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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G09B
管理番号 1100920
審判番号 不服2002-20526  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-04-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-23 
確定日 2004-08-04 
事件の表示 平成 6年特許願第220492号「操船シミュレータの模擬視界表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 4月 2日出願公開、特開平 8- 87232〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成6年9月14日の出願であって、平成14年9月11日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年10月23日に本件審判請求がされるとともに、同年11月18日付けで明細書についての手続補正(平成6年改正前特許法17条の2第1項5号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成14年11月18日付けの手続補正を却下する。

[理由1](新規事項追加)
1.補正事項
本件補正は、補正前請求項1記載の「模擬視界映像に航海計器の映像を重ねて表示するようにした」を「表示選択スイッチで選択することにより、模擬視界映像に航海計器、ジャイロコンパス、海図、及びレーダ図等を重ねて選択表示するようにした」と補正することを補正事項の1つ(以下「本件補正事項」という。)としている。

2.新規事項についての判断
本件補正事項によれば、本件補正後の請求項1に係る発明では、海図及びレーダ図は模擬視界映像とは別の映像として生成され、表示選択スイッチの選択により模擬視界映像に重ねて選択表示されるものである。
他方、本件補正後の請求項1には「海図情報、及びレーダ図等の他船情報が格納されたデータベースと、それらのデータ及び情報が入力され、・・・模擬視界映像を生成する模擬視界映像生成部」とあるから、海図又はレーダ図等は「模擬視界映像生成部」によって模擬視界映像とは別の映像として生成されるものである。仮に、海図又はレーダ図等が「模擬視界映像生成部」以外によって生成されるのだとすると、海図情報、及びレーダ図等の他船情報を「模擬視界映像生成部」に入力することの技術的意義がないだけでなく、そのようなことが願書に最初に添付した明細書(以下、添付の図面を含めて「当初明細書」という。)に記載されていないことは明らかである。
そうすると、「模擬視界映像生成部」は模擬視界映像だけでなく、海図、及びレーダ図等をも生成するとともに、表示選択スイッチの選択情報が入力され、これら映像を模擬視界映像に重ねて表示するための「映像合成部」を備えるものでなければならない。

これに対し当初明細書には、
ア.「データベースには、海図情報及びレーダ図等の他船情報が格納され、模擬視界データと共に模擬視界映像生成部を介して表示する」(【請求項4】,【0009】)、
イ.「模擬船橋に搭乗した複数の操作者は、・・・航海計器、レーダなどにより操船環境の判断、見張り、主機制御や操舵などの作業を行い、操船訓練を行う。」(段落【0003】)、
ウ.「模擬視界の映像に重ねて航海計器、海図等を表示させることで、実計器等を装備することなく操船のシミュレーションが行える。」(段落【0011】)、
エ.「データベース16には、海図情報、及び・・・他船情報(レーダ図、ARPA情報等)が格納される」(段落【0018】)、
オ.「現在航行している海図28の表示は、画面5aの右下部に表示させ、同時にその海図28に、それまで操船した航跡29を表示するようにする。」(段落【0022】)、
カ.「操作者は、この画面5aに表示された模擬視界映像25、・・・海図28を見ながら、針路設定装置7や速力設定装置8の操縦を行い」(段落【0023】)、及び
キ.「模擬視界の映像に重ねて航海計器、海図等を表示させる」(段落【0029】)
との各記載があり、海図又はレーダ図の表示についての記載は他にない(添付図面の【図3】には上記段落【0022】記載のとおり図示されている。)。

