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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01G
管理番号 1097935
異議申立番号 異議2001-72006  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-07-23 
確定日 2004-03-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3126244号「高周波LC複合部品」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3126244号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3126244号に係る手続きの主な経緯は次のとおりである。
特許出願(特願平4-338452号) 平成 4年12月18日
特許権設定登録 平成12年11月 2日
特許異議申立(異議申立人:遠藤昭子) 平成13年 7月23日
取消理由通知(1) 平成13年 9月28日
意見書(1) 平成13年12月 6日
取消理由通知(2) 平成14年 2月 4日
意見書(2)・訂正請求書 平成14年 4月16日

2.訂正の適否についての判断
2.1 訂正の内容
特許請求の範囲の請求項1中の「コイル(L)を構成する」を「空芯コイル(L)を構成する」と訂正する。(以下、「訂正事項a」という。)

2.2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、コイルを空芯コイルに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に相当する。
そして、上記訂正事項aは、願書に添付した明細書の段落【0015】等の記載に基づいているので、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2.3 訂正の適否のむすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立についての判断
3.1 本件発明
上記2.で示したように上記訂正は認められるから、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】複数の誘電体シートを積層した多層基板を具備し、
前記多層基板の一部の誘電体シートに空芯コイルを構成する導体パターンを設定したコイル部と、別の誘電体シートにコンデンサを構成する導体パターンを設定したコンデンサ部とを設けると共に、前記コイル部とコンデンサ部とを多層基板の積層方向で向かい合った位置に配置した高周波LC複合部品において、
前記多層基板の積層方向で、コイル部に設定した最上部の導体パターンと最下部の導体パターンの間に位置する誘電体シートの厚みを、前記コンデンサ部を除く、他の誘電体シートの厚みよりも薄く設定し、
かつ、上記コイル部とコンデンサ部との間に、
該コイル部及びコンデンサ部間の間隔を大きくするスペーサ層を設定したことを特徴とする高周波LC複合部品。」
なお、本件発明の認定に当たり、本件請求項1に係る発明の記載の内、括弧をして用いた符号の部分は、「請求項の記載の内容を理解するために必要があるときは、当該願書に添付した図面において使用した符号を括弧をして用い」たものであり、発明の構成要件とは認められないので省いて認定した(特許法施行規則様式第29を参照)。

3.2 取消理由通知(2)で引用した刊行物記載の発明
3.2.1 刊行物1(特許異議申立人遠藤昭子が提出した甲第1号証):実願平1-101437号(実開平3-39821号)のマイクロフィルム
刊行物1は、積層型LCフィル夕に関するものであり、第1〜9図と共に以下の点が記載されている。
「グリーンシート1は、フェライト等の磁性体、誘電体、絶縁体などの粉末及び有機溶媒、バインダー等を混練して泥しょうにした後,押し出し法、引き上げ法あるいはドクターブレード法等によりシート状に成形される。ついで、グリーンシート1の表面に金属を主体とする導電ペーストを印刷塗布してグリーンシート1の端部に引き出し電極3,4を設けると共にJ字状をした0.75ターンのインダクタ部5a,5bを設けてインダクタンス形成用の印刷シート11,12が製造される。一対の印刷シート11,12は、第1図に示すように、両引き出し電極3,4が互いに反対側を向くようにして積層され、上層のグリーンシート1にあけられたスルーホール13を介して上下の0.75ターンのインダク夕部5a,5bの先端同士が接続されて引き出し電極3,4間に1.5ターンのインダクタ部5a,5bが形成される。」(第7頁第14行〜第8頁第11行)
「さらに、インダクタンス形成用の印刷シート11,12とキャパシタンス形成用の印刷シート14,15,22とは、何も印刷されていないダミーシート18を介して積層され、上下にさらに複数枚のダミーシート19,20が積層され、全体を平面加圧して生積層体が製作される。」(第9頁第11行〜同頁第17行)
「なお、インダクタンス形成用の印刷シート11,12、キャパシタンス形成用の印刷シート14,15,22及び各ダミーシート18,19,20に用いられているグリーンシート1の材質は、磁性体、誘電体、絶縁体等を使用して自由に組み合わせることができる。例えば、全グリーンシート1を磁性体シートにした場合には、インダクタンスLは大きな値となるが、キャパシタンスC1,C2はそれ程大きな値にすることができない。また、全グリーンシート1を誘電体シートにした場合には、キャパシタンスC1,C2は大きな値となるが、インダクタンスLは空芯コイルと同じになって小さな値になる。したがって、インダクタンス形成用の印刷シート11,12に対して磁性体シートを用い、キャパシタンス形成用の印刷シート14,15に対して誘電体シートを用いれば共に大きな値を得ることができる。」(第11頁第3行〜同頁第19行)
「さらに、インダク夕ンス形成用の印刷シート11,12とキャパシタンス形成用の印刷シート14,15間のダミーシート18の材質を変えると、インダクタンスLとキャパシタンスC1,C2の結合度をある程度自由に調整することができる。なお、このダミーシート18は、インダクタンスLとキャパシタンスC1,C2の結合度によっては、挿入しなくても差し支えない。」(第11頁第19行〜第12頁第7行)
さらに、第1図には、複数枚のグリーンシート1を具備し、インダクタンス形成用の印刷シートとキャパシタンス形成用の印刷シートとがダミーシート18を介して積層され、さらに上下にそれぞれ3枚のグリーンシート1から構成されたダミーシート19、20を積層した積層体からなる積層型LCフィル夕が示されている。第7図には、従来例として、インダクタンス形成用の印刷シートとキャパシタンス形成用の印刷シートの間にダミーシートがない積層型LCフィル夕が示されている。
以上より、刊行物1には、
「複数のグリーンシートを積層した積層体を具備し、
前記積層体の一部のグリーンシートに導電ペーストを印刷塗布したインダクタンスと、別のグリーンシートに導電ペーストを印刷塗布したキャパシタンスとを設けると共に、前記インダクタンスとキャパシタンスとを積層体の積層方向で向かい合った位置に配置した積層型LCフィルタにおいて、
インダクタンスとキャパシタンスとの間に、ダミーシートを設け、
かつ、上下にそれぞれ3枚のグリーンシートから構成されたダミーシートを積層した積層型LCフィルタ」が記載されている。

