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審決分類 審判 全部無効 特174条1項 無効とする。(申立て全部成立) F27D
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) F27D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) F27D
管理番号 1101009
審判番号 無効2004-35018  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-12-10 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-01-13 
確定日 2004-08-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第3441647号発明「焼成用セッター」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3441647号の請求項1乃至3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3441647号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成10年5月25日に特許出願され、平成15年6月20日にその発明について特許権の設定がなされ、その後その特許について、平成16年1月13日に請求人株式会社 ニッカトーにより無効の申立てがなされたので、平成16年2月4日付けで答弁書提出の機会を与えたが、その指定期間内に何ら応答がなかったものである。

II.本件発明
本件請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明3」という。)は特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載されるとおりの次の事項により特定されるものである。 「【請求項1】未焼成のセラミックス成形体が載置されて焼成されるセラミックス製の焼成用セッターであって、その材質が立方晶のジルコニアからなり、完全安定化ジルコニアであることを特徴とする焼成用セッター。
【請求項2】前記材質が、Y、CaO、MgO、あるいは希土類元素を6〜
10mol%含む完全安定化ジルコニアである請求項1記載の焼成用セッター。
【請求項3】上面及び下面が平行な板状で一方の面に被焼成体を収納する凹
部をもち、凹部が蓋をされるように重ねて使用できることを特徴とする請求項1または2記載の焼成用セッター。」

III.請求人の主張及び証拠方法
1.請求人の主張
請求人は、本件発明1〜3についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1〜6号証を提出して、その無効理由を概略次のように主張している。
(i)無効理由その1(特許法第17条の2第3項違反)
特許権者は、平成15年4月15日付けで手続補正書を提出し、特許請求の範囲の請求項1と【0005】を補正しているが、本件出願当初の明細書には、この補正により追加された「100%立方晶系ジルコニアからなるいわゆる完全安定化ジルコニア」という概念は記載されておらず、また、「100%立方晶系ジルコニアからなる完全安定化ジルコニア」が実際に得られていたことを証明する記載もないから、平成15年4月15日付け手続補正書による補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(ii)無効理由その2
(2-1)本件発明1について(特許法第29条第1項違反)
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明である。
(2-2)本件発明2について
(イ)(特許法第36条第4項又は第6項違反)
本件発明2においては、安定化剤ともいうべき物質である「Y」と「希土類元素」は元素の形で、「CaO」と「MgO」は酸化物の形で、それぞれ規定されているが、通常安定化剤は酸化物の形で規定されているものであり、Y及び希土類元素は、CaO、MgOと異なり、何故通常の安定剤の形である酸化物ではなく、元素の形で用いられるのか不可解である。そのうえ、実施例には、生成物が100%立方晶からなるものであることを証明する記載もなければ、立方晶の存在量を測定する方法すら明記されていないから、本件特許明細書は、特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない。
(ロ)(特許法第29条柱書き違反)
本件特許明細書には、その実施例がYの場合についてのみ記載されているだけであり、しかもその実施例は、「(2-2)(イ)」で述べたとおり不完全なものである。また、Y以外の他の安定化剤を用いた実施例は記載されていないから、本件特許明細書の記載からでは、本件発明において100%立方晶からなるものが得られているのかどうか全く不明である。
よって、本件発明は、発明未完成であるから、特許法第29条柱書きの発明を構成しない。
(ハ)(特許法第29条第2項違反)
本件発明2は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2-3)本件発明3について(特許法第29条第2項違反)
(イ)請求項1を引用する本件発明3は、甲第1、6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ロ)請求項2を引用する本件発明3は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.証拠方法及び主な証拠の記載事項
請求人が提出した証拠方法とその主な証拠の記載事項は、次のとおりである。
(1)甲第1号証:特開平8-178549号公報
(摘示1-1)「【請求項1】 CaO、MgO、Y2O3、CeO2から選ばれた一種以上の安定化剤によって安定化された・・・安定化ジルコニア原料に対し、CaO、MgO、Y2O3、CeO2から選ばれた一種以上の成分を・・・添加して得られた粉体を成形し、これを焼成してなることを特徴とする電子材料焼成用ジルコニア質セッター。」(特許請求の範囲の請求項1)
(摘示1-2)「また、CaO、MgO、Y2O3、CeO2は、安定化剤として元来安定化ジルコニア原料にも含まれているものであるが、ジルコニアを安定化処理し、高純度化した後、改めて所定量添加することにより・・・焼結助剤として作用し、強度や耐反応性を向上させることが認められた。なお、安定化ジルコニア原料に安定化剤として元来含まれているCaO、MgO、Y2O3、CeO2成分は、ジルコニアの安定化にのみ作用しており、焼成過程における焼結助剤としての役割は果たさないので、焼結助剤としての作用を目的とするCaO、MgO、Y2O3、CeO2は、ジルコニアを安定化処理し、それを高純度化した後に、別途添加する必要がある。」(【0010】)
(摘示1-3)表1には、試験No.5、6、8について、基材材料は「CaO安定化ジルコニア」であり、安定化率は「100%」であることが記載されている。
(摘示1-4)表2には、試験No.10について、基材材料は「CaO安定化ジルコニア」であり、安定化率は「100%」であることが記載されている。
(摘示1-5)表3には、試験No.17〜19、21〜23について、基材材料は「CaO安定化ジルコニア」であり、安定化率は「100%」であることが記載されている。
(摘示1-6)「【産業上の利用分野】本発明は、フェライト、セラミックコンデンサー、バリスタ等の電子材料を焼成する際に使用するジルコニア質セッターに関する。」(【0001】)

