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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) G05D
管理番号 1099374
審判番号 審判1998-35381  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-10-17 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-08-20 
確定日 2004-04-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第2645851号発明「競争ゲーム装置及びその制御方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2645851号の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第2645851号に係る出願は、昭和63年4月9日に特許出願された特願昭63-86289号(以下「本件出願」という)であり、その特許についての設定登録が平成9年5月9日になされ、その後、その特許について、平成10年2月25日に株式会社ナムコ及び平成10年2月25日に株式会社タイトーよりそれぞれ特許異議の申立(平成10年異議第70882号)がなされ、平成10年7月14日に1回目の取消理由通知がなされ、平成10年9月16日に特許権者株式会社セガ・エンタープライゼス(その後「株式会社セガ」と名称変更。以下「被請求人」という)より1回目の訂正請求がなされ、平成11年7月30日に2回目の取消理由通知がなされ、平成11年9月29日に2回目の訂正請求がなされるとともに前記1回目の訂正請求が取り下げられ、平成11年11月25日付けで特許異議の決定(特許維持決定)がなされて、前記平成11年9月29日の訂正請求が既に確定しているものであるところ、前記特許異議の申立てに並行して、平成10年8月20日にコナミ株式会社(以下「請求人」という)より無効審判が請求され、平成12年10月26日に請求人より、平成11年9月29日の被請求人の訂正請求による訂正後の本件特許についても無効理由が成立する旨を主張する上申書が提出され、平成13年4月2日に被請求人より審判事件答弁書が提出され、平成13年6月22日に請求人より新たな無効理由と新たな証拠を追加する弁駁書が提出され、平成13年10月15日に被請求人より審判事件答弁書が提出されたものである。

第2 本件特許に係る発明
上記特許異議の決定の際に採用され、すでにその訂正が確定している平成11年9月29日の訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲には、
「【請求項1】 フィールドと、
前記フィールド上を走行する模型体と、
前記フィールドを挟んで反対側に位置し、前記模型体と磁気的に接続結合され、前記模型体を牽引する自走体と、
前記自走体上の少なくとも2点の位置を検出する位置検出手段と、
レース前に、時間と共に変化する前記模型体又は前記自走体の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段と、
前記位置検出手段による検出位置と前記目標位置とに基づいて、前記自走体の位置を前記目標位置に近づけるように前記自走体を制御する走行制御手段と
を有することを特徴とする競争ゲーム装置。
【請求項2】 フィールド上を走行する模型体を、前記フィールドを挟んで反対側に位置し、磁気的に接続結合された自走体により牽引する競争ゲーム装置の制御方法であって、
レース前に、時間と共に変化する前記模型体又は前記自走体の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算し、
前記模型体又は前記自走体上の少なくとも2点の位置を検出し、
前記位置検出手段による検出位置と前記目標位置とに基づいて、前記模型体又は前記自走体の位置を前記目標位置に近づけるように前記自走体を制御する
ことを特徴とする競争ゲーム装置の制御方法。」
が記載されている。
したがって、本件特許に係る発明は、平成11年9月29日に提出された前記2回目の訂正請求書に添付した訂正明細書及び図面の記載からみて、その訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載されたとおりのものと認める(以下請求項の順に「本件発明1」「本件発明2」といい、これらを総称するときには単に「本件発明」という)。

第3 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、平成10年8月20日付け審判請求書において「第2645851号特許を、請求項1に係る発明、請求項2に係る発明について無効にする、審判請求の費用は被請求人の負担とするとの審決を求める。」として、無効理由その1〜その3を主張するとともに、下記甲第1号証並びに本件特許出願前に頒布された下記甲第2号証(刊行物1)〜甲第8号証(刊行物7)を提出し、また、平成12年10月26日付け提出の上申書において、訂正後の本件特許についても前記無効理由その1〜その3が成立する旨を主張し、さらに、平成13年6月22日付け提出の弁駁書において、本件特許出願の公開特許公報である下記特開平1-259404号公報を追加提示するとともに、新たに3つの無効理由を追加主張している。

甲第1号証:本件特許第2645851号の特許掲載公報
甲第2号証:米国特許第2188619号明細書(以下「刊行物1」という)
甲第3号証:実願昭49-14153号(実開昭50-104785号)のマイクロフィルム(同「刊行物2」)
甲第4号証:実公昭55-46222号公報(同「刊行物3」)
甲第5号証:特開昭58-200177号公報(同「刊行物4」)
甲第6号証:特開昭60-153509号公報(同「刊行物5」)
甲第7号証:特開昭59-100915号公報(同「刊行物6」)
甲第8号証:特公昭52-38781号公報(同「刊行物7」)
特開平1-259404号公報(同「刊行物8」)

2.請求人が主張する上記無効理由の要点
以下においては、請求人が主張する無効理由その1〜その3を総合し簡潔にまとめた骨子を[無効理由1]として表記し、また新たに追加主張された3つの無効理由を[無効理由2][無効理由3][無効理由4]と表記する。
[無効理由1]:特許法第29条第2項の特許要件違反 本件発明1及び本件発明2は、甲第2号証(刊行物1)乃至甲第8号証(刊行物7)にそれぞれ記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものである。
したがって、特許法第123条第1項第2号に該当するから、本件特許は無効とされるべきである。
[無効理由2]:特許法第36条第4、5項の記載要件違反(訂正前明細書(特許明細書)の請求項1及び請求項2の記載不備) 訂正前明細書(特許明細書)には、模型体の位置検出手段についての技術の開示がないから、請求項1及び請求項2における模型体又は自走体の検出位置と演算された模型体又は自走体の期待目標位置とに基づいて、模型体とは別個の自走体の走行をどのようにして制御するのかについて、その具体的技術内容が不明である。
そうしてみると、本件特許出願の訂正前明細書(特許明細書)の請求項1及び請求項2は、特許法第36条第4、5項に規定する要件を満たしていないので、特許法第123条第1項第4号に該当するから、本件特許は無効とされるべきである。
[無効理由3]:訂正請求の特許法第120条の4第2項において準用する同法126条第2項の訂正要件違反(新規事項の追加) 平成11年9月29日の訂正請求に基づく訂正により、特許明細書の請求項1及び請求項2に付加された「レース前に、演算を行うこと」についての技術事項は、特許明細書にもとよりその記載がなく、「レース前に、」を付加する前記訂正は、新規事項の追加であるから、前記訂正は、特許法第120条の4第2項において準用する同法126条第2項に違反している。
したがって、特許法第123条第1項第8号に該当するから、本件特許は無効とされるべきである。
[無効理由4]:特許法第29条第2項の特許要件違反(特許法第40条違反[特許前の手続補正(平成8年12月2日付け)は明細書の要旨の変更]による出願日の繰り下がり) 特許前の上記平成8年12月2日付けの手続補正による請求項1の「時間と共に変化する前記模型体又は前記自走体の期待目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算し、前記位置検出手段による検出位置と前記期待目標位置とに基づいて、前記自走体の位置を前記期待目標位置に近づけるように前記自走体を制御する走行制御手段」及び請求項2の「時間と共に変化する前記模型体又は前記自走体の期待目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算し、前記位置検出手段による検出位置と前記期待目標位置とに基づいて、前記模型体又は前記自走体の位置を前記期待目標位置に近づけるように前記自走体を制御すること」の各記載は、出願当初の明細書又は図面に記載されていなかった事項であり、また、請求項1及び請求項2における「時間と共に変化する前記模型体又は前記自走体の期待目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算し、」の記載も、出願当初の明細書又は図面に記載されていなかった事項であるから、本件特許前にした平成8年12月2日付けでした手続補正は明細書の要旨を変更するものである。
そうすると、本件特許出願は特許法第40条に違反していることになり、本件出願の出願日は、平成8年12月2日付けの手続補正書を提出した日に繰り下がることになるから、本件発明は、本件特許出願の公開特許公報である上記刊行物8(特開平1-259404号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、特許法第123条第1項第2号に該当するから、本件特許は無効とされるべきである。

