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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1102698
審判番号 不服2002-19547  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-07 
確定日 2004-09-08 
事件の表示 特願2000-210057「眼の発達の治療及び制御」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月27日出願公開、特開2001- 81046〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成2年6月14日(パリ条約による優先権主張、平成1年6月21日及び平成2年5月11日、米国)に出願された特願平2-510112号の一部を平成12年7月11日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明は、平成15年11月27日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。(以下、「本願発明」という。)

「成熟期動物の眼の異常な出生後軸生長を、動物の出生後の成熟期間に阻止するための薬剤であって、治療上有効な量の比較的脳、神経組織及び/又は神経節の細胞におけるM1 コリン作動性レセプターをブロックする事に選択的であるが、眼の前方における平滑筋の細胞におけるM3 コリン作動性レセプターをブロックする事にはもっと弱い選択性を有し、M3 平滑筋レセプターに対するよりも少なくとも5倍大きいM1 レセプターに対する親和性を有する、かつ、前記眼の異常な出生後軸生長を阻害するのに有効で、3環化合物であるムスカリン薬理学的アンタゴニストを含む(但し、ピレンゼピン及びテレンゼピンを除く)薬剤。」

2.当審における拒絶理由
これに対して、当審における、平成15年5月22日付け拒絶の理由は、以下の(1)、(2)の理由により本願明細書の記載が特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないというものである。
(1)請求人が、眼の異常な出生後軸生長を阻害するための薬剤として有効であることを具体的に示したのは、本願明細書中で実施例として記載したピレンゼピン及び平成14年3月18日付け意見書の添付資料1として示したテレンゼピンのみであり、このような2つの化合物の実験結果のみを根拠として、多種多様な化合物を含みうる本願発明のムスカリン性アンタゴニスト全体が、上記薬理作用を奏すると解することはできない。
(2)本願発明のムスカリン性アンタゴニストは、本願出願時、技術常識であったとは認められず、どのような化合物が本願発明のアンタゴニストに該当するのかを確認することは、当業者に過度の負担を要求するものであるから、本願発明について、発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえない。

3.当審の判断

(1)本願発明は、「比較的脳、神経組織及び/又は神経節の細胞におけるM1 コリン作動性レセプターをブロックする事に選択的であるが、眼の前方における平滑筋の細胞におけるM3 コリン作動性レセプターをブロックする事にはもっと弱い選択性を有し、M3 平滑筋レセプターに対するよりも少なくとも5倍大きいM1 レセプターに対する親和性を有する、かつ、前記眼の異常な出生後軸生長を阻害するのに有効で、3環化合物であるムスカリン薬理学的アンタゴニスト(但し、ピレンゼピン及びテレンゼピンを除く)」により、「成熟期動物の眼の異常な出生後軸生長を、動物の出生後の成熟期間に阻止する」ものである。

本願発明において用いられる「3環化合物」は、通常3環式化合物であると解されるところ、これには、狭義の「3つの環が縮合した構造の化合物」と、広義の「分子内に3個の環式構造を含む化合物」の意味があるが、本願明細書には、何らその構造の定義はなされていない。しかし、これを狭義の意味に解しても、環を構成する元素が炭素の場合と窒素、酸素、硫黄等種々のヘテロ原子の場合とを包含し、また、環についている置換基の種類や、環構造(脂環か芳香環か,何員環か)によっても全く異なった構造及び性質の化合物となることは技術常識から明らかである。一方、本願明細書において上記薬理作用を奏する具体的化合物として示されたピレンゼピン及びテレンゼピンはいずれも置換基としてピペラジニルアセチル基を有するベンゾジアゼピン骨格の縮合3環式の化合物にすぎず、このような特定の置換基や縮合環構造からなる化合物と、置換基及び環構造の規定のない広範囲の化合物を包含する3環化合物とが化学的に同一の基本骨格を有する化合物であるとする化学的常識はない。その上、同じ基本骨格を有している化合物であっても、置換基の違いにより薬理作用が大きく異なることは医薬の分野においてしばしば経験されることであり、ピレンゼピン及びテレンゼピンと基本骨格の全く異なる多種多様な化合物群を包含する本願発明の3環化合物全体が、これらの化合物と同じ薬理作用を有すると当業者は理解することはできない。
本願明細書の実施例には、4-DAMP(非縮合型の3環式化合物であり、ピレンゼピンとは異なる親和性プロフィルを有するムスカリンアンタゴニスト)とピレンゼピンが対比され、ピレンゼピンが請求項1に規定される特定の選択的ムスカリン薬理学的アンタゴニスト(M1 ムスカリン薬理学的アンタゴニスト)としての性質を有することが示されているが、この実験結果にしても、直ちに、縮合3環式化合物であるM1 ムスカリン薬理学的アンタゴニスト全体が、「成熟期動物の眼の異常な出生後軸生長を、動物の出生後の成熟期間に阻止する」薬理作用を有することを裏付けるものではなく、また、該M1 ムスカリン薬理学的アンタゴニストが、上記薬理作用を有するとする合理的な理論が出願時の技術常識であったとも認められないから、当業者といえども、本願発明の3環化合物であるM1 ムスカリン薬理学的アンタゴニスト全体が、上記薬理作用を奏すると理解することはできない。

請求人は、平成15年11月27日付け意見書において、本願発明のM1 ムスカリン薬理学的アンタゴニストは、本願明細書の実施例及び平成14年3月18日提出の意見書の添付資料1に薬理作用が確認されたピレンゼピン、テレンゼピンと同一の基本骨格を有する化合物である「3環化合物」に限定されたから、本願発明のアンタゴニストが、「成熟期動物の眼の異常な出生後軸生長を、動物の出生後の成熟期間に阻止する」というピレンゼピン等と共通の薬理作用を有することを当業者は十分に理解できた旨主張するが、上記のとおりであるから、かかる主張は採用できない。
また、請求人は審査段階及び当審において各種資料(添付書類1〜6及び平成16年3月18日付けFAXに添付の資料)を提出しているが、いずれも上記判断を左右するに足るものではない。

(2)上記(1)で指摘したとおり、本願発明のM1ムスカリン薬理学的アンタゴニストが本願出願時において当業者の技術常識であったとは認めらないにもかかわらず、本願明細書において具体的にあげられているのは、ピレンゼピン、テレンゼピン及びo-MeSiHCの3種のみであり、このうち、実際に薬理作用が示された前2者は本願発明から除外されており、後者については、そのような薬理作用を有することの技術的な裏付けがなされていない。
してみると、本願請求項1に記載の眼の異常な出生後軸生長を阻止するのに有効なムスカリン薬理学的アンタゴニスト化合物は、既存の無数の縮合3環式化合物について、レセプターに対する親和性を試験し、その眼の軸成長に対する薬理作用を確認することによってはじめて得ることができるものであって、この試験、確認作業は当業者に過度の負担を要求するものと認められる。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が容易に本願発明の実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているものとはいえないから、本願は、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-03-23 
結審通知日 2004-03-24 
審決日 2004-04-27 
出願番号 特願2000-210057(P2000-210057)
審決分類 P 1 8・ 531- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 聖子岩下 直人  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 渕野 留香
松浦 新司
発明の名称 眼の発達の治療及び制御  
代理人 永田 豊  
代理人 松倉 秀実  
代理人 遠山 勉  
代理人 川口 嘉之  

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