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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B23K
管理番号 1099741
異議申立番号 異議2000-73656  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-01-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-27 
確定日 2004-06-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第3026362号「プローブステーションおよびレーザ切断のための多波長レーザ光学システム」の請求項1ないし15に係る特許に対する特許異議の申立てについてされた平成14年2月26日付け異議の決定に対し、東京高等裁判所において上記異議の決定中の請求項3ないし6、10、14に係る部分について決定取消の判決(平成14年(行ケ)第352号、平成16年2月25日判決言渡)があったので、さらに上記請求項3ないし6、10、14に係る部分について審理のうえ、次のとおり決定する。 
結論 特許第3026362号の請求項3ないし6、10、14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯・異議申立の概要・本件発明
1.手続の経緯
(1)本件特許第3026362号の請求項1ないし15に係る発明についての出願は、平成7年(1995年)2月9日(パリ条約による優先権主張1994年2月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成12年1月28日にこれらの発明について特許権の設定登録がなされた。
(2)本件の請求項1ないし15に係る特許に対して、異議申立人ホーヤ・コンテニュアム株式会社により、平成12年9月27日付けで特許異議の申立(異議2000-73656号)がなされ、平成14年2月26日付けで、「特許第3026362号の、請求項1ないし8、10、14、に係る特許を取り消す。同請求項9、11ないし13、15に係る特許を維持する。」とする異議の決定がなされた。
(3)上記異議の決定に対して、平成14年7月12日付けで東京高等裁判所に「特許庁が異議2000-73656号事件について平成14年2月26日にした決定のうち、特許第3026362号の請求項1ないし8、10、14に係る部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める訴え(平成14年(行ケ)第352号)が提起された。
(4)東京高等裁判所において、上記異議の決定のうち、「請求項3ないし6、10及び14に係る部分を取り消す。原告のその余の請求を棄却する。」とする判決(平成16年2月25日判決言渡)があった。
(5)そこで、本件請求項3ないし6、10及び14に係る特許について、さらに審理する。

なお、本件請求項1、2、7、8に係る特許の取消、及び、請求項9、11ないし13、15に係る特許の維持は、確定している。

2.異議申立の概要
本件請求項3ないし6、10及び14に係る特許に対する上記異議の申立の概要は、請求項3ないし6、10及び14に係る発明は、特許法第29条第2項、及び、同法第36条第4項又は第6項の規定により、それぞれ特許を受けることができない発明に該当すると主張し、証拠方法として甲第1号証及び甲第3号証ないし甲第6号証を提出している。
そして、請求項3に係る発明は、甲第3、4、6号証に開示された公知技術、及び甲第5号証の1〜3に開示された周知の技術に基いて、請求項4に係る発明は、甲第3、4号証及び甲第5号証の1〜3に開示された周知の技術に基いて、請求項5に係る発明は、甲第3、4、6号証に開示された公知技術、及び甲第5号証の1〜3に開示された周知の技術に基いて、請求項6に係る発明は、甲第1、3号証に開示された公知技術、及び甲第5号証の1〜3に開示された周知の技術に基いて、請求項10に係る発明は、甲第3、4号証及び甲第5号証の1〜3に開示された周知の技術に基いて、請求項14に係る発明は、甲第3、4、6号証に開示された公知技術、及び甲第5号証の1〜3に開示された周知の技術に基いて、それぞれ、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから特許を取り消すべき旨主張している。

3.本件発明
本件特許第3026362号の請求項3ないし6、10及び14に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項3ないし6、10及び14に記載された次のとおりのものであると認められる。なお、請求項6に係る発明は請求項1または2に係る発明を引用しているため、これら請求項1、2について下記( )内に掲げる。
