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審決分類 審判 一部無効 特29条の2 無効とする。(申立て一部成立) F41B
管理番号 1101841
審判番号 無効2004-35063  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-07-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-02-02 
確定日 2004-08-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第3121578号発明「自動弾丸供給機構付玩具銃」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3121578号の請求項1ないし5,7ないし10,12に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3121578号の請求項6,11に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その12分の2を請求人の負担とし、12分の10を被請求人の負担とする。 
理由 1手続の経緯と本件特許発明
本件特許第3121578号は、平成10年8月5日出願の特願平10-221537号[【優先権主張番号】特願平9-283567【優先日】平成9年10月16日【優先権主張国】日本]に係り、平成12年10月20日に設定登録されたものである。この本件登録について、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求めて、平成16年2月2日付で有限会社マルゼンより本件審判が請求されたが、これに対して被請求人より、同年4月28日付で、本件審判の請求は成り立たないとの審決を求める趣旨の答弁がされている。
本件請求項1ないし12に係る特許は、当該特許明細書の特許請求の範囲第1項ないし第12項に記載された事項により特定されたとおりのものと認められる。
「 【請求項1】ガス導出通路部が連結されて配される蓄圧室と、
上記ガス導出通路部を開閉制御する開閉弁部と、
バレル部の後端部分に設けられた装弾室と、
上記バレル部に沿う方向に移動し得るものとされたスライダ部と、
該スライダ部における上記バレル部の後方となる部分内に設けられ、上記スライダ部と一体的に移動する受圧部と、
上記装弾室に向かって開口する第1の内部空間と上記受圧部に向かって開口する第2の内部空間とが形成されて上記装弾室の後方に配され、上記スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能とされた可動部材と、
該可動部材の外部に配され、該可動部材の位置に応じて、上記ガス導出通路部を上記第1の内部空間及び第2の内部空間に連結する状態におかれる通路連結部と、
該通路連結部内に配され、該通路連結部により上記ガス導出通路部が上記第1及び第2の内部空間に連結されるとともに上記開閉弁部が上記ガス導出通路部を開状態にする期間において、上記ガス導出通路部を通じた上記蓄圧室からのガスを上記第1の内部空間を通じて上記装弾室に供給された弾丸に作用させる第1の状態から、上記第1の内部空間に及ぼされる圧力低減に応じて移動し、上記ガス導出通路部を通じたガスの上記第1の内部空間を通じて上記装弾室に向かう流れを阻止して、上記ガス導出通路部を通じたガスを上記第2の内部空間を通じて上記受圧部に向かわせる第2の状態に移行し、該第2の状態のもとでガス圧により上記受圧部を上記スライダを伴って後方に移動させる可動弁部と、
を備えて構成され、
上記スライダ部の後退に伴う上記可動部材の後退を生じさせて、弾倉から上記装弾室への弾丸の供給のための準備を行う自動弾丸供給機構付玩具銃。
【請求項2】通路連結部が、可動部材の位置に応じて、ガス導出通路部を上記可動部材に形成された第1の内部空間に連結する第1の通路部と、上記可動部材の位置に応じて、上記ガス導出通路部を上記可動部材に形成された第2の内部空間に連結する第2の通路部とが設けられたものとされることを特徴とする請求項1記載の自動弾丸供給機構付玩具銃。
【請求項3】可動弁部が、第1の状態にあるとき、ガス導出通路部を通じたガスを第1の通路部及び可動部材に形成された第1の内部空間を通じて装弾室に供給された弾丸に作用させるとともに、第2の状態にあるとき、上記ガス導出通路部を通じたガスを第2の通路部及び上記可動部材に形成された第2の内部空間を通じて受圧部に向かわせることを特徴とする請求項2記載の自動弾丸供給機構付玩具銃。
【請求項4】可動弁部が、第1の状態にあるとき第1の通路部を開通状態となすとともに、第2の状態にあるとき上記第1の通路部を遮断状態となすことを特徴とする請求項2または3記載の自動弾丸供給機構付玩具銃。
【請求項5】可動弁部が、第1の状態にあるとき及び第2の状態にあるときのいずれにおいても、第2の通路部を開通状態にしておくことを特徴とする請求項4記載の自動弾丸供給機構付玩具銃。
【請求項6】可動弁部が、通路連結部内において第1の通路部を開通状態となす方向に付勢されており、
上記第1の通路部に及ぼされる圧力低減に応じて、上記付勢に抗して上記第1の通路部を遮断状態となす方向に移動することを特徴とする請求項4または5記載の自動弾丸供給機構付玩具銃。
【請求項7】通路連結部が、可動部材の位置に応じて、ガス導出通路部を上記可動部材に形成された第1の内部空間及び第2の内部空間の夫々に連結する、該第1及び第2の内部空間に共通の連結空間が形成されたものとされることを特徴とする請求項1記載の自動弾丸供給機構付玩具銃。
【請求項8】可動弁部が、第1の状態にあるとき、ガス導出通路部を通じたガスを通路連結部に形成された連結空間及び可動部材に形成された第1の内部空間を通じて装弾室に供給された弾丸に作用させるとともに、第2の状態にあるとき、上記ガス導出通路部を通じたガスを上記通路連結部に形成された連結空間及び上記可動部材に形成された第2の内部空間を通じて受圧部に向かわせることを特徴とする請求項7記載の自動弾丸供給機構付玩具銃。
【請求項9】可動弁部が、第1の状態にあるとき可動部材に形成された第1の内部空間を開通状態となすとともに、第2の状態にあるとき上記可動部材に形成された第1の内部空間を遮断状態となすことを特徴とする請求項7または8記載の自動弾丸供給機構付玩具銃。
【請求項10】可動弁部が、第1の状態にあるとき及び第2の状態にあるときのいずれにおいても、可動部材に形成された第2の内部空間を開通状態にしておくことを特徴とする請求項9記載の自動弾丸供給機構付玩具銃。
【請求項11】可動弁部が、通路連結部内において可動部材に形成された第1の内部空間を開通状態となす方向に付勢されており、上記可動部材に形成された第1の内部空間に及ぼされる圧力低減に応じて、上記付勢に抗して上記第1の内部空間を遮断状態となす方向に移動することを特徴とする請求項9または10記載の自動弾丸供給機構付玩具銃。
【請求項12】バレル部及び装弾室を含んで構成され、スライダ部,受圧部及び可動部材が配された本体と、内部に蓄圧室が設けられて上記本体に着脱可能に装着されるケース部とを備え、通路連結部,ガス導出通路部及び開閉弁部が上記ケース部内に配されたことを特徴とする請求項1から請求項11までのいずれかに記載の自動弾丸供給機構付玩具銃」[以下、請求項1に係る発明を「本件第1発明」といい、以下請求項12に係る発明(「本件第12発明」)まで同様に、番号順でいうこととする。]

