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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03F
審判 全部申し立て 特39条先願  G03F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03F
管理番号 1099667
異議申立番号 異議2002-71956  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-02-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-08-09 
確定日 2004-04-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3255623号「レジスト用剥離液組成物」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3255623号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 I 手続の経緯
本件特許第3255623号は、平成8年6月21日に出願された特願平8-179872号(以下、「原出願」という。)の一部を平成11年6月7日に新たな特許出願としたものであって、手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成13年11月30日 特許権の設定の登録
平成14年2月12日 特許掲載公報の発行
平成14年8月9日 株式会社トクヤマから特許異議の申立て
平成14年8月12日 伊藤理恵から特許異議の申立て
平成14年11月20日付 取消理由の通知
平成15年1月28日 意見書の提出
平成15年1月28日 訂正請求書(後日取り下げ)の提出
平成15年4月11日 上申書の提出(特許権者)
平成16年1月13日付 取消理由の通知
平成16年3月23日 意見書及び訂正請求書の提出

II 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成16年3月23日付け訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、訂正の内容は次のとおりである。
(a)特許請求の範囲、請求項1の記載を、
「【請求項1】 レジスト変質膜の剥離が可能なレジスト用剥離液組成物であって、
フッ化物成分と、水溶性有機溶媒と、水とを含有するとともに、防食剤を含有せず、
前記フッ化物成分が、フッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩と、フッ化水素酸とから構成され、
該レジスト用剥離液組成物のpH値が5〜8にあることを特徴とするレジスト用剥離液組成物。」
と訂正する。
(b)同請求項2を削除する。
(c)請求項3を請求項2に繰り上げ、
「【請求項2】 前記塩が、フッ化水素酸とヒドロキシルアミン類、第1級、第2級または第3級の脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、複素環式アミン、アンモニア水及び低級アルキル第4級アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種との塩であることを特徴とする請求項1記載のレジスト用剥離液組成物。」
と訂正する。
(d)請求項4を請求項3に繰り上げ、
「【請求項3】 前記塩がフッ化アンモニウムであることを特徴とする請求項2記載のレジスト用剥離液組成物。」
と訂正する。
(e)請求項5を請求項4に繰り上げ、
「【請求項4】 前記水溶性有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、エチレングリコール及びジエチレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のレジスト用剥離液組成物。」
と訂正する。
(f)請求項6を請求項5に繰り上げ、
「【請求項5】 前記水溶性有機溶媒が少なくとも10重量%のエチレングリコールを含む水溶性有機溶媒であることを特徴とする請求項4に記載のレジスト用剥離液組成物。」
と訂正する。
(g)請求項7を削除する。
(h)明細書の段落【0006】の記載を、
「そこで、本発明者等は、上記問題点のないレジスト用剥離液組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、フッ化物成分と、水溶性有機溶媒と、水とを含有し、レジスト変質膜の剥離が可能なレジスト用剥離液組成物において、前記フッ化物成分が、フッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得た水素イオン濃度(以下pHという)が5〜8のほぼ中性の塩と、フッ化水素酸とから構成するとともに、該レジスト用剥離液組成物のpH値を5〜8の範囲とすると、低温での剥離処理が短時間で行える上に、基板上の金属薄膜や周辺装置等の腐食が防止でき、かつ毒性が低く、排気処理、廃液処理が容易に行えるレジスト用剥離液組成物が得られることを見出し、本発明を完成したものである。」
と訂正する。
(i)同段落【0009】の記載を、
