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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
審判 全部申し立て 発明同一  B41J
管理番号 1098020
異議申立番号 異議2003-70207  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-08-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-24 
確定日 2004-03-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3306418号「インクジェット記録装置及びインク容器」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3306418号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3306418号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成4年12月9日に出願した特願平4-329078号の一部を平成10年6月15日に特願平10-167540号として新たに特許出願し、さらにその特願平10-167540号の一部を、平成13年2月16日に特願2001-39765号として新たな特許出願としたものであって、平成14年5月10日にその特許権の設定の登録がなされ、その後、請求項1及び2に係る発明の特許について元永英二より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年7月22日に特許異議意見書の提出とともに訂正請求がなされ、その後、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年11月25日に意見書の提出とともに手続補正書(訂正請求書の手続補正書とみなし、補正された全文明細書を補正された訂正明細書とみなす。)が提出されたものである。

2.訂正の適否

(1)訂正請求に対する補正の適否

特許権者は、訂正請求書第2頁第9行〜第3頁第1行記載の訂正事項a及び同第3頁第7行〜第28行記載の訂正事項eを平成15年11月25日提出の補正書のとおりに補正をするものであり、当該訂正請求に対する補正は、訂正請求書の要旨を変更するという程のものではないから、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合する。

(2)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、次のとおりである。

〈訂正事項a〉
特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】 インク吐出口と、このインク吐出口に連通するインク流路と、インクに作用するエネルギー作用部と、前記インク流路にインクを導くフィルターを備えたインク導入部とを有する記録ヘッド部と、前記記録ヘッド部へ供給するインクを含浸したインク吸収体を収納したインク容器とよりなり、前記記録ヘッド部と前記インク容器とを分離可能に連結し、前記記録ヘッド部がキャリッジに取り付けられたインクジェット記録装置において、前記インク容器は、前記記録ヘッド部へのインク供給部と前記インク容器内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と前記インク容器内部を大気中に連通させる部分とは、使用前は閉止体により閉止、気密状態にされるとともに使用開始時にこの閉止体を除去することにより閉止、気密状態が解除され、使用可能状態とするとともに、前記インク容器内のインクがなくなった場合に、該インク容器を新たなものに交換し、キャリッジに取り付けられた前記記録ヘッド部は繰り返し使用するインクジェット記録装置であって、前記記録ヘッド部と前記インク容器とを連結する前に前記インク容器内部を大気中に連通させる部分の気密状態を解除することを特徴とするインクジェット記録装置。」から、
「【請求項1】 インク吐出口と、このインク吐出口に連通するインク流路と、インクに作用するエネルギー作用部と、前記インク流路にインクを導くフィルターを備えたインク導入部とを有する記録ヘッド部と、
該記録ヘッド部を搭載するキャリッジと、
インクを含浸したインク吸収体を収納するとともに、前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部の前記インク吐出口が形成された面と前記インク供給部の開口が形成された面とはほぼ平行となるように前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。」
に訂正する。

〈訂正事項b〉
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

〈訂正事項c〉
発明の名称を、「インクジェット記録装置及びインク容器」から、「インクジェット記録装置」に訂正する。

〈訂正事項d〉
明細書の段落【0006】を次のように訂正する。
「【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、インク吐出口と、このインク吐出口に連通するインク流路と、インクに作用するエネルギー作用部と、前記インク流路にインクを導くフィルターを備えたインク導入部とを有する記録ヘッド部と、該記録ヘッド部を搭載するキャリッジと、インクを含浸したインク吸収体を収納するとともに、前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部の前記インク吐出口が形成された面と前記インク供給部の開口が形成された面とはほぼ平行となるように前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器と、を備えたものである。」

〈訂正事項e〉
明細書の段落【0007】を削除するとともに、段落【0008】〜【0031】の段落番号を一つずつ繰り上げ、段落【0007】〜【0030】とする。

〈訂正事項f〉
明細書の段落【0032】の段落番号を一つ繰り上げ、段落【0031】とするとともに、次のように訂正する。
「【0031】
【発明の効果】
請求項1記載の発明は上述のように、インク吐出口と、このインク吐出口に連通するインク流路と、インクに作用するエネルギー作用部と、前記インク流路にインクを導くフィルターを備えたインク導入部とを有する記録ヘッド部と、該記録ヘッド部を搭載するキャリッジと、インクを含浸したインク吸収体を収納するとともに、前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部の前記インク吐出口が形成された面と前記インク供給部の開口が形成された面とはほぼ平行となるように前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器と、を備えたので、工場から出荷され、実際にプリンタに取り付けられて印字を行うまでの間は、インク容器は密閉状態に維持されるため、工場出荷後の過酷な条件にさらされてもインクの水分蒸発が発生したり、変質したりすることがなく、さらに、インクのこぼれやゴミなどの異物の混入を防止するこ
とができ、また、インク容器のインクがなくなったときに、インク容器を新たに交換するだけで高価な記録ヘッド部をキャリッジに取り付けたまま使用することができ、これにより、ランニングコストを低減することができるという効果を有する。」

〈訂正事項g〉
明細書の段落【0033】を削除する。

(3)訂正の目的の適否
〈訂正事項aについて〉
訂正事項aは、[ア]訂正前請求項1に記載の「記録ヘッド部がキャリッジに取り付けられた」を、「該記録ヘッド部を搭載するキャリッジと、」と訂正すると共に、請求項1の文章構成を、訂正前請求項1に記載の「・・・記録ヘッド部と、・・・インク容器とよりなり、・・・前記記録ヘッド部がキャリッジに取り付けられたインクジェット記録装置において、・・・することを特徴とするインクジェット記録装置」から、「・・・記録ヘッド部と、・・・キャリッジと、・・・インク容器と、を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置」と訂正する事項、[イ]訂正前請求項1に記載の「前記インク容器内のインクがなくなった場合に、該インク容器を新たなものに交換し、キャリッジに取り付けられた前記記録ヘッド部は繰り返し使用する」を削除する事項、[ウ]「前記記録ヘッド部の前記インキ吐出口が形成された面と前記インキ供給部の開口が形成された面とはほぼ平行となるように」を追加する事項、[エ]訂正前請求項1に記載の「使用」を、「連結」と訂正する事項、[オ]訂正前請求項1に記載の「インク供給部」の閉止体を除去する時期が、「連結作業開始前」であると訂正する事項とからなっている。
上記[イ]は、訂正前請求項1に「インクジェット記録装置」の構成を規定し得る事項ではないものを記載していた部分を削除したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
上記[ウ]は、訂正前請求項1における「インク吐出口」と「インキ供給部」の位置関係について、記録ヘッド部のインキ吐出口が形成された面とインキ供給部の開口が形成された面とはほぼ平行である旨を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
上記[エ]は、インクジェット記録装置の使用(印刷動作)を意味するのか、インク容器の記録ヘッド部への連結を意味するのか不明瞭であった「使用」という用語を、インク容器の記録ヘッド部への連結を意味するものである旨を明らかにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
上記[オ]は、訂正前請求項1における「インク供給部」の閉止体を除去する時期が、「連結作業開始前」である旨を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
上記[ア]は、無意味・無目的な訂正であるとの解釈の余地があるが、訂正事項aを全体としてみれば、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的としている。
したがって、上記訂正事項aは、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。