2請求人の求めた審判の概要
請求人有限会社マルゼンは、本件第1〜12発明の特許が無効になることを立証するために、まず、甲第3号証として、本件特許出願の出願日前の出願であって、その出願後に出願公開された特願平9―243358号の公開公報(特開平11―63889号公報)を提出し、本件第1〜12発明は、慣用技術を勘案して判断すると、先願明細書に記載された発明と実質的に同一の発明であり、発明者も出願人も異なるから、29条の2に該当し特許無効となる旨主張している。
更に、被請求人が本件外の案件(特許第2871583号―甲第11号証)での裁判事件中「弾丸が銃口から出る際にガス圧が低下すること、その結果摺動部材が切り換えられることは、慣用手段である」点を自ら主張している部分を示すため、甲第4号証[東京高等裁判所 平成13年(ラ)第823号 特許権仮処分申立却下決定に対する抗告事件決定謄本),甲第5号証[東京高等裁判所 平成13年(ラ)第821号 特許権仮処分申立却下決定に対する抗告事件決定謄本)を提出している。
また、本件第12発明の構成「内部に蓄圧室が設けられて上記本体に着脱可能に装着されるケース部とを備え、通路連結部,ガス導出通路部及び開閉弁部が上記ケース部内に配された」点が慣用手段であることを示したものとして、甲第8号証(特許第2561429号公報),甲第9号証(特許第2561421号公報),甲第10号証(特開平6―323786号公報)を提出し、
本件第6及び第11発明の「通路部を開通状態となす方向に付勢」する構成が慣用手段であることを示すものとして甲第12号証(登録実用新案公報第3016189号)を提出し、
他に、特許庁での審査段階での拒絶理由通知書及びそれに対する意見書を甲第6,7号証として提出している。

