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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない B66C
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正しない B66C
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない B66C
管理番号 1099335
審判番号 訂正2001-39137  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1986-01-08 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2001-08-24 
確定日 2004-06-30 
事件の表示 特許第2129544号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第2129544号(昭和59年6月13日特許出願、平成6年11月9日出願公告、平成9年5月16日設定登録)の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)及び図面を審判請求書に添付した訂正明細書及び図面のとおりに、すなわち、以下a〜kのとおりに訂正することを求めるものである。

a.本件特許明細書の特許請求の範囲に記載される、
「【請求項1】ジブの格納時には、その基端をブームの先端側に、また先端をブーム基端側にそれぞれ向けた状態でジブをブームの側面に沿わせて格納し、上記ジブの使用時には、ジブを上記ブームの側面から下面側に移し替えた後に上記ジブの基端をブームの先端部に支持させてジブ基端を中心にジブを回動させることによりブーム前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、
ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に、枢軸可能に取付けられたジブホルダと、
上記ブームに設けられ、上記ジブと着脱可能な上記ジブホルダを枢動する駆動シリンダと、
上記ブームに設けられ、上記ジブホルダをロック可能とする部材とを、
備えたことを特徴とする車両形クレーンのジブ格納装置。」(本件特許の出願公告公報第1欄2行〜第2欄1行を参照)を、
「【請求項1】ジブの格納時には、その基端をブームの先端側に、また先端をブーム基端側にそれぞれ向けた状態でジブをブームの側面に沿わせて格納し、上記ジブの使用時には、ジブを上記ブームの側面から下面側に移し替えた後に上記ジブの基端をブームの先端部に支持させてジブ基端を中心にジブを回動させることによりブーム前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、
ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に、枢動可能に取付けられ、上記ジブの重心より基端側でかつ重心近傍を保持するジブホルダと、
上記ブームに設けられ、上記ジブと着脱可能な上記ジブホルダを枢動する駆動シリンダと、
上記ブームに設けられ、上記ジブホルダを、当該ジブホルダにより保持したジブの、前記ブームの側面側の横抱き位置においてロック可能とする部材とを、
備えたことを特徴とする車両形クレーンのジブ格納装置。」と訂正する。

b.本件特許明細書の[課題を解決するための手段]に記載される、
「ジブの格納時には、その基端をブームの先端側に、また先端をブーム基端側にそれぞれ向けた状態でジブをブームの側面に沿わせて格納し、上記ジブの使用時には、ジブを上記ブームの側面から下面側に移し替えた後に上記ジブの基端をブームの先端部に支持させてジブ基端を中心にジブを回動させることによりブーム前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、
ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に、枢軸可能に取付けられたジブホルダと、
上記ブームに設けられ、上記ジブと着脱可能な上記ジブホルダを枢動する駆動シリンダと、
上記ブームに設けられ、上記ジブホルダをロック可能とする部材とを、
備えたことを特徴とするものである。」(本件特許の出願公告公報第4欄40行〜第5欄3行を参照)を、
「ジブの格納時には、その基端をブームの先端側に、また先端をブーム基端側にそれぞれ向けた状態でジブをブームの側面に沿わせて格納し、上記ジブの使用時には、ジブを上記ブームの側面から下面側に移し替えた後に上記ジブの基端をブームの先端部に支持させてジブ基端を中心にジブを回動させることによりブーム前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、
ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に、枢動可能に取付けられ、上記ジブの重心より基端側でかつ重心近傍を保持するジブホルダと、
上記ブームに設けられ、上記ジブと着脱可能な上記ジブホルダを枢動する駆動シリンダと、
上記ブームに設けられ、上記ジブホルダを、当該ジブホルダにより保持したジブの、前記ブームの側面側の横抱き位置においてロック可能とする部材とを、
備えたことを特徴とするものである。」と訂正する。

c.本件特許明細書の[作用]に記載される、
「ジブホルダに保持させたジブ」(本件特許の出願公告公報第5欄12行〜13行を参照)を、
「ジブホルダに上記ジブの重心より基端側でかつ重心近傍を保持させたジブ」と訂正する。

d.本件特許明細書の[実施例]に記載される、
「ジブ10の基端側を保持するジブホルダ11」(本件特許の出願公告公報第5欄49行〜50行を参照)を、
「ジブ10の重心より基端側でかつ重心近傍を保持するジブホルダ11」と訂正する。

