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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H
審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 F16H
管理番号 1102278
審判番号 不服2002-14641  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-03-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-08-01 
確定日 2004-09-14 
事件の表示 平成5年特許願第238710号「トロイダル形無段変速機」拒絶査定不服審判事件〔平成7年3月17日出願公開、特開平7-71555、請求項の数(3)〕についてされた平成15年3月18日付審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決〔平成15年(行ケ)第165号、平成15年11月19日判決言渡し〕があったので、更に審理の上、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1、手続の経緯・本願発明
本願は、平成5年8月31日の特許出願であって、平成14年6月28日付で拒絶の査定がされ、平成14年8月1日に拒絶査定不服の審判が請求され、平成15年3月18日に請求は成り立たないと審決されたが、平成15年4月25日東京高等裁判所に出訴され、平成15年11月19日に審決を取り消すとの判決がされたものであって、さらに審理の途上平成16年6月2日付で拒絶の理由が通知され、平成16年8月5日に意見書と共に手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1乃至3に係る発明(以下、「本願発明1乃至3」という。)は、平成16年8月5日付手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載される以下のとおりのものであると認める。
「【請求項1】 入力軸に設けられた入力ディスクと、出力軸に設けられた出力ディスクと、前記両ディスクに係合して前記入力軸の動力を前記出力軸に伝達するパワーローラと、を含んで構成したトロイダル形無段変速機において、
前記両ディスクの外径寸法は200mm以下、前記パワーローラの外径寸法は120mm以下であって、前記両ディスク及びパワーローラは、酸素量が10ppm以下の鋼を用い、トラクション面となる部分及び繰り返し曲げ応力を受ける部分に浸炭処理あるいは浸炭窒化処理が施されるとともに、前記トラクション面となる部分に研削仕上げが施されてなり、前記両ディスク,パワーローラの少なくとも一方は、前記鋼として炭素:0.35重量%以下の浸炭鋼を用い且つ前記トラクション面となる部分及び前記繰り返し曲げ応力を受ける部分の有効硬化層深さが、2.0mm以上、4.0mm以下であることを特徴とするトロイダル形無段変速機。
【請求項2】 前記入力ディスク,出力ディスク及びパワーローラの少なくとも1つが、シリコン:0.05〜0.2重量%、マンガン:0.2〜0.7重量%を含む鋼からなることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル形無段変速機。
【請求項3】 前記入力ディスク,出力ディスク及びパワーローラの少なくとも1つが、表面から0.15mmの深さの範囲に存在する最大圧縮応力が、-130〜-60kgf/mm2 となっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトロイダル形無段変速機。」

2、引用例
一方、当審の平成16年6月2日付拒絶の理由に引用された引用例は以下の4件である。
引用例1、実公平2-49411号公報
引用例2、特開昭63-297866号公報
引用例3、特開平4-54312号公報
引用例4、特願平4-320528号(特開平6-159463号公報参照)
ここで各引用例の開示内容を吟味する。
引用例1(実公平2-49411号公報)の、例えば、その第2頁右欄第42行〜第3頁右欄第2行の「さらに、入力軸2の、前記スプライン軸部2bにはローディングカム6がスプライン結合されていると共に、・・・・・(中略)・・・・・また後退ギヤ21は中間ギヤ(図中略)を介して後退側出力ギヤ32に選択的に噛合される。」なる記載を図面を参酌してみれば、「入力軸2に設けられた入力ディスク8と、筒軸19に設けられた出力ディスク10と、前記両ディスク8,10に係合して前記入力軸2の動力を前記筒軸19に伝達するパワーローラ13,14と、を含んで構成したトロイダル形無段変速機」なる発明が記載されていることは、明らかである。