3.2.2 刊行物2(同じく甲第2号証):特開昭60-47413号公報
刊行物2は、積層セラミツクコンデンサの製造方法に関するものであり、第1〜5図と共に以下の点が記載されている。
「まず、第1図に示すように、セラミツク粉末,バインダー,溶剤を含む泥しようにて厚さが30〜60μmのグリーンシート1を形成する。・・・次に、第3図に示すように、厚さが100〜200μmのグリーンシート(保護シート)4の上にグリーンシート1を複数枚積層する。さらにグリーンシート1の上に厚さが100〜200μmのグリーンシート(保護シート)5を積層する。」(第2頁右上欄第17行〜同頁左下欄第11行)

3.2.3 刊行物5:特開平4-207806号公報
刊行物5は、デュプレクサに関するものであり、第1〜19図と共に以下の点が記載されている。
「例えば第2図に示すように、所定のパターンで電極膜をプリントした10枚の誘電体層U1〜U10と、電極膜の形成がない誘電体層U11〜U14とを積層する。・・・具体的には、上側から、電極膜の形成がない誘電体層U11と、上表面にL1用電極膜1が形成された誘電体層U1と、同様にL1用電極膜2が形成された誘電体層U2と、電極膜の形成がない誘電体層U12と、C1用電極膜3が形成された誘電体層U3と、C2用電極膜4が形成された誘電体層U4と、C3用電極膜5が形成された誘電体層U5と、アース(シールド)用電極膜6が形成された誘電体層U6と、電極膜の形成がない誘電体層U13と、L2用電極膜7が形成された誘電体層U7と、電極膜の形成がない誘電体層U14と、C4用電極膜8が形成された誘電体層U8と、C5用電極膜9aとC6用電極膜9bが形成された誘電体層U9と、アース(シールド)用電極膜10が形成された誘電体層U10とが積層されている。」(第2頁右下欄第10行〜第3頁左上欄第12行)
さらに、第2図には、コイルとコンデンサの間に、電極膜の形成がない複数枚の誘電体層U12〜U14が設けられた構造が示されている。

3.2.4 刊行物6:特開平4-257111号公報
刊行物6は、積層チップπ型フィル夕に関するものであり、第1〜5図と共に以下の点が記載されている。
【0006】【作用】・・・また、積層チップコンデンサに対向するインダクタの面には帯状導体線路が形成されていないフェライト層又はバリスタ層が介在していること等により、層の密着性がよくなり、磁束のもれを減らすことになりインダクタンスを大きくし、小型化が図れるとともに、実装密度を高くでき、寄生インダクタンスや浮遊容量による影響が少なくなり、減衰特性のバラツキが少ない周波数特性のよい信頼性の高いEMI除去フィルタが得られる。また、サージ電圧が発生した場合は、バリスタが吸収するので、高電圧によりIC,LSI等が損傷するおそれがなくなる。
【0009】・・・また、電極が形成されていないフェライトシート又はバリスタシートからなる層がインダクタとコンデンサ間に介在している等により、層の密着性がよくなり磁束のもれを減らすことになりインダクタンスを大きくし小型化が図れるとともに、実装密度を高くできる。この電極が形成されていないフェライトの枚数は複数枚であっても差し支えない。
【0013】 図4は、積層チップπ型フィルタの他の実施例の一部の構成を示す分解斜視図である。積層チップコンデンサは、対向電極のないバリスタシート22a〜22c及び対向第1電極25aの形成されたバリスタシート22d、対向第2電極25bの形成されたバリスタシート22eと、さらに対向第3電極25cの形成されたバリスタシート22fが順次積層されて形成されている。この積層チップコンデンサに隣接して電極も導体線路も形成されていないフェライトシート23aが積層され、次いで順次帯状導体線路28a,28bが形成されたフェライトシート23b,23c及び電極等のないフェライトシート23d〜23fが順次積層されて一体化されて積層チップインダクタが形成されている。積層チップインダクタの積層チップコンデンサに対向する面には電極がないフェライトシート23aが介在している。
【0016】・・・また、積層チップインダクタ素子と積層チップコンデンサ素子との対向する面には電極がないシートが介在し、層の密着性をよくして磁束のもれを減らし、インダクタンスを大きくして小型化している。積層チップπ型フィルタとして小型にでき、寄生インダクタンスや浮遊容量による影響が少なくなり、減衰特性のバラツキが少ない周波数特性のよい信頼性の高い高性能なEMI除去フィルタが得られる。また、サージ電圧が発生した場合は、バリスタ層を通して導通するので、高電圧によりIC,LSI等が損傷するおそれがなくなる。なお、上記実施例において、インダクタの積層チップコンデンサに対向する面に帯状導体線路が形成されていないフェライト層を介在させる例について説明したが、これはバリスタ層であってもよいし、両者を介在させたものであってもよい。その他、本発明は上記実施例に限定されず要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、修正実施が可能である。