e.本件特許明細書の[実施例]に記載される、
「2段目ジブ19a」(本件特許の出願公告公報第6欄18行を参照)を、「2段目ジブ10a」と訂正する。
(なお、審判請求書「6ー3(5)訂正事項e」には、「二段目ジブ」と記載されているが、訂正明細書には「2段目ジブ」と記載されており、上記「二段目ジブ」との記載は「2段目ジブ」の誤記と認められる。)

f.本件特許明細書の[実施例]に記載される、
「軸孔43」(本件特許の出願公告公報第7欄39行及び第8欄11行を参照)を、
「軸孔43B」と訂正する。
(なお、審判請求書「6ー3(6)訂正事項f」には、「軸穴43」、「軸穴43B」と記載されているが、訂正明細書にはそれぞれ、「軸孔43」、「軸孔43B」と記載されており、上記「軸穴43」、「軸穴43B」との記載は「軸孔43」、「軸孔43B」の誤記と認められる。)

g.本件特許明細書の[実施例]に記載される、
「ジブ10の基端側を保持するジブホルダ11」(本件特許の出願公告公報第8欄26行を参照)を、
「ジブ10の重心より基端側でかつ重心近傍を保持するジブホルダ11」と訂正する。

h.本件特許明細書の[実施例]に記載される、
「ジブ11」(本件特許の出願公告公報第9欄50行及び第10欄3行を参照)を、
「ジブ10」と訂正する。

i.本件特許明細書の[実施例]に記載される、
「ジブホルダ10」(本件特許の出願公告公報第10欄19行を参照)を、「ジブホルダ11」と訂正する。

j.本件特許明細書の[発明の効果]に記載される、
「ジブにねじれ変形を生じさせることなく」(本件特許の出願公告公報第10欄39行参照)を、
「ジブの重心より基端側でかつ重心近傍を保持するジブホルダを駆動シリンダにより駆動するものであるから、ジブにねじれ変形を生じさせることなく」と訂正する。
(なお、審判請求書「6ー3(10)訂正事項j」には、「駆動操作」と記載されているが、訂正明細書には、「駆動」と記載されており、上記「駆動操作」との記載は「駆動」の誤記と認められる。)

k.本件特許図面【第10図】中におけるブラケット取付板16の軸孔部に記載される、
符号「43」を、符号「43B」と訂正する。

2.訂正拒絶の理由
一方、平成13年10月18日付けで通知した訂正の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
「(理由1)訂正事項a、b、c、d、g、jを含む、本件審判請求に係る明細書又は図面の訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではない。
(理由2)訂正後における請求項1に係る発明は、特開昭59-78094号公報(以下、「刊行物1」という。)又は特開昭59-57890号公報(以下、「刊行物2」という。)記載の発明、特開昭59-86591号公報(以下、「刊行物3」という。)記載の事項、及び、周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。」

