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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09B
管理番号 1100919
審判番号 不服2002-20527  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-04-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-23 
確定日 2004-08-04 
事件の表示 平成 6年特許願第220623号「操船シミュレータ」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 4月 2日出願公開、特開平 8- 87233〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成6年9月14日の出願であって、平成14年9月11日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年10月23日に本件審判請求がされるとともに、同年11月18日付けで明細書についての手続補正(平成6年改正前特許法17条の2第1項5号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成14年11月18日付けの手続補正を却下する。

[理由1](補正目的違反)
1.補正事項
本件補正は、補正前請求項1記載の「単一の箱型の操船コンソールの前面側に、上記主機遠隔操縦装置、操舵装置、操船者によるタッチ操作により各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置、及び操作手段を設け、・・・」を「単一の箱型の操船コンソールの前面側に、上記主機遠隔操縦装置、操舵装置、及び操船者によるタッチ操作により各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置を設け、・・・更に模擬視界以外の情報を表示するための操作手段を設けて構成され、」と補正(以下「補正事項1」という。)することを補正事項の1つとしている。

2.補正事項1の補正目的の判断
本件補正後の「操作手段」が本件補正前のそれを限定したものではないとすると、本件補正前の「操作手段」が本件補正後には存在しないことになる。そのような補正が、「請求項の削除」(平成6年改正前特許法17条の2第3項1号)、「特許請求の範囲の減縮」(同2号)、「誤記の訂正」(同3号)又は「明りょうでない記載の釈明(同4号)の何れを目的とするものでもないことは明らかである。
本件補正後の「操作手段」が本件補正前のそれを限定したものであるとしても、本件補正前ではそれが単一の箱型の操船コンソールの前面側に設けられる旨限定されているのに対し、本件補正後では設置位置の限定がない。このように、「操作手段」の設置位置の限定をなくすることは、上記平成6年改正前特許法17条の2第3項1号〜4号の何れを目的とするものでもない。
したがって、本件補正は平成6年改正前特許法17条の2第3項の規定に違反している。

[理由2](独立特許要件その1)
補正事項1のうち、「模擬視界以外の情報を表示するための操作手段を設けて構成」を追加することは、平成6年改正前特許法17条の2第3項2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認める。
また、本件補正は上記補正事項1に加えて、「上記主機遠隔操縦装置、操舵装置、入力装置、及び操作手段の操縦・操舵・操作を操船者一人により行い、」との限定を加えており(以下「補正事項2」という。)、これも一応「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認める。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)の独立特許要件について、本項及び次項で検討する。

補正発明は「操船シミュレータ」という物の発明であり、そうである以上、操縦・操舵・操作を操船者一人により行うのか、それとも二人以上により行うのかは、「操船シミュレータ」に使用方法についての構成でしかなく、物の発明の構成とはなりえない。物の発明の構成としては、せいぜい操船者一人により行うことが可能な程度に、操縦・操舵・操作の部材が配置されているとしか理解できない。
しかし、そのように理解したとすると、操縦・操舵・操作の部材がどの程度離隔して配置されておれば操船者一人により行うことが不可能であって、どの程度近接しておれば可能であるのかが明確でなければならない。ところが、本件補正後の請求項1の記載だけでなく、補正後の明細書(図面を含む)の全記載によっても、操縦・操舵・操作の部材の配置状況と操船者一人により行うことが可能か不可能かの関係を見出すことはできない。
したがって、本件補正後の特許請求の範囲の記載は特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分したものとはいえないから、平成6年改正前特許法36条5項2号に規定する要件を満たさない。すなわち、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[理由3](独立特許要件その2)
理由2で述べたとおり、本件補正後請求項1の記載は明確でないが、操縦・操舵・操作の部材を十分近接配置すれば操縦・操舵・操作を操船者一人により行うことは可能であると認められる(したがって、理由2では平成6年改正前特許法36条4項に規定する要件を満たさない、とはしていない。)から、その限度において補正発明の進歩性についても検討する。

