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審決分類 |
審判 全部無効 産業上利用性 B65B 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 B65B |
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管理番号 | 1102015 |
審判番号 | 無効2004-35015 |
総通号数 | 58 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2004-10-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2004-01-10 |
確定日 | 2004-08-16 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第0813512号発明「包装」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第813512号は、昭和40年8月13日の特許出願に係り、昭和50年6月25日に出願公告された後、昭和51年5月14日にその設定登録なされ、昭和60年8月13日に存続期間が満了している。 本件は、これに対して、平成16年1月13日付けで、審判請求人鈴木健夫より、特許無効審判の請求がなされたものである。 2. 審判請求の理由の概要 請求人は、本件特許に係る明細書(以下、「本件明細書」という。)及び図面(以下、「本件図面」という。)の記載事項を立証するために 甲第1号証として、特公昭50-17915号公報、 を提出し、甲第1号証によれば、本件明細書の第2欄第13〜27行に、 「ポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態に於ける独特の性質を使用する事に起因して製品包装の改良にはかなりの進歩が為されて来ている。斯かるフィルムは押出し成形されるとまだ無定形状態にある間に基本的には該フィルムの温度を略室温叉はそれたりも稍高い温度迄下げる事になる即時過冷の結果として得られる如き状態に懸濁され得る。過冷状態にある此のフイルムは本来非結晶性で即時変形可能性を呈し、可伸性及びそれ自体に対してのみならず適当な状態の下にある別種の材料に対しても独特の密封性を有している。此の型式のフイルムは包装される製品の形に即座に馴染む事が可能で、皺を生じフイルムの折畳まれる部分に密封を作って維持する事に附随する問題を解決するものである。」 と記載されており、本件発明は、ポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態における性質を利用するものであるが、ポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態がどのようにして得られるのか説明がなされておらず、また、加熱したフイルムが固まり、それ以降伸びないから包装が可能であるのに対して、過冷無定形状態でどのように包装を行うのかも開示されていないため、過冷無定形状態のフイルムをどのように取り扱うのかも不明であるから、明細書の記載が不備であり、かつ、特許請求の範囲にポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態における性質を利用するものが記載されていないから、明細書の記載が不備であると共に、本件特許に係る発明は、希望的事項を羅列しただけの未完成なものであり、産業上利用することができる発明に該当しない。よって、本件特許は無効とすべき旨主張している。 3. 被請求人の主張概要 被請求人は、答弁をしていない。 4. 当審の判断 請求人の主張の是非について、以下検討する。 本件明細書の特許請求の範囲に記載された、「1 可撓性のある材料から形成され且つ実質的に水平に延在する中心部を有する比較的堅い底部材と、この底部材の前記中心部に織置された製品と、この製品を覆いかつ周辺部が前記底部材に封着された可撓性のフイルムとを組み合わせてなる包装において、前記底部材(11又は20 )は周縁に連続した中高のリム( 15又は24)を有し、該リムは前記製品( 12又は21 )及び前記中心部(14又は23 )のすぐ外方に配設されており、また、該リムは、周縁に連続しかつ外方かつ下方に傾斜して前記中心部( 14又は23 )よりも下方へ延びているフランジ部(16又は25)を有し、前記フィルム(13又は22)は前記リムの上向き内側面、頂部並びに下向き外側面にわたつて該リムと係合しかつ前記フランジに封着されていることを特徴とする包装。」は、「可撓性のある材料から形成され・・比較的堅い底部材」、「製品」、「可撓性のフイルム」、「リム」、「フランジ」及び「封着」の形状、構造、及び配置を特定した、包装の形状・構造に係る発明の構成を明確に記載しており、それ自身の記載においては、同記載を不明瞭とする特段の事情はない。 