3.理由1(新規事項)について
(1)請求人は、訂正事項a、b、c、d、g、jにより、「ジブホルダ」を「ジブの重心より基端側でかつ重心近傍を保持するジブホルダ」に限定しようとしている。
ところで、上記限定内容のうち、ジブホルダを「ジブの重心より基端側を保持する」ものに限定する事項は、願書に添附された明細書又は図面(以下、「特許明細書」という。)の「ジブ10の基端側を保持するジブホルダ11」との記載(出願公告公報第5欄49行〜50行を参照)及び「ホルダ取付け用ブラケット15・・・は、ジブ10の重心・・・をはさんでその基端側・・・に設けられている。」との記載(出願公告公報第6欄10行〜13行を参照)からみて、特許明細書に記載した事項の範囲内のものと認められるが、ジブホルダを「ジブの重心近傍を保持する」ものに限定する事項は、特許明細書には記載されていないから、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであるとは認めることができない。
なお、後者の事項につき、請求人は、以下(i)〜(iv)の旨を主張している。
(i)ジブの重心位置は、ジブ長さ方向の中心から格別大きく変位することのないのが通常である。その上、本件発明の実施例を示す図面、例えば、図1、3、11、12、14、15図を始め、ジブの基端部をジブホルダにより保持することを予定するものと見られるものの開示は全く見られない。以上のように、訂正事項a1による訂正は、いわば、その願書に添付された図面記載の実施例に即する様に限定したものである(審判請求書の「6-4(1)(1)ー1訂正事項a1について」を参照)。
(ii)訂正前明細書の第1〜3図には、ジブホルダ11をジブ10の長さ方向の中心近傍に設けたものが記載されており、乙第2〜4号証には、ジブの重心Gが各ジブの長さ方向の中心近傍にあるものとして記載されているから、訂正明細書第1〜3図記載のジブも長さ方向の中心近傍にその重心があるものと見て差し支えないというべきである(意見書の第7頁6行〜15行、同第11頁17行〜21行、同第12頁17行〜20行を参照)。
(iii)図面の記載は、原則として製図法に基づいて作成すべき旨特許法施行規則様式第30に規定されているから、図面は製図法に基づいて記載されていると見るのが相当である(上申書の5-4-5を参照)。
(iv)本件特許明細書の「ジブ10の基端側を保持するジブホルダ11」(出願公告公報第5欄49行〜50行を参照)、「ホルダ取付け用ブラケット15と・・・は、ジブ10の重心・・・をはさんでその基端側・・・に設けられている」(出願公告公報第6欄10行〜13行を参照)との記載等からみて、訂正前明細書記載のジブホルダは「ジブの重心より基端側を保持するジブホルダ」と解するのが相当であり、「ジブの重心より基端側を保持するジブホルダ」は、「ジブの重心より基端側でかつ重心近傍を保持するジブホルダ」と「ジブの重心より基端側でかつ重心近傍を超える基端側を保持するジブホルダ」の双方を含むから、前者のみに限定したことの明らかな訂正は、訂正前発明を実質変更するものでない(意見書の第13頁3行〜19行等を参照)。
そこで、これらの主張について検討するに、なるほど、本件の願書に添付した図面の【第1図】、【第3図】に、格納されたジブの中間点付近(【第1図】中A-A線が示された付近)にジブホルダが表示されていることが認められる。
ところで、ジブは、その基端部から先端部に向かって先細りになっているのが通常であって、乙第2〜4号証の特許図面において、ジブの重心Gが各ジブの長さ方向の中心近傍にあることが図示されているとしても、本件において、特許図面の一般的な意義からみて、本件の特許図面の長さの中心近傍の特定位置が重心の位置であることが記載されていたとする根拠とはならない。また、仮に本件の願書に添付した図面の中心近傍といえる特定の1点に重心があると認められたとしても、中心近傍が幅のある概念であるから、この幅を考慮すると、ジブホルダと重心との間にかなりの幅が生じることとなって、これを総称して「重心近傍」ということには無理がある。すなわち、特許図面は、特許発明の内容を理解するために補助的に使用されるものであって、設計図面ほど詳細かつ正確に記載される必要はないから、上記【第1図】、【第3図】は、ジブホルダ、ジブ支持用ブラケット、ジブ基端部、ジブ先端部間の相対的な位置関係を模式的に示すものに過ぎず、しかも、ジブの重心位置は【第1図】、【第3図】には示されていないから、ジブホルダがジブの重心近傍を保持することが、図面記載の実施例に記載されているとすることはできない。さらに、「ジブの重心より基端側でかつ重心近傍を保持するジブホルダ」は「ジブの重心より基端側を保持するジブホルダ」の下位概念ではあるが、下位概念であるからという理由だけでは、「ジブの重心より基端側でかつ重心近傍を保持するジブホルダ」が願書に添付した明細書又は図面に記載した事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出せるものであるということはできない。

(2)また、請求人は、訂正事項jにより、「ジブにねじれ変形を生じさせることなくその移し替えを行なうことができる」根拠として、「ジブの重心より基端側でかつ重心近傍を保持するジムホルダを駆動シリンダにより駆動するものである」ことを追加しようとしている。
ところで、本件特許明細書には、「ウインチの巻索を、ジブホルダとは別の箇所においてジブに掛止しているため、・・・、ジブを保持しているジブホルダが、ジブの引上げに対して抵抗となりながら回動することになり、そのため、ジブの索掛止部とジブホルダ装着部との間にねじりモーメントが作用して、ジブがねじれ変形してしまうという問題をもっていた。」(出願公告公報第4欄17行〜24行を参照)、「ジブホルダとは別の箇所でジブを引上げ駆動する場合のように、ジブにねじれモーメントが作用することはない。」(同第5欄28行〜30行を参照)と記載されているが、「ジブの重心より基端側でかつ重心近傍を保持するジムホルダを駆動シリンダにより駆動するものである」ことによって、ジブにねじれ変形を生じさせることなくその移し替えを行なうことができることは、本件特許明細書には記載されていなし、また、本件特許明細書に記載した事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出せない。
してみると、訂正事項jは、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであるとは認めることができない。

