• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09B
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09B
審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09B
管理番号 1100499
審判番号 不服2002-22785  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-07-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-22 
確定日 2004-07-20 
事件の表示 平成 6年特許願第340677号「数学学習方法とその用具」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 7月12日出願公開、特開平 8-179686〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願の出願からの主だった経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
・平成6年12月21日 本願出願
・平成8年3月1日 明細書についての手続補正(同年12月27日に【補正をする者】の欄の補正有り)
・平成11年6月23日 審査請求
・平成14年2月1日付け 原審にて拒絶理由通知
・同年3月14日 意見書及び手続補正書提出
・同年4月3日 手続補正書提出
・同年5月30日付け 原審にて再度の拒絶理由通知
・同年7月22日 意見書及び手続補正書提出
・同年9月17日付け 原審にて平成14年7月22日付け手続補正の却下決定及び拒絶査定
・同年10月22日 本件審判請求
・同年11月13日 手続補正書提出
・平成15年12月9日付け 当審にて平成14年11月13日付けの手続補正の却下決定
・同月25日付け 当審にて拒絶理由通知
・平成16年3月8日 意見書及び手続補正書提出

第2 当審における拒絶理由の骨子
当審における拒絶理由は次のような理由を含んでいる。
(1)請求項1に係る発明に関して明細書の記載不備があるから、本願は平成6年改正前特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしていない。(以下「理由1」という。)
(2)請求項2に係る発明に関して明細書の記載不備があるから、本願は平成6年改正前特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしていない。(以下「理由2」という。)
(3)請求項1に係る発明は、実願平1-8435号(実開平2-146675号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)、又は実願平1-70329号(実開平3-11276号)のマイクロフィルムに記載された発明であり特許法29条1項3号の規定に該当するか、又はこれら文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条1項又は2項の規定により特許を受けることができない。(以下「理由3」という。)

第3 理由1についての当審の判断
1.請求項1の記載
平成16年3月8日付けで補正された明細書によれば、請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】面積又は体積が1単位正方形又は立方形の単位体(11)、面積又は体積が単位体(11)の2倍以上の整数倍でその面をそれぞれ単位面積に区分表示した長方形又は直方形(正方形又は立方形を含む以下同じ)の倍数体(12)、単位体(11)の6面を1/10単位長の方眼区分表示した区分体(13)、所定の長方形の倍数体(12)をその対角線で2箇の直角三角形に2等分した三角体(14)よりなる表数体(1)等の数を造形表現する用具を用いて、長さ、面積、体積等に数と数の大きさを図形に成形して具象化し、数と数の計算及び、初歩の数学を、具象化した実態として観察させることを特徴とする数学学習方法。」

2.記載不備の有無の判断
(1)請求項1に係る発明(以下「本願発明」ということがある。)は「数学学習方法」であるが、その特徴とすることの1つが「表数体(1)等の数を造形表現する用具」(以下「小道具」という。)を用いることにあることは請求項1の記載から明らかである。そして、小道具を用いて数学学習を行おうとした場合、小道具の利用形態が「長さ、面積、体積等に数と数の大きさを図形に成形して具象化」となることは必然である(単なる用具であれば数勘定という用い方が考えられるが、それなら数を造形表現する必要性はない。)。すなわち、「長さ、面積、体積等に数と数の大きさを図形に成形して具象化」は、事実上小道具の用い方を限定したことにはならない。また、「数と数の計算及び、初歩の数学を、具象化した実態として観察させる」が具体的に小道具の用い方を限定したものでないことも明らかである(学習内容を「数と数の計算及び、初歩の数学」に限定したことは認めるが、この限定が明確かどうか又は十分かどうかは別問題である。)。
小道具を用いた数学学習方法であれば、その発明は用いるべき小道具の種類と小道具の具体的な用い方によって特定される(学習内容を特定すればより明確であるが、小道具の種類と小道具の具体的な用い方が特定されれば学習内容は自ずと特定される。)。例えば、1辺が1の長方形2つを用いても、短辺同士を突き合わせるのか、それとも長辺同士を突き合わせるのかによって、小道具の用い方は異なり、それによって学習する内容も異なる。このように、同じ小道具であってもその利用形態によって学習内容は異なるのであるから、数学学習方法である限り、小道具の種類とその用い方を限定しなければならない。
ところが、請求項1には前示のとおり、小道具の用い方は事実上限定されていないのであるから、そのことだけからも、請求項1が「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した」(平成6年改正前特許法36条5項2号)といえないことは明らかである。

