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審決分類 審判 全部無効 1項1号公知 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A01K
管理番号 1101785
審判番号 無効2001-35249  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-12-19 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-06-07 
確定日 2004-06-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2584721号発明「トリプルフック」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2584721号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第2584721号の請求項1に係る発明についての出願は、平成6年6月13日に出願され、平成8年11月21日にその発明についての特許の設定登録がされたものである。
その後、平成13年6月7日に無効審判が請求され、審判請求書の副本が送達され、その指定期間内である平成13年9月6日に答弁書が提出されるとともに、訂正請求がなされたものである。

2.訂正の可否に対する判断
(1)訂正の内容
(1-1)請求項1に
「放射方向の等間隔に先曲げ部を外方に向けて配列した三本の釣針1,2,3をその軸部1a,2a,3aで固定して一体化し、一体化した軸部の基端に接続環4を形成するトリプルフックにおいて、軸部の基端に形成する接続環4を三本の釣針の先曲げ部1b,2b,3bのうちの一本の釣針1の先曲げ方向Xと一致する方向に形成したことを特徴とするトリプルフック。」
とあるのを、
「放射方向の等間隔に先曲げ部を外方に向けて配列した三本の釣針1,2,3をその軸部1a,2a,3aで固定して一体化し、一体化した軸部の基端に接続環4を形成するルアー用トリプルフックにおいて、軸部の基端に形成する接続環4を三本の釣針の先曲げ部1b,2b,3bのうちの一本の釣針1の先曲げ方向Xと一致する方向に形成したことを特徴とするルアー用トリプルフック。」
と訂正する。

(1-2)明細書の次の個所(個所の指摘は特許公報上の個所で代替する。)の「トリプルフック」を「ルアー用トリプルフック」と訂正する。
発明の名称、特許公報第1頁第2欄第3行目、同第2頁第3欄第1行目、同第2頁第3欄第4行目、同第2頁第3欄第10行目、同第2頁第3欄第11行目、同第2頁第3欄第13行目、同第2頁第3欄第18行目、同第2頁第3欄第24行目、同第2頁第3欄第27行目、同第2頁第3欄第30行目、同第2頁第3欄第34行目、同第2頁第3欄第42行目、同第2頁第3欄第43行目、同第2頁第4欄第3行目、同第2頁第4欄第4行目、同第2頁第4欄第6行目、同第2頁第4欄第10行目、同第2頁第4欄第11行目、同第2頁第4欄第12行目、同第2頁第4欄第24行目、同第2頁第4欄第28行目、同第2頁第4欄第49行目、同第3頁第5欄第2行目、同第3頁第5欄第12行目、同第3頁第5欄第16行目、同第3頁第5欄第27行目、同第3頁第6欄第2行目、同第3頁第6欄第3行目、同第3頁第6欄第5行目、同第3頁第6欄第8行目、同第3頁第6欄第10行目、同第3頁第6欄第12行目、同第3頁第6欄第14行目、同第3頁第6欄第16行目、同第3頁第6欄第18行目、同第3頁第6欄第20行目、同第3頁第6欄第21行目。

(1-3)明細書の段落番号【0001】に「主に上記ルアー用」(特許公報第1頁第1欄第15行目)とあるのを「上記ルアー用」と訂正する。

(1-4)明細書の段落番号【0004】に「公報には、」(特許公報第2頁第3欄第16行目)とあるのを「公報に」と訂正し、段落番号【0009】に「接続環4形成」(特許公報第2頁第4欄第34行目)とあるのを「接続環4を形成」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項(1-1)は「トリプルフック」を「ルアー用トリプルフック」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、この点は願書に添付された明細書の段落番号【0001】、【0004】、【0006】に記載された事項であるから新規事項の追加には該当しないし、特許請求の範囲を実質的に拡張したり変更するものではない。
訂正事項(1-2)、訂正事項(1-3)は、特許請求の範囲の訂正に伴って発明の詳細な説明をそれに整合させるためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項(1-4)は、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項(1-2)、訂正事項(1-3)及び訂正事項(1-4)は、いずれも新規事項の追加には該当しないし、特許請求の範囲を実質的に拡張したり変更するものではない。
(3)まとめ
以上のことから、上記訂正は、特許法第134条第2項及び同第5項の規定によって準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.請求人の主張
本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも明瞭に現れており、特許法第29条第1項第1号に該当する発明であり、その特許を無効とすべきものである。