「上記目的を達成する本発明は、レジスト変質膜の剥離が可能なレジスト用剥離液組成物であって、フッ化物成分と、水溶性有機溶媒と、水とを含有するとともに、防食剤を含有せず、前記フッ化物成分が、フッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩と、フッ化水素酸とから構成され、該レジスト用剥離液組成物のpH値が5〜8にあることを特徴とするレジスト用剥離液組成物に係る。以下、前記フッ化水素酸と金属を含まない塩基との塩を(a)成分、さらに少量を添加するフッ化水素酸を(b)成分、水溶性有機溶媒を(c)成分、水を(d)成分と略記することもある。」
と訂正する。
(j)同段落【0012】の記載の「(d)成分及び(e)成分と混和性のある有機溶媒」を、「(d)成分と混和性のある有機溶媒」と訂正する。
(k)同段落【0014】〜【0020】を削除し、以下の段落番号を繰り上げる。
(l)【表1】を次のように訂正する。


2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正aにおいて、訂正前の請求項1に記載の「フッ化水素酸と金属を含まない塩基との塩」を「フッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩」に限定する点は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、レジスト用剥離液組成物を規定する記載、即ち「(a)フッ化水素酸と・・を含有し、かつ・・・(pH)が5〜8の範囲にある」を、「レジスト変質膜の剥離が可能なレジスト用剥離液組成物であって、フッ化物成分と、水溶性有機溶媒と、水とを含有するとともに、防食剤を含有せず、・・・レジスト用剥離液組成物のpH値が5〜8にある」と訂正する点は、フッ化水素酸と金属を含まない塩基との塩及びフッ化水素酸と、レジスト用剥離液組成物を構成する他の成分との関係を整理すると共に、防食剤を含有しないものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正b、gは請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正cないしfは、請求項1の訂正aに伴って、「(a)成分」、「(c)成分」をそれぞれ「前記塩」、「前記水溶性有機溶媒」と訂正し、項番を整理するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正hないしkは、訂正aないしgに伴い、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載に整合させようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正lは、有機溶媒であるDMSOを(b)成分、水を(c)成分と誤って記載していたものを、それぞれ(c)成分、(d)成分に訂正するものであるから誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
そして、訂正aないしkは、願書に添付した明細書の範囲内のものであり、訂正lは、願書に最初に添付した明細書の範囲内のものであって、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3 訂正の適否の結論
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項に規定する訂正の目的を満たすものであり、かつ同条第3項において準用する第126条第2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III 特許異議申立てについて
1 本件発明
上記「II 訂正の適否についての判断」に示したとおり、本件に係る訂正が認められるから、本件の請求項1ないし5に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、上記II 1(a)、(c)ないし(f)のとおりのものである。

2 特許異議申立ての理由及び取消理由の概要
(1)異議申立人・株式会社トクヤマは、甲第1号証ないし甲第3号証並びに参考資料1、2を提出して、訂正前の本件請求項1ないし7に係る特許は、以下の理由により取り消されるべきである旨主張している。
(i)訂正前の本件請求項1ないし7に係る発明は、優先権主張を伴う原出願に係る特許第3236220号(特願平8-179872号、甲第1号証参照、以下、「先願1」という。)の請求項に係る発明と同一であるから、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第39条第1項又は第2項の規定に違反して特許されたものである。
(ii)訂正前の本件請求項1ないし7に係る発明は、本件の出願日(原出願の出願日)前の同一出願人の出願に係る特許第3255551号(甲第2号証参照、以下、「先願2」という。)の請求項に係る発明と同一であるから、その特許は、特許法第39条第1項の規定に違反して特許されたものである。
(iii)訂正前の本件請求項1ないし7に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものである。
(iv)訂正前の本件請求項2及び7に係る発明は、甲第3、4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2)異議申立人・伊藤理恵は、甲第1号証及び参考資料1、2を提出して、訂正前の本件請求項1ないし7に係る特許は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号、あるいは特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである旨、主張している。