3.被請求人の主張
被請求人は、請求人の前記主張に対し、下記の証拠方法を提出するとともに、2度に亘る審判事件答弁書において「請求人主張の特許無効の理由は全て失当であるので、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張する。

乙第1号証:『アミューズメント産業1993・11』の「特集●新メダルゲーム機登場!今後、メダルゲーム機は?」の記事中の「144頁-155頁」(注:発行日を1993(平成5)年11月と推定するも、発行者は不明。)
添付資料1:「競争ゲーム装置の技術的変遷」(注:被請求人が作成した年表)

第4 当審の判断
1.刊行物1〜刊行物8の記載事項
刊行物1(甲第2号証)〔米国特許第2188619号明細書〕には、ELECTRICAL RACE TRACK に関し、図面とともに、甲第2号証に添付された訳文を参照すると、次の事項が記載されている。
「本発明は、レーシングゲームに関し、詳細には、複数の目標体がレースのコースを推進されるゲームに関する。
本発明の目的は、個々のオペレータにより駆動されるように設計されているが、レースの進行中に前記オペレータの完全な制御を受けない複数の形態を有するレーシングゲームを提供することである。
ほかの目的は、レーシングの目標体が電気的に推進され、手動で駆動される電気的手段により部分的に制御され、かつ、自動的に駆動される電気的手段により部分的に制御されるレーシングゲームを提供することである。
さらにほかの目的は、個々のオペレータの制御を受ける、モーターを備えている複数の電気駆動車(car)を有する電気的レーストラックを提供することであり、前記電気駆動車はまた、レーシング目標体をトラック上で前記駆動車で吸引し、これを移動する自動制御された電磁石を有する。さらに詳細には、本発明は、駆動車のモーターの速度を制御する、手動で作動される複数の加減抵抗器と、電磁石を流れる電流の強さを制御する、もう一組の自動で作動される複数の加減抵抗器とから成っている。従って、各オペレータは、オペレータの各駆動車の速度を制御することが出来る一方で、オペレータは、彼の駆動車の電磁石を流れる電流の強さを連続的に変化する加減抵抗器を制御しない。従って、その各レーシング目標体の電磁石の吸引が比較的に弱いとき、特に、駆動車がトラックのカーブ部分を通過しているとき、駆動車の速度が非常に速いならば、駆動車がレースから除外される可能性があるので、レースの勝利は、駆動車の速度により完全には支配されない。
さらにほかの目的は、電磁石を流れる電流を制御する前記もう一組の加減抵抗器を自動作動するモーター駆動のカムを提供することである。」(甲第2号証の1頁左欄1〜43行[訳文の1頁2行〜24行]参照)
「図1,2,および2aに関し、数字10は、一般に、本発明の電気的レーシングゲームを示す。このゲームは、脚12により適切に支持されたテーブルまたはケーシング11から成っている。見てお分かりのように、テーブルは、非金属の滑らかで薄い上部13、中間の棚14、およびベースまたは底部15から構成している。以降に詳細に説明するように、操作機構とレーシング器の幾つかの構成要素のすべては、上部13とベース15との間のケーシング12に収容されており、従って、隠蔽されて見えない。
数字16,17,および18は、それぞれがエンドレスのトラックを形成するように環状の、三つのトラックを表している。これらのトラックは単に表示されているだけで、すべての数字は、望むならば設定することが出来ることが理解されるであろう。トラックの真上に、トロリ集電レール19,20、21が、それぞれ各トラックに一つ配置されている。これらのレールは、上部13の下側に固定されており、以降に詳細に説明するように、トラックとレールは、電気回路の一部を形成するように構成されている。
図2,4,および5に関し、各トラックは、車輪24に支持されたフレーム22から成る駆動車22(car)を乗せるように設計されており、これらの車輪24は、その各トラックのレールと噛み合って乗るように設計されている。各駆動車は、駆動車の一組の車輪駆動するシャフト26の一つへ動作可能に接続されたモーター25を備えている。望むならば、モーターは、数組の車輪を駆動する両方のシャフトと連動させることが出来る。トロリ集電輪27は、その各トロリレールと噛み合って、動作可能に接触して保持されるように、フレーム23の前の上部分に取り付けられ、車輪が縁づけされている。トロリ集電輪27は、ヨーク部またはブラケット29に軸受けされているシャフト28へ固定されている。シャフト28の端は、フレーム23の反対側に形成された縦方向の開孔30を貫通している。コイルスプリング31が、ブラケット29の基部とフレーム23のクロスバー32との間に配置されており、ブラケット、シャフト、およびトロリ集電輪をその各トロリ集電レールと動作可能に噛み合うに垂直に押しつけている。ブラケット構造体とトロリ集電輪の運動は、シャフト28の端が開孔30内で滑動可能であるので、行われる。
電磁石33が、フレーム23の後ろの上端に取り付けられており、トロリ集電輪27へ電気的に接続されている。磁石は、望むならば、フランジの中心または前部に取り付けることが出来ることは理解されるであろう。見て分かるように(図5参照)、駆動車(car)22が各トラックに位置付けられると、電磁石の上端は、テーブルの上部13の下側に最も接近して配置され、起動されると、前記上部に支持された金属製目標体つまり図の姿状体(figure)34を、薄い非金属の上部13を通して吸引するように設計されている。これらの目標体は、どのような形状でもよく、この例では、レーシングカーの形を取っている。しかし、望むならば、各目標体は、競走馬、または、どのようなほかの従来のレーシング具を表現することが出来る。
図1、9および10に関し、各駆動車のモーター25の速度は、三つの加減抵抗器35,36および37の一つにより制御されるように設計されており、前記加減抵抗器は、制御レバー38,39および40をそれぞれ備えており、テーブルまたはケーシングの外側で、各種の駆動車を操作し、制御するオペレータが握るのに都合良い位置に取り付けられている。これらの加減抵抗器は単に図示されているだけであり、それらはすべての周知の構造であり、それぞれは、トラック16,17,および18へ電気的に接続され、これにより、レバーの操作は,駆動車22のモーター25の速度を制御する。」(甲第2号証の1頁右欄38行〜2頁左欄61行[訳文の2頁23行〜4頁11行]参照)
「この様に説明した構造により、駆動車の操作は、制御レバー38,39および40を操作するオペレータにより完全に制御される。しかし、数人のオペレータの制御から少し外れて、駆動車の操作を行うため、本発明者は、個々の駆動車の電磁石33を通る電流の強さを自動的に制御する手段を提供する。この制御は、各レースの最終結果が予測できないように、完全に自動化される。従って、本発明は、個々の駆動車の速度がオペレータの制御内にあることを可能にする手段を提供するように設計されている。しかし、この手動制御は、テーブル上部13上の目標体を移動する場合の電磁石の作用を自動的に制御する手段を備えることにより、補われる。この構成により、駆動車が曲線路を通過するとき、電磁石の一つを流れる電流がかなり弱いので、速度は単にレースの勝利を保証せず、遠心力が目標体34の一つを磁石との電気的接触から投げだし、従って、目標体のオペレータをレースから除くことが可能である。
電磁石を自動的に制御する手段は、もう一組の加減抵抗器52,53および54(図6,7参照)から成っている。これらの加減抵抗器は、駆動車22の磁石33を流れる電流を制御し、制御レバー55,56および57をそれぞれ備えている。これらの加減抵抗器とレバ-は、すべて、棚16とべース15との間に支持されたフレーム58に取り付けられている(図2aと9参照)。」(甲第2号証の2頁右欄10〜44行[訳文の4頁25行〜5頁12行]参照)
「この構造の場合、駆動車が、数本のトラック(図1参照)の指定されたスタート点に一直線に並ぶと、自動車34が、各磁石33の上の位置で上部板13の上に配置される。これらの磁石は、薄い上部板を通して自動車を吸引し、モーター25が起動されると、それらをテーブル上で搬送する。前述したように、個々のオペレータが、制御レバー38,39および40を手動で操作すると、駆動車22は、加減抵抗器のコイル上のレバーの動きに従って、各トラックの回りを進行する。同時に、モーター76の動きは、歯車70,71および72を回転し、これにより、各ピニオン64,65および65を回転する。これは偏心して取り付けられたカム61,62および63を回転し、これにより、レバー55,56および57をピボットの回りに回転し、従って、球状ライダー59を加減抵抗器52,53および54のコイル上で動かす。これは、磁石33を流れる電流の強さを変化する作用を行い、オペレータは、彼の駆動車の速度の制御を行う一方で、電磁石33により姿状体つまり自動車34へ加えられた磁気吸引を制御しない。」(甲第2号証の3頁右欄5〜15行[訳文の6頁14行〜6頁26行]参照)
「従って、レースの勝利は、駆動車が手動制御された加減抵抗器の操作により走行出来る位置に完全には依存されない。従って、各オペレータは、その駆動車の磁石の強さがいつも変化しており、オペレータが駆動車を時々余り速い速度にしているならば、オペレータが彼の駆動車をレースから投げ出す可能性があることを、各オペレータは考慮することが必要である。」(甲第2号証の3頁左欄21〜47行[訳文の7頁15行〜7頁19行]参照)等々

