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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) A01G
管理番号 1099773
判定請求番号 判定2003-60082  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1999-11-24 
種別 判定 
判定請求日 2003-10-30 
確定日 2004-07-12 
事件の表示 上記請求人による特許第3177498号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示すイ号装置は、特許第3177498号「ミョウガの養液栽培方法およびその装置」の請求項2に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号図面及びその説明書に示すイ号装置は、特許第3177498号の請求項2に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

2.本件特許発明
本件特許発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載されたとおりのものであり、これを構成要件に分説すると次のとおりである。

A:培地を用いてミョウガを養液栽培する装置において、
B:適量の養液を流入したトレイと、
C:該トレイに浸漬した水分調節用のロックウールと、ロックウールの上部に配置した防根シートと、
D:防根シート上にあって側部とトレイ間に適宜のスペースを保持して載置されたヤシガラもしくはバークでなる培地と、
E:トレイ内に配備された養液のレベルセンサと、
F:トレイ内へ養液を供給する給液管と、
G:前記レベルセンサの検知した液位レベル信号に基づいてトレイ内の養液の水位が一定になるように給液管への送液量を制御する制御部を具備してなることを特徴とする
H:ミョウガの養液栽培装置。

3.イ号装置
本件は、被請求人が存在しない判定請求であって、請求人が提出した判定請求書と同請求書に添付したイ号説明書、及び、平成16年4月22日付け回答書と同回答書に添付したイ号図面からみて、イ号装置の構成を本件特許発明と対応するように記載すると、次のとおりである。

a:培地を用いてミョウガを養液栽培する方法に用いる装置であって、
b:適量の養液4を流入させたトレイ1と、
c:該トレイ1内の養液4に浸漬させた状態でその上面が養液4の液面及びトレイ1の側壁よりも高い位置にある台としての中敷き3aと、該中敷き3aの上面に敷かれその周縁がトレイ1内の養液4に浸漬されている水分調節用の給水布3bと、該給水布3bの上に配置された防根シート5と、
d:防根シート5上に載置され該載置状態においてその側部は開放されており、底面がトレイ1の側壁より高い位置にある細断されたヤシガラでなる培地6と、
e:トレイ1内の一定高さ位置にオーバーフロー孔8aを有してトレイ1内に流入する養液4の水位がオーバーフロー孔8aの高さ位置を超えそうになるとその分の養液4を該オーバーフロー孔8aから排出させ自動計量器8bで受けて排出養液量を検知する排液量検知手段8と、
f:培地6に対する養液4の点滴を介してトレイ1内へ養液4を供給する給液管9と、
g:排液量検知手段8の検知した排液量検知信号に基づいてトレイ1内の養液4の水位が一定範囲内に保たれるように給液管9への送液量を制御する制御部10と、を具備してなり、
c’:かつ、前記給水布3bは、不織布からなり、その毛細管作用によって、養液4を吸引してその面方向に移動させることができる、
h:ミョウガの養液栽培装置。

なお、上記構成dは、上記判定請求書に、「防根シート5上に載置され該載置状態においてその側部とトレイ1間に適宜のスペースを保持する細断されたヤシガラでなる培地6と、」と記載されているが、同記載中の「その側部とトレイ1間に適宜のスペースを保持する」点に関して、上記回答書に、「イ号装置においては、トレイ1の側壁1aの上縁は培地6の底面の高さ位置までの高さに止まっている。」(3頁末行〜4頁1行)、「イ号装置は、トレイ1の側壁1aが培地6の側部に密着せず、そのため、培地6の側部が開放されている」(4頁12、13行)と記載され、イ号図面では、培地の底面がトレイ1の側壁1aより高い位置にあるので、本件特許発明とイ号装置との対比が適切に行えるように、上記回答書の記載とイ号図面に基づいて上記のように認定した。