1.補正発明の認定
平成14年11月18日付けで補正された明細書及び図面の記載によれば、補正発明はその特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりの次のものと認める。
「操船者に模擬視界を見せながら、主機遠隔操縦装置と操舵装置を操作させて船の操縦を行わせる操船シミュレータにおいて、単一の箱型の操船コンソールの前面側に、上記主機遠隔操縦装置、操舵装置、及び操船者によるタッチ操作により各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置を設け、操船コンソールの上部に、上記模擬視界を表示するための表示装置を設け、操船コンソールの内部に、上記主機遠隔操縦装置からの速力設定信号、上記操舵装置からの操舵信号、及び上記入力装置からの信号の計算とシミュレータ全体の制御をつかさどり、かつ、模擬視界映像を所定の視野角で生成する模擬視界映像生成部、航海計器映像を生成する航海計器映像生成部、海図映像を生成する模擬海図映像生成部、及び他船情報を基にレーダ図映像を生成するレーダ図映像生成部を有する計算制御装置を設け、更に模擬視界以外の情報を表示するための操作手段を設けて構成され、上記主機遠隔操縦装置、操舵装置、入力装置、及び操作手段の操縦・操舵・操作を操船者一人により行い、各映像生成部で生成した各種映像を上記表示装置に表示させるようにしたことを特徴とする操船シミュレータ。」

2.引用刊行物及びそこに記載の発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用した特開昭60-227286号公報(以下「引用例1」という。)には、「船舶搭載品と同等の操作機能を備えた操舵スタンドと、
船種、積荷、海象、船速、風向等の条件設定手段、前記操舵スタンドの操作による船速、舵角旋回率等を表示する指示手段、前記操舵スタンドの操作による操舵訓練の結果を表示するディスプレイ手段、及び操舵訓練に必要な各種の操作スイッチ手段を備えた教官コンソールと、
前記操舵スタンドの前方に配置されたスクリーンに舵輪操作に応じて移動する映像を投映表示する映像発生装置と、
前記スクリーンの上部に配置され、風向、船速、舵角、旋回率の各指示計および前記教官コンソールによる設定条件を表示する表示ランプを備えた船橋指示器パネルとで成ることを特徴とする操舵シミュレータ装置。」(1頁左下欄5行〜右下欄2行。以下「引用例発明1」という。)が記載されており、その説明として、次のア〜カの記載が図示とともにある。
ア.「本発明は、・・・実際に操舵していると同等な感覚が得られ・・・るようにした操船シミュレータ装置を提供することを目的とする。」(2頁右上欄3〜7行)
イ.「操舵スタンド1には舵輪2が全面(審決注;「前面」の誤記と解する。)に設けられると共に、上面に船舶進路を示すレピータ3が設けられ」(2頁左下欄15〜17行)
ウ.「5は映像発生装置であり、例えばオーバーヘッドプロジェクタが使用され、操舵スタンド1の前方に設置されたスクリーン6に操舵スタンド1の操作に応じた船舶の回頭に伴う視界の変化を投影表示しており、スクリーン6上の視界としては、例えば±60°の範囲で変化できるようにしている。」(2頁右下欄6〜12行)
エ.「7はスクリーン6の上部に設置された船橋指示器パネルであり、操舵スタンド1における訓練者が、相対風向、船速、舵角、旋回率の各指示及び教官コンソール4で設定した船種、積荷、海象等の訓練条件が判るように表示している。」(2頁右下欄13〜17行)
オ.「教官コンソール4は、大別して操作部、表示部、コントロール部及び電源部の4つの部分に分かれる。・・・操作部には船種、積荷、ポンプ台数、船速、海象、風向を設定する条件設定スイッチ群10・・・が設けられる。・・・船速についてはデッドスロー、スロー、ハーフ、ハーバーフル、ナビゲーションフルの5段階が選択でき、」(3頁左上欄10行〜右上欄8行)
カ.「操舵スタンドの前面に設けたスクリーンに操舵操作による船舶の動きに応じて映像を移動させるようにしているため、実際の操船時と同等な操舵感覚を訓練者に与えることができ、更に、スクリーンの上部に実船と同じ船橋指示器パネルを設けて風向、船速、舵角、旋回率、更に各種の条件を表示しているため、船橋指示器パネル及びスクリーン上の映像を見ながら適切な操舵訓練を行なうことができる。」(5頁右上欄12行〜左下欄2行)

