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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1099347
審判番号 不服2003-21406  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-05 
確定日 2004-07-01 
事件の表示 特願2002-114203「液体噴射記録装置、液体噴射記録ヘッド、サーマルインクジェット記録ヘッド、及び微粒子含有液体噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月29日出願公開、特開2003- 25586〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成11年4月12日の特願平11-104494号(優先日、平成10年7月21日、平成10年11月18日)の一部を、平成14年4月17日に新たな特許出願としたものであって、平成15年9月29日付けで拒絶がされたため、これを不服として平成15年11月5日付けで本件審判請求がされるとともに、平成15年11月20日付けで明細書についての手続補正がされた。当審において審理をした結果、平成15年11月20日付けの手続補正は却下された。


2.本願発明の認定
平成15年11月20日付けの手続補正が却下されたから、本願の請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、同年7月7日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項2】に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。(なお、「本願発明」と、却下された手続補正による補正後の請求項1に係る発明とは、開口の規定に関する表現が異なるのみであって、両者は同一の発明であるか、または、前者は後者に包含されるものである。)
本審決では、「発明を特定するための事項」という意味で「構成」という用語を用いることを予めことわっておく。

「液体に微粒子を分散させて記録液体とし、該記録液体を微細な開口面積を有する開口から吐出させ、被記録体に付着させて記録を行う液体噴射記録装置において、前記開口は樹脂部材に穴が形成されている開口であるとともにその開口径がΦ25μm以下であり、前記樹脂部材の硬さはロックウェルMスケールで65〜120であり、前記微粒子はその粒径が0.02μm〜0.2μmであることを特徴とする液体噴射記録装置。」


3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-188254号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、以下のア〜カの記載が図示とともにある。
ア.「1)インクジェット記録ヘッドの吐出口を形成するための貫通孔が設けられた板部材からなる吐出口プレートにおいて、該板部材が、M 50以上の硬度及び100kg/mm3以上の弾性率を有する樹脂材料を用いて形成されていることを特徴とする吐出口プレート。」(特許請求の範囲第1項)
イ.「請求項1〜3のいずれかに記載の吐出口プレートを有するインクジェット記録ヘッド。」(特許請求の範囲第4項)
ウ.「[従来の技術]インクジェット記録方式による記録は、記録用インク小滴を記録ヘッドの吐出口から吐出させることによって行われる。・・・1は、不図示のインクタンクからインクが流入してくるチップタンクで、2はチップタンク1の裏ブタである。3は溝付き天板、4はヒーターボードである。溝付き天板3には複数個の溝が並列に設けてあり、その溝とヒーターボードによりインクが流れる液路が形成されている。ヒーターボードには、インク滴吐出のための熱エネルギーを発生するエネルギー発生体が設けられている。5は複数個の溝に対応してそれと同数の微細孔(貫通孔)5aがあけてある吐出口プレートで、チップタンク1の面1aに取り付けてある。微細孔の径は通常20〜50μmである。インクは・・・吐出口プレート5の微細孔の外向面の開口(吐出口)から液滴となって吐出される。」(第1頁右下欄第9行〜第2頁左上欄第12行)
エ.「本発明の吐出口プレートは、その形成材料としての板部材にM 50以上の硬度・・・を有する樹脂からなるものが使用されていることに特徴を有する。」(第2頁左下欄第16行〜同欄第19行)
オ.「なお、本発明における「硬度」は、ロックウェルかたさにおける基準荷重W1を10kg、試験荷重W2を100kg、鋼球直径Dを6.35±0.0025mmとするMスケールを採用して測定した。」(第2頁右下欄第13行〜同欄第16行)
カ.条件を満たす具体的な材質として、硬度がM80のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、硬度がM88のポリエテルサルフォン(PES)、及び硬度がM100のポリイミド(PI)が例示されている。(第3頁左上欄第19行〜同頁左下欄第13行)


