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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) F16F
管理番号 1102928
判定請求番号 判定2004-60039  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1980-10-15 
種別 判定 
判定請求日 2004-04-30 
確定日 2004-09-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第1381482号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及び判定請求書に示す装置は、特許第1381482号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定請求は、イ号図面及び判定請求書に示す装置(以下、「イ号装置」という。)は、請求人が特許権者である特許第1381482号に係る特許発明の技術的範囲に属する、との判定を求めたものである。

2.本件特許発明
本件特許第1381482号に係る特許発明(以下、「本件特許発明」という。)は、平成11年1月5日付けの訂正請求(甲第11号証参照)が平成11年7月30日付けでされた無効審判審決(平成10年審判第35051号、甲第4号証参照)により認められたので、上記訂正請求により訂正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、その構成要件を分説し記号を付して示すと、次のようになる。
【本件特許発明】
A:A1 過大な振動を生じている構造物に、
A2 緩衝部材を介して振動子を前記構造物の振動方向と一致させ、
A3 前記緩衝部材と前記振動子からなる吸振機の固有振動数が前記構 造物の共振点と一致する振動となるように支持し、かつ、
B: 前記振動子に、前記振動子と振動方向を一致させた振動発生機を連 結した
C: ことを特徴とする消振機。

なお、請求人及び被請求人は、上記構成要件A1〜A3をまとめてAと分説しているが、当審において、対比の便宜のため、構成要件Aを上記のようにさらにA1〜A3に分説した。

3.イ号装置
これに対して、イ号装置は、イ号図面及び判定請求書の記載からみて、以下のとおりのものと認められる。
【イ号装置】
(1)風或いは地震により振動を生じる建物の頂部に、建物を制振する3基の制振装置が設けられている。
(2)各制振装置は、建物に制振装置を固定するための台座と、台座に回転可能に支持された一対のローラと、下側に凸の形態で一対のローラの間に架け渡されたV字形レールと、V字形レールの上面に固定された錘と、一方のローラのローラ軸に連結され、V字形レールと錘とを揺動させる電動モータ及び減速機を有する。
(3)V字形レールは、V字屈曲部の開き角度が調整可能である。この開き角度を変えることにより、V字形レールと錘との全体の重心の揺動軌跡が変わる。すなわちV字形レールと錘との全体の重心の揺動円弧半径が変わり、揺動振動数が変わる。これにより制振装置の揺動振動数と建物の固有振動数とを同調している。
(4)一方のローラと同軸に固定されたピニオンを有し、V字形レールは、その下面にピニオンと噛み合うラックを有する。
(5)電動モータと減速機を正逆回転させることで、ピニオンとラックとの噛み合いによりV字形レールと錘とを一体で揺動させるようにしている。

なお、イ号装置を上記(1)〜(5)からなるものと特定することについては、請求人及び被請求人間に争いはない。(判定請求書、判定事件答弁書では(1)〜(5)は丸付き数字である。)