3.2.5 刊行物7:特開平4-257110号公報
刊行物7は、積層チップL型フィル夕に関するものであり、第1〜5図と共に以下の点が記載されている。
【0006】【作用】・・・また、帯状導体線路が形成されていないフェライトシート又はバリスタシートがインダクタとコンデンサ間に介在している等により、層の密着性をよくして磁束のもれを減らすのでインダクタンスを増加させ小型化が図れるとともに、実装密度も高めることができ、寄生インダクタンスや浮遊容量等による影響が少なくなり、減衰特性のバラツキが少ない周波数特性のよい信頼性の高いフィルタとなる。また、サージ電圧が発生した場合は、コンデンサとしてのバリスタ素子により吸収され、高電圧によりIC,LSI等が損傷するおそれがなくなる。
【0007】【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図において、1は積層チップL型フィルタで、積層チップインダクタ2と積層チップコンデンサ3とが積層され一体化され、外形が直方体に形成され、電極が表面に形成されている。積層チップインダクタ2は、図3に示すように、帯状導体線路4a,4bがそれぞれ形成されたフェライトシート2d,2e及びフェライトシート2a,2b,2c,2fが積層されて一体化されて形成されている。積層チップコンデンサ3は、それぞれ対向第1及び第2電極7a,7bが形成されたバリスタシート3a,3b及びバリスタシート3c〜3eが積層されて一体化されて形成されている。積層チップインダクタ2はその積層チップコンデンサ3に対向する面の電極がないフェライトシート2fを介して積層チップコンデンサ3と積層されて一体化されている。
【0008】フェライトシート2a〜2fは、Mn-Zn系フェライト、Ni-Zn系フェライト等の磁性体の粉末から成形される。フェライトシート2a,2b,2cと帯状導体線路4a,4bが形成されたフェライトシート2d,2eと、このフェライトシート2eとバリスタシート3aの間に介在するフェライトシート2fとが積層されて一体化されて積層チップインダクタ1素子を形成している。帯状導体線路4aはフェライトシート2dの表面に概略コの字状にこのシート2dの3辺に沿って屈曲されてインダクタに形成され、その一方の端は図3上で左側の端縁に沿って形成された引出し電極6aに接続され、やや短く形成された他方の端にはスルーホール5が設けられている。フェライトシート2dと隣接するフェライトシート2eには、帯状導体線路4bが帯状導体線路4aと同様にして屈曲して形成されている。この帯状導体線路4bは、スルーホール5に対向する位置の近辺に一端が位置し、他方の端は図3上で右側の端縁に沿って形成された引出し電極6bに接続されている。帯状導体線路4a,4bが形成されたフェライトシート2d,2e・・・を順次重ね合わせて帯状導体線路4a,4b,・・・を順次接続すると、巻き数の多い所望のインダクタンスのインダクタを形成することができる。帯状導体線路も引出し電極も形成されていないフェライトシート2fを介して積層チップコンデンサ3を積層する。この電極の形成されていないフェライトシート又はバリスタシートの層は密着性を高めるとともに磁束のもれを減らすため、複数枚であっても差し支えない。

3.2.6 刊行物8:実願昭60-190167号(実開昭62-96827号)のマイクロフィルム
刊行物8は、LC複合部品に関するものであり、第1〜7図と共に以下の点が記載されている。
「磁性体材料よりなる磁性体グリーンシート111と、導電層4を形成するために予めPd又はAg-Pd系ペースト等を表面に印刷した磁性体グリーンシート112と、上記の如き誘電体材料よりなる誘電体グリーンシート121と、内部電極5a,5bを形成するために予め上記ペーストを表面に印刷した誘電体グリーンシート122とを図示のように適当枚数づつ積層し、プレスで固めてから一体に焼結することによって、磁性体部11と誘電体部12よりなる本体1を得る。」(第5頁第15行〜第6頁第5行)
さらに、第2、3、5、6図には、インダクタとキャパシタの間及びインダクタ上部に、導電層を印刷していない複数のグリーンシートを設けたLC複合部品が示されている。

3.2.7 刊行物9:実願昭60-190166号(実開昭62-96826号)のマイクロフィルム
刊行物9は、LC複合部品に関するものであり、第1〜3図と共に以下の点が記載されている。
「導電層3を形成するために予めPd又はAg-Pd系ペースト等を表面に印刷した磁性体グリーンシート111と、単なる磁性体グリーンシート112と、内部電極4,4'を形成するために予め上記ペーストを表面に印刷した誘電体グリーンシート121と、単なる誘電体グリーンシート122とを図示のように適当枚数づつ積層し、プレスで固めてから-体焼結することによって、磁性体部11と誘電体部12より成る本体1を得る。」(第4頁第20行〜第5頁第9行)
さらに、第2図には、インダクタとキャパシタの間及びインダクタ上部に、導電層を印刷していない複数のグリーンシートを設けたLC複合部品が示されている。

3.2.8 刊行物10:特開平2-137212号公報
刊行物10は、複合電子部品に関するものであり、第1〜7図と共に以下の点が記載されている。
「この積層体2は、複数枚の電圧非直線抵抗体層としてのバリスタグリーンシート3,…を重合してなるバリスタ未焼成積層体4と、複数枚の磁性体グリーンシート5,…を重合してなるインダクタ未焼成積層体6と、複数枚の誘電体グリーンシート7,…を重合してなるコンデンサ未焼成積層体8とを互いに重ね合わせて接合したうえで焼成一体化することによって構成されている。」(第2頁左下欄第8行〜第15行)
「内部電極14,…および共通電極15がそれぞれ形成された誘電体グリーンシート7a,7bと何らの電極パターンが形成されていない誘電体グリ-ンシート7,…とを互いに重合してコンデンサ未焼成積層体8を構成する。」(第3頁右上欄第16行〜第20行)
「なお、第2図においては、バリスタ未焼成積層体4上と、バリスタ未焼成積層体4およびインダクタ未焼成積層体6間と、インダクタ未焼成積層体6およびコンデンサ未焼成積層体8間と、コンデンサ未焼成積層体8下とのそれぞれに同形状とされたグリーンシート16,…を積層配置するようになっている」(第3頁左下欄第6行〜第12行)
さらに、第2図には、インダクタとコンデンサの間及び上下部に、電極パターンが形成されていない複数のグリーンシートを設けた複合電子部品が示されている。

