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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199835415 審決 特許
審判199935072 審決 特許
異議199973920 審決 特許
異議200172607 審決 特許
無効200135480 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) A01N
管理番号 1102516
審判番号 審判1998-35276  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-11-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-06-18 
確定日 2004-09-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第2135308号「加熱蒸散殺虫方法」の特許無効審判事件についてされた平成13年11月30日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成13年(行ケ)第587号平成16年 2月13日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2135308号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯・本件発明

本件特許第2135308号の請求項1に係る発明の出願は、昭和59年1月31日に出願された特願昭59-16760号(以下、「原出願」という。)の一部を平成3年5月13日に新たな特許出願(特願平3-107140号。以下、「本件出願」という。)としたものであって、出願公告(特公平5-63441号)された後、特許異議の申立てがされ、異議決定の理由により拒絶の査定がされ、審判の請求がされ、平成9年8月26日付けで手続補正がされ、平成10年3月13日に特許権の設定登録がされたものである。
それに対して、平成10年6月18日に本件無効審判が請求され、平成10年9月29日付けで審判理由補充書が提出され、平成10年12月14日付けで審判理由補充書(2)が提出され、平成11年2月5日付けで審判理由補充書(3)が提出され、平成11年3月3日付けで被請求人より審判事件答弁書が提出され、平成12年10月19日付けで請求人より審判理由補充書(4)が提出され、平成12年12月26日付けで審判理由補充書(5)が提出され、平成13年3月2日付けで被請求人より審判事件答弁書(2)が提出され、平成13年5月28日付けで審判事件答弁書(3)が提出され、平成13年9月19日付けで請求人より審判理由補充書(6)が提出され、平成13年11月30日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」旨の審決がなされたものである。
これに対して、本件無効審判の請求人により、当該審決の取消しを求める訴えが東京高等裁判所に提起され(平成13年(行ケ)第587号)、平成16年2月13日に東京高等裁判所において、「特許庁が平成10年審判第35276号事件について平成13年11月30日にした審決を取り消す。」との判決の言渡しがあった。

そして、本件発明は、願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲(平成9年8月26日付け手続補正による)に記載された次のとおりのもの(以下、「本件発明」という。)と認められる。

「【請求項1】殺虫液中に吸液芯の一部を浸漬して該芯に殺虫液を吸液させると共に、該芯の上部を間接加熱して吸液された殺虫液を蒸散させる加熱蒸散殺虫方法において、殺虫液に含まれる殺虫剤としてピレスロイド系殺虫剤を用い、殺虫液に含まれる溶媒として脂肪族系の溶剤を含み且つ以下に記載の発熱体及び吸液芯の表面温度で蒸散するものを用い、前記吸液芯として以下に記載の発熱体及び吸液芯の表面温度での使用が可能であるものを用い、表面温度が70〜150℃の発熱体にて上記芯の上部を表面温度が60〜135℃となる温度に間接加熱することを特徴とする加熱蒸散殺虫方法。」

第2.請求人の主張の概要

請求人は、以下の証拠方法を提出し、無効理由1(特許法第36条第4項、5項及び第123条第1項第3号に基づく無効理由)、無効理由2(特許法第40条第29条第1項第123条第1項第1号に基づく無効理由)、無効理由3(特許法第29条第2項第123条第1項第1号に基づく無効理由)を述べて、本件特許は無効にされるべきであると主張している。