したがって、本件特許第813512号に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件明細書及び本件図面の記載からみて、本件特許請求の範囲に記載された「包装」に要旨があるものと認める。 よって、本件明細書の記載は、請求人が指摘する、「ポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態」を直接本件発明の必須の構成としてはいない。その意味からは、本件発明は、ポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態における性質を利用するものであるとする、請求人の主張を直ちに採用できるものではなく、発明の詳細な説明に記載されるポリ塩化ビニリデンフイルムに係る記載が不明瞭であるとしても、直ちに、本件発明を容易に実施することができる程度に、発明の詳細な説明に発明が記載されていないとすることはできない。 さらに、本件特許請求の範囲に記載された発明について、発明の詳細な説明の記載を検討する。 本件明細書には、 「本発明は新式の改良形態の包装及びその特殊な形状の構成要素に関するものである。」(公報第2欄第7〜8行)と記載され、本件発明の目的について、 「新改良形態の包装及びその前述型式の構成要素にして即時包装形成及び密封操作を可能にし而も取扱中の密封破損を最少にする独特の包装密封面積の形状及び配置を有するものを提供するのが本発明の目的である。 別な目的は、独特の形状に作られ、上に製品を支持する比較的剛固な底部材を本質的に有し且該底部材に接着されて製品を覆うフイルムを有し、該底部材と該フイルムとの間に作られる密封が新式の改良された性質を有するものである新改良包装を提供する事である。 尚別な目的は前記型式の包装に使用し得る新式改良形態の底部材にして、撓曲し難くする形の設けられた比較的可撓性の材料から最初作られ、包装フィルムに対して有効で複雑でない強力密封を作り得る性質を有する簡単な密封部分を作るものを提供する事である。」(公報第3欄第18〜34行)と記載され、この目的を達成するために、 「本発明の包装の基本的設計は包装フイルムと底部材との独特な組合せにあり、フィルムが底部材の包装の垂直軸線に対して傾けられたフランジ部の上を同延に覆うて該部に接着され従つて密封の効果を被壊する為にはフイルムをかなり伸ばさなければそれを底部材から離し得ないような形状及び配置の密封を有するものである。」(公報第3欄第37〜44行)と記載されており、本件明細書には、包装フイルムと底部材との独特な形状及び配置に基づく密封により、目的を達成する旨が述べられている。 これら記載には、一部明らかな誤記は認められるものの、本件の上記目的及びその解決が、包装フイルムと底部材との特定の形状及び配置に基づく密封によりなされていることを把握する特段の妨げとはならない。 そして、本件明細書及び本件図面には、2つの実施例に基づいて、 「可撓性のある材料から形成され且つ実質的に水平に延在する中心部を有する比較的堅い底部材と、この底部材の前記中心部に織置された製品と、この製品を覆いかつ周辺部が前記底部材に封着された可撓性のフイルムとを組み合わせてなる包装において、前記底部材(11又は20 )は周縁に連続した中高のリム( 15又は24)を有し、該リムは前記製品( 12又は21 )及び前記中心部(14又は23 )のすぐ外方に配設されており、また、該リムは、周縁に連続しかつ外方かつ下方に傾斜して前記中心部( 14又は23 )よりも下方へ延びているフランジ部(16又は25)を有し、前記フイルム(13又は22)は前記リムの上向き内側面、頂部並びに下向き外側面にわたつて該リムと係合しかつ前記フランジに封着されていることを特徴とする包装」 の発明の構成について、「可撓性のある材料から形成され・・比較的堅い底部材」、「製品」、「可撓性のフイルム」、「リム」、「フランジ」及び「封着」の形状、構造、及び、配置が当業者にとって、反復して実施可能な形状、構造、及び、配置として記載されると共に、このように特定されるものにより、上記目的を達成できるのであるから、本件特許請求の範囲に記載された発明を単なる希望的事項の羅列とすることはできず、未完成の発明とすることはできない。 また、本件明細書の発明の詳細な説明に、本件特許請求の範囲に記載された発明の目的、構成、効果が記載されないとすることもできないと共に、特許請求の範囲にポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態における性質を利用するものが記載されないことをもって、特許請求の範囲に、本件発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないとすることはできない。 次に、「ポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態」なる記載が、包装の形状・構造に係る本件発明を未完成とするか、または、明細書の記載を不備とするか、さらに検討する。 