(2)さらに、小道具の種類についていうと「表数体(1)等の数を造形表現する用具」(下線は当審にて加入。)とは、「表数体(1)」でなくとも良い趣旨にも解されるところ、同解釈では結局何も限定していないことになる。
もっとも、「表数体(1)等の数を造形表現する用具」とは、「表数体(1)」を必ず用い、それ以外にも何らかの小道具を用いても良いとの趣旨にも解しうるが、この解釈であっても、以下に述べるような記載不備がある。
まず第1に、「表数体(1)」とは「単位体(11)、・・・倍数体(12)、・・・区分体(13)、・・・三角体(14)よりなる」とされているから、単位体(11),倍数体(12),区分体(13)及び三角体(14)の集合体である。そこで、この集合体の構成要素をすべて用いる学習方法だけが本願発明の技術的範囲となるのか、それとも構成要素の1つを用いる学習方法であれば本願発明の技術的範囲となるのかという問題がある。本願明細書には、単位体(11),倍数体(12),区分体(13)及び三角体(14)のすべてを用いて1つの学習項目を学習することは記載されていない(区分体(13)を用いることは段落【0015】に記載されているだけであるが、ここには三角体(14)を用いることは記載されていない。また、三角体(14)を用いることは段落【0014】及び段落【0022】〜段落【0023】に記載されているだけであるが、ここには単位体(11)及び区分体(13)を用いることは記載されていない。なお、段落【0014】の「三角体(14)を用いて例示すると三角体(14)は対角線に2等分されて1/2を示し、1÷1/2=1×2/1=2となり、1/2の除算の実態が観察され、分数の除算が分母子を逆転し乗算する計算となる理論的な理由が明確に納得して理解できる。」との記載は当初明細書に記載されていないから、平成16年3月8日の手続補正は、平成6年改正前特許法17条の2第2項で準用する同法17条2項の規定に違反している。もっとも、そのことを審決の理由とするものではない。)から、本願発明は構成要素の1つ以上を用いる学習方法であると理解すべきかもしれないが、そのことは特許請求の範囲において明確にしなければならない事項である。特許法70条1項は「特許発明の技術的範囲は、願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない。」と定めており、平成6年改正前特許法36条5項2号が「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。」と定めているのは、特許を受けようとする発明の技術的範囲を明確にすることが特許を受けようとする者の責務であることを述べたものである。そうすると、本願発明の技術的範囲が不明確であるという理由により、請求項1の記載は平成6年改正前特許法36条5項2号に規定する要件を満たさないといわざるを得ない。
請求人は、個々の項目の学習においては集合体の構成要素すべてを用いる必要はないが、学習項目が複数あることにより、複数の学習項目を学習するにあたり構成要素すべてを用いると主張するかもしれない。しかし、「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。」(特許法68条)のであり、本願発明が仮に特許された場合「特許発明の実施」が何であるのか明確に特定されなければならない。そして、複数の学習項目は通常同時期に学習するものではないから、ある時期に集合体のある構成要素を用いた学習を行い、それとは相当程度異なる別の時期に集合体の別の構成要素を用いた学習を行うことが、集合体の構成要素すべてを用いた学習方法であると認識することは著しく困難である。本願発明が集合体の構成要素すべてを用いた学習方法であるというのなら、同時期に集合体の構成要素すべてを用いなければならず、同時期である以上、通常は1つの学習項目とならざるを得ない。