〈訂正事項bについて〉
上記訂正事項bは、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。

〈訂正事項cについて〉
上記訂正事項cは、上記訂正事項bに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の名称との整合を図るため、発明の名称の記載を訂正したもので、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。

〈訂正事項d乃びfについて〉
上記訂正事項d及びfは、上記訂正事項aに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るため、発明の詳細な説明の記載を訂正したもので、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。

〈訂正事項e乃びgについて〉
上記訂正事項e乃びgは、上記訂正事項bに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るため、発明の詳細な説明の記載を訂正したもので、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。

以上のとおりであるから、本件訂正は、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正である。

(4)新規事項の追加及び拡張・変更についての判断
〈訂正事項aについて〉
上記訂正事項aの記録ヘッド部のインキ吐出口が形成された面とインキ供給部の開口が形成された面とはほぼ平行である点は、願書に添付した図面(以下「特許図面」といい、願書に添付した明細書を「特許明細書」といい、これらをあわせて「特許明細書等」という。)の【図1】に基づくものであり、また、「インク供給部」の閉止体を除去する時期が、「連結作業開始前」である点は、特許明細書の段落【0015】の「なお、記録ヘッド部1への連結を行なう以前のインク容器2には前記穴26aを閉止するための栓(図示せず)が取り付けられており、この栓はインク容器2を記録ヘッド部1へ連結する直前に取外される。」に基づくものであり、いずれの点も特許明細書等に記載されている。

〈訂正事項bについて〉
上記訂正事項bは、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

〈訂正事項c、e及びgについて〉
訂正事項c、e及びgは、特許請求の範囲の記載と発明の名称、発明の詳細な説明との整合を図るため、発明の名称又は発明の詳細な説明の記載を訂正したものであるから、上記訂正事項bと同様の理由で、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

〈訂正事項d及びfについて〉
訂正事項d及びfは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るため、発明の詳細な説明の記載を訂正したものであるから、上記訂正事項aと同様の理由で、特許明細書等に記載されている。

以上のとおりであるから、本件訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められ、また、本件訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとは言えない。

(5)訂正の適否の判断の結論
したがって、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年改正前特許法第126条第1項ないし第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断

(1)本件発明の認定
上記2.で述べたとおり、本件訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成15年11月25日付け手続補正書により補正された訂正明細書(以下、単に「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】 インク吐出口と、このインク吐出口に連通するインク流路と、インクに作用するエネルギー作用部と、前記インク流路にインクを導くフィルターを備えたインク導入部とを有する記録ヘッド部と、
該記録ヘッド部を搭載するキャリッジと、
インクを含浸したインク吸収体を収納するとともに、前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部の前記インク吐出口が形成された面と前記インク供給部の開口が形成された面とはほぼ平行となるように前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。」

(2)取消理由の骨子
当審において通知した取消理由の骨子は次のとおりである。
〈取消理由1〉訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件出願前の出願であって本件出願後に出願公開された特願平3-336945号(特開平5-169676号)[以下、「先願」という。]の願書に最初に添付した明細書又は図面[以下、願書に最初に添付した明細書・図面を「先願明細書」という。」に記載された発明と同一であり、しかも、上記先願と本件出願とに係る発明者が同一ではなく、かつ、本件出願の時に本件出願人と上記先願の出願人とが同一でもないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
〈取消理由2〉訂正前の請求項1及び2に係る発明は、特開昭56-56874号公報(以下、「刊行物」という。)及び特開昭57-41969号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)先願明細書及び刊行物の記載事項

[先願明細書]
先願明細書には、次のA.〜J.の記載がある。
A.「本発明は、インクを吐出して記録を行う記録ヘッド部と、該ヘッド部へ供給されるインクを収納したインクタンク部とが一体化されて使用され、必要に応じて前記インクタンク部を分離交換することが可能なインクジェット記録手段に関する。」(段落【0001】)
B.「本実施例における記録ヘッドは電気信号に応じて膜沸騰をインクに対して生じせしめるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体を用いて記録を行うインクジェット方式のものである。図1において記録ヘッド1の主たる構成はすべてヘッドベースプレート5に設けた位置決め用の突起及び切欠きを位置基準としてヘッドベースプレート5上に接着ないしは圧着して積層配置されており、ヒータボード4はSi基板上に複数の列状に配された電気熱変換体(吐出ヒータ)と、これに電力を供給するAl等の電気配線とが成膜技術により形成されてなり、本体装置からの電気信号を受け取るパッド6aを端部に配した配線を有するヘッドPCB6に対して、それぞれの配線を対応させてワイヤボンディング7により接続されている。吐出ヒータに対応して複数のインク流路を各々区分するための隔壁や供給路8を介してインクタンク2からインクを導入してインク流路に供給する。ヘッドを構成する共通液室9と複数の吐出口を形成するオリフィスとはポリサルフォン等で一体成型した溝天板10をヒータボード4に不図示のバネで押圧するとともに封止剤を用いて圧着固定及び封止して形成している。溝天板10に結合封止された供給路8は、インクタンク2と結合可能とするために本実施例においてはヘッドPCB6及びヘッドベースプレート5に設けた穴を通ってヘッドベースプレート5の反対側へ貫通させるとともに、貫通部でヘッドベースプレート5に接着固定されている。また、流路8のインクタンク2と結合する側の端部には吐出部へのゴミや気泡などの流入を防止するためのフィルタ11が設けてある。」(段落【0012】)
C.「交換用インクタンク2は内面にリブ2aを有するタンクケース2A内に、インクを含浸させたインク吸収体2bをほぼ隙間なく詰め込むとともに、記録ヘッド1のインクのフィルタ11を設けた供給路端を挿入させて結合を行うためのインク供給部(孔)2cとインクタンク2からのインクの流出に見合うだけの大気をインクタンク内に導入して過度の負圧発生を防止するための大気連通部(孔)2dとを有する。」(段落【0013】)
D.「記録ヘッド1とインクタンク2との結合は図1に示すように、キャリッジ3への記録ヘッド部1の結合と同時にキャリッジ3の加圧フック13による付勢力により一体化される。」(段落【0015】)
E.「キャリッジHCは、プラテン側(ヘッドの前面側)に位置する前板と、記録ヘッドのPCB上のパッド6aに対応するヘッド駆動電極16aを具備したフレキシブルシート及びこれを裏面側から押圧する弾性力を発生させるためのゴムパッドを保持する電気接続部用支持板16と、記録ヘッドを機械的に固定する際のヘッド位置決め部と、インクタンク2及び記録ヘッド1を矢印A方向に付勢支持するための加圧フック13とが設けられている。」(段落【0017】)
F.「インク供給部2cではタンクバンドによる結合力によって、インク吸収体2bとフィルタ11とが圧接結合することでインク供給路の接続を行うとともに、ヘッドベースプレート5と交換インクタンク外壁面とに挟まれた弾性体のリングシール19が加圧変形して密着することによりインク供給部2cにおいてインクタンク内部と大気との連通を完全に封止している。」(段落【0018】)
G.「図3は交換インクタンクの使用前の状態を説明するための断面図であり、物流時のインクの漏出や蒸発を防止するために、大気連通部2dとインク供給部2cとに取りはずし可能なように封止部材22,23をそれぞれ設けており、交換インクタンク2使用時に矢印方向にそれらを取り除くようにしている。」(段落【0023】)
H.図3には、インク供給部2cが封止部材23で封止されていることが示されている。
I.「【図1】本発明が適用される交換可能な記録ヘッド及び交換インクタンクの本体への装着状態を表す断面図である。」(【図面の簡単な説明】)
J.図1には、インク供給部2cが、リングシール19のみで封止されていることが示されている。