3証拠の記載
[甲第3号証](特開平11―63889号公報)[以下、先願明細書と称する。]
発明の概要は下記【0001】のとおりである。
「【0001】
【発明の属する技術分野】 この発明は、圧縮され供給される空気、フロン、あるいは、二酸化炭素等の圧力流体を利用してBB弾等の弾丸を発射するエアガンに関し、詳細には、圧縮流体の圧力を利用し、BB弾等の弾丸を勢いよく発射すると共に、発射後に弾丸の装填を自動的に行う弾丸自動供給式のエアガンに係る。」

本件第1発明と関連のある記載は、第2実施例を中心とした以下の部分であり、特に下線で示した用語と関連がある。
「【0041】次いで、第2の実施の形態を説明する。図11は第2の実施の形態を表す断面説明図であり、図11に表すように、第2の実施の形態の構成では、切換バルブを付勢するスプリングが無く、切換バルブは切換バルブ気室内で自由に摺動可能に構成される。他の構成は第1の実施の形態同様である。即ち、101は、本発明の第2の実施の形態であるエアスポーツガンである。エアスポーツガン101は、A方向へ摺動可能なスライドを有し、スライドをA方向へ摺動させ再び初期位置へ戻り発射準備を完了し、トリガを引くことで弾丸を銃口Bから発射可能である。
【0043】108は、装填パッキングである。装填パッキング108は、中空の円筒形状からなり、中空部の一端がバレル105の中空部と一致すると共に他端がバレル固定部107の孔107aと一致するようバレル105のチャンバー104側端部とバレル固定部の孔107aとの間に載置され、中空部は弾倉102から供給される弾丸Wを装填され保持可能であり、弾力のある硬質ゴム体からなる。装填パッキング108はこの実施の形態では硬質のゴム体からなるが、所望の硬度を有する樹脂から構成してもよく、あるいは、外側を金属あるいは樹脂から構成し、弾丸Wが装填される中空部内壁を硬質ゴムから構成してもよい。
【0046】114は、シリンダブロックである。シリンダブロック114には、シリンダブロック114の銃口B側に銃口B側を開口する中空円筒形状からなる装填筒115が形成される。そして、装填筒115とは反対側に、即ち、シリンダブロック114の銃後端A側には、装填筒115と一体的に構成され装填筒115より径大であり銃後端A側を開口する中空円筒形状のシリンダ部116が形成される。このシリンダ部116の中空部120には、ピストンブロック112が挿入される。装填筒115の中空部は発弾通気孔117を構成する。発弾通気孔117は、銃口B側が装填パッキング108側に開口され、シリンダ部116側端は周面下方に開口される。更に、装填筒115には、発弾通気孔117のシリンダ部116側開口の装填パッキング108側に下方へ突設する切換バルブ押圧部118を設ける。シリンダ部116の装填筒115側周面下方には、シリンダ部116の中空部120と外部とを連絡させるブローバック通気孔119が穿設される。このように構成されるシリンダブロック114は、ピストンブロック112及び装填パッキング108間に載置され、装填パッキング108側へ最も移動した状態で、装填筒115の銃口B側端部がバレル固定部107の孔107aを貫通し装填パッキング108内にやや挿入された状態となるよう載置される。このように載置されることで、スライド109が銃後端A側へ移動した時に、シリンダブロック114もスライド109の係止突起111により銃後端A方向へ移動され、装填筒115の装填パッキング108側先端が弾倉102上部開口より銃後端A側へ移動し、更に銃口B方向へ移動する行程でチャンバー104内に位置する弾倉102上部開口から弾丸Wを装填パッキング108内へ装填可能となる。
【0047】121は、圧縮ガス気室であり、122は圧縮ガス収容部である。圧縮ガス気室121は握部Cに設けられ、圧縮ガス収容部122は握部C内、且つ、圧縮ガス気室121下部に設けられる。そして、圧縮ガス気室121及び圧縮ガス収容部122は通気孔123により接続されると共に、通気孔123には逆止弁124が設けられ、逆止弁124は、圧縮ガス収容部122に収容されたガスボンベ等(図示せず)の圧縮ガスを圧縮ガス気室121側へは供給するが、圧縮ガス気室121から圧縮ガス収容部122へは圧縮ガスを供給しない。圧縮ガス気室121の上部には、排出口である排気口125が設けられ、圧縮ガス気室121内の圧縮ガスを排出可能である。
