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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A23K
審判 全部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否 無効とする。(申立て全部成立) A23K
管理番号 1098971
審判番号 審判1998-35127  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-03-31 
確定日 2004-07-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第1773618号「採肉養鶏用飼料添加物」の特許無効審判事件について、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第1773618号の請求項1〜4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第1773618号の請求項1〜4に係る発明は、平成1年12月25日に特許出願され、出願公告(特公平4-66533号)を経て平成5年7月14日に設定登録がなされ、本件無効審判の請求がなされ、該無効審判において平成10年12月15日付で特許を無効にする旨の審決が出され、その後、東京高等裁判所に出訴され、その間平成11年10月7日に願書に添付した明細書を訂正することについての訂正の審判(平成11年審判第39079号)が請求され、その訂正の審判は訂正を認める審決が確定したことによる審決取消の判決があり、さらに審理をすすめるなか、請求人から平成13年4月27日付けで意見書が提出され、平成14年2月22日に口頭審理が行われ、請求人から平成14年3月29日及び平成14年7月2日付けで上申書が、被請求人から平成14年4月24日付けで上申書が提出されたものである。
2.本件発明
本件請求項1〜4に係る発明は.上記訂正の審判の請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載されたとおりの、
「1.孵化後60日以内の採肉鶏の飼料に混合するものを杜仲の葉としたことを特徴とする採肉養鶏用飼料添加物。
2.孵化後60日以内の採肉鶏の飼料に混合するものが前記社仲の葉を加熱して乾燥させたものとしたことを特徴とする請求項1記載の採肉養鶏用飼料添加物。
3.前記杜仲の葉を加熱して乾燥させたものが粉末であることを特徴とする請求項2記載の採肉養鶏用飼料添加物。
4.孵化後60日以内の採肉鶏の飼料に混合するものが前記社仲の葉を煮て抽出したエキスとしたことを特徴とする請求項1記載の採肉養鶏用飼料添加物。」
である。
3.請求人の主張
請求人は、下記の証拠方法を提示し、本件請求項1に係る発明は甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、また、本件請求項2及び3に係る発明は甲第1〜4号証に記載された発明に基いて、本件請求項4に係る発明は甲第1〜3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項1〜4に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、上記訂正は特許法第126条第4項の規定に違反してされたものであり、その特許は、特許法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきものである旨上記意見書で主張する。
甲第1号証:特開昭52-28922号公報
甲第2号証:「東京新聞(1989年4月18日の夕刊)」第7頁
甲第3号証:昭和62年12月26日付和漢医薬学会発行の「和漢医薬学会誌第4巻第3号」第180〜第191頁
甲第4号証:1989年(平成元年)3月31日付「日本経済新聞」第29頁
甲第5号証:平成10年(ワ)第525号事件の「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」と当該事件の訴状の副本
甲第6号証:1987年10月12日株式会社岩波書店発行「岩波理化学辞典(第4版)」、31頁、49頁、1106〜1107頁及び1366頁
4.当審の判断
4-1.甲号各証記載の発明
甲第1号証には、動物用医薬配合物に関し、次の事項が記載されている。
「本発明の医薬配合物は.馬、牛などを筆頭に総ゆる家畜及び家禽の動物に対して、・・・顕著な薬効を呈する。」(1真下段右欄12〜18行)、
「本発明の医薬配合物は下記の生薬(しようやく)のうちの少なくとも1種を任意に選択して成る・・・ものである。しかして、これらの生薬を、それらの薬効などを考慮して、A、B及びCの群に分け、それらを任意組み合わせて配合物として成すこともできる」(2頁左上欄2〜8行)、
「C群:茯苓・・・杜仲、・・・五倍子及び厚朴。」(2頁右上欄1〜4行)、
「上記の生薬を用いるに当り、例えば浸液、抽出顆粒或は細末状に加工処理したもの、或は局方による「末」のもののいずれでもよい。」(2頁右上欄18〜20行)、
「剤型とは粉状、顆粒状、丸剤、及び水薬などである。」(2頁左下欄5〜6行)、
「従って動物の嗜好性に合うように生薬を順次加工し、動物飼料に混入するだけで規定量を与え得るようにした。」(2頁左下欄15〜17行)
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(a)「杜仲(とちゆう)の葉を樹皮の代用品として役立てようと・・・ニワトリで調べたところ、老化防止作用があることがわかり・・・年会で発表した。」
