーパントカチオンは、マンガン、バナジウム、鉄、クロム及びそれらの混合物から選択し、該酸化物中の遷移金属の総量の0.5〜25%を構成するものとすること(第1頁第5節)、そして該酸化物は、リチウムを負極活物質とする一次及び二次電池の正極として用いられ(第8頁第1節)、そのような電池は、概略、Li(負極)/電解液/リチウム遷移金属酸化物(正極) と表され(第8頁第3節)、電解液は有機溶媒中にLiClO4,LiAsF6,LiBF4等を溶解したものが適していること(第8頁第4節)が記載されている。

3-5.取消理由についての当審の判断
3-5-1.理由1(先願明細書発明)について
先願明細書の実施例3に記載される電池は、Li:Co:Ni:Mnのモル比が5:2:2:1になるように秤量し焼成したものであるから、その正極活物質は、LiCo0.4Ni0.4Mn0.2O2であると認められる。またこの電池も、実施例1の電池と同様にリチウム箔負極、非水電解液を備えるものであるから、先願明細書には、「リチウム金属から成る負極と、LiCo0.4Ni0.4Mn0.2O2 から成る正極とを有する非水系電池」の発明(以下、「先願明細書発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件発明と先願明細書発明とを対比すると、両者は、「リチウム金属から成る負極と、正極とを有する非水系電池において、上記正極の活物質として、LiM0.2Ni0.4Co0.4O2を用いる非水系電池」という点で一致するが、本件発明は、その「M」が「Al、Fe、Cu、Mg、Zn、Moから成る群から選択される少なくとも一種の金属」であるのに対し、先願明細書発明は、その「M」がMnであるから、両者は、その「M」の金属の点で相違すると云える。
よって、本件発明は、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。

3-5-2.理由2〜5(新規性及び進歩性)について
(1)理由2について
刊行物1には、「一般式 AxByCzDwO2 [但しAはアルカリ金属から選ばれた少なくとも1種であり、Bは遷移金属であり、CはAl,In,Snの群から選ばれた少なくとも1種であり、Dは(a)A以外のアルカリ金属、(b)B以外の遷移金属、(c)IIa族元素、(d)Al,In,Sn,炭素,窒素,酸素を除くIIIb族,IVb族、Vb族、VIb族の第2〜第6周期の元素,の群から選ばれた少なくとも1種を表わし、x,y,z,wは各々0.05≦x≦1.10、0.85≦y≦1.00、0.001≦z≦0.10、0.001≦w≦0.10の数を表わす。]で示される複合酸化物を正極として用い、負極としてリチウム金属を用いる非水系二次電池」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると云える。
そこで、本件発明と刊行物1発明とを対比すると、両者は、「リチウム金属から成る負極と、正極とを有する非水系電池」に係る点では共通するので、その正極活物質の組成が一致するか否かについて、以下検討する。
刊行物1発明は、A、B、C及びDの成分に各種の元素を選択することができるものであり、その組合せは多岐に亘るものであるが、その実施例中に本件発明とその成分系が「LiMNiCoO」という点でもっとも近似している「実施例7」が記載されているから、先ずこの実施例7と本件発明とを対比する。
実施例7は、Li1.01Co0.95Sn0.04Sc0.001Ni0.001O2という組成の正極活物質であり、この組成において、a=1.01、b=0.004+0.001、c=0.001、d=0.95、e=2であるから、これら数値に基づいて本件発明の条件の可否を計算すると、d/c+d(Co/Ni+Co)=0.999であり、この実施例7は、本件発明の条件である0<a<1.3および1.8<e<2.2を満足するものの、 0.02≦b≦0.5、0.02≦d/c+d≦0.9、0.34<cを満足するものではない。そして、d/c+d=0.999、b=0.005の値の実施例7は、本件明細書の図4〜7に示されるように、放電容量が劣っている領域のものであるから、本件発明の放電容量の増大という効果をも達成することができないものである。
してみると、刊行物1に記載の実施例のうち、その成分系で本件発明ともっとも近似している実施例7は、本件発明の上記条件を満足するものではないから、本件発明と同一であるとすることはできない。