これら当初明細書の記載によれば、海図又はレーダ図等が「模擬視界映像生成部」によって生成されることが記載されていることは認める。また、海図を模擬視界の映像に重ねて表示することも記載されており(段落【0011】,段落【0029】)、海図の表示態様とレーダ図等の表示態様が異なると解することは不自然であるから、レーダ図等を模擬視界の映像に重ねて表示することが、当初明細書の記載から自明であることも認める。
しかし、「模擬視界映像生成部」が海図、及びレーダ図等を模擬視界映像に重ねて表示するための「映像合成部」を備えることや、重ねて選択表示するための表示選択スイッチまでが、当初明細書に記載されていることや、当初明細書の記載から自明であるとまでは認めることができない。仮に、海図、及びレーダ図等を航海計器やジャイロコンパス同様に、模擬視界映像に重ねて選択表示するのであれば、海図又はレーダ図等を「模擬視界映像生成部」で生成しなければならない理由はなく、航海計器やジャイロコンパス同様に「模擬視界映像生成部」外で生成し、「映像合成部」によって模擬視界映像と合成するのが普通である。そのことは、本願と同日に同一出願人によって出願された特願平6-220623号(特開平8-87233号公報)の【図3】に、「模擬視界映像生成部」と合成されるべき映像として、「航海計器映像生成部」、「模擬海図映像生成部」及び「レーダ図映像生成部」からの映像h〜kが映像合成部29に入力されることが図示されていることからも明らかである。ところが、当初明細書にはそのように記載又は図示されていないし、【図1】における映像合成部4の合成対象は、コンパス表示映像信号10と航海計器表示映像信号11の2つだけとされている。
【図2】には模擬視界映像に海図が重ねて表示されていない図が、【図3】には重ねて表示されている図がそれぞれ図示されているけれども、当初明細書には【請求項1】〜【請求項5】の5つの発明が特許請求の範囲に記載されており、海図又はレーダ図について限定した請求項は【請求項4】だけである。そうであれば、当初明細書には、海図又はレーダ図を表示する発明と表示しない発明の両者が記載されているというべきであり、【図2】はそのうちの後者を【図3】は前者を図示したと自然に解釈できるから、重ねて表示した図とそうでない図があるからといって、海図又はレーダ図を選択表示することが記載されていることにはならない。
したがって、本件補正は願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではないから、平成6年改正前特許法17条の2第2項で準用する同法17条2項の規定に違反する。

[理由2](独立特許要件)
本件補正事項は【請求項1】の減縮を目的とする(平成6年改正前特許法17条の2第3項2号)ものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)の独立特許要件についても検討する。

1.補正発明の認定
平成14年11月18日付けで補正された明細書及び図面の記載によれば、補正発明はその特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりの次のものと認める。
「操船すべき船からの模擬視界映像を表示し、速力設定装置と針路設定装置を操作して上記船を操縦する操船シミュレータの表示装置において、模擬視界データ、海図情報、及びレーダ図等の他船情報が格納されたデータベースと、それらのデータ及び情報が入力され、上記速力設定装置と針路設定装置の操縦により模擬視界映像を生成する模擬視界映像生成部と、船速、舵角、回頭角速度、主軸回転数、コンパス方位などの自船情報が格納され、速力設定装置と針路設定装置の操縦による操船に基づいて自船情報を計器の映像として生成する航海計器表示生成部と、上記模擬視界映像と自船情報などとを合成する映像合成部と、映像合成部に出力する自船情報などの映像の信号を選択する表示選択スイッチとを備え、表示選択スイッチで選択することにより、模擬視界映像に航海計器、ジャイロコンパス、海図、及びレーダ図等を重ねて選択表示するようにしたことを特徴とする操船シミュレータの模擬視界表示装置。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用した特開昭60-227286号公報(以下「引用例1」という。)には、次のア〜キの記載が図示とともにある。
ア.「船舶搭載品と同等の操作機能を備えた操舵スタンドと、
船種、積荷、海象、船速、風向等の条件設定手段、前記操舵スタンドの操作による船速、舵角旋回率等を表示する指示手段、前記操舵スタンドの操作による操舵訓練の結果を表示するディスプレイ手段、及び操舵訓練に必要な各種の操作スイッチ手段を備えた教官コンソールと、
前記操舵スタンドの前方に配置されたスクリーンに舵輪操作に応じて移動する映像を投映表示する映像発生装置と、
前記スクリーンの上部に配置され、風向、船速、舵角、旋回率の各指示計および前記教官コンソールによる設定条件を表示する表示ランプを備えた船橋指示器パネルとで成ることを特徴とする操舵シミュレータ装置。」(1頁左下欄5行〜右下欄2行)
イ.「本発明は、・・・実際に操舵していると同等な感覚が得られ・・・るようにした操船シミュレータ装置を提供することを目的とする。」(2頁右上欄3〜7行)
ウ.「操舵スタンド1には舵輪2が全面(審決注;「前面」の誤記と解する。)に設けられると共に、上面に船舶進路を示すレピータ3が設けられ」(2頁左下欄15〜17行)
エ.「5は映像発生装置であり、例えばオーバーヘッドプロジェクタが使用され、操舵スタンド1の前方に設置されたスクリーン6に操舵スタンド1の操作に応じた船舶の回頭に伴う視界の変化を投影表示しており、スクリーン6上の視界としては、例えば±60°の範囲で変化できるようにしている。」(2頁右下欄6〜12行)
オ.「7はスクリーン6の上部に設置された船橋指示器パネルであり、操舵スタンド1における訓練者が、相対風向、船速、舵角、旋回率の各指示及び教官コンソール4で設定した船種、積荷、海象等の訓練条件が判るように表示している。」(2頁右下欄13〜17行)
カ.「教官コンソール4は、大別して操作部、表示部、コントロール部及び電源部の4つの部分に分かれる。・・・操作部には船種、積荷、ポンプ台数、船速、海象、風向を設定する条件設定スイッチ群10・・・が設けられる。・・・船速についてはデッドスロー、スロー、ハーフ、ハーバーフル、ナビゲーションフルの5段階が選択でき、」(3頁左上欄10行〜右上欄8行)
キ.「操舵スタンドの前面に設けたスクリーンに操舵操作による船舶の動きに応じて映像を移動させるようにしているため、実際の操船時と同等な操舵感覚を訓練者に与えることができ、更に、スクリーンの上部に実船と同じ船橋指示器パネルを設けて風向、船速、舵角、旋回率、更に各種の条件を表示しているため、船橋指示器パネル及びスクリーン上の映像を見ながら適切な操舵訓練を行なうことができる。」(5頁右上欄12行〜左下欄2行)