証拠方法
甲第1号証の1 特公平5-63441号公報
甲第1号証の2 平成8年審判第4589号
(特願平3-107140号)に関する
平成9年8月26日付手続補正書
甲第1号証の3 平成8年審判第4589号における応対記録
甲第1号証の4 平成8年審判第4589号に関し、
平成9年7月29日付けで
特許庁審判官に提出した補正案
甲第2号証 特公昭52-12106号公報
甲第3号証 特開昭60-161902号公報
甲第4号証 特開平4-330003号公報
甲第5号証 特開昭55-57502号公報
甲第6号証 試験結果報告書(平成10年4月7日付け)
甲第7号証の1 昭和41年7月8日発行「中外会ニューズ」
(中外製薬株式会社及び中外会事務局発行)
甲第7号証の2 昭和42年5月1日発行「中外会ニューズ」
(中外製薬株式会社及び中外会事務局発行)
甲第7号証の3 報告書(大阪府立産業技術総合研究所長発行、
平成5年12月10日付け)
甲第8号証 河村博著「電験二種受験講座 照明/電熱/電気化学」
(昭和56年6月20日株式会社オーム社
第1版第8刷発行)
(8の1) 中表紙
(8の2) 第188〜189頁の「[2]表面電力密度」の項
(8の3) 奥付
検甲第1号証 「バルサン電気蚊とり器」の現物
(以上、審判請求書に添付)
甲第9号証 日本薬業新聞社編集「殺虫剤指針解説」
(昭和53年8月25日日本薬業新聞社第1刷発行)
(9の1) 表紙
(9の2) 第326〜327頁の「共力剤」に関する記載部分
(9の3) 第455〜457頁の「III 共力剤の規格及び
試験方法」に関する記載部分
(9の4) 奥付
甲第10号証 農学集報、第17巻第4号(昭和48年)別刷、
第280〜282頁、
「ピレスロイドの殺虫効果と共力剤の作用機構」の項
(以上、審判理由補充書に添付)
甲第11号証 特公平2-25885号の補正を掲載した公報
(平成7年3月15日発行)
甲第12号証 試験報告書(平成8年10月18日付け)
甲第13号証 大阪地方裁判所平成6年(ワ)第499号
特許出願公告に基づく権利侵害差止事件における
原告準備書面(六)
甲第14号証 東京高等裁判所平成8年(行ケ)第187号
審決取消請求事件判決
(平成10年10月15日判決言渡)
(以上、審判理由補充書(2)に添付)
甲第15号証 特開平7-316002号公報
(以上、審判理由補充書(3)に添付)
甲第16号証 特公平5-63441号の補正を掲載した公報
(平成11年2月3日発行)
甲第17号証 特開昭56-36958号公報
甲第18号証 特公昭42-13470号公報
甲第19号証 AGRICULTURAL AND FOOD
CHEMISTRY、Vol.4,No.4,
1956年、p.340〜343
甲第20号証 P.&E.O.R.、January、
1967年、p.25〜26、
「Stabilizing Myrcene」
(ミルセンの安定化)に関する論文
甲第21号証 特公昭51-5365号公報
甲第22号証 特開昭50-13316号公報
甲第23号証 防虫科学、第39巻-I、昭和49年2月、
第1〜10頁
甲第24号証 Agr.Biol.Chem.、Vol.36,
No.1,1972年、p.56〜61
甲第25号証 防虫科学、第35巻-III、昭和45年8月、
第96〜102頁
甲第26号証 PYRETHRUM POST、Vol.11,
No.1,1971年、p.24〜28
甲第27号証 特公昭46-21239号公報
甲第28号証 特公昭54-44726号公報
甲第29号証 特開昭54-23122号公報
甲第30号証 特公昭52-1970号公報
甲第31号証 特公昭51-9371号公報
甲第32号証 特開昭53-86023号公報
(以上、審判理由補充書(4)に添付)
甲第33号証 大阪地方裁判所平成11年(ワ)第12876号
不当利得金返還請求事件判決
(平成12年12月19日判決言渡)
(以上、審判理由補充書(5)に添付)
甲第34号証 大阪高等裁判所平成13年(ネ)第242号
不当利得金返還請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成11年(ワ)
第12876号)判決
(平成13年8月28日判決言渡)
(以上、審判理由補充書(6)に添付)