3.2.9 刊行物11:特開平2-250409号公報
刊行物11は、LCフィルターに関するものであり、第1〜8図と共に以下の点が記載されている。
「21は・・・磁性体グリーンシートである。
このグリーンシート21の表面にAg-Pd系ペーストを印刷して前記導体線路13を設ける。
また、22は・・・誘電体材料からなる誘電体グリーンシートである。・・・導体線路13を有するグリーンシート21の複数枚の上下に導体線路のない複数枚のグリーンシート21を重ね、さらに、その上下に内部電極のない複数枚のグリーンシート22と内部電極5、6および7、8を有するグリーンシート22を適当に重ねたものを積層し、1ton/cm2の圧力にて圧着して適当な大きさにカットしたのち1000℃、2時間の条件で焼結して前記本体Aを得る。」(第3頁右上欄第3行〜第20行)
さらに、第5図には、インダクタとキャパシタの間及び上下部に、導体線路のない複数枚のグリーンシートを重ねたLCフィルターが示されており、第1、2、7、8図には、インダクタとキャパシタの間に、導体線路のない複数枚のグリーンシートが圧着及び焼結により一体化した厚い層を有するLCフィルターが示されている。

3.2.10 刊行物12:特開平4-273608号公報
刊行物12は、電磁干渉フィル夕に関するものであり、第1、5図には、コイルとコンデンサの間及び上下部に複数のダミーシートを設けた電磁干渉フィル夕が示されている。

3.2.11 刊行物13:実願昭61-176798号(実開昭63-82922号)のマイクロフィルム
刊行物13は、電気回路用多層印刷フィル夕に関するものであり、第1図には、基板の表裏に、それぞれコンデンサ層及びコイル層を形成した電気回路用多層印刷フィル夕が示されている。

3.2.12 刊行物14:特開平2-135715号公報
刊行物14は、積層型インダクタに関するものであり、第1、4図には、上下の磁性体板を中間より厚くした積層型インダクタが示されている。

3.3 本件発明と刊行物記載の発明との対比・判断
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「積層体」、「印刷塗布した導電ペースト」、「インダクタンス」、「キャパシタンス」、「積層型LCフィルタ」は、それぞれ本件発明の「多層基板」、「導体パターン」、「コイル」、「コンデンサ」、「LC複合部品」に相当するので、両者は、
「複数のシートを積層した多層基板を具備し、
前記多層基板の一部のシートにコイルを構成する導体パターンを設定したコイル部と、別のシートにコンデンサを構成する導体パターンを設定したコンデンサ部とを設けると共に、前記コイル部とコンデンサ部とを多層基板の積層方向で向かい合った位置に配置したLC複合部品。」
である点で一致し、
相違点1:本件発明は、シートが全て誘電体シートであり、そのため空芯コイルを構成し、高周波用であるのに対して、刊行物1記載の発明では、そのような限定がない点、
相違点2:本件発明は、「コイル部とコンデンサ部との間に、該コイル部及びコンデンサ部間の間隔を大きくするスペーサ層を設定した」のに対して、刊行物1記載の発明は、「コイル部とコンデンサ部との間に、ダミーシートを設けている」点、
相違点3:本件発明は、「多層基板の積層方向で、コイル部に設定した最上部の導体パターンと最下部の導体パターンの間に位置するシートの厚みを、コンデンサ部を除く、他のシートの厚みよりも薄く設定し」ているのに対して、刊行物1記載の発明では、そのような記載がない点、
において、相違する。

そこで、上記相違点について検討する。
相違点1:
刊行物1には、「グリーンシート1の材質は、磁性体、誘電体、絶縁体等を使用して自由に組み合わせることができる。・・・全グリーンシート1を誘電体シートにした場合には、キャパシタンスC1,C2は大きな値となるが、インダクタンスLは空芯コイルと同じになって小さな値になる。」と記載されている。
そして、空芯コイルが高周波用として用いられることは、慣用手段に過ぎない(必要なら、ティーディーケイ株式会社出願の特開平4-150011号公報参照)。
さらに、刊行物5においても、コンデンサとコイルを、電極等を形成しない層を含め全て誘電体層で形成している。
したがって、刊行物1記載の発明において、全グリーンシートを誘電体シートにして空芯コイルとし、高周波用に用いることに格別の困難性は認められない。

相違点2:
刊行物1では、第7図の従来例のようにコイル部及びコンデンサ部間にダミーシートがないものに比べて、ダミーシート18がコイル部及びコンデンサ部間の間隔を大きくしていることは明らかであり、相違点2は、実質的に相違していないといえる。

また、一般的に、電極、配線等が近接して配置されれば両者間に浮遊容量が生じることは、当業者において技術常識である。この技術常識を考慮すれば、刊行物1における「ダミーシート18の材質を変えると、インダクタンスLとキャパシタンスC1,C2の結合度はある程度自由に調整できる。」との記載中のインダクタンスLとキャパシタンスC1,C2の結合度は、両者間の浮遊容量を示唆するものであるといえる。
さらに、コイル部とコンデンサ部の間に電極等を形成しない層(本件発明のスペーサ層に相当)を設けることは、刊行物1及び5〜13に示されているように周知であり、刊行物6、7には、コンデンサとインダクタ間の電極等を形成しない層により浮遊容量の影響が少なくなる点が示唆されている。
したがって、本件発明のように、コイル部とコンデンサ部との間に、該コイル部及びコンデンサ部間の間隔を大きくするスペーサ層を設けた点に格別の困難性は認められない。

いずれにしても、相違点2については、実質的な相違点ではないか、或いは当業者にとって、格別の困難性を有するものではない。

相違点3:
相違点3は、コイル部を構成する層の厚みを他の層より薄くして単位厚さ当たりのコイルの巻数を向上するものであるが(本件明細書【0064】参照)、コイル部を構成する層の厚みを上下の保護層等の厚みよりも薄くすることは、刊行物1、6、7、10、11、14にも示されるように単なる慣用手段に過ぎず、当業者が適宜採用し得るものである。
なお、シートの厚みを厚くするために、薄い層を複数層積層する代わりに一枚で厚いシートを用いることは、例えば刊行物2、14にも示されるように慣用手段である。また、複数枚のグリーンシートが圧着及び焼結により一体化して厚い層となることは刊行物11にも示されるように周知であり、厚いシートを1枚用いた場合でも、薄いシートを複数層積層して用いた場合でも、完成した時点では、どちらも実質的に同じものであり、どちらも適宜選択し得ることに過ぎない。

