• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B21D
管理番号 1101285
異議申立番号 異議1999-72508  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-04-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-06-23 
確定日 2004-08-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第2906063号「ダイセット用直動装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2906063号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第2906063号の請求項1に係る発明についての出願は、平成1年8月25日に特許出願され、同11年4月2日にその発明について特許権の設定の登録がされ、その後、同11年6月23日に特許異議申立人西田賢治より特許異議の申立てがされ、同12年3月29日付けで取消しの理由が通知され、その指定期間内である同12年6月6日に明細書の訂正の請求(後日、取下げ)がされ、同12年10月3日付けで訂正の拒絶の理由が通知され、その指定期間内である同12年12月26日及び同12年12月27日に特許異議意見書が提出された後、同13年4月17日付けで再度取消しの理由が通知され、その指定期間内である同13年6月12日に明細書の訂正の請求がされ、同14年4月19日に特許権者より上申書が提出され、同14年5月22日付けで再度訂正の拒絶の理由が通知され、その指定期間内である同14年7月8日に手続補正書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正請求に対する補正の適否について
前記手続補正書による補正は、前記平成13年6月12日にされた訂正の請求の訂正請求書に記載された「ローラ」(第3頁第3、15、26、28行、第4頁第26行等に記載)を「ニードルローラ」と補正するものであり、これは、前記訂正請求書に記載された訂正事項に、「ローラ」を「ニードルローラ」に訂正するという訂正事項を加えるものであって、訂正請求書の要旨を変更するものである。
したがって、前記補正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年法律第41号による改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第131条第2項の規定に適合しないので、当該補正は認められない。
2 訂正の内容
前記平成13年6月12日にされた訂正の請求による訂正の内容は、その訂正請求書に記載された事項より、次のとおりのものと認める。
(1)訂正事項a
誤記の訂正を目的として、願書に添付した明細書又は図面(以下「特許明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「ダイセット用直動機構」を
「ダイセット用直動装置」と訂正する。
(2)訂正事項b
明りょうでない記載の釈明を目的として、特許明細書等の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「かつ相互に離れた位置に介在させ」を
「かつ互いに離間した状態で介在させ」と訂正する。
(3)訂正事項c
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許明細書等の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「各ローラ(23)をガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部に遊嵌されるリテーナ(3)に脱落及び移動阻止状態に、かつ自転自在に保持させた」を
「各ローラ(23)をガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部に遊嵌させるリテーナ(3)の平面部(31)に形成した矩形の開口(32)内に移動阻止状態に、かつ自転自在に収容すると共に、前記平面部(31)の内面側及び外面側から開口(32)の内方に向かって突出する舌片(34)を設けて脱落阻止状態に保持させた」と訂正する。
(4)訂正事項d
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明りょうでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明に記載された
「かつ相互に離れた位置に介在させ」(特許掲載公報第4欄第33行)を
「かつ互いに離間した状態で介在させ」と訂正する。
(5)訂正事項e
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明りょうでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明に記載された
「各ローラ(23)をガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部に遊嵌されるリテーナ(3)に脱落及び移動阻止状態に、かつ自転自在に保持させた」(特許掲載公報第4欄第35-38行)を
