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審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199835276 審決 特許
審判199935072 審決 特許
異議199973920 審決 特許
異議200172607 審決 特許
無効200135480 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A01N
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) A01N
管理番号 1102517
審判番号 審判1998-35415  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-03-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-08-26 
確定日 2004-09-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第2729357号「吸液芯付容器、加熱蒸散型殺虫装置用キット及びこれらに用いる蒸散性持続化剤」の特許無効審判事件についてされた平成13年12月 5日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成13年(行ケ)第593号平成16年 2月13日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2729357号の請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯・本件発明

本件特許第2729357号の請求項1〜3に係る発明の出願は、昭和59年1月31日に出願された特願昭59-16760号の一部を平成3年5月13日に新たな特許出願(特願平3-107140号)とし、この新たな特許出願である特願平3-107140号の一部を平成6年9月5日に新たな特許出願(特願平6-211585号)とするものであって、平成9年12月19日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、異議申立人フマキラー株式会社より特許異議の申立てがされ、取消理由通知がされ、その指定期間内である平成13年4月25日に訂正請求がされ、該訂正が認められ、維持決定されたものである。
また、平成10年8月26日に本件無効審判が請求され、平成10年12月21日付けで審判理由補充書が提出され、平成11年2月5日付けで審判理由補充書(2)が提出され、平成12年5月30日付けで審判理由補充書(3)が提出され、一方、被請求人からは、平成10年12月21日付けで審判事件答弁書が提出され、さらに、平成11年3月3日付けと平成13年9月17日付けで審判事件答弁書が提出され、平成13年12月5日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」旨の審決がなされたものである。
これに対して、本件無効審判の請求人により、当該審決の取消しを求める訴えが東京高等裁判所に提起され(平成13年(行ケ)第593号)、平成16年2月13日に東京高等裁判所において、「特許庁が平成10年審判第35415号事件について平成13年12月5日にした審決を取り消す。」との判決の言渡しがあった。

そして、本件発明は、願書に添付された明細書即ち平成13年4月25日付けで提出された訂正明細書の、特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのもの(以下「本件発明1〜3」という。)と認められる。

「【請求項1】殺虫剤を収容し吸液芯の一部を浸漬して該芯に殺虫液を吸液させ、表面温度が70〜150℃の発熱体にて上記芯上部を表面温度が60〜135℃となる温度に間接加熱することにより殺虫液を蒸散させるための吸液芯付容器であって、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、メルカプトベンズイミダゾール、ジラウリル-チオ-ジ-プロピオネート、3-t-ブチル-4-メトキシフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、α-トコフェロール、アスコルビン酸、エリソルビン酸、2,2′-メチレン-ビス-(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、2,2′-メチレン-ビス-(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、4,4′-メチレン-ビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4′-ブチリデン-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、4,4′-チオ-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス〔メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)〕メタン、フェニル-β-ナフチルアミン、N,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノンポリマー及び6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンから選ばれた少なくとも1種の化合物が入れてあることを特徴とする吸液芯付容器。
【請求項2】吸液芯の上部を表面温度が60〜135℃となる温度に間接加熱するために表面温度を70〜150℃の温度とする発熱体を備えた加熱装置と、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、メルカプトベンズイミダゾール、ジラウリル-チオ-ジ-プロピオネート、3-t-ブチル-4-メトキシフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、α-トコフェロール、アスコルビン酸、エリソルビン酸、2,2′-メチレン-ビス-(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、2,2′-メチレン-ビス-(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、4,4′-メチレン-ビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4′-ブチリデン-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、4,4′-チオ-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス〔メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)〕メタン、フェニル-β-ナフチルアミン、N,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノンポリマー及び6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンから選ばれた少なくとも1種の化合物を入れた殺虫液が収容された容器とからなり、該容器内には吸液芯がその上部を突出した状態で挿入されていることを特徴とする加熱蒸散型殺虫装置用キット。
【請求項3】表面温度が70〜150℃の発熱体にて一部が液中に浸漬された吸液芯の上部を表面温度が60〜135℃となる温度に間接加熱することにより蒸散される殺虫液のための蒸散性持続化剤であって、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、メルカプトベンズイミダゾール、ジラウリル-チオ-ジ-プロピオネート、3-t-ブチル-4-メトキシフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、α-トコフェロール、アスコルビン酸、エリソルビン酸、2,2′-メチレン-ビス-(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、2,2′-メチレン-ビス-(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、4,4′-メチレン-ビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4′-ブチリデン-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、4,4′-チオ-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス〔メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)〕メタン、フェニル-β-ナフチルアミン、N,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノンポリマー及び6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンから選ばれた少なくとも1種の化合物を有効成分とすることを特徴とする蒸散性持続化剤。」

