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審決分類 審判 一部無効 1項2号公然実施 無効とする。(申立て全部成立) E04D
管理番号 1102681
審判番号 審判1999-35097  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-08-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-03-02 
確定日 2004-09-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第2126906号発明「各種建造物屋上の建設工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2126906号の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 〔1〕手続の経緯
本件特許第2126906号は、昭和62年2月20日に出願され、平成7年3月8日に出願公告(特公平7-21231号公報)され、平成9年2月10に特許権の設定登録がなされ、その後、平成11年3月2日に本件無効審判が請求され、平成12年7月3日付けで無効理由通知がなされ、これに対し、被請求人は平成12年9月12日付けで意見書を提出している。

〔2〕本件発明
本件特許第2126906号の発明の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の第1項及び第2項に記載されたとおりのものと認められるところ、その第1項に記載された発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりである。
「コンクリート等の基礎体5からなる屋上周囲の各立上り部1と床面2との上面に、耐震性、防水性、緩衝性としての機能を有するゴムアスファルト材等からなり各種建造物屋上のコンクリート等の基礎体5に惹起したクラックの他部分への波及防止機能を有するクラック防止層7を接着又は塗布する工程と、前記クラック防止層7の上面に、FRP防水材等又はこれに類する適宜材からなり防水機能を有すると共に保護層としての機能を有する防水層11を塗布又は吹付ける工程とを有することを特徴とする各種建造物屋上の建設工法。」

〔3〕請求人の主張
請求人は、「特許第2126906号の特許請求の範囲第1項に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、次の3つをあげ、概ね次のように主張している。
無効理由1:本件発明は、本件特許の出願前に日本国内において公然実施をされた発明であり、特許法29条1項2号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由2:本件発明は、本件特許の出願前に日本国内において公然知られた発明であり、特許法29条1項1号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由3:本件発明は、本件特許の出願前に日本国内において公然実施をされ、又は公然知られた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
また、請求人は平成12年3月1日付けで、証人斎藤昇に対する証人尋問を申請している。
そして、請求人は以下の証拠を提出している。
甲第1号証:礒部佳宏氏作成の証明書(写真添付)
甲第2号証:辻恵市氏作成の証明書(出張報告書添付)
甲第3号証:斎藤昇氏作成の証明書
甲第4号証:大成技研工業株式会社「会社経歴書」(写)(会社経歴書 A)
甲第5号証:大成技研工業株式会社「会社経歴書」(写)(会社経歴書 B)
甲第6号証:武田耕治氏作成の証明書
甲第7号証:倉升哲朗氏と岩泉秀徳氏との作成になる証明書(写真添付)
甲第8号証:弁理士柳川泰男作成の証明書(写真添付)
甲第9号証:今岡孝治氏作成の分析証明書
甲第10号証:本件特許の対象となった特許出願の願書(写し)
甲第11号証:武田耕治氏作成の証明書
甲第12号証:宇部興産株式会社所有の売掛台帳のうち、昭和61年9月 の第一商工株式会社宛ての売掛台帳の写し
甲第13号証:武田共同ビル改修工事工事請負契約書の写し
甲第14号証:株式会社奥村工務店から提出された見積書の要部の写し
甲第15号証:株式会社川島隆太郎建築事務所から提出された設計書の要 部
甲第16号証:工事完成届の写し

〔4〕被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、概ね、以下のように反論している。
請求人が提出した各甲号証からは、タケダビルの防水工事が具体的にどのように行われたのかが明らかにされておらず、さらに工事の性格や、各甲号証に関わる人々が第三者であることも立証されておらず、本件発明は、公然実施をされた発明でも、公然知られた発明でもなく、また、公然実施をされた発明又は公然知られた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
そして、請求人は以下の証拠を提出している。
乙第1号証:UBE防水シート「RAシート」の総合カタログ
乙第2号証:UBE防水シート「保温・保冷用防湿シート」GR・GAシ リーズの製品カタログ
乙第3号証:有限会社アメックの会社登記簿謄本
乙第4号証:株式会社アメックの会社登記簿謄本
乙第5号証:株式会社ユービーイー科学分析センターの履歴事項全部証明 書
乙第6号証:宇部興産株式会社の第93期有価証券報告書
乙第7号証:防水ジャーナル 1995年 2月号 69〜71頁

