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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない A41C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 無効としない A41C
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 無効としない A41C
管理番号 1099188
審判番号 無効2002-35068  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-06-08 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-02-25 
確定日 2004-07-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第3207808号発明「タックステッチメッシュによって形成されたガードル及びタイツ用ガードル」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3207808号発明は、平成10年8月5日(優先権主張1997年10月14日、イタリア)の出願であって、平成13年7月6日に設定の登録がなされ(請求項の数5)、平成14年2月25日付けで株式会社かりん(以下、「請求人」という。)より無効審判の請求がなされ、被請求人・カルツィフィチョ ピネッリ ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータから平成14年10月2日付けで答弁書が提出され、平成15年1月30日の口頭審理において請求人及び被請求人は提出した陳述要領書の内容を陳述し、請求人と被請求人の主張の整理がなされ、審理を終結したものである。

2.本件発明
2-1.本件の請求項1乃至5に係る発明は、特許明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
A.臀部、尻、及び腿を包む領域を有し、該領域が、適度な圧縮を生じ、
B.かくして、臀部、尻、及び腿にマッサージ作用と爽快作用を生ずる
ように、
C.平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有する
D.タックステッチメッシュによって形成された
E.ガードル。
【請求項2】
F.パンティと伸縮性ストッキングの、腿の部分を覆う最初の部分とで
構成する領域がタックステッチメッシュによって形成され、
G.該タックステッチメッシュは、適度な圧縮を生じ、
H.かくして、ガードルに包まれた臀部、尻、及び腿にマッサージ作用
と爽快作用を生ずるように、
I.平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するメッ
シュが得られるように形成されたことを特徴とする
J.タイツ用ガードル。
【請求項3】
K.前記ガードルと、前記ストッキングの最初の部分は、股部まで縦に
切断され、次いで、縫い付けによって組み立てられる2つの同一の管
状本体から形成されたことを特徴とする、
請求項2に記載のタイツ用ガードル。
【請求項4】
L.組み立てられたガードルは、臀部、尻、及び腿にくっ付く管状部分
に突き出た交互の波形を有するタックステッチメッシュを備えた構造 を有し、
M.前方部分の、少なくとも腹部に、前記交互の波形に較べて低く隆起
し、編物の表面に斜め、又は同様な向きの波形を有するタックステッ
チメッシュを備えたことを特徴とする、
請求項2又は請求項3に記載のタイツ用ガードル。
【請求項5】
N.ガードルを構成する管状本体の上部には、ウエストバンドとして、
平ステッチメッシュで作られた環状の弾性縁が備わっていることを特
徴とする、
請求項2乃至請求項4に記載のタイツ用ガードル。」
(符号A〜Nは、便宜上当審で付した。)
2-2.請求項1乃至5に係る発明は、上記のものと認定できるが、「交互の波形」という用語からは必ずしも一義的にその構成を特定することができず、「タックステッチメッシュ」という用語から把握される構成は、日本国における業界用語や学術用語として使用されているものと、被請求人の認識するものとの間に差異があるとの主張(答弁書11頁9〜25行、及び口頭審理での主張〈調書参照〉)があるので、請求項1乃至5に係る発明において、これらの用語から把握される構成を明確にするために以下検討する。
2-2-1.「交互の波形」について
発明の詳細な説明には、「交互の波形」は「斜めの波形」と対比するものとして記載されており(段落【0006】)、「交互の波形」については段落【0012】に図2を参照して、又「斜めの波形」については段落【0014】に図5を参照して、その具体的構成が記載されている。
まず、段落【0012】には、「図2は、メッシュA-A1の一側から突出する、隆起した波形3-3a他と、メッシュA-A1の反対側から突出する、互い違いの逆の波形4-4a」との記載があり、図2をみると、編み面の表面上にジグザグ状の波形があり、更に編み面の上面及び下面のそれぞれに突出した横方向に連続する襞状の波形が示されている。