[刊行物]
刊行物には、次のa.〜i.の記載がある。
a.「記録液を貯留する記録液容器と、該容器から前記記録液が供給され、その記録液を吐出して印字紙上に印字を行なう記録ヘッドと、・・・キャリッジとを有するインクジェット記録装置において、前記記録ヘッドは前記キャリッジに固着し、前記記録ヘッドに一方の開口を接続した記録液供給部材を有し、該記録液供給部材の他方の開口を前記記録液容器に緊密に挿着可能となし、前記記録液容器に前記記録液供給部材を挿着することにより、前記記録液容器から前記記録液供給部材を介して前記記録ヘッドに前記記録液を供給するようにした・・・インクジェット記録装置。」(第1頁左下欄、特許請求の範囲第1項)
b.「記録ヘッド10は、圧電素子15,ノズル部16、吐出オリフィス17および供給管18で構成でき」(第3頁左上欄第2行〜第3行)
c.「記録ヘッドとキャリッジを一体として、・・・記録液容器をキャリッジに対して容易に着脱できるようにしたインクジェット記録装置を提供する」(第3頁左下欄第7行〜第10行)
d.「第3図は、本発明における記録液容器を・・・キャリッジに装着した一例を示し、31は・・・キャリッジ、・・・33は記録ヘッド、34は記録液供給部材としての供給管である。・・・キャリッジ本体31A、本体31Aの上面との間に記録ヘッド33を収容する間隙を形成する上壁31B、上壁31Bに連なり、供給管34を格納する間隙を形成する隔壁31Cを有する。」(第3頁左下欄第12行〜右下欄第1行)
e.「符号35はキャリッジ後方に形成した格納部31Eに装着・取外し可能な記録液容器で、・・・弾性材料による盲栓36を装着しておく。」(第3頁右下欄第12行〜第15行))
f.「容器35の上面には容器35内を常時大気圧に保持するための通気フィルタ37が装着されているが、容器35をキャリッジ31の容器格納室31Eに装着しないときには、容器35の記録液を大気から遮断し、記録液の蒸発と変質を防止する必要がある。したがって通気フィルタの上部に大気連通部38を設け、その一側壁(第3図は左側壁)には第5図に示すように弾性材料による大気連通用盲栓39を装着しておき、容器35をキャリッジ31の容器格納室31Eに装着しないときには容器35内の記録液を大気から遮断する。」(第3頁右下欄第16行〜第4頁左上欄第6行)
g.「第7図は本発明インクジェット記録装置の他の実施例を示し、・・・記録ヘッド33および供給管51は、キャリッジ外壁50Bとキャリッジ本体50Aとの間に形成された階段状室に収容される。・・・52は記録液容器で、その底面には・・・記録液導出口としての盲栓36を装着する。容器52の上面には、容器52内を常時大気圧に保持するための通気フィルタ37が介装される円筒状の大気連通部53を設ける。この連通部53は、容器52をキャリッジ50に装着しない際に記録液を大気から遮断するための栓54を有する。このように構成される記録液容器52を容器載置台50Cに載置すると、供給管51の先端が盲栓36内に挿入されて記録液導出口が形成される。このようにして容器52をキャリッジ50に装着した後に、栓54を取外し容器52内を大気と連通させると、記録液は供給管51を経て記録ヘッド33に供給される」(第4頁右上欄第8行〜左下欄第20行)
h.「第8図は、・・・第7図に示す盲栓36と供給管34,51の先端部の他の構成を示し、・・・導出口55の一端(第8図では左端)には、アルミホイールや各種ラミネート体よりなるフイルム56を被着して、容器内に記録液を封止する。符号57は供給管であり、その先端部には記録液を含浸することができる部材58・・・を挿着する。本例の場合は、供給管57を導出口55に差し込むようにして、フイルム56を破り、容器内の記録液を供給管57を経て記録ヘッドへ供給する。第8図示の構成によれば、容器交換の際に部材58に記録液が含浸しているので、供給管57を介して気泡が記録ヘッドに混入することがないばかりか、ゴミの混入をも防止することができる。」(第4頁右下欄第1行〜第18行)
i.第3図には、記録ヘッド33の吐出オリフィスが形成された面と盲栓36が形成された面とはほぼ平行であることが示されている。

(4)取消理由1の妥当性
(4-1)先願明細書に記載の発明
上記記載F〜J(特に、【図3】の封止部材23の形状、及び同部材の下方に下向き矢印が付されている点)によれば、インク供給部2cを封止する封止部材23は、連結作業開始前に除去されることは、明らかであるから、上記記載A〜Jを含む先願明細書には、
「吐出口と、インク流路と、吐出ヒータと、前記インク流路にインクを供給するフィルタ11を備えたインク供給路8とを有する記録ヘッド1と、
記録ヘッド1を機械的に固定する際のヘッド位置決め部と、インクタンク2及び記録ヘッド1を付勢支持するための加圧フック13が設けられたキャリッジHCと、
インクを含浸させたインク吸収体2bをほぼ隙間なく詰め込むとともに、前記記録ヘッド1のインクのフィルタ11を設けた供給路端を挿入させて結合を行うためのインク供給部2cと大気連通部2dとを有し、前記インク供給部2cと大気連通部2dとは、交換インクタンクの使用前は、封止部材22,23により物流時のインクの漏出や蒸発を防止されるとともに、連結作業開始前に封止部材23は取り除かれ、交換インクタンクの使用時に封止部材22は取り除かれ、かつ、前記記録ヘッド1と一体化されて使用され、必要に応じて分離交換することが可能な交換用インクタンク2と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。」(以下、「先願発明」という。)
が記載されていると認めることができる。

