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関連判例 | 平成15年(ネ)3488号特許権侵害差止等請求控訴事件平成15年(行ケ)339号審決取消請求事件平成14年(ワ)7456号特許権侵害差止等請求事件平成17年(ワ)3056号損害賠償等請求事件 |
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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A47G |
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管理番号 | 1102299 |
審判番号 | 無効2002-35531 |
総通号数 | 58 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-08-13 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2002-12-16 |
確定日 | 2004-09-16 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2956956号発明「合成樹脂製クリップ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2956956号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯・本件発明 本件特許第2956956号の請求項1に係る発明(平成7年2月3日出願、平成11年7月23日設定登録。以下「本件発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「一端に挟着部を形成したクリップ片を向かい合わせに対峙させ、両クリップ片に亙って“U”字形に折り返されて形成された合成樹脂製バネを装着し、該合成樹脂製バネの弾性力により両クリップ片の挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなる合成樹脂製クリップにおいて、合成樹脂製バネの先端内面部分に掛合部を形成し、該掛合部が掛合する受け止め部と、受け止め部より折り返えし部側の合成樹脂製バネ部分を被う飛散防止部とをクリップ片に設けるとともに、受け止め部に対面する飛散防止部の先端側部分に空間を形成し、受け止め部の飛散防止部側先端部と飛散防止部の受け止め部側先端部とがクリップ片を成形する金型の摺動方向に直交する方向で重なり合わないように形成したことを特徴とする合成樹脂製クリップ。」 2.請求人の主張 これに対して、請求人は、本件発明の特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、本件発明は、甲第1号証(実願昭63-98154号(実開平2-19359号)のマイクロフィルム)、甲第2号証(意匠登録第782935号公報)及び甲第3号証(米国特許第4701983号明細書)の各刊行物に記載された発明に基いて、当該技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項に該当する(「以下、無効理由1」という。)と共に、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載していないことから、平成5年改正特許法第36条第5項第2号の規定に違反し(「以下、無効理由2」という。)、特許を受けることができないものである旨主張している。 3.被請求人の主張 一方、被請求人は、本件発明は、甲第1号証や甲第3号証に記載された発明とは目的のみならずその作用・効果が異なり、また、甲第2号証は意匠公報であって衣服ハンガーの横桟に取付けてスカート等を挟持するためのものであって、本件発明の目的を推測させるような記載がなく、さらに、本件発明の構成要件の記載は何ら矛盾するものではないため、請求人の主張する無効理由1及び2は正鵠を得ないものであることが明白であり、本件特許無効審判の請求は成り立たない旨主張している。 4.無効理由1について そこでまず、上記無効理由1について検討する。 (1)甲第1号証及び甲第3号証 甲第1号証(実願昭63-98154号(実開平2-19359号)のマイクロフィルム)には、以下の事項が記載されている。 ・「(1) 上面中央にフックを有するハンガーバーと、衣類を吊下支持させる少なくとも一対のクリップとの組合せからなり、 前記ハンガーバーは両面中央長手方向に滑らかな曲面で上下縁に連結する断面係止溝を有し、 前記クリップは屈曲板バネで開閉可能に連結した一対のクリップ片からなり、両クリップ片の対向内縁に前記ハンガーバーの係止溝に形成された滑らかな曲面に沿うカム面を備え、前記係止溝にカム面を圧接させてクリップを前記ハンガーバーに着脱可能に装着したことを特徴とするハンガー。 (2) 前記クリップ片の内面に、前記屈曲板バネのバネ受けを設けた請求項第1項に記載のハンガー。」(実用新案登録請求の範囲) ・「従来のハンガーは・・・組立てが厄介である。また、クリップ片31a間を連結するバネ33の端縁33aがクリップ片31aの外側に露出しているため、特に製品がニット製品である場合にはその編目に引掛けて傷付けてしまい、製品の価値を台無しにしてしまう欠点があった。」(明細書3頁6〜16行) ・「本考案に係るハンガーを組立てるにあたっては、まず一対のクリップ片2a,2aを下端縁を揃えてV字状に組合せ、その間に屈曲板バネ4を介挿して該バネ4の端縁4aを各クリップ片2aのバネ受け6に装着し、一対のクリップ片2aをバネ4で開閉可能に連結してクリップ2を組立てる。」(明細書6頁6〜11行) ・「クリップ片の内面にバネのバネ受けが設けられ、バネの端縁が外部に露出しないため、製品に引掛けてしまうことを防止できる。」(明細書7頁15〜17行) ・第1図ないし第3図には、一端に挟着部を形成したクリップ片2aを向かい合わせに対峙させ、両クリップ片2aに亙って“U”字形に折り返されて形成された屈曲板バネ4を装着し、該屈曲板バネ4の弾性力により両クリップ片2aの挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなる構成、屈曲板バネ4の先端内面部分に凸部を形成した構成、クリップ片2aに、該凸部が係合するバネ受け6を設けた構成、クリップ片2aの上端縁10が、屈曲板バネ4の折り返えし部を越える位置まで延長形成されており、上端縁10の下方部が屈曲板バネ4の折り返し部近傍のバネ部分を被う構成、上端縁10の下方部の先端側部分にクリップ片2aの厚み方向に貫通し且つバネ受け6の表面部にスペースを提供する窓状穴が形成されている構成、及び、バネ受け6の上端縁10の下方部側先端部と上端縁10の下方部のバネ受け6側先端部とがクリップ片2aの長さ方向に間隔を有している構成、が示されている。 上記記載事項及び図示内容によれば、甲第1号証には、 「一端に挟着部を形成したクリップ片2aを向かい合わせに対峙させ、両クリップ片2aに亙って“U”字形に折り返されて形成された屈曲板バネ4を装着し、該バネの弾性力により両クリップ片2aの挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなるクリップにおいて、屈曲板バネ4の先端内面部分に凸部を形成し、該凸部が係合するバネ受け6と、屈曲板バネ4の折り返えし部近傍のバネ部分を被う上端縁10の下方部とをクリップ片2aに設けるとともに、上端縁10の下方部の先端側部分にクリップ片2aの厚み方向に貫通し且つバネ受け6の表面部にスペースを提供する窓状穴を形成し、バネ受け6の上端縁10の下方部側先端部と上端縁10の下方部のバネ受け6側先端部とがクリップ片2aの長さ方向に間隔を有しているクリップ」の発明が記載されているものと認められる。 (2)甲第3号証(米国特許第4701983号明細書)には、図面と共に以下の事項が記載されている。 ・「An object・・・an improved plastic clip assembly」(翻訳;この発明の目的は、進歩したプラスチック製のクリップ組立部品を提供すること。)(第2欄11〜12行) ・「there is illustrated・・・paired jaw members12.」(翻訳;クリップ組立部品10は、一対の顎部材12と、顎部材12に取付けるためのU字バネ14と、からなることが示されている。)(第2欄65行〜第3欄1行) ・「The intermediate portion 20・・・jaw member12.」(翻訳;中間部20には、顎部材12の縦長軸に沿って細長い溝26が形成されている。)(第3欄15〜17行) ・「there is formed・・・elongated channe1 26.」(翻訳;細長い溝26の終点付近に、円形の停止凹部30を含み下部の壁部材2,8が形成されている。)