無効理由1(審判請求書、審判理由補充書、同(2)、同(3)にて主張)は、本件明細書は、吸液芯と発熱体の配置関係について、また、溶剤について、さらに、作用効果を奏しない構成を包摂していることについて、記載が不備であるから、特許法第36条の規定に違反する、というものである。
無効理由2(審判請求書、審判理由補充書(4)、同(5)にて主張)は、甲第3号証に示す原出願明細書、甲第4号証に示す分割出願時の明細書(以下「当初明細書」という。甲第4号証の第1〜11頁)、甲第4号証に示す平成3年6月11日付け手続補正による全文補正明細書(以下「全文補正明細書」という。甲第4号証の第12頁以下)の記載内容の変遷からすると、「全文補正明細書」は、要旨変更を伴っているものであり、また、作用効果、実施例をみても同様であるから、特許法第40条の規定に基づき、本件特許の出願日は、「全文補正明細書」が提出された平成3年6月11日と解すべきであるか、あるいは、「全文補正明細書」を更に補正する旨の補正書が提出された平成6年9月5日と解すべきである。
そこで、本件発明と公知刊行物である甲第3号証に記載された発明とを対比すると、甲第3号証は、本件発明の構成の全てを開示しているので、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に該当する、というものである。
無効理由3(審判請求書にて主張)は、本件発明は、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものであり、また、甲第5号証と、本件出願前に公然と販売されていた「バルサン電気蚊とり器」(検甲第1号証)からの示唆に基づき、本件発明は当業者が容易に想到し得たものである、というものである。

第3.被請求人の答弁の概要

被請求人は、審判事件答弁書、同(2)、同(3)を提出するとともに、審判事件答弁書に添付して乙第1〜3号証を提出し、請求人の主張する無効理由はない旨を述べて、本件審判の請求は成り立たないと主張する。

乙第1号証 大阪地方裁判所平成6年(ワ)第499号
特許出願公告に基づく権利侵害差止請求事件において、
平成7年3月16日に提出した原告説明書
乙第2号証の1 実開平5-80号公報
乙第2号証の2 実開平5-80号の明細書の4〜15頁
乙第3号証 特許第2731789号公報

