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審決分類 審判 一部申し立て 特29条の2  G09B
管理番号 1099755
異議申立番号 異議1999-73441  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-09-09 
確定日 2004-07-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第2869472号「地図表示方法及び装置」の請求項1ないし8、17ないし20に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2869472号の請求項1ないし8、17ないし20に係る特許を取り消す。 
理由 【手続きの経緯】
本件特許第2869472号の請求項1ないし20に係る発明についての出願は、平成2年1月10日(優先日1989年1月11日)に出願され、平成11年1月8日にその特許の設定登録がなされ、その後、鈴木秀雄、中沢 尚、須田 武、萩原聖巳、株式会社デンソー、中澤佳樹より特許異議の申し立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成12年9月25日に訂正請求書(及び意見書)が提出された後、訂正拒絶理由が通知され、それに対して特許異議意見書が提出されたものである。

【2】訂正の適否について
ア.訂正の内容
(1)訂正事項1
旧請求項1の「乗物の位置に応じてデータ構造から地形情報を選択し地形図の一部分を表示する方法において、地形情報は乗物が走行しうる地球の略々2次元的に表わした地表の一部分内の種々の点の座標を含み、地図の一部分を座標変換によって乗物の外部にあって地表の該当部分の上方に位置する見かけの視点から見た投影図で透視図的に表示する」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「地球表面を走行する乗物の位置に応じてデータ構造から地形情報を選択し地形図の一部分を表示する方法において、地形情報は乗物が走行しうる地球の略々2次元的に表わした地表の一部分内の種々の点の座標を含み、地図の一部分を座標変換によって乗物の外部且つ上方に位置する見かけの視点から見た投影図で透視図的に鳥瞰図として表示し、且つ鳥瞰図上に最適ルートを表示し、且つ乗物の現在位置に対する見かけの視点の位置を固定にすることを特徴とする地図表示方法。」と訂正する。
(2)訂正事項2乃至10
上記訂正請求書の訂正事項2乃至10に記載されたとおりのものである。

イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

ウ.独立特許要件についての判断
上記訂正請求書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明」という。)に対する独立特許要件につき、以下に検討する。
a.引用先願明細書及び周知文献例
・(先願明細書)
特願昭63-91621号(特開平1-263688号)
・(周知文献例)
1.特開昭58-169700号公報(公開:1983年10月6日)
2.特開昭61- 95386号公報(公開:1986年5月14日)
3.特開昭62-243029号公報(公開:1987年10月23日)

上記本件訂正発明に対し、当審が訂正拒絶理由で通知した上記先願明細書には、図面、特に第1、7図と共に、以下の事項が記載されている。
a.「(技術分野)本発明はナビゲーション用地図表示装置に関する。本発明は特に自動車の運転に必要な地図を必要に応じて表示するナビゲーション用地図表示装置に関し、運転者に自己の位置と他の各種目標ないし地点との関係を適確に提供する」(第1頁下段右欄第1-6行。以下、「記載a」という。)
b.「(技術的背景)自動車等の乗物の運転ないし操縦において必要なのは自己の現在位置とその周辺の状況、及びこれらと目標地点に至る地理情報である。しかし、視界は限られているから・・(中略)・・更新・確認しつつ運転を行うものである。ディスプレー装置へ表示する方法として考えられるのは地図データを階層化し所望の縮尺度で表示することである。例えば異なった3種の縮尺のデータ組を記憶しておき、現在位置または指定点を含む任意の階層の1つの地図を選択して表示すれば良い。しかし、この方式では全体に対する自己位置の関係の認識には思考と判断を必要とするから、連続的に短時間で適確な判断を下し難い。」(第1頁下段右欄第7行-第2頁上段右欄第3行、「記載b」。)
c.「(発明の目的)従って本発明の目的は、隣接地域のみならず遠方地域ないし指標物(例えば駅、公園、幹線路など)との関係が同時に表示しうるナビゲーション地図表示装置を提供することにある。」(第2頁上段右欄第4-8行、「記載c」。)
d.「より詳しく述べれば、本発明はディジタル座標化された地図データベースから情報を読み取り、・・(中略)・・前記異なった階層の地図データの表示域間の境界部分は整合させて表示される上記地図表示装置を提供する。」(第2頁上段右欄第20行-同下段左欄第12行、「記載d」。)
e.「すなわち、地図データが2次元情報のみで表示されるものとすれば、アドレスを乗物の現在位置または特定位置等の基準地点(0、0)からの距離ベクトルRの座標(x、z)とし、これを結び合わせて線又は面を表現し、道路も表示する。」(第2頁下段左欄第18行-同右欄第2行、「記載e」。)
f.「上記の固定された地図データは、透視図の原理で選択的に、読出され、ディスプレー画面上の点に表示される。この方法には幾つかの例が考えられる。透視図はあたかも窓枠を通して全景を見るような遠近表示が最も人の通常の知覚様式に合うことが考えられるが、精粗表示ができればどんな方式でも良いと考えられる。」(第2頁下段右欄第9-16行、「記載f」。)