(第3欄19〜22行) ・「Each foot portion 50・・・cooperating jaw members 12」(翻訳;顎部材12に設けられた円形の停止凹部30に位置するように、各足部50には、内側に窪みもしくは円形の突起52が形成されている。)(第3欄43〜47行) ・「The arcuate base portion 46・・・is restrained by eventual contact at 45」(翻訳;U字バネ14の弓状部46は、顎部材12の溝26の上端に近接するように配置され、そうすることによって、顎部材12間の縦の動きが、45に接することで規制される。)(第3欄53〜58行) (2)対比 本件発明と甲第1号証に記載の発明とを比較すると、後者における「凸部」がその作用・機能からみて前者における「掛合部」に相当し、以下同様に、「係合する」が「掛合する」に、「バネ受け6」が「受け止め部」に、それぞれ相当する。 そして、後者における「屈曲板バネ4の折り返えし部近傍のバネ部分」は、バネ受け6(受け止め部)よりも折り返えし部側のバネ部分であるといえるから、前者の「受け止め部より折り返えし部側のバネ部分」に相当し、後者における「上端縁10の下方部」は、仮に、バネ4が折れた場合には、折れた箇所あるいは飛散する方向によっては、その破片が上端縁10の下方部に衝突して、飛散防止の効果が得られると考えられるところから、前者における「飛散防止部」に相当する。 また、後者における「バネ受け6(受け止め部)の上端縁10の下方部(飛散防止部)側先端部と上端縁10の下方部(飛散防止部)のバネ受け6(受け止め部)側先端部とがクリップ片2aの長さ方向に間隔を有している」構成は、金型の干渉防止を目的としていることは明らかであるから、同じ目的のための特定事項である前者の「受け止め部の飛散防止部側先端部と飛散防止部の受け止め部側先端部とがクリップ片を成形する金型の摺動方向に直交する方向で重なり合わないように形成した」構成と実質的に等価のものといえる。 したがって、両者は、 「一端に挟着部を形成したクリップ片を向かい合わせに対峙させ、両クリップ片に亙って“U”字形に折り返されて形成されたバネを装着し、該バネの弾性力により両クリップ片の挟着部同士が圧接する方向に弾性付勢してなるクリップにおいて、バネの先端内面部分に掛合部を形成し、該掛合部が掛合する受け止め部と、受け止め部より折り返えし部側のバネ部分を被う飛散防止部とをクリップ片に設けるとともに、受け止め部の飛散防止部側先端部と飛散防止部の受け止め部側先端部とがクリップ片を成形する金型の摺動方向に直交する方向で重なり合わないように形成したことを特徴とするクリップ」 である点で一致し、次の点で一応相違している。 ・相違点a 本件発明が、「合成樹脂製バネ」を採用した「合成樹脂製クリップ」であるのに対し、甲第1号証に記載の発明は、バネ及びクリップの材質が明確にされていない点。 ・相違点b 本件発明が、「受け止め部に対面する飛散防止部の先端側部分に空間を形成し」た構成を有しているのに対し、甲第1号証に記載の発明は、「上端縁10の下方部(飛散防止部)の先端側部分にクリップ片2aの厚み方向に貫通し且つバネ受け6(受け止め部)の表面部にスペースを提供する窓状穴を形成し」た構成となっている点。 (3)当審の判断 上記の相違点について検討する。 ・相違点aについて クリップ片を合成樹脂材料で形成することは、クリップの分野における技術常識であるから、甲第1号証に記載の発明におけるクリップ片も、合成樹脂製クリップ片であると捉えることができる。 そして、甲第3号証の、「プラスチック製のクリップ組立部品」なる記載、及び、「クリップ組立部品10は、一対の顎部材12と、顎部材12に取付けるためのU字バネ14と、からなる」との記載によれば、甲第3号証に記載のクリップ組立部品(「クリップ」に相当。)は、一対の顎部材12(「クリップ片」に相当。)とU字バネ14が、いずれもプラスチック製、即ち、合成樹脂製であるものと解釈できる。 また、本件特許明細書の段落【0003】及び【0004】にも開示されているように、クリップの分野において、残留針の確認検査で使用する金属探知器に対応するために金属製バネに替えて合成樹脂製バネを採用することも、よく知られているところである。 そうすると、甲第1号証に記載の発明において、金属探知器に対応すべく、甲第3号証に記載された合成樹脂製バネを採用して合成樹脂製クリップとする程度のことは当業者が容易に推考し得ることというべきである。