(3)当審においては、訂正前の本件請求項1ないし7に係る特許は、以下の理由により取り消されるべきである旨の取消理由を通知した。
(i)訂正前の本件請求項1ないし7に係る発明は、本件の出願日前の同一出願人の出願に係る「先願1」、又は「先願2」の明細書の特許請求の範囲に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第39条第1項の規定に違反して特許されたものである。
(ii)訂正前の本件請求項1ないし7に係る発明は、刊行物1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
[先願及び刊行物]
先願1 特願平8-179872号(特許第3236220号)
先願2 特願平7-32817号(特許第3255551号)
刊行物1 特開昭53-44491号公報
刊行物2 特開平6-202345号公報
刊行物3 特開平6-61615号公報
刊行物4 特開平5-259066号公報
刊行物5 特開昭64-88548号公報
刊行物6 特開平5-281753号公報
刊行物7 特開昭55-2297号公報
刊行物8 特開平7-271056号公報(異議申立人株式会社トクヤマの提出した甲第3号証、同伊藤理恵の提出した甲第1号証)

3 特許法第39条について
[先願の請求項に係る発明]
(1)先願1の請求項に係る発明は、異議2002-71422号において訂正された特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次のとおりのものである(異議2002-71422号の決定参照)。
「【請求項1】フッ化物成分と、水溶性有機溶媒と、水とからなり、レジスト変質膜の剥離が可能なレジスト用剥離液組成物であって、
前記フッ化物成分がフッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩から構成され、かつ該レジスト用剥離液組成物のpH値が5〜8に維持されていることを特徴とするレジスト用剥離液組成物。
【請求項2】前記フッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩が0.2〜30重量%、前記水溶性有機溶媒が30〜90重量%及び前記水が残部として配合されていることを特徴とする請求項1記載のレジスト用剥離液組成物。
【請求項3】フッ化物成分と、水溶性有機溶媒と、水と、防食剤とからなり、レジスト変質膜の剥離が可能なレジスト用剥離液組成物であって、
前記フッ化物成分がフッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩から構成されるとともに、前記防食剤が芳香族ヒドロキシ化合物、アセチレンアルコール、カルボキシル基含有有機化合物及びその無水物、トリアゾール化合物並びに糖類から選ばれる少なくとも1種から構成され、かつ該レジスト用剥離液組成物のpH値が5〜8に維持されていることを特徴とするレジスト用剥離液組成物。
【請求項4】前記フッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩が0.2〜30重量%、前記水溶性有機溶媒が30〜90重量%、前記防食剤が0.5〜40重量%及び前記水が残部として配合されていることを特徴とする請求項3記載のレジスト用剥離液組成物。
【請求項5】前記フッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩が、フッ化水素酸とヒドロキシル脂環式アミン、芳香族アミン、複素環式アミン、アンモニア水および低級アルキル第4級アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種との塩であることを特徴とする請求項1又は3記載のレジスト用剥離液組成物。
【請求項6】前記フッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩がフッ化アンモニウムであることを特徴とする請求項5記載のレジスト用剥離液組成物。
【請求項7】前記水溶性有機溶媒がジメチルスルホキシド、N、N-ジメチルホルムアミド、N、N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1、3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、エチレングリコール及びジエチレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は3記載のレジスト用剥離液組成物。
【請求項8】前記水溶性有機溶媒が少なくとも10重量%のエチレングリコールを含む水溶性有機溶媒であることを特徴とする請求項7記載のレジスト用剥離液組成物。」
(2)先願2の請求項に係る発明は、異議2002-71954号において訂正された特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである(異議2002-71954号の決定参照)。