4.当審の判断

4-1.本件特許発明とイ号装置との対比・判断
(1)構成要件A、B、F及びHについて
イ号装置の構成a、b、f及びhは、本件特許発明の構成要件A、B、F及びHを明らかに充足する。
(2)構成要件Cについて
イ号装置の構成cの「防根シート5」は、本件特許発明の構成要件Cの「防根シート」を充足するが、イ号装置の構成c,c’の「中敷き3a」と「給水布3b」は、本件特許発明の構成要件Cの「ロックウール」と相違するから、イ号装置の構成c,c’全体としては、本件特許発明の構成要件Cを文言上充足しない。
(3)構成要件Dについて
イ号装置の構成dの「ヤシガラでなる培地6」は、本件特許発明の構成要件Dの「ヤシガラもしくはバークでなる培地」を充足する。しかしながら、イ号装置の構成dの「防根シート5上に載置され該載置状態においてその側部は開放されており、底面がトレイ1の側壁より高い位置にある(培地6)」は、本件特許発明の構成要件Dの「防根シート上にあって側部とトレイ間に適宜のスペースを保持して載置された(培地)」と相違する。すなわち、上記構成要件Dの「防根シート上にあって側部とトレイ間に適宜のスペースを保持して載置された(培地)」とは、文言上、培地の側部にトレイと同一高さにある部分があり、その部分とトレイとが適宜の長さだけ離隔していると解され、その技術的範囲は不明確であって、明細書等を参酌したとしても、「【0017】培地6の側部と防根シート5の間に所定長のスペースLが設定されている。尚、防根シート5とポリエチレン製のフィルム2はトレイ1の内壁面に密着しているため、スペースLは培地6の側部とトレイ1間に形成されたスペースとほぼ一致している。」との記載及び第1図から、上記解釈は妥当と認められる。これに対し、イ号装置の構成dは、培地の底面がトレイの側壁より高い位置にあるから、培地の側部とトレイ間に適宜のスペースを保持しているとはいえず、イ号装置の構成d全体としては、本件特許発明の構成要件Dを充足しない。
(4)構成要件E及びGについて
イ号装置は、トレイ内に配備された養液のレベルセンサを有しておらず、レベルセンサの検知した液位レベル信号に基づいて送液量を制御する制御部を具備していないから、イ号装置の構成e及びgは、本件特許発明の構成要件E及びGを文言上明らかに充足しない。

4-2.均等の判断
最高裁判所平成6年(オ)第1083号(平成10年2月24日判決言渡)判決によれば、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、
(ア)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、
(イ)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(ウ)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
(エ)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
(オ)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、
右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であるとされている。

そこで、請求人が均等を主張する、本件特許発明の構成要件Cの相違点と構成要件E及びGの相違点について検討する。

構成要件Cの相違点については、上記均等の要件(イ)について検討する。
請求人が出願した特願平7-349394号に係る特開平9-168340号公報(甲第3号証)には、「水分調節をするために、栽培層下面に養液をたん水し、ロックウールの下部に不織布を敷くとともに、湛液中に不織布を垂らし、不織布の浸透作用によりロックウールの含水率を調節する装置もある。」(段落【0007】)、「しかしながら、不織布で湛液とロックウール間に養液を浸透させる方式では、液だまりはロックウール下面の一部の面積に限られ、養液の浸透作用が弱く、ロックウールの含水率の安定には限界がある。」(段落【0009】)、及び、「本発明は、上記課題を解決するため、・・・根が伸長する栽培用ロックウールの下部に水分調節用ロックウールを設置して栽培床を形成することにより、湛液と栽培用ロックウールの距離を短くし、湛液と栽培用ロックウールの間の養液の浸透作用を良好にする。」(段落【0011】)と記載されているように、給水布(不織布)で湛液と培地間に養液を浸透させる方式のイ号装置では、養液の浸透作用が弱いが、本件特許発明のように培地の下部に水分調節用ロックウールを設置したものは、湛液と培地の間の養液の浸透作用を良好にするから、本件特許発明の「水分調節用のロックウール」と、イ号装置の「台としての中敷き3aと、該中敷き3aの上面に敷かれその周縁がトレイ1内の養液4に浸漬されている水分調節用の給水布3b」とは、構成のみならず水分の浸透作用が相違するものである。
したがって、イ号装置の構成c,c’と本件特許発明の構成要件Cとは、作用効果(水分の浸透作用)が相違し、上記均等の要件(イ)が満たされているとはいえないから、均等についての他の要件の判断をするまでもなく、均等ではない。