g.「平面透視図方式 第1図は平面透視方式の原理を示す。図中1は透視画面であり、2は平面投影地図である。今地図平面より高さy0、画面中心よりfのところから地図2上の点P(x、z)を見たとき視線が画面1と交差する点Q(xS、yS)が透視点である。明らかにxS=xf/(f+z)、及びyS=y0z/(f+z)で表わされ、乗物位置からの距離x、zがナビゲーション標識(人工衛星など3個所より発信される電波、或いは道路の主要点に放置された位置報知装置などからの情報電波など)と地図データの差から分かると直ちにxS、ySは求められる。実施例はこれを簡略化した方式であり、後で詳しく説明する。」(第3頁上段左欄第14行-同右欄第7行、「記載g」。)
h.「階層地図データ 第1図に示した平面透視図を簡略して画面表示することを考える。他の方式は・・(中略)・・ディスプレイ表示を行うためである。この関係を第5図に示す。図中11は第1階層の第1フィールドを示し、例えば50Km四方を1フィールドとして全国を分割する。データは粗地データとしてROMの1フィールドに記憶されている。12は第2階層地の1フィールドを示し、、例えば5Km四方を1フィールドしており、中間精度地図データとしてROMの1フィールドに記憶されている。13は第3階層の1フィールドを示し、例えば0.5Km四方を1フィールドとしており、精密地図データとしてROMの1フィールドに記憶されている。」(第3頁下段左欄第9行-同右欄第8行、「記載h」。)
i.「制御装置 これらのデータは第6図に概略的に示す装置により呼び出されてCRTディスプレイに表示される。20は例えば・・(中略)・・操作スイッチ等である。方位センサ25からは外部の標識から乗物の方位が周期的に入力され、それを基準にしてCPUにより乗物の方向転換に応じた修正を行って常に現在の方位をRAMに記憶しておき、CPUにより地図データの読取りの方位修正を行う。距離センサ26も外部標識から周期的に得られ、それを基準としてCPUにより方位信号と併用して自己位置のRAMへの記録を行い、CPUにより読出すべき地図フィールドの選択を自動的に行わせる。」(第3頁下段右欄第9行-第4頁上段左欄第12行、「記載i」。)
j.「表示画面の構成 階層データを使用して第1図の平面透視図方式で表示画面を構成する方法の1例を次に示す。第7図のように・・(中略)・・平面地図データ11,12,13から構成する。第7図を参照すると、3階層の地図データは平面透視法の関係式 xS=xf/(f+z)、yS=y0z/(f+z)(ただし、x、zは乗物の現在位置と階層地図データ上の位置との差を、乗物の現在の方位に従って座標変換した値を用いる)に従って修正され、これにより各階層地図11,12,13はディスプレイの14,15,16上ではそれぞれ台形17,18,19内の一部として表示されることになる。」(第4頁下段左欄第17行-同右欄第16行、「記載j」。)
これらの記載において、まず上記記載iによれば、自動車等の乗物の位置に応じて地図データベースから読出すべき地図フィールドの選択が自動的に行われ、全体の地図から見れば地図の一部分を表示する方法が記載されたものであること、及び、その地図データが、乗物が走行しうる地球の略々2次元的に表わした地表の一部分内の種々の点の座標を含むことは自明である。
また、その地図情報(データ)は、ディジタル情報として予め地図データーベース(CD-ROM)に記憶されたものであり、アドレスを乗物の現在位置または特定位置等の基準地点(0、0)からの距離ベクトルRの座標(x、z)とし、これを結び合わせて線又は面を表現し、道路も表示する(記載e)ものであって、該固定記憶された地図データは、透視図の原理で選択的に、読出され、ディスプレー画面上に表示され(記載f)るものであり、その透視図の原理として、例えば第1図の平面透視図方式が開示されている。
そして、先願明細書には上記記載j、即ち「第7図を参照すると、3階層の各地図データは平面透視法の関係式xS=xf/(f+z)、yS=y0z/(f+z)(ただし、x、zは乗物の現在位置と階層地図データ上の位置との差を、乗物の現在の方位に従って座標変換した値を用いる)に従って修正され、これにより各階層地図11,12,13はディスプレイの14,15,16上ではそれぞれ台形17,18,19内の一部として表示されることになる。」との記載がある。{なお上記記載gには「乗物位置からの距離x、zがナビゲーション標識(人工衛星など・・省略・・)と地図データとの差から分かると直ちにxS、ySは求められる。」との記載も存在する。}
この記載jは、先願明細書の階層地図データの基準地点、即ち、該階層地図データの座標値x、zの基準地点(原点)が乗物の現在位置であること、及び、該乗物の現在位置を表わす基準地点とともに該階層地図データの座標値x、z(当然、地球表面の座標系で表されていると解される。)が乗物に固定された座標系での座標値に変換されたものであることを、同時に、かつ明確に示すものに他ならない。そしてまた、平面透視方式の原理を示す第1図と、該第1図を説明する上記記載gを参酌すると、xS=xf/(f+z)、yS=y0z/(f+z)として、上記記載jにおける(xS、yS)は階層地図データの座標値(x、z)を平面透視方式の原理に従ってディスプレイ上に表示された(透視点の)座標値に変換した値であることは明らかであるから、上記記載jは同時にまた、ディスプレイ上に表示された該透視点の座標値(xS、yS)も乗物に固定された座標系の座標値に変換されたものであることを明確に示すものであり、従ってまた必然的に、第1図における地図平面より高さy0、画面中心よりfのところ、即ち視点の位置も、乗物に固定された座標系に変換されたものとなることを明確に示すものである。
