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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02K
管理番号 1102868
異議申立番号 異議1997-76221  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1986-07-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 1997-12-26 
確定日 2004-09-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第2639521号「無集電子三相直流電動機」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2639521号の特許請求の範囲第1項、第20項に記載された発明についての特許を取り消す。 
理由 1.本件特許発明
本件特許2639521号の第1の発明と第2の発明(昭和61年1月9日出願、平成9年5月2日設定登録。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1、20に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】(a)互いに相対的に可動の永久磁石装置と三相巻線とを有し、
(b)巻線に対し相対的に静止し永久磁石装置によって制御される位置検出手段を備えると共に、電気角180゜の間は第1電位にあり次の電気角180゜の間は第2電位にある位置検出信号に基づき導出される制御信号を供給する制御信号生成段を有し、
(c)巻線コイルは互に電気角略120゜ずれた該制御信号に依存して周期的な順列の電流によって付勢され、
(d)巻線コイルの個々のコイルには電気角略120゜ずれた誘起電圧が永久磁石装置の磁極により誘起され、この誘起電圧は零点の通過によって交互に電気角最大180゜の間は正であり電気角最大180゜の間は負であり、その合計は磁石装置と巻線との間の実質的にすべての相対角度位置に対して実質的に零に等しく、
(e)該誘起電圧は零点通過に際して実質的に零レベルにある区間を形成するよう構成され、
(f)前記制御信号生成段は、関連するコイル誘起電圧が実質的に零レベルにある前記区間内において制御信号の状態変化が生じるように巻線コイルに関連して制御信号を出力するよう構成され、該制御信号に関連して導出された駆動電圧によって、巻線コイルが巻線駆動段を介して付勢されることを特徴とする無集電子三相直流電動機。
【請求項20】少くとも1つの記憶ディスクを収容するハブと、ハブを駆動する無集電子直流電動機とを備えたディスク駆動装置を有するディスク記憶装置であって、
(a)互いに相対的に可動の永久磁石装置と三相巻線とを有し、
(b)巻線に対し相対的に静止し永久磁石装置によって制御される位置検出手段を備えると共に、電気角180゜の間は第1電位にあり次の電気角180゜の間は第2電位にある位置検出信号に基づき導出される制御信号を供給する制御信号生成段を有し、
(c)巻線コイルは互に電気角略120゜ずれた該制御信号に依存して周期的な順列の電
流によって付勢され、
(d)巻線コイルの個々のコイルには電気角略120゜ずれた誘起電圧が永久磁石装置の磁極により誘起され、この誘起電圧は零点の通過によって交互に電気角最大180゜の間は正であり電気角最大180゜の間は負であり、その合計は磁石装置と巻線との間の実質的にすべての相対角度位置に対して実質的に零に等しく、
(e)該誘起電圧は零点通過に際して実質的に零レベルにある区間を形成するよう構成され、
(f)前記制御信号生成段は、関連するコイル誘起電圧が実質的に零レベルにある前記区間内において制御信号の状態変化が生じるように巻線コイルに関連して制御信号を出力するよう構成され、該制御信号に関連して導出された駆動電圧によって、巻線コイルが巻線駆動段を介して付勢されることを特徴とするディスク記憶装置。」
にあるものと認める。
2.引用した刊行物
これに対して、当審が通知した取消理由において引用した刊行物1(特開昭56-121360号公報)には、
「この制御回路による前記固定子巻線への転流が、前記無電圧区間内で行われる様なしたことを特徴とする」(刊行物1の第1頁下左欄第13〜15行目)、
「従って、固定子巻線への通電は、スイッチングによる転流を誘起電圧が最も小さい地点で行わなければ、スイッチング用トランジスタのサージ等による損失が大きくなり、出力の低下も著しい。 ゆえに、第5図に示される様に、誘起電圧がほぼ零となり電動機出力にもほとんど悪影響を及ぼさない区間α内で転流が行われる様に構成されるのが一般的であるが、」(刊行物1の第1頁下右欄第6〜13行目)、