第4.甲号各証等

甲第1号証の1は、本件出願に係る特許公告公報であり、甲第1号証の2は、本件出願に係る平成9年8月26日付けの手続補正書であり、甲第1号証の3は、本件出願に係る拒絶査定に対してなされた平成8年審判第4589号についての特許庁審判官との応対記録であって平成9年7月14日から同年8月12日までの5回に渡る記録が示されており、甲第1号証の4は「審判平8-4589号(特願平3-1007140号)『加熱蒸散殺虫方法』の補正案の件」と題された特許庁審判官宛に提出された補正案(なお、上記「特願平3-1007140号」は、「特願平3-107140号」の誤記と認められる。)である。
甲第2号証は、「薬剤加熱揮散装置」と題する発明に関する特許公告公報であり、本件の特許明細書(甲第1号証の1である本件特許公告公報に、甲第1号証の2で示した、公告後の補正が加えられたもの)の段落【0017】において、「本発明方法は、上記組成物を従来公知の各種吸液芯を利用した吸上式加熱蒸散型殺虫装置に適用することにより実施され、・・・本発明方法に利用できる上記装置は、例えば特公昭52-12106号公報」と例示されている公報である。
甲第3号証は、本件出願の原出願である、特願昭59-16760号の特許公開公報であって、吸液芯用殺虫液組成物が記載されている。(記載事項の詳細については、下記、第5.2.(1)参照)
甲第4号証は、本件出願の特許公開公報であって、その第1〜11頁は、本件出願時の明細書(「当初明細書」)に相当し、その第12頁以降は平成3年6月11日付けの全文補正明細書(「全文補正明細書」)に相当するものである。
甲第5号証は、「加熱蒸散殺虫方法」と題する発明に関する特許公開公報であって、「特定沸点範囲の脂肪族炭化水素にクリサンテマート化合物等を含有させてなる殺虫剤液中に、多孔質吸液芯の一部を浸漬して該芯に殺虫剤液を吸液すると共に、該芯の上側面部を130〜140℃の温度に間接加熱して吸液された殺虫剤液を蒸散させることを特徴とする加熱蒸散殺虫方法」(特許請求の範囲参照)について記載されている。
甲第6号証は、請求人である大日本除蟲菊株式会社研究所内の研究員による、特開昭55-57502号公報(甲第5号証)に基づく実験の結果を記した試験結果報告書である。
甲第7号証の1〜2は、「中外会ニューズ」に掲載された「バルサン電気蚊とり器」についての記事であり、甲第7号証の3は、「電気かとり器」について温度上昇試験をした結果の、大阪府立産業技術総合研究所長名による、報告書である。
甲第8号証は、表面電力密度について記載されている文献である。
甲第9号証及び甲第10号証は、いずれも、オクタクロロジプロピルエーテルが共力剤として有用であることが記載されている文献である。
甲第11号証は、本件出願の原出願である、特願昭59-16760号の特許公告公報である特公平2-25885号の補正を掲載した公報であって、その特許請求の範囲の補正及び発明の詳細な説明の補正が記載されている。
甲第12号証は、大阪地方裁判所平成6年(ワ)第5895号事件及び平成6年(ヨ)第1824号事件に関連して、本件無効審判の請求人である大日本除蟲菊株式会社の研究員が大阪地方裁判所に宛てて提出した試験報告書であって、特公平2-25885号の補正を掲載した公報(甲第11号証)に開示されている明細書の実施例19,23,24について試験されたものである。
甲第13号証は、本件無効審判事件の被請求人を原告とし、本件無効審判事件の請求人を被告とする大阪地方裁判所平成6年(ワ)第499号特許出願公告に基づく権利侵害差止請求事件における被請求人提出の準備書面(六)であって、原告である被請求人は、請求人使用に係る殺虫用器具の吸液芯温度が平均して約120℃である旨を主張している。
甲第14号証は、平成8年(行ケ)第187号審決取消請求事件の東京高等裁判所の判決であって、この事件は、本件出願の原出願である特願昭59-16760号に係る特許第1861146号に対して請求された平成6年無効審判第15563号の審決に対しての審決取消請求事件である。
甲第15号証は、被請求人の出願に係る発明の特許公開公報であって、「加熱蒸散用水性薬剤及び加熱蒸散方法並びに加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤」なる名称の発明が記載されている。
甲第16号証は、本件出願の公告公報である特公平5-63441号の、特許法第64条の規定による、平成6年9月5日付け手続補正書(補1〜補2頁)及び同平成9年8月26日付け手続補正書(補3〜補4頁)についての補正を掲載した公報である。
甲第17号証には、蒸散方法及び蒸散装置が記載され、甲第18〜32号証は、BHT等が、殺虫剤を含む化合物の酸化分解又は酸化重合を防止する機能を一般的に有していることを示すために提出された刊行物である。
甲第33号証は、本件無効審判の被請求人が原告となり、請求人を被告としてなされた不当利得金返還請求事件の判決であって、その判決文の中には、本件特許は平成3年6月11日付け補正が要旨変更であるから、本件出願の出願日は平成3年6月11日である旨、記載されている。
甲第34号証は、原審が大阪地方裁判所平成11年(ワ)第12876号(甲第33号証)であるところの、不当利得金返還請求控訴事件の判決であって、第1審の原告が控訴人となっているものであるが、該判決において、本件控訴は棄却されている。そして、控訴人は、該判決に対して既に上告期間を経過するも、上告を行っておらず、甲第34号証の判決は確定するに至っているものである。
検甲第1号証は、「バルサン電気蚊とり器」の現物である。
また、審判請求書には、「計算書」、「図面1」及び「図面2」が添付されている。

乙第1号証及び乙第2号証は、蚊取り方法及び器具の開発経緯を説明するために、また、乙第3号証は、甲第12号証で請求人が証明しようとする事実が矛盾したものであることを示すために、提出されたものである。

第5.当審の判断

1.本件の出願日

東京高等裁判所 平成13年(行ケ)第587号 審決取消請求事件の平成16年2月13日言渡の判決に記載の理由により、本件出願は、平成3年6月11日になされたものとみなされる。
したがって、本件の出願日は、平成3年6月11日である。