したがって、先願明細書の地図表示方法が乗物の現在位置に対する視点の位置を固定にするものであることは、先願明細書に記載されている。
以上のことから、上記先願明細書には、自明の事項も含め少なくとも以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認める。
「自動車等の乗物の位置に応じて地図データベースから地図情報を選択し地図の一部分を表示する方法において、地図情報は乗物が走行しうる地球の略々2次元的に表わした地表の一部分内の種々の点の座標を含み、地図の一部分を座標変換によって、視点(第1図、地球平面より高さy0、画面中心よりfのところ)から見た投影図で透視図的に表示し、且つ乗物の現在位置に対する視点の位置を固定にすることを特徴とする地図表示方法。」
b.対比・判断
(対比)
本件訂正発明(前者)と先願発明(後者)とを対比する。
まず、前者の「地球表面を走行する乗物」について、本件特許公報には「地球表面を走行する乗物(例えば自動車又は船)のユーザにとって」(同特許公報第2頁コラム4第1行)と記載されており、前者の「地球表面を走行する乗物」は後者の「自動車等の乗物」に相当する。そして、前者の「地形情報」及び「地形図」という場合の「地形」につき、本件特許公報には該「地形」を格別定義する文言は見あたらず、前者の「地形情報」及び「地形図」はそれぞれ後者の「地図情報」及び「地図」に相当するものと認められ、また、前者の「データ構造」は後者の「地図データベース」に相当する。
以上のことから、本件訂正発明と先願発明とは少なくとも
「地球表面を走行する乗物の位置に応じてデータ構造から地形情報を選択し地形図の一部分を表示する方法において、地形情報は乗物が走行しうる地球の略々2次元的に表わした地表の一部分内の種々の点の座標を含み、地図の一部分を座標変換によって視点から見た投影図で透視図的に表示し、且つ乗物の現在位置に対する視点の位置を固定にすることを特徴とする地図表示方法。」である点で一致し、以下の2点で一応相違する。
・相違点1:
本件訂正発明では、地図の一部分を座標変換によって乗物の外部且つ上方に位置する見かけの視点から見た投影図で透視図的に鳥瞰図として表示するのに対し、先願発明では、地図の一部分を座標変換によって視点(第1図の地図平面より高さy0、画面中心よりfのところ)から見た投影図で透視図的に表示する点。
・相違点2:
本件訂正発明では、前記鳥瞰図上に最適ルートを表示するのに対し、先願発明ではかかる最適ルートを表示する構成は記載されていない点。
(判断)
上記一応の相違点につき、以下に検討する。
・相違点1について:
先願明細書の上記記載i及びjによれば、その表示画面(CRTディスプレイ23)に、少なくともその精度の最も粗い第1階層地図データ11が平面透視図方式によって表示されることが明記され、その第1階層地図データ11は、例えば50Km四方を1フィールドとしてROMの1フィールドに記憶されていることが記載されている。そうすると、このように50Km四方を1フィールドとして平面透視図法によって表示画面に十分に識別できる(即ち、人が利用できる)地図として表示できる視点の高さは、自動車の外部且つ上方に位置するほど十分高くならなければならないこと、したがってまた、その平面透視図は鳥瞰図(即ち、高い所から見下ろしたように描いた地図)として表示されるものとなることは、当業者に自明のことというべきである。よって、先願発明は当然本件発明の上記相違点1の構成を備えていると解されるので、該相違点1は実質的なものとはいえない。
・相違点2について:
本件訂正発明や先願発明のような(地球表面を走行する乗物の)地図表示方法において、表示された地図上に最適ルートを表示する点は本件出願前周知・慣用の技術である。(なお、この点につき要すれば、上記周知文献1ないし3等、参照。)
そして、本件訂正発明は表示された鳥瞰図に上記周知・慣用の技術を適用したものに相当し、その点に格別の効果を認めることもできないから、本件訂正発明の上記相違点2は単なる周知・慣用技術の付加にすぎない。
c.まとめ
したがって、本件訂正発明は、その出願の日前の出願であって、その出願後に公開された上記先願明細書に記載された発明と同一であると認められ、しかも、本件訂正発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、この出願の時において、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件訂正発明は特許法第29条の2第1項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

エ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項で準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

オ.特許権者の特許異議意見書における主張について
特許権者は、平成13年5月17日付提出の特許異議意見書において、訂正後の本件請求項1に係る発明と先願明細書に記載された発明との対比に関し、大略以下4点の主張をしているので、これら各主張につき検討する。
(1)「先願明細書には、電子マップのデータを、該データが乗物から遠方に遠くなるに従い・・・(中略)・・・ところが、視点が乗物の内部にあっても、500m四方程度であれば十分に視認できる範囲であります。したがって、この記載をもって視点が乗物の外部且つ上方にあることを一義的に導き出せるものではありません。」(上記意見書第2頁第21行-第3頁第8行、以下、この主張を「主張1」という。)