また、引用例2(特開昭63-297866号公報)には図面と共に少なくとも次の(イ)〜(ニ)に示す記載が認められる。
(イ)、「本発明は、浸炭焼入れ鋼製の歯車であって、・・・(中略)・・・本発明における鋼素材は、低炭素のクロム含有鋼が好ましい。・・・(中略)・・・また、歯面の浸炭深さは0.8〜3.0mmが好ましい。0.8mmより浅いと耐摩耗性、耐焼付性の向上効果が少なく、3.0mmより深い浸炭層では効果が飽和し、浸炭時間等も長くなり、不経済である。」(第2頁右上欄第17行〜同左下欄第16行)
(ロ)、製造方法(4)としての記載に関し、
「浸炭及び再加熱した後、歯底の余肉を切削除去する方法である。製造方法(3)とは歯底切削工程及びシェービング工程の順番が異なっている。
(1)歯切り工程:製造方法(3)と同じ(審判官注:原本の工程別数字は丸で囲まれているが都合により括弧で代用する。以下、同じ。)
(2)浸炭工程:浸炭後の冷却方法は任意である。
(3)再加熱浸炭工程:(4)の切削工程等があるので、浸炭後、徐冷するのが好ましい。
(4)歯底切削工程:歯底の炭化物生成部に相当する余肉を切削除去する。
(5)シェービング工程:製造方法(3)と同じ
(6)焼入れ焼戻し工程:製造方法(1)と同じ
上記した各製造方法において、噛み合い歯面の炭化物量は、浸炭工程または再加熱浸炭工程の条件を代えることで制御する。
以上説明した各製造方法は、例示的なものであり、本発明の鋼製歯車を特定するためのものではない。本発明では、上記各製造方法の焼入れ焼戻し工程につづいてショットピーニングを施し、圧縮残留応力を発生させ、疲労強度をより向上させるようにしてもよい。」(第3頁左下欄第11行〜同右下欄第10行)
(ハ)、発明の実施例として、製造方法(1)により製造したものを挙げ、
「部品名:セカンダリシャフトギヤ(材質SCM420H,モジュール2.25,歯数23)」(第4頁左上欄第7行〜第9行)
(ニ)、表中、本発明のNo.6,7の噛み合い歯面の浸炭深さ(Hv550の深さ)に関し2.2mm,2.8mmとした例が記載されている。(第4頁右上欄)
そこで纏めると、製造方法(4)における浸炭処理後のシェービング加工は、浸炭処理後の研削に相当するから、そして、SCM420H合金鋼は炭素含有率が0.17〜0.23重量%であり、歯車のモジュール=ピッチ円直径/歯数でもあるから、引用例2には、「伝動部品たる歯車に関し、歯車のピッチ円直径は51.75mmであって、歯車は鋼を用い、歯車の歯面に、浸炭処理及び研削仕上げが施されてなり、歯車の前記鋼として、炭素:0.17〜0.23重量%の浸炭鋼を用い前記歯面の有効硬化層深さが、0.8mm以上、3.0mm以下である鋼製歯車」なる技術的事項が記載されているとすべきである。

同じく、引用例3(特開平4-54312号公報)には、図面と共に少なくとも次の(ホ)〜(リ)に示す記載が認められる。
(ホ)、転がり軸受の鋼材に係る実施例1に関し、第1表には、「試験鋼球No.C、鋼球サイズ3/8''、使用鋼種SCr420、熱処理法浸炭焼入、ショトピーニング有」(第2頁右下欄)
(ヘ)、「本実施例では、ショト粒として、平均粒径0.72mmの平均硬さHRC61の鋼球を使用し、ショト投射速度が32〜120m/sec.(平均投射速度80m/sec.)となるようにショトピーニング処理を行った。」(第3頁左上欄第16行〜第20行)
(ト)、「この試験に際して、異物混入下において、内外輪にクラックが発生するのを防止するため、鋼球の相手材である内外輪を、残留オーステナイト量が35vol%であるSCr420Hで形成した。」(第3頁右上欄第11行〜第15行)
(チ)、「そして、試験鋼球Cでは、最表面部における圧縮残留応力の値の最大値が、100kgf/mm2以上であり、且つ表面下300μmの位置での残留圧縮応力が40kgf/mm2以上であるため、もっとも寿命が良好であるとの結果を得た。」(第3頁左下欄第6行〜第11行)
(リ)、「第2図のC曲線には、表面から0.15mmの深さの範囲に存在する残留圧縮応力が-120〜-60kgf/mm2程度であることが示されている。」(第5頁第2図)
これを纏めると、引用例3には「転がり軸受部材用であって、炭素:0.18〜0.23重量%の浸炭焼入鋼の、表面から0.15mmの深さの範囲に存在する圧縮応力が、-120〜-60kgf/mm2程度となっている」なる技術的事項が記載されているとするのが相当である。