「【請求項1】フッ化水素酸0.5〜40重量%、水溶性有機溶媒60〜90重量%、及び芳香族ヒドロキシ化合物、アセチレンアルコール、カルボキシル基含有有機化合物及びその無水物、並びにトリアゾール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の防食剤を残部として含有することを特徴とするレジスト用剥離液組成物。
【請求項2】フッ化水素酸及びフッ化アンモニウム0.5〜40重量%、水溶性有機溶媒60〜90重量%、及び芳香族ヒドロキシ化合物、アセチレンアルコール、カルボキシル基含有有機化合物及びその無水物、並びにトリアゾール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の防食剤を残部として含有することを特徴とするレジスト用剥離液組成物。
【請求項3】水溶性有機溶媒がジメチルスルホキシド、N、N-ジメチルホルムアミド、N、N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1、3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のレジスト用剥離液組成物。」

[対比・判断]
(1)先願1に対して
本件請求項1ないし5に係る発明と、先願1の請求項1ないし8に係る発明とを対比すると、本件請求項1ないし5に係る発明は、いずれも、「フッ化物成分が、フッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩と、フッ化水素酸とから構成され」ものであるのに対し、先願1の請求項1ないし8に係る発明は、「フッ化物成分がフッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩」であり、他にフッ化水素酸を含有しない点で相違する。
そして、先願1の請求項1ないし8に係る発明においては、フッ化物成分として、pH5〜8のほぼ中性の塩のみを含有させることにより腐蝕を防止しようとするものであるのに対し、本件請求項1ないし7に係る発明は、フッ化物成分として、pH5〜8のほぼ中性の塩の他にフッ化水素酸を含有させ、しかもレジスト用剥離液組成物のpH値をpH値が5〜8に維持することで腐蝕を防止するとともに、剥離性を向上させようとするものである。
したがって、本件請求項1ないし5に係る発明は、先願1の請求項1ないし8に係る発明と同一であるとすることはできない。

なお、本件に係る出願は、特許法第44条第2項の規定に基づき、原出願の出願日である、平成8年6月21日に出願されたものとみなす。
一方、先願1は、特許法第41条の規定に基づく優先権主張を伴うものであり、各請求項に係る発明は、優先権主張の基礎となる先の出願(特願平7-317035号)の明細書に実質的に記載されているので、特許法第39条の規定の適用については、特許法第41条第2項の規定により、先の出願の出願日である平成7年11月13日に出願されたものとみなす。
したがって、両者は、同日に出願されたものとして扱うことはできないから、特許法第39条第2項の規定に違反する旨の株式会社トクヤマの主張は採用できない。

(2)先願2に対して
本件請求項1ないし5に係る発明と、先願2の請求項1ないし3に係る発明とを対比すると、本件請求項1ないし5に係る発明は、いずれも、「防食剤を含有せず」、「レジスト用剥離液組成物のpH値が5〜8に維持されている」ものであるのに対し、先願2の請求項1ないし3に係る発明は、レジスト用剥離液組成物のpH値が限定されていない点、及び、芳香族ヒドロキシ化合物、アセチレンアルコール、カルボキシル基含有有機化合物及びその無水物、並びにトリアゾール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の防食剤を含有する点で相違する。
そして、先願2の請求項1ないし3に係る発明においては、フッ化物成分による腐蝕を防食剤により防止しようとするものであるのに対し、本件請求項1ないし5に係る発明は、防食剤を含有することなく、レジスト用剥離液組成物のpH値をpH値が5〜8に維持することで腐蝕を防止しようとするものである。
したがって、本件請求項1ないし5に係る発明は、先願2の請求項1ないし3に係る発明と同一であるとすることはできない。

5 特許法第29条第1項又は第2項について
[刊行物1ないし8、及び、異議申立人株式会社トクヤマの提出した甲第4号証の記載事項]
刊行物1(特開昭53-44491号公報)には、フォトレジストを除去する剥離剤として有用である有機剥離用組成物に関する発明が記載され(2頁左下欄13行〜右下欄2行)、該有機剥離用組成物は、特定の有機スルホン酸(R-SO3H)と有機溶剤よりなる有機剥離用組成物に、ふつ化物イオンが配合されること(特許請求の範囲第1項)、ふつ化物イオンは、ふつ化水素酸、ふつ化アンモニウム、二ふつ化アンモニウム・・・からなるふつ化含有化合物の添加により組成物に導入されること(特許請求の範囲第3項)が記載されている。
刊行物2(特開平6-202345号公報)には、ストリッピング溶媒、親核アミン、非窒素含有弱酸を含有するアルカリ含有フォトレジストストリッピング組成物に関して記載され(【請求項1】)、非窒素含有弱酸の例として、弗化水素酸等が挙げられ(【請求項3】、段落【0010】)、該ストリッパー組成物の水性すすぎpH約pH9.6〜10.9を生じること(段落【0010】)が記載されている。
刊行物3(特開平6-61615号公報)には、電子デバイスの製造方法に関して記載され、その製造過程では、フォトレジストコーティングをフッ素含有有機酸と腐食防止剤とアミド溶剤とからなる混合物に浸漬することにより除去すること(【請求項1】)が記載されている。