4.対比及び判断
4-1 対比
本件特許発明とイ号装置とを対比すると、本件特許発明が、「緩衝部材を介して振動子を前記構造物の振動方向と一致させ、」という構成要件A2を有しているのに対して、イ号装置は、「緩衝部材」及び「振動子を構造物の振動方向と一致させること」について明示的に特定されていない点、で少なくとも相違する。
そこで、この点について検討する。
まず、「緩衝部材」について検討するに、本件特許明細書(甲第11号証に添付された訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)を参照)には、上記「緩衝部材」に関して、「11a・・・バネ部(緩衝部材)」(訂正明細書第7頁第12〜13行参照)という記載があるだけである。
そして、「バネ部11a」については、「以下本発明の実施例を図面について説明すると、第4図は本発明の実施例を示す消振機の概略側面図であり、1は振動を発生している船舶2の上部構造で、矢印Aは振動方向を示す。また上部構造1の上部にはローラ10を介して、バネ部11a及び振動子11bよりなる吸振機11が載置されており、これらは矢印Aと同一方向に転動することができるようになつている。
12は上部構造1の上面に設置された吸振機11の支持構造で、バネ8及びダッシュポット9からなる前記バネ部11aを介して前記振動子11bを係止している。なお、バネ部11aの伸縮方向は前記矢印A方向と一致させてある。また振動子11bには、振動発生機(加振機)13が設置されていて、その振動方向も矢印方向と一致させてある。」(同第3頁第3〜12行)と記載されており、本件特許発明の実施例における吸振機11が、バネ部11a及び振動子11bより構成され、これらが構造物である上部構造1の振動方向を表す矢印Aと同一方向に転動することが認められ、さらにバネ部11aがバネ8及びダッシュポット9からなることが認められる。
また、本件特許明細書の第9図には、本件実施例における消振機に係る振動のモデル図が記載されており、該モデル図に関して、「このことを第9図に示す振動子11bとバネ部11a、及びダッシュポット9よりなる一自由度系のバネ-質量モデルを用いて説明する。振動子11bには振動発生機13より生じる起振力Fsが作用しており、この力は上部構造1の振動を減ずる消振力として支持構造12へ伝達される。この伝達力をFsoとすると、伝達率Fso/Fsは一般的な物理現象として第10図のように表わされる。第10図のωは起振力の周波数、nは振動子11bの固有周波数である。」(同第4頁第1〜6行)と記載されており、実施例における吸振機11において、振動子11bとバネ部11a及びダッシュポット9よりなるモデルから振動子11bの固有周波数が定まることが認められる。
そして、本件特許明細書には、「緩衝部材」として、バネ部11a以外には何ら記載されておらず、示唆する記載も認めることができない。
ところで、本件特許発明の構成要件A3では、「前記緩衝部材と前記振動子からなる吸振機の固有振動数が前記構造物の共振点と一致する振動となるように支持し」とされているが、「緩衝部材と前記振動子からなる吸振機」の固有振動数を構造物の共振点と一致させるためには、ダンパー要素と振動子(マス要素)のみでは固有振動数の調整はできないことから、「緩衝部材」がダンパー要素のみからなるということはあり得ない。したがって、当該「緩衝部材」は、固有振動数が定まるためのバネ要素を含んでいることが必要である。
そうしてみると、本件特許発明における「緩衝部材」は「バネ部又はバネ部と同等の機能を有する部材」であると解釈するのが相当である。

なお、このことについては、本件特許発明についての無効審判事件(平成10年審判第35051号)における審判事件答弁書(乙第2号証)において、請求人自身が、「しかしながら、本件特許明細書の図面の簡単な説明の欄には、「11a・・・バネ部(緩衝部材)」と記載されており、「バネ部11a」が『緩衝部材』の意味内容であると一義的、直接的に導き出すに足る明瞭な根拠があるのであるから、万一仮に、当業者が「バネ部11a」という語自体から、これが「緩衝部材」の意味内容であると一義的、直接的に導き出すことができないほど無知であったとしても、請求人の主張は誤りという他はない。」(乙第2号証第3頁第18〜24行参照)と主張している経緯からみても、上記のように解釈することが相当である。

これに対して、イ号装置は、「各制振装置は、建物に制振装置を固定するための台座と、台座に回転可能に支持された一対のローラと、下側に凸の形態で一対のローラの間に架け渡されたV字形レールと、V字形レールの上面に固定された錘と」を有し(イ号装置の構成(2)参照)、「V字形レールは、V字屈曲部の開き角度が調整可能である。この開き角度を変えることにより、V字形レールと錘との全体の重心の揺動軌跡が変わる。すなわちV字形レールと錘との全体の重心の揺動円弧半径が変わり、揺動振動数が変わる。これにより制振装置の揺動振動数と建物の固有振動数とを同調している。」(同構成(3)参照)ものである。
すなわち、イ号装置は、V字形レールの上面に固定された錘を揺動させることにより重力を用いて制振を行わせるものであり、また、錘の揺動円弧半径を変えることにより制振装置の固有振動数を調整するものであるから、バネ部又はバネ部と同等の機能を有する部材を具備するものではない。さらに、錘(振動子)が揺動運動を行うことから、その移動方向は構造物に対して垂直方向の成分を含むものであって、構造物の振動方向と一致するものではない。
そして、上述のとおり、本件特許明細書には、バネ部又はバネ部と同等の機能を有する部材と解される緩衝部材を介して振動子を前記構造物の振動方向と一致させて制振を行う以上のことは記載されておらず、本件特許発明における「緩衝部材」が、重力を用いた制振手段までをも含むとは解することができない。
したがって、イ号装置は、本件特許発明の構成要件A2を充足しない。