また、相違点3は、(イ)スペーサ層、(ロ)コイル部の最上層、(ハ)コイル部の最下層、(ニ)コンデンサ部の最下層のそれぞれのシートの厚みが、コイル部に設定した最上部の導体パターンと最下部の導体パターンの間に位置するシートの厚みより厚いことを意味している。
そこで、念のため(イ)〜(ニ)の各部について検討する。
(イ)スペーサ層について:
一般的に、近接して配置された電極、配線等の間の浮遊容量を減らすためには、両者間の間隔を大きくすればよいことは、当業者において技術常識である。
また、刊行物6、7には、コンデンサとインダクタ間の電極等を形成しない層により浮遊容量の影響が少なくなる点及び電極等を形成しない層を複数枚にしてもよい点が示唆されており、刊行物5、8〜12では、電極等を形成しない層を複数層にして厚くしており、刊行物13では、コイル部とコンデンサ部の間に厚い基板を設けている。
したがって、スペーサ層の厚みをどの程度にするかは、当業者が必要に応じて適宜決定し得ることであり、本件発明のようにスペーサ層の厚みを、コイル部に設定した最上部の導体パターンと最下部の導体パターンの間に位置するシートの厚みより厚くした点に格別の困難性は認められない。
(ロ)コイル部の最上層について:
刊行物1では、コイル部の最上層は、3枚のダミーシートが積層され合計の厚みは、コイル部に設定した最上部の導体パターンと最下部の導体パターンの間に位置するシートの厚みより厚くなっており、薄い層を複数層積層する代わりに一枚で厚いシートを用いることは、当業者が適宜採用し得ることである。
(ハ)コイル部の最下層について:
本件発明では、コイル部の最下部の導体パターンを直ぐ上のシートの裏側に形成したものも含むので、最下部の導体パターンの下のコイル部の最下層は、必ずしも存在するとは限らない。したがって、存在しない場合には、最下層のシートの厚さについて検討する必要はないが、特許権者は平成14年4月16日付け特許異議意見書第10頁第6行〜第8行において「誘電体シート1-4は、その真下にくる誘電体シート1-5と共にスペーサ層を形成しており、スペーサ層の距離を作るために機能している。」と明細書に記載のない効果を主張しているので、念のため検討しておく。
上記(イ)で述べたように、一般的に、近接して配置された電極、配線等の間の浮遊容量を減らすためには、両者間の間隔を大きくすればよいことは、当業者において技術常識であり、スペーサ層の厚みをどの程度にするかは、当業者が必要に応じて適宜決定し得ることである。
そして、コイル部とコンデンサ部の間隔とは、コイル部の最下部の導体パターンとコンデンサ部の最上部の導体パターンの間隔であるから、スペーサ層の厚みとコイル部の最下層の厚みを加算したものになるので、浮遊容量を少なくしたければ、コイル部の最下層の厚みも厚くすればよいことは、当業者であれば直ぐに分かることであり、コイル部の最下層の厚みを、コイル部に設定した最上部の導体パターンと最下部の導体パターンの間に位置するシートの厚みより厚くした点に格別の困難性は認められない。
なお、刊行物11にも示されるように複数枚のグリーンシートは圧着及び焼結により一体化して厚い層となるので、スペーサ層の厚みを必要に応じてより厚くしたものと比べ、コイル部の最下層の厚みを厚くしたことに格別の効果は認められない。
(ニ)コンデンサ部の最下層について:
刊行物1では、コンデンサ部の最下層は、コンデンサ電極を形成したシートと3枚のダミーシートが積層され合計の厚みを有しているので、コイル部に設定した最上部の導体パターンと最下部の導体パターンの間に位置するシートの厚みより厚くなっており、薄い層を複数層積層する代わりに一枚で厚いシートを用いることは、当業者が適宜採用し得ることである。