刊行物4(特開平5-259066号公報)には、エッチング工程で使用し得るポジ型フォトレジスト用剥離液に関して記載され、該剥離液は芳香環式フェノール化合物と芳香環式カルボン酸化合物より選ばれる化合物と有機アミン含有の水溶液とからなること(【請求項1】〜【請求項3】)が記載されている。
刊行物5(特開昭64-88548号公報)には、モノエタノールアミン、特定のグリコールモノアルキルエーテル及び水からなる、或いはさらにブチンジオールを含む、フォトレジスト膜を基体から剥離するための水性剥離剤組成物が記載されている(請求項1、2)。
刊行物6(特開平5-281753号公報)には、特定のアルカノールアミン化合物、スルホン化合物又はスルホキシド化合物、及び特定のヒドロキシ化合物からなるポジ型フォトレジスト膜等を容易に剥離することができる剥離剤組成物が記載されている。
刊行物7(特開昭55-2297号公報)には、特定の有機スルホン酸(R-SO3H)、有機溶媒、フッ化物を含む有機剥離剤組成物に関して記載され(請求項1)、フッ化物はHF及びアンモニウムビフルオライドのような無機塩の形で添加され得るが、該フッ化物は、通常、酸性剥離剤組成物中でHFに転換すると思われること(4頁右下欄17〜5頁左上欄1行)が記載されている。
刊行物8(特開平7-271056号公報)には、特定の有機カルボン酸アンモニウム塩又は有機カルボン酸アミン塩、及び、フッ素化合物並びにアミド類、有機溶媒の1種以上を含有する水溶液からなるフォトレジスト用剥離液が記載され(【請求項2】)、特定の有機カルボン酸アンモニウム塩又は有機カルボン酸アミン塩が少ないと配線体材質の腐蝕が激しくなることが記載されている(段落【0013】)。
異議申立人株式会社トクヤマの提出した甲第4号証(特開平5-315331号公報、以下、「刊行物9」という。)には、基板上に銅配線パターンを形成した後、その銅配線パターンをベンゾトリアゾールを含有する水溶液により洗浄する工程を含む半導体装置の製造方法(請求項4)が記載され、BTAにより銅配線の腐食が抑制できる(段落【0017】)ことが記載されている。

[対比・判断]
本件請求項1ないし5に係る発明と刊行物1ないし9に記載された発明を対比すると、本件請求項1ないし5に係る発明は、いずれも、防食剤を含有せず、レジスト用剥離液組成物のpH値が5〜8にあるものであるのに対し、刊行物1ないし9に記載された発明はこのような構成を備えていない点で相違する。
すなわち、刊行物1ないし3、7、8には、フッ化物成分を含むレジスト用剥離液組成物が記載されているが、いずれも、腐蝕防止のための有機化合物を含有させるものである。また、刊行物4ないし6には、腐蝕防止のための有機化合物を含有するレジスト用剥離液組成物が記載されてるにすぎず、フッ化物成分を含有させることは記載も示唆もない。
そして、本件請求項1ないし5に係る発明は、フッ化物成分として、pH5〜8のほぼ中性の塩の他にフッ化水素酸を含有させ、しかもレジスト用剥離液組成物のpH値をpH値が5〜8に維持することで、防食剤を含有せずに腐蝕を防止するとともに、剥離性を向上させようとするものである。
したがって、本件請求項1ないし5に係る発明は、刊行物1ないし9に記載された発明であるとも、刊行物1ないし9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。
なお、異議申立人が提出した各参考資料によっても、上記判断は左右されない。

IV むすび
以上のとおりであるので、異議申立の理由及び証拠、取消理由通知の理由によっては、本件の請求項1ないし5に係る発明の特許を取り消すことができない 。
また、他に本件の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
レジスト用剥離液組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 レジスト変質膜の剥離が可能なレジスト用剥離液組成物であって、
フッ化物成分と、水溶性有機溶媒と、水とを含有するとともに、防食剤を含有せず、
前記フッ化物成分が、フッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩と、フッ化水素酸とから構成され、
該レジスト用剥離液組成物のpH値が5〜8の範囲にあることを特徴とするレジスト用剥離液組成物。
【請求項2】 前記塩が、フッ化水素酸と、ヒドロキシルアミン類、第1級、第2級または第3級の脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、複素環式アミン、アンモニア水及び低級アルキル第4級アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種との塩であることを特徴とする請求項1記載のレジスト用剥離液組成物。
【請求項3】 前記塩がフッ化アンモニウムであることを特徴とする請求項2記載のレジスト用剥離液組成物。
【請求項4】 前記水溶性有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、エチレングリコール及びジエチレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のレジスト用剥離液組成物。