「【請求項3】制御可能な減衰を伴う複数の波長を供給するためのレーザシステムであって:単一のビーム経路に沿って基本波長のビームを発生する固体レーザと;
単一のビーム経路内の一以上の非線形光学系であって、前記レーザによって発生されたビームを受信し、前記基本波長の複数の高調波を発生することが可能な非線形光学系と;
単一のビーム経路内の前記複数の高調波を受信し減衰することができる可変減衰器と;
前記出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備したシステム。
【請求項4】制御可能な減衰を伴う複数の波長を供給するためのレーザシステムであって、
単一のビーム経路に沿って、基本波長のビームを発生する固体レーザと;
単一のビーム経路内の前記基本波長の少なくとも一つの高調波を発生する一以上の非線形光学系であって、前記複数の波長のうち少なくとも一つの特定波長のウオークオフを生じさせる非線形光学系と;
複数の波長のそれぞれが、選択されたときに単一のビームライン上に供給されるようにウオークオフを補償する手段と;
前記出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備したシステム。
【請求項5】制御可能な減衰を伴う複数の波長を供給するためのレーザシステムであって、
基本波長のビームを単一のビーム経路に沿って発生し、受動的に空冷され、電子-光学的にQスイッチされるNd:YAGレーザと、
レーザによって発生されたビームを受信し、基本波長の二次高調波を発生することができる単一のビーム経路内の第一の非線形結晶と、
レーザによって発生されたビームを受信し基本波長の三次または四次高調波の少なくとも一つを発生することができる、単一のビーム経路内の第二の非線形結晶と、
レーザによって発生されたビームを受信し、基本波長、二次高調波ならびに三次および四次高調波の少なくとも一つを発生することができる単一のビーム経路内の可変減衰器と、
基本波長、二次高調波ならびに三次および四次高調波の少なくとも一つの中から、出力ビームの波長を選択するための切替可能な光学系とを具備したシステム。
【請求項6】前記レーザが、
ビーム経路に沿って基本波長のビームを発生する固体レーザと;
前記基本波長の複数の高調波を発生するビーム経路内の一以上の非線形光学系と;
前記複数の波長のためのビーム経路内の可変減衰器と;
前記複数の高調波および前記基本波長の中から、前記出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備した請求の範囲第1項または第2項に記載のシステム。
【請求項10】前記複数の波長が、基本波長、基本波長の二次高調波および基本波長の三次高調波が(「を」の誤記と認める。)含んでいる請求の範囲第4項または第9項に記載のレーザシステム。
【請求項14】前記複数の波長が、赤外領域の基本波長、可視領域の二次高調波ならびに紫外三次高調波および紫外四次高調波のうちの少なくとも一つを含んでいる請求の範囲第3項または第4項に記載のレーザシステム。」

(【請求項1】プローブステーションシステムであって:
ベースと;
分析または試験すべき装置を保持するために、前記ベースにマウントされたチャックと;
前記装置のためのプローブをマウントするために、前記ベースにマウントされたプローブテーブルと;
前記ベースにマウントされ、前記チャック上に保持された試験すべき装置の上に視野を有する顕微鏡と;
前記顕微鏡と共にマウントされ、ビームライン上の顕微鏡光学系を通して出力ビームを前記顕微鏡の視野へ供給するレーザであって、複数の波長で前記ビームライン上に選択的に出力ビームを発生する光学系を含んでいるレーザとを具備し、
前記顕微鏡が前記複数の波長に対して透明な光学系を含み、さらに、前記複数の波長が、出力ビームのための三つ以上の選択可能な波長が含んでいるシステム。
【請求項2】プローブステーションシステムであって:
ベースと;
対象を保持するために、前記ベースにマウントされたステージと;
前記対象のためのプローブをマウントするために、前記ベースにマウントされたプローブテーブルと;
前記ベースにマウントされ、前記ステージ上に保持された対象の上に視野を有する顕微鏡と;
前記顕微鏡と共にマウントされ、ビームライン上の顕微鏡光学系を通して出力ビームを前記顕微鏡の視野へ供給するレーザであって、複数の波長で前記ビームライン上に選択的に出力ビームを発生する光学系を含んでいるレーザとを具備し、
前記顕微鏡が、前記複数の波長において透明な光学系を含み、前記複数の波長が、出力ビームのための三以上の選択可能な波長を含んだシステム。)

