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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) A23G
管理番号 1103992
審判番号 審判1999-35403  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-08-06 
確定日 2004-10-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2672728号「風味持続性にすぐれた焼き菓子の製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成12年 7月 5日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成12(行ケ)年第312号、平成14年3月28日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2672728号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許2672728号に係る発明は、平成3年6月19日に特願平3-174522号として出願され、平成9年7月11日に設定の登録がなされた。その後、本件特許に対し、特許異議申立がなされ、訂正請求がなされたところ、「訂正を認める。特許を維持する。」との決定がなされ、そして平成11年8月6日に特許の無効の審判が請求され、平成12年7月5日、上記請求は成り立たないとする審決がなされたところ、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成12年(行ケ)第312号、平成14年3月28日判決言渡)、並びに最高裁判所において上告審として受理しない旨の決定(平成14年(行ヒ)第182号、平成14年9月27日)がなされたものである。

II.本件発明
本件請求項1乃至請求項2に係る発明(以下、「本件発明1乃至2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1乃至請求項2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】α、αトレハロースを原料の総重量に対して0.1重量%以上含む、焼成またはフライされた米菓類、小麦煎餅類、ビスケット・クッキー類、クラッカー類、パイ類、ケーキ類またはドーナツ類。
【請求項2】米菓類、小麦煎餅類、ビスケット・クッキー類、クラッカー類、パイ類、ケーキ類またはドーナツ類の製造方法であって、α、αトレハロースを原料の総重量に対して0.1重量%以上含む組成物を焼成またはフライする工程を含む、方法。」

III.当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、「特許第2672728号の特許請求の範囲第1項及び第2項の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の甲第1号証乃至甲第9号証を提出して、その理由を概要次のとおり主張している。
(1)無効理由1
本件発明1乃至2は、甲第1号証に記載された発明である、又は甲第1号証若しくは甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法29条1項3号又は同条2項の規定に違反して特許されたものである。
(2)無効理由2
本件発明1乃至2は、甲第5号証に記載された発明である、又は甲第5号証若しくは甲第5号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法29条1項3号又は同条2項の規定に違反して特許されたものである。
(3)無効理由3
本件発明1乃至2は、甲第7号証に記載された発明である、又は甲第7号証若しくは甲第7号証乃至甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法29条1項3号又は同条2項の規定に違反して特許されたものである。
(4)無効理由4
本件発明1乃至2に対する特許は、請求項1乃至請求項2の記載が特許法36条に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明には、当業者が発明の実施をできる程度に発明の開示がないので、特許法36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

甲第1号証:「FOOD MANUFACTURE」64巻、4号、23〜24頁
甲第2号証:「食品と科学」1982秋季増刊号、56〜62頁
甲第3号証:特開昭56-144038号公報
甲第4号証:国際公開特許第WO89/00012号公報
甲第5号証:特開昭62-208273号公報
甲第6号証:「パン製法」沼田書店、98〜99,365〜366,39 9〜400,402頁(1967年発行)
甲第7号証:特開昭63-240758号公報
甲第8号証:「砂糖とむし歯」クインテッセンス出版、119〜124頁 (1979年発行)
甲第9号証:茶圓 博人氏、渡邉 登氏、両氏の報告に係る「実験報告書」

2.被請求人の主張
被請求人は、「本件特許には無効理由がなく本件特許を維持する、本件審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めている。