「各ローラ(23)をガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部に遊嵌させるリテーナ(3)の平面部(31)に形成した矩形の開口(32)内に移動阻止状態に、かつ自転自在に収容すると共に、前記平面部(31)の内面側及び外面側から開口(32)の内方に向かって突出する舌片(34)を設けて脱落阻止状態に保持させた」と訂正する。
(6)訂正事項f
上記訂正事項eで訂正された記載との整合を図るため、明りょうでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明に記載された
「所定量圧縮された圧入状態で介在させる」(特許掲載公報第5欄第5行)を
「所定量圧縮された圧入状態で回転自在に介在させる」と訂正する。
(7)訂正事項g
明りょうでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明に記載された
「また、ローラ(23)の各々は・・・恐れはない。」(特許掲載公報第5欄第10-13行)を
「また、ローラ(23)の各々はリテーナ(3)によって互いに離間して保持されるため、下型(2a)と上型(2b)との繰り返し作動によってもローラ(23)が互いに近づき、ひいては互いに接触する恐れはない。」と訂正する。
(8)訂正事項h
誤記の訂正を目的として、発明の詳細な説明に記載された
「リテーナ(23)」(特許掲載公報第5欄第27行)を
「リテーナ(3)」と訂正する。
3 訂正発明
前記訂正の請求による訂正後の発明(以下「訂正発明」という。)は、その訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「下型(2a)又は上型(2b)の何れか一方から他方に直立させた複数のガイドポスト(1)(1)を他方の上型(2b)又は下型(2a)に貫通させて、各貫通部にガイドブッシュ(21)と転動体(20)とからなる直動機構を介装し、前記ガイドブッシュ(21)の内周面とガイドポスト(1)の外周面とを転動体(20)によって転がり接触させたダイセット用直動装置において、ガイドブッシュ(21)の内周面、及び、ガイドポスト(1)における前記ガイドブッシュ(21)との嵌合部の断面を相互に相似な多角形断面とし、ガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部の間隙に介在される転動体(20)を円筒状又は円柱状の複数のローラ(23)とし、多角形軸部(16)の平面部(11)とガイドブッシュ(21)の内周面の平面部(22)との間に前記ローラ(23)(23)の各々をその直径方向に所定量圧縮された圧入状態で、かつ互いに離間した状態で介在させ、これらローラ(23)(23)の転がり方向をガイドポスト(1)の軸線に平行に設定し、各ローラ(23)をガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部に遊嵌させるリテーナ(3)の平面部(31)に形成した矩形の開口(32)内に移動阻止状態に、かつ自転自在に収容すると共に、前記平面部(31)の内面側及び外面側から開口(32)の内方に向かって突出する舌片(34)を設けて脱落阻止状態に保持させたダイセット用直動装置。」
4 訂正拒絶理由の概要
平成14年5月22日付け訂正の拒絶の理由の概要は、訂正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないので、訂正は認められないというものである。
5 独立特許要件の判断
(1)引用例及び周知なダイセット用直動装置
ア 引用例
前記訂正の拒絶の理由に引用した実願昭57-34797号(実開昭58-137524号)のマイクロフィルム(異議申立人が提出した甲第1号証。以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されていると認める。
a 実用新案登録請求の範囲
「ポンチを設けたポンチホルダと、ダイを設けたダイホルダと、このダイホルダに立設され上記ポンチホルダの摺動部と嵌合してポンチホルダを上下動自在に案内するガイドポストとからなり、このガイドポストの上記摺動部との嵌合部を多角柱とし、その外周面に複数のローラベアリングを設けたことを特徴とするダイセット。」
b 明細書第2頁第9行-第3頁第3行
「そこで、高速プレス加工用のダイセットにおいては、第1図で示すように円柱状のガイドポストaの嵌合部bに多数のボールベアリングc・・・を設け、ポンチホルダdの摺動部eに摺動させるように構成している。しかし、ボールベアリングc・・・の場合には嵌合部bと摺動部eとの嵌め合いをきつくすることはできず、ポンチとダイとの位置決め精度を高くすることができないという事情がある。
〔考案の目的〕
この考案は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、高速プレスしても焼き付きの虞れがなく、ポンチとダイとを正確に位置決めして高精度のプレス加工ができるダイセットを提供しようとするものである。」
c 明細書第3頁第12行-第5頁第17行
「第2図中1はポンチホルダで、この下面にはポンチプレート2を介して複数本のポンチ3・・・が取付けられている。4はダイホルダで、この上面には上記ポンチ3・・・に対向するダイ5・・・が取付けられている。このダイホルダ4の四隅部には後述するガイドポスト6・・・が立設されていて、これらガイドポスト6・・・の嵌合部7・・・は上記ポンチホルダ1の四隅部に設けられた摺動部8・・・に上下動自在に嵌合されている。