一方、段落【0014】には、「図5に示すように……隆起した波形11b-11c他は、……メッシュの一側にのみ備わっており」との記載があり、図5をみると、編み面の(図面視)下面にのみ突出した横方向に連続する襞状の波形が示されている。
以上の記載から、「斜めの波形」が編み面の断面視のみにおいて波形を有するものであるのに対し、「交互の波形」は更に編み面の平面視においても波形を有するもの、すなわち、請求項1乃至5に係る発明における「交互の波形」は、編み面の平面視及び断面視の両者において波形がある構成と特定できる。
なお、上記のように「交互の波形」を解釈することについては被請求人の答弁書及び口頭審理における主張と一致する。
2-2-2.「タックステッチメッシュ」について
本件発明に係るガードルが「タックステッチメッシュ」によって形成されたものであることは、発明の詳細な説明に一貫して記載されており、「交互の波形」及び「斜めの波形」の部分も含めて他の編み方により形成されていると解される記載はない。そして、請求項1乃至5にも「タックステッチメッシュ」によって形成されたものであることが明記されている。
ここで、「タックステッチメッシュ」のうち「メッシュ」は「網目」であることが明らかであるので、「タックステッチ」という用語が意味する構成を検討すると、日本国における業界用語や学術用語として使用されている「タックステッチ」とは「タック編」のことであり、「タック編」の具体的構成は、請求人提出の甲第8号証の57頁の「4)タック編」及び「II-44図タック編(裏面)」に記載されているように、「根元に持っていたわなと前面に溜め込んだわなとが一緒にかかる」ことにより編み目が形成されるものである。同部分には「タック編」の後に「tuck stitch」との英語表記があり、「タックステッチ」が「タック編」を意味することが、日本国に限られたことではないことが理解できる。
したがって、請求項1乃至5に係る発明におけるガードルは、日本国において「タック編」という用語から一般的に理解される上記構成を有するものに特定される。
被請求人は、本件発明の「タックステッチメッシュ」は「交互の波形によって編物の表面にかなりの起伏を与えることができるもの」として定義されているとみなすことができ(段落【0016】の記載を根拠とする。)、「タック編」以外に他の編み方で置換することも可能であると主張するが(答弁書11頁9〜25行)、本件明細書には請求項1乃至5に係る発明が「タックステッチメッシュ」以外の編み方により形成されるものであると解する記載はなく、この主張は採用できない。

3.請求人の主張
請求人は「特許第3207808号の請求項1乃至5に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、下記の甲第1乃至8号証を提出し、その理由として、(1)請求項1乃至5に係る発明は、甲第1乃至7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり(無効理由1)、(2)明細書の記載に不備があるから、特許法第36条第4項及び第6項の規定により特許を受けることができないものである(無効理由2)ので、当該特許は特許法第123条第1項第2号及び第4号の規定により無効とすべきである旨主張している。
・甲第1号証 実願平4-16293号
(実開平5-66004号)のCD-ROM
・甲第2号証 特開平5-125601号公報
・甲第3号証 特開平9-31707号公報
・甲第4号証 米国特許第3094856号明細書
・甲第5号証 米国特許第3013420号明細書
・甲第6号証 実願平5-44717号
(実開平7-12410号)のCD-ROM
・甲第7号証 実願昭58-68445号
(実開昭59-172711号)のマイクロフィルム
・甲第8号証 「新しい繊維の知識」吉川和志著 株式会社鎌倉書房
昭和54年11月15日(四刷増補版)発行

4.被請求人の主張
被請求人は答弁書において、請求項1乃至5に係る発明は、甲第1乃至7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当せず、明細書の記載に不備はないから、特許法第36条第4項及び第6項の規定にも該当しないので当該特許は無効とされるべきではない旨反論している。

5.甲号証の記載事項
・甲第1号証
サポートタイプのパンティーストッキングに関する技術が示され、図面と共に以下の記載がある。
a.「パンティ下部の、左右の太もも部に連なる帯状領域が、3コース以上にまたがるタック目を互い違いに有するメッシュ編によって形成され」(【請求項1】及び段落【0005】)
b.「この考案は……サポートタイプであっても涼感効果に優れた夏期用パンティーストッキングの提供をその目的とする。」(段落【0004】)
c.「タック目Pが、図示のように互い違いに形成されてメッシュ編を構成しているため、編み生地に規則的な歪みを与え、適度な圧縮性を与える。そして、上記夕ツク目Pによる通気性とともに、タック目Pに囲まれた部分である未加工ナイロン糸4のプレーン編組織が、図4の模式図に示すように、タック目Pの歪みによって外側に突出した状態となるため、未加工ナイロン糸4が皮膚に張りつくことがなく、涼しい感触を与える。」(段落【0010】)