【0048】126は、切換バルブ気室である。切換バルブ気室126は、握部C内で圧縮ガス気室121の銃口B側に隣接され圧縮ガス気室121の排気口125と連通され、且つ、シリンダブロック114下部に位置するよう設けられる。そして、切換バルブ気室126の上方には、発弾通気孔117の装填筒115周面の開口に対向するよう発弾給気口127が設けられると共に、ブローバック通気孔119と対向するようブローバック給気口128が設けられる。そして、圧縮ガス気室121から供給される圧縮ガスを発弾給気口127及びブローバック給気口128からシリンダブロック114へ供給可能である。発弾給気口127は、後述する切換バルブ134により閉塞されることで発弾通気孔117へ圧縮ガスを供給しないよう、切換バルブ134との閉塞状態をよくするため比較的軟質な合成樹脂で形成するが、特に気密な閉塞状態を必要とするのであれば、切換バルブ134と発弾給気口127との当接部をより滑らかにする、或いは、夫々の素材を考慮し、互いにより軟質なゴム材を使用する等変更することで目的を達せられ、必要とする条件を満たす素材或いは仕上げにすればよい。又、特に気密にする必要がないのであれば、硬質の合成樹脂等で形成することで必要以上にコストがかからない。
【0049】129は、開閉バルブである。開閉バルブ129は、圧縮ガス気室121の排気口125に設置され、中間部が排気口125を閉塞可能な開閉バルブ本体130である。開閉バルブ本体130の切換バルブ気室126側には、先端が突起した係止突起131が延設され、他端には後述するハンマー41により押圧されるバルブロッド132が延設される。そして、開閉バルブ129は、バルブスプリング133により排気口125をつねに閉状態としており、バルブロッド132が押圧されることで切り換えバルブ気室126方向へ摺動され、排気口125を開状態として圧縮ガス気室121内の圧縮ガスを切換バルブ気室126へ供給可能にする。
【0050】134は、切換バルブである。切換バルブ134は、切換バルブ気室126内でシリンダブロック114方向へ摺動可能に切換バルブ気室126内に設けられ、その先端に突設する突出部135が摺動時には発弾給気口127からチャンバー104側へ突出可能に設けられる。突出部135の下部には突出部127より径大であり発弾給気口127を切換バルブ気室126内側から閉塞可能な閉塞部136が設けられる。更に、閉塞部136の下部には、切換バルブ気室126方向へ移動した開状態の開閉バルブ129の係止突起131が係止可能なストッパ部137が設けられる。ストッパ部137は、係止突起131が挿入可能な孔139を穿設され、孔139周囲の閉塞部136と反対側には、開閉バルブ129が閉状態では開閉バルブ129の係止突起131と係止せず、且つ、開閉バルブ129が開状態で係止突起131と係止するストッパ突起140が設けられる。そして、切換バルブ134は、第1の実施の形態と異なり、切換バルブ気室126内で付勢されることなく装填筒115方向に自由に摺動可能であり、圧縮ガスが圧縮ガス気室121の排気口125から切換バルブ気室126の発弾給気口127を経由し発弾通気孔117へ勢いよく流れると、径大に構成される閉塞部136の加圧面138が圧縮ガスの圧を受け装填筒115方向へ移動可能である。
【0055】一方、開閉バルブ129では、圧縮ガスを発弾給気口127及びブローバック給気口128から流出した直後、切換バルブ134の孔139内を移動した係止突起131がストッパ突起140を乗り越える。すると、その直後図14に表すように、切換バルブ134は、シリンダブロック114側へ移動するのを阻止されていたストッパ突起140が係止突起131からはずれ、しかも、加圧面138にガス圧が作用して発弾供給口127方向へ付勢されているので、装填筒115方向へ移動し、係止突起131とストッパ突起140とが係止するので、閉塞部136が発弾給気口127を閉塞状態とする。そして、切換バルブ134の突出部135はシリンダブロック114側へ突出し、切換バルブ押圧部118の銃後端A側に位置する。同時に、開閉バルブ129では、係止突起131がストッパ突起140と係止することで、排気口125を開状態のまま保持するので、圧縮ガスは圧縮ガス気室121から供給され続ける。
【0056】更に、図15に表す状態になるまで、ピストンがA方向へ移動し、圧縮ガスが供給され続け、シリンダ部116の中空部120内の容積を増加させて内挿されたピストンブロック112を押圧する。」