4.引用刊行物1に記載された発明の認定
上記記載事項ア〜カを含む引用刊行物1の記載によれば、インクジェット記録方式による記録に用いるインクジェット記録ヘッドについて記載されていることから、当該インクジェット記録ヘッドを有するインクジェット記録装置についての発明をも把握することができる。
また、上記インクジェット記録装置により記録される対象物を「被記録体」と、樹脂材料で形成された板部材を「樹脂部材」と呼ぶことができる。
さらに、記載事項オからみて、記載事項カに示された硬度の各数値は、ロックウェルMスケールであることが把握できる。
したがって、引用刊行物1には次の発明(以下「引用例発明1」という。)が記載されているということができる。

「インクを微細孔から吐出させ、被記録体に付着させて記録を行うインクジェット記録装置において、前記微細孔は樹脂部材に穴が形成されている微細孔であるとともにその径がΦ20〜50μmであり、前記樹脂部材の硬さはロックウェルMスケールで80、88、または100であるインクジェット記録装置。」


5.本願発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定
本願発明の「記録液体」と、引用刊行物1に記載された発明の「インク」とは、微細な孔から吐出させ被記録体に付着させて記録を行うための「記録用インク」である点で共通する。
また、引用刊行物1に記載された発明の「微細孔」は、本願発明の開口とほぼ同程度の微細な開口面積を有するものであって、かつ、当該微細孔からインクを吐出する機能を有しているから、この限りにおいて、本願発明の「開口」と相違しない。
さらに、引用刊行物1に記載された発明の「インクジェット記録装置」は、本願発明の「液体噴射記録装置」に相当する。
したがって、本願発明と、引用刊行物1に記載された発明のうち、微細孔の径がΦ20〜25μmのもの(以下「引用例発明1」という。)とを比較すると、両者は、「記録用インクを微細な開口面積を有する開口から吐出させ、被記録体に付着させて記録を行う液体噴射記録装置において、前記開口は樹脂部材に穴が形成されている開口であるとともにその開口径がΦ25μm以下であり、前記樹脂部材の硬さはロックウェルMスケールで65〜120である液体噴射記録装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:本願発明は記録用インクとして、粒径が「0.02μm〜0.2μm」の微粒子を液体に分散させて記録液体としたものを用いているのに対して、引用例発明1では、どのような記録用インクを用いるのかについて定かでない点