d.図4には、所定間隔おきのタック目Pの部分がその間のプレーン編組織(平メッシュの編み面)に対して内側に浮き上がり、これらタック目Pの部分とプレーン編組織の部分とが交互に内側と外側とに突出した構造が示されている。
・甲第2号証
ガードル機能をもつパンティストッキングに関する技術が示され、図面と共に以下の記載がある。
e.「パンティ部右側部分と右脚部が連続的に編成されてなる右半分とパンティ部左側部分と左脚部が連続的に編成されてなる左半分を縫い合わせてなるパンティストッキングにおいて、……パンティ部の平編み部分には、後中心から前中心にかけて斜めに昇っていく柄を形成しているウエルト編目および/またはタック編目を有していること」(【請求項1】及び段落【0007】)
f.「脚部の太股周辺には一部ウエルト編目および/またはタック編目が配されたコースの条件・編組織で編成される。」(段落【0009】)
g.「前記パンティ部は、……平編みの中にウエルト編目および/またはタック編目が配されたコース(以下、「ガードル部分」と言う)を有し、」(段落【0010】)
h.「黒塗り部分がタック編目である場合の図6の配置図のaで示されるパンティ部の編組織を図13に示した。」(段落【0016】。図6、図13参照。)
i.「この発明によれば、……パンティ部の平編み部分には、後中心から前中心にかけて斜めに昇っていく柄を形成しているウエルト編目および/またはタック編目を有している。……これにより、パンティ部にガードル機能、特にヒップアップ機能を持たせるようにしている。」(段落【0018】)
j.図13には平編み目と夕ツク編み目とを有する構造が示されている。
・甲第3号証
サポートタイプのパンティストッキングの編み構成に関する技術が示され、図面と共に以下の記載がある。
k.「パンティ後側部は、……タック編みを含ませた編み方により編むこと」(【請求項2】)
l.「パンティ部上側における上記前側部と後側部のつなぎ部を、夕ック編みを含ませた編み方としたこと」(【請求項3】)
m.「パンティ前側部12では、弾性糸B1,B3とナイロン糸B2が重なる部分50で、ナイロン糸B4がパイルとして裏側に形成されることとなり、1列おき、即ち1対1の割合でパイルが形成される。……また、パンティ後側部13では、弾性糸B1,B3とナイロン糸B2,B4によりプレーン編みされた列51と、ナイロン糸B2,B4がつまみ編みされて夕ック編みとされた列52とが交互に形成される。」(段落【0016】。図1、図5参照。)
・甲第4号証
メリヤス靴下の上部の編み組織構造に関する技術が示され(1欄9〜12行)、4欄17〜39行、4欄58〜70行、5欄48〜54行及び図4,図5、図13等に、これがニット及びタック編みを有する編み組織であること、ウェーブやうねを形成することが記載されている。
・甲第5号証
靴下の上部に用いられるような弾性の編地に関する技術が示され、1欄8〜30行に「縦の隆起」及び「横に隣接した一連の隆起」を有すること、「夕ック編み」を形成することが記載され、1欄65行〜2欄2行に「弾性織り糸か糸のどちらかが、タック編みを含むコースに境をつけながら、平編みのコースに織り込まれる」ことが記載されている。
さらに、2欄57〜63行に「タック編みが形成されたコースの数が、隆起の高さ及び長さを決定する」ことが記載されている。
また、図1、図3〜図5、図7〜図9、図11、図12に、平編み及びタック編みを含む編み組織が示され、図2、図6、図10に多数の隆起を有する外観形状が示されている。
・甲第6号証
メリヤス靴下に関するものが示され、図面と共に以下の記載がある。
n.「踵部4の編地が着用者の足部に適度の刺激を支え、かつ、通気性も有するように表面に適宜の凹凸を有する組織の編地とする。即ち2回タック総鹿の子編としている。」(段落【0015】)
o.「肌に触れる面が細かい凹凸状を呈するために、肌に刺激を与えマッサージ効果をも発揮する。」(段落【0022】)
・甲第7号証
パンツの編組織に関する技術が示され、図面と共に以下の記載がある。
p.「表地1と裏地2との間に……合成繊維ウーリー糸3を介入して適宜コースおきに表地1と裏地2とを接合4させて三重層の袋状編地6としたものである。……表地1と裏地2との収縮差により、又表地1と裏地2の組織の粗密差によって、裏地2の全面に亘って多数のウエーブ状の凹凸5を顕出せしめた」(4頁1〜10行)
q.「パンツの裏側即ち内部8は表側の生地1よりも編組織の密度を粗にしたものであるから弾性伸縮糸の収縮力と相俟ってパンツの内部8の全面に亘ってウエーブ状の凹凸部5が多数形成されるから肌に接するときの感じが極めてよく」(5頁4〜8行)
r.第1図及び第2図には、パンツの内部8全面に亘ってウェーブ状の凹凸部5が多数形成された構造が示されている。
・甲第8号証
「タック編(tuck stitch)」及び「浮き編(welt stitch、float stitch、miss stitch)」の構成及び編み方が図面と共に記載されている。(57・58頁)

6.無効理由についての当審の判断
6-1.無効理由1(特許法第29条第2項の規定違反)について
6-1-1.請求項1に係る発明について