[甲第8号証]特許第2561429号公報
自動弾丸供給機構付玩具銃に関する発明で、
【0011】前段には、
「【実施例】図2は、本発明に係る自動弾丸供給機構付玩具銃の第1の例を示す。図2に示される例においては、トリガ1,銃身2,銃身2の後端部に設けられた装弾室4a,ハンマ5、及び、グリップ6を有した玩具銃本体10と、グリップ6内に着脱可能に収容されたケース30とが設けられるとともに、銃身2に対して移動可能に設けられたスライダ部50が配されたものとされている。」と記載され、
【0019】一方、ケース30は、グリップ6の下方端部に設けられた開口からグリップ6内に挿入され、底部30aがグリップ6の下方端部に当接係合せしめられて、グリップ6内における位置決めが行われたものとされている。ケース30内には、装填された複数の弾丸BBを最上端部31a側に付勢するコイルスプリング32が内蔵された弾倉31,例えば、液化ガスが充填された蓄圧室33,ピストン部材35を移動可能に収容するとともにそのピストン部材35により一端部側が密封された連結ガス通路36,連結ガス通路36の下方に位置し、蓄圧室33を連結ガス通路36に連結する下方ガス通路37、及び、連結ガス通路36の上方に位置し、連結ガス通路36を介して下方ガス通路37に連結された上方ガス通路38が設けられている。これら下方ガス通路37,連結ガス通路36及び上方ガス通路38は、蓄圧室33に連結されて、蓄圧室33内のガスを導出するガス導出通路部を形成している。連結ガス通路36に収容されたピストン部材35は、その移動に応じて連結ガス通路36の他端部を開閉する開閉弁部35aが設けられており、上方ガス通路38の連結ガス通路36との連結部に配されて開閉弁部35aに当接するコイルスプリング39の付勢力によって、先端部がケース30から外部に突出するものとなる方向に付勢されている。」と記載されている。

[甲第9号証] 上記、甲第8号証(特許第2561429号公報)の【0011】,【0019】と略同じ記載が【0008】,【0016】に記載されている。

[甲第10号証] 上記、甲第8号証(特許第2561429号公報)の【0011】と略同じ記載が【0008】に記載され、【0019】の記載から一部を抜いた(畜圧室33との連結に関する部分)が【0016】に記載されている。

[甲第12号証](登録実用新案第3016189号公報)
実用新案登録請求の範囲には、
「【請求項1】 銃身と、この銃身の後端部に続いて配置して次に発射する弾の周囲を囲んで保持する保持部と、液化ガスを供給する蓄圧室と、弾を順次供給する弾倉とを設け、引金を引くことにより蓄圧室の放出弁が開いて高圧ガスを供給して保持部に保持された弾を発射して再び保持部に次の弾を保持させるように供給する玩具空気銃において、後部にピストンロッドを介して重り部を一体に設けたピストンと、このピストンを密接するように収容し重り部を除くピストンロッドを進退可能に貫通させかつ前端部を小径にした小径部を有する前後方向に進退可能にした作動筒と、この作動筒の小径部に通ずる部分に設けた常時開放し前方が後方より低圧になると閉じる圧力差弁と、ピストンの後退時復帰する方向に弾力を及ぼす戻しバネとを包含し、前記作動筒の後退時弾倉の先端部の弾は作動筒が前進すると小径部に押されて保持部に保持されるようになるものであり、前記引金を引くと放出弁が開いて作動筒のピストンの前方部分に高圧ガスを供給して保持部に保持される弾を発射すると共にピストンが後退することになり、弾が銃身から離れると銃身から大気圧が入ることにより圧力差弁が閉塞し、ピストンが作動筒の端部に達する等所定位置に達すると重り部の慣性によりこの作動筒も共に後退しこれに連動して放出弁が閉塞されて高圧ガスの供給が停止しかつ後退が停止すると戻しバネによりピストンと作動筒が復帰するすることを特徴とする玩具空気銃。」と記載され、