ところで、請求人は、上記の点に関して、概略以下a〜cのように主張している。
a.「無効審判(審判平10-35051号)において、審判官合議体は審決書(甲第4号証)において、本件特許発明の緩衝部材について、緩衝緩衝部材をバネ部等と限定した記載にしなければならない特段の理由もない(甲第4号証の第17頁第7行ないし9行)と判断したうえで、請求人が提示した甲第6号証に開示された制振装置の認定に関し、空気室において圧力調整された空気がパッシブダンパの緩衝部材に相当するとの認定(甲第4号証の第23頁第12行ないし14行)を行っている。」(判定請求書第14頁第9〜15行参照)
b.「かくして、構成要件Aの緩衝部材とは、振動子と構造物との間の振動伝達経路中で、バネ要素及び/又はダンパー要素として、構造物に生じている過大な振動に対して緩衝作用を奏する手段として理解すべきである。換言すれば、緩衝部材は、構造物に生じる過大な振動に対する緩衝作用を奏するが、だからといって吸振機の固有振動数を調整する機能を奏しなければならないとはいえないのである。」(同第14頁第16〜20行参照)
c.「付加質量体の移動方向には、少なくとも7割以上、構造物の振動方向と一致した水平方向成分が含まれており、付加質量体は、実質的に構造物の振動方向と一致した振動をしているといえる。よって、イ号装置は、構成要件Aの「振動子を構造物の振動方向と一致させ」件を充足する。」(同第15頁第13〜17行参照)

しかしながら、aの点について、審決書において「緩衝部材をバネ部等と限定した記載にしなければならない特段の理由もない」としたのは、特許請求の範囲における「緩衝部材」の用語が、明細書の発明の詳細な説明にその意味内容が定義されておらず本件特許発明の構成が不明りょうであるとの主張に対して、本件特許発明の構成をなんら不明りょうとするものではない旨を説示したものである。そして、その前段に、「消振機等の防振機構において、『緩衝部材』という用語は、バネ又はバネ及びダッシュポットの組合せ、さらにはそれらと同等なバネ機能を有する部材に対して用いられていることは当業者に認識されており」(甲第4号証第16頁第11〜15行参照)と記載されていることからも、「緩衝部材」が上記「バネ又はバネ及びダッシュポットの組合せ、さらにはそれらと同等なバネ機能を有する部材」以外のものまで含むことを説示したものではない。
また、「空気室において圧力調整された空気」についても、審決書には、「『空気室において圧力調整された空気』(空気の圧力が液体表面にばね力的に作用する。)」(甲第4号証第23頁第2〜4行参照)と記載されており、緩衝部材に相当するのは、あくまでバネ機能を有するものであるとしている。
bの点について、「緩衝部材」が「バネ要素及び/又はダンパー要素として、構造物に生じている過大な振動に対して緩衝作用を奏する手段」と理解すべきとしているが、本件特許発明における「緩衝部材」は、「前記緩衝部材と前記振動子からなる吸振機の固有振動数が前記構造物の共振点と一致する振動となるように支持」(構成要件A3)するものであり、上述のとおり、ダンパー要素とマス要素のみでは固有振動数の調整はできないことから、緩衝部材がダンパー要素のみからなるということはあり得ない。したがって、当該「緩衝部材」は、固有振動数が定まるためのバネ要素を含んでいることが必要である。
また、cの点については、イ号装置のような重力による位置エネルギーを用いる制振装置においては、錘(振動子)は必ず垂直方向への移動を伴う必要がある。そして、上述のとおり、本件特許明細書には、バネ部又はバネ部と同等の機能を有する部材と解される緩衝部材を介して振動子を前記構造物の振動方向と一致させて制振を行う以上のことは記載されておらず、上記緩衝部材が、重力を用いた制振手段までをも含むとは解することができない。したがって、重力を用いた制振装置であるイ号装置において、錘の水平方向の運動とともに垂直方向への運動を伴うことが、本件特許発明の「緩衝部材を介して振動子を前記構造物の振動方向と一致させ」を充足するということはできない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

4-2 均等について
判定請求人は、本件特許発明の構成要件Aに係る上記相違点について、所謂均等論の適用により、イ号装置が本件特許発明の技術的範囲に属すると解することができる旨主張している。
そこで、本件特許発明の構成要件A2に係る上記相違点について、平成6年(オ)第1083号(平成10年2月24日判決言渡)最高裁判決で判示された五つの要件をすべて満たしているかどうか検討する。