第2 発明の進歩性について
1.引用刊行物記載の発明・事項
異議申立人の提出した各甲号証の記載事項は、各甲号証を刊行物1〜8として示すと次の如きものである。
(1)刊行物1(甲第1号証) 製品カタログ「レーザトリミング装置」(1989年1月印刷)、HOYA株式会社
刊行物1の「レーザトリミング装置LT-100」について、その「概要」及び「特徴」の記載を参照して「標準構成図」をみると、「レーザトリミング装置LT-100」の標準構成図には、試料を載置するXYステージとXYステージに取付けられるプローブカードと、試料に対して対物レンズを備えた顕微鏡と、顕微鏡に搭載したトリミングのための小型YAGレーザ発振器とを備えたレーザトリミング装置の構成が記載されている。
そして、レーザトリミング装置がXYステージ及び顕微鏡を支えるベースを備えていること、試料を載置して保持するためにはチャックが必要なこと、レーザトリミングするためにはYAGレーザ発振器の出力ビームがビームライン上顕微鏡光学系を通して顕微鏡の視野へ供給されなければならないことは明らかであるから、刊行物1には、
「ベースと、試料を保持するためのチャックを備え、前記ベースに支持されたXYステージと、XYステージに取付けられるプローブカードと、前記ベースに支持され、前記チャック上に保持された試料の上に視野を有する顕微鏡と、前記顕微鏡に搭載され、ビームライン上の顕微鏡光学系を通して出力ビームを前記顕微鏡の視野へ供給する小型YAGレーザを具備したレーザトリミング装置。」
の発明が記載されていると認める。
(2)刊行物2(甲第3号証) 特開平2-200389号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「レーザ光を被照射物に照射してレーザ加工を行なう場合、この被照射物の同一部分に溶融加工と変質加工(たとえば紫外線処理)などのように2つの加工を同時あるいは順次に行なうことがある。」(第1頁左下欄20行〜右下欄4行)
イ 「このレーザ発振部1はたとえばアレキサンドライトレーザヘッドの励起ヘッド2と、この励起ヘッド2の一方の端面に対向して配設された全反射ミラー3と、他方の端面に対向して配設された出力透過ミラー4とから構成されている。アレキサンドライトレーザのレーザ発振部1からは、・・・波長が750nmの基本波を発振させることができる。・・・β-BaB204の結晶からなり、上記基本波の一部分を波長が375nmの第2高調波に変換する波長変換素子5が位相整合を満たす角度で設置されている。・・・上記レ一ザ発振部1からは750nmの基本波と、375nmの第2高調波とが光軸を同じにして出力されるようになっている。・・・このコリメートレンズ系7で平行光に補正された基本波と第2高調波とは集束レンズ8、石英板9および波長選択板11を通って被照射物12を照射するようになっている。上記波長選択板11は基本波あるいは第2高調波のいずれか一方だけを透過させることができる。また、波長選択板11と上記石英板9とは図示しない駆動機構で光路に対して進退させることができるようになっている。」(第2頁右上欄17行〜右下欄10行)
ウ 「なお、上記一実施例ではアレキサンドライトレーザについて述べたが、波長が1.064μmのNd:YAGレーザの基本波を波長が0.532μmの第2高調波に変換する場合にもこの発明は適用することができ、レーザの種類に制限を受けるものではない。」(第3頁左下欄14〜18行)
上記ア〜ウの記載事項より刊行物2には、
制御可能な複数の波長を供給するためのレーザシステムであって、単一のビーム経路に沿って基本波のビームを発生するアレキサンドライトレーザ又はNd:YAGレーザの励起ヘッド2と、単一のビーム経路内の一以上の波長変換素子5であって、前記励起ヘッド2によって発生されたビームを受信し、前記基本波と第2高調波を発生することが可能な波長変換素子5と、出力ビームの波長を選択する波長選択板11とを具備したレーザ加工のための照射システム。
の発明が、記載されていると認められる。
(3)刊行物3(甲第4号証) 特開昭62-32674号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「第1図は全体としてレーザ加工装置を示すもので、1はレーザであり、例えばNd:YAGレーザが用いられ、レーザ光2(波長1.06[μm])が可変減衰器3に送られる。可変減衰器3は、レーザ光2に対する結晶の位相整合条件を制御することによって出力レーザ光6のエネルギーを制御するもので、第2図及び第3図に示すように、平行平面板状の第2高調波発生器17と、光軸補正板20と、ダイクロイックミラー19とからなる。」(2頁左下欄9〜18行)