考案の詳細な説明の【0006】上段及び【0007】中段には、
「【0006】
33は先端側を小径部35とした作動筒で、本体10内において進退可能になっている。図1には最も前進した状態であって前進する場合弾倉15内の上端の弾70を押してゴム等の弾性部材で構成した保持部36に保持させるようになっている。37は作動筒33の前部にこの作動筒が前進した状態で蓄圧室19の流路31に連通するように形成した流入口である。39は作動筒33の細径部35の入り口部分に設けた圧力差弁で、常時開放しているが、前方側が低圧になり後方側が高圧になると閉塞するようになっている。」
「【0007】
引金25を引くと図3に示すように放出弁23が開放され高圧ガスが流路31,流入口37を通って作動筒33の前部に流入し一部は圧力差弁39を通って小径部35内へ流入して弾70を銃身12内へ前進せる。また、高圧ガスは同時にピストン41に作用してピストン41,重り部43,操作部材45を後退させる。次に図4に示すように弾70は質量が小さいために速やかに発射されることになり、大気圧が圧力差弁39の前に作用して圧力差が大きくなるためこの弁が閉塞状態になり、」と記載されている。

上記甲第12号証の下線部分の記載から、圧縮ガスが銃口側へ流出するように付勢しているバルブスプリングが示されている。

4先願明細書と本件第1発明との対比・判断
(1) 先願明細書に記載の第2の実施の形態による発明と本件第1発明とを対比すると、
排気口125から切換バルブ気室126を経由して発弾通気孔117とシリンダ部116の中空部120へ続く通路は、本件発明のガス導出通路部に相当しているから、先願明細書の圧縮ガス気室121は本件発明の「ガス導出通路部が連結されて配される蓄圧室」に該当する。
先願明細書の開閉バルブ129は、本件発明の「開閉弁部」に該当し、装填パッキング108は「装弾室」に、スライド109は「スライダ部」に、圧縮ガスが押圧するピストンブロック112前面は「受圧部」に該当する。
第1の内部空間となる装填筒115と第2の内部空間となる中空部120とを有するシリンダブロック114は本件発明の「可動部材」に該当する。
発弾給気口127とブローバック給気口128が分岐する部分は、本件発明の「通路連結部」に該当する。
先願明細書の切換バルブ134は、上記本件発明の通路連結部内に該当する部分に配され、当該部分により、上記ガス導出通路部に相当する通路が上記第1及び第2の内部空間に連結されるとともに上記開閉バルブ129が上記(ガス導出)通路を開状態にする期間において、上記(ガス導出)通路を通じた上記圧縮ガス気室121からのガスを上記第1の内部空間を通じて上記装填パッキング108に供給された弾丸に作用させる第1の状態から、上記(ガス導出)通路を通じたガスの上記第1の内部空間を通じて上記装填パッキング108に向かう流れを阻止して、上記(ガス導出)通路を通じたガスを上記第2の内部空間を通じて上記ピストンブロック112の前面(受圧部)に向かわせる第2の状態に移行し、該第2の状態のもとでガス圧により上記ピストンブロック112の前面(受圧部)を上記スライドを伴って後方に移動させる可動弁部に該当する。