次に、刊行物1発明では、上述のとおり、A、B、C及びDに種々の元素を選択することができるから、その選択組合せによっては、可能性として本件発明の成分系に近似する組合せを選択することもできる。例えば、刊行物1発明のAにLiを、Bに好ましいNi又はCoの遷移金属を、CにAlを、DにCo又はNiをそれぞれ選択した場合、刊行物1発明の正極活物質は、「LiAlNiCoO」という成分系となるから、その正極活物質の組成についても、一応「Lix Niy Alz CowO2」又は「Lix Coy Alz NiwO2」(但しx,y,z,wは各々0.05≦x≦1.10、0.85≦y≦1.00、0.001≦z≦0.10、0.001≦w≦0.10の数を表わす。)の2つの例を想定することもできるが、刊行物1発明の後者の「Lix Coy Alz NiwO2」の組成の場合は、Niのwが0.001≦w≦0.10、であるから、本件発明の少なくともNiの0.34<cの条件を満足するものではない。
また、前者の「Lix Niy Alz CowO2」の組成の場合は、Niのyが0.85≦y≦1.00であるから、本件発明のNiのcの0.34<cと重複し、Alのzが0.001≦z≦0.10であるから、本件発明のM(Alを選択した場合)のbの0.02≦b≦0.5と重複する。また、Coのwが0.001≦w≦0.10であるから、「Lix Niy Alz CowO2」が本件発明のCoのdに関する0.02≦d/c+d≦0.9とb+c+d=1の条件を満足するか否かについて以下検討する。
(イ)「Lix Niy Alz CowO2」のw(dに相当)が0.10の場合(上限値の場合)
z(bに相当)を上限値の0.1とした場合は、「Lix Niy Alz CowO2」のy(cに相当)は、本件発明のb+c+d=1の条件を満足するためにはy=0.8であるが、この0.8は、0.85≦y≦1.00の範囲外であるから、wとzをそれぞれ上限値とする組合せは本件発明の条件を満足しないと云える。
(ロ)「Lix Niy Alz CowO2」のw(dに相当)が0.001の場合(下限値の場合)
z(bに相当)を下限値の0.001とした場合は、「Lix Niy Alz CowO2」のy(cに相当)は、本件発明のb+c+d=1の条件を満足するためにはy=0.998であるが、この0.998は、0.85≦y≦1.00の範囲内であるから、wとzをそれぞれ下限値とする組合せは本件発明のb+c+d=1の条件を満足する。また、この場合の本件発明の0.02≦d/c+d≦0.9の条件について計算すると、0.001/0.999=0.001であるから、本件発明の0.02≦d/c+d≦0.9の条件を満足しない。
(ハ)「Lix Niy Alz CowO2」のw(dに相当)が0.01の場合(中間値の場合)
z(bに相当)を中間値の0.01とした場合は、「Lix Niy Alz CowO2」のy(cに相当)は、本件発明のb+c+d=1の条件を満足するためにはy=0.98であるが、この0.98は、0.85≦y≦1.00の範囲内であるから、wとzをそれぞれ中間値とする組合せは本件発明のb+c+d=1の条件を満足する。また、この場合の本件発明の0.02≦d/c+d≦0.9の条件について計算すると、0.01/0.99=0.01であるから、本件発明の0.02≦d/c+d≦0.9の条件を満足しない。
(ニ)「Lix Niy Alz CowO2」のw(dに相当)が0.10の場合(上限値の場合)
y(cに相当)を下限値の0.85とした場合は、本件発明のb+c+d=1の条件を満足するためにはz(bに相当)=0.05であるが、この0.05は、0.001≦z≦0.10の条件を満足する。また、この場合の本件発明の0.02≦d/c+d≦0.9の条件について計算すると、0.1/0.95=0.105であるから、本件発明の0.02≦d/c+d≦0.9の条件を満足する。
(ホ)「Lix Niy Alz CowO2」のw(dに相当)が0.001の場合(下限値の場合)
y(cに相当)を下限値の0.85とした場合は、本件発明のb+c+d=1の条件を満足するためにはz(bに相当)=0.149であるが、この0.149は、0.001≦z≦0.10の条件を満足しない。また、y(cに相当)を上限値の1.0とした場合は、本件発明のb+c+d=1の条件を満足しない。
以上の検討のとおり、本件発明と刊行物1発明とは、その正極活物質が少なくとも上記(ニ)の条件の場合には、その組成が一致する可能性があると云えるが、この(ニ)の組成は、刊行物1に記載の広範な可能性の範囲内で選択元素や採りうる数値の値について試行錯誤を繰り返すことによって見出されたものでも、具体的な実施例等によって裏付けられているものでもない。また、刊行物1には、上記(ニ)の正極活物質の性質について、優れたサイクル特性と自己放電特性という点が、他の組成のものと区別することなく記載されているだけであって、本件発明のような「放電容量の増大」という性質については何ら記載されていない。