4.被請求人の主張
無効審判請求人の提出した甲第1号証及び甲第2号証の掛け針と、本件特許発明に係るルアー用トリプルフックは、以下の理由で全く異なるものである。
(1)同じ程度の大きさの魚を対象魚とする掛け針とルアー用トリプルフックを比較すると、その大きさが全く違う。
(2)掛け針はボラなどの魚を引っ掛けるものであり、ルアー用トリプルフックのように、装着したフックがルアー本体の動きを乱さないようにするといった問題は全く発生しないから、公知のボラ掛け針は、本件特許発明の技術思想には含まれないことは明らかである。

5.本件発明
上記訂正が認められるから、本件特許の請求項1に係る発明は訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下、「本件発明」という。)。
「放射方向の等間隔に先曲げ部を外方に向けて配列した三本の釣針1,2,3をその軸部1a,2a,3aで固定して一体化し、一体化した軸部の基端に接続環4を形成するルアー用トリプルフックにおいて、軸部の基端に形成する接続環4を三本の釣針の先曲げ部1b,2b,3bのうちの一本の釣針1の先曲げ方向Xと一致する方向に形成したことを特徴とするルアー用トリプルフック。」

6.甲第1号証の発明
甲第1号証は、播磨内陸生活文化総合センター西脇市郷土資料館 館長 村上允基が、平成13年5月10日に、依頼者 株式会社がまかつ 代表取締役 藤井繁克に宛てて、展示履歴についてした回答書であり、回答書には展示品の一部を写した写真1乃至5が添付されている。
回答書の中で、釣針のショーケース展示は、西脇市郷土資料館の常設展示の「伝統を守る特産品」コーナーの一展示として、昭和59年4月9日の開館以来展示しているものであり、写真1乃至5は回答日現在の展示状況を撮影したものであると回答している。
まず、写真1乃至5の釣針が、本件発明の出願前である昭和59年4月9日以来、国内において公然知られた発明であることに関しては、播磨内陸生活文化総合センター西脇市郷土資料館 館長 村上允基が証明するものであるし、当事者間にも争いがない。
また、添付の写真4および写真5において審判請求人が甲1と矢印によって示した特定の釣針は、「放射方向の等間隔に先曲げ部を外方に向けて配列した三本の釣針をその軸部で固定して一体化し、一体化した軸部の基端に接続環を形成する3本錨型の釣針であり、いわゆる掛け針」であり、この点に関しては無効事件答弁書において、「甲第1号証及び甲第2号証の掛け針は、三本の大きな釣針の軸部を細い針金で巻き付けて仮止めするとともにハンダ付けすることによって固定し、三本のうちの一本の釣り針の軸の基端に接続環を形成していることが認められる。」(答弁書第3頁)とあり、被請求人も認めるところである。
さらに、上記甲1と矢印によって示した特定の釣針は、甲第1号証の写真5をみると、軸部の基端に形成する接続環と三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針1の先曲げ方向Xとがほぼ一致してみえるが、この点に関して被請求人は、平成14年1月10日付けの口頭審理陳述要領書第2頁において、上記特定の釣り針は「接続環の方向と一本の釣り針の先曲げ方向とは、角度が5度以上違っていると思われる」と主張するとともに、平成13年9月6日付けの審判事件答弁書5頁において、「ボラ掛け針には接続環の方向に対し釣針の先曲げ部を一定の方向に向けるという必要性がない。すなわち、無効審判請求人が証拠としている公知のボラ掛け針には、本件特許発明のような技術思想が含まれていないことは明らかである。」と主張している。
ところで、被請求人は3本錨型釣り針の一般的な製造方法について、参考資料10をあげながら、第2回審判事件答弁書第3頁において、「作業者が釣り針の先曲げ部を手で持ち、軸部の基端部分を固定部材と中心軸の間に差し込み回転アームを回転させることによって接続環を形成している。したがって、先曲げ部が形成される平面と接続環が形成される平面は、必ずしも一致しない。」と主張するとともに、審判事件答弁書第5頁において「ボラ掛け針の製造上たまたま本件特許発明と同じように、接続環の方向と1本の釣り針の先曲げ方向が一致するものが出現することもあろうが、全てがそのようになっているとは限らず、商品によってバラツキ(5-30度程度)があることが判明した。」と主張している。
甲第1号証の3本錨型の掛け針の製造方法は不明であるが、被請求人が主張するような一般的な製造方法で作られたとすれば、作業者が先曲げ部をどのような持ち方をするかによって、先曲げ部が形成される平面と接続環が形成される平面が一致しないものが製造されることもあるが、甲第1号証のように接続環が三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針1の先曲げ方向Xとほぼ一致する方向に形成された釣り針が製造される可能性も高く、甲第1号証の掛け針は「軸部の基端に形成する接続環を三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針1の先曲げ方向Xとほぼ一致する方向に形成」されているみることは不自然ではない。
以上のことから、甲第1号証の発明は、
「放射方向の等間隔に先曲げ部を外方に向けて配列した三本の釣針をその軸部で固定して一体化し、一体化した軸部の基端に接続環を形成する3本錨型の掛け針において、軸部の基端に形成する接続環を三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針の先曲げ方向Xとほぼ一致する方向に形成した3本錨型の掛け針」
に係るものである。