まず、本件明細書には、好ましいフイルムとして、ポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態のフイルムがあげられ、特定の形状構造を示す実施例のフイルムもポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態にあるフイルムに基づいて説明されている。これを一見すると、ポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態のフイルムが実施例を担保する唯一のフイルムにも見えるが、本件明細書には、「本発明に拠る包装に適する製品の全部は極めて広範囲に亘るもので上述せるものは単なる代表例に過ぎない。ポリ塩化ビニル及びポリスチレンフイルムは本発明の包装を作るのに使用され得る別な型式のフィルムの例である。好ましくは、使用されるフィルムは常温叉は加熱状態の何れかに於いて適当に成形可能であつて底部材の密封面積と完全に馴染んで皺や折目のない滑らかな密封を作るものでなけれはならない。」(公報第11欄第31行〜第12欄第7行)と記載されており、本件発明は、ポリ塩化ビニリデンフイルムの使用に何等限定されるものではなく、常温叉は加熱状態の何れかに於いて適当に成形可能であつて底部材の密封面積と完全に馴染んで皺や折目のない滑らかな密封を作るフイルムであれば本件発明が成立することは、当業者が理解し得る事項であり、そのようなフイルムとしてポリ塩化ビニル及びポリスチレンフイルムが、特段の例示を待つまでもなく、本件特許に係る出願の出願時において周知であることは、当業者にとって明らかである。 従って、「ポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態」なる記載の存在によっても、同記載から直ちに、「常温叉は加熱状態の何れかに於いて適当に成形可能であつて底部材の密封面積と完全に馴染んで皺や折目のない滑らかな密封を作るフイルム」を当業者が実施不能なものとすることはできず、本件発明が未完成とされるものではなく、明細書の記載を不備とされるものでもない。 よって、ポリ塩化ビニリデンフイルムに係る記載を論拠とする請求人の主張は採用できない。 なお、本件特許請求の範囲に記載された発明と直ちに関係する事項ではないが、本件明細書の「ポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態」なる記載に関連して、本件特許の出願時点における技術水準について検討すると、本件発明の出願時において、過冷無定形状態のポリ塩化ビニリデンフイルムの製造方法、及び、無定形状態のポリ塩化ビニリデンが時間の経過と共に結晶化することは周知である。(参考例 特公昭28-6192号公報、特公昭27-2793号公報、特公昭32-4883号公報) また、無定形状態のポリ塩化ビニリデンフイルムの製造に必要な資材等の調達の可能性に係る主張は、その発明の完成と直接関係する事項ではなく、無定形状態のポリ塩化ビニリデンフイルムについて、無定形状態にあり自己粘着性のあるフイルムの取り扱いが困難である旨の主張は、そのようなフイルムの性質により、ブロッキングの発生等の問題があり、その解決が本件特許とは別異の発明を構成することがあるとしても、その解決自体本件発明の出願時において多くの提案がなされる程度の事項であり(特公昭30-2388号公報、特公昭34-3236号公報)、そのことをもって、本件発明が未完成とされるものではない。 5. むすび 以上説示の通り、請求人の主張は、採用できない。 また、他に、本件特許を無効とすべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 なお、請求人は、審理終結後の平成16年6月11日付けで、審判事件請求理由補充書を提出して、1.明細書の記載の不備に係る主張は、特許請求の範囲に記載と発明の詳細な説明の記載が一致しない旨釈明しているが、上述のとおり、特許請求の範囲に記載された発明に対応する発明の目的、構成、効果は、発明の詳細な説明に記載されており、ポリ塩化ビニリデンフイルムの記載があることにより、特許請求の範囲に記載された発明に対応する発明の目的、構成、効果の記載がなくなるものではない。 3.にいう、大阪府立産業技術総合研究所の回答は、明細書の記載の不備、または、特許法にいう発明の完成について述べるものではなく、同回答によっても、上記判断を変更すべき格別の理由はない。 残余の主張も、「ポリ塩化ビニリデン」に係る主張であり、本件特許請求の範囲に記載された発明の未完成と直ちに関係するものではない。 したがって、本件の審理を再開しない。 |
審理終結日 | 2004-06-04 |
結審通知日 | 2004-06-08 |
審決日 | 2004-07-02 |
出願番号 | 特願昭40-49006 |
審決分類 |
P
1
113・
14-
Y
(B65B)
P 1 113・ 531- Y (B65B) |
最終処分 | 不成立 |
特許庁審判長 |
粟津 憲一 |
特許庁審判官 |
溝渕 良一 西川 恵雄 |
登録日 | 1976-05-14 |
登録番号 | 特許第813512号(P813512) |
発明の名称 | 包装 |