(4-2)本件発明と先願発明との一致点及び相違点の認定
先願発明の「吐出口」、「吐出ヒータ」、「フィルタ11」、「インク供給路8」及び「記録ヘッド1」は、本件発明の「インク吐出口」「エネルギー作用部」、「フィルター」、「インク導入部」及び「記録ヘッド部」にそれぞれ相当する。
先願発明の「インク流路」が「吐出口」に連通することは自明であるから、先願発明の「インク流路」は、本件発明の「インク流路」に相当する。
先願発明における「記録ヘッド1を機械的に固定する際のヘッド位置決め部と、インクタンク2及び記録ヘッド1を付勢支持するための加圧フック13が設けられたキャリッジHC」は、本件発明において「該記録ヘッド部を搭載するキャリッジ」と異ならない。
先願発明の「交換用インクタンク2」と本件発明の「インク容器」の構成を対比すると、[ア]先願発明の「インク吸収体2b」、「前記記録ヘッド1のインクのフィルタ11を設けた供給路端を挿入させて結合を行うためのインク供給部2c」、「大気連通部2d」及び「封止部材22,23」は、本件発明の「インク吸収体」、「記録ヘッドへのインク供給部」、「内部を大気中に連通させる部分」及び「閉止体」に相当し、[イ]先願発明と本件発明は、「内部を大気中に連通させる部分」が、インク容器を記録ヘッド部に連結した後は閉止されていない点で一致し、[ウ]先願発明における「前記記録ヘッド1と一体化されて使用され、必要に応じて分離交換することが可能な」ことは、本件発明における「前記記録ヘッド部に分離可能に連結された」ことと異ならない。
そうすると、先願発明における「インクを含浸させたインク吸収体2bをほぼ隙間なく詰め込むとともに、前記記録ヘッド1のインクのフィルタ11を設けた供給路端を挿入させて結合を行うためのインク供給部2cと大気連通部2dとを有し、前記インク供給部2cと大気連通部2dとは、交換インクタンクの使用前は、封止部材22,23により物流時のインクの漏出や蒸発を防止されるとともに、連結作業開始前に封止部材23は取り除かれ、交換インクタンクの使用時に封止部材22は取り除かれ、かつ、前記記録ヘッド1と一体化されて使用され、必要に応じて分離交換することが可能な交換用インクタンク2」と、本件発明の「インクを含浸したインク吸収体を収納するとともに、前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部の前記インク吐出口が形成された面と前記インク供給部の開口が形成された面とはほぼ平行となるように前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器」は、「インクを含浸したインク吸収体を収納するとともに、前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに、前記インク供給部は、連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除して使用状態とされ、前記と内部を大気中に連通させる部分は、前記記録ヘッド部への連結後は閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器」である点で共通している。
したがって、本件発明と先願発明とは、
「インク吐出口と、このインク吐出口に連通するインク流路と、インクに作用するエネルギー作用部と、前記インク流路にインクを導くフィルターを備えたインク導入部とを有する記録ヘッド部と、
該記録ヘッド部を搭載するキャリッジと、
インクを含浸したインク吸収体を収納するとともに、前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに、前記インク供給部は、連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除して使用状態とされ、前記と内部を大気中に連通させる部分は、前記記録ヘッド部への連結後は閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。」
である点で一致し、以下の各点で一応相違する。

〈相違点1〉内部を大気中に連通させる部分の気密状態の解除について、本件発明では「連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除」とされているのに対し、先願発明では、解除がいつ行われるのか(連結作業開始前であるのか、それとも連結後であるのか)不明である点。

〈相違点2〉記録ヘッド部のインク吐出口が形成された面とインク供給部の開口が形成された面の位置関係について、本件発明では「ほぼ平行となる」とされているのに対し、刊行物発明では、そのようになっていない(【図1】の実施例では、ほぼ直角となっている)点。

(4-3)相違点についての判断
〈相違点1について〉
本件発明は「インクジェット記録装置」に係る発明であり、インク容器の取付方法についての発明ではない。相違点1に係る構成についての記載は、専らインク容器の取付方法としての記載であり、これをインクジェット記録装置の構成としてみれば、せいぜい、インク容器の内部を大気中に連通させる部分が、連結作業開始前に閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除可能な態様で閉止されている構成と認定できるだけである。
ところで、先願発明は、インク容器の内部を大気中に連通させる部分が、閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除可能な態様で閉止されている構成を備えているから、閉止気密状態の解除を連結作業前に行えない理由はない。したがって、相違点1は実質的相違点とはいえない。
仮に、内部を大気中に連通させる部分の気密状態の解除時点が「連結作業開始前」であることを、インクジェット記録装置の構成とみる余地があるとしても、本件の訂正明細書に「記録ヘッド部1への連結を行なう以前のインク容器2には・・・微小開口30を閉止してインク容器2を気密状態とすると共にインク容器2を記録ヘッド部1へ連結する直前又は連結の直後に取外されて微小開口30を開口させる閉止体であるネジ蓋31が設けられている。」(段落【0015】)と記載があるとおり、インクジェット記録装置の使用者が適宜選択し得る程度の事項にすぎず、新たな効果を奏するものではないから、設計上の微差に属するものである。
加えて、先願明細書の【図2】は装着工程を表す図であり、同図では【図3】にみられる封止部材22が描かれていない。そのことを考慮すれば、先願発明の「使用時」とは、「連結作業開始前」であると解釈すべきである。

〈相違点2について〉
記録ヘッド部のインク吐出口が形成された面とインク供給部の開口が形成された面の位置関係をほぼ平行とすることは、当該技術分野において周知の構成(例えば、特開平2-198861号公報、特開平4-282256号公報、特開平4-133748号公報又は特開平2-214665号公報参照。)である。
したがって、相違点2は周知技術の転換にすぎず、相違点2に係る構成を備えることにより新たな効果を奏するものではないから、設計上の微差に属するものである。

(4-4)本件発明が先願発明と同一か否かの判断
相違点1は、実質的相違といえないか、設計上の微差であり、相違点2は、設計上の微差であるから、本件発明は先願発明と実質的に同一である。
したがって、本件発明は先願発明と同一であり、しかも、上記先願と本件出願とに係る発明者が同一ではなく、かつ、本件出願の時に本件出願人と上記先願の出願人とが同一でもないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