(2)甲第2号証:日本セラミックス協会編「セラミックス辞典 第2版」平成9年3月25日発行、丸善株式会社、第28〜29頁
(摘示2-1)「純粋なジルコニアZrO2にCaO、MgO、ある種の希土類酸化物などを添加し、これら陽イオンを固溶させると、ジルコニアの高温相(正方晶、立方晶)を室温付近まで安定に(あるいは準安定に)存在させることができる。これをジルコニアの安定化といい、特に立方晶単相にまで安定化させたものを(完全)安定化ジルコニア・・・とよび、より低温相(正方晶、単斜晶)を含むものを部分安定化ジルコニア・・・とよぶ。」(「あんていかジルコニア 安定化-」の項)

(3)甲第3号証:「セラミックデータブック ’86」昭和61年5月22日発行、工業製品技術協会、第313頁
(摘示3-1)電子部品焼成用耐火物一覧表には、ジルコスーパーのZ-1201、Z-214、Z-1001は、ともに材質はカルシア安定化ジルコニア質であって、CaOの含有量(wt.%)と用途について、以下の事項が記載されている。
Z-1201 Z-214 Z-1001
CaO(wt.%) 4.0 4.3 4.6
用途 大型セッター 一般的セッター 小物用
サヤ サヤ

(4)甲第4号証:宗宮重行他1名編「新素材シリーズ ジルコニア セラミックス10」1989年5月15日発行、株式会社内田老鶴圃、第95〜106頁
(摘示4-1)「Fig.7は、予備焼結および1700℃で長時間加熱した試料の室温におけるX線回折強度の測定結果を示したものである。・・・ZrO2-8mol%Y2O3のピークは、予備焼結後および1700℃加熱後のいずれにおいてもc-ZrO2単相となっていると同定される(cおよびd)。」(第101頁第5〜13行)
(摘示4-2)「ZrO2-8mol%ではc-ZrO2単相組織が得られた。」(第106頁下から第11行)

(5)甲第5号証:「月刊ニューセラミックス」第9巻第5号、通巻第97号、平成8年4月25日発行、株式会社ティー・アイ・シィー、第22〜23頁
(摘示5-1)「ジルコニア質セッターは・・・特に高い電気的特性や磁気的特性が要求される製品を焼成する場合には、Y2O3安定化ジルコニアが使用される。」(第23頁左欄下から第7〜4行)

(6)甲第6号証:1991年版のニチアスカタログ「ファイバーセラミックス ルビールセッター」
(摘示6-1)「“ルビールセッター”は・・・ファイバーベースの新複合材料(ファイバーセラミックス)です。近年、飛躍的な発展をしている各種電子部品分野の焼成用治具(セッター・・・)として従来から使用されている重量質耐火物(・・・ジルコニア質)に代り・・・高い評価を受けております。」(「ファイバーセラミックス ルビールセッター」の項)
(摘示6-2)表紙には、種々の形状のルビールセッターの写真が掲載されており、その中には、上面及び下面が平行な板状で、対向する両端部が上方に突出した縁部を構成することにより、凹部をもつ形状であるセッターが開示されており、さらに、凹部をもつ形状のセッターは突出した縁部が上になる方向に複数重ねられている。