(2)「むしろ透視図表示に関する出願当時の技術水準を見ますと、視点を乗物の内部に位置させて・・・(中略)・・・これら文献から明らかなように、透視図表示を行うシステムに関し、先願明細書の出願時における技術常識は、透視図表示に対する視点が乗物の内部に位置するものであります。」(同第3頁9-24行、「主張2」。)
(3)「しかしながら先願明細書公開公報第3頁左上欄15行にも記載されておりますように第1図はあくまで平面透視図法の原理図であり、実際の先願発明の構成とは別のものであります。例えば先願明細書の実施例では・・・(中略)・・・あっても良いものであります。基準地点(0,0)は透視画面1上においてどこの点を指すのか全く不明瞭なものであります。まして、基準地点(0,0)は透視画面1上の固定点であるかどうかも不明瞭なものであります。」(同第5頁第12行-第6頁第15行、「主張3」。)
(4)「しかしながら、審判官殿が引用した・・・(中略)・・・引用文献1〜3に記載の技術を先願明細書に単に付加しても、例え組合わせたとしても、そのような構成は決して導かれるものではありません。」(同第7頁第2行-第8頁第17行、「主張4」。)
(5)「先願明細書に審判官殿が認定した相違点についての記載が全くない以上、先願明細書の発明に・・・(中略)・・・最適ルートを表示すること自体が先願の出願日及び本願の優先日の時点で周知事項(技術常識)ではなかったものと思料いたします。」(同第8頁第26行-第9頁第13行、「主張5」。)
特許権者の上記各主張につき、以下に検討する。
・主張1について:
先願明細書の「透視図はあたかも窓枠を通して前景を見るような遠近表示が最も人の通常の知覚様式に合う」との記載は、例えば先願明細書の第1図の平面透視方式の原理に示される透視画面1を、通常人が接する一般的な「窓枠」にたとえて、透視図(の原理)をわかりやすく説明したものと解され(即ち、該「窓枠」は必ずしも自動車の窓枠を意味するものではない。)、この記載をもって特許権者が主張するように「視点は、乗物の内部に位置するもの」と解することはできない。さらに、特許権者は、訂正拒絶理由通知での指摘に対し、「・・視点が乗物の内部にあっても、500m四方程度であれば十分に視認できる範囲であります。」と主張するが、視点が乗物の内部にある(視点の高さh0≒1.5m、f≒1〜2m程度)場合、50Km先のものが視認・識別できないことは勿論、例え500m程度先でも、立体形状物(立体図形)ならともかく、2次元的な平面形状(平面図形)は十分に視認・識別できるとは認められない。
・主張2について:
視点を乗物の内部に位置させて地図データの透視図表示を行うシステムを記載した従来技術として特許権者が提示した文献(特開昭63-200182号公報等、5つの文献)は、いずれも視点が地球上空を走行する航空機の内部にあるものか、又は運転手から見た風景を提示すること自体を目的とするものである。即ち、視点をコックピットの内部に位置させた上記特開昭63-200182号公報、米国特許第4,489,389号は、本件訂正発明や先願発明のような地球表面を走行する自動車等の乗物から見れば、むしろその視点の位置を該自動車等の乗物の外部且つ上方に位置させる技術を開示するものである。又、特開昭61-95386号公報等の運転手から見た風景を透視図的に表示するものは、2次元的な地図を表示するものではなく、乗物から近い距離にある3次元的な景観を透視図的に表示するものと解され、本件訂正発明や先願発明とはその前提とする技術が異なるものである。なお、特開昭53-95727号公報は、自動車の運転操作の教習用訓練装置に係るものであって、その第1図の前方視界を表わした画像も、教習用に走行すべき道路形状を透視図的に表したものであり、本件訂正発明や先願発明のような「地図」を透視図的に表したものとは解されず、やはり本件訂正発明や先願発明とはその前提とする技術が異なるものというべきである。
・主張3について:
該先願明細書には、その表示画面の構成については例えば上記記載d、h、i、jがなされている。即ち、その地図表示装置は「自動車等の乗物の現在位置又は指定する位置から遠方に遠ざかるに従い、相対的に地図の精度を下げ・・・ディスプレー表示手段と前記表示手段の基準点から外方に向けて乗物の現在位置または指定された位置に近い程精で遠い程粗で広域の地図データを表示し、前記異なった階層の地図データの表示域間の境界部分は整合させて表示される上記地図表示装置を提供する」(記載d)ものであり、また、「第7図のように平面透視を行ったとき、透視画面1は16の部分で精密地図データが必要で、15,14と遠くなるにつれて必要がなくなる。今若し地図データうち・・・第7図を参照すると、3階層の地図データは平面透視法の関係式 xS=xf/(f+z)、yS=y0z/(f+z)(ただし、x、zは乗物の現在位置と階層地図データ上の位置との差を、乗物の現在の方位に従って座標変換した値を用いる)に従って修正され、これにより各階層地図11,12,13はディスプレイの14,15,16上ではそれぞれ台形17,18,19内の一部として表示されることになる」(記載j)ものであり、「計算により得られる台形例えば18は第8図のようになる。ここにx、zは元の座標の値である。」(第4頁上段右欄第19行-同下段左欄第1行)。