(3)したがって、訂正事項a、b、c、d、g、jを含む、本件審判請求に係る明細書又は図面の訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではない。

4.理由2(独立特許要件)について
(1)訂正発明
訂正明細書記載の発明(以下、「訂正発明」という。)の要旨は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであると認める。(「1.請求の要旨」の訂正事項aを参照)

(2)刊行物記載の発明
刊行物1には、
(イ)「この発明は、ブームの先端部両側面からそれぞれ軸を突設し、この軸回りにジブの回動を行つてその張り出しをなし、また格納する場合には一旦アームの下面に沿つてジブを支持した後、このジブをブームの下面から側面に沿つて引上げて格納するようにし、さらにはこのジブの引上げをクレーン自体の吊上げワイヤを利用して行うことを特徴とするものである。」(第2頁右上欄9行〜16行)、
(ロ)「第1図は車両形クレーンの全体を示し、・・・4は伸縮可能なブーム・・・を示す。そして、上記ブーム4の一側面4aにはこの一側面4aに沿つてジブ7が格納されており、このジブ7はブーム4に取り付けた支持機構8並びに支持アーム9により支持されている。」(第2頁右上欄19行〜同頁左下欄7行)、
(ハ)「支持機構8についてみれば、これはブーム4の先端側に設けられており、・・・。すなわち、第4図中40はブーム4の一側面4aに固定されたベースであつて、このベース40の下端部には第1ブラケツト41が側方に突設されている。この第1ブラケツト41には第1リンク42および回動ピン43,44介して支持部材45が連結されており、この支持部材45は第4図で示した状態の場合、ブーム4の軸線に対し交差する方向にこのブーム4の下面に沿つて配置されている。・・・また、ブーム4下面の中央部には第2ブラケツト48が下方に突設されており、この第2ブラケツト48もまた第2リンク49および回動ピン50,51を介して支持部材45の他端側に連結されている。・・・なお、52、52は支持部材45に取着されたジブ7連結用の連結具である。」(第2頁右下欄11行〜第3頁左上欄16行)、
(ニ)「支持アーム9はブーム4の基端側に設けられており、・・・。すなわち、第8図中80は・・・ブーム4の一側面4aに固定されたベースであつて、このベース80の下端には支持アーム9が側方に突出されている。この支持アーム9は回動軸81を介して枢着されており、この第8図で示した状態から上方のみに回動可能となつている。また、支持アーム9の先端にはピン孔82が形成されており、このピン孔82は支持アーム9が90°上方に回動されると、上記ベース80側の固定ブラケツト83のピン孔84に合致されるようになつている。」(第3頁右上欄1行〜13行)、
(ホ)「ブーム4の一側面4aには引掛部材としての案内シーブ15が設けられている。・・・ジブ7の先端部には、その張り出し時において上記ブーム4の一側面4a側の側面に同じく引掛部材としての止め具18が設けられているとともに、その下面中央にも同じく吊上げワイヤ16の止め具19が設けられている。」(第3頁右上欄19行〜同頁左下欄14行)、
(ヘ)「85は、支持アーム9先端を固定ブラケツト83に固定する固定ピンであり」(第4頁右上欄7行〜9行)、
(ト)「格納時ブームの下面にジブがないことから、クレーン全体の重心位置を低くでき、しかも運転室からの視界を良好にできるものである。」(第5頁右上欄6行〜8行)
と記載されている。
ジブ7はその使用時に、ジブ基端を中心に回動を行つてブーム前方に張り出しを行うものであるから、ジブ7の格納時の支持手段である支持機構8及び支持アーム9はジブ7と着脱可能であることは自明である。
してみれば、上記(イ)〜(ト)の記載及び第1〜15図の記載からみて、刊行物1には、
「ジブ7の格納時には、その基端をブーム4の先端側に、また先端をブーム4基端側にそれぞれ向けた状態でジブ7をブーム4の側面に沿わせて格納し、上記ジブ7の使用時には、ジブ7を上記ブーム4の側面から下面側に移し替えた後に上記ジブ7の基端をブーム4の先端部に支持させてジブ7基端を中心にジブ7を回動させることによりブーム4前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、
ブーム4の先端側に、ジブ7の基端側を支持可能でかつこの支持したジブ7をブーム4の下面からブーム4の一側面に沿って引き上げ回動可能に枢着された支持機構8と、
ブーム4の基端側の一側面下部にブーム軸に沿わせて設けられた回動軸81に枢動可能に取付けられ、上記ジブ7の先端側を保持し、ジブ7と着脱可能な支持アーム9と、
上記ブーム4に設けられ、上記ジブ7を枢動する吊上げワイヤ16と、
上記ブーム4に設けられ、上記支持アーム9を、当該支持アーム9により保持したジブ7の、前記ブーム4の側面側の横抱き位置においてロック可能とする固定ピン85とを、
備えた車両形クレーンのジブ格納装置」の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