甲第1号証が開示するパンティストッキングは、「パンティ下部の、左右の太もも部に連なる帯状領域が、3コース以上にまたがるタック目を互い違いに有するメッシュ編によって形成され」るものであり(記載a)、請求項1に係る発明のように「臀部、尻、及び腿を包む領域」を対象にしているものではない。
また、「3コース以上にまたがるタック目を互い違いに有するメッシュ編」は、所定間隔おきのタック目Pの部分がその間のプレーン編組織(平メッシュの編み面)に対して内側に浮き上がり、これらタック目Pの部分とプレーン編組織の部分とが交互に内側と外側とに突出した構造を有するが(記載d)、編み面には、節状の突起が多数形成されるにすぎず、請求項1に係る発明の、編み面の平面視及び断面視の両者において波形がある「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」とは構成を異にするものである。これは請求項1に係る発明が、マッサージ効果等を生じさせることを目的としているのに対し、甲第1号証記載のパンティストッキングは、特に汗ばみやすい足の付け根部分に相当する帯状領域における通気性がよく、涼感効果を得ることを目的としたものである(記載b)ことに起因する。
従って、甲第1号証は、請求項1に係る発明の構成Cの「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」を開示も示唆もしていない。
甲第2号証は、パンティ部の平編み部分に、後中心から前中心にかけて斜めに昇っていく柄を形成している、タック編目を有しているパンティストッキングを開示している(記載e)。このタック編目は、「あや織の斜文組織」と呼ばれる柄であり(段落【0013】)、このタック編目によってパンティ部にガードル機能、特にヒップアップ機能を持たせるものであって(記載i)、請求項1に係る発明の、マッサージ機能を生じさせるためのものではない。すなわち、甲第2号証記載の発明は請求項1に係る発明とは課題を異にするものである。
以上のとおり、甲第1号証は、請求項1に係る発明の構成C「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」を開示も示唆もせず、このような甲第1号証記載の発明を、単なる「タック編目」が形成される、「パンティ部及び脚部の太股周辺」を開示する甲第2号証記載の発明と組み合わせても、請求項1に係る発明に至ることはできない。。
甲第3号証は、パンティ後側部のつなぎ部をタック編みとしてずり落ち防止を確実にすること、甲第4号証及び甲第5号証は、靴下上部にタック編みを施すことを開示し、又、甲第5号証には、「タック編みが形成されたコースの数が、隆起の高さ及び長さを決定する」と記載され、タック編み方法が従来公知であることを開示している。
しかしながら、これら甲第3乃至5号証は、ずり落ち防止として使用される従来の単なる「タック編」および「その編み方」を開示するに過ぎず、請求項1に係る発明の構成C、Dの「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」について開示するものではない。
甲第6号証は、メリヤス靴下に関して「2回タック総鹿の子編み」を開示しているが、この「2回タック総鹿の子編み」も、まだら模様に凹凸を形成するものであって、請求項1に係る発明の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」とは構成が異なり、請求項1に係る発明の構成Cを開示するものではない。
そして、甲第7号証には、パンツの裏地等に凹凸を持たせることで肌に接するときの感じを良くすることができる点が記載されているが、甲第7号証の「ウエーブ状の凹凸5」は、表地と裏地との間に合成繊維ウーリー糸を介入させて三重層の袋状編地とし、表地と裏地との収縮差により、又、表地と裏地の組織の粗密差により、裏地の全面に亘って形成させるものであって、請求項1に係る発明の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」とは構成を異し、甲第7号も本件請求項1に係る発明の構成Cを開示するものではない。
従って、請求項1に係る発明は甲第3乃至7号証に開示された技術的事項に基づき、当業者が容易に想到し得たものではない。
以上のとおりであるので、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない
6-1-2.請求項2乃至5に係る発明について
請求項2乃至5に係る発明は、いずれも請求項1に係る発明の構成Cを有するものであるので、上記「6-1-1.請求項1に係る発明について」で述べたと同じ理由により、甲第1乃至7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではなく、請求項2乃至5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない
6-1-3.請求人の主張について
請求人は、「交互の波形」は編み面の断面視上面及び下面のそれぞれに突出した横方向に連続する襞状の波形であり、編み面の平面視においては波形を有するものではないとし(審判請求書7頁「(3)本件特許発明と証拠との対比」及び口頭審理での主張〈調書参照〉)、「交互の波形」が上記のような構成であるので、甲第1号証には本件請求項1に係る発明の構成Cが開示されていると主張する。