これらの記載及び特に第7,8図の記載によれば、例えば第2階層地図データ12がディスプレイ上に表示される台形18は、第8図に示された4点の位置座標{(x2f/(f+Z1)、y0Z1/(f+Z1))、等}で表わされ、第7図において、少なくともその第3階層地図データ13は第1図の透視画面1上の平面透視図に相当すべきものであることを考慮すると、第7図の下端の線は第1図のx軸に相当するものであり、上記のZ1,Z2やx1,x2等の値は該下端の線の中心にある点0を基準とした値で表わされることは明らかである。このことは、第7図において、第3階層地図データ13は勿論のこと、それより精度の粗い第1,第2階層地図データ11,12も、該第7図の下端中心にある点0を基準地点として、即ち、乗物の現在位置として透視画面1上に地図の位置座標として表わすことを明確に示すものである。したがって、「第7図におきましては、乗物の位置は意識されておりませんし、またそれがどこにあるか全く明確では有りません。」等の特許権者の主張は根拠がないというべきである。なお、仮に特許権者の主張するように第7図において乗物の位置が格別意識されず、従ってまたそれがどこにあるにしても、そのことにかかわらず、前記【2】ウ.b.に示したとおり、該第7図の表示画面に第1階層地図データ11を平面透視図法により表示するときの視点の位置が、自動車等の乗物の外部且つ上方に位置することは自明である。そして、先願明細書には、乗物の現在位置に対する見かけの視点の位置を固定にする点が開示されていることは前記【2】ウ.a.に示したとおりであり、先願明細書に「乗物の現在位置に対する見かけの視点の位置を固定にするものになる」旨の文言上の記載がなくとも、実質的にその旨が記載されていることは明らかである。そしてまた、同じく前記【2】ウ.a.に示したとおり、第1図は平面透視方式の原理を示すものではあるが、上記先願明細書の「第1図に示した平面透視図を簡略して画面表示することを考える」(記載h)、及び「階層データを使用して第1図の平面透視図方式で表示画面を構成する方法の1例を次に示す。」(記載j )との記載から見ても、先願明細書の表示画面に表示される地図(鳥瞰図)が第1図の原理に基づいて作成されることは自明であって、その第1図と上記記載jに基づいて上記の乗物の現在位置に対する見かけの視点の位置を固定にする点が導き出されることも明らかなことである。
さらに、特許権者は「なお、基準地点(0,0)は、第1図に示される透視画面1・・(中略)・・固定点であるかどうかも不明瞭なものであります。」とも主張するが、前記のとおり、第1図において基準地点の位置がどこにあるかにかかわらず、少なくとも該基準地点(0、0)が存在すること自体は明白であって、そうであるかぎり、先願明細書の地図表示方法が乗物の現在位置に対する見かけの視点の位置を固定にすることは明らかである。
なお、先願明細書の第1図における原点(基準地点)の位置が明確なことは、以下の考察から明らかである。
第1図において、該第1図の記載から見て、地図平面より高さy0、画面中心よりfのところ(即ち、視点の位置)から画面中心を見る方向(以下、「視線」という。)は、明らかに透視画面1を垂直方向に直角に2等分する平面内の1つの直線を形成し、該透視画面1を垂直方向に直角に2等分する平面と平面投影地図2を形成する平面とが交差する直線、即ち、画面中心を通る透視画面1上の垂線が平面投影地図2の下端の線と交わる点を通り該平面投影地図2上に上記視線を投影する直線がz軸を、前記画面中心を通る透視画面1上の垂線がy軸を、前記平面投影地図2の下端の線がx軸を、それぞれ形成することは明らかであり、そうであるとすると、このx軸とz軸(x軸とy軸)が交差する点、即ち前記画面中心を通る透視画面1上の垂線が平面投影地図2の下端の線と交わる点が、第1図の座標系(x-y、x-z、即ちx-y-zからなる座標系)の原点を表わすことも自明である。該第1図の例えば座標P(x、z)、及びQ(xs、ys)は、それぞれそのx-z軸、及びx-y軸を直交する2軸とする平面座標系の座標であって、それらx-z軸、x-y軸が交差する点をその原点、即ち基準地点とするものであり、またこの基準地点は、該直交するx-z軸、x-y軸の平面座標系の座標値で表わすと、x=0,z=0及びx=0,y=0の点、即ち、基準地点(0、0)と表わすこと{直交するx-y-z軸の空間座標系の座標値で表わすと、基準地点(0,0,0)となる。}は数学上自明の常識である。そして、上記の例えば地図2上の点Pの座標値x、zは、それぞれx=0、z=0の基準地点(0,0)からの距離を表わし、既に述べたとおり該x、zは乗物の現在位置と階層地図データ上の位置との差を、乗物の現在の方位に従って座標変換した値を用いる(記載j参照。)のであるから、その基準地点、即ち、第1図のx-z平面の座標でいえばその基準地点(0,0)が乗物の現在位置となり、また、該x-zの平面座標系、したがって又、x-yの平面座標系(したがって、結局x-y-zの空間座標系)が乗物に固定した座標系となることも自明のことである。即ち、先願明細書の第1図において、その基準地点(0、0、0)は、x-y-z軸が交差する点、即ち、透視画面1の画面中心を通る垂線(y軸)と地図2の下端の線(x軸)との交点であって明確である。なお、また、その基準地点(0、0、0)が透視画面1上の固定点であることも明確である。
・主張4について:
特開昭58-169700号公報(引用文献1)には、次の記載がある。
「・・このようにすれば、近年車両に整備されるようになってきた車両走行位置表示装置(車両の現走行位置や過去の走行軌跡を地図上に表示する装置)における現走行位置の確認信号としてそのコード信号を使用することができる。」(第2頁下段左欄第4-9行)、
「・・例えばカセットテープからなり地図データを供給する地図データ入力装置12が接続されている。走行位置演算装置で演算された走行位置データは、表示装置に供給され、選択された表示モードに従って走行位置が表示される。」(第3頁上段左欄第12-17行)