第2.請求人の主張の概要

請求人は、平成13年4月25日付けで提出された訂正明細書による訂正前の本件発明に関し、以下の証拠方法を提出して、無効理由1(特許法第40条第29条第1項第123条第1項第1号に基づく無効理由)、無効理由2(特許法第29条第2項第123条第1項第1号に基づく無効理由)、無効理由3(特許法第36条第4項、第5項及び第123条第1項第3号に基づく無効理由)を述べて、本件特許は無効にされるべきであると主張している。

証拠方法
甲第1号証 特許第2729357号公報
(本件特許公報)
甲第2号証の1 特開昭60-161902号公報
甲第2号証の2 特開平4-330003号公報
甲第2号証の3 特開平7-69805号公報
(本件特許公開公報)
甲第3号証の1 実公昭45-29244号公報
甲第3号証の2 特開昭55-57502号公報
甲第4号証 特開昭56-36958号公報
甲第5号証 特開昭50-160426号公報
甲第6号証 特公昭52-12106号公報
甲第7号証 特公昭42-13470号公報
甲第8号証 AGRICULTURAL AND FOOD
CHEMISTRY、Vol.4,No.4,
1956年、p.340〜343
甲第9号証 P.&E.O.R.、January、
1967年、p.25〜26、
「Stabilizing Myrcene」
(ミルセンの安定化)に関する論文
甲第10号証 特公昭51-5365号公報
甲第11号証 特開昭50-13316号公報
甲第12号証 防虫科学、第39巻-I、昭和49年2月、
第1〜10頁
甲第13号証 Agr.Biol.Chem.、Vol.36,
No.1,1972年、p.56〜61
甲第14号証 防虫科学、第35巻-III、昭和45年8月、
第96〜102頁
甲第15号証 PYRETHRUM POST、Vol.11,
No.1,1971年、p.24〜28
甲第16号証 特公昭46-21239号公報
甲第17号証 特公昭54-44726号公報
甲第18号証 特開昭54-23122号公報
甲第19号証 特公昭52-1970号公報
甲第20号証 特公昭51-9371号公報
甲第21号証 特開昭53-86023号公報
甲第22号証 大勝靖一著「自動酸化の理論と実際」、
株式会社化学工業社、
(昭和61年9月20日初版発行)、
第165〜183頁
甲第23号証 特開昭53-121927号公報
甲第24号証 関根正巳外7名編著
「ハンドブック-化粧品・製剤原料-」、
日光ケミカルズ株式会社、
日本サーファクタント工業株式会社、
(昭和52年2月1日改訂版発行)、
第445〜447頁
別紙表1 甲第7〜15号証をまとめたもの
別紙表2 甲第16〜21号証をまとめたもの
別紙表3 甲第24号証を整理したもの
(以上、審判請求書に添付)
甲第25号証 東京高等裁判所平成8年(行ケ)第187号
審決取消請求事件判決
(平成10年10月15日判決言渡)
甲第26号証 特公平2-25885号の補正を掲載した公報
(平成7年3月15日発行)
甲第27号証 試験報告書(平成8年10月18日付け)
(以上、審判理由補充書に添付)
甲第28号証 特開平7-316002号公報
甲第29号証の1 試験結果報告書(3)(平成10年9月30日付け)
甲第29号証の2 印鑑登録証明書
甲第30号証の1 試験結果報告書(4)(平成10年12月4日付け)
甲第30号証の2 印鑑登録証明書
(以上、審判理由補充書(2)に添付)
甲第31号証 特開昭49-42837号公報
(以上、審判理由補充書(3)に添付)