(5)取消理由2の妥当性
(5-1)刊行物記載の発明
刊行物の記載b.は、従来例について記載したものであるが、記載b.の「圧電素子15」、「ノズル部16」及び「吐出オリフィス17」は、すべての実施例の「記録ヘッド」にも備わっているものであるから、記載a.〜i.を含む刊行物の全記載及び図示によれば、刊行物には、下記の発明が記載されている。
「吐出オリフィス17と、ノズル部16と、圧電素子15と、記録液を含浸することができると共に記録ヘッド33への気泡やゴミの混入を防止することができる部材58を備えた供給管57とを有する記録ヘッド33と、
該記録ヘッド33を搭載するキャリッジ50と、
記録液容器52をキャリッジ50に装着するときに、供給管57が差し込まれることにより、一端に被着したアルミホイールよりなるフィルム56が破られ前記記録ヘッド33に記録液を供給する導出口55と、記録液容器35をキャリッジ31に装着した後に、栓54が取り外されることにより記録液容器52の内部が大気と連通される大気連通部53とを有し、かつ、キャリッジ後方に形成した格納部31Bに装着・取外し可能な記録液容器35と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置」(以下、「刊行物発明」という。)

(5-2)本件発明と刊行物発明との一致点及び相違点の認定
刊行物発明の「圧電素子15」、「吐出オリフィス17」、「記録液」、「記録液を含浸することができると共に記録ヘッドへの気泡やゴミの混入を防止することができる部材58」、「記録ヘッド33」、「キャリッジ31」及び「供給管57」は、本件発明の「エネルギー作用部」、「インク吐出口」、「インク」、「フィルター」、「記録ヘッド部」、「キャリッジ」及び「インク導入部」にそれぞれ相当する。
刊行物発明の「記録ヘッド33」が「供給管57」から「吐出オリフィス17」へ連通する「インク流路」を有することは自明である。
刊行物発明の「記録液容器52」と本件発明の「インク容器」の構成を対比すると、[ア]刊行物発明の「アルミホイールよりなるフィルム56」、「導出口55」、「栓54」及び「大気連通部53」は、本件発明の「閉止体」、「記録ヘッドへのインク供給部」、「閉止体」及び「内部を大気中に連通させる部分」に相当し、[イ]刊行物発明と本件発明は、「記録ヘッドへのインク供給部」及び「内部を大気中に連通させる部分」が、インク容器を記録ヘッド部に連結した後は閉止されていない点で一致し、[ウ]刊行物発明における「キャリッジ後方に形成した格納部31Bに装着・取外し可能な」ことは、本件発明における「前記記録ヘッド部に分離可能に連結された」ことと異ならない。
そうすると、刊行物発明の「記録液容器52をキャリッジ50に装着するときに、供給管57が差し込まれることにより、一端に被着したアルミホイールよりなるフィルム56が破られ前記記録ヘッド33に記録液を供給する導出口55と、記録液容器35をキャリッジ31に装着した後に、栓54が取り外されることにより記録液容器52の内部が大気と連通される大気連通部53とを有し、かつ、キャリッジ後方に形成した格納部31Bに装着・取外し可能な記録液容器35」と、本件発明の「前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部の前記インク吐出口が形成された面と前記インク供給部の開口が形成された面とはほぼ平行となるように前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器」は、「前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに連結後は閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器」である点で共通している。
したがって、本件発明と刊行物発明とは、
「インク吐出口と、このインク吐出口に連通するインク流路と、インクに作用するエネルギー作用部と、前記インク流路にインクを導くフィルターを備えたインク導入部とを有する記録ヘッド部と、
該記録ヘッド部を搭載するキャリッジと、
前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに連結後は閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。」
である点で一致し、以下の各点で相違する。

〈相違点1〉インク容器について、本件発明が「インクを含浸したインク吸収体を収納する」ものであるのに対し、刊行物発明はかかる「インク吸収体」を備えていない点。

〈相違点2〉記録ヘッド部へのインク供給部の気密状態の解除について、本件発明では「連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除」とされているのに対し、刊行物発明では、装着時に解除される点。

〈相違点3〉内部を大気中に連通させる部分の気密状態の解除について、本件発明では「連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除」とされているのに対し、刊行物発明では、装着後に解除される点。
〈相違点4〉記録ヘッド部のインク吐出口が形成された面とインク供給部の開口が形成された面の位置関係について、本件発明では「ほぼ平行となる」とされているのに対し、刊行物発明では、そのようになっていない(第7図の実施例では、ほぼ直角となっている)点。

(5-3)相違点についての判断
〈相違点1について〉
インク容器として「インクを含浸したインク吸収体を収納した」構成は、本件出願当時周知の構成(例えば、特開平2-198868号公報、特開平3-180356号公報、又は特開平4-257452号公報参照。)であるから、同構成を刊行物発明に採用することは、設計上の微差である。

〈相違点2について〉
本件発明は「インクジェット記録装置」に係る発明であり、インク容器の取付方法についての発明ではない。相違点2に係る構成についての記載は、専らインク容器の取付方法としての記載であり、これをインクジェット記録装置の構成としてみれば、せいぜいインク容器の記録ヘッド部へのインク供給部が、連結作業開始前に閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除可能な態様で閉止されている構成と認定できるだけである。
一方、刊行物発明では、フィルム56を剥がす必要がないため、第8図をみてもフィルムを剥離し難いように構成されている。刊行物の「容器35をキャリッジ31の容器格納室31Eに装着しないときには、容器35の記録液を大気から遮断し、記録液の蒸発と変質を防止する必要がある。」(記載f)との記載は、直接的には、「容器35の上面」すなわち、連結作業後に大気連通部となる部分の記載ではあるが、刊行物発明のフィルム56も同目的で設けられていることは明らかである。そして、同目的を達成するには、連結作業前は、インクタンクを密閉し、連結作業後に連通部が形成されれば十分であることも自明である。
ところで、連結作業前にインクタンクを密閉し、連結作業後に連通部を形成する点では、刊行物発明の栓54も同機能を担っており、これは明らかに連結作業開始前に除去可能である。また、刊行物発明のフィルム56を剥離可能にした場合に、刊行物発明の目的を達成できないと理解すべき理由もない。そうであれば、刊行物発明のフィルム56を剥離可能、すなわち、除去可能にすることにより、相違点2に係る本件発明の構成をなすことは容易である。
仮に、気密状態の解除時点が「連結作業開始前」であることを「インクジェット記録装置」の構成とみる余地があるとしても、設計事項に属するものである。すなわち、本件の訂正明細書にも、「インク容器2を記録ヘッド部1へ連結した場合には、その連結に伴って穴38aに挿入されるパイプ状部材27の針状突起40が膜状部材39を自動的に破るため、膜状部材39を破るという作業を個別に行なう必要がなくなり、インク容器2の内部と液室19との連通を手を汚さずに行なえる。」(段落【0026】)と記載があるとおり、記録ヘッド部へのインク供給部の閉止の解除を装着時に行うことに比して、連結作業開始前に行うことには何ら格別の作用効果がなく、閉止の形態等に応じて適宜選択できるものであるから、気密状態の解除時点を「連結作業開始前」とすることは設計事項程度である。