刊行物2(甲第3号証)〔実願昭49-14153号(実開昭50-104785号)のマイクロフィルム〕には、レース玩具に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。
「ゲーム盤上に載置した複数台の永久磁石付き走行体の該永久磁石を吸着する複数個の移動永久磁石を、ゲーム盤の裏面に公転可能に配置した回転腕の先端に自転可能に枢支した支持板に固着し、さらにゲーム盤の裏面であって、該支持板の公転軌跡上に前記移動永久磁石の当接する最長辺を有する移動永久磁石用の位置規制板を配置し、前記規制板の最長辺の先端(A)に移動永久磁石の任意の1個が位置したときにおける各移動永久磁石の真上位置であってゲーム盤上面にサークル表示を付したことを特徴とするレース玩具。」(1頁4〜14行)
「第1図はレース玩具1の斜視図で、2はゲーム盤3上に載置した複数台の永久磁石4付き走行体で、該永久磁石4はゲーム盤3の裏面に接して公転しかつ自転する移動永久磁石5に吸着されてゲーム盤3上を内側または外側寄りにずれながら円周コースを抜きつ抜かれつ走行してレース展開を行なうものであり、しかも各走行体2はゲーム盤3上のサークル表示25からスタートし、しかも順位は入れ変ってゴールするも、いずれも走行体2はサークル表示25の1着から4着までのどれかの位置で停止し、かつスタートするものである。そのための構造は後で順次説明する。前記走行体2は図示例では競輪選手を形どっているが、その他に競馬或いは自動車競争を行なうごとき形状としてもよく、少なくとも永久磁石4を有しているものであれば任意の形状にしてよい。」(3頁5行〜4頁5行)
「したがって、前記走行体2は単にゲーム盤3上を所定の円周コースを走行するだけでなく、コースを互いに内側または外側寄りに移動しながら互にぶつかり合うことなく、抜きつ抜かれつ走行する。しかも、前記移動永久磁石5の自転運動は不規則に行なわれる。つまり、固定板17と回転板23のそれぞれの環状壁21,24はいずれも偏心位置に設けてあるので、回転腕7が公転する際ベルト22に緊張,弛緩状態が生じ、緊張状態においては確実に回転板23、移動磁石5に自転運動が伝えられるが、弛緩状態においては、これらに殆んど自転運動が伝えられず、したがってベルト22のこのような緊張,弛緩により移動永久磁石5に不規則な自転運動を起こさせるのである。」(6頁15行〜7頁13行)等々

刊行物3(甲第4号証)〔実公昭55-46222号公報〕には、図面とともに、磁力駆動玩具に関し、次の事項が記載されている。
「本考案は、磁石を操作することにより、自由に盤上の物体を動かすことのできる玩具に関する。」(1欄27〜28行)
「第1図は、盤を二層に形成したものであり、磁石4は4’より磁力が弱く形成されており、その結果磁石4,4’による磁力は盤1の表面においてほぼ等しくなるようにする。その結果、物体5,5’の磁石6,6’にはほぼ等しい磁気吸引力が作用する。したがってロッド7,7’によって磁石4,4’を自由自在に操作できる。」(2欄2〜8行)
「第8図に第3の実施例を示す。これは、競馬ゲーム等、競争ゲーム盤であり、モーター(図示せず)等適当な動力により、回転する磁石が第1図と同様二層に設けられ、例えばそれぞれの回転中心をロッド7,7’によって動かす等して図示のごとく、コースを自由に選択できる。」(4欄18〜23行)等々

刊行物4(甲第5号証)〔特開昭58-200177号公報〕には、移動体の位置検出方法に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。
「本発明は、移動体の位置検出方法に関し、特に、自動車、船舶、航空機等の移動体の位置を自動的に測定し、移動体の自動運航や自動走行等に有効に利用され得る移動体の位置検出方法に関する。」(2頁右上欄8〜11行)
「こうして、移動体(V)側から受光信号が発せられると、その時の方位角(α)及び(β)が識別信号と共にレーザー光源(1)側から移動体(V)側へ送信される。この信号は移動体(V)のアンテナを介し受信器(35)で受信され、方位角(α)及び(β)が演算制御部(33)に与えられる。演算制御部(33)は方位角(α)が0°の場合には反射光を受光したと判別して方位角(β)を受け取り、(α)が0°以外の場合にはレーザー光源(1)からの直接光を受光したと判別して方位角(α)を受けとる。よって、この方位角(α)及び(β)より三角測量の原理で受光器(31)の位置(R)を計算し、移動体(V)が所定コースを走行するように走行方向を制御する。」(3頁右下欄1〜13行)
「第2図は別の実施例を図解したものであって、移動体(V)に受光器(31)としてコーナーキューブ(31a)を設けたものである。・・・この反射レーザー光線を発光器(11a)に固着の受光器(11b)で受光し、その時の角度を光源(1)の演算制御部(19a)に送るものである。この演算部(19a)の動作は第1図の車輌(V)の演算部(33)と同様に移動体(V)の位置を求め、これに基づいて移動体(V)をコントロールする信号を送信機(18a)から移動体(V)に送信する様に構成されている。そして、移動体(V)の受信器(37)でコントロール信号を受信し、駆動回路(38)は信号に基づいて移動体(V)を操縦する。第3図は更に別実施例を図解したものであって、移動体(V)の2つの位置にコーナーキューブ(31a),(31b)を設け、各々の位置(R1)及び(R2)を第2図と同様の方法で算出し、移動体(V)の現在位置及び進行方位を検出できるものである。これを利用して、所定コースを走行する様に移動体(V)をラジオコントロールすることも可能である。」(4頁左上欄1行〜4頁右上欄6行)等々