IV.当審の判断
請求人の無効理由のうち、上記無効理由その2について以下検討する。
1.本件発明1について
甲第1号証の摘示1-1には、CaO、MgO、Y2O3、CeO2から選ばれた一種以上の安定化剤によって安定化された安定化ジルコニア原料に対し、CaO、MgO、Y2O3、CeO2から選ばれた一種以上の成分を添加して得られた粉体を成形し、これを焼成してなる電子材料焼成用ジルコニア質セッターが記載され、摘示1-2によると、安定化ジルコニア原料に添加されたCaO、MgO、Y2O3、CeO2は、ジルコニアを安定化処理し、それを高純度化した後に、別途添加した焼結助剤であるから、上記安定化剤の中からCaOを選択すると、原料は「CaOを安定化剤として安定化された安定化ジルコニア」である。そして、摘示1-3〜1-5には、摘示1-1の電子材料焼成用ジルコニア質セッターの試験体に関して、基材材料がCaO安定化ジルコニアであり、安定化率が100%であることが記載されており、また、摘示1-6によると、ジルコニア質セッターにより焼成される電子材料は、フェライト、セラミックコンデンサー、バリスタ等であるから、ジルコニア質セッターは、「未焼成のセラミックス成形体が載置されて焼成されるセラミックス製の焼成用セッター」であるといえる。
以上の摘示1-1〜1-6に記載される事項を本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、「未焼成のセラミックス成形体が載置されて焼成されるセラミックス製の焼成用セッターであって、その材質がCaOによって安定化率が100%に安定化された安定化ジルコニアである焼成用ジルコニア質セッター」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「安定化率が100%に安定化された安定化ジルコニア」は、本件発明1の「完全安定化ジルコニア」に相当するから、両者は、「未焼成のセラミックス成形体が載置されて焼成されるセラミックス製の焼成用セッターであって、その材質がジルコニアからなり、完全安定化ジルコニアである焼成用セッター」で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点:材質が、本件発明1は「立方晶のジルコニア」からなるのに対し、甲1発明は、ジルコニアからなるものであるが、立方晶であることが規定されていない点。

上記相違点について検討すると、安定化ジルコニアについての周知技術文献であるといえる甲第2号証には、純粋なジルコニアZrO2にCaO、MgO、ある種の希土類酸化物などを添加し、これら陽イオンを固溶させると、ジルコニアの高温相(正方晶、立方晶)を室温付近まで安定に(あるいは準安定に)存在させることができ、これをジルコニアの安定化といい、特に立方晶単相にまで安定化させたものを(完全)安定化ジルコニアとよぶことが記載されているから、一般に「(完全)安定化ジルコニア」とは、立方晶単相であること、即ち、立方晶が100%であることは周知であるといえる。そうすると、甲1発明の「安定化率が100%に安定化された安定化ジルコニア(完全安定化ジルコニア)」は、立方晶が100%であるから、セッターの材質は立方晶のジルコニアからなるものであるといえる。
よって、上記相違点は、実質的な相違点ではなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、材質が、Y、CaO、MgO、あるいは希土類元素を6〜10mol%含む完全安定化ジルコニアであることをさらに特定したものであるところ、甲第3号証には、CaOを4.0〜4.6wt.%(8.4〜9.6mol%)含む、カルシア安定化ジルコニア質の電子焼成用耐火物が記載されており、その用途として、セッターが挙げられている。安定化ジルコニアに係る甲第2号証に記載される周知の事項を参酌すると、甲第3号証に記載される電子焼成用セッターに用いられるカルシア安定化ジルコニア質の耐火物は、材質が立方晶のジルコニアからなり、完全安定化ジルコニアであるといえるものである。
よって、甲1発明の立方晶のジルコニアからなり、完全安定化ジルコニアである材質として、甲第3号証に記載されるCaOを8.4〜9.6mol%含む完全安定化ジルコニア質の耐火物を適用することは、当業者であれば格別困難なことではない。
したがって、「1.本件発明1について」で検討した事項をも勘案すると、本件発明2は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3.本件発明3について
本件発明3は、上面及び下面が平行な板状で一方の面に被焼成体を収納する凹部をもち、凹部が蓋をされるように重ねて使用できるという事項により本件発明1又は本件発明2の焼成用セッターをさらに特定したものである。
これに対し、甲第6号証には、電子部品焼成用セッターが記載され(摘示6-1)、また、摘示6-2の写真から、上面及び下面が平行な板状で、対向する両端部に上方に突出した縁部を備えることにより、凹部が形成されたセッターが看取でき、このセッターが複数、各セッターの凹部が蓋をされるように重ねられていることも看取できる。さらに、各セッターの凹部に被焼成体を収納することは明らかであるから、甲第6号証には、上面及び下面が平行な板状で一方の面に被焼成体を収納する凹部をもち、凹部が蓋をされるように重ねて使用できる焼成用セッターが開示されているといえる。
そうすると、甲1発明の焼成用セッターを、甲第6号証に開示のあるような上面及び下面が平行な板状で一方の面に被焼成体を収納する凹部をもち、凹部が蓋をされるように重ねて使用できるものとすることは、当業者が容易になし得ることである。
よって、本件発明1をさらに特定する本件発明3は、「1.本件発明1について」で検討した事項をも勘案すると、甲第1、6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明2をさらに特定する本件発明3は、「2.本件発明2について」で検討した事項をも勘案すると、甲第1〜3、6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

V.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜3に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-06-02 
結審通知日 2004-06-03 
審決日 2004-06-21 
出願番号 特願平10-143386
審決分類 P 1 112・ 121- Z (F27D)
P 1 112・ 113- Z (F27D)
P 1 112・ 55- Z (F27D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木村 孔一  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 綿谷 晶廣
酒井 美知子
登録日 2003-06-20 
登録番号 特許第3441647号(P3441647)
発明の名称 焼成用セッター  
代理人 友松 英爾  
代理人 岡本 利郎  

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