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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効としない F41B
管理番号 1103700
審判番号 無効2002-35210  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-04-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-05-24 
確定日 2004-10-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第2561429号(特許発明の名称「自動弾丸供給機構付玩具銃」)の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第2561429号(以下、「本件特許」という)は、平成8年9月19日に設定登録された後、特許異議の申立てに関連した、平成9年11月12日付訂正請求が認容されているもので、これに対して、有限会社マルゼン及び有限会社丸前商店より、本件請求項1の発明に係る特許を無効とする、審判費用は請求人の負担とするべき旨の審決を求めて本審判請求がされた。

第2.本件特許発明
本件特許に係る発明は、上記訂正請求による訂正後の本件特許明細書における、特許請求の範囲の請求項1〜6のそれぞれに記載された事項によって特定されるとおりのものであるが、そのうちの、本審判事件で検討の対象となる請求項1の発明(この請求項1の発明を、以下、「本件特許発明」という)について、便宜上、各構成事項毎に分節して、A〜Iの符号を付すると次のとおりになる。
[本件特許発明]
「A グリップ部内に配される弾倉部と、
B 上記グリップ部内にガス導出通路部が連結されて配される蓄圧室と、
C 銃身部の後端部に設けられ、上記弾倉部における一端の近傍に配される装弾室と、
D 該装弾室に供給された弾丸を発射させるべく操作されるトリガに連動して上記ガス導出通路部を開閉制御する開閉弁部と、
E 上記銃身部に対して設けられ、該銃身部に沿って移動し得るものとされたスライダ部と、
F 該スライダ部における上記銃身部の後方となる部分内に設けられ、上記スライダ部と一体的に移動する部材である受圧部と、
G 上記装弾室と上記受圧部との間に配され、上記スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能とされた可動部材と、
H 該可動部材内において移動可能に設けられ、上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記装弾室に至る第1のガス通路及び上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記受圧部に至る第2のガス通路の夫々を開閉制御し、上記開閉弁部により上記ガス導出通路部が開状態とされている期間において、上記第1のガス通路を開状態として、上記蓄圧室からのガスを上記装弾室に供給する第1の状態から、上記第2のガス通路を開状態として、上記蓄圧室からのガスを上記受圧部に作用させて上記スライダ部を後退させ、それに伴う上記可動部材の後退を生じさせて、上記弾倉部の一端から上記装弾室への弾丸の供給のための準備を行う第2の状態に移行するガス通路制御部と、
I を備えて構成される自動弾丸供給機構付玩具銃。」

第3.当事者が提出した証拠
1.請求人が提出した証拠は、次のとおりである。
甲第1号証:本件特許登録原簿
甲第2号証の1:本件特許公報
甲第2号証の2:本件特許明細書に添付した第4図の拡大図
甲第2号証の3:本件特許明細書に添付した第7図の拡大図
甲第3号証: 平成9年異議第72372号決定謄本
甲第4号証:「月刊アームズマガジン」1993年10月号(平成5年10月1日、株式会社ホビージャパン発行)表紙、第5頁、第38〜40頁、第178頁、裏(背)表紙
甲第4号証の2:同上(請求人による説明記載がないもの)
甲第5号証:「月刊アームズマガジン」1993年9月号(平成5年9月1日、株式会社ホビージャパン発行)表紙、第5頁、第178頁、裏(背)表紙
甲第6号証:「Gun」1993年9月号(1993年9月1日、国際出版株式会社発行)表紙、目次頁、第143頁、「Gunバックナンバー御案内」の頁、裏(背)表紙
甲第7号証:平成9年(ワ)第5741号事件、東京地裁判決
甲第8号証:平成13年(ネ)第1132号事件、東京高裁判決