刊行物5(甲第6号証)〔特開昭60-153509号公報〕には、無人車誘導システムに関し、図面とともに、次の事項が記載されている。
「第19図は本発明の別の実施例を示す説明図である。同図において、110は座標位置検出装置、120は無人車、130は受信機、140は送信機、150は処理装置である。座標位置検出装置110は前述した座標入力装置4と同一構成からなるもので、そのタブレットは無人車120の移動範囲全域にわたる面積を有しており、無人車120はこのタブレット上で移動する。無人車120は第20図に示すようにその上部に受信機130を有すると共に、下部中央に位置指定用磁気発生器、例えば棒磁石121を取り付け、左右の後輪122,123にそれぞれ直結したモータ124,125を有している。また126は前輪である。」(6頁右下2〜15行)
「まず、処理装置150に図示しないキーボード等より無人車120を誘導すべき座標位置を入力する。処理装置150は、座標位置検出装置110より無人車120の現時点の座標値を読み込む。この座標値は棒磁石121が座標位置検出装置110の磁歪伝達媒体へバイアス磁界を加えている位置のものである。処理装置150は指定座標値と現座標値とを比較し演算処理し、必要な制御コードを送信機140のアナログスイッチ141へ送出する。この制御コードは送信用IC142で変調され、更に発光ダイオード143より無人車120へ向けて光信号によって送出される。この光信号は受信機130の受光ダイオード131で受信され、増幅器132,ローパスフィルタ133を介して受信用IC134へ送出され復調される。受信用IC134の出力は更にデコーダ135により制御コードにデコードされ、その出力はリレードライバ136-1〜136-4のいずれかを駆動しリレーRL1〜RL4のいずれかを動作させる。これによりモータ122,123が駆動され無人車120が指定座標位置まで誘導される。」(7頁左上欄12行〜7頁右上欄14行)等々

刊行物6(甲第7号証)〔特開昭59-100915号公報〕には、無人走行作業車に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。
「上記目的を達成すべく、本発明による無人走行作業車は、車体の移動距離を検出する距離センサーおよび走行方向を検出する方位センサーを設け、前記距離センサーによって検出される所定走行距離毎に前記方位センサーによって検出される方位情報をサンプリングすることにより前記作業地外周のテイーチングが行なわれ、このテイーチング時にサンプリングされた方位情報と積算走行距離とに基いて作業地概形形状を算出、記憶し、前記算出、記憶された概形形状情報に基いて、ステアリング操作量を自動的に補正するとともに、前記倣いセンサーの境界検出結果に基いてステアリング操作して前記作業地外周を所定回数自動走行制御する手段を設けてある、という特徴を備えている。」(2頁右上欄2行〜同16行)
「更に、前記車体(1)には、この車体(1)の移動距離を連続的に検出すべく単位走行距離(k)当り1回のパルスを発生する距離センサー(6)としての第5軸(6A)を設けるとともに、走行方向を検出する方位センサー(7)を設けてある。」(2頁左下欄20行〜2頁右下欄4行)
「一方、前記距離センサー(6)は、車体(1)の単位移動距離(k)毎に1回のパルスを発生して、このパルスを所定回数カウントすることによって所定移動距離(l0)を検出すべく構成してある。」(3頁左上欄18行〜3頁右上欄1行)
「第4図に示すように、制御システムは、マイクロコンピュータを主要部とする演算制御装置(10)に入力インターフェース(11)を介して前記倣いセンサー(5A),(5B)、距離センサー(6)、及び方位センサー(7)の各信号が入力されてあり、これら各センサーからの信号に基いて、電磁バルブ(12)を作動させて、アクチュエータである油圧シリンダ(8)を駆動して、前輪(2),(2)を操作すべく、出力インターフェース(13)に演算結果である制御信号を出力すべく構成してある。そして、第5図に示すように、芝刈作業地(14)における芝刈作業を行うに先だって、回向地(14A)部分を予め人為的に既刈地とすべく、作業者が運転して芝刈作業を行ないながら1行程走行し、この間に、前記距離センサー(6)および方位センサー(7)によって、作業地外周をサンプリングし、このサンプリング情報に基いて作業地概形をティーチングして、座標(Xo,Yo),(Xo,Ya)・・・(Xg,Yg)で示す各コーナー部における旋回角(θoa),(θab)・・・(θgo)を算出する。その後、前記予め人為的に既刈地とされた最外周部(14A)の内側の未刈地(14B)をこの未刈地(14B)と前記外周部(14A)との境界の前記倣いセンサー(5A),(5B)の検出結果に基いて倣い走行制御することにより2周目以降の外周刈取作業を自動的に行なうのである。そして、この外周刈取作業時に前記距離センサー(6)及び方位センサー(7)によって検出される走行距離(l)及び方位(θ)の変化をチェックし、作業幅(a)を減じた距離に相当する座標(Xn,Yn)に達した場合は、前記旋回角(θoa),(θab)・・・(θgo)に基いて、ステアリング角(k)を夫々所定角(θn)補正したステアリング角(θn±k)を基準にバンバン制御しながら所定方向へ自動的に旋回させるのである。」(3頁右上欄5行〜3頁左下欄19行)等々

刊行物7(甲第8号証)〔特公昭52-38781号公報〕には、競走遊戯装置に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。
「例えば、複数の競走用自動車模型を環状レースコース上で走らせて、到着順次を競う競走遊戯装置は、従来から数多くあった。」(1欄22〜24行)
「その目的とする処は、複数の移動模型の内、どの模型が真先にゴールに到達するのか全く予想がつかずに遊戯者の興味をそそることができる競走遊戯装置を供する点にある。本発明は、前記したように案内手段と、該案内手段によって設定された一定の循環軌跡に沿って移動しうる循環手段と前記軌跡に沿いそれぞれ別個に往復動自在に前記循環手段に設けられた複数の移動模型と、該移動模型をそれぞれ別個に駆動させる駆動手段とで構成したため、スタートラインにおいて前記移動模型を一線に並ばせてから、前記循環手段をゴールに向けて出発させるとともに、前記駆動手段を始動させると、前記複数の移動模型はそれぞれ相対的にかつ時間の経過に伴って速度を変えながら前記一定の循環軌跡に沿って移動することができる。また本発明においては、前記駆動手段の作動タイミングを適宜変更させることにより、前記移動模型の往復動のストロークおよび往復動切換タイミングを自由に変えることができ、遊戯者に興味を充分に与えることができる。」(2欄1〜22行)等々