よって、先願明細書に記載の発明と本件第1発明との一致点は次のとおりである。

[一致点] ガス導出通路部が連結されて配される蓄圧室と、
上記ガス導出通路部を開閉制御する開閉弁部と、
バレル部の後端部分に設けられた装弾室と、
上記バレル部に沿う方向に移動し得るものとされたスライダ部と、
該スライダ部における上記バレル部の後方となる部分内に設けられ、上記スライダ部と一体的に移動する受圧部と、
上記装弾室に向かって開口する第1の内部空間と上記受圧部に向かって開口する第2の内部空間とが形成されて上記装弾室の後方に配され、上記スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能とされた可動部材と、
該可動部材の外部に配され、該可動部材の位置に応じて、上記ガス導出通路部を上記第1の内部空間及び第2の内部空間に連結する状態におかれる通路連結部と、
該通路連結部内に配され、該通路連結部により上記ガス導出通路部が上記第1及び第2の内部空間に連結されるとともに上記開閉弁部が上記ガス導出通路部を開状態にする期間において、上記ガス導出通路部を通じた上記蓄圧室からのガスを上記第1の内部空間を通じて上記装弾室に供給された弾丸に作用させる第1の状態から、上記ガス導出通路部を通じたガスの上記第1の内部空間を通じて上記装弾室に向かう流れを阻止して、上記ガス導出通路部を通じたガスを上記第2の内部空間を通じて上記受圧部に向かわせる第2の状態に移行し、該第2の状態のもとでガス圧により上記受圧部を上記スライダを伴って後方に移動させる可動弁部と、
を備えて構成され、
上記スライダ部の後退に伴う上記可動部材の後退を生じさせて、弾倉から上記装弾室への弾丸の供給のための準備を行う自動弾丸供給機構付玩具銃

しかし先願明細書に記載の発明と本件第1発明とは次の点において一応の相違が認められる。
[一応の相違点] 先願明細書ではその第2実施例において、本件第1発明の可動弁部に該当する切換バルブ134は、「加圧面138にガス圧が作用して発弾供給口127方向へ付勢されているので、装填筒115方向へ移動」するとしており、本件第1発明と同様に、「第1の内部空間に及ぼされる圧力低減に応じて移動」するものと言えるか否かが明確でない点。

(2) 一応の相違点の検討
先願明細書では、「加圧面138にガス圧が作用して発弾供給口127方向へ付勢されているので、装填筒115方向へ移動」と記載されているが、弾丸が装填されたままで、第1の内部空間に該当する装填筒115内に及ぼされる圧力低減が全くないのであれば、加圧面138前方側の圧力と装填筒115側の圧力とが均衡することになり、加圧面138にガス圧が作用しても、切換バルブ134が装填筒115方向へ移動することは困難である。
一方、図12、13に明示されているように、切換バルブ134の移動を阻止している係止突起131と、圧縮ガスの排気口125を開閉する開閉バルブ本体130とは一体のもので(【0049】参照)、前記係止突起131の移動(切換バルブ134の移動阻止の解除)は、上記排気口125の開口と、時期を同じくして行われる。
したがって、上記排気口125から排出される圧縮ガスのガス圧による弾丸の発射後、前記装填筒115内の圧力が低減すれば、切換バルブ134は、直ちに移動することが可能な状態になっていると解されるから、第2実施例の実体は、切換バルブ134が、弾丸が発射され第1の内部空間に該当する装填筒115内に及ぼされる圧力の低減に応じて移動するものと認められる。
よって、先願明細書等には、可動弁部に該当する切換バルブ134が「第1の内部空間に及ぼされる圧力低減に応じて移動」することが記載されているに等しいのであるから、上記一応の相違点は、表現上の相違であって、実質上の相違点とはいえない。

5先願明細書と本件第2発明との対比・判断
本件第2発明は、本件第1発明に、第1の内部空間に連結する第1の通路部と第2の内部空間に連結する第2の通路部を設けた構成を加入したものであるが、先願明細書にはそれぞれに対応する発弾給気口127とブローバック給気口128が設けられているから、本件第2発明も先願明細書に記載されていることになる。

6先願明細書と本件第3ないし第5発明及び本件第7ないし第10発明との対比・判断
上記各発明は、第1発明に記載の第1状態及び第2状態での各通路部開通状態を記載したものであるが、いずれの開通状態についても先願明細書の【0055】及び【0056】前段に明白に示されているから、本件第3ないし第5発明及び本件第7ないし第10発明も先願明細書に記載されていることになる。

7先願明細書と本件第12発明との対比・判断
本件第12発明は、本件第1発明に、「内部に蓄圧室が設けられて上記本体に着脱可能に装着されるケース部」の構成を加入したものであるが、該構成は、甲第8から10号証に示されているように当該技術分野においては慣用的に用いられている構成であるから、本件第12発明も、先願明細書に記載されているに等しいものと認められる。