そして、引用例4(特願平4-320528号(特開平6-159463号公報参照))の願書に最初に添付した明細書には図面と共に少なくとも以下の(ヌ)〜(カ)に示す記載が認められる。
(ヌ)、「【0004】その中で、トロイダル式(転がり式)の無段変速機は、図1に示すように、潤滑油を介して接触する金属製転動体を用いた構造を有するものであって、このトロイダル式無段変速機1は、入力軸2に接続したローディングカム3および連結軸4を介して一体で回転する入力ディスク5,5をそなえていると共に、歯車6,7を介して出力軸8を回転させる出力ディスク9,9をそなえ、入力ディスク5,5と出力ディスク9,9との間にパワーローラ10,10,10,10を設けた構造を有するものである。
【0005】そして、このトロイダル式無段変速機1では、入力ディスク5と出力ディスク9との間で挟まれたパワーローラ10の傾きを変化させ、入・出力ディスク5,9の相対回転速度を変えて変速しつつ、動力を伝達する仕組みになっている(特開平1-229158号など)。
【0006】そのため、このような金属製転動体よりなる入力ディスク5、出力ディスク9およびパワーローラ10は、エンジントルクの入力によって、転動面においては面圧入力を受けることとなるので、面疲労強度に優れていることが要求され、高い表面硬度と深い硬化層深さが必要となる。」(公開公報第2頁左欄第39行〜同右欄第10行参照)
(ル)、【表3】中、「比較例たるNo.7,8,12(パワーローラ)に関し、それらの材質がSCM420である点。」(公開公報第3頁段落【0022】参照)
(ヲ)、【表5】中、「比較例たるNo.7,8,12(パワーローラ)に関し、それらに浸炭処理のみが施され、且つ転動面に研磨が施されてなる点。」(公開公報第5頁段落【0024】参照)
(ワ)、「次いで、表4および表5に示すように、転動面5a,9a,10aを研磨加工によって表面粗さRa=0.03μm程度に仕上げ、外周面(非転動面)においても一部について研磨加工を行った。さらに、同じく表4および表5に示すように、一部についてショットピーニングを行った。」(公開公報第6頁段落【0031】参照)
(カ)、【表7】中、「比較例たるNo.7,8,12(パワーローラ)に関し、それらの入・出力ディスクの有効硬化層深さが夫々3.0mm,3.1mm,3.0mmであり、パワーローラの有効硬化層深さが同じく2.9mm,3.0mm,2.9mmである点。」(公開公報第6頁段落【0034】参照)
そうしてみると、引用例4には、
「入力軸に設けられた入力ディスクと、出力軸に設けられた出力ディスクと、前記両ディスクに係合して前記入力軸の動力を前記出力軸に伝達するパワーローラと、を含んで構成したトロイダル形無段変速機において、
前記両ディスク及びパワーローラは、鋼を用い、トラクション面となる部分及びトラクション面とならない部分に浸炭処理が施されてなり、トラクション面となる部分に研削仕上げが施されてなり、前記両ディスク,パワーローラの少なくとも一方は、前記鋼として炭素:0.18〜0.23重量%の浸炭鋼を用い且つトラクション面となる部分及びトラクション面とならない部分の有効硬化層深さが、2.9mm,3.0mmまたは3.1mmであることを特徴とするトロイダル形無段変速機。」なる発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。