イ 「第2高調波発生器17は、非線形光学効果を有する結晶体、例えば透明なKDP(リン酸二水素カリウム)からなり、基本波(波長1.06[μm])のレーザ光が入射したとき、基本波成分と第2高調波(波長0.53[μm])成分とでなる出射光18が得られる。」(2頁左下欄18行〜右下欄4行)
ウ 「第2高調波発生器17の出射光18のエネルギー強度は、KDP結晶子の方位と電場ベクトルの方向との位相整合条件に応じた値になり、位相整合がとれたとき最大値を呈するようになされている。第2高調波発生器17は、第2図、第3図の仮想軸38を中心にして入射光2に対して前後方向に回動し得るように回動自在に設けられ、かくして第2高調波発生器17の結晶と入射光との間の相対的位相関係を連続的に変更し得るようになされている。ここで、第2高調波発生器17を仮想軸38を中心に回動させると、第4図に示すようにある回動角の範囲内では回動角θが入射光2と結晶との間の位相整合がとれたマッチング回動角θ。になったとき出射光18のエネルギー強度が最大になり、回動角がこのマッチング回動角θ。からずれて行くに従って出射光18のエネルギー強度が低下して行く関係がみられる。その結果、第2高調波発生器17の出射光18のエネルギー強度は、回動角をマッチング回動角θ。を中心にして調整することにより制御することができる。」(2頁右下欄5行〜3頁左上欄6行)
エ 「かくして第2高調波発生器17から得られる出射光18のエネルギー強度が制御されるが、その際に回動角に応じた量だけ光軸が平行に位置ずれする(第3図参照)。この光軸の位置ずれは、ガラス材料でなる光軸補正板20によって補正され、その出射光39がダイクロイックミラー19に送出される。ダイクロイックミラー19は、光軸補正板20を通過したレーザ光39のうち、基本波を抜き出してトラップ4に導いて吸収させ、これにより、第2高調波成分だけを可変減衰器3の出力光6として送出する。」(3頁左上欄10行〜右上欄1行)
オ 第3図には、レーザ光2が傾斜した第2高調波発生器17に入射し、基本波と第2高調波とでなる出射光18が下方に光軸がずれて出射し、第2高調波発生器17と逆方向に傾斜したガラス材料でなる光軸補正板20に入射して、元の光軸に戻ったレーザ光39が出射することが示されている。
上記ア〜オの記載事項より刊行物3には、
レーザ光2に対する結晶の位相整合条件を制御する可変減衰器3が設けられ、基本波成分と第2高調波を供給するレーザ装置であって、1つのビーム経路に沿って、Nd:YAGレーザと、非線形光学効果を有する結晶体からなり、基本波のレーザ光が入射したとき、基本波成分と第2高調波成分を出射する第2高調波発生器17と、第2高調波発生器17によって生じた光軸の位置ずれを補正する光軸補正板20を備えたレーザ装置。
の発明が記載されていると認められる。
(4)刊行物4(甲第5号証の1) 特開平2-126242号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「従来、第6図に示すように、Nd-YAGレーザ発振器(1)から1064nmのレーザ光を第1の非線形光学結晶(2)に入射すると、この基本波の第2高調波である532nmの光が発生し、さらにこの第2高調波と基本波を第2の非線形光学結晶(3)に入射させて第3高調波である355nmの光が発生する現象は第3高調波発生装置として知られている。」(第2頁左上欄2〜8行)
(5)刊行物5(甲第5号証の2) 特開平2-301178号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「一方、個体レーザは、・・・・・波長が1.06μmのNd:YAGレーザであり、」(第1頁右下欄17〜20行)
イ 「第17図に、従来の波長変換の一例の光路図を示す。図において、レーザ装置は、基本波長ω=1.06μm用の反射鏡6a及び6bよりなる共振器内に、レーザ物質からなる固体ロッドと励起用ランプを配置したランプハウス1を置いて構成されている。通常、反射鏡6bは、反射率として50%程度のものが用いられる。反射鏡6bより出射した基本波長ω=1.06μmのレーザ光は、第2高調波2ωへの波長変換素子4により波長2ω=0.53μmの光に変換され、更に第4高調波4ωへの波長変換素子5により波長4ω=0.266μmの光に変換される。
変換効率は、10〜20ns.0.5Jのレーザ光の場合に、第2高調波で60%、第4高調波では20%程度である。
又、第5高調波5ω=0.2128μmの、更に短波長の光を必要とする場合は、残りのω=1.06μmの光と4ω=0.266μmの光とを、第5高調波5ωへの波長変換素子8に通し、第5高調波5ω=0.2128μmの光へと変換する。この場合、波長変換効率は10%程度である。」(第2頁左上欄4行〜右上欄4行)。