甲第9号証:平成9年(ワ)第5741号事件、物件目録(原告準備)
甲第10号証:実願平3-64235号(実開平5-8285号)のCD-ROM
甲第11号証:平成14年(ワ)第12858号事件訴状
甲第12号証:平成14年(ワ)第12867号事件訴状
甲第13号証:「月刊アームズ・マガジン」1993年2月号(平成5年2月1日、株式会社ホビージャパン発行)表紙、第5頁、第90〜94頁、第178頁、裏(背)表紙
甲第14号証:平成14年(ワ)第12858号事件 原告第2準備書面
甲第15号証:平成14年(ワ)第12867号事件 原告第1準備書面

2.被請求人が提出した証拠は、次のとおりである。
乙第1号証:「特許・実用新案 審査基準」(特許庁編、社団法人発明協会発行)抜粋
乙第2号証:特許無効審判平成11年審判第35186号審決
乙第3号証:甲第4号証の38頁図面の拡大複写図
乙第4号証:平成6年2月1日発行「月刊アームズ・マガジン」1994年2月号(平成6年2月1日、株式会社ホビージャパン発行)(抜萃)

第4.各当事者の主張の概要
1.請求人の主張
甲第4号証は、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物であって、当該甲第4号証には、本件特許発明の上記A〜Eの構成事項に相当するものを備えた自動弾丸供給機構付玩具銃を開示する記載がある。そして、同号証記載の「ピストンAおよびピストンB」は本件特許発明の「受圧部」(構成事項F)に該当し、同様に「シリンダーノズル」は本件特許発明の「可動部材」(構成事項G)に該当する。
更に、甲第4号証記載のものと同様の、ガス圧を利用した自動弾丸供給機構付玩具銃の構成が記載されている甲第10号証や甲第13号証には、弾丸供給機構に関する周知技術が記載されており、このような周知技術を参酌すれば、甲第4号証記載の「シリンダー(切り替えバルブ)」は、本件特許発明の「ガス通路制御部」(構成事項H)に該当する。
したがって、「本件特許発明は、本件特許出願前周知の玩具銃に関する技術を元に、同じく本件特許出願前の頒布に係る甲第4号証記載発明および甲第10号証記載発明から玩具銃の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたので、発明の進歩性を欠き」、特許法29条第2項の規定に違反して特許を受けたことになり、当該特許は無効とされるべきものである。
2.被請求人の主張
本件特許発明における、構成事項G及びHについては、甲第4号証には記載されていないし、また、それらの構成事項を示唆するものもないから、本件特許発明は、甲第4号証の記載、さらには、甲第10号証等に記載された技術的事項を加味したものから、当業者が容易に想到することができたものではなく、本件特許を無効とするべきという旨の請求人の主張は、妥当性に欠けるものであって認められるべきものではなく、本件審判の請求は成り立たない。

第5.当審の判断
1.[甲第4号証の記載事項の概要]
(1)甲第4号証の第38頁上部には、「ガス・オペレーション・システム」「WESTERN ARMS M92FS」という記載の下方に、玩具銃の正面及び背面写真が掲載されており、その右側に、[推測図・構造]と付記された玩具銃要部の拡大図(以下、「要部拡大図」という)が記載されている。
[要部拡大図の概要]
同図には、「バレル」、「ラバーチェンバー」、「シリンダーノズル」、「シリンダー(切り替えバルブ)」、「ピストンA」、「ピストンB」、
「ハンマー」、「ファイアリングピン」、「インパクトバルブ」、「トリガー」、「マガジン」、「タンク」という、部材名の記載があり、それら各部材の関係は次のように図示されている。
シリンダー(切り替えバルブ)は、シリンダーノズル内に設けられる。
ピストンBはピストンAの内側に設けられ、両ピストンはバレルの後方でシリンダーノズル及びシリンダー(切り替えバルブ)内に設けられる。
インパクトバルブは閉状態で、タンク内のガスはシリンダーノズル内に入っていない。
シリンダー(切り替えバルブ)の銃口側先端に設けられる突起はシリンダーノズル内のラバーチェンバーに至る空間を未だ塞いでいない。
ラバーチェンバーには、弾丸が装着されている。
[第38頁の説明文の記載]
第38頁の下半部には、左右3欄に分かれた説明文があり、当該説明文には、次の記載が含まれている。