なお、本件発明の効果についても、当業者の予想を超えるものとは認められない。
したがって、本件発明は、刊行物1、2、5〜14から当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
高周波LC複合部品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】複数の誘電体シート(1-1〜1-7)を積層した多層基板を具備し、
前記多層基板の一部の誘電体シート(1-2〜1-4)に空芯コイル(L)を構成する導体パターン(2)を設定したコイル部と、別の誘電体シート(1-6、1-7)にコンデンサ(C)を構成する導体パターン(3)を設定したコンデンサ部とを設けると共に、前記コイル部とコンデンサ部とを多層基板の積層方向で向かい合った位置に配置した高周波LC複合部品において、
前記多層基板の積層方向で、コイル部に設定した最上部の導体パターンと最下部の導体パターンの間に位置する誘電体シート(1-2、1-3)の厚み(TL)を、前記コンデンサ部を除く、他の誘電体シートの厚み(TO)よりも薄く(TL<TO)設定し、
かつ、上記コイル部とコンデンサ部との間に、
該コイル部及びコンデンサ部間の間隔を大きくするスペーサ層(1-5)を設定したことを特徴とする高周波LC複合部品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、多層基板にコイルLとコンデンサCとを実装した高周波LC複合部品(例えば、高周波LCフィルタ)に関する。
【0002】
【従来の技術】
図5は、従来技術の説明図であり、図5Aは従来例1(断面図)、図5Bは従来例2(断面図)を示した図である。
【0003】
図5中、1は多層基板、1-1〜1-8は多層基板の第1層〜第8層(誘電体層)、2はコイルパターン、3はコンデンサ電極パターン、5はビア(Via)、6は側面電極(外部端子)を示す。
【0004】
従来、コイルLとコンデンサを用いた高周波LCフィルタとして、多層基板を用いたSMDタイプの部品(表面実装部品)が開発されていた。その内、SMDモジュール化した高周波LCフィルタの例(従来例1、従来例2)を図5に示す。以下、従来例1、従来例2について説明する。
【0005】
▲1▼:従来例1の説明・・・図5A参照
このSMDモジュール化した高周波LCフィルタ(SMDモジュール)は、導体パターンにより形成したコイル部(L部)、及びコンデンサ部(C部)を多層基板1に内蔵し、該多層基板1の外部に、側面電極6を形成したものである。具体的には、次の通りである。
【0006】
図5Aにおいて、多層基板1の第1層1-1は、保護層として使用し、第2層1-2〜第5層1-5上に、それぞれコイルパターン(導体パターン)2を形成し、これらのコイルパターン2間をビア5によって接続し、コイル部(L部)を形成する。
【0007】
また、多層基板1の第6層1-6〜第8層1-8上には、コンデンサ電極パターン3を形成する。そして、これらコンデンサ電極パターン3により、コンデンサを形成して、コンデンサ部(C部)とする。
【0008】
上記コイル部(L部)とコンデンサ部(C部)とは、所定のパターン間をビア5によって接続すると共に、コイル部とコンデンサ部の所定の導体パターン部分を、側面電極6に接続し、SMDモジュール化した高周波LCフィルタ(高周波LC複合部品)とする。
【0009】
この場合、コイル部には、複数のコイルを設定し、コンデンサ部にも、複数のコンデンサを設定してある。
この部品(高周波LCフィルタ)は、下側(マザーボードへの実装面側)にコンデンサ部を配置し、その上側にコイル部を配置した構造(上下にLとCを配置)としている。
【0010】
なお、上記各層は、コンデンサ部の第6層1-6と、第7層1-7だけを薄くし、他の層は、全て同じ厚みに設定していた。
▲2▼:従来例2の説明・・・図5B参照
図5Bにおいて、多層基板の第1層(最上層)1-1は、保護層として使用するものであり、導体等のパターニングはしない。
【0011】
第2層1-2、第3層1-3、第4層1-4上には、それぞれコイルパターン2を形成し、これらの各コイルパターン間をビアによって接続し、コイル部とする。この場合、コイル部は、2つのコイルで構成する。
【0012】
第5層1-5には、コンデンサ電極パターン3を形成し、第6層1-6には、コンデンサ電極パターン3を形成する。
そして、第5層1-5に形成したコンデンサ電極パターン3と、第6層1-6に形成したコンデンサ電極パターン3との間で、コンデンサを形成する。
【0013】
上記のようにして、コイル部とコンデンサ部を形成した各層を積層した多層基板の側面には、側面電極を形成し、SMDモジュール化した高周波LCフィルタとする。
【0014】
なお、この例では、上記各層は、コンデンサ部の第5層1-5だけを薄くし、他の層は、全て同じ厚みに設定していた。
例えば、図5Bにおいて、第1層1-1〜第4層1-4、及び第6層1-6の厚み(これらは全て同じ厚みに設定してある)をTOとし、コンデンサ部を構成する第5層1-5の厚みをTCとした場合、上記厚みTO、TCは、例えば、TO=160μm、TC=40μmである。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来のものにおいては、次のような課題があった。
例えば、50MHZ〜300MHZ帯の高周波LCフィルタを設計する場合、コイルの値は数10nH〜200nH程度となり、フェライト材料が使用しづらくなる周波数帯である。このようなフェライト材料がしづらい周波数帯では、コイルは空芯コイルが使用される。
【0016】
ところで、空芯コイルで、100nH程度を実現するためには、数ターン巻く必要がある。しかし、モジュールを小型化するためには、更に巻き数を上げて、目標インダクタンスを作りだす必要があった。
【0017】
そのため、積層数が増し、モジュールが厚くなる。
更にモジュールをセラミクスで構成した場合、モジュールが厚いことにより脱バインダー処理及び焼成コントロールは非常に困難を伴っていた。
【0018】
本発明は、このような従来の課題を解決し、SMDモジュール化したLC複合部品を薄型化し、コイルの高Q化を実現することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
図1は本発明の原理説明図であり、図1中、図7と同じものは、同一符号で示してある。
【0020】
本発明は上記の課題を解決するため、次のように構成した。