そうであるならば、本件発明は、刊行物1発明においてそのA、B、C及びDとして選択することができる多数の元素とそのx、y、z及びwの数値範囲とによる無数の組合せの中から、特に、「LiMNiCoO」という成分系の組合せだけを選択し、その数値範囲についても、特に、0.02≦b≦0.5、0.02≦d/c+d≦0.9、0.34<cの条件に限定することによって、非水系電池における「放電容量の増大」という顕著な効果を発揮することができたものであると云える。
そして、刊行物1には、本件発明の上記成分系の具体的な元素の組合せや数値範囲については何ら示唆されておらず、「放電容量の増大」という顕著な効果を予想させる何らの記載もない。むしろ、刊行物1には、本件発明の「LiMNiCoO」の成分系に近似した実施例7の「Li1.01Co0.95Sn0.04Sc0.001Ni0.001O2」が記載されているが、上記したように、この実施例7でさえ、その数値を本件発明のそれに換算した「d/c+d=0.999、b=0.005」のものは、本件明細書の図4〜7に示されるように放電容量が劣っている領域のものであることに照らせば、刊行物1には、放電容量が増大した非水系電池は何ら記載されてないと云える。
してみると、本件発明は、刊行物1に記載の発明の選択発明として新規性及び進歩性があると云うべきである。
また、刊行物1のその余の記載を検討しても、本件発明の上記成分系の具体的な元素の組合せや数値範囲については何ら示唆されていないから、本件発明は、上記刊行物1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)理由3について
この理由3は、(イ)刊行物1に記載の発明と刊行物2乃至5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、(ロ)刊行物2に記載の発明と刊行物3及び4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、(ハ)刊行物5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、というものであるから、以下、これら理由について検討する。
(イ)の理由について
本件発明と刊行物1発明とは、上述したとおり、正極活物質の成分組成の点及び「放電容量の増大」という効果の点で相違していると云えるから、これら相違点について、その余の刊行物2乃至5について検討する。
刊行物2乃至5には、下記(ロ)及び(ハ)の理由で言及するとおり、本件発明の正極活物質とその成分組成が別異の非水系電池が記載されているだけであり、しかも、これら証拠には、本件発明の特に0.02≦b≦0.5、0.02≦d/c+d≦0.9の条件と放電容量の増大との関係についても何ら示唆されていないから、本件発明の正極活物質の成分組成等の相違点については、刊行物2乃至5の記載から当業者が容易に想到することができたとすることはできない。
したがって、(イ)の理由は、理由がない。
(ロ)の理由について
刊行物2には、「リチウム金属から成る負極と、正極とを有する非水系電池において、正極の活物質として、LiyNixCo(1-x)O2(但し、0<x≦0.75、y≦1)を用いる非水系電池」が記載されており、この刊行物2の発明では、正極活物質がNiとCoとを、0<x≦0.75(本件発明の「0.34<c」と重複)、0.25≦Co/Ni+Co<1(本件発明の「0.02≦d/c+d≦0.9」と重複)の範囲で含有するものであるが、本件発明の「M」に相当する金属が添加されていないから、この電池では、本件明細書の【0004】に従来例として紹介されているような放電容量特性が劣るものである。
してみると、刊行物2には、本件発明の成分系の非水系電池について何ら示唆されていないし、より放電容量を高めるための本件発明の正極活物質の組成についても示唆されていないと云うべきである。
次に、これら相違点について刊行物3及び4を検討する。