【請求項5】 前記水溶性有機溶媒が少なくとも10重量%のエチレングリコールを含む水溶性有機溶媒であることを特徴とする請求項4に記載のレジスト用剥離液組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、レジスト用剥離液組成物、さらに詳しくは、ICやLSI等の半導体素子或いは液晶パネル素子の製造に好適に使用される、低温(室温)での剥離性が高く、導電性金属膜を腐食することが少ない上に、安全性が高く、取り扱いが容易なレジスト用剥離液組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ICやLSI等の半導体素子や液晶パネル素子は、基板上に形成されたアルミニウム、銅、アルミニウム合金等の導電性金属膜やSiO2膜等の絶縁膜上にホトレジストを均一に塗布し、それを露光又は電子線により描画したのち、現像してレジストパターンを形成し、このパターンをマスクとして前記導電性金属膜や絶縁膜を選択的にエッチングし、微細回路を形成したのち、不要のレジスト層を剥離液で除去して製造されている。
【0003】
上記レジストを除去する剥離液として、従来、アルキルベンゼンスルホン酸を必須成分とした有機スルホン酸系剥離液やモノエタノールアミン等の有機アミンを必須成分とした有機アミン系剥離液が使用されてきたが、有機スルホン酸系剥離液は、毒性が高いフェノール化合物やクロロベンゼン等の有機溶剤が併用されるところから作業性が悪く、また環境問題が発生する上に、基板の導電性金属膜等が腐食され易いという欠点を有していた。これに対し、有機アミン系剥離液は有機スルホン酸系剥離液に比べ毒性が低く、廃液処理に煩雑な処理が必要でなく、またドライエチング、アッシング、イオン注入などの処理で形成される変質膜の剥離性が良い上に、AlやCuなどを含む基板の腐食防止効果が優れているところから今日広く使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、近年、半導体素子や液晶パネル素子の製造工程において採られるドライエッチング、アッシング、イオン注入等の処理条件が厳しくなり、処理後のレジスト膜等は有機膜から無機的性質を有する膜に変質するようになった。そのため有機アミン系剥離液で処理しても、変質膜を十分に剥離できない上に、有機アミン系剥離液処理は、処理温度が60〜130℃と比較的高温のため、剥離液中の可燃性有機化合物が揮発し、それに引火するという危険性がある。そのため前記剥離処理は引火防止設備の中で行われるのが一般的であり、設備に多額の費用を要するばかりでなく、処理時間がかかるため高スループット(単位時間当たりのウェーハ処理枚数)の要求される半導体素子や液晶パネル素子の剥離液としては満足のいくものではなくなってきている。そのため低温(室温)での剥離処理が可能な剥離液が特開昭64-88548号公報、特開平5-259066号公報等で提案された。しかし、前記公報記載の剥離液はいずれも有機アミンと水を含むため、剥離性が十分でない上に、基板に対する腐食も大きいという欠点を有していた。
【0005】
こうした現状に鑑み、本発明者等は、上記欠点のないレジスト用剥離液組成物として特願平7-32817号でフッ化アンモニウムを含んでもよいフッ化水素酸、いわゆるバッファードフッ酸、水溶性有機溶媒及び防食剤を含有するレジスト用剥離液組成物を提案した。しかし、前記レジスト用剥離液組成物は酸性であるところから剥離槽と剥離液が入ったコンテナを結ぶ薬液供給装置等の周辺装置を腐食し易く、さらに煩雑な排気処理、廃液処理が必要であるなどの問題点があった。
【0006】
そこで、本発明者等は、上記問題点のないレジスト用剥離液組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、フッ化物成分と、水溶性有機溶媒と、水とを含有し、レジスト変質膜の剥離が可能なレジスト用剥離液組成物において、前記フッ化物成分が、フッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得た水素イオン濃度(以下pHという)が5〜8のほぼ中性の塩と、フッ化水素酸とから構成するとともに、該レジスト用剥離液組成物のpH値を5〜8の範囲とすると、低温での剥離処理が短時間で行える上に、基板上の金属薄膜や周辺装置等の腐食が防止でき、かつ毒性が低く、排気処理、廃液処理が容易に行えるレジスト用剥離液組成物が得られることを見出し、本発明を完成したものである。すなわち、
【0007】
本発明は、ドライエッチング、アッシング、イオン注入等の処理で変質した膜を低温(室温)でしかも短時間で剥離でき、しかも基板上の金属薄膜や周辺装置を腐食することのないレジスト用剥離液組成物を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、安全性が高く取り扱いが容易な上に、煩雑な排気処理、廃液処理を必要としないレジスト用剥離液組成物を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明は、レジスト変質膜の剥離が可能なレジスト用剥離液組成物であって、フッ化物成分と、水溶性有機溶媒と、水とを含有するとともに、防食剤を含有せず、前記フッ化物成分が、フッ化水素酸と金属を含まない塩基とから得たpH5〜8のほぼ中性の塩と、フッ化水素酸とから構成され、該レジスト用剥離液組成物のpH値が5〜8にあることを特徴とするレジスト用剥離液組成物に係る。以下、前記フッ化水素酸と金属を含まない塩基との塩を(a)成分、さらに少量を添加するフッ化水素酸を(b)成分、水溶性有機溶媒を(c)成分、水を(d)成分と略記することもある。
【0010】