IV.当審の判断
1.無効理由1について
(本件発明1について)
甲第1号証には、「今日食品工業界が直面している最大の挑戦の一つは,品質を低下させることなく食品を保存することである。糖類のトレハロースによる天然の保護機構は保存に関わる問題解決の鍵となるであろう。」(訳文1頁4行〜6行)、「天然保存料 食品の安定性と安全性は,食品工業界に於いて長年に亙って物理的あるいは化学的な保存方法が採用されてきた主要な研究である。・・(略)・・生体物質はどの様にして障害なしに乾燥を生き延びているのであろうか?これが,ケンブリッジに設立された,現在,創業4年目の研究企業である,カドラント社の創設者であり科学部長であるブルース ローザ博士を魅了した問題である。単純な二糖類であるトレハロースは,普通に存在し,全ての休眠生物で見出されている。」(訳文1頁7行〜2頁1行)、「トレハロースは無毒でカロリーのある二糖類で,キノコ,蜂蜜,ある種の穀物,ブラインシュリンプやパン酵母で見出されている。」(訳文2頁5行〜6行),「トレハロースは口内でわずかな清涼効果をもつものの,甘味を殆ど感じさせないため風味にはわずかしか影響しない。」(訳文2頁9行〜10行)、「現在,トレハロースは,パン酵母から抽出されており,試験研究用試薬としてのみ利用可能である。」(同4頁2行〜3行)、「トレハロースは食品の風味に殆ど影響しないので,数々の食品の保存に使用することができる。クアドラント社は,牛乳,卵,トマトピューレで成功している。ローザー博士は,新鮮な牛乳はトレハロースを用いて乾燥することが可能であり,ひとたび再構成されると,乾燥される前の材料と同じ特性を示すと言っている。牛乳蛋白は,完全なままで残っているので,再構成された粉末を加熱すれば,表面に変性した蛋白質の膜が形成される。蛋白の変性防止は,再構成時に良い品質を得るための鍵である。そして,これは卵の乾燥にも当てはまる。」(同4頁12行〜18行)、「高エネルギー乾燥食品もまた,トレハロースにより安定化できる,カロリー価の利用,例えば,牛乳,卵及び新鮮果実の調製品は,高エネルギー飲料のベースとすることができる。」(訳文4頁22行〜24行)、「カドラント社は,現在の乾燥食品の幾つかに対する良くないイメージが,技術を発展させる最大の障壁となっていると考えている。質の良さ及び簡便さがよりよい製品群を提供する鍵であり,卵や牛乳を含むコンプリートケーキミックスは,ニーズに応じた製品となりうる。蛋白質の構造が保持されていることから,機能も保たれており,通常の柔らかい組織と褐変の発現が導かれるからである。」(同5頁7行〜12行)が、それぞれ記載されている。
上記記載によると、甲第1号証には、α,αトレハロースを用いて乾燥された卵や牛乳を含むコンプリートケーキミックスが開示されていることが明らかである。
甲第2号証には、「プレミックスとは「Prepared Mix」の略語で,日本プレミックス協会によれば,「ケーキ,パン,惣菜などを簡便に調理できる調整粉で,小麦粉等の粉類(澱粉を含む)に糖類,油脂,粉乳,卵粉膨張剤,食塩,香料などを必要に応じて適正に配合したもの」と定義づけている。」(56頁1段2行〜8行)、「プレミックスは次第にその使用のメリットが認識され,また品種も豊富となり,一般家庭をはじめ,製パン・製菓業界,飲食業界,惣菜業界に広く使用されるようになった。」(同段18行〜2段2行)、「プレミックスは通常,水,卵,イースト等を添加するだけで簡便に調理できることが特徴であるが,近年アメリカにおいては,商品種類の多様化(油脂高配合品,バラエティ・ブレッドの出現),量産向け適合製品の要望(中種法適合ミックス),経済性の追求等の理由により,使用時に小麦粉,油脂,砂糖を添加するタイプのプレミックスか登場した。すなわち使用法別のタイプで,次の三種に分類することかできる。(イ)Complete Mix(完全ミックス)・・・」(58頁3段3行〜4段5行)、「(イ)コンプリート・ミックス・・・イーストと水さえ添加すればよいように,パンを作るに必要な全資材を混合したもの。」(61頁1段5行〜7行)、及び「現在,わが国で市販されているプレミックスのほとんどはコンプリート・ミックスであり,一種類のプレミックスを使用して商品のバラエティ化を計る場合や自店の特徴を打ち出す場合にのみ,使用者側で若干の原材料を加えているのが実情である。」(同段21行〜27行)と記載されている。
上記記載によれば、「コンプリートケーキミックス」からケーキ,パン,惣菜など調理することは,本件出願時,周知の事項であったことが認められる。
また、甲第3号証によれば,ケーキミックスの代表的な調理方法として,焼成するという方法が,本件出願当時広く知られていたことが認められる。 上記認定の周知の事実を勘案すれば,甲第1号証には,α,αトレハロースを用いて乾燥された卵や牛乳を含むコンプリートケーキミックスから調理される,焼成されたケーキ類が開示されていることが明らかである。
本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると,両者は,α,αトレハロースを含む,焼成されたケーキ類であるという点で一致し,唯一,本件発明1においては,α,αトレハロースの含有量を「原料の総重量に対して0.1重量%以上含む」のに対し,甲第1号証に記載された発明においては,含有量が明らかでない点で相違するのみである。
そこで、甲第1号証に記載された発明において,α,αトレハロースの含有量を「原料の総重量に対して0.1重量%以上含む」ことが自明であるかどうかについて検討する。
「α,αトレハロースを原料の総重量に対して0.1重量%以上含む,焼成またはフライされた米菓類,小麦煎餅類,ビスケット・クッキー類,クラッカー類,パイ類,ケーキ類またはドーナツ類。」とは,言い換えれば,「α,αトレハロースを含む,焼成またはフライされた米菓類,小麦煎餅類,ビスケット・クッキー類,クラッカー類,パイ類,ケーキ類またはドーナツ類」のうちで,含まれるα,αトレハロースの割合が原料の総重量に対して0.1重量%未満であるものを除いたすべて,ということである。
甲第1号証の前記認定の記載によれば,トレハロースは,糖類でありながら,甘味をほとんど感じさせず,蛋白の変性防止に威力を発揮し,しかも,風味にほとんど影響しないという,食品の天然保存料として非常に有効な働きをするものであることになることが明らかである。
そうであるならば,甲第1号証に開示されている,「コンプリートケーキミックスから調製されるケーキ」に添加されるα,αトレハロースの量が原料の総重量に対して0.1重量%未満であるというような程度の微量でなければならないと考えさせるような事情が認められない限り,甲第1号証に接した当業者としては,そこに,少なくとも,α,αトレハロースの含有量を「原料の総重量に対して0.1重量%以上含む」ものも,記載されていると理解することができるものというべきである。ところが,上記特別の事情が存在したことを認めさせる資料は,本件全証拠を検討しても見出すことができない。
そうすると、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるということになる。

(本件発明2について)
本件発明2は、物の発明である本件発明1の構成をすべて含んでおり、方法の発明の構成となっている点が相違しているのみである。
そうすると、本件発明1についての上記判断は、本件発明2においても同様に当てはまることが明らかである。

V.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1乃至請求項2に係る発明は、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同法123条1項2号の規定により無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-06-09 
結審通知日 2000-06-23 
審決日 2000-07-05 
出願番号 特願平3-174522
審決分類 P 1 112・ 113- Z (A23G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 河野 直樹中木 亜希  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 田村 聖子
佐伯 裕子
種村 慈樹
鵜飼 健
登録日 1997-07-11 
登録番号 特許第2672728号(P2672728)
発明の名称 風味持続性にすぐれた焼き菓子の製造方法  
代理人 安江 邦治  
代理人 須磨 光夫  
代理人 山本 秀策  

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