(3)さらに、集合体の構成要素の一部を用いた学習方法としても記載不備がある。
本願明細書には、学習内容(学習項目)として、加減算(段落【0005】〜【0006】、【0018】〜【0019】)、乗除算(段落【0007】〜【0008】、、【0020】〜【0021】)、分数四則計算(段落【0009】〜【0014】)、記数法(段落【0015】)、代数の初歩(段落【0016】)及びピタゴラスの定理(段落【0022】〜【0023】)が記載されている。しかし、これら学習内容は、一部を除いて当業者が容易に実施できる程度に記載されていない。
まず減算であるが、「表数体1を区分面21上に表数盤2の縁枠22に沿って並べると縁枠22に記入された数値が長さ単位長の個数を示すことになる。演算記号(+)に従って長さが増加する数の単位長を増加すると加算した結果の数が縁枠に示される。」(段落【0005】)ことは理解できるものの、「演算記号(-)は(+)の逆算で減少する計算であることが的確に観察される。演算記号(+)(-)が増、減逆算する記号であることを具体的に観察により理解できる」(同段落)こと、「加減算を表数体1を並べた数直線の単位長の数の増減として表現すると正負の記号(+、-)は増加方向が逆方向となる逆算であることが観察されて、正、負の概念の直感的理解が得られ、演算記号、+、-の名称「たす、ひく」の意味と正、負記号、日常言語との異同、差異を認識することができる」(段落【0006】)こと、「単位体11又は倍数体12のそれぞれの上下2面を青と赤に彩色し、青は正、増加、演算記号+、赤は負、減少、演算記号-、を表すものと定めて増減計算をすると、即物的に加減算(増減算)における正負の概念が直観し得られ、演算記号の名称、たす、ひくの用語の意味の他に正負の概念の基本が理解できる」(段落【0018】)こと、及び「1〜4の数を5-4〜1の形に置換えて計算する方法を単位体11を配列して練習すると、容易に直観的に計算が間違いなくできるようになる」(段落【0019】)ことは全く理解できない。

次に除算であるが、「乗算は等数累加の計算として定義されるが、縁枠(22)の下方に、左方より単位体を配列して被乗数となる等数をつくり、上方に等数を累加すると累加積数が乗算数となって等数累加計算が表示され、乗算の構成が観察できる。」(段落【0007】)ことは理解できるものの、これに続く「除算は乗数の累減として同様に表示できる。」は理解できない。この後の「象限面(21B)は乗除計算の正(+)負(-)を表示するもので上方2区分面が(+)下方2区分面が(-)右方2区分面が(+)左方2区分面が(-)を示し、右上方が(+)×(+)=(+)左上方が(-)×(+)=(-)、右下方が(-)×(+)=(-)左下方が(-)×(-)=(+)となる象限を示す。(除算の正負は乗算と同じ)」(同段落)との記載に至っては、負数を含む乗除算の規則を理解した者が理解できるだけであって、同規則をこれから学習しようとする者の理解補助となるとは考えられない。

次に分数四則計算であるが、「分数は縦、横の2辺の単位面積数(単位長)の積数の長方形の面積を1としたとき、分母は縦または横の辺の単位面積の数に等分する除数であり、分子は分母数で等分した横又は縦の辺の単位面積数であることが観察認識される。」(段落【0009】。同旨の記載が段落【0010】にもある。)と記載があるが、全く理解できない。例えば縦=5,横=3とすると、「3/5」という分数は縦に5等分したものの3つ分であり、横の単位面積数(単位長)は関係がない。「分数を被乗数とする整数の乗算は分子を乗数倍する計算であり、分数を被乗数とする分数の乗算は、被乗数の分母、分子に、乗数の分母、分子両者の数を乗数倍する計算となることが、長方形の面積数を構成する表数体1により、具象化された表現を観察すると明確に理解することができる。」(段落【0010】)との記載についても、分数乗除算の規則をこれから学習しようとする者が、表数体1を利用して同規則を明確に理解するとは考えられない。「12×1/3=12÷3×1=4、12×3/4=12÷4×3=9となる分数の乗算が実態観察理解され・・・分数の増減算(+)(-)の計算は、分子の1を同じ大きさとするために分母を同数とした分子の増減算とすることが必要となる。即、分母を同数とする通分としてその結果の分子数を増減計算する。・・・単位体表示した倍数体12の面積の単位体数の具体例の分数計算は、観察により直観的に納得できる。」(段落【0012】)との記載、及び「分数の除算は乗算の逆算として分母子を逆転して乗算同様に計算する。・・・分数の除算が分母子逆転して乗算計算する理由を正しく理解することは小学校算数学習中でもっとも困難な事例であるが、表数体(1)を用いて具象化すると観察を併用して容易に習得できる。」(段落【0014】)も未学習者であることを前提にした上で、未学習者によって有用な学習方法であるとは到底認めることができない。