まず、上記構成要件A2が、本件特許発明の本質的部分か否かについて検討する。
本件特許明細書には、本件特許発明の技術的課題について、「しかしながら前記(I)(II)(III)の方法には夫々次のような欠点があつた。即ち(I)では補強部材の使用によるコストアップが懸念され、(II)では効果が期待できる動吸振機の重量が大きくなり、工作設置等で問題が残り、(III)では消振に必要な起振力が大きくなり、そのため振動発生機の大型化及び消費電力の増大等がコストアップに繋るほか、振動発生機による騒音の発生が問題となつていた。
本発明は前記従来の欠点を解消するために提案されたもので、過大な振動を生じている構造物に、緩衝部材を介して振動子を同構造物の振動方向と一致させ、前記緩衝部材と前記振動子からなる吸振機の固有振動数が前記構造物の共振点と一致する振動となるように支持し、かつ、前記振動子に、同振動子と振動方向を一致させた振動発生機を連結することにより、同構造物の振動を大幅に低減させることができる消振機を提供せんとするものである。」(訂正明細書第2頁第20行〜第3頁第2行参照)と記載されている。
そして、構成要件A2の「緩衝部材を介して振動子を前記構造物の振動方向と一致させ」に関して、「船舶2の上部構造1がある周波数、加速度、位相をもつて振動している場合、振動計14がこれらの諸量を検知する。検知された加速度を小さくするため、振動子11bが逆位相で振動するように前記制御ブロックを用いて振動発生機13を作動させる。振動発生機13は直接上部構造1に直接載置しておらず、バネ部11aで支持された振動子11bに載置しているので、起振周波数を振動子11bの固有振動数に一致、あるいは近接させておけば、小さな力で振動子11bを振動させても、振動子11bの慣性力は大きくなり、上部構造1の振動を打ち消すために充分な慣性力を生じることが出来る。」(同第3頁第22〜29行参照)と記載され、また、「以上詳細に説明した如く本発明は構成されており、振動発生機が直接上部構造を加振するのではなく、振動発生機は振動子に連結されていて、その振動方向は振動子の場合と一致し、振動子は構造物の振動方向と一致させて緩衝部材を介して支持されているので、位相を制御してやると、構造物の振動を大幅に低減させることができる。・・・・(中略)・・・・そしてこのような小さな起振力を発生し得る小型の振動発生機を装備することで、問題となる対象構造物の振動を減少させることができるので、振動発生機の各部分からの騒音発生も防止される。」(同第6頁第14〜24行参照)と記載されている。(下線は、当審において付与した。)
上記のように、本件特許発明においては、「振動発生機は振動子に連結されていて、その振動方向は振動子の場合と一致し、振動子は構造物の振動方向と一致させて緩衝部材を介して支持されている」ことによって、「小さな起振力を発生し得る小型の振動発生機を装備することで、問題となる対象構造物の振動を減少させることができるので、振動発生機の各部分からの騒音発生も防止される。」という作用効果を奏することができるものである。
してみると、「緩衝部材を介して振動子を前記構造物の振動方向と一致させ」ることは、本件特許発明の技術的課題を解決するための前提となる要素であるとともに、上記作用効果を奏する上で不可欠な要素であると認められる。
すなわち、本件特許発明は、上記構成要件A2を備えることによってはじめて上記の如き技術的課題を解決し作用効果を奏するものであるから、構成要件A2は、本件特許発明の本質的部分である。
したがって、本件特許発明とイ号装置とは、本件特許発明の本質的部分において相違しており、上記最高裁判決で判示された要件を満たしておらず、同判決で判示された他の要件を検討するまでもなく、イ号装置が本件特許発明と均等なものであるということはできない。

4-3 まとめ
したがって、その余の点について検討するまでもなく、イ号装置は、本件特許発明の技術的範囲に属するとすることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、イ号装置は、本件特許に係る発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2004-08-31 
出願番号 特願昭54-37980
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 綿貫 章  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 村本 佳史
常盤 務
登録日 1987-05-28 
登録番号 特許第1381482号(P1381482)
発明の名称 消振機  
代理人 渡邊 誠  
代理人 小林 純子  
代理人 片山 英二  
代理人 弟子丸 健  
代理人 辻居 幸一  
代理人 服部 誠  
代理人 岡 潔  
代理人 滝谷 耕二  
代理人 熊倉 禎男  

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