また、刊行物3には、
(チ)「この発明は、ブームの先端部両側面からそれぞれ軸を突設し、この軸回りにジブの回動を行ってその張り出しをなし、また格納する場合には一旦ブームの下面に沿ってジブを支持した後、このジブをブームの下面から一側面に引上げて格納するようにしたことを特徴とするものである。」(第2頁右上欄15行〜同頁左下欄1行)、
(リ)「ブーム3の下面に近接されるジブ7は案内レール19と案内部材としての案内ローラ20との組み合せおよびジブ受け部材21と係合部材22との組み合せにより支持される構造となっており、以下にその構成を説明する。まず、上記案内レール19はブーム3の先端側に取着されている。」(第3頁左上欄18行〜同頁右上欄4行)、
(ヌ)「第14図ないし第18図に示すようにあらかじめ案内ローラ20を案内レール19側に取り付けておき、この案内ローラ20に対してジブ7側の案内部材であるローラ軸20aを挿脱可能としてもよい。このようにすれば、電動ホイスト24のワイヤ24aを常時案内ローラ20のローラハウジング32に連結しておくことができ、このワイヤ24aの着脱作業を省略できる。」(第4頁右上欄17行〜同頁左下欄5行)、
(ル)「さらに引上げ機構は電動ホイスト24を用いるものに限らず、油圧シリンダ等でジブ7の引上げをなすようにしてもよい」(第4頁左下欄7行〜9行)
と記載されている。
これらの記載と、図面特に第14〜18図の記載とからみて、刊行物3には、
「ジブ7の格納時には、その基端をブーム3の先端側に、また先端をブーム3基端側にそれぞれ向けた状態でジブ7をブーム3の側面に沿わせて格納し、上記ジブ7の使用時には、ジブ7を上記ブーム3の側面から下面側に移し替えた後に上記ジブ7の基端をブーム3の先端部に支持させてジブ7基端を中心にジブ4を回動させることによりブーム3前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、
ブーム3の先端側にブーム3の下面側から側面にわたるように曲成された案内レール19に移動可能に取り付けられた案内ローラ20と、ジブ7に設けられ、上記案内ローラ20と挿脱可能なローラ軸20aと、
ブーム3に設けられ、上記案内ローラ20のローラハウジング32と連結されたワイヤ24aを巻き取る電動ホイスト24とを備えること」(以下、「刊行物3記載の事項A」という。)、及び、
「上記電動ホイスト24に代えて、油圧シリンダによりジブ7の引き上げをなしてもよいこと」(以下、「刊行物3記載の事項B」という。)
が、それぞれ記載されているものと認められる。

さらに、米国特許第4383616号明細書(以下、「刊行物4」という。)には、
「ブーム21の先端に取り付けられるジブ23の起伏操作用ペンダント・ライン53、53’を案内するブライドル・アッセンブリー55をブーム21の上面と側面との間で揺動させるための駆動手段としてシリンダ91を採用すること」が、
特開昭58-189492号公報(以下、「刊行物5」という。)には、
「さく孔機様ロツドチエンジヤーのロツド収納装置であり、ロツドRを着脱自在に保持するアーム3をシリンダ7によって軸5の周りで枢動させること」が、
実願昭57-53951号(実開昭58-156791号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物6」という。)には、
「さく岩装置のロッドチェンジャーであって、ロッドRを着脱自在に保持するアーム10a,10bをシリンダ14によって軸6、9のまわりで枢動させること」が、
米国特許第3771666号明細書(以下、「刊行物7」という。)には、
「貨物把持機構に関して、コイル102を着脱自在に保持する把握アーム71,72をシリンダ81,82によって軸70の周りで枢動させること」が、
それぞれ記載されているものと認められる。