「今までの1ウェイはスライドが下がってから弾が発射される物で、この点で実銃とは大きく違っていた。しかもBB弾の着弾が狙点より下がる傾向もあった。BB弾がバレル内で加速を始める前にスライドが後退する為、その反作用で銃が前に押され、人間が手に持って発射した場合、どうしてもバレル先端が下を向き着弾が下がってしまうのだ。」(第38頁左欄25行〜中欄2行)。
「それに対しウェスタン・アームズの物は先にBB弾を発射し、その後でスライドが後退するのである。これによってスライド後退の反動で、着弾が下がる事もなくなった。しかもただスライドが下がるのではなく、実銃と同じ”ロックド・ショート・リコイル”の作動をするのだ。バレルとスライドは確実にロックされていて、ショート・リコイルによってロッキング・ブロックが下がる事で初めて開放される。たかだか数kgf/cm2の圧力の低圧ガスで、これ程リアルな作動を実現したのは、驚異という他はない。」
(第38頁中欄17〜28行)
(2)同じく、甲第4号証第39頁には、上部左方に、丸数字の1から4が付された4つの図(以下、それらの各図面を、丸数字の1から4のそれぞれに対応して、「作動推測図1〜4」という)が記載されている。
[作動推測図1の概要]
作動推測図1では、トリガーが引かれる状態、ハンマーが後方から前方に起こされてインパクトバルブを開く状態、タンクから出たガスは、シリンダーノズル内のシリンダー(切り替えバルブ)の前方を通ってラバーチェンバーに導入されて、弾丸を前方に押し出す状態が示されている。
[作動推測図2の概要]
作動推測図2では、トリガーは引かれた状態であり、ハンマーがシリンダー(切り替えバルブ)の後部を押して、シリンダー(切り替えバルブ)の位置を前方に移動させ、タンクから開放状態の弁部を通って出たガスが、シリンダーノズル内のシリンダー(切り替えバルブ)に導入されて、ガス圧がピストンA、Bの前部に作用している状態が示されている。
[作動推測図3の概要]
作動推測図3では、タンクのガス出口はインパクトバルブで閉じられ、スライドはピストンA、Bと共に、後方に移動してハンマーを押している状態が示されている。
[作動推測図4の概要]
作動推測図4では、タンクのガス出口はインパクトバルブで閉じられ、スライド及びピストンA、Bは、作動推測図3の状態よりも、更に後方に移動してハンマーが後に倒れ、また、ピストンBはピストンAよりも後に位置する状態が示されている。
上記作動推測図1〜4の右側に「[推測図]」と記載され、その下に、それぞれの作動推測図に対応する丸数字が付された次の説明記載がある。
「トリガーを引くとハンマーが倒れ、放出バルブを開いてBB弾を飛ばす。」
「一瞬遅れて切り替えバルブを叩き、ガスをシリンダー内に入れる。」
「シリンダーはフレーム側で支えられるので、ピストンがスライドを押し後退させる。始めはロッキング・ブロックで、バレルとスライドは結合されているので一緒に下がる。」
「ブロックが降下した後はスライドのみ後退し、ハンマーをコックする。流入口からガスが排気されれば、シリンダーもスプリングで元に戻る。この後リコイル・スプリングでスライドは前進し、最初の状態に戻る。」
(3)同じく、甲第4号証第40頁には、次の記載がある。
「写真に見えるハンマーの2つの打撃痕からも、「切り替えバルブ」の切り替えは内部の可動パーツではなく、ハンマーで行なっていると見た方が良い様だ。つまり、ハンマーが落ちると、ハンマー下部でマガジンの放出バルブを押し開いて発射用のガスを出し、BB弾を飛ばす。次に一瞬遅れてハンマー上部でスライドの「切り替えバルブ(を作動させるパーツ)」を叩き、ガスをシリンダー内に導くという具合である。」(第40頁左欄第6〜15行)
「最後にこれまでの事をまとめてみると、」
「ガスはBB弾を発射した後「切り替えバルブ」でシリンダー内に送られる。」
「切り替えはハンマーで行ない、バルブの開放と切り替えのタイムラグは、ピンの長さで作っている。」
「シリンダーはフレーム側を支えとし、ピストンがスライドを動かす。」
「マガジンの放出バルブはハンマーの打撃で開かれるが、トリガー・バーで保持される事も考えられる。」(第40頁右欄第11〜21行)。

2.[構成事項の対比]
本件特許発明の各構成事項と甲第4号証の記載事項とを対比する。
(1)<構成事項Aについて>
本件特許発明の構成事項A(「グリップ部内に配される弾倉部」)については、甲第4号証の要部拡大図に付記された「マガジン」が、これに対応しており、甲第4号証には、上記の構成事項Aに相当するものが記載されているといえる。
(2)<構成事項Bについて>
本件特許発明の構成事項B(「上記グリップ部内にガス導出通路部が連結されて配される蓄圧室」)については、上記の要部拡大図に付記された「タンク」が、これに対応しており、甲第4号証には上記の構成事項Bに相当するものが記載されているといえる。