刊行物8〔特開平1-259404号公報〕は、本件特許出願の公開特許公報であり、該刊行物8には、自走車の走行制御方法及び装置に関して、図面とともに、本件特許(特許第2645851号)の特許掲載公報(甲第1号証参照)の記載事項とほぼ同等の記載内容である次の事項が記載されている。
「1.自走車の走行を制御する自走車の走行制御方法において、前記自走車は駆動手段により駆動され、前記自走車上の少なくとも2点の位置の座標値を読取り、読取られた2点の位置の座標値と前記自走車の目標位置の座標値から前記自走車が進むべき方向と速度を演算し、この方向と速度に基づいて前記駆動手段の駆動量を演算し、前記演算手段により演算された駆動量で前記駆動手段を駆動させて前記自走車を走行させることを特徴とする自走車の走行制御方法。
2.自走車の走行を制御する自走車の走行制御装置において、前記自走車は駆動手段を有し、前記自走車上の少なくとも2点の位置の座標値を読取る位置読取手段と、読取られた2点の位置の座標値と前記自走車の目標位置の座標値から前記自走車が進むべき方向と速度を演算し、この方向と速度に基づいて前記駆動手段の駆動量を演算する演算手段とを備え、前記演算手段により演算された駆動量で前記駆動手段を駆動させて前記自走車を走行させることを特徴とする自走車の走行制御装置。」(1頁左欄5行〜1頁右欄10行)
「第1図乃至第9図は本発明による自走車の走行制御装置を自動車レースゲームに応用した場合の実施例について示している。自動車レースゲーム全体の外観を第2図に示す。横長の基台2の上面には環状のコース4が設けられ、このコース4上には模型自動車6が6台走行自在に配されている。基台2中は、第3図に示すように中空になっており、この中空部分を介しコース4と対向して別個の走行面8が敷設されている。走行面8上には、コース4上の模型自動車6を走行させるための自走車10が配されている。模型自動車6には、コース4の表面から若干の隙間を介して磁石6aが固定されている。」(2頁右下欄5行〜17行)
「走行面8上を自走車10が走行すると、磁石26と磁石6aの吸着力により、コース4上の模型自動車6も同じ走路を走行する。したがって、自走車10の走行を制御することにより、模型自動車6の走行を制御することになる。走行面8には後述する位置検出板28が全面に設けられていて、自走車10がどこにいても、その位置を検出できるようになっている。自走車10の下部には、位置検出板28と若干の隙間を介してコイル30f、30rが設けられている。コイル30fは前輪12近傍の自走車10の前部に取付けられており、コイル30rは後輪14l、14r近傍の自走車10の後部に取付けられている。これらコイル30f、30rと位置検出板28内に張巡らされた配線との相互作用により位置検出ができる。」(3頁左上欄11行〜3頁右上欄6行)
「走行テーブル46は、所定の走行ルートに沿い、所定の速度で動く自走車10の制御周期毎の位置座標を格納したものである。この位置座標が自走車10の目標位置の座標となる。走行テーブル46の具体例を第4図に示す。各自走車10に第4図(a) のような走行ルートをとらせたい場合には、第4図(b) のような走行テーブル46となる。すなわち、各自走車10の各時刻における目標位置の座標値から走行テーブル46は構成されている。角度誤差演算部48は、座標値メモリ44に格納された自走車10のコイル30f、30rの現在の位置座標と、走行テーブル46に定められた次の時刻の目標位置座標から、自走車10の角度誤差を演算する。同様に、接線方向誤差演算部50は、座標値メモリ44に格納された自走車10のコイル30f、30rの現在の位置座標と、走行テーブル46に定められた次の時刻の目標位置座標から、自走車10の接線方向誤差を演算する。また、平均速度演算部52は走行テーブル46の目標位置座標から、その時刻の平均速度γを演算する。」(3頁右下欄7行〜4頁左上欄7行)
「走行テーブル46の内容は、レースのたびに所定のアルゴリズムに従って作成してもよいし、多数種類の走行テーブルを用意しておいて選択するようにしてもよい。走行テーブル46の内容が決定されると、それに従って各自走車10を走行させる(ステップS4)。走行は制御周期毎に行われる。」(5頁右上欄6〜12行)
「このように本実施例によっても自動車模型を自由な走行ラインに従って自在に走行させることができ、臨場感に溢れ興味深い自動車レースゲームを楽しむことができる。また、本発明を人が運転を操作するレーシングカーゲームにも適用することができる。第12図は、本発明を適用したレーシングカーゲームの基台2を上から見た状態を示している。基台2には図示のような8字形状の道路90が形成されている。この道路90には、破線で示すような4コースの走行ライン94をソフト的に設ける。すなわち、走行ライン94上の各位置の座標値を走行テーブル46に格納することにより、走行ライン94を定める。」(6頁左下欄6〜19行)
「また、自走車の位置を検出するのに2点の位置を検出したが、3点以上の位置を検出するようにしてもよい。」(7頁左上欄11〜13行)等々

2.無効理由1(特許法第29条第2項の特許要件違反)についての判断
(1) 本件発明1について
(1-a)比較・対比及び一致点・相違点
刊行物1(甲第2号証)の記載事項を総合すると、刊行物1(甲第2号証)には、「非金属の滑らかで薄い上部13を走行する複数の金属製目標体34と、中間の棚14の環状トラック16,17,18のレールに噛み合って乗る車輪24に支持されモーター25を備える複数の駆動車22とが、前記非金属の滑らかで薄い上部13を通して、前記複数の駆動車22の電磁石33の磁力により互いに吸引するように配置されていて、各駆動車22のモーター25の速度は、三つの加減抵抗器35、36、37の一つにより制御されるように設計されており、前記加減抵抗器35、36、37はそれぞれ制御レバー38,39,40を備えていて、オペレータが制御レバー38,39,40を操作することにより各駆動車22の速度を制御することができるように設計され、さらに、非金属の滑らかで薄い上部13上に配置された金属製目標体34を吸引する駆動車22の電磁石33の磁力を自動的に制御する手段として、制御レバー55、56、57により自動制御される加減抵抗器52、53、54が設けられていて、前記加減抵抗器52、53、54が加減されると駆動車22の電磁石33の吸引力が変化するようになっており、複数の駆動車22のモーター25が起動されると各駆動車22は前記上部13上の対応する複数の金属製目標体34を搬送し、オペレータが制御レバー38,39,40を操作して加減抵抗器35、36、37を加減させると電流の強さが変化するモーター25によって駆動車22の速度及び位置を変化させて各駆動車22の走行を制御して、前記複数の金属製目標体34を競争させる電気的レーシングゲーム」の発明(以下「引用発明」という)が記載されているといえる。
ここで、本件発明1と前記引用発明とを比較すると、引用発明の「非金属の滑らかで薄い上部13」「金属製目標体34」「モーター25を備える駆動車22」「電気的レーシングゲーム」が、それぞれ本件発明1の「フィールド」「模型体」「自走体」「競争ゲーム装置」に相当する。
また、引用発明の「駆動車22のモーター25の速度を制御する制御レバー38、39、40を手動操作することにより駆動車22の走行を制御するオペレータ」は、本件発明1の「前記自走体を制御する走行制御手段」とともに、駆動車22(自走体)の走行を制御する「自走体を制御する走行制御主体」である点で、共通する。
そうすると、両者は「フィールドと、前記フィールド上を走行する模型体と、前記フィールドを挟んで反対側に位置し、前記模型体と磁気的に接続結合され、前記模型体を牽引する自走体と、前記自走体を制御する走行制御主体とを有する競争ゲーム装置」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本件発明1が、「前記自走体上の少なくとも2点の位置を検出する位置検出手段」を有するのに対し、引用発明は、そのような位置検出手段を有していない点。
相違点2:本件発明1が、「レース前に、時間と共に変化する前記模型体又は前記自走体の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」を有するのに対し、引用発明は、そのような演算手段を有していない点。
相違点3:本件発明1の自走体を制御する走行制御主体が「走行制御手段」であり、「走行制御手段が前記位置検出手段による検出位置と前記目標位置とに基づいて、前記自走体の位置を前記目標位置に近づけるように前記自走体を制御する」のに対し、引用発明の自走体を制御する走行制御主体は、オペレータであり、オペレータが制御レバー38、39、40を手動操作して駆動車22のモーター25の速度を制御することにより駆動車22の走行を制御する点。