2.対比・判断

(1)甲第3号証に記載された発明

本件出願前に頒布された刊行物である甲第3号証を詳細にみるに、該甲号証には次の事項が記載されている。
(ア)「殺虫剤の有機溶剤溶液中に、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、・・・及び6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,3-ジヒドロキノリンから選ばれた少なくとも1種の化合物(審決注:これらの化合物のことを、以下、「BHT等の化合物」という。)を配合したことを特徴とする吸液芯用殺虫液組成物」(特許請求の範囲)
(イ)技術背景として、「殺虫剤を溶液形態で吸上芯(吸液芯)により吸上げつつこれを加熱蒸散させる方法が考えられ、事実このような吸液芯利用による殺虫剤蒸散装置が種々提案されている。これら装置は適当な容器に殺虫剤の溶剤溶液を入れ、これをフェルト等の吸液芯を利用して吸上げつつ該吸液芯上部より加熱蒸散させるべくしたものである。」(第2頁右上欄6〜12行)
(ウ)発明の目的として、「本発明は吸上式加熱蒸散型殺虫装置に適した吸液芯用殺虫液組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、上記装置に利用して、吸液芯の目づまり等を回避し、長期に亘る持続的殺虫効果を奏し得、しかも殺虫剤総揮散量及び有効揮散率の向上を計り得る改良された殺虫液組成物を提供することを目的とする。」(第2頁左下欄10〜16行)
(エ)用いられる殺虫剤として、「本発明において殺虫剤としては、従来より害虫駆除に用いられる各種薬剤をいずれも使用できる。該薬剤には各種のピレスロイド系殺虫剤、カーバメイト系殺虫剤、有機リン系殺虫剤等が包含される。」(第3頁右上欄2〜6行)
(オ)用いられる溶剤として、「上記殺虫剤は溶液形態に調製される。該殺虫剤溶液を調製するための溶剤としては、各種の有機溶剤、代表的には炭化水素系溶剤をいずれも使用できるが、特に沸点範囲が150〜350℃の脂肪族系炭化水素(パラフィン系炭化水素及び不飽和脂肪族炭化水素)は好ましく、このうちn-パラフィン、イソパラフィン等は、実用上毒性がなく、臭いがなくしかも火災の危険も極めて少ない点において好適である。」(第4頁右上欄1〜9行)
(カ)使用される装置について、「本発明組成物は、従来公知の各種吸液芯を利用した吸上式加熱蒸散型殺虫装置に適用して、いずれも前記した所期の優れた効果を奏し得る。」(第5頁左上欄12〜14行)
(キ)具体的に適した装置について、「第1図は本発明吸液芯用殺虫液組成物を適用するに適した吸上式加熱蒸散型殺虫装置の概略図であり、該装置は吸液芯(1)を支持するための芯支持体(2)を有する殺虫剤液収容容器(3)と、上記容器内にその上部を突出して挿入された吸液芯(1)と、その上側面部を間接的に加熱するための中空円板状発熱体(4)、該発熱体(4)を支持するための支持部(5)及び支持脚(6)を有する発熱体支持台(7)とから成っており、上記発熱体(4)は、これに通電して発熱させるためのコード(図示せず)を有している。」(第5頁左上欄末行〜右上欄9行)
(ク)加熱温度について、「本発明組成物を上記装置に適用して殺虫を行なう方法は、従来のこの種装置の利用法と全く同様でよく、本発明組成物が吸液芯より蒸散し得る適当な温度に吸液芯を加熱すればよい。該加熱温度は、殺虫剤の種類等に応じて適宜に決定され、特に限定されないが、通常約70〜150℃、好ましくは135〜145℃の範囲の発熱体表面温度とされ、これは吸液芯表面温度約60〜135℃、好ましくは約120〜130℃に相当する。」(第5頁右下欄10〜18行)
(ケ)実施例として実施例1〜64が挙げられ、第1表には、それぞれの例において、上記の殺虫剤、上記のBHT等の化合物、上記の溶剤を含む組成物が記載され、第2表には、組成物試料の加熱開始より10時間後、100時間後、200時間後、300時間後及び400時間後の1時間当りの殺虫剤揮散量が記載されている。(第6頁左上欄4行〜第8頁左下欄の表の末欄)
(コ)表の説明として、「上記第2表より、本発明組成物を利用する時には、殺虫剤揮散量を顕著に向上でき、しかもこの向上された揮散量を、加熱開始より400時間後も殆んど低下させることなく持続発現させ得ることが明白である。」(第8頁左下欄下から8〜4行)