これらの記載によれば、少なくとも車両の現走行位置や過去の走行軌跡を地図上に表示する装置は該引用文献1の前提技術として記載されており、引用文献1の表示装置8に行われる、例えば走行軌跡表示や目的地までの最適経路の表示が、全て地図上に行われることは自明の前提として省略して記載されているものと解される。したがって、引用文献1には、目的地までの最適経路を地図上に表示する技術が事実上開示されているというべきである。
また、上記周知文献2(特開昭61-95386号公報)には、例えば「・・この後、表示された地図に対して、ライトペン18で現在地及び目的地を表示画面上で入力すると、制御部13ではステップS2で示す如く、入力された現在地と目的地とを結ぶ最適経路及びその行程距離が演算され、このうち経路が第3図(a)に示す如く、現在地PNおよび目的地POとともに表示される。」(第2頁下段左欄第11-18行)として、又、周知文献3(特開昭62-243029号公報)には、例えば「さらにコンピュータを用いて、画像表示手段の画面に地図や系統図を描画し、終着地点までの最適ルートを、データ処理によって検索し、表示する装置も知られている。」(第2頁上段右欄第6-9行)、「第9図は、以上説明した一連のルート検索表示制御の動作を・・(中略)・・を経て始発地点S点に逆行しルート検索結果が表示又は印刷される。」(第9頁下段左欄第8行-同右欄第1行)として、それぞれ「地図上に最適ルートを表示する」技術が明確に記載されている。
したがって、地図上に最適ルートを表示することが本件出願前の周知事項であることは明らかであり、「しかしながら、審判官殿が引用した・・(中略)・・最適ルートを表示することが周知事項(技術常識)であるとはいえないと思料いたします。」との主張は根拠がなく、成立しえない。
また、特許権者は「本願請求項1に係る発明によれば、運転手は、目的地が相当離れていても、目的地への最適ルートを決定し、その目的地に向かってあたかも延びているように表示される最適ルートを頼りに、目的地までの距離や目的地の方向を確認しながら運転を行うことができます。しかも、乗物の位置付近は詳細に表示されているので、最適ルートと乗物の位置とを明確に関連付けを行うことができ、道に迷うおそれが非常に少なくなります。」と本件訂正発明の効果を主張するが、先願発明に上記の「地図上に最適ルートを表示する」周知技術を付加すれば、該周知技術の地図が鳥瞰図ではないとしても、先願発明の透視図(前述のように、当然鳥瞰図である。)上に最適ルートを表示するという本件訂正発明の構成が自動的(必然的)に得られることは明らかであり、かかる本件訂正発明の効果は、先願発明に上記周知技術を付加してその透視図上に最適ルートを表示するようにすれば当然に付随する効果であって、当業者であれば自明のものとして認識しうる効果であるから、何ら格別のものとは認められない。
・主張5について:
前記【2】ウ.b.対比・判断の項に記載したとおり、本件訂正発明は先願発明(独立した一つの発明)とのみ対比されており、独立した二以上の引用発明を組み合わせて本件訂正発明と対比したものでないことは明らかである。そして、前記のとおり、自動車等の地図表示方法において、地図上に最適ルートを表示すること自体は本件出願(優先日1989年1月11日)前に周知・慣用の技術であったことも明らかなことである。
よって、特許権者の上記主張5にはその根拠および妥当性がない。
・まとめ:
したがって特許権者の上記特許異議意見書における主張は採用できない。

【3】特許異議申立てについての判断
(本件請求項1ないし8、17ないし20に係る発明)
特許異議申立ての対象となった本件特許請求項1ないし8、17ないし20に係る各発明は、それぞれその特許明細書の請求項1ないし8、17ないし20に記載された以下のとおりのものである。
【請求項1】乗物の位置に応じてデータ構造から地形情報を選択し地形図の一部分を表示する方法において、地形情報は乗り物が走行しうる地球の略々2次元的に表わした地表の一部分内の種々の点の座標を含み、地図の一部分を座標変換によって乗物の外部にあって地表の該当部分の上方に位置する見かけの視点から見た投影図で透視図的に表示することを特徴とする地図表示方法。(以下、「本件発明1」という。)
【請求項2】乗物の現在位置に対する見かけの視点の位置を固定にすることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】見かけの視点の位置を乗物の後方に位置させ、視点及び乗物の走行方向が地表に垂直に延在する仮想の面を構成するようにすることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】座標変換は画像内の所定の方向を絶えず乗物の走行方向と少なくとも略々一致させるような角度a(t)に亘る回転を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項5】地図上の乗物の位置を表示することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の方法。
【請求項6】順次の画像間の角度a(t)の変化を所定の値に制限することを特徴とする請求項3〜5の何れかに記載の方法。
【請求項7】選択された情報から追加の選択処理により表示すべき項目を決定することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の方法。
【請求項8】前記追加の選択は表示すべき項目と乗物の現在位置との間の距離に基づいて行うことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項17】見かけの視点からの視方向を可変にすることを特徴とする請求項1〜16の何れかに記載の方法。