刊行物3には、「リチウム金属或いはリチウムを吸蔵放出可能な材料から成る負極と、正極とを有する非水系電池において、正極の活物質がLixMyAlzO2(Mは遷移金属でありNi、Coが好ましく、x,y,zは各々0.05≦x≦1.10、0.85≦y≦1.00、0.001≦z≦0.10の数を表わす。)で示される複合酸化物である非水系電池」が記載されているが、この非水系電池では、具体例がNi又はCoのいずれかであるから、本件発明のLiaMbNicCodOeという正極活物質とその成分組成が相違しているし、この刊行物3にも、放電容量を増大させた非水系電池については示唆されていない。また、刊行物4には、「リチウム又はリチウム化合物から成る負極と、正極とを有する非水電解質二次電池において、その正極活物質がLixCo(1-y)MyO2(MはW、Mn、Ta、Ti、Nbの群より選んだ少なくとも一種であり、且つ0.85≦X≦1.3、0.05≦Y≦0.35)である非水電解質二次電池」が記載されているが、この電池も、その成分系にNiが含まれていないから、本件発明の正極活物質とその成分組成が全く異なるものである。そして、刊行物4にも、放電容量を増大させた非水系電池についても示唆されていないから、本件発明の放電容量を増大させるための正極活物質の組成等については、刊行物3及び4の記載から容易に想到することができないと云うべきである。
したがって、上記理由(ロ)も、理由がない。
(ハ)の理由について
刊行物5の記載事項において、有機溶媒中にLiClO4,LiAsF6,LiBF4等を溶解した電解液を有する電池は、非水系電池であり、ニッケルカチオンは該混合物(コバルトカチオンとニッケルカチオンの混合物)中における前記遷移金属カチオンTのせいぜい25%以下ということは、コバルトカチオンは該混合物(コバルトカチオンとニッケルカチオンの混合物)中における前記遷移金属カチオンTの75%以上ということであるから、刊行物5には、「リチウム金属から成る負極と、正極とを有する非水系電池において、正極の活物質として、LiTO2(T:Co+Ni、0.75≦Co/Ni+Co)であって、Tの一部をFe(遷移金属の総量の0.5〜25%)で置き換えたものを用いる非水系電池」の発明(以下、「刊行物5発明」という。)が記載されていると云える。また、この刊行物5発明を本件発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物5発明の正極活物質の成分系は、「Li(Co+Ni)FeO2」であると云える。
そこで、本件発明と刊行物5発明とを対比すると、本件発明の「M」は、刊行物5発明の「Fe」に相当し、本件発明の「NiCo」は、刊行物5発明の「(Co+Ni)」に相当すると云えるから、本件発明の「b」に相当するFeの数値は、T=1として「0.5〜25%」を換算すると「0.005〜0.25」であり、本件発明の「c+d」に相当するNi+Coの数値は、「0.75〜0.995」であり、さらに本件発明の「d/c+d」に相当する数値は、0.75≦d/c+dであると云える。
ここで、本件発明のd/c+dについて、「c>0.34」の条件を加味すると、本件発明ではd/c+dの採りうる範囲は、実質的にはd/c+d<約0.65であるから、本件発明は、このd/c+dの条件の点で刊行物5発明と明らかに相違していると云える。
また、この相違点について、刊行物5のその余の記載を検討すると、刊行物5には、Co+Niの一部をFeで置換することの技術的意義やd/c+dの関係式と放電容量の増大との関係等についても何ら記載されていないから、少なくとも本件発明のd/c+dに関する相違点については刊行物5のその余の記載から当業者が容易に想到することができたとも云うことができない。
したがって、理由(ハ)も、理由がない。

(3)理由4及び5について
これら理由は、請求項2に係る発明に関するものであるが、請求項2は、上記訂正により削除されたから、解消されたと云える。
(4)理由6(記載不備)について
理由6の一つは、本件明細書の段落【0017】の「放電容量が飛躍的に増大していることが認められる。」という記載について、図3のデータから「飛躍的に増大」とはいえないから、この点で段落【0017】は、記載不備であるというものである。しかしながら、この段落【0017】は、上記2.2-1の訂正事項eにより「放電容量が増大していることが認められる。」と訂正されたから、解消されたと云える。
また、他の理由は、段落【0018】の原料「CuO」について、このCuOを含む原料を使用したにもかかわらず、作製された活物質には、Cuが含まれておらず原料にないMnが含まれているから、この点で段落【0018】は、記載不備であるというものである。しかしながら、この段落【0018】は、上記2.2-1の訂正事項fにより誤記の訂正として活物質中の「Mn」が「Cu」と訂正されたから、解消されたと云える。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては訂正後の本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非水系電池