(3)対比
訂正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「ジブ7」は前者の「ジブ」に、後者の「ブーム4」は前者の「ブーム」に、後者の「回動軸81」は前者の「支軸」に、それぞれ相当する。また、後者の「支持アーム9」は、ジブと着脱可能で、ブームの側面にブーム軸に沿わせて設けられた回動軸81(訂正発明の「支軸」)に枢動可能に取付けられ、ジブを保持するものであるから、前者の「ジブホルダ」というべきものであり、また、後者の「固定ピン85」は、ブームに設けられ、支持アーム9(訂正発明の「ジブホルダ」)を、当該支持アーム9(訂正発明の「ジブホルダ」)により保持したジブの、前記ブームの側面側の横抱き位置においてロック可能とするものであるから、前者の「ロック可能とする部材」というべきものである。そして、前者の「駆動シリンダ」及び後者の「吊上げワイヤ16」は、それらの機能からみて、ともに「ジブをブームの側面側及び下面側に移し替える手段」ともいうべきものである。
してみると、両者は、
「ジブの格納時には、その基端をブームの先端側に、また先端をブーム基端側にそれぞれ向けた状態でジブをブームの側面に沿わせて格納し、上記ジブの使用時には、ジブを上記ブームの側面から下面側に移し替えた後に上記ジブの基端をブームの先端部に支持させてジブ基端を中心にジブを回動させることによりブーム前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、
ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に、枢動可能に取付けられ、上記ジブを保持し、ジブと着脱可能なジブホルダと、
上記ブームに設けられ、ジブをブームの側面側及び下面側に移し替える手段と、
上記ブームに設けられ、上記ジブホルダを、当該ジブホルダにより保持したジブの、前記ブームの側面側の横抱き位置においてロック可能とする部材とを、
備えた車両形クレーンのジブ格納装置」で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】ジブホルダに関して、前者は、ジブの重心より基端側でかつ重心近傍を保持するのに対して、後者は、ジブの重心より基端側で保持するものか、重心近傍を保持するものかは不明である点。
【相違点2】ジブをブームの側面側及び下面側に移し替える手段に関して、前者は、ジブホルダを枢動する駆動シリンダであるのに対して、後者は、ジブホルダではなくジブを枢動する吊上げワイヤである点。

(4)当審の判断
【相違点1について】
刊行物3記載の事項Aにおける「案内ローラ20」は、ブーム3に設けられ、ジブ7に固設されたローラ軸20aと挿脱可能(訂正発明の「着脱可能」に相当)で、ジブ7を保持する機能を有するものであるから、訂正発明の「ジブホルダ」ともいいうる部材であり、しかも、その保持位置はブーム3の先端側すなわちジブ7の基端側である。一方、刊行物1記載の発明では、ジブホルダに相当する支持アーム9はジブ7の先端側を保持している。
以上のことからも窺えるように、ジブホルダの保持位置をジブの長さ方向のどこに設けるかは、ジブの長さ、剛性等を考慮しつつ、ジブの枢動作業を容易かつ効率的に行い得るように、当業者が適宜設定する事項であるというべきものである。また、部材を保持する場合、その重心近傍を保持すれば最も安定して保持し得ることは技術常識である。そして、ジブの長さ、剛性等に応じたジブの枢動作業の容易性、効率性を勘案して、ジブホルダの保持位置をジブの重心位置との関係で規定することは、当業者が容易になし得る程度の事項である。
してみると、刊行物1記載の発明において、相違点1に係る構成を訂正発明のように設けることは、当業者が容易になし得るものであるといわざるを得ない。

【相違点2について】
ジブをブームの側面側及び下面側に移し替える手段を、ジブではなくジブホルダに作用させることは、刊行物3記載の事項Aも備えている事項であり、また、該手段として、シリンダに替えることは、刊行物3記載の事項Bに示唆されている。
そして、部材を枢動する手段として、シリンダを用いることは、本件特許の出願前にさまざまな技術分野において周知の事項である(刊行物4〜7を参照)。
してみれば、相違点2に係る構成を訂正発明のように設けることは、刊行物1記載の発明、刊行物3記載の事項A、B、及び、周知の事項に基づいて当業者が容易になし得るものといわざるを得ない。