ウ 「第1図は、本発明の第1実施例を示す光路図である。本実施例において、レーザ装置の共振器は反射鏡2a及び2bにより構成され、この共振器内に1つのランプハウス1を置いて、レーザ装置が構成されている。前記ランプハウス1としては、固体ロッド1本と励起ランプ1本とからなる装置を用い、又、第1実施例には簡単のため記入していないが、Qスイッチをかけ、パルス幅を10〜20nsと短くしている。」(第2頁右下欄9〜18行)
(6)刊行物6(甲第5号証の3) 特開昭64-64280号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「アレキサンドライトをレーザ媒質としたレーザ発振器と、このレーザ発振器から放出されたレーザ光の光路上に所定の間隔をおいて対向しかつ上記レーザ光の各波長に対して位相整合する角度で上記光路の進行方向に従って順次設置された第1、第2の非線形光学素子と、これら非線形光学素子間に位置し上記第2の非線形光学素子に上記レーザ光の基本波と第2高調波との和周波発生のための偏光が整合するように設置された旋光性物質とを備えた構成とし、旋光性物質によって偏光を揃えて再度非線形光学素子を通過させ3倍高調波を得るようにしたものである。」(第2頁右上欄7〜18行)
イ 「第1図は本発明の第1実施例で、第2図に示した要素と同一のものには同一符号が付してある。すなわち、レーザ発振器(1)を有し、このレーザ発振器(1)から放出されたレーザ光(L)の光路に第1の非線形光学素子(2)、水晶からなる旋光性物質(10)および第2の非線形光学素子(8)をレーザ光の進行に従って順次同軸的に配置した構成としたものである。」(第2頁左下欄2〜8行)
(7)刊行物7(甲第6号証) 「オプトロニクス技術活用のための光学部品の使い方と留意点」、著者 末田哲夫、昭和60年9月20日発行、発行所 株式会社オプトロニクス社、第68〜77頁には、次の事項が記載されている。
ア 波長選択の基礎技術として、「波長選択は・・・複数の波長で発振するレーザ・・・に必要な機能となる。」(第70頁最終行〜第71頁1行)との記載及び第74頁の「図‐2.8種々のフィル夕の変換方式」の左側の「[円形ターレット]多数のフィルタを切り変える場合に用いる。回転して任意のフィルターを選択する。」との記載がある。

2.対比・判断
(1) 請求項3に係る発明
請求項3に係る発明(前者)と刊行物2に記載の発明(後者)を比較すると、両者は、次の点で相違し、残余の点で一致している。
ア 前者は固体レーザが基本波長のビームを発生するものであり、非線形光学系は固体レーザの外部に設けられているのに対し、後者はレーザの励起ヘッドと非線形光学系とによりレーザ発振部が構成されている(すなわち、レーザ共振系の内部に非線形光学系が設けられている。)点。(相違点1)
イ 前者の非線形光学系は複数の高調波を発生することが可能であるのに対し、後者は一つの高調波のみを発生する点。(相違点2)
ウ 前者は単一のビーム経路内の複数の高調波を受信し減衰することができる可変減衰器を有しているのに対し、後者はこのような可変減衰器を有していない点。(相違点3)
これら相違点のうち相違点3について検討する。
刊行物3の記載によれば、刊行物3の可変減衰器3は第2高調波発生器17等で構成され、第2高調波発生器17の非線形光学結晶体を傾斜させることにより位相整合条件を変化させ、発生する第2高調波の強度を制御するものであると認められる。そうすると、上記可変減衰器は、非線形光学結晶体を傾斜させることにより第2高調波を減衰させた上、これを出力ビームとして使用するものであるとはいえるが、元来基本波である入射光自体の強度を減衰させることを目的とするものではないというべきである。他方、本件請求項3に係る発明における可変減衰器は、「単一のビーム経路内の複数の高調波を受信し減衰することができる可変減衰器」であり、単一のビーム経路内の複数の高調波を受信し、その受信した複数の高調波自体を減衰することができるものと解されるから、前記刊行物3記載の可変減衰器と異なるものであることは明かである。
以上のとおり、刊行物3に記載の可変減衰器は、本件請求項3に係る可変減衰器とは異なるものであるから、これを刊行物2に記載の発明に適用しても、相違点3に係る本件請求項3に係る発明とはならない。また、本件請求項3に係る可変減衰器は、いずれの刊行物にも記載も示唆もされておらず、該可変減衰器が周知であるとの証拠も見出せないから、他の相違点1、2について検討するまでもなく、本件請求項3に係る発明は、上記各刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2) 請求項4に係る発明
請求項4に係る発明(前者)と刊行物3記載の発明(後者)を比較すると、両者は次の点で相違し、残余の点で一致している。