次に代数の初歩についてであるが、「代数の初歩の2乗計算(a±b)2=a±2ab+b2等は、象眼面21Bにa、bを任意の整数として縦軸(a±b)×横軸(a±b)の積、即a(a+b)+b(a+b)=a2+2ab+b2及びa(a-b)+-b(a-b)=a2-2ab+b2を面積として造形表現すると、計算の実態が観察され、計算の数と積の面積となる単位面積の数が一致することが認められ、少年の知識で代数の初歩を覗くことができる。」(段落【0016】)と記載されているけれども、(a-b)2については「象限面(21B)は乗除計算の正(+)負(-)を表示するもので上方2区分面が(+)下方2区分面が(-)右方2区分面が(+)左方2区分面が(-)を示し、右上方が(+)×(+)=(+)左上方が(-)×(+)=(-)、右下方が(-)×(+)=(-)左下方が(-)×(-)=(+)となる象限を示す。(除算の正負は乗算と同じ)」(段落【0007】)の理解が前提となっている(それが誤りであることは前示のとおりである。)ばかりか、aを原点から右方向及び上方向にとり、bを原点から左方向及び下方向にとること、さらには負数を含む乗算規則の理解が前提となっているが、それらの理解が本願発明によって容易になされないことは既に述べたとおりであるから、この記載も理解できない。

最後に記数法についてであるが、「単位体11の1面の面積1cm2は区分体13の1区分1mm2の10×10倍となり、又、1区分の体積1mm3とすると単位体11の体積1cm3は区分体13の1区分の体積1mm3の1000倍となることが観察理解できる。」(段落【0015】)とあり、「面積1cm2は区分体13の1区分1mm2の10×10倍」となることは観察可能かもしれないが、区分体13の内部を観察することはできないから、「単位体11の体積1cm3は区分体13の1区分の体積1mm3の1000倍となることが観察理解できる。」とは考えられない。「区分体(13)の区分体積1mm3と10cm3立方体を比較し1mm3を1として記数すると1cm3=1000mm3、103cm=1000cm3(審決注;「103cm3=1000cm3」の誤記と解する。)で10×10=100(百)、×10=1,000(千)、×10=10000(1万)、×10=100000(10万)、×10=1000000(百万)の巨大数が表示できると共に10進法記数法の実態が学習できる。・・・小数は整数の逆数であるから記数法は1÷10=0.1、÷10=0.01、÷10=0.001、÷10=0.0001となり、小数の記数法が容易に推察して学習できる。」(同段落)とも記載されているが、このようなことで記数法の学習ができるとは考えられない。

(4)以上述べたとおり、本願明細書には請求項1に係る発明につき、多数の記載不備があり、平成6年改正前特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしていない。