・・・(中略)・・・一方、上記摺動部8は嵌合部7の横断面形状と同様に内周面が四角形の角筒によって形成され、嵌合部7の各ローラベアリング11・・・は摺動部8の内周面に密に接合するようになっている。この場合、ローラベアリング11・・・は従来のボールベアリングに比べて2倍近い耐荷重が得られるため摺動部8にきつく嵌合しても円滑に回転して摺動抵抗を減少できる。
なお、上記一実施例においては、ガイドポストを四角柱としたが、これに限定されず、五角、六角、八角柱などの多角柱としてもよく、また、嵌合部だけを多角柱としてガイドポストの基部は円柱状としてもよい。
〔考案の効果〕
この考案は以上説明したように、ガイドポストの嵌合部を多角柱とし、その各面にローラベアリングを設けることにより、ポンチホルダの摺動部との嵌め合いをきつくすることができ、ポンチとダイとの位置決めを正確に行うことができる。」
d また、第1図で示されるように円柱状のガイドポストの嵌合部に多数のボールベアリングを設け、ポンチホルダの摺動部に摺動させるように構成しているダイセットにおいて、多数のボールベアリングが接触する摺動部の面部が、断面が円形の曲面部であり、ボールベアリングと上記曲面部との接触が点接触であり、また、複数のローラベアリングと接触する面部が、断面が多角形の平面部であり、ローラベアリングと上記平面部との接触が線接触であることは、技術常識より明らかである。
以上のとおりであるので、引用例には、次の発明が記載されていると認める。
高速プレス加工用ダイセットにおいて、ボールベアリングをローラベアリングに変更するとともに前記ボールベアリングと接触していた断面が円形の曲面部を断面が多角形の平面部に変更することにより、前記曲面部と前記ボールベアリングとによる点接触を前記平面部と前記ローラベアリングとによる線接触に変更した高速プレス加工用ダイセット。
イ 周知なダイセット用直動装置
同じく前記訂正の拒絶の理由に引用した事項は、本件特許に係る出願の出願前周知なダイセット用直動装置であり、下型から上型に直立させた複数のガイドポストを上型に貫通させて、各貫通部にガイドブッシュと転動体とからなる直動機構を介装し、前記ガイドブッシュの内周面とガイドポストの外周面とを転動体によって転がり接触させたダイセット用直動装置において、ガイドブッシュの内周面、及び、ガイドポストにおける前記ガイドブッシュとの嵌合部の断面を相互に相似な円形断面とし、ガイドポストとガイドブッシュの嵌合部の間隙に介在される転動体を複数のボールとし、円形軸部の曲面部とガイドブッシュの内周面の曲面部との間に前記ボールの各々を互いに離間した状態で介在させ、これらボールの転がり方向をガイドポストの軸線に平行に設定し、各ボールをガイドポストとガイドブッシュの嵌合部に遊嵌させるリテーナの曲面部に形成した円形の開口内に移動阻止状態に、かつ自転自在に収容すると共に、前記曲面部の内面側及び外面側から開口の内方に向かって突出する舌片を設けて脱落阻止状態に保持させたダイセット用直動装置(以下「周知な第1のダイセット用直動装置」という。)というものである(例えば、実公昭40-1166号公報、特開昭48-14931号公報、実願昭58-66537号(実開昭59-171838号)のマイクロフィルム等参照。)。
(2)対比
訂正発明と前記周知な第1のダイセット用直動装置とを対比すると、周知な第1のダイセット用直動装置の「ボール」、「円形断面」、「円形軸部」、「曲面部」及び「円形の開口」は、それぞれ、「転動体」、「断面」、「軸部」、「面部」及び「開口」であることに限り、訂正発明の「ローラ」、「多角形断面」、「多角形軸部」、「平面部」及び「矩形の開口」と一致している。
したがって、両者は、次のダイセット用直動装置である点で一致している。
下型から上型に直立させた複数のガイドポストを上型に貫通させて、各貫通部にガイドブッシュと転動体とからなる直動機構を介装し、前記ガイドブッシュの内周面とガイドポストの外周面とを転動体によって転がり接触させたダイセット用直動装置において、ガイドブッシュの内周面、及び、ガイドポストにおける前記ガイドブッシュとの嵌合部の断面を相互に相似な断面とし、ガイドポストとガイドブッシュの嵌合部の間隙に介在される転動体を複数の転動体とし、軸部の面部とガイドブッシュの内周面の面部との間に前記転動体の各々を互いに離間した状態で介在させ、これら転動体の転がり方向をガイドポストの軸線に平行に設定し、各転動体をガイドポストとガイドブッシュの嵌合部に遊嵌させるリテーナの面部に形成した開口内に移動阻止状態に、かつ自転自在に収容すると共に、前記面部の内面側及び外面側から開口の内方に向かって突出する舌片を設けて脱落阻止状態に保持させたダイセット用直動装置。
しかし、両者は、次の相違点1及び2で相違している。
相違点1
訂正発明では、断面が多角形断面であり、転動体が円筒状又は円柱状のローラであり、多角形軸部の平面部とガイドブッシュの内周面の平面部との間にローラを介在させ、各ローラをリテーナの平面部に形成した矩形の開口内に収容しているのに対し、周知な第1のダイセット用直動装置では、そのようなものではなく、断面が円形断面であり、転動体がボールであり、円形軸部の曲面部とガイドブッシュの内周面の曲面部との間にボールを介在させたものであり、各ボールをリテーナの曲面部に形成した円形の開口内に収容している点。
相違点2