3.補正発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定
引用例発明1の「操舵スタンド」は補正発明の「箱型の操船コンソール」に相当し、補正発明の「操舵装置」(記載ウの「舵輪2」がこれに相当する。)を備えたものである(実施例では、補正発明同様前面に設けられている。)。
補正発明の「主機遠隔操縦装置」とは、「主機遠隔操縦装置からの速力設定信号」との記載(同様記載が段落【0019】にもある。)からみて、速力を設定する装置であるから、引用例発明1の船速設定手段がこれに相当する。ただし、それを「単一の箱型の操船コンソールの前面側」に設けること等は相違点となる。また、引用例発明1の船速を除く条件設定手段及び「操舵訓練に必要な各種の操作スイッチ手段」は、補正発明の「操船者によるタッチ操作により各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置」に相当するが、その設置箇所及び操船者によるタッチ操作であるかどうかは相違点となる。
引用例発明1の「舵輪操作に応じて移動する映像」、「スクリーン」及び「映像発生装置」は、補正発明の「模擬視界」、「模擬視界を表示するための表示装置」及び「模擬視界映像を所定の視野角で生成する模擬視界映像生成部」にそれぞれ相当する。したがって、引用例発明1が、操船者に模擬視界を見せながら、操舵装置を操作させて船の操縦を行わせる操船シミュレータであることは明らかである。
引用例発明1に「風向、船速、舵角、旋回率の各指示計」が備わっていることと、補正発明に「航海計器映像を生成する航海計器映像生成部」が備わっており「各映像生成部で生成した各種映像を上記表示装置に表示させるようにしたこと」とは、操船者が航海計器を視認できるように構成した点で一致する。
したがって、補正発明と引用例発明1とは、
「操船者に模擬視界を見せながら、操舵装置を操作させて船の操縦を行わせる操船シミュレータにおいて、箱型の操船コンソールの前面側に操舵装置を設け、主機遠隔操縦装置及び各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置を設け、模擬視界映像を所定の視野角で生成する模擬視界映像生成部を設け、上記模擬視界を表示するための表示装置を設け、操船者が航海計器を視認できるように構成した操船シミュレータ。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明が「単一の箱型の操船コンソールの前面側に、上記主機遠隔操縦装置、操舵装置、及び操船者によるタッチ操作により各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置を設け」、「主機遠隔操縦装置、操舵装置、入力装置、及び操作手段の操縦・操舵・操作を操船者一人により行い」とした(ここには「操船者に・・・主機遠隔操縦装置・・・を操作させて船の操縦を行わせる」との構成も含まれる。)のに対し、引用例発明1では「主機遠隔操縦装置」及び「各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置」に相当する装置は存在するけれども、それらは操舵装置が設けられた箱型の操船コンソールとは別の教官コンソールに設けられており、「入力装置」については操船者によるタッチ操作によるともいえない点。
〈相違点2〉「模擬視界を表示するための表示装置」が補正発明では「操船コンソールの上部に」設けられているのに対し、引用例発明1では「操舵スタンドの前方に配置され」ている点。
〈相違点3〉補正発明が「操船コンソールの内部に、上記主機遠隔操縦装置からの速力設定信号、上記操舵装置からの操舵信号、及び上記入力装置からの信号の計算とシミュレータ全体の制御をつかさどり、かつ、模擬視界映像を所定の視野角で生成する模擬視界映像生成部、航海計器映像を生成する航海計器映像生成部、海図映像を生成する模擬海図映像生成部、及び他船情報を基にレーダ図映像を生成するレーダ図映像生成部を有する計算制御装置を設け、更に模擬視界以外の情報を表示するための操作手段を設けて構成され、・・・各映像生成部で生成した各種映像を上記表示装置に表示させるようにした」のに対し、引用例発明1は「模擬視界映像を所定の視野角で生成する模擬視界映像生成部」を有すること及び航海計器を視認できるように構成したことはいえるものの、その余の構成を備えるとはいえない点。