3.引用例1記載の発明の認定
引用例1記載の「操舵シミュレータ装置」は船速設定手段及び舵輪を備えており、これらは補正発明の「速力設定装置」及び「針路設定装置」にそれぞれ相当するから、この「操舵シミュレータ装置」は「速力設定装置と針路設定装置を操作して上記船を操縦する操船シミュレータ」ということができる。
引用例1記載の「映像発生装置」、「スクリーン」、「船橋指示器パネル」及び「レピータ」は全体として、操舵訓練時に必要となる情報を訓練者に提供する手段であるといえ、このうち「映像発生装置」によって「スクリーン」に投影表示される「視界の変化」は「操船すべき船からの模擬視界映像」といえる。したがって、引用例1記載のこれら全体からなるものは「操船すべき船からの模擬視界映像を表示し、速力設定装置と針路設定装置を操作して上記船を操縦する操船シミュレータの表示装置」であるといえる。
したがって、記載ア〜キを含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1には、
「操船すべき船からの模擬視界映像を表示し、速力設定装置と針路設定装置を操作して上記船を操縦する操船シミュレータの表示装置において、
映像発生装置、スクリーン、船橋指示器パネル及び船舶進路を示すレピータを備え、
前記船橋指示器パネルは前記スクリーンの上部に配置され、風向、船速、舵角、旋回率の各指示計を備えたものであり、
前記レピータは操舵スタンドに配置され、
操舵スタンドの操作に応じた船舶の回頭に伴う視界の変化を、前記映像発生装置により前記スクリーンに投影表示する操船シミュレータの模擬視界表示装置。」(以下「引用例発明1」という。)が記載されているものと認められる。