〈相違点3について〉
本件発明は「インクジェット記録装置」に係る発明であり、インク容器の取付方法についての発明ではない。相違点3に係る構成についての記載は、専らインク容器の取付方法としての記載であり、これをインクジェット記録装置の構成としてみれば、せいぜいインク容器の内部を大気中に連通させる部分が、連結作業開始前に閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除可能な態様で閉止されている構成と認定できるだけである。
ところで、刊行物発明は、インク容器の内部を大気中に連通させる部分が、閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除可能な態様で閉止されている構成を備えているから、閉止気密状態の解除を連結作業前に行えない理由はない。したがって、相違点3は実質的相違点とはいえない。
仮に、気密状態の解除時点が「連結作業開始前」であることを「インクジェット記録装置」の構成とみる余地があるとしても、設計事項に属するものである。すなわち、本件の訂正明細書にも、「記録ヘッド部1への連結を行なう以前のインク容器2には・・・微小開口30を閉止してインク容器2を気密状態とすると共にインク容器2を記録ヘッド部1へ連結する直前又は連結の直後に取外されて微小開口30を開口させる閉止体であるネジ蓋31が設けられている。」(段落【0015】)と記載があるとおり、内部を大気中に連通させる部分の閉止の解除を装着後に行うことに比して、連結作業開始前に行うことには何ら格別の作用効果がなく、適宜選択できるものであるから、気密状態の解除時点を「連結作業開始前」とすることは設計事項程度である。

〈相違点4について〉 記録ヘッド部のインク吐出口が形成された面とインク供給部の開口が形成された面の位置関係をほぼ平行とすることは、本件出願当時周知の構成(例えば、特開平2-198861号公報、特開平4-282256号公報、特開平4-133748号公報又は特開平2-214665号公報参照。)であり、しかも、刊行物においても、記録ヘッド部のインク吐出口が形成された面とインク供給部の開口が形成された面の位置関係をほぼ平行とする配置が示唆されている(記載i)から、同構成を刊行物発明に採用することは、設計上の微差である。

(5-4)本件発明の進歩性の判断
相違点1、3及び4は、実質的相違といえないか、設計上の微差であり、相違点2は、当業者にとって容易想到であり、これら相違点に係る構成による格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件発明は刊行物発明及び周知構成に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