7.対比
本件発明を甲第1号証の発明と対比すると、
a.甲第1号証の発明の「3本錨型の掛け針」と本件発明の「トリプルフック」とは、「3本錨型の釣り針」である点で共通し、
b.甲第1号証の発明の「軸部の基端に形成する接続環を三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針の先曲げ方向Xとほぼ一致する方向に形成した」と本件発明の「軸部の基端に形成する接続環を三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針の先曲げ方向Xと一致する方向に形成した」とは、甲第1号証の発明が被請求人が主張するように5度ずれていたとしても、本件発明は「釣針Aに形成される接続環Bの方向X1が釣針Cの先曲げ部C1の方向X2と直交する方向に形成された」従来技術に対向するものとして一致させるとしたものであることを考慮すると、両者は「軸部の基端に形成する接続環を三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針の先曲げ方向Xと同方向に形成した」点で共通するということができ、
以上のことから、両者間には次のような一致点、相違点がある。
(一致点)
放射方向の等間隔に先曲げ部を外方に向けて配列した三本の釣針をその軸部で固定して一体化し、一体化した軸部の基端に接続環を形成する3本錨型の釣り針において、軸部の基端に形成する接続環を三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針の先曲げ方向Xと同方向に形成した3本錨型の釣り針。
(相違点)
(1)軸部の基端に形成する接続環を三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針の先曲げ方向Xと同方向に形成するに当たって、本件発明は軸部の基端に形成する接続環を三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針1の先曲げ方向Xと一致する方向に形成したものであるのに対して、甲第1号証の発明は軸部の基端に形成する接続環を三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針1の先曲げ方向Xとほぼ一致する方向ではあるが5度程度ずれて形成したものである点
(2)3本錨型の釣り針が、本件発明がルアー用トリプルフックであるのに対して、甲第1号証の発明は3本錨型の掛け針である点