第4 理由2についての当審の判断
1.請求項2の記載
平成16年3月8日付けで補正された明細書によれば、請求項2の記載は次のとおりである。
「【請求項2】面積又は体積が1単位の正方形又は立方形の単位体(11)面積又は体積が単位体(11)の2倍以上の整数倍でその面をそれぞれ単位面積に区分表示した長方形又は直方形の倍数体(12)、単位体(11)の6面を1/10単位長の方眼区分表示した区分体(13)、所定の長方形の倍数体(12)をその対角線で2箇の直角三角形に2等分した三角体(14)のそれぞれの任意数よりなる表数体1と、盤面(21)を、1cmに方眼区分した区分面(21A)と、区分面(21A)の中央に方眼区分線上に十字 線を交差し、十字線に沿って、交点を0とし、右方と上方に(+)、左方と下方に(-)記号をつけた単位長方眼区分毎の数値を記入した象限面(21B)が、随意に交換し得るように設け、外側の4辺に上方と右方に向って単位長毎の数値を記入した縁枠(22)を設けた、表数体(1)を配列または積み重ねて、長さ、面積、体積の大きさを造形表現する表数盤(2)よりなることを特徴とする数学学習用具。」

2.記載不備の有無の判断
当審における拒絶理由では「区分体(13)」及び「象限面(21B)」の技術的意義が不明である旨、及び「三角体(14)」を限定しなければならない旨指摘した。
「区分体(13)」を用いることの説明は段落【0015】にあるが、同段落の記載が不備であることは「第2」で述べたとおりである。
「象限面(21B)」については、減算及び負数を含む計算として、段落【0007】、段落【0016】に記載があるが、これら段落に記載されたことで減算及び負数を含む計算の学習を行えないことは「第2」で述べたとおりである。
したがって、「区分体(13)」及び「象限面(21B)」を構成要件とする請求項2に係る発明については、当業者が容易に実施できる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえず、本願は平成6年改正前特許法36条4項に規定する要件を満たさない。

また、「三角体(14)」について、発明の詳細な説明には段落【0014】及び段落【0022】〜段落【0023】に記載されていることは「第3 2.(2)」で述べたとおりである。段落【0014】の記載が新規事項であることは既に述べたとおりであるが、そのことを措くとして、「三角体(14)は対角線に2等分されて1/2を示し、1÷1/2=1×2/1=2となり、1/2の除算の実態が観察」されるためには、その三角体(14)は任意のものでよい。ところが【請求項2】には「所定の」との修飾語があるため、この修飾語の意味する内容を理解できない。他方、段落【0022】〜段落【0023】の記載はピタゴラスの定理に関する記載であって、ここに記載の三角体(14)は、3辺の比が3:4:5,6:8:10及び5:12:13といった特定のものでなければならない。「所定の」を、そのような特定の辺比のものに限定して解釈しなければならない理由はない(段落【0014】の記載が追加されたことによりなおさらである。)。仮に、「所定の」との用語がこのような特定の辺比のものを意味するのであれば、そのことを特許請求の範囲において記載しなければならない。結局、「所定の」との修飾語の意味することが明らかでないから、【請求項2】は発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項であると認めることができない。すなわち、本願は成6年改正前特許法36条5項2号に規定する要件を満たさない。

第5 理由3についての当審の判断
「第2」で述べたとおり、請求項1に係る発明については多数の記載不備があるが、「表数体(1)等の数を造形表現する用具」を単位体(11),倍数体(12),区分体(13)及び三角体(14)の集合体の構成要素の1つ以上を用いる学習方法と解すると、次のとおり本願発明には新規性又は進歩性がない。
引用例には、次のア〜エの記載が図示とともにある。
ア.「本考案は、小学校の低学年児童に加算・減算等の計算を指導するに当たって、児童の理解を助けるために各児童が使用する数字・図形・記号等を表面に記した立方体・直方体等とその配列用ケースと位取り枠を組み合わせた計算積木に関するものである。」(2頁14〜19行)
イ.「第1図において、1は立方体に形成した“1”の積木、2,3,4及び5は“1”の積木1をそれぞれ2,3,4及び5個分積み重ねた長さの直方対に形成した“2”,“3”,“4”及び“5”の積木、6は“5”の積木5を2個分積み重ねた長さの直方体に形成した“十”の積木」(5頁11〜17行)
ウ.「各積木には、“1”の積木1の一辺に対する長さの比に応じて付けた数字及びその数字に等しい個数の同一図形(林檎)を付けてあり」(6頁1〜3行)
エ.「第5図において、例えば“1”の積木1に“2”の積木2を積み重ねて、それと等しい高さを持つ単一の積木である“3”の積木3を、“せいくらべ”と言う手法を使い且つ両者の林檎の個数が等しくなったかどうか見て、1と2との和が3であることを確認させるようにしてあり」(7頁10〜16行)
記載ア〜エを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例には次のような学習方法が記載されていると認めることができる。
「立方体に形成した“1”の積木、“1”の積木をそれぞれ2,3,4及び5個分積み重ねた長さの直方体に形成した“2”,“3”,“4”及び“5”の積木、“5”の積木5を2個分積み重ねた長さの直方体に形成した“十”の積木であって、“1”の積木の一辺に対する長さの比に応じて付けた数字及びその数字に等しい個数の同一図形(林檎)を付けた積木を用いた加算・減算等の学習方法。」(以下「引用例発明」という。)