【請求項18】地形情報を記憶するメモリと、乗物の位置をくり返し決定する検出手段と、乗物の位置に基づいて地形情報から関連する部分を少なくとも第1選択処理によりくり返し選択する第1選択手段と、選択した情報について座標変換をくり返し行なう座標変換手段と、座標変換により発生された画像をくり返し透視図的に表示する表示手段とを備えたことを特徴とする請求項1〜16の何れかに記載の方法を実施する装置。(以下、「本件発明2」という。)
【請求項19】当該装置はさらに表示内の所定の方向を絶えず乗物の走行方向と略々一致させるために座標変換中に行われる順次の画像間の回転角度a(t)の変化を制限する手段を備えていることを特徴とする請求項18記載の装置。
【請求項20】当該装置はさらに第1の選択手段により選択されたサブ情報について追加の処理を行う第2選択手段を具えていることを特徴とする請求項18又は19記載の装置。

・特許法第29条の2違反について
a.引用先願明細書
特願昭63-91621号(特開平1-263688号)

当審が通知した取消理由に引用した、本件出願の日前の他の出願であってその出願後に公開された上記先願明細書には、少なくとも以下の(2通りの)発明が記載されているものと認める。
I.「乗物の位置に応じてデータ構造から地形情報を選択し地形図の一部分を表示する方法において、地形情報は乗り物が走行しうる地球の略々2次元的に表わした地表の一部分内の種々の点の座標を含み、地図の一部分を座標変換によって地表の上方に位置する視点から見た投影図で透視図的に表示することを特徴とする地図表示方法。」(本件請求項1に係る発明に対応するもの;以下、「先願発明1」という。)
II.「地球情報を記憶するメモリ(CD-ROM 20)と、乗物の位置をくり返し決定する検出手段(方位センサ25、距離センサ26等)と、乗物の位置に基づいて地形情報から関連する部分を少なくとも第1選択処理によりくり返し選択する第1選択手段(CPU)と、選択した情報について座標変換をくり返し行う座標変換手段(CPU、表示コントローラ27)と、座標変換により発生された画像をくり返し(地表の上方に位置する視点から見た投影図で)透視図的に表示する表示手段(表示コントローラ27、CRTディスプレー23)とを具えたことを特徴とする地図表示装置。」(本件請求項18に係る発明に対応するもの;以下、「先願発明2」という。)

b.対比・判断
・[請求項1に係る発明(本件発明1)について]
本件発明1と先願発明1とを対比すると、両者は、本件発明1が地図の一部分を座標変換によって乗物の外部にあって地表の該当部分の上方に位置する見かけの視点から見た投影図で透視図的に表示するのに対し、先願発明1では地図の一部分を座標変換によって地表の上方に位置する視点から見た投影図で透視図的に表示する点でのみ一応相違し、その余の点で一致する。
そこで、上記相違点につき検討するに、該相違点は、前記【2】ウ.b.に示した本件訂正発明と先願発明との対比における相違点1と実質的に同じであるから、該【2】ウ.b.に示した判断と同じく、先願明細書に本件発明1の上記相違点の構成が実質的に記載されていることは明らかである。
・[請求項2に係る発明について]
本件請求項2の、乗物の現在位置に対する見かけの視点の位置を固定にする点は、前記【2】ウ.a.に示したとおり、先願明細書に記載されている。
・[請求項3に係る発明について]
前記【2】ウ.b.に示したとおり、先願明細書の視点が乗物の外部且つ上方に位置する見かけの視点であることは当業者に自明のことであり、そうである以上、その視点はまた、乗物の後方に位置させたものであることも第1図の記載から明らかである。そして、本件請求項3に係る発明の構成の持つ意味は「このようにすると、乗物が実際に存在する地図の部分が常に表示され、視点が乗物の後方にその延長線上に位置する」(本件特許公報第4頁コラム5第15-18行)点にあると認められるところ、先願明細書の視点も乗物の後方にあって、且つ乗り物の走行方向の延長線上にあることは明らかであるから、結局、本件請求項3に係る発明の構成はすべて先願明細書に実質的に記載されているものと認める。
・[請求項4に係る発明について]
先願明細書には、前記【2】ウ.a.に示したとおり記載a〜jがなされている。特に該記載jの「・・(ただし、x、zは乗物の現在位置と階層地図データ上の位置との差を、乗物の現在の方位に従って座標変換した値を用いる)」は、本件請求項4に係る発明の構成である「座標変換は画像内の所定の方向を絶えず乗物の走行方向と少なくとも略々一致させるような角度a(t)に亘る回転を含む」と同義であり、結局、本件請求項4に係る発明の構成も先願明細書に記載されている。
・[請求項5に係る発明について]
前記【2】オ.で述べたとおり、先願明細書の第1図のx-z軸及びx-y軸が交差する点、即ち基準地点(0,0)が乗物の現在位置を表わすことは明らかである。(なお、先願明細書には、乗物の現在位置を基準地点上に「表示する」ことまでは明確に記載されていない。)
そして、先願発明は、前記記載aにあるように「(技術分野)・・本発明は特に自動車の運転に必要な地図を必要に応じて表示するナビゲーション用地図表示装置に関し、運転者に自己の位置と他の各種目標ないし地点との関係を適確に提供する」ものであるから、例え該先願明細書に本件請求項5に係る発明の構成である「地図上の乗物の位置を表示すること」の明確な記載がないとしても、上記基準地点(0,0)、即ち第7図でいえば地点0(下端の線の中央の点0)に、乗物の現在位置を表示することは当業者に自明の前提とされているというべきであり、上記本件請求項5に係る発明の構成は先願明細書に実質的に記載されているものと認める。(なお、乗物の現在位置を表示すること自体は本件出願前きわめて周知の技術である。)