訂正発明では、ローラをその直径方向に所定量圧縮された圧入状態で介在させるのに対し、周知な第1のダイセット用直動装置では、そのようなものではない点。
(3)判断
相違点1について
前記引用例には、前記(1)アのとおりの発明が記載されており、前記引用例に記載された発明の「高速プレス加工用ダイセット」、「ボールベアリング」及び「ローラベアリング」は、それぞれ、「ダイセット用直動装置」、「ボール」及び「ローラ」と表現することができるので、前記引用例には、次の発明が記載されていることになる。
ダイセット用直動装置において、ボールをローラに変更するとともに前記ボールと接触していた断面が円形の曲面部を断面が多角形の平面部に変更することにより、前記曲面部と前記ボールとによる点接触を前記平面部と前記ローラとによる線接触に変更したダイセット用直動装置。
そして、前記周知な第1のダイセット用直動装置と前記引用例に記載された発明とは、ともにダイセット用直動装置であることで技術分野が一致するので、周知な第1のダイセット用直動装置において、ガイドポストの外周面とボールとの点接触及びガイドブッシュの内周面とボールとの点接触に前記引用例に記載された発明を採用し、転動体をローラに変更するとともにガイドポスト及びガイドブッシュの断面を多角形に変更し、多角形軸部の平面部とガイドブッシュの内周面の平面部との間にローラを介在させることは、格別に困難なことではない。
また、ローラを用いた直動機構において、ローラをリテーナの矩形の開口に収容することは、本件特許に係る出願の出願前周知(例えば、実願昭60-35994号(実開昭61-150524号)のマイクロフイルム参照。)であるので、前記ボールからローラへの変更に伴い開口をローラの形状に合わせて矩形とすることは、設計的事項にすぎない。
また、ガイドポスト及びガイドブッシュの断面を円形から多角形に変更するに伴い、ガイドポストとガイドブッシュとの間隙に遊嵌されるリテーナについても、その断面を円形から多角形に変更し、上記開口をリテーナの平面部に形成することも、設計的事項にすぎない。
また、ガイドポストの外周面の平面部及びガイドブッシュの内周面の平面部とローラとが線接触するのであるから、ローラの形状が円筒状又は円柱状であることは明かである。
相違点2について
ダイセット用直動装置において、ガイドポストとガイドブッシュとの間に転動体を所定量圧縮された圧入状態で介在させることは、本件特許に係る出願の出願前周知(例えば、特公昭62-48089号公報(第3欄第8-20行記載事項参照)、「プレス金型用部品 Green Book」,双葉電子工業株式会社,平成元年4月,p.33,34,243,244(異議申立人が提出した甲第4号証)(第243頁右欄第3-6行記載事項参照)等参照。)である。
したがって、前記相違点1についてで述べた周知な第1のダイセット用直動装置に前記引用例に記載された発明を採用することによるボールから円筒状又は円柱状のローラへの変更に際し、前記周知な技術をその円筒状又は円柱状のローラに採用し、その直径方向に所定量圧縮された圧入状態で介在させることに、困難性はない。
訂正発明の効果について
訂正発明が奏する効果は、前記引用例に記載された発明、前記周知な第1のダイセット用直動装置及び前記各周知な技術から予測できる程度のものであり、格別のものではない。
以上のとおりであるので、訂正発明は、前記引用例に記載された発明、前記周知な第1のダイセット用直動装置及び前記各周知な技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年法律第41号による改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
第3 特許異議の申立てについての判断
1 本件発明
前記のとおり、本件については訂正が認められないので、本件特許第2906063号の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、前記特許明細書等の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「下型(2a)又は上型(2b)の何れか一方から他方に直立させた複数のガイドポスト(1)(1)を他方の上型(2b)又は下型(2a)に貫通させて、各貫通部にガイドブッシュ(21)と転動体(20)とからなる直動機構を介装し、前記ガイドブッシュ(21)の内周面とガイドポスト(1)の外周面とを転動体(20)によって転がり接触させたダイセット用直動機構において、ガイドブッシュ(21)の内周面、及び、ガイドポスト(1)における前記ガイドブッシュ(21)との嵌合部の断面を相互に相似な多角形断面とし、ガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部の間隙に介在される転動体(20)を円筒状又は円柱状の複数のローラ(23)とし、多角形軸部(16)の平面部(11)とガイドブッシュ(21)の内周面の平面部(22)との間に前記ローラ(23)(23)の各々をその直径方向に所定量圧縮された圧入状態で、かつ相互に離れた位置に介在させ、これらローラ(23)(23)の転がり方向をガイドポスト(1)の軸線に平行に設定し、各ローラ(23)をガイドポスト(1)とガイドブッシュ(21)の嵌合部に遊嵌されるリテーナ(3)に脱落及び移動阻止状態に、かつ自転自在に保持させたダイセット用直動装置。」
2 特許異議申立ての理由及び取消しの理由の概要