4.補正発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定
引用例発明1の「映像発生装置」は、操舵スタンドの操作に応じた船舶の回頭に伴う視界の変化をスクリーンに投影するものであるから、投影されるべき映像、すなわち模擬視界映像は針路設定装置の操縦により生成される点で補正発明の「模擬視界映像生成部」と一致する。
引用例発明1の「船橋指示器パネル」及び「レピータ」は、自船情報を表示するものであるから、補正発明と引用例発明1とは自船情報を表示できる点で一致する。さらに、補正後請求項1には「船速、舵角、回頭角速度、主軸回転数、コンパス方位などの自船情報」と記載されており、「船速、舵角、回頭角速度、主軸回転数、コンパス方位」は「自船情報」の例示であって、自船情報の細目までが補正発明の構成として限定されているわけではない。そして、引用例発明1では「船橋指示器パネル」に「船速、舵角、旋回率の各指示計」が設けられており、これら指示計は航海計器であるといえ、「レピータ」によって表示されるものとジャイロコンパスにも実質的表示内容の相違は認められない。したがって、補正発明と引用例発明1とは、自船情報を計器の映像として表示できる点、並びに航海計器及びジャイロコンパスを表示できる点でも一致する。
なお、「船速、舵角、回頭角速度、主軸回転数、コンパス方位などの自船情報」について、「船速、舵角、回頭角速度、主軸回転数、コンパス方位」を必須とし、「など」とあるのはこれら必須以外の「自船情報」があってもなくてもよい、との趣旨に解する場合には、「自船情報」の細目が相違点となるけれども、「自船情報」として何を選択するかは設計事項にすぎず、進歩性を左右するような相違点にはなりえない。
したがって、補正発明と引用例発明1とは、
「操船すべき船からの模擬視界映像を表示し、速力設定装置と針路設定装置を操作して上記船を操縦する操船シミュレータの表示装置において、
上記針路設定装置の操縦により模擬視界映像を生成する模擬視界映像生成部を備え、
自船情報を計器の映像として、航海計器及びジャイロコンパスを表示できる操船シミュレータの模擬視界表示装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明が「模擬視界データ、海図情報、及びレーダ図等の他船情報が格納されたデータベース」を備え、「模擬視界映像生成部」にそれらのデータ及び情報が入力されるのに対し、引用例発明1がかかる構成を有するとまではいえない点。
〈相違点2〉模擬視界映像を生成するに当たり、補正発明では「速力設定装置と針路設定装置の操縦により」生成しているのに対し、引用例発明1では「速力設定装置」の設定と模擬視界映像生成の関係が明らかでない点。
〈相違点3〉補正発明が「速力設定装置と針路設定装置の操縦による操船に基づいて自船情報を計器の映像として生成する航海計器表示生成部」、「映像合成部」及び「映像合成部に出力する自船情報などの映像の信号を選択する表示選択スイッチ」を備え、「表示選択スイッチで選択することにより、模擬視界映像に航海計器、ジャイロコンパス、海図、及びレーダ図等を重ねて選択表示するようにした」のに対し、引用例発明1では海図及びレーダ図を表示できるとはされておらず(当然「重ねて選択表示」するものではない。)、航海計器及びジャイロコンパスは表示されるけれども、船橋指示器パネル又は操舵スタンドに指示計(「航海計器」と同義と認める。)又はレピータとして設けたものであり、航海計器表示生成部により計器の映像として生成されたものではなく、模擬視界映像に重ねて選択表示されるものでもない点。

5.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
(1)相違点1について
原査定の拒絶の理由に引用された特開平1-150189号公報(以下「引用例2」という。)には、
ク.「本発明は、価格的に有利なパーソナルコンピュータを用いた操船シミュレータに関するものである。」(1頁右下欄13〜15行)
ケ.「本発明のミニ操船シミュレータの構成は、当該船舶の操船データを記憶する記憶手段と、当該水域データを記憶する記憶手段と、操舵データ入力手段と、エンジン主機出力水準入力手段と、補助操船データ入力手段と、環境データの入力手段と、操船データ、当該水域図、当該船舶及びその軌跡などの必要情報を時間経過と共に表示する表示手段と、前記各データ及び入力手段からの信号により前記表示装置を駆動する制御装置とから成り、・・・前記制御装置は、前記各入力手段からのデータに基づき当該船舶の動きを演算する演算手段及びその演算結果による航跡を水域上に順次表示する画像処理手段とを備えたマイクロプロセッサを備えたコンピュータから成ることを特徴とするものである。」(2頁右上欄1行〜左下欄7行)
コ.「第7図はCRT8に表示する画面の一例を示すものであり、画面中央に海図(上方が北)、即ち水域25、岸壁26、危険水域を示すブイ27、航路限界28、燈台29など必要とする情報の表示と、船舶30の位置と船首方向とを示す略図により表示する。」(4頁左上欄3〜8行)
との各記載がある。
これら記載によると、引用例2には操船シミュレータにおいて時間経過と共に順次表示すべき図を生成するに必要な情報(補正発明の「海図情報」に相当する「水域データ」を含む。)を記憶手段(「データベース」ということもできる。)に記憶すること、及び海図を表示することが記載されているものと認める。
引用例発明1では模擬視界表示を行っており、模擬視界映像を生成するに必要なデータ(模擬視界データ)をデータベースに格納しておくことは、引用例2記載の技術に基づき当業者にとって想到容易である。
また、引用例1には海図表示についての記載がなく、引用例2には模擬視界表示についての記載がないけれども、引用例発明1は「実際に操舵していると同等な感覚が得られ」ることを目的とした発明であり(引用例1の記載イ参照。)、実際に操舵する場合には視界が見えると同時に、海図を見ることもあるのだから、両者を表示できるようにすることは設計事項である。
さらに、レーダ図等の他船情報については、引用例1にも引用例2にも記載されていないけれども、「実際に操舵していると同等な感覚が得られ」るようにするために、レーダ図を表示できるようにすること、及びそのための情報をデータベースに格納しておくことも設計事項である。