「スロットの継鉄部分4にコイル5が巻き回されてトロイダル状に三相固定子巻線U,V,Wが施されている。6は永久磁石を有する回転子であり、7は回転位置を検出するべく回転子6の外周に沿って配設されるホール素子等の位置検出素子である。」(刊行物1の第2頁上右欄第10〜15行目)、
「第2図において、固定子巻線U,V,Wの一端は夫々Y接続されている。NPN型のトランジスタQ1,Q2,Q3とPNP型のトランジスタQ4,Q5,Q6は、トランジスタQ1,Q4のコレクタ同志、トランジスタQ2,Q5のコレクタ同志、トランジスタQ3,Q6のコレクタ同志を夫々接続し、夫々の接続点に固定子巻線U,V,Wの他端が接続されている。夫々のトランジスタQ1〜Q6は位置検出素子7による回転子6の位置検出信号に応じて順次駆動され、夫々の固定子巻線U,V,Wに全波通電を行う様になされている。」(刊行物1の第2頁上右欄第16行目〜同頁下左欄第7行目)、
「以下同様に回転子6を60°づつ回転させることにより、(a)〜(f)において、W→V→U→W→V→Uの順に、誘起電圧が発生しない無電圧区間βが生じる。
従って、夫々の固定子巻線U,V,Wの転流角はこの無電圧区間β内に設定すればよく、無電圧区間βは約60°(=±30°)の幅を有することから転流角の許容範囲が大幅に拡大されることになる。
そして、夫々の固定子巻線U,V,WをY結線し、かつ全波通電を行うよう構成することにより、通電のタイミングに応じて夫々の固定子巻線U,V,Wに、無電圧区間βを有する誘導電圧が発生する様なすことができる。
そして、この時、位置検出素子7の配置の機械角、あるいは位置検出素子7の出力信号の調節により、無電圧区間β内に転流角を設定すればよい。
」(刊行物1の第2頁下右欄第5行目〜第3頁上左欄第1行目)、
「第4図にトランジスタQ1〜Q6の駆動信号(ただし、Q4〜Q6については反転して示している)、固定子巻線U,V,Wへの通電電流U1,V1,W1および誘起電圧U2,V2,W2のタイムチャートを示している。
以上の構成によれば、回転子6の回転により夫々の固定子巻線U,V,Wに誘起される誘起電圧のうち、誘起される電圧がほぼ零である無電圧区間βが約60°の幅を有するように構成できるため、スイッチング通電の転流角の設定が極めて簡単になる。」(刊行物1の第3頁上左欄第2〜12行目)、
「さらに、無電圧区間βが広く、転流角設定に好適な許容範囲が拡大されるため、負荷の変化に応じた電機子反作用による誘起電圧の位相のずれに対して、機械的あるいは電気的操作を加えて転流角を移動させる必要がなく、転流角を一定位置に固定したままで、第7図に示される様に、トルク変動に対して変動の少ない高効率を維持することができる。」(刊行物1の第3頁上左欄第17行目〜同頁上右欄第4行目)と記載されている。
さらに、刊行物1の第1図には無刷子電動機の固定子の形状が、第2図にはその制御回路図が、第3図には誘起電圧の発生状態の説明図が、第4図には運転に係わるタイムチャート図が、第5図には従来の構造に係る固定子巻線の誘起電圧波形と転流角との関係を示す図が示されている。
これらの記載からみて刊行物1には次のことが記載されているものと認められる。
「スロット継鉄部分4にコイル5が巻き回されてトロイダル状に三相固定子巻線U,V,Wと、永久磁石を有する回転子6とを有し、
回転位置を検出するべく回転子6の外周に沿って配設されるホール素子等の位置検出素子7を有し、
固定子巻線U,V,Wの一端は夫々Y接続され、他端は、NPN型のトランジスタQ1,Q2,Q3とPNP型のトランジスタQ4,Q5,Q6とのコレクタ同士の接続点が接続され、
夫々のトランジスタQ1〜Q6は位置検出素子7による回転子6の位置検出信号に応じて順次駆動され、夫々の固定子巻線U,V,Wに全波通電を行う、
固定子巻線U,V,Wへの通電電流U1,V1,W1は、互いに電気角略120°ずれた周期的な電流によって付勢され、
固定子巻線U,V,Wには誘起電圧U2,V2,W2が電気角で120°ずれて誘起され、
回転子6の回転により夫々の固定子巻線U,V,Wに誘起される誘起電圧のうち、誘起される電圧がほぼ零である無電圧区間βが約60°の幅を有するように構成され、
夫々の固定子巻線U,V,Wの転流角はこの無電圧区間β内に設定すればよく、無電圧区間βは約60°(=±30°)の幅を有し、
夫々の固定子巻線U,V,WをY結線し、かつ全波通電を行うよう構成することにより、通電のタイミングに応じて夫々の固定子巻線U,V,Wに、無電圧区間βを有する誘起電圧が発生することができ、