【作用効果について】
ジブにねじれ変形を生じさせることなくその移し替えを行なうことができるとの作用効果も含め、訂正発明の作用効果は、刊行物1記載の発明及び刊行物3記載の事項A、Bから、当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。

なお、請求人は、理由2に関して、以下(v)〜(Vii)の旨を主張している。
(v)刊行物1記載の発明の「支持機構8」、刊行物2記載の発明の「ジブガイド機構」が、それぞれ訂正発明における「ジブホルダ」に相当するものであり、上記両発明はともに、ジブホルダとは別な箇所でジブを引上げ駆動するものであるから、ジブにねじれモーメントが作用し(本件特許明細書、本件特許に係る無効審判平成9ー12277号の答弁書等を参照)、また、刊行物1〜3記載の発明はいずれも、ジブをその先端部及び基部との2箇所で保持するものであるから、ジブを回動させる際、支持されるジブ自体にかなりの捩れの生じることが明らかである(意見書の第18頁1行〜10行等を参照)。
(vi)刊行物1記載のブーム支持手段は、ジブ7の基部を支持する支持アーム9をクレーンのウインチによる吊上げワイヤ16で駆動することにより、ジブ7を回動させるものであるから、回動の際にねじれの発生が伴うばかりか、ブーム4の下面側に移し替えたジブ7をロックピンにより支持アーム9をブーム4に固定することなく振れ動かない状態に拘束することを期待できるものではない。後者の作用については、刊行物2、3記載の発明についても同様である(意見書の第17頁6行〜17行等を参照)。
(vii)刊行物4〜7記載の周知の事項は、刊行物1〜3記載のクレーンのジブ格納装置には係わりのないものであるから、両者を組み合わせるのは無理がある(意見書の第18頁24行〜27行等を参照)。
上記(v)につき検討するに、上述したとおり、刊行物1記載の発明の「支持アーム9」、刊行物2記載の発明の「腕状のブラケット17」が、それぞれ訂正発明における「ジブホルダ」に相当するものであって、しかも、その箇所でジブを引上げ駆動するものであるから、上記請求人の主張は採用できない。また、請求人は、刊行物1、2記載の発明は、ジブの保持部が2箇所ある旨の主張も行っているが、訂正発明において、ジブホルダ以外の箇所でジブを保持しないとの限定もないこと、訂正発明の実施例でも、ジブホルダ以外に「ジブ10の先端側を支持するジブ支持用のブラケット12」の箇所においても、ジブを保持していることからみて、該主張も採用できない。そして、ジブの引き上げを、電動ホイスト24に換えて油圧シリンダにより行うことが、刊行物3記載の事項Bとして刊行物3に示唆されている以上、上記の事項が刊行物1〜3のいずれにも記載も示唆もされていないことを前提とする請求人の(vi)に係る主張は採用できない。さらに、ジブの引き上げを、電動ホイスト24に換えて油圧シリンダにより行うことが刊行物3記載の事項Bとして示唆されており、また、部材を枢動する手段としてシリンダを用いることはさまざまな技術分野において周知の事項であるから、刊行物4〜7記載の周知の事項を刊行物1〜3記載のクレーンのジブ格納装置に適用することは、当業者が容易に想到し得るというべきであって、しかも、上記適用を妨げる特段の事情も窺えないから、請求人の(vii)に係る主張も採用できない。

(5)むすび
したがって、訂正発明は、刊行物1記載の発明、刊行物3記載の事項A、B、及び、周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項に違反するものであるから、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第134条第5項において準用する、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる旧法第126条第1項ただし書及び第3項の規定に違反するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-03-11 
結審通知日 2002-03-14 
審決日 2002-03-27 
出願番号 特願昭59-121515
審決分類 P 1 41・ 121- Z (B66C)
P 1 41・ 841- Z (B66C)
P 1 41・ 856- Z (B66C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 秋田 修  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 氏原 康宏
清田 栄章
亀井 孝志
舟木 進
登録日 1997-05-16 
登録番号 特許第2129544号(P2129544)
発明の名称 車両形クレーンのジブ格納装置  
代理人 御園生 芳行  

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