以下、特願昭59-16760号を「原出願」、特願平3-107140号を「分割出願」、特願平6-211585号を「本件出願」という。

無効理由1(審判請求書、審判理由補充書にて主張)は、甲第2号証の1に示す原出願明細書、甲第2号証の2に示す分割出願明細書(以下「分割出願当初明細書」という。甲第2号証の2の第1〜11頁)、甲第2号証の2に示す全文補正明細書(以下「分割出願全文補正明細書」という。甲第2号証の2の第12頁以下)の各記載によれば、「分割出願全文補正明細書」は、要旨変更を伴っているから、特許法第40条に基づき、本件特許の出願日は、前記全文補正明細書が提出された平成3年6月11日と解すべきである。そこで、本件発明1〜3と公知刊行物である甲第2号証の1に記載された発明とを対比すると、甲第2号証の1は、本件発明1〜3の構成の全てを開示しており、本件発明1〜3は特許法第29条第1項第3号に該当する、というものである。
無効理由2(審判請求書、審判理由補充書、審判理由補充書(2)、審判理由補充書(3)にて主張)は、甲第3号証の1〜2より、間接加熱方式による加熱蒸散殺虫装置は本件出願前より公知であり、吸液芯を用いた上記装置においては、薬剤の熱分解重合のために目づまりが生じ、殺虫液の吸上量が減少するという技術上の問題点は甲第4号証に示されており、甲第5号証から殺虫剤溶液中にジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を配合することは開示ないしは示唆されており、甲第6号証には本件出願前より、殺虫剤加熱揮散装置として吸液芯方式が採用されていたことも公知である。そして、甲第7〜24、31号証から、BHT及び本件の請求項1〜3に記載の各化合物等が酸化防止機能を有することが公知であるから、本件発明は、これらの甲号各証に記載されたものから容易になし得るものである。また、甲第25号証は、甲第26号証発明に進歩性が欠如していると結論しているのであるから、本件発明も同様に進歩性を欠如するものである。さらに、甲第27〜30号証から、本件発明には、効果を奏しないものも包含されているのであるから、進歩性を有しないものである、というものである。
無効理由3(審判理由補充書、審判理由補充書(2)にて主張)は、本件発明1〜3は、当業者において容易に実施することができない発明が包摂されており、また、請求項においては、このような実施不可能な発明を除外していないから、本件は特許法第36条に違反している、というものである。

第3.被請求人の答弁の概要

被請求人は、審判事件答弁書(平成10年12月21日付け)、同(平成11年3月3日付け)、同(平成13年9月17日付け)を提出するとともに、乙第1〜4号証を提出し、請求人の主張する無効理由はない旨を述べて、本件審判の請求は成り立たないと主張する。

乙第1号証 オーストリア特許第141320号明細書(1935年)
乙第2号証 特開平3-7207号公報
乙第3号証 大阪地方裁判所平成6年(ワ)第499号
特許出願公告に基づく権利侵害差止請求事件において、
平成7年3月16日に提出した原告説明書
乙第4号証 特許第2731789号公報