4.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
(1)相違点1について
請求人は、「操船シミュレータにおいては、操船は一人で行うものでなく、複数人のチームによって行うものであります。・・・従来の操船シミュレータにおいては、操船シミュレーションは複数人、例えば、少なくとも操船者と教官の二人以上で行うことが前提となっており、・・・操船シミュレータにおいて、操船を一人で行う証拠の提示もなく、「教官コンソールや設定表示部に置かれていた入力装置及び計算制御装置を、操船コンソールに移動させて本願発明の如く構成するのは容易」とした認定は、何ら合理的な根拠のないものであります。」(平成14年11月18日付け手続補正書(方式)5頁21行〜6頁1行)、及び「単一の操船コンソールに、主機遠隔操縦装置、操舵装置、入力装置、及び操作手段を設けることで、従来の操船シミュレータと違って、装置構成が非常にコンパクトとなり、可搬性があるため、設置箇所を自由に変更することができるという作用効果を奏するものであります。」(同書6頁9〜12行)と主張する。
なるほど、引用例1に記載されているように、教官と訓練生がペアになって操船訓練を行うだけなら、教官コンソールと操舵スタンドを分離して、「主機遠隔操縦装置」及び「各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置」は教官コンソールに配置する方が便利であり、教官コンソールを除去したり「主機遠隔操縦装置」及び「各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置」を操舵スタンドに移設する理由はないかもしれない。
しかし、操船訓練に限らず、およそ訓練といわれるもの一般においては、教官の指示により訓練を行う場合と、自主的に訓練する場合があることは論を待たない。また、引用例発明1であっても、訓練生が教官コンソールにて各種設定を行った後、操舵スタンドに赴いて操船訓練を自主的に行うことが不可能であるとまでは認めることができない。逆に、補正発明は「操作手段の操縦・操舵・操作を操船者一人により行い」との構成を有するものであるが、「操船シミュレータ」の発明としては「操作手段の操縦・操舵・操作を操船者一人により行うことができる」としか解釈できないことは[理由2]で述べたとおりであり、「操船者一人により行うことができる」としても、教官と操船者の二人で操作することが不可能ではない。
加えて、原査定の拒絶の理由に引用された特開平1-150189号公報(以下「引用例2」という。)には、
「本発明は、価格的に有利なパーソナルコンピュータを用いた操船シミュレータに関するものである。」(1頁右下欄13〜15行)、
「本発明は、・・・パーソナルコンピュータを使用した可搬タイプとし、簡便に扱うことができ、しかも対象とする船舶及び水域を任意に組み合せてシミュレートできるミニ操船シミュレータを提供することを目的としている。」(2頁左上欄14〜19行)、及び
「本発明のミニ操船シミュレータの構成は、当該船舶の操船データを記憶する記憶手段と、当該水域データを記憶する記憶手段と、操舵データ入力手段と、エンジン主機出力水準入力手段と、補助操船データ入力手段と、環境データの入力手段と、操船データ、当該水域図、当該船舶及びその軌跡などの必要情報を時間経過と共に表示する表示手段と、前記各データ及び入力手段からの信号により前記表示装置を駆動する制御装置とから成り、・・・前記制御装置は、前記各入力手段からのデータに基づき当該船舶の動きを演算する演算手段及びその演算結果による航跡を水域上に順次表示する画像処理手段とを備えたマイクロプロセッサを備えたコンピュータから成ることを特徴とするものである。」(2頁右上欄1行〜左下欄7行)との各記載がある。
これら記載によれば、引用例2記載の操船シミュレータ(以下「引用例発明2」という。)を構成する部材は、「操船データを記憶する記憶手段」、「水域データを記憶する記憶手段」、「操舵データ入力手段」、「エンジン主機出力水準入力手段」、「補助操船データ入力手段」、「環境データの入力手段」、「必要情報を時間経過と共に表示する表示手段」及び「前記各データ及び入力手段からの信号により前記表示装置を駆動する制御装置」であり、第4図ではこれらが近接した位置に配置されることが図示されており、他方、「エンジン主機出力水準入力手段」、「補助操船データ入力手段」又は「環境データの入力手段」を教官が入力する旨の記載は引用例2にはない。そうすると、引用例発明2の各部材は一人で操作するものと理解するのが自然であり、少なくとも一人で操作できることは明らかである。請求人の上記主張は可搬性がある操船シミュレータが新規であるかの主張であるが、これが誤りであるとは引用例2の上記記載(特に2頁左上欄の記載)から明らかである。
そして、操船者一人により操作するにふさわしい操船シミュレータが引用例発明2として公知であるばかりか、操船者一人により操作するにふさわしい構成を採用しても、教官と操船者の二人で操作することは可能であるから、引用例発明1を一人で操作するにふさわしい構成に変更することに困難性がないことは明らかである。その場合、引用例発明2のよに「パーソナルコンピュータ」(「制御装置」)に他の部材を接続する形態を採用することも1つの可能な態様であるが、引用例発明2は「パーソナルコンピュータ」を他用途にも使用するがゆえに採用された構成であり(引用例2の特許請求の範囲には、制御装置をパーソナルコンピュータとすることは限定されていない。)、操船シミュレータ専用機とした構成であれば、1つの装置に必要構成要素をまとめておくことが普通である。そして、操船シミュレータ専用機であれば、臨場感を出すために引用例発明1の操舵スタンドを残しておき、ここに残余の構成すべてを盛り込む程度のことは設計事項といえる。その際、操船者が操作すべき主機遠隔操縦装置、操舵装置及び入力装置の設置位置は、操作容易な位置とすればよく、舵輪と同様に操舵スタンド(操船コンソール)の前面とすることは設計事項にすぎない。
さらに、補正発明は、入力装置がタッチ操作によるものと限定するが、本願出願当時タッチ操作による入力装置は周知である(銀行ATMでも広く採用されている。)から、これも設計事項というよりない。
したがって、相違点1に係る補正発明の構成は、引用例発明1及び引用例発明2に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