特許異議申立ての理由は、本件発明は、前記引用例、特開昭62-75128号公報、実願昭51-98625号(実開昭53-17651号)のマイクロフィルム、「プレス金型用部品 Green Book」,双葉電子工業株式会社,平成元年4月,p.34,244(前記周知例として示したもの)及び「Green Book プレス金型部品」,双葉電子工業株式会社,昭和62年4月,p.67,111に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取り消されるべきものというものであり、また、当審で通知した平成13年4月17日付け取消しの理由は、本件発明は、周知なダイセット用直動装置並びに前記引用例、特公昭62-48089号公報(前記周知例として示したもの)及び「プレス金型用部品 Green Book」,双葉電子工業株式会社,平成元年4月,p.34,244(前記周知例として示したもの)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取り消されれるべきものというものである。
3 引用例及び周知なダイセット用直動装置
(1)引用例
前記第2の5(1)アの引用例と同じもの。
(2)周知なダイセット用直動装置
前記第2の5の(1)のイと同様に、下型から上型に直立させた複数のガイドポストを上型に貫通させて、各貫通部にガイドブッシュと転動体とからなる直動機構を介装し、前記ガイドブッシュの内周面とガイドポストの外周面とを転動体によって転がり接触させたダイセット用直動機構において、ガイドブッシュの内周面、及び、ガイドポストにおける前記ガイドブッシュとの嵌合部の断面を相互に相似な円形断面とし、ガイドポストとガイドブッシュの嵌合部の間隙に介在される転動体を複数のボールとし、円形軸部の曲面部とガイドブッシュの内周面の曲面部との間に前記ボールの各々を相互に離れた位置に介在させ、これらボールの転がり方向をガイドポストの軸線に平行に設定し、各ボールをガイドポストとガイドブッシュの嵌合部に遊嵌されるリテーナに脱落及び移動阻止状態に、かつ自転自在に保持させたダイセット用直動装置についても、本件特許に係る出願の出願前周知である(以下、この周知なダイセット用直動装置を「周知な第2のダイセット用直動装置」という。)。
4 対比
本件発明と前記周知な第2のダイセット直動装置とを対比すると、上記第2の5(2)と同様に、両者は、次のダイセット用直動装置である点で一致している。
下型から上型に直立させた複数のガイドポストを上型に貫通させて、各貫通部にガイドブッシュと転動体とからなる直動機構を介装し、前記ガイドブッシュの内周面とガイドポストの外周面とを転動体によって転がり接触させたダイセット用直動機構において、ガイドブッシュの内周面、及び、ガイドポストにおける前記ガイドブッシュとの嵌合部の断面を相互に相似な断面とし、ガイドポストとガイドブッシュの嵌合部の間隙に介在される転動体を複数の転動体とし、軸部の面部とガイドブッシュの内周面の面部との間に前記転動体の各々を相互に離れた位置に介在させ、これら転動体の転がり方向をガイドポストの軸線に平行に設定し、各転動体をガイドポストとガイドブッシュの嵌合部に遊嵌されるリテーナに脱落及び移動阻止状態に、かつ自転自在に保持させたダイセット用直動装置。
しかし、両者は、次の相違点3及び4で相違している。
相違点3
本件発明では、断面が多角形断面であり、転動体が円筒状又は円柱状のローラであり、多角形軸部の平面部とガイドブッシュの内周面の平面部との間にローラを介在させているのに対し、周知な第2のダイセット用直動装置では、そのようなものではなく、断面が円形断面であり、転動体がボールであり、円形軸部の曲面部とガイドブッシュの内周面の曲面部との間にボールを介在させたものである点。
相違点4
本件発明では、ローラをその直径方向に所定量圧縮された圧入状態で介在させるのに対し、周知な第2のダイセット用直動装置では、そのようなものではない点。
5 判断
相違点3については、前記第2の5(3)の相違点1についての検討の中で既に検討している。
また、相違点4については、前記第2の5(3)の相違点2についてで既に検討している。
また、本件発明の効果は、前記引用例に記載された発明、前記周知な第2のダイセット用直動装置及び前記各周知な技術から予測することができるものである。
したがって、本件発明は、前記引用例に記載された発明、前記周知な第2のダイセット用直動装置及び前記各周知な技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件の請求項1に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-09-04 
出願番号 特願平1-219523
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (B21D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 岡田 和加子  
特許庁審判長 小池 正利
特許庁審判官 三原 彰英
宮崎 侑久
登録日 1999-04-02 
登録番号 特許第2906063号(P2906063)
権利者 アイセル株式会社
発明の名称 ダイセット用直動装置  
代理人 宮崎 栄二  
代理人 園田 敏雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