▲1▼:複数の誘電体シート(第1層1-1〜第7層1-7)を積層した多層基板を具備し、該多層基板の一部の誘電体シート(第2層1-2〜第4層1-4)にコイル(L)を構成する導体パターン(コイルパターン2)を設定したコイル部と、別の誘電体シート(第6層1-6、第7層1-7)にコンデンサ(C)を構成する導体パターン(コンデンサ電極パターン3)を設定したコンデンサ部とを設けると共に、前記コイル部と、コンデンサ部とを多層基板の積層方向で向かい合った位置に配置した高周波LC複合部品において、前記多層基板の積層方向で、コイル部に設定した最上部の導体パターンと最下部の導体パターンの間に位置する誘電体シート(第2層1-2、第3層1-3)の厚み(TL)を、上記コンデンサ部を除く、他の誘電体シート(第1層1-1等)の厚み(TO)よりも薄く(TL<TO)設定し、かつ、上記コイル部とコンデンサ部との間に、該コイル部及びコンデンサ部間の間隔を大きくするスペーサ層(1-5)を設定した。
【0021】
【0022】
【作用】
上記構成に基づく本発明の作用を、図1に基づいて説明する。
▲1▼:上記のように、コイル部を構成する層の厚みTLを、TL<TOの関係にすると、ソレノイドコイルと同じように、単位長さ(この場合は層の厚み)当たりのコイルの巻き数が上がる(TL=TOの場合に比べて)ため、インダクタンス値が上がる。
【0023】
また、導体長(コイルパターン長)は変化しないため、導体損失が変化しない。従って、コイルが高Q化する。その結果、その構成でフィルタを作った場合、挿入損失等が改善される。
【0024】
従って、高インダクタンスな空芯コイルを、小型のモジュールの中で設定することが可能となる。また、コイル層が薄くなった分、モジュール全体が薄型化出来る。このため、モジュールをセラミクスで構成した場合、製造時の脱バインダ及び、焼成工程が容易になる。
【0025】
▲2▼:また、コイル部とコンデンサ部との間にスペーサ層を設定すると、コイル
導体と、コンデンサ電極を構成する導体との間の間隔が大きくなる。これにより、上記両導体間の浮遊容量を低下させる(スペーサ層を設けないものに比べて)事が出来る。
【0026】
従って、従来のように、コイルの持つインピーダンスの低下も殆どなく、コイルパターンの実抵抗を増やさないで済む。その結果、コイルのQを低下させないで済む。
【0027】
以上のように、本発明の高周波LC複合部品では、小型化、薄型化したSMDモジュールにおけるコイルの高Q化を実現することが可能となる。
【0028】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
§1:実施例の説明
図2〜図4は、本発明の実施例の説明図であり、図2は、高周波LCフィルタの分解斜視図、図3Aは、高周波LCフィルタの斜視図、図3Bは図3AのX-Y線断面図、図3Cは、高周波LCフィルタの等価回路、図4は高周波LCフィルタの通過帯域特性を示した図である。
【0029】
図2〜図4中、図1、及び図5と同じものは、同一符号で示してある。また、6-1は端子(OUT)、6-2は端子(IN)、7は中継用パッドを示す。
この実施例は、多層基板に、コイル部(L部)とコンデンサ部(C部)とを実装して、小型SMDモジュール化した高周波LCフィルタの1例であり、以下、詳細に説明する。
【0030】
▲1▼:高周波LCフィルタの構成の説明
図2に示したように、多層基板は、第1層1-1〜第7層1-7の誘電体シート(誘電体層)で構成する。各誘電体シート(誘電体層)上に形成する導体パターンは次の通りである。
【0031】
多層基板の第1層(最上層)1-1は、保護層として使用するものであり、導体等のパターニングはしない。
第2層1-2、第3層1-3、第4層1-4上には、それぞれ導体の印刷等により、コイルパターン(導体パターン)2を形成し、これらの各コイルパターン間をビア(図2の点線部分)によって接続し、コイル部とする。この場合、コイル部は、2つのコイルL1、L2で構成する。
【0032】
第5層1-5は、スペーサ層(ダミー層)として使用するものであり、この層には、導体により中継用パッド7を形成するだけで、他の導体パターン等は形成しない。
【0033】
第6層1-6には、導体の印刷等により、コンデンサ電極パターン(導体パターン)3を形成し、第7層1-7には、コンデンサ電極パターン(導体パターン)3を形成する。
【0034】
そして、第6層1-6に形成したコンデンサ電極パターン3と、第7層1-7に形成したコンデンサ電極パターン3との間で、コンデンサC1を形成する。
また、上記第4層1-4に形成したコイルパターン2の端部と、第6層1-6に形成したコンデンサ電極パターン3とを、中継用パッド7を介してビア6(図2の点線部分)により接続し、コイル部とコンデンサ部とを接続する。
【0035】
上記のようにして、コイル部とコンデンサ部を形成した各層を積層した多層基板1(図3A参照)の側面には、側面電極(外部端子)6-1(OUT)、6-2(IN)を形成し、SMDモジュール化した高周波LCフィルタとする。
【0036】
以上の構成による小型、SMD化した高周波LCフィルタの等価回路は、図3Cのようになる。
この部品(高周波LCフィルタ)は、下側(マザーボードへの実装面側)にコンデンサ部を配置(多層基板の積層方向で、向かい合った位置に配置)し、その上側にコイル部を配置した構造(上下にLとCを配置)として小型化している。
【0037】
▲2▼:各部の層の厚みの説明
▲2▼-1:コイル部の厚みの説明
多層基板の各層には、上記のように構成するが、上記第1層1-1〜第7層1-7の内、コイル部を構成する第2層1-2、及び第3層1-3の厚みは、コンデンサ部を構成する第6層1-6を除く、他の層(第1層1-1、第4層1-4、第5層1-5、第7層1-7)よりも、薄い層とする。
【0038】
例えば、第2層1-2、及び第3層1-3(これらの層は同じ厚みとする)の厚みをTLとし、第1層1-1、第4層1-4、第5層1-5、第7層1-7(これらの層は同じ厚みとする)の厚みをTOとし、第6層1-6の厚みをTCとした場合、TLとTOとの間には、TL<TOの関係がある。
【0039】
なお、コンデンサ部の第6層1-6の厚みTCは、通常の場合、上記厚みTOより薄く設定するが、上記厚みTLとの関係は、任意である。
上記厚みTO、TL、TCは、例えば、TO=160μm、TL=80μm、TC=40μmである。
【0040】
また、コイル部の厚みTLは、設定するコイルのインダクタンス値により変わるが、上記厚みTOに対して、25〜75%程度に設定する。コイルのインダクタンス値が大きい場合は、特に、TLを薄く設定した方が有効である。
【0041】
▲2▼-2:スペーサ層の厚みの説明
上記スペーサ層である第5層1-5の厚みは、上記のようにTO(TO=160μm)とするが、TOよりも厚くしても良い。この場合、例えば、必要な厚みを得るために、複数枚の誘電体シートを積層して、スペーサ層を構成することも可能である。
【0042】
しかし、スペーサ層である第5層1-5の厚みが、あまり厚すぎると、モジュールがセラミクスで構成されている場合、脱バインダー処理及び焼成コントロールは困難を伴う。従って、フィルタ全体の形状を考えた上で決定する必要がある。目安としては、例えば、全体の厚みが2mm以下になるように、設定されるべきである。
【0043】
▲3▼:上記構成に基づく各部の説明