ア 前者は、出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系を有しているのに対し、後者はこのような光学系を有しない点。(相違点4)
イ 前者は、前記複数の波長のうち少なくとも一つの特定波長のウオークオフを生じさせる非線形光学系と、複数の波長のそれぞれが、選択されたときに単一のビームライン上に供給されるようにウオークオフを補償する手段とを具備しているのに対し、後者は、第2高調波発生器17の非線形光学系により生じた光軸の位置ずれを、光軸補正板20により補正するものの、光軸の位置ずれが「ウオークオフ」であるか否かについて明らかでない点。(相違点5)
ウ 前者は、出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系を有しているのに対し、後者は当該構成を備えていない点。(相違点6)
これら相違点のうち相違点5について検討する。
刊行物3の前記1.(3)アの記載によれば、刊行物3記載の発明の可変減衰器においては、基本波が入射される第2高調波発生器17は、その回動角に応じた量だけ、基本波と第2高調波とでなる出射光18の光軸を平行に位置ずれさせ、この光軸の位置ずれを、ガラス材料でなる光軸補正板20を逆方向に回動させることによって補正する構成が採用されていると認められる。そして、刊行物3の第3図には、第2高調波発生器17からの出射光18には、基本波と第2高調波とが同一光軸にあり、また、光軸補正板20からの出射光39においても、基本波と第2高調波とが同一光軸にあることが示されている。そうすると、刊行物3発明において、第2高調波発生器17からの出射光18の光軸が入射光2の光軸とずれているのは、非線形光学結晶体の複屈折によるものではなく、非線形光学結晶体が平行平面板であり、回動により傾斜したことに起因するものであることは明らかである。また、仮に、第2高調波発生器17からの出射光18のうち、第2高調波の光軸が基本波の光軸とずれているとするならば、このずれをガラス材料でなる光軸補正板20の回動によって再び基本波と同じ光軸に一致させるよう補償することは不可能である。
これに対し、本件明細書には、「3次高調波または4次高調波を発生させるための非線形結晶109が高調波波長のウオークオフを生じ、約0.5ミリメータだけビーム経路105からづれる。顕微鏡がマウントされたレーザシステムにおいて、全ての選択された波長について、出力ビームが同一のビームラインに沿って顕微鏡の視野の中に進まなければならない場合、このウオークオフは極めて重大である。」(7頁右欄23〜29行)、「3次高調波または4次高調波を選択するために用いるフィルタ117を傾けることによって、このウオークオフは修正される。」(7頁右欄30〜32行)、「ウオークオフを修正するために、3次高調波または4次高調波を選択するフィルタ201は、傾斜してマウントされる。」(8頁右欄8〜10行)と記載されており、これらの記載からすれば、本件請求項4に係る発明における「ウオークオフ」は、非線形結晶の複屈折により、異常光である高調波と常光である基本波とが分離し、高調波の光軸のみが位置ずれするものであると認められる。
したがって、刊行物3には、本件請求項4に係る発明における「ウオークオフ」についての開示はなく、当該ウオークオフについて、「複数の波長のうち少なくとも一つの特定波長のウオークオフを生じさせる非線形光学系」及び「複数の波長のそれぞれが、選択されたときに単一のビームライン上に供給されるようにウオークオフを補償する手段」も記載されていないから、刊行物3に記載の発明に刊行物2に記載の発明を適用しても、相違点5に係る本件請求項4に係る発明とはならない。また、本件請求項4に係る「複数の波長のうち少なくとも一つの特定波長のウオークオフを生じさせる非線形光学系」及び「複数の波長のそれぞれが、選択されたときに単一のビームライン上に供給されるようにウオークオフを補償する手段」は、いずれの刊行物にも記載も示唆もされておらず、該非線形光学系、及びウオークオフを補償する手段が周知であるとの証拠も見出せないから、他の相違点4、6について検討するまでもなく、本件請求項4に係る発明は、上記各刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3) 請求項5に係る発明
請求項5に係る発明(前者)と刊行物3記載の発明(後者)を比較すると、両者は次の点で相違し、残余の点で一致している。
ア 前者のNd:YAGレーザは、受動的に空冷され、電子-光学的にQスイッチされるのに対し、後者はこの構成が不明である点。(相違点7)
イ 前者は、レーザによって発生されたビームを受信し基本波長の三次または四次高調波の少なくとも一つを発生することができる、単一のビーム経路内の第二の非線形結晶を有しているのに対し、後者は、このような第二の非線形結晶を有していない点。(相違点8)