相違点1に係る補正発明の構成は、海図情報及びレーダ図等の他船情報が「模擬視界映像生成部」に入力されることも要件としているので検討する。引用例2記載の発明は「ミニ操船シミュレータ」であって、引用例2第4図に図示されているように相当程度小型であって、家庭内でも操作できるようなものである。また、本願出願当時フライトシミュレータに代表されるように、乗物のシミュレータは訓練用としてだけでなくゲームとしても製造販売されており、訓練用であるかゲームであるかによって、シミュレータの構成(特に視覚部分について)が大きく異なるものではない。換言すれば、ゲームを開発する際には訓練用シミュレータの構成が参考とされるし、逆に訓練用シミュレータの開発に当たりゲームを参考にできない理由はない。そして、ゲーム特に家庭用ゲームであれば、表示画面は単一画面であって、そこにすべての表示すべき情報を表示することが普通である。そうであれば、引用例発明1において海図及びレーダ図等を表示しようとした際、これら図を、模擬視界映像の表示部であるスクリーンにて表示できるよう、「映像発生装置」(「模擬視界映像生成部」)に入力することも設計事項というよりない。
したがって、相違点1に係る補正発明の構成は、引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

(2)相違点2について
原査定の拒絶の理由に引用された実願平3-64809号(実開平05-017671号)のCD-ROMに、「シミュレーション演算部81は、自船の位置や速度及び移動目標の位置や速度など、シミュレーションに関して必要な時々刻々変化する情報を演算し、その結果を音響模擬装置9と、視界再現のためのビジュアル演算部82とに与える。」(段落【0013】)との記載があるとおり、できるだけ忠実に視界再現をしようとすれば、自船の速度が必要となることは当然である。
相違点2に係る補正発明の構成とは、このことを単に明記したにすぎず設計事項というよりない。

(3)相違点3について
引用例2には記載コに続けて、「また画面周縁には、画面左上から右回りでスタート時からの経過時間31、風向32、風力33、船の姿勢(方位)34、エンジン出力水準指令(前進・後退を別に記号表示する)35、エンジン回転数36(船速は棒グラフで表示、以下同じ)、指令舵角37、船速38をそれぞれ表示している。これらの情報のいずれを表示するかは任意であり、このように海図の周囲に表示することは実際のメータ類の配置と異なるが、実際には操作者になんら混乱を起させないことを確認している。」(4頁左上欄8〜18行)と記載があり、計器が表示すべき情報を「ミニ操船シミュレータ」の主たる画面である海図の周縁に表示することが記載されている。この技術を引用例発明1に採用して、航海計器及びジャイロコンパスを模擬視界映像の表示部であるスクリーンにて、模擬視界映像に重ねて表示することが当業者にとって想到容易であることは明らかである。その際、計器によって測定された測定値だけを表示するか、そうではなく、計器の映像を表示するかは、どれだけ現実の操船に近づけるかによって定まる設計事項でしかない。また、「計器の映像」を「速力設定装置と針路設定装置の操縦による操船に基づい」た映像とすることは当然である。
また、(1)で述べたように、訓練用シミュレータの開発に当たりゲームを参考にできない理由はなく、家庭用ゲームにおいては、適宜の操作部材の操作により主たる画面に他の画面を重ねて選択表示することは広く行われている。例えば、本願出願前の平成6年4月2日に株式会社スクウェアより販売されたロールプレイイングゲーム「ファイナルファンタジーVI」では、フィールド上でスタートボタンを押すことによって縮小マップをオン/オフでき(製品同梱の取扱説明書13頁参照。)、ゴルフシミュレーションゲーム「ペブルビーチの波濤」では、コース図表示の際にホール全体図を画面右下に表示するかしないかの設定ができる(1992年横山俊郎が発行した「NEW 3D GOLF SIMULATION VER.2.0 PC-9801『ペブルビーチの波濤』プレイヤーズマニュアル」18頁参照。)。
さらに、「計器の映像」を模擬視界映像に重ねて表示するに当たり、常に重ね表示したのでは、模擬視界表示に割り当てられる面積が制限されることは明らかであると同時に、多くの家庭用テレヴィジョンや家庭用ビデオカメラでは、画面に重ねて選局情報や時刻を表示するしないの選択ができることは周知であるから、「計器の映像」を視認する必要があるときだけ表示できるようにすることも設計事項というべきである。
そして、前掲実願平3-64809号(実開平05-017671号)のCD-ROMの【図2】にCG画像発生部11の映像とビデオ画像発生部12の映像を合成する映像合成部13が図示されているように、引用例発明1の主たる画面である模擬視界映像に航海計器、ジャイロコンパス、海図、及びレーダ図等を重ねて表示するための「映像合成部」を設けることも設計事項というよりなく、選択表示するためには、なんらかの操作部材が必要であることは自明であり、補正発明の「表示選択スイッチ」とはその操作部材にほかならない。
以上のとおりであるから、相違点3に係る補正発明の構成は、引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