〔5〕平成12年7月3日付けで通知した無効理由
1.証人尋問
平成12年3月28日に、甲第3号証に関連して職権で、特許庁大審判廷において行われた証人斎藤昇に対する証人尋問における証人の証言によると、以下の事実が認められる。
(1)証人は、個人で防水工事業をしていた昭和61年頃、奥村工務店を元請けとして、大成技研工業から、タケダビルの防水工事を材料支給の手間請けで受注した。
(2)このタケダビルの防水工事は、新しい工法を採用するための試験としての工事ではなく、通常の工事として請けた。
(3)証人は、以前から大成技研工業の小野順一から、防水工事の指導を受けており、今回のタケダビルの防水工事の内容に関して、小野順一から特に指示はなかった。また、小野順一から、工事内容について、秘密保持に関する指示は特になかった。
(4)工事期間は、約2ヶ月で、昭和61年10月初旬から同年11月末であった。
(5)証人は、工事の指揮、監督を行い、工事期間中、1日1回は、現場に行った。
(6)防水工事の内容は、次の工程からなっていた。
a.屋上周囲の立上り部と床面の防水シート敷設予定部にアスファルト系プライマーを塗布する工程。
b.宇部興産株式会社製のアルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシート(「RAシート」と呼んでいた。)を、裏面の剥離紙をとって、プライマー塗布面に貼る工程。
c.硬化性ポリエステル樹脂を下塗りし、ガラスマットをのせ、硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させる工程。
d.カラーの入った化粧剤(トップコート)を塗る工程。
(7)工程aでプライマーを塗布するのは、RAシートの接着強度を上げるためである。RAシートは裏面に接着層を有しているが、コンクリート表面に直接貼ってもつきにくい。
(8)工程bのRAシートは、幅が1メートル、長さが約20メートル、厚さが1ミリ前後であった。
(9)工程cのガラスマットは、幅が1メートル15前後、長さが約60メートル、厚さが2ミリ前後、目付が370番と430番の2種類あり、3ミリぐらいの繊維が不規則に並んでいた。

2.公然実施をされた発明
以上の認定した事実によると、
「屋上周囲の立上り部と床面との上面に、アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシートを接着する工程と、アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシートの上面に、ガラスマットをのせ、硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させる工程とを有する建造物屋上の防水工法」(以下、「認定発明」という。)が、本件特許の出願前に日本国内において公然実施をされていたことが認められる。

3.本件発明と認定発明との対比・判断
本件発明と認定発明とを対比すると、認定発明の「アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシート」及び「建造物屋上の防水工法」は、それぞれ本件発明の「ゴムアスファルト材からなる層」及び「各種建造物屋上の建設工法」に相当する。
また、認定発明の「ガラスマットをのせ、硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させる」は、本件発明の「FRP防水材からなり防水機能を有する防水層を塗布する」に相当する。さらに、建造物の屋上の基礎体をコンクリートで形成することは普通に行われていることであるから、両者は、
「コンクリート等の基礎体からなる屋上周囲の各立上り部と床面との上面に、ゴムアスファルト材からなる層を接着する工程と、ゴムアスファルト材からなる層の上面に、FRP防水材からなり防水機能を有する防水層を塗布する工程とを有する各種建造物屋上の建設工法。」
である点で一致し、次の点で一応相違している。
相違点1
ゴムアスファルト材からなる層が、本件発明では、耐震性、防水性、緩衝性としての機能を有するゴムアスファルト材からなり各種建造物屋上のコンクリート等の基礎体に惹起したクラックの他部分への波及防止機能を有するクラック防止層であるのに対し、認定発明では、そのような機能を有するクラック防止層であるのか明らかではない点。
相違点2
防水層が、本件発明では、保護層としての機能を有するのに対し、認定発明では、そのような機能を有するのか明らかではない点。
まず上記相違点1について検討する。
認定発明における「アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシート」は、ゴムアスファルトを材料としているから、ゴムアスファルトが本来有している防水、緩衝の機能を当然有していると考えられる。また、本件発明では、明細書の「地震等の震動発生時の際、震動がクラック防止層にて緩衝され吸収されることになるので、振動がこれ以外の各部に波及して亀裂等が惹起されるのを防止することが可能となる。」(平成8年9月25日付け手続補正書4頁16〜18行、公報補2頁右欄4〜8行)との記載によると、クラック防止層による地震発生時の震動の緩衝や吸収によって、震動が各部に波及して、亀裂が惹起されるのを防止し、コンクリート等の基礎体にクラックが惹起した場合には、クラックが他部分へ波及するのを防止すると解されるところ、認定発明における「アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシート」は、上記の緩衝の機能を有することに加えて、ゴムアスファルトが本来有する震動の吸収の機能も有していると考えられるから、認定発明における「アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシート」は、耐震の機能を有するとともに、コンクリート等の基礎体に惹起したクラックが他部分へ波及するのを防止する機能を有していると考えられる。
そうすると、相違点1における本件発明の構成は、ゴムアスファルト材の層が有している機能を表現したにすぎないものであって、その機能を明示していない認定発明と本件発明とに、実質的な相違があるとすることはできない。
次に相違点2について検討すると、認定発明における防水層は、硬化性ポリエステル樹脂がガラスマットに含浸し硬化性ポリエステル樹脂により覆われた状態になっていると考えられるから、保護層としての機能を有していると解される。 そうすると、相違点2における本件発明の構成も、FRP防水材からなる防水層が有している機能を表現したにすぎないものであって、その機能を明示していない認定発明と本件発明とに、実質的な相違があるとすることはできない。
したがって、本件発明は、本件特許の出願前に日本国内において公然実施をされた発明であり、特許法29条1項2号に該当し、特許を受けることができないものである。