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 リチウム金属或いはリチウムを吸蔵放出可能な材料から成る負極と、正極とを有する非水系電池において、
上記正極の活物質として、LiaMbNicCodOe(MはAl、Fe、Cu、Mg、Zn、Moから成る群から選択される少なくとも一種の金属であり、且つ0<a<1.3、0.02≦b≦0.5、0.02≦d/c+d≦0.9、1.8<e<2.2の範囲であって、更にb+c+d=1であり、0.34<cである)を用いることを特徴とする非水系電池。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、リチウム、リチウム合金或いはリチウム-炭素材を用いる負極と、正極とを備えた非水系二次電池に関し、特に正極の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の二次電池としては、電圧が高く、しかも高容量であることが要求される。このようなことを考慮して、MoO3、V2O5、リチウム-マンガン系複合酸化物、MoS2、LiCoO2、或いはLiNiO2等の正極活物質が提案されており、一部は実用化されている。
【0003】
しかしながら、上記LiCoO2等を正極活物質として用いた場合には、充放電時に結晶構造が大きく変化することにより、結晶構造が少しずつ破壊され、この結果放電容量が小さくなるという課題を有していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、LiCoO2とLiNiO2とを改良したLiNixCo1-xO2を正極活物質として用いるような電池が提案されているが、やはり充放電時に結晶構造が変化するため、放電容量が小さくなる。加えて、上記LiCoO2等は、充電後の電解液の存在下において、熱的な安定性が低くなるという課題を有していた。
【0005】
本発明は係る現状を考慮してなされたものであって、結晶構造の変化を低減して、放電容量を飛躍的に増大させることができ、しかも熱的な安定性を向上させることができる非水系電池の提供を目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するために、リチウム金属或いはリチウムを吸蔵放出可能な材料から成る負極と、正極とを有する非水系電池において、上記正極の活物質として、LiaMbNicCodOe(MはAl、Fe、Cu、Mg、Zn、Moから成る群から選択される少なくとも一種の金属であり、且つ0<a<1.3、0.02≦b≦0.5、0.02≦d/c+d≦0.9、1.8<e<2.2の範囲であって、更にb+c+d=1であり、0.34<cである)を用いることを特徴とする。
【0007】
また、前記LiaMbNicCodOeで示される正極活物質のMが、Cu及びFeから成る群から選択される少なくとも一種の金属であることを特徴とする。
【0008】
【作用】
上記構成の如く、LiaNicCodOeに他の金属Mを添加したものを正極活物質として用いれば、理由は定かではないが、充電時にLiが抽出されても結晶構造が比較的安定となる。したがって、充放電を繰り返し行っても結晶構造が崩壊せず、可逆的な充放電が可能となる。
【0009】
また、正極活物質のMを、Cu及びFeから成る群から選択される少なくとも一種の金属で構成した場合には、充電後における電解液の存在下において、熱的な安定性を飛躍的に向上させることができる。
【0010】
【実施例】
参考例を図1〜図3に基づいて、以下に説明する。
〔参考例〕
図1は参考例に係る偏平型非水系二次電池の断面図であり、リチウムから成る負極2は負極集電体7の内面に圧着されており、この負極集電体7はフェライト系ステンレス鋼(SUS430)からなる負極缶5の内底面に固着されている。上記負極缶5の周端はポリプロピレン製の絶縁パッキング8の内部に固定されており、絶縁パッキング8の外周にはステンレスから成る正極缶4が固定されている。この正極缶4の内底面には正極集電体6が固定されており、この正極集電体6の内面にはLiMn0.1Ni0.45Co0.45O2を活物質とする正極1が固定されている。この正極1と前記負極2との間には、ポリプロピレン製微多孔性膜より成り電解液が含浸されたセパレータ3が介挿されている。上記電解液には、プロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの等体積混合溶媒に、過塩素酸リチウムを1モル/lの割合で溶解させたものを用いている。尚、電池寸法は、直径24.0mm,厚み3.0mmである。