(なお、平成15年6月10日に実施された口頭審理において、被請求人は、甲第3号証に合成樹脂製バネが記載されていること、及び、甲第1号証に記載の発明において、合成樹脂製バネとすることは容易であることを認めている。) ・相違点bについて 本件発明における、「受け止め部に対面する飛散防止部の先端側部分に空間を形成し」た構成に関し、「空間」なるものの技術的意義については、本件特許明細書中に説明がなされていないため不明瞭ではあるが、被請求人は、平成15年3月24日付け答弁書及び上記の口頭審理において、「空間」とはバネの先端部分が挿入され、これにより飛散防止部の内側にバネが収まるものである旨主張しているので、一応、この主張に沿って検討する。 ところで、甲第1号証には、発明の効果に関し、「バネの端縁が外部に露出しない」と記載されているところから、甲第1号証に記載の発明の「上端縁10の下方部(飛散防止部)の先端側部分にクリップ片2aの厚み方向に貫通し且つバネ受け6(受け止め部)の表面部にスペースを提供する窓状穴を形成し」た構成は、バネの先端部分が挿入されるためのものであり、これによりクリップ片内にバネが収まるものといえる。 しかも、上記「窓状穴」は、バネ受け6(受け止め部)に対面する上端縁10の下方部(飛散防止部)の先端側部分の領域を含んでいることは明らかであるから、甲第1号証に記載の発明の「上端縁10の下方部(飛散防止部)の先端側部分にクリップ片2aの厚み方向に貫通し且つバネ受け6(受け止め部)の表面部にスペースを提供する窓状穴を形成し」た構成は、本件発明の、「受け止め部に対面する飛散防止部の先端側部分に空間を形成し」た構成に相当するものと認められる。 また、上記被請求人の「飛散防止部の内側にバネが収まる」との主張は、クリップ片の厚み方向において、飛散防止部の厚み領域よりも内側にバネが収まるということを述べたものと認められるが、このような状態は、バネ、クリップ片及び飛散防止部の各厚み、あるいは、掛合部及び受け止め部の形状等の条件が特定されて初めて実現され得るものというべきであり、「受け止め部に対面する飛散防止部の先端側部分に空間を形成し」たとの構成だけで、直ちに上記の状態が得られるとは認められないから、上記の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものといわざるをえない。 したがって、上記相違点bは実質的な相違点であるとはいえない。 そして、本件発明により奏される効果も、上記甲第1号証及び甲第3号証に記載の発明から、当業者が予測し得る範囲内のものである。 なお、被請求人は、上記答弁書及び口頭審理において、本件発明は、受け止め部の部分から合成樹脂製バネ部分の折り返し部側部分を被うように形成したものであるのに対し、甲第1号証に記載の発明では、上端縁10の下端は合成樹脂製バネがあるのでそれ以上下がらない構造であり、合成樹脂製バネ部分の折り返し部近傍部分のみを覆うものであるため、バネが破損した場合、その破片は大きく開口した窓部分から周囲に飛散する旨主張している。 しかしながら、本件発明において、飛散防止部の合成樹脂製バネを被う部分については、「受け止め部より折り返えし部側の合成樹脂製バネ部分」とされており、これは、飛散防止部が合成樹脂製バネ部分の内の「受け止め部よりも折り返えし部側」にあるということだけを規定しているにすぎず、飛散防止部が合成樹脂製バネのどの位置からどの位置まで形成されているかを特定したものではないから、飛散防止部の形成領域について、本件発明と甲第1号証に記載の発明との違いを主張すること自体、特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、到底容認できない。 以上のとおりであるので、本件発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5.むすび したがって、無効理由2について検討するまでもなく、本件発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2003-06-19 |
出願番号 | 特願平7-17174 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
Z
(A47G)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 渋谷 善弘、今関 雅子 |
特許庁審判長 |
田中 秀夫 |
特許庁審判官 |
藤原 直欣 岡田 孝博 |
登録日 | 1999-07-23 |
登録番号 | 特許第2956956号(P2956956) |
発明の名称 | 合成樹脂製クリップ |
代理人 | 杉本 勝徳 |
代理人 | 特許業務法人共生国際特許事務所 |