そして、位置検出素子7の配置の機械角、あるいは位置検出素子7の出力信号の調節により、無電圧区間β内に転流角を設定できる、
無刷子電動機。」
《第1の発明について》
3.対比
そこで、本件請求項1に記載された第1の発明(特許請求の範囲第1項に記載された発明)と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1の「永久磁石を有する回転子」、「三相固定子巻線」、「位置検出素子」、「駆動信号」、「無電圧区間」、「トランジスタQ1〜Q6」、「無刷子電動機」は、本件第1の発明の「永久磁石装置」、「三相巻線」、「位置検出手段」、「制御信号」、「実質的に零レベルにある区間」、「巻線駆動段」、「無集電子三相直流電動機」に相当すると認められるので、両者は
「(a)互いに相対的に可動の永久磁石装置と三相巻線とを有し、
(b)巻線に対し相対的に静止し永久磁石装置によって制御される位置検出手段を備えると共に、位置検出信号に基づき導出される制御信号を供給し、
(c)巻線コイルは互に電気角略120゜ずれた該制御信号に依存して周期的な順列の電流によって付勢され、
(d)巻線コイルの個々のコイルには電気角略120゜ずれた誘起電圧が永久磁石装置の磁極により誘起され、
(e)該誘起電圧は零点通過に際して実質的に零レベルにある区間を形成するよう構成され、
(f)関連するコイル誘起電圧が実質的に零レベルにある前記区間内において制御信号の状態変化が生じるように巻線コイルに関連して制御信号を出力するよう構成され、該制御信号に関連して導出された駆動電圧によって、巻線コイルが巻線駆動段を介して付勢されることを特徴とする無集電子三相直流電動機。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
相違点1.本件第1の発明は、電気角180゜の間は第1電位にあり次の電気角180゜の間は第2電位にある位置検出信号に基づき導出される制御信号を供給する制御信号生成段を有しているのに対して、刊行物1には、そのような制御信号生成手段については記載されていない点。
相違点2.本件第1の発明において、誘起電圧は零点の通過によって交互に電気角最大180゜の間は正であり電気角最大180゜の間は負であり、その合計は磁石装置と巻線との間の実質的にすべての相対角度位置に対して実質的に零に等しいのに対して、刊行物1には、そのように明記されていない点。
4.当審の判断
そこで、上記相違点を検討すると、
相違点1について、
一般的に、ホール素子と、永久磁石を用いて位置検出を行うと、磁石のNとSに応じた信号がホール素子から出力されるのは周知のことであるから、刊行物1の第2頁上右欄第13〜15行目に「7は回転位置を検出するべく回転子6の外周に沿って配設されるホール素子等の位置検出素子である。」と記載され、また、3図の誘起電圧の発生状態の説明図において、回転子がN,Sの2極で構成されている点から、刊行物1における位置検出素子(ホール素子)からは、電気角180°の間は第1の電位にあり次の電気角180°の間は第2の電位にある位置検出信号が出力されるものと認められる。
また、刊行物1の第2頁下左欄第3〜7行目に「夫々のトランジスタQ1〜Q6は位置検出素子7による回転子6の位置検出信号に応じて順次駆動され、夫々の固定子巻線U,V,Wに全波通電を行う様になされている。」と、
刊行物1の第2頁下右欄第19行目〜第3頁上左欄第1行目に「位置検出素子7の配置の機械角、あるいは位置検出素子7の出力信号の調節により、無電圧区間β内に転流角を設定すればよい。
第4図にトランジスタQ1〜Q6の駆動信号(ただし、Q4〜Q6については反転して示している)、固定子巻線U,V,Wへの通電電流U1,V1,W1および誘起電圧U2,V2,W2のタイムチャートを示している。」と記載されており、位置検出素子の検出信号に基づきトランジスタQ1〜Q6が制御されていることが記載されている。
また、無整流子電動機の制御装置において、位置検出信号を入力して、巻線駆動手段を駆動するための信号を出力する制御手段を設けることは周知慣用のことであるから、刊行物1において、位置検出素子の出力から、トランジスタQ1〜Q6の駆動信号を作成するにあたり、本件発明のように、電気角180゜の間は第1電位にあり次の電気角180゜の間は第2電位にある位置検出信号に基づき導出される制御信号を供給する制御信号生成段を設けることは当業者が容易に推考することができることと認められる。
相違点2について、
刊行物1における、誘起電圧は第4図のU2,V2,W2で示されている。例えばU2は最初の電気角120°の間は負であり、次の電気角60°の間は無電圧区間であり、次の電気角120°の間は正であり、次の電気角60°の区間は無電圧区間であるものが示されている。