(3)<構成事項Cについて>
本件特許発明の構成事項C(「銃身部の後端部に設けられ、上記弾倉部における一端の近傍に配される装弾室」)については、上記の要部拡大図に付記された「ラバーチェンバー」が、これに対応しており、甲第4号証には上記の構成事項Cに相当するものが記載されているといえる。
(4)<構成事項Dについて>
本件特許発明の構成事項D(「該装弾室に供給された弾丸を発射させるべく操作されるトリガに連動して上記ガス導出通路部を開閉制御する開閉弁部」)については、上記の要部拡大図に付記された「インパクトバルブ」が、これに対応しており、甲第4号証には上記の構成事項Dに相当するものが記載されているといえる。
(5)<構成事項Eについて>
本件特許発明の構成事項E(「上記銃身部に対して設けられ、該銃身部に沿って移動し得るものとされたスライダ部」)については、第38頁及び第39頁の各説明記載中の「スライド」が、これに対応しており、また、同スライドは、作動推測図3及び4に対応する説明記載においても、銃身部に沿って移動し得ることが示されており、甲第4号証には上記の構成事項Eに相当するものが記載されているといえる。
(6)<構成事項Fについて>
本件特許発明の構成事項F(「該スライダ部における上記銃身部の後方となる部分内に設けられ、上記スライダ部と一体的に移動する部材である受圧部」)について、甲第4号証の記載事項をみると、作動推測図2では、ガス圧が、銃身後部のピストンA、Bの前部に作用している状態が示されているから、当該ピストンA、Bを「銃身部の後方となる部分内に設けられ」た、「受圧部」を構成する部材とみることはできる。
しかし、上記ピストンAとピストンBの動きが別であることは明らかであるし、作動推測図3に対応する説明文中に、「ピストンがスライドを押し後退させる」という、ピストンとスライドとがそれぞれ別に動くとも解しうる記載があるところから、甲第4号証における「受圧部」(ピストンA、B)が、「スライダ部と一体的に移動する部材」といえるか否かは、甲第4号証記載の図面や説明文からは必ずしも明確とはいえない。
(7)<構成事項Gについて>
本件特許発明の構成事項Gは「上記装弾室と上記受圧部との間に配され、上記スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能とされた可動部材」というものである。
甲第4号証第39頁作動推測図1〜4をみると、シリンダーノズルは、作動推測図2に示されている状態から同推測図3及び4に示されている状態となる間に、スライド(スライダ部)の移動方向に沿う方向に移動可能と認められるから、上記の「シリンダーノズル」は、本件特許発明の「可動部材」に対応するものと認められる。
ただ、上記構成事項G中の「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」という点についてみると、甲第4号証記載の各図では、シリンダーノズルの後端は、ピストンA、Bの前部よりも更に後方に延びていることが明示されているから、可動部材(シリンダーノズル)が「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」ているとはいえない。
この点に関して、請求人は、「甲第4号証の38頁の図面をみれば、シリンダーノズルは、小径部分と大径部とが略等しい長さからなり、ピストンAおよびピストンBとラバーチェンバーとの間にはシリンダーノズルの小径部と大径部の略1/3すなわち、シリンダーノズルの大半が位置する」し、作動中は、作動推測図に示されるように「ピストンAおよびピストンBとラバーチェンバーとの間に占めるシリンダーノズルの割合は大きくなり」、特に作動推測図4においては「シリンダーノズルのほとんどが位置する」から、「シリンダーノズルはラバーチェンバーとピストンA及びピストンBとの間に設けられる旨が図示されている」とみるべきであると主張する。
しかし、ラバーチェンバー(装弾室)とピストンA、Bの前部(受圧部)との間にシリンダーノズルの「ほとんどが位置する」からといって、シリンダーが、「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」ているとみるのは無理がある。
(8)<構成事項H>の前段について