▲3▼-1:TL<TOの関係にしたことの説明
上記のように、コイル部を構成する層(誘電体層、又は絶縁体層)の厚みTLを、TL<TOの関係にすると、ソレノイドと同じように、単位長さ(この場合は層の厚み)当たりのコイルの巻き数が上がる(TL=TOの場合に比べて)ため、コイルのインダクタンス値が上がる。
【0044】
これに対し、コイルの導体長(コイルパターン長)は変化しないため、導体損失が変化しない。従って、コイルが高Q化する。その結果、フィルタを作った場合、挿入損失が改善される。
【0045】
このため、高インダクタンス(100nH程度)な空芯コイルを、小型のモジュールの中で設定することが可能となる。また、コイル層が薄くなった分、モジュール全体が薄型化出来る。このため、モジュールをセラミクス構成した場合、製造時の脱バインダ及び、焼成工程が容易になる。
【0046】
▲3▼-2:スペーサ層を設定したことの説明
上記のように、コイル部とコンデンサ部との間に、スペーサ層1-5を設定したので、コイル部とコンデンサ部間の間隔(距離)を大きくする事が出来る。
【0047】
すなわち、第4層1-4に形成したコイルパターン2と、第6層1-6に形成したコンデンサ電極パターン3との間は、スペーサ層1-5の厚みの分だけ離れることになる。
【0048】
従って、上記従来例と比べて、コイルパターン2と、コンデンサ電極パターン3との間の浮遊容量が減少する。その結果、更にコイルが高Q化するため、挿入損失等の点でも、有効である。
【0049】
▲4▼:高周波LCフィルタの特性の説明・・・図4参照
上記実施例の高周波LCフィルタの特性(通過帯域特性)を図4に示す。この通過帯域特性は、実測データに基づく特性例である。なお、比較のため、従来例2の特性も併せて示した。
【0050】
図4において、横軸は周波数(fMHZ)、縦軸は減衰量(dB)を示す。また、図の点線で示した▲1▼の特性は、上記従来例2(図5B参照)の通過帯域特性であり、実線で示した▲2▼の特性は、上記実施例(図2、図3参照)の通過帯域特性である。
【0051】
この高周波フィルタの特徴は、通過帯(周波数fp)と減衰帯(周波数fr)を有する通過帯域特性となっていることである。
なお、図4の特性を測定するに当たり、減衰帯の周波数(fr)と通過帯の周波数(fp)を合わせるため、コイルL1、L2のパターニングは、実施例では、従来例2に比べて、形状的に若干小さく設定した。
【0052】
このため、▲2▼の実施例では、コイルL1、L2の持つ導体抵抗が低下しているため、コイルのQが高くなっている。このため、図示のような特性となっている。
【0053】
すなわち、▲1▼の従来例2の特性(点線の特性)では、減衰帯(周波数fr)において、20dB減衰帯域幅(Δf1)が狭く、かつ最大減衰量も大きくない。また、通過帯(周波数fp)においては、挿入損失が大きかった。
【0054】
上記従来例2の特性に対して、▲2▼に示した実施例の特性では、上記のように構成したので、図示のような特性になっている。
すなわち、減衰帯(周波数fr)において、20dB減衰帯域幅(Δf2)は、上記Δf1より大きくとることが出来(Δf2>Δf1)、かつ最大減衰量も、▲1▼に比べて大きくなっている。
【0055】
また、通過帯(周波数fp)においては、▲1▼に比べて挿入損失を小さくする事が出来ている。
上記特性により、実施例の高周波LCフィルタでは、従来例2に比べて、コイルの高Q化が達成出来ていることが実証出来た。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
(他の実施例)
以上実施例について説明したが、本発明は次のようにしても実施可能である。
▲1▼:高周波LCフィルタに限らず、コイル、コンデンサ等を使用した他のLC複合部品に適用可能である。
【0063】
▲2▼:スペーサ層の層数は、任意の層数で良い。
【0064】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば次のような効果がある。
▲1▼:コイル部を構成する層の厚みTLを、コンデンサ部以外の他の層の厚みTOに対して、TL<TOの関係にすると、単位長さ(この場合は層の厚み)当たりのコイルの巻き数が上がる(TL=TOの場合に比べて)ため、コイルのインダクタンス値が上がる。
【0065】
また、コイルの導体長(コイルパターン長)は変化しないため、導体損失が変化しない。従って、コイルが高Q化する。その結果、例えばフィルタを作った場合、挿入損失が改善される。
【0066】
▲2▼:高インダクタンス(100nH程度)な空芯コイルを、小型モジュールの中で設定することが可能となる。また、コイル層が薄くなった分、モジュール全体が薄型化出来る。
【0067】
▲3▼:高周波LC複合部品が、薄型化出来るので、モジュールをセラミクスで構成した場合、製造時の脱バインダ及び、焼成工程が容易になる。
▲4▼:コイル部とコンデンサ部との間にスペーサ層を設けたことにより、コイル部とコンデンサ部間の浮遊容量を少なくする事が出来る。
【0068】
従って、コイルの高Q化が図れるため、挿入損失が低下し、所定の減衰特性が確保出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の原理説明図である。
【図2】
本発明の実施例の説明図(高周波LCフィルタの分解斜視図)である。
【図3】
本発明の実施例の説明図であり、図3Aは高周波LCフィルタの斜視図(外観図)、図3Bは図3AのX-Y線断面図、図3Cは等価回路である。
【図4】
本発明の実施例の説明図(高周波LCフィルタの通過帯域特性)である。
【図5】
従来技術の説明図であり、図5Aは従来例1(断面図)、図5Bは従来例2(断面図)を示した図である。
【符号の説明】
1-1〜1-7 多層基板の第1層〜第7層(誘電体シート)
1-5 第5層(スペーサ層)
2 コイルパターン(導体パターン)
3 コンデンサ電極パターン(導体パターン)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2002-09-05 
出願番号 特願平4-338452
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (H01G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 竹井 文雄  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 浅野 清
橋本 武
登録日 2000-11-02 
登録番号 特許第3126244号(P3126244)
権利者 ティーディーケイ株式会社
発明の名称 高周波LC複合部品  
代理人 今村 辰夫  
代理人 今村 辰夫  

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