3、対比・判断
そこで進歩性につき検討する。
本願発明1は、請求項1に記載されるとおりであるが、詳細に検討すると「外形寸法が200mm以下の両ディスク,外形寸法が120mm以下のパワーローラの少なくとも一方に関し、炭素量が0.35重量%以下、酸素量が10ppm以下の浸炭鋼を用い、トラクション面となる部分及び繰り返し曲げ応力を受ける部分に浸炭処理または浸炭窒化処理を施すとともに、トラクション面となる部分に研削仕上げが施されてなり、トラクション面となる部分及び繰り返し曲げ応力を受ける部分の有効硬化層深さが2.0mm以上、4.0mm以下であるトロイダル形無段変速機」である点に特徴点を有している。
そうしてみると、「本願発明1の形式のトロイダル形無段変速機」が引用例1により知られており、「伝動部品たる歯車に関し、歯車のピッチ円直径は51.75mmであって、炭素量0.17〜0.23重量%の浸炭鋼を用い、歯車の歯面に、浸炭処理及び研削仕上げが施されてなり、前記歯面の有効硬化層深さが、0.8mm以上、3.0mm以下である鋼製歯車」が引用例2で知られているとはいえ、「かかる浸炭鋼が酸素量10ppm以下である」点は各引用例に開示されておらず、本願発明1においては「トラクション面となる部分及び繰り返し曲げ応力を受ける部分に浸炭処理を施すとともに、トラクション面となる部分に研削仕上げが施されてなり」なる構成、即ち、「トラクション面とならない部分であって、繰り返し曲げ応力を受ける部分の有効硬化層には研削仕上げを施さない構成」を有することを見て取ることができる。
もっとも、炭素量0.18〜0.23重量%、つまり炭素量0.35重量%以下、酸素量が10ppm以下の高清浄度の浸炭鋼に限って見れば、例えば特開平3-271343号公報にも示されているが、この出願前に文献公知であったことを知ることはできる。
しかし、本願発明1は、かかる高清浄度の浸炭鋼を用いると共に、「トラクション面となる部分及び繰り返し曲げ応力を受ける部分に浸炭処理あるいは浸炭窒化処理を施すとともに、トラクション面となる部分に研削仕上げが施されてなり」なる構成としたものであるから、かかる構成により本願明細書の段落【0030】の記載が示唆するように、かかる研削を施さない硬化層部分においても「鋼中の大型の非金属介在物の存在を抑えることにより、高強度鋼の回転曲げ疲労強度の向上を図る」という効果を生み出すものである。
つまり、本願発明1は、トロイダル形変速機の形状に即した効果を奏しているということができる。
したがって、引用例1乃至3の存在により本願発明1の進歩性を否定することには無理があると言うべきである。
本願発明2、3はいずれも本願発明1の引用形式で記載されているから、本願発明1の進歩性を否定することができない以上、これらの進歩性を否定することもできない。

次いで同一性につき検討する。
本願発明1と先願発明とを比較すると、相違点は以下のとおりである。
相違点1:本願発明1において、「ディスクの外形寸法は200mm以下、パワーローラーの外形寸法は120mm以下」であるのに対し、先願発明において、「ディスクまたはパワーローラーの外形寸法は不明」である点。
相違点2:本願発明1において、「浸炭鋼の酸素量が10ppm以下」であるのに対し、先願発明において、「浸炭鋼の酸素量」に関する構成が見当たらない点。
各相違点につき検討すると、相違点1は、本願発明1がディスクとパワーローラの外形寸法を特定することにより、浸炭処理或いは浸炭窒化処理によって得られた有効硬化層深さの持つ意味合いを熱処理における寸法効果の面からも明確にしたものであるとすることができる。
そうしてみると、更に相違点2をも併せ持つ本願発明1を、ディスクとパワーローラの外形寸法を規定せずに有効硬化層深さを特定している先願発明と同一であるとすることには、無理があるものとせざるを得ない。
本願発明2、3はいずれも本願発明1の引用形式で記載されているから、本願発明1を先願発明と同一であるとすることができない以上、これらを先願発明と同一であるとすることもできない。

したがって、本願発明1〜3は、引用例1〜3に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることができないばかりでなく、引用例4の先願発明と同一であるとすることもできない。

4、むすび
以上のとおりであるから、本願については原査定の拒絶理由はもとより、当審拒絶理由によっても拒絶すべきものとすることができない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-02-27 
結審通知日 2003-03-04 
審決日 2003-03-18 
出願番号 特願平5-238710
審決分類 P 1 8・ 161- WY (F16H)
P 1 8・ 121- WY (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 谿花 正由輝高山 芳之  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 窪田 治彦
前田 幸雄
常盤 務
町田 隆志
発明の名称 トロイダル形無段変速機  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 森 哲也  

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