(6)むすび
以上のとおり、取消理由1及び2はいずれも妥当であるから、本件請求項1に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令205号)4条2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インクジェット記録装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 インク吐出口と、このインク吐出口に連通するインク流路と、インクに作用するエネルギー作用部と、前記インク流路にインクを導くフィルターを備えたインク導入部とを有する記録ヘッド部と、
該記録ヘッド部を搭載するキャリッジと、
インクを含浸したインク吸収体を収納するとともに、前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部の前記インク吐出口が形成された面と前記インク供給部の開口が形成された面とはほぼ平行となるように前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、記録ヘッド部とインク容器とを連結してユニット化した記録ヘッドユニットを備えたインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のインクジェット記録装置は、被記録体に対してインクを吐出させる記録ヘッド部とこの記録ヘッド部に供給するインクを貯留したインク容器とを別体とし、それらの間を供給チューブを含む供給系を介して結合した構成をとるものが一般的であり、例えば、特開昭57-24283号公報の図1及び図2に開示されたものがある。
【0003】
しかし、このようなインクジェット記録装置では、長い供給チューブを必要とするので、配管時に煩雑さを伴い、装置全体が大型化している。
【0004】
これに対し、特開平3-101954号公報〜特開平3-101972号公報の一連の公報には、インクタンク(インク容器)に記録ヘッド部を固定することにより一体型カートリッジとしたインクジェット記録装置が開示されている。そして、このインクジェット記録装置においては、インク容器と記録ヘッド部との間の供給チューブ等を省くことによりその供給チューブを配管するという煩雑さがなくなり、しかも、装置全体が小型化される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
工場から出荷され、実際にプリンタに取り付けられて印字を行うまでの間にインク容器内のインクの水分蒸発が発生したり、あるいは、変質したりすることがある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、インク吐出口と、このインク吐出口に連通するインク流路と、インクに作用するエネルギー作用部と、前記インク流路にインクを導くフィルターを備えたインク導入部とを有する記録ヘッド部と、該記録ヘッド部を搭載するキャリッジと、インクを含浸したインク吸収体を収納するとともに、前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部の前記インク吐出口が形成された面と前記インク供給部の開口が形成された面とはほぼ平行となるように前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器と、を備えたものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の第一の実施の形態を図1乃至図10に基づいて説明する。なお、図1は記録ヘッドユニットの縦断側面図、図2はその斜視図、図3は分解斜視図である。まず、この記録ヘッドユニットは、記録ヘッド部1とインク容器2とによって形成されており、この記録ヘッド部1は、基体3に対してフレキシブルプリント配線基板(FPCB)4とヘッドチップ5とが接合されて構成されている。
【0008】
前記ヘッドチップ5は図4及び図5に示したように、発熱体基板6とオリフィスプレート7とからなり、発熱体基板6上には周知のウエハプロセス(薄膜形成、フォトリソ、エッチング等の技術)によって多数のエネルギー作用部8が形成され、このエネルギー作用部8は、発熱体9と電極(制御電極,共通電極)10,11とによって形成されている。具体的には図6に示したように、シリコンを材料とする発熱体基板6の表面に熱酸化によってSiO2膜12を1〜2μmの厚さに形成し、このSiO2膜12上にHfB2を材料とする発熱体層13をスパッタリングで約3000Åの厚さに形成し、この発熱体層13の上にAlを材料とする前記電極10,11をスパッタリングにより約1μmの厚さに形成したもので、前記発熱体層13における前記電極10,11に挾まれた部分が前記発熱体9とされている。さらに、前記発熱体層13や前記電極10,11等の全体を覆うように保護層としてSiO2膜14をスパッタリングによって約1μmの厚さに形成し、このSiO2膜14上であって前記発熱体9の上方には保護層としてTa膜15を形成している。
【0009】
ここで、前記SiO2膜12は、発熱体9から発生した熱が発熱体基板6側に逃げることを防止して効率良くインク側へ伝わるようにするためのものであり、前記SiO2膜14は、発熱体9や電極10,11をインクによる腐蝕から守るためのものであり、前記Ta膜15は、発熱体9上で発生した気泡が消滅する際のキャビテーション作用による衝撃力が発熱体9に及ぶことを防止するためのものである。
【0010】
また、前記発熱体基板6上には、インクを各発熱体9上へ導くためのインク流路16を形成するインクバリヤー17が厚さ20〜50μmで設けられている。このインクバリヤー17の材料としては例えばドライフィルムフォトレジストが用いられ、インク流路16はフォトリソ技術によって所望のパターンに形成されている。さらに、このインク流路16へインクを導入するためのインク導入口18がレーザー加工等の技術によって前記発熱体基板6に貫通形成されている。なお、前記基体3には、前記インク導入口18に連通されると共にインクを貯留する液室19が形成されている。
【0011】
前記オリフィスプレート7は、例えばエレクトロフォーミングによって形成したニッケルプレート上に金メッキを施したものであり、このオリフィスプレート7を前記発熱体基板6に貼付けた際に前記発熱体9に対向する位置にインク吐出口20が形成されている。インク吐出口20の大きさはインクジェット記録装置の仕様にもよるが、一般にはφ30〜50μmに形成され、また、オリフィスプレート7は50〜150μmの厚さに形成されている。なお、オリフィスプレート7の発熱体基板6への貼付けは、前記インクバリヤー17を形成するドライフィルムフォトレジストのもつ粘着性を利用して熱圧着により行なわれている。
【0012】
つぎに、前記基体3に接合された前記ヘッドチップ5と前記FPCB4とはワイヤーボンディングによって電気的接続が行なわれている。なお、前記FPCB4にはこの記録ヘッドユニットを後述するキャリッジ上に搭載した際にインクジェット記録装置の本体側からの画像記録情報を入力するための通電部である接点21が形成されている。
【0013】
つぎに、前記インク容器2は前記液室19へ供給するインクを貯留するもので、その内部には貯留したインクを含浸させるスポンジ状のインク吸収体22が収納されている。また、前記インク容器2は前記記録ヘッド部1に対して分離可能に連結されるものであり、この連結のためのガイド凸部23が前記インク容器2の上面部に形成され、前記基体3にはこのガイド凸部23をスライド自在に係合保持するガイド凹部24が形成されている。そして、これらのガイド凸部23とガイド凹部24とを係合させてインク容器2を奥まで押し込むことにより、図1及び図2に示したように記録ヘッド部1とインク容器2との連結が完了する。
【0014】
前記インク容器2には貯留したインクを前記液室19へ供給するための穴部25が形成されており、この穴部25にはリング状の弾性部材26が嵌め込まれている。一方、前記基体3には、前記インク容器2を前記記録ヘッド部1に連結した際に前記弾性部材26のインク供給部としての穴26aから前記インク容器2内へ挿入されるインク導入部であるパイプ状部材27が形成されており、パイプ状部材27の内部に形成されたインク導入路28が前記液室19に連通されている。ここで、前記弾性部材26は前記インク容器2を前記記録ヘッド部1へ連結した際にこれらの記録ヘッド部1とインク容器2との間に介装されるものであり、その介装に伴う10〜20%のつぶし代を見込んで設計されている。また、前記インク容器2内へ挿入される前記パイプ状部材27の先端部には図7に示したようにステンレスメッシュのフィルター29が取り付けられている。なお、記録ヘッド部1への連結を行なう以前のインク容器2には前記穴26aを閉止するための栓(図示せず)が取り付けられており、この栓はインク容器2を記録ヘッド部1へ連結する直前に取外される。
【0015】
さらに、前記インク容器2には内部を大気中に連通させることによりインクの減少に伴う内部の圧力低下を防止するための微小開口30が形成されている。なお、記録ヘッド部1への連結を行なう以前のインク容器2には図8に示したように微小開口30を閉止してインク容器2を気密状態とすると共にインク容器2を記録ヘッド部1へ連結する直前又は連結の直後に取外されて微小開口30を開口させる閉止体であるネジ蓋31が設けられている。
【0016】
つぎに、インク容器2を記録ヘッド部1へ連結した記録ヘッドユニットを搭載するためのキャリッジ32が設けられており、このキャリッジ32は図9及び図10に示したように、下基台33とこの下基台33に対して支軸34の回りに回動自在に連結された上蓋35とによって形成されている。前記キャリッジ32にはこのキャリッジ32に搭載した記録ヘッドユニットにおける記録ヘッド部1を固定する保持手段36が設けられており、この保持手段36は、前記基体3の下部正面部3aが当接される正面受け部36aと、前記基体3の上部側面部3bが当接される側面受け部36bと、前記基体3の上部下面部3cが当接される下面受け部36cとにより形成されている。また、前記上蓋35の下面部には前記接点21に電気的に接続される電気的接続部37が設けられており、この電気的接続部37を前記接点21に接触させる回動方向(矢印a方向)へ前記上蓋35を付勢するスプリング(図示せず)が前記支軸34側に設けられている。
【0017】