(b)「高橋教授らは、葉の老化防止作用を白色レグホンを使って調べた。白色レグホンは若いときはほとんど毎日卵を生み産卵率(毎日産卵は一〇〇%)は九〇一八〇%と高いが、老化が進むと六〇一四〇%に低下する。
実験では、ふ化後三百九十八日(人間では四十歳代に相当)の七羽に葉を五%混ぜたえさを与えたところ、産卵率が六〇%だったのに四週目から上昇し八〇%に回復した。葉を混ぜない別の七羽の方は五〇一四〇%と下降の一途をたどった。
解剖して筋肉と肝臓の組織を調べたところ、葉を食べた方はタンパク質が多く、組織が若く健全に保たれていた。血液中のコレステロールも葉を食べた方が少なかった。」
(c)「杜仲の葉に高価な朝鮮人参を二五%混ぜたミックスを与えたところ、筋肉中のタンパク質増強作用は、当然ながら葉のみを与えた場合を上回ったが朝鮮人参のみを与えた場合よりも強く現れ、不思議な相乗効果のあることが分かった。」
甲第3号証には、杜仲葉の研究として、次の事項が記載されている。
(d)「1kgの杜仲葉・・・粉末に蒸留水101を加え、100℃で3時間抽出、・・・水エキスを得た。」(181頁左欄23〜27行)、
(e)「衰弱ラットに杜仲葉水エキスを連続投与し、諸症状の改善効果および組織学的変化を検索した。」(181頁左欄13〜14行)、
(f)「1)肝臓の変化:・・・杜仲葉投与群のRNA量は対照群より有意に増加していたことから,肝機能の回復およびalbuminの合成と関連しているものと考えられる。」(189頁左欄22〜30行)、
(g)「杜仲葉水エキスは虚弱病態ラットに対し・・・肝臓におけるタンパク質合成および糖代謝機能の改善、・・・免疫機能および虚弱病態の改善等の作用を思わせる形態学的所見を得た。」(190頁左欄2〜7行)。
甲第4号証には、「杜仲は中国原産で、鉄やカルシウムなどミネラル成分を豊富に含む有用食物で、葉を乾燥させて焙煎すると甘い香りがたつ。ウーロン茶と異なりカフェインを含んでいないのが特徴で、新たな健康茶として東京のベンチャー企業などが中国から輸入販売している。」と記載されている。
甲第6号証には、「アミノ酸」、「アルブミン」、「物質代謝」及び「リボ核酸」についての説明が記載されている。
4-2.対比・判断
・請求項1について
まず、本件の請求項1に係る発明について検討すると、本件請求項1に係る発明において採肉鶏及び飼料の種類について限定がなく杜仲の葉の添加量について何ら限定されていないことは明らかである。また、「孵化後60日以内」とはその飼育期間であると認められる(平成14年2月22日付第1回口頭審理調書)。
以上を踏まえて、本件請求項1に係る発明と上記甲第2号証に記載された発明とを対比すると、両者は、鶏の飼料に混合するものを杜仲の葉とした養鶏用飼料添加物で一致しているが、杜仲の葉を混合するのが、本件の請求項1に係る発明では、「孵化後60日以内の採肉鶏の飼料」であるのに対し、甲第2号証記載の発明では、「孵化後398日以降の採卵用の白色レグホンの飼料」である点で構成が相違しているものと認められる。
上記相違点について検討する。
甲第2号証には、杜仲の葉の老化防止作用を調べるために、ふ化後398日以降の採卵用の白色レグホンにおいて、七羽には杜仲の葉を5%混ぜたえさを与え、別の七羽には杜仲の葉を混ぜないえさを与えたところ、杜仲の葉を与えた七羽は、産卵率60%だったのが4週目から上昇し80%に回復し、杜仲の葉を与えない別の七羽の方は産卵率が50〜40%と下降し、これらの白色レグホンを解剖すると、杜仲の葉を与えた方は、杜仲の葉を与えない方よりも、タンパク質が多く、組織が若く健全に保たれていて、血液中のコレステロールも少なかったということが記載されている。
上記の記載により、孵化後60日以内の採肉鶏の飼料として杜仲の葉を混合したものを採用することが容易であるか否かについて検討する。
鶏の肉や、卵の質等を改善するために鶏用飼料の配合割合や添加物などを工夫することは当業者が日常的に行っている改善行動である。 しかも、 鶏用飼料に混合する添加物が、鶏の肉や、卵の質の双方を改善するための役割を持つことも一般的に周知(特開昭63-98361号公報(周知例1)、特開昭63-192349号公報(周知例2))のことである。
また、血液中のコレステロールの量はその肉と脂肪の比に影響を与えることも周知(鶏においても上記周知例2(特に、6ページ右上欄7行〜同左下欄6行参照))であり、上記甲第2号証には、杜仲の葉を与えた方は、杜仲の葉を与えない方よりも、タンパク質が多いということも記載されている。
そして、鶏肉中のタンパク質が多くなれば鶏肉の弾力性等にも影響し、歯ごたえや食味などが異なってくるであろうことは当業者にとって当然予測されることである。
そうすると、上記甲第2号証に、杜仲の葉を与えた方は、杜仲の葉を与えない方よりも、タンパク質が多く、組織が若く健全に保たれていて、血液中のコレステロールも少なかったということが記載されている以上、当業者が採肉用の鶏の飼料の添加物として、上記周知事項を考慮して杜仲の葉を採用しようとすることは当業者が容易になし得ることというべきである。
なお、鶏肉の食味などを調査するのに官能検査を採用して確認することは周知(上記周知例1)であり、請求項1に係る発明は杜仲の葉を採肉用の鶏の飼料の添加物として採用し、60日後にその食味などを上記官能検査により確認したものであって、上記甲第2号証の記載から当業者が採肉鶏についても食味などについても良くなる可能性があること、又は少なくとも食味などに影響があることが当業者に予測される以上、請求項1に係る発明のように60日以内の採肉鶏の飼料の添加物として杜仲の葉を採用することに当業者が格別の困難性を伴ったということはできない。