【0011】
ここで、上記正極1を、以下のようにして作製した。先ず、Li2CO3(炭酸リチウム)とMnCO3(炭酸マンガン)とNiCO3(炭酸ニッケル)とCoCO3(炭酸コバルト)とを、LiとMnとNiとCoとのモル比が1:0.1:0.45:0.45となるように乳鉢で混合した後、この混合物を空気中で850℃で20時間熱処理して、LiMn0.1Ni0.45Co0.45O2から成る正極活物質を作製する。次に、この正極活物質粉末と、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのフッ素樹脂粉末とを、重量比で90:6:4の比率で混合して正極合剤を作製した後、この正極合剤を2トン/cm2で直径20mmに加圧成型し、更に250℃で熱処理することにより作製した。
【0012】
一方、負極2は、所定厚みのリチウム板を直径20mmに打ち抜くことにより作製した。このようにして作製した電池を、以下(A)電池と称する。
〔比較例〕
MnCO3を添加せず、且つLiとNiとCoとのモル比が1:0.5:0.5となるように、Li2CO3とNiCO3とCoCO3とを混合する他は、上記参考例と同様にして電池を作製した。
【0013】
このようにして作製した電池を、以下(X)電池と称する。
〔実験1〕
参考例の(A)電池と、比較例の(X)電池とにおける放電容量を調べたので、その結果を表1に示す。尚、充放電条件は、充電電流1mAで充電終止電圧4.3Vまで充電した後、放電電流3mAで放電終止電圧3.0Vまで放電するという条件である。
【0014】
【表1】

【0015】
上記表1より明らかなように、参考例の(A)電池は比較例の(X)電池に比べて放電容量が増大していることが認められる。
〔実験2〕
Li1.0NicCodO2.0(正極活物質)のd/c+dの値を変化させた電池〔即ち、上記比較例の(X)電池と類似の電池〕、及びLi1.0Mn0.1Nic’COd’O2.0(正極活物質)のd’/c’+d’の値を変化させた電池〔即ち、上記参考例の(A)電池と類似の電池であって、c’=0.9×c、d’=0.9×dで表される〕における放電容量を調べたので、その結果を図2に示す。尚、実験条件は、上記実験1と同様の条件である。
【0016】
図2から明らかなように、c(c’)、d(d’)が何れの値の場合であっても、Mnを添加した電池の方がMnを添加しない電池より放電容量が大きくなっていることが認められる。特に、d/c+dの値が、0.02〜0.9の間で、放電容量が大きくなっていることが認められる。
〔実験3〕
Mnの添加量を変化(Li1.0MnxNi0.5-x/2Co0.5-x/2O2.0においてxを変化)させた場合の、放電容量の比較を行ったので、その結果を図3に示す。尚、実験条件は、上記実験1と同様の条件である。
【0017】
図3から明らかなように、Mnの添加する割合がモル比で、0.02から0.5の間(即ち、Li1.0MnxNi0.5-x/2Co0.5-x/2O2.0という組成で0.02≦x≦0.5の範囲)で放電容量が大きくなっていることが認められ、特に0.02から0.2の間で放電容量が増大していることが認められる。
【0018】
したがって、Mnの添加する割合はモル比で、0.02から0.5の間であることが必要であり、特に0.02から0.2の間であることが望ましい。
〔第1実施例〕
〔実施例〕
Li2CO3とCuOとNiCO3とCoCO3とを、LiとCuとNiとCoとのモル比が1:0.1:0.45:0.45となるように乳鉢で混合した後、この混合物を空気中で850℃で20時間熱処理して、Li1.0 Cu0.1Ni0.45Co0.45O2.0から成る正極活物質を作製する。そして、この正極活物質を用いる他は、前記参考例と同様にして電池を作製した。
【0019】
このようにして作製した電池を、以下(B)電池と称する。
〔実験1〕
上記本発明の(B)電池と、前記比較例の(X)電池とにおける放電容量を調べたので、その結果を表2に示す。尚、充放電条件は、前記参考例の実験1と同様の条件である。
【0020】
【表2】

【0021】
上記表2より明らかなように、本発明の(B)電池は比較例の(X)電池に比べて放電容量が増大していることが認められる。
〔実験2〕