第4.甲号各証

甲第1号証は、本件の特許公報である。
甲第2号証の1は、原出願の特許公開公報であって、吸液芯用殺虫液組成物が記載されている。(記載事項の詳細については、下記、第5.2.(1)参照)
甲第2号証の2は、分割出願の特許公開公報であって、その第1〜11頁は、分割出願の出願時の明細書(「分割出願当初明細書」)に相当し、その第12頁以降は平成3年6月11日付けの全文補正明細書(「分割出願全文補正明細書」)に相当するものである。
甲第2号証の3は、本件出願の特許公開公報である。
甲第3号証の1には、電気発熱体を使用し、蒸発芯に含浸する薬剤を蒸散して殺虫を行う殺虫器について記載され、甲第3号証の2には、多孔質吸液芯に殺虫剤液を吸液すると共に該芯の上側面部を130〜140℃の温度に間接加熱して吸液された殺虫剤液を蒸散させることを特徴とする加熱蒸散殺虫方法について、記載されている。
甲第4号証には、蒸散方法及び蒸散装置が記載され、甲第5号証には燻蒸・蒸散用殺虫剤が、甲第6号証には薬剤加熱揮散装置が記載されている。
甲第7〜21号証は、BHT等が、殺虫剤を含む化合物の酸化分解又は酸化重合を防止する機能を一般的に有していることを示すために提出された刊行物であり、甲第22〜24号証には、本件請求項1〜3に記載されたBHT等の化合物のいくつかが、酸化防止剤として公知であることが示されている。
甲第25号証は、東京高等裁判所平成8年(行ケ)第187号審決取消請求事件の判決であって、この事件は、原出願である特願昭59-16760号に係る特許第1861146号に対して請求された平成6年無効審判第15563号の審決に対しての審決取消請求事件である。
甲第26号証は、原出願である特願昭59-16760号の特許公告公報である特公平2-25885号の補正を掲載した公報であって、その特許請求の範囲の補正及び発明の詳細な説明の補正が記載されている。
甲第27号証は、大阪地方裁判所平成6年(ワ)第5895号事件及び平成6年(ヨ)第1824号事件に関連して、本件無効審判の請求人である大日本除蟲菊株式会社の研究員が大阪地方裁判所に宛てて提出した試験報告書であって、特公平2-25885号の補正を掲載した公報(甲第26号証)に開示されている明細書の実施例19,23,24について試験されたものである。
甲第28号証には、加熱蒸散用水性薬剤及び加熱蒸散方法並びに加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤に関する発明が記載されている。
甲第29号証の1は、大阪地方裁判所平成6年(ワ)第499号特許出願公告に基づく権利侵害差止請求事件に関連して試験の結果を報告するとされた、本件無効審判の請求人である大日本除蟲菊株式会社の研究員が大阪地方裁判所に宛てて提出した報告書である。
甲第29号証の2は、甲第29号証の1の試験者の印鑑登録証明書である。
甲第30号証の1は、大阪地方裁判所平成6年(ワ)第499号特許出願公告に基づく権利侵害差止請求事件に関連して試験の結果を報告するとされた、本件無効審判の請求人である大日本除蟲菊株式会社の研究員が大阪地方裁判所に宛てて提出した報告書である。
甲第30号証の2は、甲第30号証の1の試験者の印鑑登録証明書である。
甲第31号証は、密閉した室内の悪臭を除去する方法について記載されており、酸化防止剤として、ブチルヒドロキシトルエンが例示されている。

乙第1号証と乙第2号証は、甲第4号証及び甲第6号証と合わせて、甲第5号証の実施例5に記載された「電気発熱体に導き加熱蒸散させる。」方式が、本件特許発明の吸液芯の間接加熱方式であると言えないことを証明するために提出されたものである。
乙第3号証は、蚊取り方法及び器具の開発経緯を説明するために、また、乙第4号証は、甲第27号証で請求人が証明しようとする事実が矛盾したものであることを示すために、提出されたものである。

第5.当審の判断

1.本件の出願日

東京高等裁判所 平成13年(行ケ)第593号 審決取消請求事件の平成16年2月13日言渡の判決に記載の理由により、本件出願は、平成3年6月11日になされたものとみなされる。
したがって、本件の出願日は、平成3年6月11日である。