8.当審の判断
相違点(1)について検討する。
本件発明において「軸部の基端に形成する接続環を三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針1の先曲げ方向Xと一致する方向に形成した」といっても、上でも述べたように図11や図12のような従来のトリプルフックに対向するものとして上記のように規定したものであり、どの程度の精度をもって一致させるかについて規定しているものでもないし、またこの種のトリプルフックは精密部品ではないのであるから、本件発明が5度程度の角度誤差も許容しない発明であるとすることはできない。
また、被請求人が第2回審判事件答弁書に示したこの種の釣り針の一般的な製造方法からみても正確に一致させて製造するのは容易ではなく、このことから本件発明の「先曲げ方向Xと一致する方向に形成」と甲第1号証の発明の「先曲げ方向Xと(5度程度の誤差はあるが)ほぼ一致する方向に形成した」ものとの間に実質的な違いがあるとすることはできない。
次に相違点(2)について検討する。
本件発明は「ルアー本体にバランスよく装着することができるとともに、あたかもルアー本体の一部のように馴染んで装着することができるトリプルフックを得る」ことを目的とするものである。
しかし、この目的は、図3に示すように、本件発明のような構造のトリプルフックをルアー本体6の腹部に設けた固定環7にスプリットリング8を介在させてトリプルフックの接続環4を装着したときに限って実現できるものであり、例えばルアー本体6の固定環7に直接トリプルフックの接続環を装着する場合は、本件発明が従来技術としてあげている図12のような接続環が三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針1の先曲げ方向Xと直角となるようなトリプルフックを装着しなければ本件発明と同様の目的は達成できない。(このタイプの装着構造については、前審において提出された刊行物提出書に添付の実開平3-18758号公報に示されている。)
ところが、本件発明はトリプルフックをルアー本体に対して、どの部分に、どのような装着構造をもって取り付けるのかを具体的に規定するものではなく、単にルアー用トリプルフックと規定しているだけであり、本件発明のルアー用トリプルフックは、本件発明の目的に関する限り、ルアー用に限定したことに格別の技術的意義はないといわざるを得ない。
そして、軸部の基端に形成する接続環を三本の釣針の先曲げ部のうちの一本の釣針の先曲げ方向Xと一致する方向に形成したルアー用トリプルフックは本件発明の明細書の詳細な説明中に、本件発明に対する従来例としてあげた実開平5-37067号公報に記載されているように公知であるし、また、3本錨型の釣り針をルアー用トリプルフックとして用いることは上記刊行物提出書に添付の実開平3-18758号公報や被請求人が提出した乙第2号証にも記載されているように周知であるし、さらに口頭審理の調書に記載されているように、ルアー用のトリプルフックは掛け針として機能する場合があることが当事者間に争いがないところであるから、甲第1号証の発明が掛け針であることと本件発明がルアー用のフックであることに、実質的な違いがあるとすることはできない。
以上のことことから、本件発明は甲第1号証の掛け針と実質的に同一である。

9.被請求人の反論とそれに対する合議体の見解
4.の被請求人の反論の(1)については、本件発明はその大きさを具体的に規定するものではないし、ルアー用のトリプルフックは掛け針として機能する場合もあることから、大きさにおいてルアー用のトリプルフックと掛け針とが全く異なるとする主張は採用できない。
(2)については、ルアー用トリプルフックといっても、ルアーの種類、ルアーに対するトリプルフックの取り付け箇所によっては、必ずしも被請求人が主張するような技術課題が生じるわけではなく、この点での請求人の主張も採用できない。