(1-b)相違点の検討
(ア)相違点1について
刊行物4(甲第5号証)には、自動車、船舶、航空機等の移動体の現在位置、進行方位を検出して移動体の自動運航、自動走行等に利用するための位置検出手段が記載されている。また、例えば、特開昭62-105206号公報(以下「周知例A」という)及び特開昭63-65512号公報(以下「周知例B」という)にも、移動体上の少なくとも2点の位置を検出する位置検出手段が記載されている。このように、電気的・機械的な位置検出手段により自走体の位置を検出する技術は、本件特許出願時の周知技術にすぎないものである。
そうすると、引用発明の電気的レーシングゲームに、周知技術である前記電気的・機械的な位置検出手段として、移動体上の少なくとも2点の位置を検出する位置検出手段を適用することにより、前記相違点1に係る本件発明1の「前記自走体上の少なくとも2点の位置を検出する位置検出手段」の構成を得ることは、当業者が格別の困難を要せずに容易になし得ることである。そして、前記相違点1による効果は、前記周知技術が奏する効果の範囲にとどまり、前記相違点1の構成による格別の効果は認められない。

(イ)相違点2について
例えば、一例として刊行物6(甲第7号証)に記載されているように、芝刈機等の無人走行作業車の検出された位置情報に基いて無人走行作業車の自動走行すべき目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段は、本件特許出願時における周知技術である。
また、例えば前記刊行物6(甲第7号証)に記載されているような、距離センサー及び方位センサー等の位置検出手段を有する無人走行作業車を、設定した走行コースに沿って自動走行させるようにする、いわゆるフィードバック自動制御による無人走行作業車の自動走行制御手段も、刊行物5(甲第6号証)の第19図〜第23図記載の実施例として開示されてもいるように、本件特許出願時における周知技術にすぎない。
そして、このような無人走行作業車の自動走行制御手段において、走行コースの目標位置情報を事前に入力することにより設定される走行コースの設定のときに、事前に入力される前記走行コースの目標位置情報を基礎として、無人走行作業車の目標とする走行コースについてする演算が、無人走行作業車の自動走行の前段階で処理しておかなければならない工程であることは、当業者に自明のことであり、そして、無人走行作業車が自動走行することに伴って、絶えず無人走行作業車の座標位置が時間と共に変化することになるのは当然のことである。
そうしてみると、引用発明の電気的レーシングゲームに、周知技術である前記「自走体の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」及び前記「フィードバック自動制御による無人走行作業車の自動走行制御手段」を適用することにより、前記相違点2に係る「レース前に、時間と共に変化する前記自走体の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」を有する構成に変更することは、前記の各周知技術を本件発明1のような競争ゲーム装置に適用するにあたって、格別の創意工夫があったものということはできないから、当業者が格別の困難を要せずに容易に変更できることである。そして、前記相違点2による効果は、前記各周知技術が奏する効果にとどまり、前記相違点2の構成が格別の効果を奏するものと認めることができない。
ところで、本件特許第2645851号の訂正明細書には、「工場内で製品等の荷物を運搬する無人運搬車のような自走車」(本件特許明細書(甲第1号証)の1頁2欄15行〜3欄1行の記載を参照)、及び「また、競馬、自動車レース等を模倣した従来の競争ゲームは、環状のトラック上を馬や自動車模型のような自走車を走らせて」(本件特許明細書(甲第1号証)の3欄14行〜同16行の記載を参照)のように記載されていて、本件訂正明細書には「競馬、自動車レース等を模倣した従来の競争ゲームの環状のトラック上を走る馬や自動車模型」の他にも「工場内で荷物を運搬する無人運搬車」が、本件発明1の「自走体」に相当する「自走車」の例として挙げられていて、本件発明1は競争ゲーム装置の自走体に前記工場内で荷物を運搬する無人運搬車に対して適用されていた自走車の位置検出手段、演算手段、走行制御手段等の技術手段を応用したものであることが、本件訂正明細書に明記されていることから、本件訂正明細書における前記記載は、無人走行作業車のような自走車のための一般的技術手段が、当然に本件発明1のような競争ゲーム装置の自走体にも適用できることを示していることに他ならない。
そして、本件発明1の「所定のアルゴリズムに従って」の構成が意味する技術上の具体的内容は、本件訂正明細書に明確に定義されてなく不明であるところ、ここで、本件発明1の前記「所定のアルゴリズムに従って」の構成が、本件訂正明細書に記載の「自動車レースゲーム装置側では、○1観客がベットした状況、○2各自走車に性格付けされた条件(先行型、追上型等)、○3ランダム性、○4レースの面白さ、等を考慮して走行テーブル46の内容を決定する(ステップS3)。」(本件特許明細書(甲第1号証)の4頁7欄29行〜32行の記載を参照。なお、文献中の○囲み付き数字を「○1」のように表記する。)を、仮にも意味するとした場合であっても、前記○1、○2、○3、○4のようなゲーム展開に変化をもたらすための「アルゴリズムによりゲーム展開を変化させる技術」をゲーム装置に採用することは、例えば、実願昭54-183699号(実開昭56-100748号公報)のマイクロフイルム(以下「周知例C」という)、及び特開昭55-94276号公報(以下「周知例D」という)にも記載されているように、本件特許出願時の周知技術にすぎないことであるので、上記のようなアルゴリズムの一般的技術を競争ゲーム装置の分野に適用するにあたって、格別の創意工夫があったものということができないので、本件発明1の競争ゲーム装置にアルゴリズムの技術を採用することは、当業者が格別の困難を要せずに容易に想到し得たことである。
なお、本件特許第2645851号に関する平成11年9月29日の訂正請求書に添付された訂正明細書の中の訂正された部分以外の記載は、訂正前の本件特許明細書(甲第1号証)の当該記載と共通であるので、上記の括弧内の注釈のように、平成11年9月29日の訂正請求書に添付された訂正明細書の記載に代えて、本件特許明細書(甲第1号証)の当該記載の参照を以て、本件訂正明細書の摘記記載の代用とする。