2.対比・判断

(1)甲第2号証の1に記載された発明

本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証の1を詳細にみるに、該甲号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「殺虫剤の有機溶剤溶液中に、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、・・・及び6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,3-ジヒドロキノリンから選ばれた少なくとも1種の化合物(審決注:これらの化合物のことを、以下、「BHT等の化合物」という。)を配合したことを特徴とする吸液芯用殺虫液組成物」(特許請求の範囲)
(イ)技術背景として、「殺虫剤を溶液形態で吸上芯(吸液芯)により吸上げつつこれを加熱蒸散させる方法が考えられ、事実このような吸液芯利用による殺虫剤蒸散装置が種々提案されている。これら装置は適当な容器に殺虫剤の溶剤溶液を入れ、これをフェルト等の吸液芯を利用して吸上げつつ該吸液芯上部より加熱蒸散させるべくしたものである。」(第2頁右上欄6〜12行)
(ウ)発明の目的として、「本発明は吸上式加熱蒸散型殺虫装置に適した吸液芯用殺虫液組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、上記装置に利用して、吸液芯の目づまり等を回避し、長期に亘る持続的殺虫効果を奏し得、しかも殺虫剤総揮散量及び有効揮散率の向上を計り得る改良された殺虫液組成物を提供することを目的とする。」(第2頁左下欄10〜16行)
(エ)用いられる殺虫剤として、「本発明において殺虫剤としては、従来より害虫駆除に用いられる各種薬剤をいずれも使用できる。該薬剤には各種のピレスロイド系殺虫剤、カーバメイト系殺虫剤、有機リン系殺虫剤等が包含される。」(第3頁右上欄2〜6行)
(オ)用いられる溶剤として、「上記殺虫剤は溶液形態に調製される。該殺虫剤溶液を調製するための溶剤としては、各種の有機溶剤、代表的には炭化水素系溶剤をいずれも使用できるが、特に沸点範囲が150〜350℃の脂肪族系炭化水素(パラフィン系炭化水素及び不飽和脂肪族炭化水素)は好ましく、このうちn-パラフィン、イソパラフィン等は、実用上毒性がなく、臭いがなくしかも火災の危険も極めて少ない点において好適である。」(第4頁右上欄1〜9行)
(カ)使用される装置について、「本発明組成物は、従来公知の各種吸液芯を利用した吸上式加熱蒸散型殺虫装置に適用して、いずれも前記した所期の優れた効果を奏し得る。」(第5頁左上欄12〜14行)
(キ)具体的に適した装置について、「第1図は本発明吸液芯用殺虫液組成物を適用するに適した吸上式加熱蒸散型殺虫装置の概略図であり、該装置は吸液芯(1)を支持するための芯支持体(2)を有する殺虫剤液収容容器(3)と、上記容器内にその上部を突出して挿入された吸液芯(1)と、その上側面部を間接的に加熱するための中空円板状発熱体(4)、該発熱体(4)を支持するための支持部(5)及び支持脚(6)を有する発熱体支持台(7)とから成っており、上記発熱体(4)は、これに通電して発熱させるためのコード(図示せず)を有している。」(第5頁左上欄末行〜右上欄9行)
(ク)加熱温度について、「本発明組成物を上記装置に適用して殺虫を行なう方法は、従来のこの種装置の利用法と全く同様でよく、本発明組成物が吸液芯より蒸散し得る適当な温度に吸液芯を加熱すればよい。該加熱温度は、殺虫剤の種類等に応じて適宜に決定され、特に限定されないが、通常約70〜150℃、好ましくは135〜145℃の範囲の発熱体表面温度とされ、これは吸液芯表面温度約60〜135℃、好ましくは約120〜130℃に相当する。」(第5頁右下欄10〜18行)
(ケ)実施例として実施例1〜64が挙げられ、第1表には、それぞれの例において、上記の殺虫剤、上記のBHT等の化合物、上記の溶剤を含む組成物が記載され、第2表には、組成物試料の加熱開始より10時間後、100時間後、200時間後、300時間後及び400時間後の1時間当りの殺虫剤揮散量が記載されている。(第6頁左上欄4行〜第8頁左下欄の表の末欄)
(コ)表の説明として、「上記第2表より、本発明組成物を利用する時には、殺虫剤揮散量を顕著に向上でき、しかもこの向上された揮散量を、加熱開始より400時間後も殆んど低下させることなく持続発現させ得ることが明白である。」(第8頁左下欄下から8〜4行)

以上を総合すると、(ウ)の目的のために、(ア)の組成物を(イ)の方法で用いることが具体的に記載され、その際に、(イ)に記載された加熱蒸散殺虫装置は(カ)、(キ)に示されるものであり、同加熱温度は(ク)に示されるものであり、殺虫液が蒸散することも(ク)に示されるところであり、また、(ア)の中にBHT等の化合物は含まれているのであるから、甲第2号証の1には、
「殺虫剤を収容し吸液芯の一部を浸漬して該芯に殺虫液を吸液させ、表面温度が70〜150℃の発熱体にて上記芯上部を表面温度が60〜135℃となる温度に間接加熱することにより殺虫液を蒸散させるための装置または方法であって、BHT等の化合物が入れてあることを特徴とする装置または方法。」の発明が記載されている。