本発明のレジスト用剥離液組成物は、上述のとおり(a)フッ化水素酸と金属を含まない塩基との塩を含有するが、前記金属を含まない塩基とは、ヒドロキシルアミン類、第1級、第2級又は第3級の脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、複素環式アミンなどの有機アミン、アンモニア水又は低級アルキル第4級アンモニウム塩基のように分子中に金属を含有しない塩基をいう。前記ヒドロキシルアミン類としては、具体的にヒドロキシルアミン、N,N-ジエチルヒドロキシルアミンなどが、第1級脂肪族アミンとしては、具体的にモノエタノールアミン、エチレンジアミン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールなどが、第2級脂肪族アミンとしては、具体的にジエタノールアミン、ジプロピルアミン、2-エチルアミノエタノールなどが、第3級の脂肪族アミンとしては、具体的にジメチルアミノエタノール、エチルジエタノールアミンなどが、脂環式アミンとしては、具体的にシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどが、芳香族アミンとしては、具体的にベンジルアミン、ジベンジルアミン、N-メチルベンジルアミンなどが、複素環式アミンとしては、具体的にピロール、ピロリジン、ピロリドン、ピリジン、モルホリン、ピラジン、ピペリジン、N-ヒドロキシエチルピペリジン、オキサゾール、チアゾールなどが挙げられる。さらに低級アルキル第4級アンモニウム塩基としては、具体的にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド(コリン)などが挙げられる。中でもアンモニア水、モノエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドは入手が容易である上に安全性に優れているところから好ましい。前記金属を含まない塩基とフッ化水素酸との塩は、市販のフッ化水素50〜60%濃度のフッ化水素酸に金属を含まない塩基をpHが5〜8となるように添加することで製造できる。前記塩として市販のフッ化アンモニウムが使用できることはいうまでもない。
【0011】
また、本発明のレジスト用剥離液組成物は、pHが5〜8のほぼ中性である。前記pH値範囲を達成するには(a)成分をほぼ中性に調製すればよいが、前記pH値を維持できる範囲内でフッ化水素酸を配合することができる。ほぼ中性の(a)成分はフッ化水素酸に添加する金属を含まない塩基の種類により中性にするための含有量が異なるところから一義的に規定することができないが、例えば、アンモニア水の場合、等モル濃度のフッ化水素酸とアンモニア水を等容積混合すれば目的とするpHの(a)成分が調製できる。また、エタノールアミンの場合、1モル/lのフッ化水素酸1000mlとモノエタノールアミン1モルとを混合すれば同じように(a)成分が調製できる。レジスト用剥離液組成物のpHの範囲が前記範囲にあることにより変質膜の剥離性の低下がなく、基板の上の金属膜や薬液供給装置などの周辺装置の腐食を抑制したまま、安全に取り扱うことができ、さらに、フッ化水素が多く存在することに起因する煩雑な排気処理、廃液処理を必要としない。
【0012】
本発明で使用する(c)成分としては前記(a)成分、(b)成分、(d)成分と混和性のある有機溶媒であればよく、従来の有機アミン系剥離液に使用された水溶性有機溶媒が使用できる。前記水溶性有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2-ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアミド類、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシメチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン等のラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジイソプロピル-2-イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等のラクトン類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコール類及びその誘導体が挙げられる。これらの中で、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、エチレングリコール及びジエチレングリコールモノブチルエーテルがレジスト変質膜の剥離性に優れ好ましい。特に、(c)成分を少なくとも10重量%のエチレングリコールを含む水溶性有機溶媒とするとホール状のレジストパターンの剥離処理時に、金属蒸着板の腐食防止効果が高く、好ましい。この際、エチレングリコールの含有量が多い程腐食防止効果が向上するのでエチレングリコール単独で(c)成分としてもよいし、またジメチルスルホキシドと等量の混合物としてもよい。
【0013】
本発明のレジスト用剥離液組成物が(a)成分、(b)、(c)成分及び(d)成分を含有する場合には、(a)成分は0.2〜30重量%、好ましくは0.5〜30重量%、(b)成分はレジスト用剥離液組成物のpHが5〜8を逸脱しない範囲、(c)成分は30〜90重量%、好ましくは40〜90重量%の範囲であり、残部が(d)成分である。前記範囲で含有されることにより変質膜の剥離性、室温での剥離性、及び基板の腐食防止効果が向上する。特に剥離される基板が腐食され易い金属蒸着の基板、例えばAl、Al-Si、Al-Si-Cuなどの基板の場合には前記範囲とすることを必須とする。(a)成分が前記範囲より少ない場合には、変質膜の剥離性が低下し、多い場合には基板が腐食し易くなる。