(ウ)相違点3について
刊行物7(甲第8号証)に「例えば、複数の競走用自動車模型を環状レースコース上で走らせて、到着順次を競う競走遊戯装置は、従来から数多くあった。」(1欄22〜24行)と記載されているように、複数の馬、自動車等を模した模型体のそれぞれの移動を制御して平面上を走行させることによって、それらの..
スピード、順位等を競い争い、勝負、優劣を決するレース展開を模倣し、遊戯者を遊興させるという種類の競争ゲーム装置は、従来から数多くあったことが明らかである。
そして、この技術分野においては、例えば刊行物1(甲第2号証)に記載の電気的レーシングゲームにみられるように、競争ゲーム装置における自走体の走行制御を、走行制御主体としてのオペレータのような遊戯者に依存し、遊戯者に自走体の走行を制御させる競争ゲーム装置は、本件特許出願前の周知のものである。また、走行制御のすべてにわたって走行制御主体としての電気的・機械的制御手段に自走体の走行を制御させる競争ゲーム装置も、例えば前記刊行物7(甲第8号証)に記載の被請求人の出願に係る発明である競走遊戯装置にみられるように、本件特許出願前に周知であったものである。
さらに、本件訂正明細書には、「また、本発明を人が運転を操作するレーシングカーゲームにも適用することができる。第12図は、本発明を適用したレーシングカーゲームの基台2を上から見た状態を示している。基台2には図示のような8字形状の道路90が形成されている。この道路90には、破線で示すような4コースの走行ライン94をソフト的に設ける。すなわち、走行ライン94上の各位置の座標値を走行テーブル46に格納することにより、走行ライン94を定める。本実施例では、レ-シングカーの動きを操作者が完全に自由に操作するのではなく、レーシング力-が上述の走行ライン94のいずれかに沿って動くという制限を設けている。すなわち、レーシングカーは上述の走行ライン94のいずれかに沿って動くこととし、操作者はどの走行ライン94を選択するか、分岐点でどの方向に動くかをハンドル操作により選択するようにする。また、スピードについても操作者に操作させるようにしてもよい。通常、レーシングカ-を思うように操作するのは初心者には大変難しく、車体の方向がまったく逆に向いたり、コースから外れて落ちたりする。しかし、本実施例によれば、基本的な走行を装置側でコントロ-ルしているので、初心者でも簡単に操縦でき、しかも走行コースは目に見えないので、臨場感が薄れることもない。」(本件特許明細書(甲第1号証)の5頁9欄27行〜48行の記載を参照)が記載されているのであり、本件発明の変形例についての本件訂正明細書における上記記載は、本件特許出願時に、「自動制御型式の競争ゲーム装置」と、前記変形例のような「手動制御型式の競争ゲーム装置」との2つの制御型式が並存していたこと、及び、2つの制御型式が相互に設計変更可能であったことも明らかにしている。
以上のことから、競争ゲーム装置においては、自走体の走行制御主体としての遊戯者が手動操作により走行制御することができる「手動制御型式の競争ゲーム装置」と、自走体の走行制御主体としての電気的・機械的制御手段に走行制御を委ねる「自動制御型式の競争ゲーム装置」とが並存し、いずれの構成の競争ゲーム装置も周知のものであることは、本件特許出願時の当業者の技術常識に属していたということができる。
そうすると、競争ゲーム装置における自走体の走行制御型式を、引用発明におけるオペレータによる手動制御型式から、前記刊行物7(甲第8号証)に記載の周知技術である電気的・機械的制御手段による自動制御型式に変更することにより、本件発明1のような走行制御のすべてにわたって電気的・機械的制御手段に依存しながら競争ゲーム装置における自走体の走行を制御する構成を得ることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、前記相違点3に係る「走行制御手段が前記位置検出手段による検出位置と前記目標位置とに基づいて、前記自走体の位置を前記目標位置に近づけるように前記自走体を制御する」技術は、上記「(イ)相違点2について」欄において示した周知の技術手段である、いわゆるフィードバック自動制御による無人走行作業車の自動走行制御手段が記載されている刊行物5(甲第6号証)及び刊行物6(甲第7号証)ばかりでなく、刊行物4(甲第5号証)、周知例A及び周知例Bにも記載されているように、本件特許出願時の周知の技術手段である。
そうしてみると、引用発明の電気的レーシングゲームにおけるオペレータによる手動制御型式に代えて、周知の技術手段である電気的・機械的制御手段による自動制御型式としての、いわゆるフィードバック自動制御による無人走行作業車の自動走行制御手段による自動制御型式を採用することにより、前記相違点3に係る本件発明1の「走行制御手段が前記位置検出手段による検出位置と前記目標位置とに基づいて、前記自走体の位置を前記目標位置に近づけるように前記自走体を制御する」構成とすることは、前記周知技術を本件発明1のような競争ゲーム装置に適用するにあたって、格別の創意工夫があったものということはできないから、当業者が格別の困難を要せずに容易に変更できることであり、そして、前記相違点3による効果も、前記周知技術の奏する効果にとどまり、前記相違点3の構成に格別の効果が認められない。

(1-c)まとめ
以上のとおり、前記相違点1〜3に係る技術事項は、いずれも本件特許出願時の周知技術であるか、若しくは前記周知技術に基づき当業者が容易に設計変更できる事項であると認められ、引用発明に一般的な技術分野の前記周知技術を適用するに際して当業者が特別の技術的工夫を要するものと認めることができない。そして、本件発明1の奏する効果は、引用発明及び周知技術が奏する効果の範囲内であって、格別のものではない。
したがって、本件発明1は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2) 本件発明2について
(2-a)比較・対比及び一致点・相違点
つぎに、本件発明2について検討する。
本件発明2と前記本件発明1とを比較すると、一方の本件発明1は「競争ゲーム装置」に係る物の発明であるのに対し、他方の本件発明2は「競争ゲーム装置の制御方法」に係る方法の発明であり、両者は発明のカテゴリーの点で相違するが、両者の相違は単に発明のカテゴリーに係る形式的な相違に過ぎず、実質上の構成の相違を両者の間に認めることができない。
そうすると、本件発明2と引用発明との対比の結果の一致点・相違点は、本件発明1と引用発明との比較・対比の結果と実質的に同一のものとなるから、本件発明2についての判断の結果は、本件発明1についての判断の結果と、結論において変わることはない。