(2)相違点2について
引用例発明2は「ミニ操船シミュレータ」であって、引用例2第4図に図示されているように相当程度小型であって、家庭内でも操作できるようなものである。また、本願出願当時フライトシミュレータに代表されるように、乗物のシミュレータは訓練用としてだけでなくゲームとしても製造販売されており、訓練用であるかゲームであるかによって、シミュレータの構成が大きく異なるものではない。換言すれば、ゲームを開発する際には訓練用シミュレータの構成が参考とされるし、逆に訓練用シミュレータの開発に当たりゲームを参考にできない理由はない。そして、ゲーム、特に専用ゲーム機であるアーケードゲームでは、操作部材の情報に表示装置があることは周知である。また、引用例発明1において、模擬視界は操船者が見やすい位置にあれば十分であるから、周知のアーケードゲームのように操作部材(補正発明の「操船コンソール」に相当する「操舵スタンド」)の上部に「模擬視界を表示するための表示装置」を設けることは設計事項というよりない。

(3)相違点3について
(1)で摘記した引用例2の記載によると、引用例発明2の「制御装置」(「パーソナルコンピュータ」)は補正発明の「計算制御装置」に相当するものであり(入力装置からの信号の計算とシミュレータ全体の制御をつかさどる装置として「計算制御装置」に相当するものは引用例発明1にも当然存在する。)、引用例発明1の操舵スタンドに残余の構成すべてを盛り込むことに困難性がないことは(1)で述べたとおりである。したがって、「計算制御装置」を「操船コンソールの内部に」設けることには何の困難性もない。
引用例2には(1)で摘記した記載のほか、「第7図はCRT8に表示する画面の一例を示すものであり、画面中央に海図(上方が北)、即ち水域25、岸壁26、危険水域を示すブイ27、航路限界28、燈台29など必要とする情報の表示と、船舶30の位置と船首方向とを示す略図により表示する。また画面周縁には、画面左上から右回りでスタート時からの経過時間31、風向32、風力33、船の姿勢(方位)34、エンジン出力水準指令(前進・後退を別に記号表示する)35、エンジン回転数36(船速は棒グラフで表示、以下同じ)、指令舵角37、船速38をそれぞれ表示している。これらの情報のいずれを表示するかは任意であり、このように海図の周囲に表示することは実際のメータ類の配置と異なるが、実際には操作者になんら混乱を起させないことを確認している。」(4頁左上欄3〜18行)との記載もある。
引用例発明2では模擬視界を表示せず、代わりに海図を表示している。このように、引用例1には海図表示についての記載がなく、引用例2には模擬視界表示についての記載がないけれども、引用例発明1は「実際に操舵していると同等な感覚が得られ」ることを目的とした発明であり(引用例1の記載ア参照。)、実際に操舵する場合には視界が見えると同時に、海図を見ることもあるのだから、両者を表示できるようにすること、及びそのために「海図映像を生成する模擬海図映像生成部」を計算制御装置に設けることは設計事項である。
補正発明の「他船情報を基にレーダ図映像を生成するレーダ図映像生成部」については、引用例1にも引用例2にも記載されていないけれども、「実際に操舵していると同等な感覚が得られ」るようにするために、レーダ図を表示できるようにすること、及びそのために「レーダ図映像生成部」を計算制御装置に設けることも設計事項である。
補正発明の「航海計器映像を生成する航海計器映像生成部」について検討すると、引用例2には、計器が表示すべき情報を「ミニ操船シミュレータ」の主たる画面である海図の周縁に表示することが記載されている。この技術を引用例発明1に採用して、航海計器を模擬視界映像の表示部であるスクリーンにて、模擬視界映像に重ねて表示することが当業者にとって想到容易であることは明らかである。その際、計器によって測定された測定値だけを表示するか、そうではなく、計器の映像を表示するかは、どれだけ現実の操船に近づけるかによって定まる設計事項でしかない。したがって、「航海計器映像を生成する航海計器映像生成部」を計算制御装置に設けることは、当業者にとって想到容易である。