ウ 前者は、可変減衰器が、基本波長、二次高調波ならびに三次および四次高調波の少なくとも一つを発生することができるのに対し、後者は、このようになっていない点。(相違点9)
エ 前者は、基本波長、二次高調波ならびに三次および四次高調波の少なくとも一つの中から、出力ビームの波長を選択するための切替可能な光学系を有しているのに対し、後者は、このようになっていない点。(相違点10)
オ 前者は、出力ビームの波長を選択するための切替可能な光学系を有しているのに対し、後者は当該構成を備えていない点。(相違点11)
これら相違点のうち相違点9について検討する。
本件請求項5に係る発明は「基本波長、2次高調波ならびに3次および4次高調波の少なくとも1つの中から、出力ビームの波長を選択するための切替可能な光学系」を具備していることが記載されており、この記載箇所における「基本波長、2次高調波ならびに3次および4次高調波の少なくとも1つ」が3つ以上の波長を意味することは明らかであり、また、可変減衰器が1つの波長しか発生しないのであれば、切替可能な光学系は不要であることを考慮すれば、上記可変減衰器は、3つ以上の波長を発生するものに限られると解するのが相当である。
これに対して、前記2.(1)において相違点3について述べたとおり、刊行物3には、レーザ光2に対する結晶の位相整合条件を制御する可変減衰器3が記載されているものの、その構成要素である第2高調波発生器17の非線形光学結晶体を傾斜させることにより、発生する第2高調波の強度を制御するものである。
そうすると、刊行物3に記載の可変減衰器は、本件請求項5に係る可変減衰器とは異なるものであるから、これを刊行物2に記載の発明に適用しても、相違点8に係る本件請求項5に係る発明とはならない。また、本件請求項5に係る可変減衰器は、いずれの刊行物にも記載も示唆もされておらず、該可変減衰器が周知であるとの証拠も見出せないから、他の相違点7、8、10、11について検討するまでもなく、本件請求項5に係る発明は、上記各刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4) 請求項6に係る発明
請求項6に係る発明は、請求項1または2を引用し、「前記レーザが、ビーム経路に沿って基本波長のビームを発生する固体レーザと;前記基本波長の複数の高調波を発生するビーム経路内の1以上の非線形光学系と;前記複数の波長のためのビーム経路内の可変減衰器と;前記複数の高調波および前記基本波長の中から、前記出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備」したことを限定するものである。
上記の限定のうち、「前記複数の波長のためのビーム経路内の可変減衰器」は、基本波及び複数の高調波が入射され、それらを減衰する可変減衰器と解すべきであることは、請求項6の記載に照らし明らかである。そして、刊行物3記載の可変減衰器は基本波が入射され、2次高調波を減衰させるものであること、複数の波長のレーザに対応する可変減衰器は、いずれの刊行物にも記載も示唆もされておらず、また、該可変減衰器が本件出願前に周知であるとの証拠がないことも前記2.(1)に説示のとおりであるから、本件請求項6に係る発明の構成は、上記各刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(5) 請求項10に係る発明
請求項10に係る発明は、請求項4または9を引用し、「前記複数の波長が、基本波長、基本波長の二次高調波および基本波長の三次高調波含んでいる」ことを限定したものである。そして、前記2.(2)に説示したとおり、本件請求項4に係る発明が進歩性を有すること、また、平成14年2月26日付け異議の決定に説示したとおり、本件請求項9に係る発明は進歩性を有することから、複数の波長について限定した上記の点について検討するまでもなく、請求項4及び請求項9を引用する本件請求項10に係る発明は当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(6) 請求項14に係る発明
請求項14に係る発明は、請求項3または4を引用し、「前記複数の波長が、赤外領域の基本波長、可視領域の二次高調波ならびに紫外三次高調波および紫外四次高調波のうちの少なくとも一つを含んでいる」ことを限定したものである。そして、前記2.(1)(2)に説示したとおり、本件請求項3、4に係る発明が進歩性を有することから、複数の波長について限定した上記の点について検討するまでもなく、請求項3または4を引用する本件請求項14に係る発明は当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第3 明細書の記載不備について
1. 請求項3