Li1.0NicCodO2.0(正極活物質)のd/c+dの値を変化させた電池〔即ち、上記比較例の(X)電池と類似の電池〕、及びLi1.0Cu0.1Nic’Cod’O2.0(正極活物質)のd’/c’+d’の値を変化させた電池〔即ち、上記本発明の(B)電池と類似の電池であって、c’=0.9×c、d’=0.9×dで表される〕における放電容量を調べたので、その結果を図4に示す。尚、実験条件は、前記参考例の実験1と同様の条件である。
【0022】
図4から明らかなように、c(c’)、d(d’)が何れの値の場合であっても、Cuを添加した電池の方がCuを添加しない電池より放電容量が大きくなっていることが認められる。特に、d/c+dの値が、0.02〜0.9の間で、放電容量が大きくなっていることが認められる。
〔実験3〕
Cuの添加量を変化(Li1.0CuxNi0.5-x/2Co0.5-x/2O2.0においてxを変化)させた場合の、放電容量の比較を行ったので、その結果を図5に示す。尚、実験条件は、前記参考例の実験1と同様の条件である。
【0023】
図5から明らかなように、Cuの添加する割合がモル比で、0.02から0.5の間(即ち、Li1.0CuxNi0.5-x/2Co0.5-x/2O2.0という組成で0.02≦x≦0.5の範囲)で放電容量が大きくなっていることが認められ、特に0.02から0.2の間で放電容量が飛躍的に増大していることが認められる。
【0024】
したがって、Cuの添加する割合はモル比で、0.02から0.5の間であることが必要であり、特に0.02から0.2の間であることが望ましい。
〔第2実施例〕
〔実施例〕
Li2CO3とFeOOHとNiCO3とCoCO3とを、LiとFeとNiとCoとのモル比が1:0.1:0.45:0.45となるように乳鉢で混合した後、この混合物を空気中で850℃で20時間熱処理して、Li1.0Fe0.1Ni0.45Co0.45O2.0から成る正極活物質を作製する。そして、この正極活物質を用いる他は、前記参考例の実施例と同様にして電池を作製した。
【0025】
このようにして作製した電池を、以下(C)電池と称する。
〔実験1〕
上記本発明の(C)電池と、前記比較例の(X)電池とにおける放電容量を調べたので、その結果を表3に示す。尚、充放電条件は、前記参考例の実験1と同様の条件である。
【0026】
【表3】

【0027】
上記表3より明らかなように、本発明の(C)電池は比較例の(X)電池に比べて放電容量が増大していることが認められる。
〔実験2〕
Li1.0NicCodO2.0(正極活物質)のd/c+dの値を変化させた電池〔即ち、上記比較例の(X)電池と類似の電池〕、及びLi1.0Fe0.1Nic’Cod’O2.0(正極活物質)のd’/c’+d’の値を変化させた電池〔即ち、上記本発明の(C)電池と類似の電池であって、c’=0.9×c、d’=0.9×dで表される〕における放電容量を調べたので、その結果を図6に示す。尚、実験条件は、前記参考例の実験1と同様の条件である。
【0028】
図6から明らかなように、c(c’)、d(d’)が何れの値の場合であっても、Feを添加した電池の方がFeを添加しない電池より放電容量が大きくなっていることが認められる。特に、d/c+dの値が、0.02〜0.9の間で、放電容量が大きくなっていることが認められる。
〔実験3〕
Feの添加量を変化(Li1.0FexNi0.5-x/2Co0.5-x/2O2.0においてxを変化)させた場合の、放電容量の比較を行ったので、その結果を図7に示す。尚、実験条件は、前記参考例の実験1と同様の条件である。
【0029】
図7から明らかなように、Feの添加する割合がモル比で、0.02から0.5の間(即ち、Li1.0FexNi0.5-x/2Co0.5-x/2O2.0という組成で0.02≦x≦0.5の範囲)で放電容量が大きくなっていることが認められ、特に0.02から0.2の問で放電容量が飛躍的に増大していることが認められる。
【0030】
したがって、Feの添加する割合はモル比で、0.02から0.5の間であることが必要であり、特に0.02から0.2の間であることが望ましい。また、添加金属としてAl、Sn、In、Mg、Ti、Zn、及びMoを添加した場合にも上記と同様の効果を有することを実験により確認している。そして、これらの場合にも、添加割合は上記実験3と同様、0.02から0.5の間であることが必要であり、特に0.02から0.2の間であることが望ましいことも確認している。
〔実験4〕