(2)特許法第29条第1項について

(本件発明1)
本件発明1と上記甲第2号証の1に記載された発明とを対比すると、両者ともに、吸上式加熱蒸散型殺虫装置を利用したものであって、吸液芯の目づまり等を回避し、長期に亘る持続的殺虫効果を奏し得、しかも殺虫剤総揮散量及び有効揮散率の向上を計ること(上記摘記(1)(ウ)、及び本件特許明細書段落【0005】参照)を目的とするものであり、甲第2号証の1に記載された「BHT等の化合物」と、本件請求項1に記載された「3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、メルカプトベンズイミダゾール、ジラウリル-チオ-ジ-プロピオネート、3-t-ブチル-4-メトキシフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、α-トコフェロール、アスコルビン酸、エリソルビン酸、2,2′-メチレン-ビス-(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、2,2′-メチレン-ビス-(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、4,4′-メチレン-ビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4′-ブチリデン-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、4,4′-チオ-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス〔メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)〕メタン、フェニル-β-ナフチルアミン、N,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノンポリマー及び6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンから選ばれた少なくとも1種の化合物」とは重複するから差異はなく、また加熱温度にも差異はないから、両者は、「殺虫剤を収容し吸液芯の一部を浸漬して該芯に殺虫液を吸液させ、表面温度が70〜150℃の発熱体にて上記芯上部を表面温度が60〜135℃となる温度に間接加熱することにより殺虫液を蒸散させるための装置であって、BHT等の化合物が入れてあることを特徴とする装置」である点で一致し、本件発明1においては、該装置が、吸液芯付容器と特定されているのに対し、甲第2号証の1に記載された発明においては、このような特定がなされていない点でのみ、一応相違する。
しかしながら、上記摘記事項(キ)によれば、甲第2号証の1に記載された発明においても「該装置は吸液芯(1)を支持するための芯支持体(2)を有する殺虫剤液収容容器(3)と、上記容器内にその上部を突出して挿入された吸液芯(1)と」を有するものであり、これはとりもなおさず、吸液芯付容器のことと認められるから、甲第2号証の1に記載された発明と本件発明1との間に、実質的な差異はない。したがって、本件発明1は、甲第2号証の1に記載された発明である。

(本件発明2)
本件発明2と上記甲第2号証の1に記載された発明とを対比すると、(本件発明1)と同様の理由により、両者は、「殺虫剤を収容し吸液芯の一部を浸漬して該芯に殺虫液を吸液させ、表面温度が70〜150℃の発熱体にて上記芯上部を表面温度が60〜135℃となる温度に間接加熱することにより殺虫液を蒸散させるための装置であって、BHT等の化合物が入れてあることを特徴とする装置」である点で一致し、本件発明2においては、該装置が、加熱装置と容器とからなり、該容器にはBHT等の化合物を入れた殺虫液が収容されており、該容器内には吸液芯がその上部を突出した状態で挿入されていることを特徴とする加熱蒸散型殺虫装置用キットと特定されているのに対し、甲第2号証の1に記載された発明においては、このような特定がなされていない点でのみ、一応相違する。
しかしながら、上記摘記事項(キ)に記載の、「吸液芯(1)を支持するための芯支持体(2)を有する殺虫剤液収容容器(3)と、上記容器内にその上部を突出して挿入された吸液芯(1)」は、本件発明2における「殺虫液が収容された容器とからなり、該容器内には吸液芯がその上部を突出した状態で挿入されている」ものと差異はなく、また、該(キ)に記載の、「その上側面部を間接的に加熱するための中空円板状発熱体(4)、該発熱体(4)を支持するための支持部(5)及び支持脚(6)を有する発熱体支持台(7)」は、本件発明2における「発熱体を備えた加熱装置」と差異がなく、甲第2号証の1に記載された発明においても殺虫液が収容された容器と、発熱体を備えた加熱装置とは、それぞれ部品として組み合わせてセットで使用されるものであり、セットとされたものは、本件発明2でいう加熱蒸散型殺虫装置用キットに相当するから、甲第2号証の1に記載された発明と本件発明2との間に、実質的な差異はない。したがって、本件発明2は、甲第2号証の1に記載された発明である。