本件特許発明の構成事項Hは「該可動部材内において移動可能に設けられ、上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記装弾室に至る第1のガス通路及び上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記受圧部に至る第2のガス通路の夫々を開閉制御し、上記開閉弁部により上記ガス導出通路部が開状態とされている期間において、上記第1のガス通路を開状態として、上記蓄圧室からのガスを上記装弾室に供給する第1の状態から、上記第2のガス通路を開状態として、上記蓄圧室からのガスを上記受圧部に作用させて上記スライダ部を後退させ、それに伴う上記可動部材の後退を生じさせて、上記弾倉部の一端から上記装弾室への弾丸の供給のための準備を行う第2の状態に移行するガス通路制御部」である。
上記の構成事項Hに関して甲第4号証記載の各図をみると、同号証記載の「シリンダー(切り替えバルブ)」は、シリンダーノズル内に設けられており、[作動推測図1]の<ガスがシリンダーノズル内のシリンダー(切り替えバルブ)の前方を通ってラバーチェンバーに導入される状態>から、[作動推測図2]の<ガスがシリンダーノズル内のシリンダー(切り替えバルブ)に導入されて、ガス圧がピストンA、Bの前部に作用する状態>に、ガス流路を開閉制御して切り替えるものであることが示されている。
したがって、「シリンダーノズル」を、本件特許発明の「可動部材」に対応するものとみると、「シリンダー(切り替えバルブ)」は、「該可動部材内において移動可能に設けられ、上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記装弾室に至る第1のガス通路及び上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記受圧部に至る第2のガス通路の夫々を開閉制御」する「ガス通路制御部」であるといえる。
(9)<構成事項H>の後段について
(9-1) 本件特許発明における「ガス通路制御部」は、上記(8)で検討した前段の構成のみでなく、「上記開閉弁部により上記ガス導出通路部が開状態とされている期間において、上記第1のガス通路を開状態として、上記蓄圧室からのガスを上記装弾室に供給する第1の状態から、上記第2のガス通路を開状態として、上記蓄圧室からのガスを上記受圧部に作用させて上記スライダ部を後退させ、それに伴う上記可動部材の後退を生じさせて、上記弾倉部の一端から上記装弾室への弾丸の供給のための準備を行う第2の状態に移行する」という、後段の構成をも備えるものである。
(9-2) この「ガス通路制御部」に関する、後段の構成の意味するところを検討するために、発明の詳細な説明をみると、次のイ〜ニのように記載されている。
イ 「図8及び図9に示される如く、可動部材54における後方側部分 が有底筒状部材51における筒状部51B内からその外部に出る状態とさ れ、また、ハンマ5は、・・・離隔した位置に向けて回動せしめられる。 そして、図10に示される如く、後退するスライダ部50における・・・ 傾斜面部50Cによって、可動バー8の後方側部分が押し下げられ、それ に伴って、・・・可動バー8の後方側・・・突出部8bが、可動レバー4 5をコイルスプリング44の付勢力に抗して押し下げる。それにより、・ ・・ピストン部材35・・・先端部がケース30から突出するものとなる 位置に移動せしめられる。」(【0033】)
ロ 「ピストン部材35のその先端部がケース30から突出するものと なる位置への移動により、ピストン部材35の開閉弁部35aが、連結ガ ス通路36の他端部を閉状態となす位置におかれて、蓄圧室33から、・ ・・可動部材54内に設けられた弾丸供給用ガス通路22へのガス圧の供 給が停止される。」(【0034】)
ハ 「このようにして、・・・ガス圧の供給が停止されても、その直後 においては、スライダ部50はその慣性によりさらに後退して最後方位置 をとる。このとき、可動部材54は、その後方側部分が有底筒状部材51 における筒状部51Bの外部にあって、蓄圧室33からのガス圧が供給さ れない状態におかれており、」
「また、有底筒状部材51における筒状部51B内のガス圧は、筒状部 51Bの開口部側が開放状態とされることにより急速に零(大気圧)に向 けて低減されるので、コイルスプリング55の付勢力によって、急速に有 底筒状部材51に向けて後退せしめられる。」(【0035】前半)
ニ 「そして、図10及び図11に示される如くに、可動部材54にお ける後方側部分が、再度、有底筒状部材51における筒状部51B内に挿 入せしめられた状態とされる。その結果、・・・弾倉31内に充填された 弾丸BBのうち最上方位置にあるものが最上端部31aに押し上げられて 保持される。」(【0035】後半)