10.むすび
以上のことから、本件発明はその特許出願前に公然に知られた甲第1号証の発明であり、特許法第29条第1項第1号に該当する発明であるから、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ルアー用トリプルフック
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射方向の等間隔に先曲げ部を外方に向けて配列した三本の釣針1,2,3をその軸部1a,2a,3aで固定して一体化し、一体化した軸部の基端に接続環4を形成するルアー用トリプルフックにおいて、軸部の基端に形成する接続環4を三本の釣針の先曲げ部1b,2b,3bのうちの一本の釣針1の先曲げ方向Xと一致する方向に形成したことを特徴とするルアー用トリプルフック。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
釣針、特にルアー用の釣針にはトリプルフックと称し、三本の釣針の先曲げ部を外方に向けて放射状に配置し軸部を一体化して錨状とし、軸部の基端(上端)に接続環を形成したものが知られている。本発明は、上記ルアー用として用いられるトリプルフックに関する発明である。
【0002】
【従来の技術】
従来のルアー用トリプルフックは、図11、図12に示すように両端に先曲げ部を形成した長寸法の釣針を二つ折りに折曲し中間部に接続環Bを形成したものに、別の一本の釣針Cを蝋付けしていた。釣針Aは先曲げ部A1,A2が平面的に120度の角度をなすように折曲成型し、釣針Bは240度をなす先曲げ部A1,A2の中間に位置を合わせて蝋付けしている。したがって、釣針Aに形成される接続環Bの方向X1は、釣針Cの先曲げ部C1の方向X2と直交する方向に形成されている。すなわち、接続環Bの方向X1はいずれの釣針の先曲げ方向とも一致していない。また、実開平5-37067号公報には、接続穴を上にハリ軸を垂直に立てて三本のハリの間の角度が、180度、90度、90度の三つの角度になるように構成するルアー用トリプルフックの思想が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来のルアー用トリプルフックでは、図3に示すようにルアー本体6の固定環7にスプリットリング8を介在させて接続環4を連結したとき、いずれの釣針の先曲げ方向もルアー本体6の軸方向と一致しない。したがって、ルアー本体が水中で引っ張られたときに釣針にかかる水の抵抗が左右均等でないためルアーの動きが一定しないとともに、水の抵抗によってルアー用トリプルフックが後方に回動されたときにルアー用トリプルフックを形成する三本の釣針のうちの一本がルアー本体に衝突し、ルアー用トリプルフックとルアー本体が離れがちで一体的な擬餌の形態をなしにくい。そのため魚がかかりにくい欠点があった。
【0004】
実開平5-37067号公報に開示されている三本のハリの間の角度が、180度、90度、90度の三つの角度になるように構成するルアー用トリプルフックでは、角度180度の位置にルアー本体を位置させて、釣針がルアー本体に当たらないように試みているが、係止位置が三本の釣針全体の中心からずれることになるため、水中での釣針自体の動きが安定せず、所期の目的達成することができない。本発明は、上記従来のルアー用トリプルフックの欠点を解消することを目的とするもので、ルアー本体にバランスよく装着することができるとともに、あたかもルアー本体の一部のように馴染んで装着することができるルアー用トリプルフックを得ることを目的とする発明である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
ルアー用トリプルフックは、三本の釣針1,2,3の先曲げ部1b,2b,3bを外方に向けて放射方向の等間隔に配列し、その軸部1a,2a,3aを束ねて固定し一体化させて錨状とするもので、一体化した軸部の基端に接続環4を形成するものである。このルアー用トリプルフックにおいて、軸部の基端に形成する接続環4を三本の釣針の内の一本の釣針1の先曲げ部1bの先曲げ方向Xと一致する方向に形成する。すなわち接続環4は、先曲げ方向Xと同一平面上にあって、その平面と直交する方向に貫通孔を有するものとする。
【0006】
【作用】
図3に示すように、ルアー本体6の固定環7とルアー用トリプルフックの接続環4とにスプリットリング8を介在させてルアー本体6にルアー用トリプルフックを装着する。このとき、接続環4の方向と一致する先曲げ部がルアー本体6の前方に位置するように配置しておく。この状態で使用し、ルアー本体6が釣り糸9によって前方に引っ張られると、水の抵抗(流れ)によってルアー用トリプルフックは矢印で示すように後方へ回動する。すると、ルアー用トリプルフックは図4に示すように接続環4が上下方向に向き、一本の釣針1の先曲げ部1bが上下方向を、他の二本の釣針の先曲げ部2b,3bが左右対称に斜め上方へ向き、ルアー本体6を抱き込むように位置することになる。したがって、ルアー用トリプルフックに作用する水の抵抗はルアー本体のバランスを崩すことなく、かつルアー本体6とルアー用トリプルフックが自然に接近する。これにより、例えばルアー本体が魚の形状であると、ルアー用トリプルフックがその胸鰭や尾鰭の場所にあたかもルアーの一部であるかの態様で位置することになる。
【0007】
【実施例】