(4)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1〜相違点3に係る補正発明の構成は、設計事項であるか又は当業者にとって想到容易な構成ばかりであり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用例発明1,引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、平成6年改正前特許法17条の2第4項で読み替えて準用する同法126条3項の規定に違反している。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおり、本件補正は平成6年改正前特許法17条の2第2項で準用する同法17条2項の規定、及び同法17条の2第4項で読み替えて準用する同法126条3項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
平成14年11月18日付けの手続補正は却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、平成12年8月30日付けで補正された明細書及び図面の記載によれば、補正発明はその特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりの次のものと認める。
「操船すべき船からの模擬視界映像を表示し、速力設定装置と針路設定装置を操作して上記船を操縦する操船シミュレータの表示装置において、模擬視界データ、海図情報、及びレーダ図等の他船情報が格納されたデータベースと、それらのデータ及び情報が入力され、上記速力設定装置と針路設定装置の操縦により模擬視界映像を生成する模擬視界映像生成部と、船速、舵角、回頭角速度、主軸回転数、コンパス方位などの自船情報が格納され、速力設定装置と針路設定装置の操縦による操船に基づいて自船情報を計器の映像として生成する航海計器表示生成部と、上記模擬視界映像と自船情報とを合成する映像合成部とを備え、模擬視界映像に航海計器の映像を重ねて表示するようにしたことを特徴とする操船シミュレータの模擬視界表示装置。」

2.本願発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定
本願発明と引用例発明1とは、
「操船すべき船からの模擬視界映像を表示し、速力設定装置と針路設定装置を操作して上記船を操縦する操船シミュレータの表示装置において、
上記針路設定装置の操縦により模擬視界映像を生成する模擬視界映像生成部を備え、
自船情報を計器の映像として、航海計器及びジャイロコンパスを表示できる操船シミュレータの模擬視界表示装置。」である点で一致し、「第2[理由2]4」で述べた相違点1,相違点2及び次の相違点3’で相違する(相違点1及び相違点2については、補正発明を本願発明と読み替える。)。
〈相違点3’〉本願発明が「速力設定装置と針路設定装置の操縦による操船に基づいて自船情報を計器の映像として生成する航海計器表示生成部と、上記模擬視界映像と自船情報とを合成する映像合成部とを備え、模擬視界映像に航海計器の映像を重ねて表示するようにした」のに対し、航海計器及びジャイロコンパスは表示されるけれども、船橋指示器パネル又は操舵スタンドに指示計(「航海計器」と同義と認める。)又はレピータとして設けたものであり、航海計器表示生成部により計器の映像として生成されたものではなく、模擬視界映像に重ねて表示されるものでもない点。
相違点1〜相違点3’についての本願発明の構成は、「第2[理由2]5.(1)〜(3)」で述べたと同様に(補正発明を本願発明と読み替える。)、設計事項であるか又は当業者にとって想到容易な構成ばかりであり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用例発明1,引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、平成14年11月18日付けの手続補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-05-25 
結審通知日 2004-06-01 
審決日 2004-06-14 
出願番号 特願平6-220492
審決分類 P 1 8・ 561- Z (G09B)
P 1 8・ 575- Z (G09B)
P 1 8・ 121- Z (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 聡子木村 史郎  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 清水 康司
津田 俊明
発明の名称 操船シミュレータの模擬視界表示装置  
代理人 絹谷 信雄  

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