【0014】
本発明のレジスト用剥離液組成物は、ネガ型及びポジ型レジストを含めてアルカリ水溶液を用いて現像できるレジストに有利に使用できる。前記レジストとしては、(i)ナフトキノンジアジド化合物とノボラック樹脂を含有するポジ型レジスト、(ii)露光により酸を発生する化合物、酸により分解しアルカリ水溶液に対する溶解性が増大する化合物及びアルカリ可溶性樹脂を含有するポジ型レジスト、(iii)露光により酸を発生する化合物、酸により分解しアルカリ水溶液に対する溶解性が増大する基を有するアルカリ可溶性樹脂を含有するポジ型レジスト、及び(iv)光により酸を発生する化合物、架橋剤及びアルカリ可溶性樹脂を含有するネガ型レジスト等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0015】
【発明の実施の態様】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0016】
【実施例】
実施例1
約1.0μmのAl-Si-Cu膜を蒸着したシリコンウエーハ上にナフトキノンジアジド化合物とノボラック樹脂からなるポジ型ホトレジストであるTHMR-iP3300(東京応化工業社製)をスピンナー塗布して、90℃で、90秒間のプレベークを施し、膜厚2.0μmのレジスト層を形成した。このレジスト層に縮小投影露光装置NSR-2005i10D(ニコン社製)を用いてマスクパターンを介してi線(365nm)を照射し、2.38重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液で現像し、ホール状のレジストパターンを形成した。
【0017】
次に、上記ホール状のレジストパターンを有する約1.0μmのAl-Si-Cu膜の蒸着したシリコンウエーハをエッチング装置TSS-6000(東京応化工業社製)を用い、塩素と三塩化硼素の混合ガスをエッチャントとして、圧力5mmTorr、ステージ温度20℃で168秒間エッチング処理し、次いで、酸素とトリフルオロメタンの混合ガスを用い、圧力20mmTorr、ステージ温度20℃で30秒間アフターコロージョン処理をした。前記処理後更にアッシング装置TCA-2400(東京応化工業社製)で、酸素ガスを用いて圧力0.3mmTorr、ステージ温度60℃の条件で150秒間のアッシング処理を行った。
【0018】
上記処理済シリコンウエーハを、エチレングリコール68.9重量%、水30重量%、フッ化アンモニウム1.0重量%及びフッ化水素0.1重量%からなる剥離液に23℃で20分間浸漬し剥離処理を行った。処理した基板を純水でリンス処理し、シリコンウェーハのアッシング残渣の剥離状態(変質膜の剥離性)、及びAl-Si-Cu膜の腐食状態をSEM(走査型電子顕微鏡)の写真観察により評価したところ、レジスト膜は基板の金属蒸着層を腐食することなく良好に剥離されていた。なお、前記剥離液のpHは8.0であった。
【0019】
実施例2
実施例1において、剥離液をジメチルスルホキシド/エチレングリコール(重量比で1/1)68.9重量%、水30重量%、フッ化アンモニウム1.0重量%及びフッ化水素0.1重量%の剥離液とした以外、実施例1と同様な剥離処理を行った。金属蒸着膜には腐食がなくレジスト膜が良好に剥離されていた。なお、前記剥離液のpHは8.0であった。
【0020】
実施例1において、剥離液の組成を表1に示すように代えた以外は、実施例1と同様にして変質膜の剥離性及び腐食性の評価を行った。その結果を表1に示す。表1において剥離性は、
○:剥離性良好、 ×:不完全な剥離
腐食の状態は
○:腐食なし、 ×:腐食あり
である。
【0021】
【表 1】

注)A・HF:フッ化アンモニウム塩
TMAH・HF:フッ化水素酸のテトラメチルアンモニウムヒドロキド塩
DMSO:ジメチルスルホキシド
PC:ピロカテコール
NH4F・HF:酸性フッ化アンモニウム
【発明の効果】
本発明は、過酷な処理条件で変質したレジスト膜であっても低温(室温)で短時間に剥離できるとともに、腐食され易いAl、Al-Si、Al-Si-Cu等の基板や周辺装置を腐食することがなく、しかも前記剥離液組成物は中性で取り扱いが安全であり、排気処理、廃液処理が容易に行えるレジスト用剥離液組成物である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-04-06 
出願番号 特願平11-170810
審決分類 P 1 651・ 4- YA (G03F)
P 1 651・ 113- YA (G03F)
P 1 651・ 121- YA (G03F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 佳与子  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 阿久津 弘
秋月 美紀子
登録日 2001-11-30 
登録番号 特許第3255623号(P3255623)
権利者 東京応化工業株式会社
発明の名称 レジスト用剥離液組成物  
代理人 酒井 宏明  
代理人 酒井 宏明  

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