被請求人は平成14年2月22日付の口頭審理陳述要領書において、「甲第2号証の新聞記事の実験結果を詳細に発表した本件発明者らの研究論文を証拠として提示すると共に、その際冷凍保存されていた採卵鶏の鶏肉を用いて官能試験によりその肉質の良し悪しを評価した実験報告書を証拠として提出した。この実験報告によると、杜仲葉投与により老採卵鶏のタンパク質の量が増えたが、肉質は何ら改善されていない事実が判明した。」(4頁下から2行〜5頁3行)として、乙第3号証(実験報告書)を提出するとともに、この乙第3号証(産卵鶏の加齢変化に対する杜仲葉の長期投与の影響“その肉質の官能試験について”平成11年5月22日 作成者谷本信也 高橋周七)の試験に用いられている産卵の最盛期を過ぎた老雌鶏(398日令、白色レグホン・・23週間の長期渡って杜仲葉を投与、559日令に達した老産卵鶏)の肉質について、「この甲第2号証の実験に供され冷凍保存されていた老産卵鶏の肉片について、官能試験によりその肉質が改善されたか否かを調べてみたが、タンパク質が増加してもその肉質は何ら改善されていなかった」(同8頁3〜5行)と主張している。
しかしながら、乙第3号証の試験において、官能試験に供された鶏肉片は、社仲の葉を混合した飼料を与えられた鶏、与えられなかった鶏のいずれも、甲第2号証(1989年4月18日付東京新聞の記事)に記載された試験で使用されたものであって、その後約10年の長期にわたって冷凍保存されていたものである。
このように長期にわたって冷凍保存された肉片は、その肉質の劣化が進行しているものと推認されるから,そのような状態において試験された鶏肉片の肉質が、杜仲の葉を混合した飼料を、与えられた鶏のものと、与えられなかった鶏のものとの間で、大差ないとしても、このことをもって、甲第2号証に記載の試験に供された鶏肉片が、甲第2号証に記載の試験時において、その肉質に差がなかったことが証明されるものではない。しかも、該肉片は、通常の採肉鶏とは異なり、商業用の食肉としては供されない加齢が進んだ鶏であることを考慮すれば、肉質の官能試験において加齢の影響がはるかに大きく出ることも予測されることである。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
・請求項2、3に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明における飼料に混合する杜仲の葉を、加熱乾燥させたものに限定し、請求項3に係る発明はこの請求項2に係る発明の杜仲の葉を更に粉末にしたものであるが、杜仲の葉においても甲第4号証にみられる如く葉を乾燥焙煎することが周知であり、しかも、飼料への配合形態を検討する際、その動物の嗜好性を考慮することは当業者が当然に留意すべき程度の事項(甲第1号証刊行物の上記摘示事項参照)であるので、杜仲の葉を加熱乾燥させたものとしたり、更にそれを粉末にしたりすることは当業者が格別困難なこととすることはできない。また、上記のように構成する点に格別の効果を認めることができない。
・請求項4に係る発明について
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明における飼料に混合する杜仲の葉を、煮て抽出したエキスとしたものであるが、このように杜仲の葉を、煮て抽出したエキスとすることは甲第3号証に記載されている如く既に知られており、飼料への配合形態を検討する際、その動物の嗜好性を考慮することは当業者が当然に留意すべき程度の事項(甲第1号証刊行物の上記摘示事項参照)であるので、杜仲の葉を、煮て抽出したエキスとしたものを採用することは当業者が格別困難なこととすることはできない。また、上記のように構成する点に格別の効果を認めることができない。
5.むすび
以上のとおりであるから、請求項1〜4に係る発明は甲第1〜4号証記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、上記訂正は特許法第126条第4項の規定に違反してされたものである。
よって、その特許は、特許法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきものである。
なお、被請求人は、答弁書において被請求人の主張事実を立証するために当事者尋問を申請しているが、当該申請書に記載されている尋問事項からすると、何らかの事実を立証するためのものではなく、被請求人の答弁書等における主張を更に述べるにとどまるものと認められ、しかも、このような主張を述べる機会は平成14年2月22日付の口頭審理によって設けられているものであるから、当事者尋問を行う必要性は認められない。
 
審理終結日 1998-11-24 
結審通知日 1998-11-24 
審決日 1998-12-15 
出願番号 特願平1-332974
審決分類 P 1 112・ 831- Z (A23K)
P 1 112・ 121- Z (A23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 徳廣 正道  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 二宮 千久
鈴木 寛治
登録日 1993-07-14 
登録番号 特許第1773618号(P1773618)
発明の名称 採肉養鶏用飼料添加物  
代理人 井上 重三  
代理人 河野 茂夫  
代理人 鎌田 久男  
代理人 鈴木 秀雄  
代理人 鈴木 秀雄  
代理人 井上 重三  
代理人 河野 茂夫  
代理人 鎌田 久男  

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