以上を総合すると、上記甲号証には、(ウ)の目的のために、(ア)の組成物を(イ)の方法で用いることが具体的に記載され、その際に、(ア)に記載された殺虫剤及び有機溶剤は、それぞれ(エ)、(オ)に示されるものであり、また、(イ)の方法における加熱温度は(ク)に示されており、ここで、当該組成物が吸液芯より適度に蒸散することは、(ク)に記載されるとおりであるから、甲第3号証には、
「殺虫液中に吸液芯の一部を浸漬して該芯に殺虫液を吸液させると共に、該芯の上部を間接加熱して吸液された殺虫液を蒸散させる加熱蒸散殺虫方法において、殺虫液に含まれる殺虫剤としてピレスロイド系殺虫剤を用い、殺虫液に含まれる溶媒として脂肪族系の溶剤を含み且つ以下に記載の発熱体及び吸液芯の表面温度で蒸散するものを用い、殺虫液にBHT等の化合物を配合し、前記吸液芯として以下に記載の発熱体及び吸液芯の表面温度での使用が可能であるものを用い、表面温度が70〜150℃の発熱体にて上記芯の上部を表面温度が60〜135℃となる温度に間接加熱することを特徴とする加熱蒸散殺虫方法。」の発明が記載されている。

(2)特許法第29条第1項について

本件発明と上記甲第3号証に記載された発明とを対比すると、両者ともに、吸上式加熱蒸散型殺虫装置を利用したものであって、吸液芯の目づまり等を回避し、長期に亘る持続的殺虫効果を奏し得、しかも殺虫剤総揮散量及び有効揮散率の向上を計ること(上記摘記(1)(ウ)、及び本件特許明細書段落【0005】参照)を目的とするものであり、両者は同様の殺虫剤、溶剤、加熱温度を採用するものであるから、略同一の加熱蒸散殺虫方法に関するものであり、ただ、本件発明においては、殺虫液にBHT等の化合物を配合するのを必須の構成としていないのに対し、甲第3号証に記載された発明においては、殺虫液にBHT等の化合物を配合するのを必須の構成としている点でのみ、両者は相違する。
ところで、本件発明においては、特許明細書の段落【0014】に「本発明に用いられる吸液芯用殺虫液組成物は、上記殺虫剤の有機溶媒溶液中に、以下の化合物群から選ばれた少なくとも1種を目づまり防止剤として添加配合することができる。」と記載され、「以下の化合物群」に相当するものとして、これに続く段落【0015】にBHT等の化合物が列挙され、実施例15〜78には、殺虫剤、BHT等の化合物、溶剤を含む組成物が記載され(第1表参照)、第2表には、実施例1〜20に関して、組成物試料の加熱開始より10時間後、100時間後、200時間後、300時間後及び400時間後の1時間当りの殺虫剤揮散量が記載され、段落【0035】に「上記第2表より、上記組成物を利用する時には、殺虫剤揮散量を、顕著に向上でき、しかもこの向上された揮散量を加熱開始より200時間後及び400時間後も殆んど低下させることなく持続発現させ得ることが明白である。」と記載されていることからすると、本件発明においても、BHT等の化合物を配合する場合を包含することがあるのは明らかである。
そうしてみると、本件発明において、BHT等の化合物を含有する場合は、上記の相違点は存在せず、したがって、この場合は、本件発明は、甲第3号証に記載された発明である。

さらに、被請求人の答弁及び被請求人の提出した乙第1〜3号証を検討しても、当審の上記判断(第5.2.(2))に変わりはない。

第6.むすび

以上のとおり、本件発明は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであるから、本件発明に係る特許は、平成5年改正法による改正前の特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-11-14 
結審通知日 2001-11-19 
審決日 2001-11-30 
出願番号 特願平3-107140
審決分類 P 1 112・ 113- Z (A01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柿沢 恵子平山 孝二脇村 善一  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 後藤 圭次
佐藤 修
関 美祝
西川 和子
登録日 1998-03-13 
登録番号 特許第2135308号(P2135308)
発明の名称 加熱蒸散殺虫方法  
代理人 小松 勉  
代理人 三輪 拓也  
代理人 加藤 勉  
代理人 吉原 省三  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 松本 操  
代理人 萼 経夫  
代理人 中村 壽夫  
代理人 赤尾 直人  
代理人 佐木 啓二  

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