(9-3) 上記のイからハの前半(「また、・・・」の前まで)にかけて、「ガス圧の供給が停止」される状態が説明されているが、イで言及されている、図8及び9では、まだ開閉弁部35aは開放されたままの状態であり、上記ハ後半の「また、・・・ガス圧は、筒状部51Bの開口部側が開放状態とされることにより急速に零(大気圧)に向けて低減されるので、コイルスプリング55の付勢力によって、急速に有底筒状部材51に向けて後退せしめられる。」という記載に続いて、ニ冒頭の「そして、図10及び図11に示される・・・状態とされる」と記載されているところから、上記のハ後半の記載は、図8及び9に示されている開閉弁部35aが開放された状態から、図10及び図11に示される同弁部が閉じた状態に至る過程を説明していると解される。
(9-4) そして、図8及び9では、開閉弁部35aが完全に開いている状態で、既に「筒状部51Bの開口部側が開放」されているから、筒状部51B内のガス圧は、「急速に零(大気圧)に向けて低減され」て、図8及び9の開閉弁部35aが完全に開いている状態から、図10及び図11の開閉弁部が完全に閉じられてしまう状態に変わるまでの間に、可動部材54が「コイルスプリング55の付勢力によって、急速に有底筒状部材51に向けて後退」を始めると認められる。
そして、このような理解は、特許請求の範囲における構成事項Hの「ガス導出通路部が開状態とされている期間において、・・・上記可動部材の後退を生じさせて、」という記載とも合致している。
(9-5) つまり、本件特許発明の構成事項Hにおける「ガス通路制御部」は、「開閉弁部により上記ガス導出通路部が開状態とされている期間において、」「上記スライダ部を後退させ」るにとどまらず、「それに伴う上記可動部材の後退を生じさせ」るまでの制御をも行うものである。
これに対して、甲第4号証の作動推測図3及び4では、インパクトバルブ(開閉弁)によってガス導出通路部は既に閉鎖されているにもかかわらず、スライド(スライダ部)の後退が始まっていることは認められるものの、可動部材であるシリンダーノズルの後退が始まっているとは認められず、むしろ、作動推測図1及び2に示されている状態から、わずかに前進した後、作動推測図4の状態に至っても、全くその位置が変化していないことが示されている。

3.本件特許発明と甲第4号証記載の発明との相違点
以上における、各構成事項毎の対比から、本件特許発明における構成事項A〜Eに関しては、甲第4号証記載の発明も、同様の構成を備えているといえるが、次の各点においては、上記両発明の間に相違するところがあることになる。
相違点1<構成事項Fについて>
本件特許発明の構成要件Fでいう「受圧部」に関して、甲第4号証にも、それに対応する部材は「ピストンA、B」として記載されているが、当該ピストン(受圧部)が、「スライダ部と一体的に移動する部材」といえるか否かは、甲第4号証の記載からは必ずしも明確とはいえない点。
相違点2<構成事項Gについて>
本件特許発明の構成要件Gでいう「可動部材」は、「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」ているが、甲第4号証でそれに対応する「シリンダーノズル」は、「装弾室」と「受圧部との間」に配されているとはいえず、むしろ、受圧部を越えて延在している点。
相違点3<構成事項Hについて>
本件特許発明の構成要件Hでいう「ガス通路制御部」は、「ガス導出通路部が開状態とされている期間において」「上記可動部材の後退を生じさせ」るものであるが、甲第4号証の「シリンダー(切り替えバルブ)」(ガス通路制御部)は、ガス導出通路部の「開状態とされている期間」においては、シリンダーノズル(可動部材)の後退を生じさせるものではない点。

4.相違点の検討と評価
(1)相違点1及び2<構成事項F、G>について
相違点1について検討すると、甲第4号証記載の玩具銃で、「受圧部」に対応する「ピストンA、B」のうちの、一方のピストンBを「スライダ部と一体的に移動する部材」とするのは、必ずしも困難であるとするべき理由はみあたらない。
しかし、相違点2との関係で考えると、本件特許発明の構成事項Gでは、可動部材が「上記装弾室と上記受圧部との間に配され」る構成をとるが、受圧部として、甲第4号証記載の「ピストン」のように、スライダ部の後部から突出する部材とするものでは、可動部材(シリンダーノズル)の後端を、受圧部(ピストン)よりも前方に配置する構成とすることは、ガス圧を作用させるという機能を考慮すれば、事実上不可能である。