しかし、「交互の波形」は、上記「2-2-1.「交互の波形」について」で述べたように、編み面の平面視及び断面視の両者において波形がある構成と特定でき、このように構成を特定することに明細書の記載上何ら矛盾を生じることがないので、「交互の波形」についての請求人の解釈は採用できない。又、甲第1号証が請求項1に係る発明の構成Cを開示するものではないことは、「6-1-1.請求項1に係る発明について」に記載のとおりである。
6-2.無効理由2(特許法第36条第4項及び第6項の規定違反)につ
いて
(1)請求項における「マッサージ作用と爽快作用を生じるように」という事項は、特許を受けようとする発明の範囲を不明確にするものであり、特許法第36条第6項第2号の規定に違反する(無効理由2-1)、(2)請求項における「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」という事項は、発明の詳細な説明に具体的に構成が記載されておらず、発明の詳細な説明に記載された発明ではないので、特許法第36条第6項第1号の規定に違反する(無効理由2-2)、(3)発明の詳細な説明には、「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」に関する具体的構成が十分に開示されておらず、本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないので、特許法第36条第4項の規定に違反する(無効理由2-3)との請求人の主張について、以下検討する。
6-2-1.「無効理由2-1」について
「マッサージ作用と爽快作用を生じるように」という事項は、発明の作用・効果を示すものであり、発明を特定するために必要な事項ではない。しかし、発明の詳細な説明に、発明の構成要件である「交互の波形」によって、「着用している間、骨盤の運動中、隆起した波形領域の皮膚に対する摩擦を生じ、かくして、局所的な微少なマッサージを生じ、それ故、有益な爽快効果やリラックス効果を生ずる」と記載されており(段落【0016】)、着用者の皮膚に「適度な圧縮を生じ」(発明の構成要件)させるための手段が明確であるので、請求項に発明の構成によって奏される作用・効果が記載されていても、特許を受けようとする発明の範囲を特に不明確にするものではない。
6-2-2.「無効理由2-2」について
請求項における「交互の波形」及び「タックステッチメッシュ」は上記「2-2-1.「交互の波形」について」及び「2-2-2.「タックステッチメッシュ」について」で述べたとおり、それぞれ構成が特定されるものであり、「タックステッチメッシュ」自体の編組織の構成は当業者に広く知られたものである。そして、「タック編みが形成されたコースの数が、隆起の高さ及び長さを決定する」と甲第5号証(2欄57〜63行)に記載されているように、タック編みに種々の編み方があることも周知の事項である。
そうすると、請求項における「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」という事項について、発明の詳細な説明に編組織の具体的な構成が記載されていないとしても、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明ではないということはできない。
6-2-3.「無効理由2-3」について
上記「6-2-2.「無効理由2-2」について」で述べたとおり、「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」という事項について、発明の詳細な説明に具体的な構成が詳細に記載されていないとしても、当業者が実施することができないとすることはできない。
6-2-4.まとめ
従って、請求人主張の無効理由2は、いずれも請求項1乃至5に係る特許を取り消すほどのものではなく、請求項1乃至5に係る特許は特許法第36条第4項、第6項の規定に違反してなされたものではない。

7.むすび
以上のとおりであるので、請求人の主張及び証拠によっては、本件請求項1乃至5に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-02-24 
結審通知日 2003-02-27 
審決日 2003-03-11 
出願番号 特願平10-222163
審決分類 P 1 112・ 536- Y (A41C)
P 1 112・ 537- Y (A41C)
P 1 112・ 121- Y (A41C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植前 津子  
特許庁審判長 吉国 信雄
特許庁審判官 鈴木 美知子
山崎 豊
登録日 2001-07-06 
登録番号 特許第3207808号(P3207808)
発明の名称 タックステッチメッシュによって形成されたガードル及びタイツ用ガードル  
代理人 小谷 悦司  
代理人 樋口 次郎  
代理人 長門 侃二  
代理人 植木 久一  

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