以下、本発明ルアー用トリプルフックの実施例を添付の図面に基づいて説明する。図1は、本発明ルアー用トリプルフックの実施例を略示的に示す斜視図である。ルアー用トリプルフックの軸部の基端部に所定方向の接続環を形成するには、従来のように両端に先曲げ部を形成した長寸法の釣針を二つ折りとしその中間に形成する接続環を所定方向に折曲加工するものであってもよいが、この実施例は、三本の独立した釣針1,2,3の軸部1a,2a,3aを束ね、蝋付けなどの手段で軸部を固定するもので、先曲げ部1b,2b,3bは等間隔で放射方向の外方に向けておく。三本の釣針1,2,3のうちの一本の釣針1は、その軸部1aを長寸法とし基端(上端)には、図1,図2に示すように先曲げ部の方向Xと同じ方向に湾曲させて接続環4を形成してある。
【0008】
従来のルアー用トリプルフックは、一本の長寸法の線材の両端部にそれぞれ先曲げ部を形成し、これを二つ折りとすることによって二本の釣針と接続環4を形成していたため、正確な寸法と精度の高い加工を施さなければバランスのとれたルアー用トリプルフックを製造することができなかった。これに対して図1に示す実施例では、釣針を一本ずつ加工するため均質な製品を能率的に加工できることになる。
【0009】
図5ないし図7に示す実施例は、全く同じ条件で作られた三本の釣針1,2,3の軸部を束ねて別の結合部材5で固定し、結合部材5に接続環4を形成する実施例を示すものである。この実施例の結合部材5は、三本の釣針の軸部1a,2a,3aがタイトな状態で嵌挿される管状とし、図7に示すように軸部が挿入された管内に接着剤10を充填して固定するものである。もっとも、三本の釣針の軸部1a,2a,3aと管状の結合部材を固定するには、かしめ加工によることもできる。管状の結合部材5の上端はこれを偏平に押圧加工して貫通孔を穿ち接続環4としている。このときの接続環4は、図6に示すように一本の釣針の先曲げ方向Xと一致する方向に形成しておく。
【0010】
この実施例では、全く同じ形状の三本の釣針を用いて製造するため、より均質な製品を能率的に製造することができるとともに、結合部材に形成する接続環は必然的に結合部材の中心、すなわち三本の釣針からなるルアー用トリプルフック全体の中心に位置することになる。また、偏平な接続環とするこの実施例では、接続環自体を水の抵抗が少ないものとすることができるとともに、整流効果によってルアー用トリプルフックの動きを安定させる効果もある。
【0011】
図8ないし図10に示す実施例は、三本の独立した釣針の軸部を結合部材で結合して一体化するものであって、結合部材5を合成樹脂材とし釣針の軸部と一体成型するものである。この実施例では、上記管状の結合部材を使用する実施例の効果と同等の効果を奏するとともに、結合部材自体の形状を任意の変形形状とすることができる。図示実施例では、砲弾形状とした結合部材5の外周面の三箇所に縦リブ状のフィン11を成型してある。したがって、ルアー用トリプルフック全体の水の抵抗がなるべく少ないものとなり、かつフィン11の存在とも相まって水中での安定した動きを実現することができる。
【0012】
【発明の効果】
請求項1記載の本発明ルアー用トリプルフックによれば、これをルアー本体に対し均等にバランスを保つ方向に装着することができる。そのため、ルアーの動きを乱すことがなくルアー本来の動きを実現するとともに、ルアーを引っ張った使用状態のときに二本の釣針がルアー本体を抱持するようにルアー本体に接近させることができ、ルアー本体にアタックするターゲットを確実に釣ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明ルアー用トリプルフックの実施例を略示的に示す斜視図、
【図2】
本発明ルアー用トリプルフックの実施例を示す平面図、
【図3】
本発明ルアー用トリプルフックをルアー本体に装着した使用状態を示す正面図、
【図4】
本発明ルアー用トリプルフックをルアー本体に装着した使用状態であって、ルアーを引っ張った水中での状態を示す縦断面図、
【図5】
結合部材を使用した本発明ルアー用トリプルフックの実施例を示す正面図、
【図6】
結合部材を使用した本発明ルアー用トリプルフックの実施例を示す平面図、
【図7】
結合部材を使用した本発明ルアー用トリプルフックの結合した軸部分の横断面図、
【図8】
結合部材を使用した本発明ルアー用トリプルフックの別の実施例を示す正面図、
【図9】
結合部材を使用した本発明ルアー用トリプルフックの別の実施例を示す平面図、
【図10】
結合部材を使用した本発明ルアー用トリプルフックの別の実施例であって、結合した軸部分の横断面図、
【図11】
従来のルアー用トリプルフックの一例を示す正面図、
【図12】
従来のルアー用トリプルフックの一例を示す平面図。
【符号の説明】
1,2,3…釣針、 1a,2a,3a…軸部、 1b,2b,3b…先曲げ部、 4…接続環、 5…結合部材、 6…ルアー本体、 7…固定環、 8…スプリットリング、 9…釣り糸、 10…接着剤、 11…フィン。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2002-03-15 
結審通知日 2002-03-20 
審決日 2002-04-02 
出願番号 特願平6-155241
審決分類 P 1 112・ 111- ZA (A01K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 星野 浩一  
特許庁審判長 石川 昇治
特許庁審判官 藤井 俊二
高橋 泰史
登録日 1996-11-21 
登録番号 特許第2584721号(P2584721)
発明の名称 ルアー用トリプルフック  
代理人 藤田 典彦  
代理人 森 義明  
代理人 藤田 典彦  
代理人 福田 進  
代理人 福田 進  
代理人 藤田 邦彦  
代理人 藤田 邦彦  

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