そうすると、甲第4号証記載のものにおいて、本件特許発明のように<構成事項G>を採用することは当業者が容易に想到できることとはいえない。
(2)相違点3<構成事項H>について
本件特許発明の構成事項Hは、「ガス導出通路部が開状態とされている期間において、」「上記可動部材の後退を生じさせ」るものであるが、その技術的な意義は、「装弾室に弾丸を供給するための準備動作が、比較的少量のガスにより効率良く、しかも、迅速に行われる」(【0050】)ことにあると考えられる。
これに対し、甲第4号証をみると、作動推測図1、2と、同推測図3、4との比較から明らかなように、同号証記載のシリンダーノズル(可動部材)は、ガス導出通路部が開状態とされている期間において、わずかとはいえ、「前進」する位置をとると認められるが、このようにシリンダーノズル(可動部材)の前進さえ許容されているものでは、迅速な「可動部材の後退」が図られているといえないことは明らかである。
したがって、甲第4号証記載のものにおいて、「ガス導出通路部が開状態とされている期間」に、「上記可動部材の後退を生じさせ」る構成をとることが容易にできるとはいえない。
(3)作用効果との関係について
本件特許明細書の記載によれば、上記の各相違点で指摘した<構成事項F〜H>の構成とすることによって、スライダ部における「受圧部を形成する底部を有する有底筒状部材における筒状部内に」、可動部材が「挿入される状態を選択的にとる」ことが可能となり、延いては、スライダ部内に配される「ガス圧動作部が簡単な構成をもって確実な動作を行うものとされ」て、「ガス圧を利用して装弾室に弾丸を供給するための準備動作が、比較的少量のガスにより効率良く、しかも、迅速に行われる」(【0050】)という作用効果が期待できるとされている。
一方、甲第4号証の「写真に見えるハンマーの2つの打撃痕からも、「切り替えバルブ」の切り替えは内部の可動パーツではなく、ハンマーで行なっていると見た方が良い様だ。つまり、ハンマーが落ちると、ハンマー下部でマガジンの放出バルブを押し開いて発射用のガスを出し、BB弾を飛ばす。次に一瞬遅れてハンマー上部でスライドの「切り替えバルブ(を作動させるパーツ)」を叩き、ガスをシリンダー内に導くという具合である」(第40頁左欄第6〜15行)という記載に示されるとおり、本件特許発明に係る玩具銃の構成とは大きく相違している同号証の「推理」による記載をもとに、本件特許発明の構成を想到することは、上述(1)、(2)で指摘したように、当業者が容易にできるというものではないし、また、上記推理にとどまる同号証記載のものが、上記のような作用効果を奏するといえないことは明らかである。
そうすると、甲第4号証記載の発明に加えて、甲第10号証や甲第13号証に記載された、弾丸供給機構に関する周知技術の存在を勘案しても、本件特許発明が、それら公知の発明や周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとするのは妥当ではない。

第5.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1の特許について、請求人が主張する理由及びその提出した証拠によって無効とすることはできず、他に無効とすべき事由も発見しない。
また、本件審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項の規定により、民事訴訟法第61条の規定を準用する。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2002-10-30 
出願番号 特願平5-252881
審決分類 P 1 122・ 121- Y (F41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土屋 保光  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 蓑輪 安夫
尾崎 和寛
登録日 1996-09-19 
登録番号 特許第2561429号(P2561429)
発明の名称 自動弾丸供給機構付玩具銃  
代理人 鷹見 雅和  
代理人 安原 正義  
代理人 神原 貞昭  
代理人 安原 正之  
代理人 安原 正義  
代理人 鷹見 雅和  
代理人 安原 正之  

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