また、(2)で述べたように、訓練用シミュレータの開発に当たりゲームを参考にできない理由はなく、家庭用ゲームにおいては、適宜の操作部材の操作により主たる画面に他の画面を重ねて選択表示することは広く行われている。例えば、本願出願前の平成6年4月2日に株式会社スクウェアより販売されたロールプレイイングゲーム「ファイナルファンタジーVI」では、フィールド上でスタートボタンを押すことによって縮小マップをオン/オフでき(製品同梱の取扱説明書13頁参照。)、ゴルフシミュレーションゲーム「ペブルビーチの波濤」では、コース図表示の際にホール全体図を画面右下に表示するかしないかの設定ができる(1992年横山俊郎が発行した「NEW 3D GOLF SIMULATION VER.2.0 PC-9801『ペブルビーチの波濤』プレイヤーズマニュアル」18頁参照。)。
さらに、「計器の映像」を模擬視界映像に重ねて表示するに当たり、常に重ね表示したのでは、模擬視界表示に割り当てられる面積が制限されることは明らかであると同時に、多くの家庭用テレヴィジョンや家庭用ビデオカメラでは、画面に重ねて選局情報や時刻を表示するしないの選択ができることは周知であるから、「計器の映像」を視認する必要があるときだけ表示できるようにすることも設計事項というべきである。
補正発明の「模擬視界以外の情報を表示するための操作手段」とは、「航海計器映像」、「模擬海図映像」及び「レーダ図映像」を主たる映像である「模擬海図映像」とともに同一の表示装置で表示するための操作手段であるから、前記したような表示するしないのの選択部材であってもよく、これを設けることは設計事項でしかない。
以上のとおりであるから、相違点3に係る補正発明の構成も、引用例発明1,引用例発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

(4)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1〜相違点3に係る補正発明の構成は、設計事項であるか又は当業者にとって想到容易な構成ばかりであり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用例発明1,引用例発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおり、本件補正は平成6年改正前特許法17条の2第3項の規定、及び同条4項で読み替えて準用する同法126条3項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
平成14年11月18日付けの手続補正は却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、平成12年8月30日付けで補正された明細書及び図面の記載によれば、補正発明はその特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりの次のものと認める。
「操船者に模擬視界を見せながら、主機遠隔操縦装置と操舵装置を操作させて船の操縦を行わせる操船シミュレータにおいて、単一の箱型の操船コンソールの前面側に、上記主機遠隔操縦装置、操舵装置、操船者によるタッチ操作により各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置、及び操作手段を設け、操船コンソールの上部に、上記模擬視界を表示するための表示装置を設け、操船コンソールの内部に、上記主機遠隔操縦装置からの速力設定信号、上記操舵装置からの操舵信号、及び上記入力装置からの信号の計算とシミュレータ全体の制御をつかさどり、かつ、模擬視界映像を所定の視野角で生成する模擬視界映像生成部、航海計器映像を生成する航海計器映像生成部、海図映像を生成する模擬海図映像生成部、及び他船情報を基にレーダ図映像を生成するレーダ図映像生成部を有する計算制御装置を設け、各映像生成部で生成した各種映像を上記表示装置に表示させるようにしたことを特徴とする操船シミュレータ。」