Li1.0M0.1NicCodO2.0(Mとして、Fe、Cu、Al、Mg、Zn、Moを使用)及びLi1.0NicCodO2.0から成る正極活物質(但し、d/c+dを変化)の熱的な安定性を調べるために、これらの正極活物質を用いた正極を充電し、この充電した正極と電解液とを加熱し、発熱反応を生じる温度を熱分析により測定したので、その結果を図8に示す。
【0031】
図8から明らかなように、本発明の電池に用いる正極活物質(Li1.0M0.1NicCodO2.0)は比較例の電池に用いる正極活物質(Li1.0NicCodO2.0)より熱的な安定性に優れ、特にMとしてCu或いはFeを用いた正極活物質においては、熱的な安定性が飛躍的に向上していることが認められる。
〔その他の事項〕
▲1▼上記実施例においては、リチウム化合物及びコバルト化合物として各々炭酸リチウム、炭酸コバルトを用いたが、これらに限定するものではなく、水酸化リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム、リン酸リチウム、硝酸コバルト、炭酸コバルト或いはシュウ酸コバルト等或いはその他の酸化物、炭酸塩、水酸化物を用いることが可能である。また、ニッケル化合物及びその他の添加金属についても同様である。
▲2▼本発明は、実施例で示した非水電解液を用いる二次電池に限定するものではなく、固体電解質を用いる非水系二次電池にも適用できことは勿論である。また、非水電解液や固体電解質を用いる非水系一次電池にも適用することが可能である。
▲3▼上記実施例では、LiaMbNicCodOeにおいてa=1.0としているが、0<a<1.3であれば、上記と同様の効果を有することを実験により確認している。また、e=2としているが、1.8<e<2.2であれば、上記と同様の効果を有することを実験により確認している。
▲4▼上記実施例では、Li1.0M0.1Ni0.45Co0.45O2.0を作成する際の熱処理温度を850℃としているが、500〜1000℃であれば、同様の構成のLi1.0M0.1Ni0.45Co0.45O2.0を作成することができることを実験により確認している。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、結晶構造が安定するので、非水系一次電池,非水系二次電池の放電容量を高めることができ、且つ充放電を繰り返し行っても結晶構造が崩壊しないので、非水系二次電池のサイクル特性を向上させることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例に係る偏平型非水系二次電池の断面図である。
【図2】
Mnを添加した電池とMnを添加しない電池とにおいて、NiとCoとの混合比率を変化させた場合の放電容量を示すグラフである。
【図3】
Mnの添加量と放電容量との関係を示すグラフである。
【図4】
Cuを添加した電池とCuを添加しない電池とにおいて、NiとCoとの混合比率を変化させた場合の放電容量を示すグラフである。
【図5】
Cuの添加量と放電容量との関係を示すグラフである。
【図6】
Feを添加した電池とFeを添加しない電池とにおいて、NiとCoとの混合比率を変化させた場合の放電容量を示すグラフである。
【図7】
Feの添加量と放電容量との関係を示すグラフである。
【図8】
M(Fe、Cu、Al、Mg、Zn、Moを使用)を添加した電池とMを添加しない電池とにおいて、NiとCoとの混合比率を変化させた場合の反応温度を示すグラフである。
【符号の説明】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
【図面】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-03-01 
出願番号 特願平4-300153
審決分類 P 1 651・ 113- YA (H01M)
P 1 651・ 121- YA (H01M)
P 1 651・ 161- YA (H01M)
P 1 651・ 531- YA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高木 正博  
特許庁審判長 奥井 正樹
特許庁審判官 綿谷 晶廣
酒井 美知子
登録日 2001-10-26 
登録番号 特許第3244314号(P3244314)
権利者 三洋電機株式会社
発明の名称 非水系電池  
代理人 宮▲崎▼ 主税  
代理人 宮越 典明  
代理人 目次 誠  
代理人 目次 誠  
代理人 宮▼崎▲ 主税  

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