本件発明の詳細な説明にも、本件特許公報第7欄第35〜39行目に「個々の磁極による誘起コイル電圧(逆起電力)は、3段階段状電圧であり、電気角約120°の間は正であり、電気角約60°の間は零に等しいか又は殆ど等しく(即ち実質的に零レベル区間を形成し)、電気角120°の間は負であり」と記載されており、また、本件特許公報第10欄第45〜48行目に「各誘起電圧(逆起電力)Ui1,Ui2,Ui3は、電気角約120°の間は正であり、電気角約120°の間は負である。それらの間に電気角約60°の幅の移行区間があり、この間では誘起電圧が著しく減少した値をもち」と記載されている。
このように、刊行物1のものも、本件発明の詳細な説明に記載されたものも、誘起電圧は電気角約120°の間は正であり、電気角約120°の間は負である。それらの間に電気角約60°の幅の移行区間があるものが示されているから、本件発明のものを、「誘起電圧は零点の通過によって交互に電気角最大180゜の間は正であり電気角最大180゜の間は負であり、その合計は磁石装置と巻線との間の実質的にすべての相対角度位置に対して実質的に零に等しく」とするならば、刊行物1のものも、同様に考えることは当業者が容易に推考することができることである。
また、特許権者は、特許異議意見書で、「即ち、刊行物1においては、60°電気角の誘起電圧零区間βはとっいるものの、そのβ区間内で転流を行うことはできず、β区間の両端に合致させて転流タイミングをとる必要がある。かくて、転流点がβ区間の両端から少しでもずれれば、「問題」が発生するはずのものである。」と主張しているが、β区間の両端に合致させて転流タイミングをとる必要があろうとなかろうと、誘起電圧が零レベルにある区間には変わりなく、また、刊行物1では、位置検出素子7の出力信号の調節により、無電圧区間β内に転流角を設定することが記載されているから、このような特許権者の主張は認めることができない。
そして、本件第1の発明は、前記刊行物1のものから予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
《本件第2の発明について》
5.対比
本件請求項20に記載された第2の発明(特許請求の範囲第20項に記載された発明)と刊行物1記載の発明とを対比すると、一致点は上記請求項1に係る発明についてのところで述べたことと同じであり、相違点は上記相違点1、2に加えて、下記の相違点3がある。
相違点3、本件第2の発明が、少くとも1つの記憶ディスクを収容するハブと、ハブを駆動する無集電子直流電動機とを備えたディスク駆動装置を有するディスク記憶装置であるのに対して、刊行物1は、そのようなことが記載されていない点。
6.当審の判断
相違点1、2については、第1の発明のところの判断を参照。
相違点3について、記憶ディスクを収容するハブと、ハブを駆動する無集電子直流電動機とを備えたディスク駆動装置は、例えば特表昭59-501971号公報、特開昭58-22571号公報、特開昭57-16562号公報、特開昭56-3467号公報等により周知であるから、刊行物1のものをディスク駆動装置の電動機とすることは当業者が容易に考えられることと認められる。
そして、本件第2の発明は、前記刊行物1のものから予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
9.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1に記載された第1の発明、および請求項20に記載された第2の発明は、上記刊行物1に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許請求の範囲第1項、第20項に記載された発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当する。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-04-13 
出願番号 特願昭61-1482
審決分類 P 1 651・ 121- Z (H02K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 畑中 博幸  
特許庁審判長 小川 謙
特許庁審判官 藤井 浩
田良島 潔
登録日 1997-05-02 
登録番号 特許第2639521号(P2639521)
権利者 パプスト ライセンシング ゲーエムベーハー
発明の名称 無集電子三相直流電動機  
代理人 加藤 朝道  

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