引用例発明の「立方体に形成した“1”の積木」、並びに「直方体に形成した“2”,“3”,“4”及び“5”の積木」及び「“5”の積木5を2個分積み重ねた長さの直方体に形成した“十”の積木」は本願発明の「単位体(11)」並びに「倍数体(12)」にそれぞれ相当し(但し、倍数体(12)の面が単位面積に区分表示してあることは除く。)、「数を造形表現する用具」といえる。引用例の記載エにあるように、積木を積み重ねて“せいくらべ”と言う手法を使うことは、「長さ、面積、体積等に数と数の大きさを図形に成形して具象化し、数と数の計算及び、初歩の数学を、具象化した実態として観察させる」ことである。
そして、本願発明の「表数体(1)等の数を造形表現する用具を用いて」とは、「単位体(11)」を用いておればよいのだから、その限度においては、本願発明と引用例発明は、
「面積又は体積が1単位正方形又は立方形の単位体(11)を用いて、長さ、面積、体積等に数と数の大きさを図形に成形して具象化し、数と数の計算及び、初歩の数学を、具象化した実態として観察させる数学学習方法。」である点で一致し、両者に相違点はない。

また、本願発明のうち「表数体(1)等の数を造形表現する用具」として、「単位体(11)」と「倍数体(12)」を用いる学習方法と引用例発明とは、「面積又は体積が1単位正方形又は立方形の単位体(11)、及び面積又は体積が単位体(11)の2倍以上の整数倍の長方形又は直方形(正方形又は立方形を含む以下同じ)の倍数体(12)を用いて、長さ、面積、体積等に数と数の大きさを図形に成形して具象化し、数と数の計算及び、初歩の数学を、具象化した実態として観察させる数学学習方法。」である点で一致し、本願発明の「倍数体(12)」はその面を単位面積に区分表示してあるのに対し、引用例発明のそれは単位面積に区分表示しておらず、数字に等しい個数の同一図形(林檎)を付けてある点で相違する。しかし、引用例発明において数字に等しい個数の同一図形(林檎)を付けることの技術的意義は、各直方体(倍数体)が積木1(単位体)何個分であるかを表現するためであり、そのために同一図形(林檎)を付すことに代えて単位面積に区分表示することは軽微な設計変更程度である。

以上のとおり、本願発明は引用例発明そのもの(特許法29条1項3号該当)であり特許法29条1項の規定により特許を受けることができないか、又は引用例発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとして同条2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は明細書の記載が平成6年改正前特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしておらず、本願の請求項1に係る発明は特許法29条1項又は2項の規定により特許を受けることができないから、拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-05-12 
結審通知日 2004-05-18 
審決日 2004-05-31 
出願番号 特願平6-340677
審決分類 P 1 8・ 534- WZ (G09B)
P 1 8・ 113- WZ (G09B)
P 1 8・ 531- WZ (G09B)
P 1 8・ 121- WZ (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 番場 得造
津田 俊明
発明の名称 数学学習方法とその用具  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