・[請求項6に係る発明について]
本件発明がその請求項6に記載した構成を採ることの意義は、本件明細書に「このようにすると、乗物の走行方向が変わるとき、視方向があまり急速に変化しないのでユーザが方向を見失うことは起こり得なくなる」(本件特許公報第3頁コラム5第29-32行)と記載されているとおりのものと認められるところ、本件発明や先願発明のような乗物の地図表示方法であって、乗物の進行方向が表示手段の上方と一致するように適宜地図を回転表示させるものにおいて、本件請求項6に係る発明のように「順次の画像間の角度a(t)の変化を所定の値に制限する」ことは、例えば特開昭58-178213号公報にも記載されているように本件出願前周知の技術であり、この周知技術によれば、その地図が見かけの視点から見た投影図で透視図的に表示したものではなく、通常の地図のようにその真上の視点から見て表示したものであるとしても、その視方向があまり急速に変化しないのでユーザが方向を見失うことは起こり得ないという効果を奏することは、当業者が自明のこととして理解できるところである。
そうすると、本件請求項6に係る発明は先願発明1に単に上記周知技術を付加したものに相当し、その点に格別の効果を認めることもできない。
・[請求項7、8に係る発明について]
先願明細書の前記記載d及びi等によれば、そのより粗な地図とより精な地図とは、地図に表示すべき項目において省略化等の相違があるものであって、その精密、中間、粗という階層化地図の表示が乗物の現在位置との距離に基づいて行われることは自明であり(第7図及び記載i、j参照。)、適宜第1の選択手段により選択した例えばより精の階層画面から、追加の選択処理を行う第2の選択手段により、より粗の階層画面を選択できることは明らかであるから、結局、本件請求項7に係る発明の「選択された情報から追加の選択処理により表示すべき項目を決定すること」、及び、本件請求項8に係る発明の「前記追加の選択は表示すべき項目と乗物の現在位置との間の距離に基づいて行なうこと」は、いずれも先願明細書に記載されている。
・[請求項17に係る発明について]
見かけの視点からの視方向を可変にすることは、一般に透視図作成における周知の技術であって(要すれば、特開昭61-65368号公報、特開昭63-54091号公報等参照。)、本件請求項17に係る発明は、先願発明1に単に該周知技術を付加したものに相当し、それによる格別の効果も認められない。
・[請求項18に係る発明(本件発明2)について]
本件発明2と先願発明2とを対比すると、両者は、基本的に前記の[請求項1に係る発明について]の対比において示した相違点でのみ相違し、その余の点で一致する。(一致点は省略する。)
したがって、その判断についても[請求項1に係る発明について]の前記判断と同じであるから、該判断をここに引用する。
・[請求項19に係る発明について]
本件請求項19において請求項18に付加された構成は、実質的に前記本件請求項6において請求項3(ないし5)に付加された構成と同じである。よって、本件請求項19に係る発明は、先願発明2に単に上記(順次の画像間の角度a(t)の変化を所定の値に制限する)周知技術を付加したものに相当し、その点に格別の効果を認めることもできない。
・[請求項20に係る発明について]
前記[請求項7、8に係る発明について]の項で示した、先願明細書における第1の選択手段により選択した例えばより精の階層画面は、サブ情報であるといえる。よって、本件請求項20に係る発明の構成もすべて先願明細書に記載されているものと認める。

c.まとめ
したがって、本件請求項1ないし8、17ないし20に係る各発明は上記先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本件発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので、本件請求項1ないし8、17ないし20に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

【4】むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし8、17ないし20に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、平成6年改正法附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-07-17 
出願番号 特願平2-3274
審決分類 P 1 652・ 16- ZB (G09B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 原 光明深田 高義  
特許庁審判長 大森 蔵人
特許庁審判官 西川 一
岩本 正義
登録日 1999-01-08 
登録番号 特許第2869472号(P2869472)
権利者 コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ
発明の名称 地図表示方法及び装置  
代理人 西 義之  
代理人 橘谷 英俊  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 草野 浩一  
代理人 日向寺 雅彦  
代理人 佐藤 一雄  

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