6.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
粒径が0.02μm〜0.2μmの微粒子を液体に分散させた記録液体とは、記録液体内に分散した微粒子の平均粒径が0.02μm〜0.2μmの範囲内にあることを意味するのか、微粒子の最小粒径が0.02μm以上であって最大粒径が0.2μm以下であることを意味するのか、あるいはその他のことを意味するのか、請求項2の記載のみでは判然としないが、本件明細書の段落【0130】に「遠心分離の条件を種々変えることによって顔料の平均粒径を0.02〜1μmまで変えた分散体D1〜D7を得た。この微分散液を、水,・・・にて希釈し、・・・インクジェット用インクM1〜M7を得た。・・・なお、平均粒径は、動的光散乱法による粒度分布測定装置ELS-800(大塚電子製)にて測定を行い、平均量は自己相関関数の初期勾配から得られる値で示した。・・・これらのインクM1〜M7と上記の吐出口径の異なるヘッドおよび吐出口部の材料の異なるヘッドと組み合わせて、1つの吐出口あたり、5×108滴となるようにし、128ノズル全てインク滴吐出させた。そして、吐出開始直後と終了後で、吐出口部に損傷,摩耗が生じ、その結果、インク滴吐出性能の劣化が生じているかどうかを調べた結果を、表11,表12,表13に記す。」と記載されており、かつ、【表11】〜【表13】に顔料粒径(すなわち顔料の平均粒径)が0.02μm〜0.2μmの範囲にあるインクM1〜M4と、ロックウェル硬さがM45〜M120の樹脂材料でノズル板が形成されたヘッドS1〜S11との組合せにおいては、いずれも、吐出口部の損傷や摩耗が見られず、0.2μmよりも大きい粒径の顔料を用いたインクM5〜M7とヘッドS1〜S11との組合せではいずれも、吐出口部の損傷や摩耗が見られるという結果が示されていることから、粒径が0.02μm〜0.2μmの微粒子を液体に分散させた記録液体とは、平均粒径が0.02μm〜0.2μmの範囲内にある顔料を分散させたインクを意味するものと解するのが自然である。(少なくとも、当該インクを包含するものと認められる。)
ここで、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-130558号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、「【発明が解決しようとする課題】以上のように、従来は染料或いは顔料を高沸点溶剤と水とで溶解、分解させて使用しているが、染料の場合は耐光性、耐水性に問題があり、顔料の場合は凝集の問題や沈降し易いといった問題があった。このように、顔料系のインクは染料系のインクに比べると、耐光性や耐水性の点では優れているが、水との親和性に劣るため顔料成分のインク液内での凝集や沈降が生じ易く、したがって、従来の顔料系インクをそのままインクジェットプリンタにおいて使用すると、インクジェットヘッドのノズル(オリフィス)からの吐出安定性に著しい障害を起こし、印字不良を生ずるという問題があった。この傾向は、熱エネルギを使うタイプでも、パルス圧力を使うタイプでもオリフィス周辺にインク残滓が生じ安定した吐出を妨げることによる。」(段落【0007】)、「顔料粒子の平均粒径が0.1μm以下であれば、目詰まりの発生は殆どない。更に安定した記録液を得るには、顔料粒子の平均粒径で50nm以下とするのが望ましい。」(段落【0012】)、「インクの顔料の粒子径が20nmと小さいものは、インクジェットヘッドのノズル径を20μm程度と小さくする。」(段落【0015】)、「ブラックの顔料の粒子径も20nm程度であるので、ブラックのノズル12Bのノズル径も20μm程度とする。」(段落【0022】)と記載されており、さらに、第6頁の【表2】には、インクジェットヘッドのノズルのノズル径が20μmのもので、ブラックの顔料の粒径が21nmの顔料インクを使用したときに、吐出するインク液滴の体積が41plであることが示されている。
すなわち、引用刊行物2には、20μmのノズル径を有するインクジェットヘッドにより、0.021μmの平均粒径を有するブラックの顔料を分散させたインクを用いて、吐出することが記載されているものであって、当該ノズル径は、上記引用例発明1の開口径の数値範囲内の値であることから、引用例発明1の液体噴射記録装置において、耐候性や耐水性を向上させるために顔料系の記録用インクを用いるとともに、顔料粒子による目詰まりを発生させないために、ノズル径が20μmのインクジェットヘッドを用い、上記顔料系の記録用インクとして、平均粒子径が0.021μmであるブラックの顔料を分散させた記録用インクを用いたモノクロ用液体噴射記録装置を構成することは、上記引用刊行物1及び2に接した当業者が容易に想到し得たことである。そして、当該顔料系の記録用インクは、上記相違点に関する本願発明の構成を充足するものである。
なお、「安定した液滴噴射が得られるとともに、開口部分の損傷、摩耗が皆無となり、液噴射性能の劣化がなくなり、長期にわたって安定した液滴噴射が得られるようになった。」という本願発明が有する効果は、当業者が容易に想到し得た上記発明が当然に有する効果であり、当業者が容易に予測し得る程度の効果にすぎない。

以上のとおり、相違点に係る本願発明の構成をなすことは当業者にとって想到容易であり、同構成による格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


7.むすび
本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-04-27 
結審通知日 2004-05-06 
審決日 2004-05-18 
出願番号 特願2002-114203(P2002-114203)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 砂川 克
特許庁審判官 津田 俊明
清水 康司
発明の名称 液体噴射記録装置、液体噴射記録ヘッド、サーマルインクジェット記録ヘッド、及び微粒子含有液体噴射装置  
代理人 高野 明近  

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