2.本願発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定
本願発明と引用例発明1とは、
「操船者に模擬視界を見せながら、操舵装置を操作させて船の操縦を行わせる操船シミュレータにおいて、箱型の操船コンソールの前面側に操舵装置を設け、主機遠隔操縦装置及び各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置を設け、模擬視界映像を所定の視野角で生成する模擬視界映像生成部を設け、上記模擬視界を表示するための表示装置を設け、操船者が航海計器を視認できるように構成した操船シミュレータ。」である点で一致し、「第2[理由3]3」で述べた相違点2(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)並びに次の相違点1’及び相違点3’で相違する。
〈相違点1’〉本願発明が「操船者に・・・主機遠隔操縦装置・・・を操作させて船の操縦を行わせる」ものであり、「単一の箱型の操船コンソールの前面側に、上記主機遠隔操縦装置、操舵装置、操船者によるタッチ操作により各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置、及び操作手段を設け」たのに対し、引用例発明1では「主機遠隔操縦装置」及び「各種機器の制御や各種条件の変更を行うための入力装置」に相当する装置は存在するけれども、それらは操舵装置が設けられた箱型の操船コンソールとは別の教官コンソールに設けられており、「入力装置」については操船者によるタッチ操作によるともいえない点。
〈相違点3’〉本願発明が「操船コンソールの内部に、上記主機遠隔操縦装置からの速力設定信号、上記操舵装置からの操舵信号、及び上記入力装置からの信号の計算とシミュレータ全体の制御をつかさどり、かつ、模擬視界映像を所定の視野角で生成する模擬視界映像生成部、航海計器映像を生成する航海計器映像生成部、海図映像を生成する模擬海図映像生成部、及び他船情報を基にレーダ図映像を生成するレーダ図映像生成部を有する計算制御装置を設け、各映像生成部で生成した各種映像を上記表示装置に表示させるようにした」のに対し、引用例発明1は「模擬視界映像を所定の視野角で生成する模擬視界映像生成部」を有すること及び航海計器を視認できるように構成したことはいえるものの、その余の構成を備えるとはいえない点。
相違点1’のうち操作手段を単一の箱型の操船コンソールの前面側に設けることを除く構成、並びに相違点2及び相違点3’に係る構成が設計事項であるか当業者にとって想到容易であることは、「第2[理由3]4(1)〜(3)」で述べたと同様である(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
そこで、相違点1’のうち操作手段を単一の箱型の操船コンソールの前面側に設けることについて検討する。本願発明の「操作手段」が何であるか請求項1には明示的に記載されていないから、例えば主電源スイッチであってもよい。引用例発明1の実施例では主電源スイッチは教官コンソールにある(「教官コンソール4の主電源スイッチ14をオンにする。」(4頁13〜14行)との記載参照。)が、「第2[理由3]4(1)」で述べたように、引用例発明1の操舵スタンドを残しておき、ここに残余の構成すべてを盛り込む程度のことは設計事項であり、その場合主電源スイッチも操舵スタンドに移設することとなる。移設された主電源スイッチを操舵スタンド(操船コンソール)の前面側に設けることは設計事項である。
また、本願発明の「操作手段」は「模擬視界以外の情報を表示するための操作手段」(補正発明の構成)であってもよい。「模擬視界以外の情報を表示するための操作手段」を設けることが設計事項であることは、「第2[理由3]4(3)」で述べたとおりであり、その設置位置を操舵スタンド(操船コンソール)の前面側とすることも設計事項である。
以上のよれば、相違点1’,相違点2及び相違点3’についての本願発明の構成は設計事項であるか又は当業者にとって想到容易な構成ばかりであり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用例発明1,引用例発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、平成14年11月18日付けの手続補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-05-25 
結審通知日 2004-06-01 
審決日 2004-06-14 
出願番号 特願平6-220623
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G09B)
P 1 8・ 56- Z (G09B)
P 1 8・ 121- Z (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 聡子木村 史郎  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 清水 康司
津田 俊明
発明の名称 操船シミュレータ  
代理人 絹谷 信雄  

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