8先願明細書と本件第6発明及び本件第11発明との対比・判断
本件第6発明の「可動弁部が、通路連結部内において第1の通路部を開通状態となす方向に付勢されており、」の構成及び本件第11発明の「可動弁部が、通路連結部内において可動部材に形成された第1の内部空間を開通状態となす方向に付勢されており、」の構成は何れも先願明細書に記載されていない構成であり、該構成が当該分野での周知慣用手段であるということもできない。
よって、請求人が提出した証拠及び理由によっては、本件第6発明及び本件第11発明に係る特許を無効とすることはできない。

9被請求人の主張について
被請求人は、答弁書11頁ないし25頁で先願明細書に記載された各発明(請求項1の発明,請求項2の発明,第1の従来例として記載された発明,第2の従来例として記載された発明,段落【0013】に記載された発明,段落【0014】に記載された発明,第1の実施例の形態として記載された発明,第2の実施例の形態として記載された発明,第3の実施例の形態として記載された発明及び第4の実施例の形態として記載された発明)と本件第1発明とを対比している。

上記本件第1発明との対比中で、本件審決での対比判断の対象にした「第2の実施例の形態として記載された発明」については、
答弁書19頁最下行ないし21頁22行において比較検討し、以下のとおり、本件第1発明とは相違する旨を主張している。

先ず、先願明細書の【0055】中の部分「切換バルブ134は、シリンダブロック114側へ移動するのを阻止されていたストッパ突起140が係止突起131からはずれ、しかも、A加圧面138にガス圧が作用して発弾供給口127方向へ付勢されているので、装填筒115方向へ移動し、係止突起131とストッパ突起140とが係止するので、閉塞部136が発弾給気口127を閉塞状態とする。そして、切換バルブ134の突出部135はシリンダブロック114側へ突出し、切換バルブ押圧部118の銃後端A側に位置する。同時に、B開閉バルブ129では、係止突起131がストッパ突起140と係止することで、排気口125を開状態のまま保持するので、圧縮ガスは圧縮ガス気室121から供給され続ける。」(下線とサフィックスABは当審で加入)を示し、
A:切換バルブ134の移動は、加圧面138にガス圧が作用して発弾供給口127方向へ付勢されているので、移動するのであり、本件発明のように圧力低減により移動するものではない点、及び
B:切換バルブ134は、開閉バルブ129を係止することで、排気口125を開状態のまま維持することを要件として課せられたものである。
該開閉バルブ129の係止機能は、本件発明の可動弁部に無い機能であるから、先願明細書の開閉バルブ129は本件発明の可動弁部に相当するものではない旨主張する。
(なお、上記A及びBに点については同先願明細書に記載された他の発明との比較においても主張がなされている。)

しかしながら、
Aの点に関しては、前記4(2)で説明したとおり、切換バルブが圧力低減により移動する点は、先願明細書に記載されているに等しく、
Bの点に関しては、開閉バルブ129を係止する要件は、本件各発明のいずれの構成とも直接関係がない要件であり、該要件が切換バルブ134に付加されているからといって先願明細書の切換バルブ134の「圧力低減により移動する」構成が否定されるものではない。
よって、上記A及びBに関する被請求人の主張は認めることができない。

10むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし5,7ないし10及び12に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反して受けたもので、本件無効審判の請求には、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する正当な理由があり、本件請求項1ないし5,7ないし10および12に係る特許は無効とすべきものである。
なお、本件請求項6および11に係る特許は、これを無効とする理由はない。
また、本件審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項の規定により、民事訴訟法第61条の規定を準用する。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-06-09 
結審通知日 2004-06-10 
審決日 2004-06-28 
出願番号 特願平10-221537
審決分類 P 1 122・ 16- ZC (F41B)
最終処分 一部成立  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 鈴木 久雄
鈴木 法明
登録日 2000-10-20 
登録番号 特許第3121578号(P3121578)
発明の名称 自動弾丸供給機構付玩具銃  
代理人 神原 貞昭  
代理人 鷹見 雅和  
代理人 安原 正之  
代理人 安原 正義  

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