構成要件E及びGの相違点については、上記均等の要件(ウ)について検討する。
請求人が提出した平成16年4月22日付け回答書には、イ号装置の養液水位の制御に関して、
「給液管9からトレイ1内へは養液4が間歇的に点滴供給されている。・・・オーバーフローする養液4の有無と排液量の大小は排液量検知手段8によって知ることができる。養液4がオーバーフローすることのない状態のときは排液量がゼロであり、このゼロ状態がある時間以上続くようであると、点滴量を大幅に増やす。常は、点滴再開後しばらくすると、オーバーするようになり(プラス状態)、制御部10は、このプラス状態が所定の排液量内に納まるときは正常状態とみて同じ点滴量を維持するが、納まらないときは点滴量を増すようにする。また、オーバーフローする養液4の排出量が減少する一方のときは点滴量を少し増やすようにする。・・・制御部10は、点滴の時間間隔の大きさと点滴量の大きさを決めて、給液管9への送液量と送液間隔を制御するのである。」(2頁4〜下から2行)と記載されている。
上記記載を参酌すると、イ号装置において、排液量検知手段8は、トレイ1のオーバーフロー孔8aからオーバーフローする養液4の有無と排液量の大小を検知するものであり、これに対して、本件特許発明のレベルセンサはトレイ内の養液の液位レベルを検知するものであるから、イ号装置と本件特許発明とでは検知手段の検知内容が相違する。
また、上記記載を参酌すると、イ号装置の制御部10は、養液4が間歇的に点滴供給されているものにおいて、排液量が所定内に納まるときは点滴量を維持し、所定内に納まらないときは点滴量を増し、養液4の排出量が減少する一方のときは点滴量を少し増やすように制御するものである。これに対して、本件特許明細書には、「トレイ1内の適当な位置に配備されたレベルセンサ4aにより養液4のレベル低下が検知されて制御部10に伝達され、この制御部10からの出力信号により養液送給ポンプ12が起動する。この養液送給ポンプ12の作用により、養液タンク11内に充填されている養液4が・・・給液管9に送りこまれ、これにより養液4の液位レベルは常時一定に維持される。」(段落【0023】)と記載されているように、本件特許発明では、トレイ内の養液の液位レベル低下が検知されて制御部に伝達されると、制御部からの出力信号により養液が給液管へ送りこまれるものであるから、イ号装置と本件特許発明とでは制御部の制御の仕方が相違する。
上記したように、イ号装置と本件特許発明では、検知手段の検知内容及び制御部の制御の仕方が相違し、上記判定請求書及び回答書を参酌しても、イ号装置の構成e及びgが周知あるいは公知であるとはいえないから、本件特許発明の構成要件E及びGをイ号装置の構成e及びgと置き換えることに、当業者が容易に想到できたとはいえない。
したがって、上記均等の要件(ウ)が満たされているとはいえないから、均等についての他の要件の判断をするまでもなく、イ号装置の構成e及びgと本件特許発明の構成要件E及びGとは均等ではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、イ号装置は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2004-06-30 
出願番号 特願平10-156793
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (A01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 白樫 泰子
渡部 葉子
登録日 2001-04-06 
登録番号 特許第3177498号(P3177498)
発明の名称 ミョウガの養液栽培方法およびその装置  
代理人 松本 武彦  

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