(本件発明3)
本件発明3と上記甲第2号証の1に記載された発明とを対比すると、(本件発明1)と同様の理由により、両者は、「殺虫剤を収容し吸液芯の一部を浸漬して該芯に殺虫液を吸液させ、表面温度が70〜150℃の発熱体にて上記芯上部を表面温度が60〜135℃となる温度に間接加熱することにより殺虫液を蒸散させるためのものであって、BHT等の化合物を使用するもの」である点で一致し、本件発明3においては、該BHT等の化合物について、これらの化合物の少なくとも1種を有効成分とする蒸散性持続化剤という特定がされているのに対し、甲第2号証の1に記載された発明においては、このような特定がなされていない点でのみ、一応相違する。
しかしながら、上記摘記事項(ケ)によれば、第2表から、BHT等の化合物を配合した例の方がそうでない例に比べて、長時間蒸散が持続をしていることは明らかであって、また、その説明である摘記事項(コ)においても、「向上された揮散量を持続発現させ得る」旨、記載されているのであるから、甲第2号証の1においても、BHT等の化合物は、これを使用することで、蒸散を長時間持続させるところのもの、即ち、蒸散性持続化剤としての作用をなすものと認められるから、この点に、実質的な差異はない。したがって、本件発明3は、甲第2号証の1に記載された発明である。

以上のとおり、本件発明1〜3は、甲第2号証の1に記載された発明である。

(3)特許法第29条第2項について

本件発明2、3と甲第2号証の1に記載された発明との一応の相違点は上記(2)に記したとおりであるところ、これらの相違点について、容易性の面からも検討する。

(本件発明2)
甲第2号証の1には、「加熱蒸散型殺虫装置用キット」という用語は記載されていない。しかし、甲第2号証の1に、吸液芯が挿入され殺虫剤液が収容された容器と、発熱体を備えた加熱装置が記載され、これらを組み合わせて用いるものであることも該甲号証中に記載されているのであるから、該容器と該加熱装置を組み合わせて「キット」として提供することは、当業者が容易になしうるところと認められる。

(本件発明3)
甲第2号証の1には、「蒸散性持続化剤」という用語は記載されていない。しかし、甲第2号証の1には、「向上された揮散量を持続発現させ得る」旨、記載されており、このような効果を発揮させているのはBHT等の化合物であることは明らかであるから、BHT等の化合物の該側面を捉えて「蒸散性持続化剤」とすることは、当業者が容易になしうるところと認められる。

また、本件発明2、3の効果も、甲第2号証の1に記載された効果と差異がないから、上記の相違点を有することにより格別の効果を奏するようになった、とすることもできない。

以上のとおり、本件発明2、3は、甲第2号証の1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

さらに、被請求人の答弁及び被請求人の提出した乙第1〜4号証を検討しても、上記当審の判断(第5.2.(2)及び(3))に変わりはない。

第6.むすび

以上のとおり、本件発明1〜3は、特許法第29条第1項あるいは同法同条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件発明1〜3に係る特許は、平成5年改正法による改正前の特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-11-19 
結審通知日 2001-11-22 
審決日 2001-12-05 
出願番号 特願平6-211585
審決分類 P 1 112・ 121- Z (A01N)
P 1 112・ 113- Z (A01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柿沢 恵子平山 孝二脇村 善一一色 由美子  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 佐藤 修
西川 和子
関 美祝
後藤 圭次
登録日 1997-12-19 
登録番号 特許第2729357号(P2729357)
発明の名称 吸液芯付容器、加熱蒸散型殺虫装置用キット及びこれらに用いる蒸散性持続化剤  
代理人 萼 経夫  
代理人 三輪 拓也  
代理人 小松 勉  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 中村 壽夫  
代理人 吉原 省三  
代理人 加藤 勉  
代理人 松本 操  
代理人 赤尾 直人  
代理人 佐木 啓二  

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