(1)「一以上の非線形光学系」は、その機能として「基本波長の複数の高調波を発生する」ことが限定されているのであり、その光学系内の非線形光学結晶の数を限定するものではない。また、本件明細書5頁左欄20〜28行には、「基本波長の少なくとも一つの高調波を発生するために、一以上の非線形光学系ビーム経路上にマウントされる。このレーザは、赤外領域・・・緑色領域・・・紫外領域・・・の出力を供給する、コンパクトで振動のない系を与える。これらの波長は・・・基本出力波長、該レーザの二次高調波、並びに三次高調波または四次高調波に対応している。」と記載されている。してみれば、「一以上の非線形光学系」なる記載によって特許請求の範囲の記載が格別に不明確になるというものではない。
(2)「前記出力ビームの波長」は、明らかに「出力ビームの波長」の誤記と認められる。そして、この程度の誤記であれば、それによって特許請求の範囲の記載が不明確になるというものではない。

2. 請求項4
(1)「ウオークオフを生じさせる非線形光学系」について、本件明細書非線形光学結晶の種類によってウオークオフが無視できる程度であるものと、無視できない程度のものがあるのであり(本件明細書7頁右欄23〜36行)、請求項4においては、生じたウオークオフを補償する手段が具備されていることからすれば、「ウオークオフを生じさせる非線形光学系」は、非線形光学系として、無視できない程度のウオークオフが生じるものであることを限定したものと解釈するのが妥当である。したがって、この記載によって特に特許請求の範囲の記載が不明確になるというものではない。
(2)「前記出力ビームの波長」については、上記1.(2)記載のとおりである。

3. 請求項5
「レーザによって発生されたビームを受信し、基本波長、二次高調波ならびに三次および四次高調波の少なくとも一つを発生することができる単一のビーム経路内の可変減衰器」について、本件明細書5頁左欄29〜31行に「可変減衰器は複数の波長のためのビーム経路におかれ、これによって使用者は、全ての出力波長の強さを制御することができる。」と記載されており、また、本件明細書第5頁右欄22〜25行に「基本波長、二次高調波、並びに三次高調波および四次高調波の少なくとも一つのためのビーム経路に、可変減衰器がマウントされる。」と記載されている。

4. 請求項6
(1)「前記複数の波長のためのビーム経路内の可変減衰器」については、上記3.記載のとおりである。
(2)「前記出力ビームの波長」ついては、上記1.(2)記載のとおりである。
なお、請求項6で引用している請求項2には記載不備な点はない。

5. 請求項10
請求項10で引用している請求項4に記載不備がない点については、上記2.のとおりである。
なお、同請求項10で引用している請求項9にも記載不備な点はない。

6. 請求項14
請求項14で引用している請求項3、請求項4に記載不備がない点については、上記1.及び2.記載のとおりである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項3ないし6、10及び14に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件請求項3ないし6、10及び14に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項3ないし6、10及び14に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認められない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-02-26 
出願番号 特願平7-521854
審決分類 P 1 651・ 534- Y (B23K)
P 1 651・ 121- Y (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加藤 昌人田中 永一  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 稲積 義登
上原 徹
神崎 孝之
宮崎 侑久
登録日 2000-01-28 
登録番号 特許第3026362号(P3026362)
権利者 ニュー ウェーヴ リサーチ
発明の名称 プローブステーションおよびレーザ切断のための多波長レーザ光学システム  
代理人 大塚 文昭  
代理人 池田 憲保  
代理人 村社 厚夫  
代理人 竹内 英人  
代理人 今城 俊夫  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 中村 稔  
代理人 小川 信夫  
代理人 後藤 洋介  

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