このような構成において、記録ヘッド部1に連結されていたインク容器2内のインクが無くなった場合には、キャリッジ32の上蓋35を支軸34の回りに矢印a′方向へ回動させ、ついで、ガイド凸部23とガイド凹部24との係合状態を維持しつつインク容器2を後方へスライドさせて記録ヘッド部1から取外す。
【0018】
インクが無くなったインク容器2を記録ヘッド部1から取外した後は、新たなインク容器2のガイド凸部23を記録ヘッド部1のガイド凹部24に係合させると共にそのインク容器2を前方へスライドさせ、記録ヘッド部1へインク容器2を連結する。なお、ガイド凸部23をガイド凹部24に係合保持させることによりインク容器2を記録ヘッド部1に連結する際には、栓を外すことにより弾性部材26の穴26aを開口させると共に、ネジ蓋31を外すことにより微小開口30を開口させておく。
【0019】
このようにして記録ヘッド部1へのインク容器2の連結を着脱自在に行なえるため、インク容器2内のインクが無くなった場合にはインク容器2のみを新たなものに交換し、インク容器2に比べて高価な部品である記録ヘッド部1は繰り返し使用する。このため、ランニングコストが大幅に低減される。
【0020】
記録ヘッド部1へのインク容器2の連結が完了した際には、パイプ状部材27が弾性部材26の穴26aを挿通してインク容器2内へ挿入されている。そして、パイプ状部材27と穴部25との接続部に弾性部材26が介装されると共にこの弾性部材26が10〜20%つぶされた状態となっているため、この接続部からのインクの漏れ出しが防止される。
【0021】
つぎに、パイプ状部材27の先端部にはフィルター29が取付けられているため、インク容器2を記録ヘッド部1へ連結する際において、空気中に浮遊しているゴミや弾性部材26から欠落した微小異物が液室19内へ入るということが防止され、そのゴミや微小異物がインク流路16内に詰まってインクの吐出が不良になるということが防止される。また、インク容器2には微小開口30が形成されているため、インク容器2内のインクが消費されてもインク容器2内の圧力は大気圧と同じに維持され、インク容器2から液室19へのインクの供給は常にスムーズに行なわれる。一方、記録ヘッド部1への連結を行なう以前の保管期間中のインク容器2においては、弾性部材26の穴26aが栓により閉止されると共に微小開口30が閉止体として作用するネジ蓋31により閉止されて気密状態に保たれているため、保管期間中にインクの水分が蒸発するということが防止される。
【0022】
つぎに、記録ヘッドユニットをキャリッジ32に搭載した際には、キャリッジ32に設けた保持手段36によって記録ヘッド部1のインク吐出口20側が保持されているため、インク容器2の着脱を行なっても記録ヘッド部1とキャリッジ32との位置関係、及び、記録ヘッド部1と印写を行なう用紙等との間隔が一定に維持され、インク容器2の交換を行なう度に印写位置精度が狂うということが防止される。さらに、接点21を備えたFPCB4が記録ヘッド部1に設けられており、この記録ヘッド部1とキャリッジ32との位置関係が一定に維持されているため、接点21とキャリッジ32の一部である上蓋35の電気的接続部37との接続が確実に行なわれる。
【0023】
また、インク容器2内にはインクを含浸するインク吸収体22が収納されているため、キャリッジ32の移動中やインク容器2の交換時等における振動が原因となるインク中での気泡の発生が防止され、この気泡が液室19を経てインク流路16内へ入り込むということが防止され、インク流路16内へ気泡が入ることにより各インク流路16へのインクの供給が不良になるということが防止される。
【0024】
ついで、本発明の第二の実施の形態を図11及び図12に基づいて説明する。なお、図1乃至図10において説明した部分と同一部分は同一符号で示し、説明も省略する(以下、同様)。インク容器2に取付けた弾性部材38にこの弾性部材38の穴38aを閉止する膜状部材39を形成し、インク容器2を記録ヘッド部1に連結した際にこの穴38aからインク容器2内へ挿入されると共に前記膜状部材39を破るための針状突起40をパイプ状部材27の先端部に形成したものである。なお、このパイプ状部材27における液室19側の端部にはフィルター29が取付けられている。
【0025】
このような構成において、インク容器2を記録ヘッド1へ連結する以前の保管期間中においては、弾性部材38の穴38aは膜状部材39によって閉止されているため、この穴38aを閉止するための栓が不要になると共にこの穴38aからのインクの水分の蒸発が確実に防止される。
【0026】
インク容器2を記録ヘッド部1へ連結した場合には、その連結に伴って穴38aに挿入されるパイプ状部材27の針状突起40が膜状部材39を自動的に破るため、膜状部材39を破るという作業を個別に行なう必要がなくなり、インク容器2の内部と液室19との連通を手を汚さずに行なえる。
【0027】
ついで、本発明の第三の実施の形態を図13に基づいて説明する。インク容器2を樹脂により形成し、このインク容器2の外壁の一部に閉止体として突起部41を一体形成したものである。
【0028】
このような構成において、図13(b)に示したように突起部41を折ることにより微小開口30が形成され、インク容器2内が大気中に連通される。従って、インク容器2の保管期間中においては微小開口30は閉止されているため、インク容器2の保管期間中におけるインクの水分の蒸発が確実に防止される。
【0029】
なお、上記各実施例においては、インクジェット記録装置として、熱を利用して気泡を発生させ、その気泡の膨張による推進力でインクを吐出させる所謂サーマルインクジェット記録装置を例に挙げて説明したが、本発明はこの方式のインクジェット記録装置に限定されるものではなく、例えば、米国特許第3683212号明細書に記載されているグールド方式、米国特許第3747120号明細書に記載されているステム方式、米国特許第3946398号明細書に記載されているサイロニクス方式のように、インク吐出の原動力を得るエネルギー作用部としてピエゾ素子を利用するドロップオンデマンド方式のインクジェット記録装置にも適用できるものである。特に、これらの方式の記録ヘッド部はサーマルインクジェット記録装置の記録ヘッド部よりも高価であるため、本発明を適用することによる効果はより一層大きくなる。
【0030】
また、上記各実施例においては、発熱体9の表面に対して垂直方向へインクを吐出させる所謂サイドシューター方式のインクジェット記録装置を例に挙げて説明したが、発熱体の表面に対して略平行にインクを吐出させる所謂エッジシューター方式のインクジェット記録装置においても適用できるものである。
【0031】
【発明の効果】
請求項1記載の発明は上述のように、インク吐出口と、このインク吐出口に連通するインク流路と、インクに作用するエネルギー作用部と、前記インク流路にインクを導くフィルターを備えたインク導入部とを有する記録ヘッド部と、該記録ヘッド部を搭載するキャリッジと、インクを含浸したインク吸収体を収納するとともに、前記記録ヘッド部へのインク供給部と内部を大気中に連通させる部分とを有し、前記インク供給部と内部を大気中に連通させる部分とは、前記記録ヘッド部への連結前は閉止体により閉止気密状態にされるとともに連結作業開始前に前記閉止体を除去することにより閉止気密状態を解除して使用状態とされ、かつ、前記記録ヘッド部の前記インク吐出口が形成された面と前記インク供給部の開口が形成された面とはほぼ平行となるように前記記録ヘッド部に分離可能に連結されたインク容器と、を備えたので、工場から出荷され、実際にプリンタに取り付けられて印字を行うまでの間は、インク容器は密閉状態に維持されるため、工場出荷後の過酷な条件にさらされてもインクの水分蒸発が発生したり、変質したりすることがなく、さらに、インクのこぼれやゴミなどの異物の混入を防止することができ、また、インク容器のインクがなくなったときに、インク容器を新たに交換するだけで高価な記録ヘッド部をキャリッジに取り付けたまま使用することができ、これにより、ランニングコストを低減することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の第一の実施の形態を示した縦断側面図である。
【図2】
その斜視図である。
【図3】
その分解斜視図である。
【図4】
ヘッドチップを拡大して示した斜視図である。
【図5】
その分解斜視図である。
【図6】
ヘッドチップにおける発熱体部の構造をさらに拡大して示した縦断正面図である。
【図7】
パイプ状部材と穴部との接続状態を拡大して示した縦断側面図である。
【図8】
微小開口とネジ蓋とを示した側面図である。
【図9】
キャリッジを示した斜視図である。
【図10】
記録ヘッドユニットをキャリッジに搭載した状態を示した縦断側面図である。
【図11】
本発明の第二の実施の形態におけるパイプ状部材と穴部との接続部の構造を示した縦断側面図である。
【図12】
そのパイプ状部材と穴部との接続状態を示した縦断側面図である。
【図13】
本発明の第三の実施の形態におけるインク容器に形成した突起部を折ることにより微小開口を形成する状態を示した縦断側面図である。
【符号の説明】
1 記録ヘッド部
2 インク容器
8 エネルギー作用部
16 インク流路
20 インク吐出口
22 インク吸収体
27 インク導入部
29 フィルター
30 内部を大気中に連通させる部分
31 閉止体
32 キャリッジ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-01-29 
出願番号 特願2001-39765(P2001-39765)
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B41J)
P 1 651・ 161- ZA (B41J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 藤本 義仁  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 中村 圭伸
津田 俊明
登録日 2002-05-10 
登録番号 特許第3306418号(P3306418)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 インクジェット記録装置  
代理人 小山 尚人  
代理人 柏木 慎史  
代理人 柏木 明  
代理人 柏木 慎史  
代理人 小山 尚人  
代理人 柏木 明  

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