(2-b)まとめ
以上のとおり、本件発明2についても、上記「(1)本件発明1について」欄において前述したのと同様に、引用発明との相違点に係る技術事項は、いずれも本件特許出願時の周知技術であるか、若しくは前記周知技術に基づき当業者が容易に設計変更できる事項であると認められ、そして、本件発明2の奏する効果は、引用発明及び周知技術が奏する効果の範囲内であって、格別のものではない。
したがって、本件発明2は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3.本件発明が前提としている実施例の技術事項についての検討
ここで、本件発明が前提としている本件訂正明細書の発明の詳細な説明欄に記載されている実施例の技術事項について検討する。
(1) 自走体の「軌道走行(固定トラック走行)」と「無軌道走行(フリー走行)」とについて
まず、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載からは、本件発明1の自走体がフィールドの下方で「軌道走行(固定トラック走行)」、或いは「無軌道走行(フリー走行)」をすることを明示する技術事項の記載を、次に述べる理由により、請求項1に認めることができない。
すなわち、請求項1の中の「自走体」がフィールドの下方で「軌道走行(固定トラック走行)」をするとした場合について検討すると、自走体がフィールドの下方で軌道上を走行するときに、自走体が軌道に沿って軌道をなぞるような走行軌跡となることは、容易に理解できるところであり、そのような場合でも、自走体は一定の軌道の上を走行することにより、「無軌道走行(フリー走行)」する自走体と同様に、時間と共にその座標位置を変化させることになり、また、フィールドの下方で軌道上を走行する前記自走体に磁気的結合によりフィールド上を牽引される模型体の座標位置も、「無軌道走行(フリー走行)」する自走体に牽引される模型体と同じく、フィールド上の位置が時間と共に変化することになることは、明らかである。
しかも、自走体がフィールドの下方で無軌道走行(フリー走行)する場合でも、或いは、自走体がフィールドの下方で軌道走行(固定トラック走行)する場合でも、ゲームの遊戯者は、フィールド上の模型体しか視認できないのであるから、自走体が磁気的結合によりフィールド上の模型体を牽引するに際しては、ゲームの遊戯者から見れば、模型体はいずれにしても、自走体に牽引されることによりフィールド上の被牽引走行をただ強制させられているだけであり、ゲームの遊戯者の目には、フィールドの下方の自走体の走行システムがいずれの場合でも、フィールド上の模型体は、あたかも無軌道走行(フリー走行)しているかのごとくに振る舞っているように見えるに過ぎない。
以上のことから、本件発明1のフィールドの下方における自走体が軌道走行(固定トラック走行)ではなく、無軌道走行(フリー走行)でなければならない理由を、特許請求の範囲の請求項1に見出すことができない。この点は、本件発明2である請求項2に係る発明についても同様である。
以上のとおり、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2のいずれにも、自走体がフィールドの下方で無軌道走行(フリー走行)をする技術事項についての明示の記載を認めることができないので、請求項1及び請求項2の記載では、必ずしも、本件発明1及び本件発明2の自走体がフィールドの下方で無軌道走行(フリー走行)をしなければならないものとなっているわけではなく、自走体がフィールドの下方で軌道走行(固定トラック走行)をするものをも許容し、それを包含する記載となっている。
そして、このように、本件発明1の競争ゲーム装置が「固定トラック走行方式による競争ゲーム装置」を包含していることは、上記「(ウ)相違点3について」欄に前示した本件訂正明細書の第12図に示された「4コースの走行ライン94が8字形状の道路90にソフト的に固定された状態で設けられた固定トラック走行方式の競争ゲーム装置」という本件発明1の実施例としての変形例についての記載(本件特許明細書(甲第1号証)の5頁9欄27行〜48行の記載を参照)からも、明らかなことである。

(2) 本件発明の自走体が無軌道走行(フリー走行)する方式とした場合
請求人及び被請求人の双方は、本件発明における自走体がフィールドの下方で無軌道走行(フリー走行)をするものであることを双方の暗黙の技術的前提とし、その技術的前提のもとに本件発明の進歩性について互いに自己の主張を展開している。そこで、本件発明の技術的前提として、請求人及び被請求人の双方の主張と同じように、自走体がフィールドの下方で無軌道走行(フリー走行)する方式とした場合について検討してみる。
本件発明と前記引用発明とを、実施例のレベルで比較すると、本件発明の実施例の一つが、レール上のトラックを走行しない無軌道走行(フリー走行)方式の自走体であるのに対し、引用発明は、レール上のトラックを走行する軌道走行(固定トラック走行)方式の自走体である点で、本件発明の実施例と引用発明との構成が相違する(相違点a)。
しかして、刊行物2(甲第3号証)に「前記走行体2は単にゲーム盤3上を所定の円周コースを走行するだけでなく、コースを互いに内側または外側寄りに移動しながら互にぶつかり合うことなく、抜きつ抜かれつ走行する。しかも、前記移動永久磁石5の自転運動は不規則に行なわれる。つまり、固定板17と回転板23のそれぞれの環状壁21,24はいずれも偏心位置に設けてあるので、回転腕7が公転する際ベルト22に緊張,弛緩状態が生じ、緊張状態においては確実に回転板23、移動磁石5に自転運動が伝えられるが、弛緩状態においては、これらに殆んど自転運動が伝えられず、したがってベルト22のこのような緊張,弛緩により移動永久磁石5に不規則な自転運動を起こさせるのである。」(明細書6頁15行〜7頁13行)が記載されていて、移動永久磁石5の不規則な自転運動による無軌道走行(フリー走行)方式で制御されるレース玩具の走行制御技術が開示され、また刊行物3(甲第4号証)の第8図には、2層からなる盤上の物体5、5’に磁気吸引力を作用させる盤下の磁石をモーター等の適当な動力により回転駆動させ、その磁石の回転中心をロッド7、7’によって動かす等して盤上の物体5、5’のコースを自由に選択できる競馬ゲーム等、競争ゲーム盤についての実施例が記載されていて、本件発明におけるような無軌道走行(フリー走行)方式の走行制御技術がそれぞれ開示されていることを参酌すると、この種の競輪、競馬、自動車競争ゲーム盤等の競争ゲーム装置において、各種の競走体がレール上のトラック走行をしない方式、すなわち無軌道走行(フリー走行)方式の競争ゲーム装置は、本件特許出願時の周知技術であるといえる。
そして、引用発明の電気的レーシングゲームにおけるレールによる固定トラック走行方式に代えて、周知技術である前記無軌道走行(フリー走行)方式を引用発明の電気的レーシングゲームに適用することにより、前記相違点aに係る本件発明の「レール上のトラックを走行しない無軌道走行(フリー走行)方式の自走体」の構成を得ることは、前記周知技術を引用発明のような電気的レーシングゲームに適用するにあたって、格別の創意工夫があったものということはできないから、当業者が格別の困難を要せずに容易に想到し得ることである。そして、前記相違点aによる効果は、前記周知技術が奏する効果の範囲内のものであり、前記相違点aの構成に格別の効果を認めることができない。

(3) まとめ
以上のとおり、仮にも、本件発明が前提としている本件訂正明細書の発明の詳細な説明欄に記載されている実施例の技術事項を、本件発明の構成要件とした場合であっても、本件発明は、前記「2.無効理由1(特許法第29条第2項の特許要件違反)についての判断」欄に記載した無効理由1と同じ理由により、もとより特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由1について審理した結果、請求人が主張する他の無効理由2ないし無効理由4について検討するまでもなく、請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明は、刊行物1(甲第2号証)ないし刊行物7(甲第8号証)記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明に対してされたものであり、本件発明1及び本件発明2の特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-02-18 
結審通知日 2003-02-21 
審決日 2003-03-05 
出願番号 特願昭63-86289
審決分類 P 1 112・ 121- Z (G05D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神 悦彦  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 二宮 千久
佐藤 昭喜
登録日 1997-05-09 
登録番号 特許第2645851号(P2645851)
発明の名称 競争ゲーム装置及びその制御方法  
代理人 北野 好人  
代理人 園田 敏雄  

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