〔6〕意見書における被請求人の主張に対して
平成12年9月12日付けの意見書において、被請求人は、概ね次のように主張している。
(1)証人斎藤昇氏に対する証人尋問における認定(6)c.の「硬化性ポリエステル樹脂を下塗りし、ガラスマットをのせ、硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させる工程。」は、同じく斎藤昇氏の作成に係る甲第3号証における証明事項と食い違いがある、即ち、「硬化性ポリエステル樹脂を下塗りし」の工程を加えて、本件発明の内容に一致させているから、タケダビルの防水工事では、斎藤氏によって防水層の塗布が行われていなかったことが推測され、クラック防止層への防水層の塗布を構成要件とする本件発明と認定発明とは、防水層の塗布工程において構成が全く異なる。(4頁下から6行〜7頁5行)
(2)証人尋問における証言を証拠として採用することは、平成11年3月2日付けで行われている本件審判請求においては、特許法131条2項に規定する要旨変更にあたり、認められない。(7頁6〜14行)
まず、(1)の主張について検討すると、証人斎藤昇氏の証言によれば、RAシートを床面に貼り付けたあと、その上に直にガラスマットを載せてもつかないので、普通、必ず下塗りをする、とのことであり、甲第3号証に記載のない「硬化性ポリエステル樹脂を下塗りし」の工程が加わっていることで、防水工事の技術的な内容が格別変更されているとは考えられない。そして、上記〔5〕3.「本件発明と認定発明との対比・判断」に記載したように、認定発明の「ガラスマットをのせ、硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させる」は、本件発明の「FRP防水材からなり防水機能を有する防水層を塗布する」に相当するといえるのであるから、請求人の主張は採用できない。
次に、(2)の主張について検討すると、斎藤昇氏に対する証人尋問は、甲第3号証に関連して、職権で行われたものであり、その証人尋問における証言から、上記〔5〕1.に記載した事実が認められ、さらに、2.に記載した発明が本件特許の出願前に日本国内において公然実施をされていたことが認められたので、本件発明は、この公然実施をされていた発明であるから特許を受けることができないものであり、本件発明についての特許を無効とすべきであるという趣旨の無効理由を、平成12年7月3日付けで通知し、これに対し意見を申し立てる機会を与えたものであるから、請求人の主張は採用することができない。

〔7〕むすび
以上のとおりであるから、他の無効審判請求の理由を検討するまでもなく、本件発明についての特許は、特許法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-02-01 
結審通知日 2001-02-13 
審決日 2001-02-28 
出願番号 特願昭62-37235
審決分類 P 1 122・ 112- Z (E04D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐田 洋一郎山田 忠夫新井 夕起子  
特許庁審判長 幸長 保次郎
特許庁審判官 鈴木 公子
宮崎 恭
登録日 1997-02-10 
登録番号 特許第2126906号(P2126906)
発明の名称 各種建造物屋上の建設工法  
代理人 辻田 幸史  
代理人 清水 善廣  
代理人 柳川 泰男  
代理人 阿部 伸一  

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