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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1104083
審判番号 不服2002-4315  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-05-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-03-13 
確定日 2004-10-01 
事件の表示 平成 8年特許願第282730号「インクジェット記録装置用廃インクタンク及びインクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月12日出願公開、特開平10-119309〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は平成8年10月24日の出願であって、平成14年2月5日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年3月13日付けで本件審判請求がされるとともに、同年4月11日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。
本件補正は、補正前の請求項7とこれを引用し「前記加熱手段が、前記廃インクを造膜させ、かつインクの沸点以上に加熱する」との限定を加えた請求項8を1つの請求項として「顔料、熱可塑性樹脂、分散剤を水性媒体に含有させたインクを記録ヘッドに供給して印字を行い、前記記録ヘッドから排出された廃インクを収容する廃インクタンクを備えたインクジェット記録装置において、
前記廃インクの熱可塑性樹脂を造膜させ、かつ前記廃インクの沸点以上に加熱する加熱手段が前記廃インクタンクに設けられているインクジェット記録装置。」と補正するとともに、発明の詳細な説明の段落【0010】及び【0030】に若干の補正を行ったものである。
そうすると、本件補正後の請求項7に係る発明は本件補正前の請求項8に係る発明と同一であり、特許請求の範囲の補正は「請求項の削除」(特許法17条の2第4項1号該当。具体的には補正前請求項7の削除。)を目的とするものであり、発明の詳細な説明の補正は「誤記の訂正」(同3号)を目的とする(段落【0010】及び【0030】は、【課題を解決するための手段】及び【発明の効果】を記載した段落であって、補正前では一括して「本発明」と記載されているが、請求項1に係る発明と請求項7(及び補正前では請求項8)に係る発明では、【課題を解決するための手段】及び【発明の効果】が異なり、一括記載できないことは明らかである。)ものと認める。
また、本件補正が願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたことも明らかである。
したがって、本件補正を却下することはできないから、本願の請求項7に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項7】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「顔料、熱可塑性樹脂、分散剤を水性媒体に含有させたインクを記録ヘッドに供給して印字を行い、前記記録ヘッドから排出された廃インクを収容する廃インクタンクを備えたインクジェット記録装置において、
前記廃インクの熱可塑性樹脂を造膜させ、かつ前記廃インクの沸点以上に加熱する加熱手段が前記廃インクタンクに設けられているインクジェット記録装置。」

第2 当審の判断
本審決では、「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いる。
1.引用刊行物の記載事項及びそこに記載の発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された特開平1-202455号公報(以下「引用例」という。)には、
「記録ヘツドの記録液不吐出を回復させるための回復系と、該回復系によって排出された廃液を収容する廃液溜めとを具えた液体噴射記録装置において、
前記廃液の状態を検出する状態検出手段と、
前記廃液を加熱する加熱手段と
を設け、当該加熱手段により前記廃液溜めに収容された記録廃液を蒸発させるようにしたことを特徴とする液体噴射記録装置。」(1頁左下欄特許請求の範囲第1項)との発明(以下「引用発明」という。)が記載されており、その説明として以下のア〜クの記載が図示とともにある。
ア.「〔産業上の利用分野] 本発明は液体噴射記録装置に関し、詳しくは、不吐出回復装置と、不吐出回復装置を介して排出された廃液を一時貯留するための廃液溜めとを具えた液体噴射記録装置に関する。」(2頁左上欄2〜6行)
イ.「従来の廃液溜めを具えた液体噴射記録装置においては、・・・廃液溜め交換以前に吐出回復動作が多数回行なわれて廃液溜め容量を越える量のインクが排出されると、廃液溜めが破損し中のインクが溢れ出してしまい、装置内が汚れたり、またインクが導電性であれば装置内の電気回路がそのインクによつてシヨートし電気回路が損傷したりする虞れがある。」(2頁左下欄14行〜右下欄5行)
ウ.「このような問題点はインクジェット記録装置に限らず、広く一般の液体噴射記録装置の場合にも同様であつて、なんらかの処方が必要であつた。」(2頁右下欄9〜12行)
エ.「第1図は本発明の一実施例を示す。ここで、9は廃液溜め、10は廃液溜め9の下面に設けたヒータである。廃液溜め9は、振動や移動によつて、こぼれ出すようなことがないよう周囲が囲われた形状をなし、更に上部に蒸気抜きの孔11を有し、・・・好ましくは、廃液溜め9を第2図に示すように金属製の受け皿部9Aと例えばプラスチツク等による覆蓋部9Bとに分離可能なようになし、受け皿部9Aに蒸着凝固させたインクかすの除去あるいは受け皿部9A自体および覆蓋部9Bを個別に交換が容易なようにする。」(3頁左上欄末行〜右上欄11行)
オ.「第3A図はその制御動作の手順の一例を示す。本例は回復系6によつてインクの排出がなされたか否かによつてヒータ10を駆動する場合であつて、まずステップ51において、不吐出回復信号が回復系6に出力され回復動作がなされたか否かを判断し、例えばその動作終了を待つてステップS2に進み、ここでヒータ10を“オン”にする。そして次のステップS3で予め設定された蒸発に必要な時間が経過したか否かを判断し、所定の時間経過するのを待つてステップS4でヒータ10を“オフ”にする。」(3頁左下欄14行〜右下欄4行)
カ.「第3Cは更に別の制御動作手順を示す。本例は、例えば受け皿部9A近傍に図示はしないが状態検出手段としての温度検出手段を設けておき、加熱温度と時間の双方を制御しようとするもので、ステップS1は第3B図の例と変わらないが、ステップS2で所定回数の回復動作により排出された廃液に対し、何度の温度を保つてどれだけの時間加熱すればよいかをメモリから読出すようにする。かくして、ステップS3でヒータ10を“オン”にし、次のステップS4で温度検出手段により検出温度が所定温度に達したか否かを判断し、所定の温度に達するのを待つて次のステップS5に進み、加熱時間が所定の時間に達したか否かを判断する。そして、所定の時間経過したならばステップS5からステップS6に進みヒータ10を“オフ”にする。」(3頁右下欄18行〜4頁左上欄12行)
キ.「廃液溜めに廃液量を検知する手段を設けておき、廃液検出手段からの信号により、例えば廃液が所定の量に達したならば、ヒータを“オン”となし、その液量が十分蒸発するように設定された時間継続加熱するとか、あるいは、更に状態検出手段として廃液量が蒸発し終えたことを検知する手段、例えば湿度検出手段を併設し、この手段により蒸発し終えたことを検知して、ヒータを“オフ”にするように構成してもよい。」(4頁左上欄14行〜右上欄3行)
ク.「蒸発に必要なヒータの加熱温度および加熱時間を読出す」(5頁第3C図ステップS2)

2.本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
引用例の記載ウによれば、引用発明の「液体噴射記録装置」の代表的なものが「インクジェット記録装置」であり、「液体噴射記録装置」と「インクジェット記録装置」に実質的な相違はない。
引用発明の「廃液溜め」は本願発明の「廃インクタンク」に相当し、引用発明が「インクを記録ヘッドに供給して印字を行い、前記記録ヘッドから排出された廃インクを収容する廃インクタンクを備えたインクジェット記録装置」であること、及び引用発明の加熱手段が廃液溜め(廃インクタンク)に設けられていることは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「インクを記録ヘッドに供給して印字を行い、前記記録ヘッドから排出された廃インクを収容する廃インクタンクを備えたインクジェット記録装置において、
加熱手段が前記廃インクタンクに設けられているインクジェット記録装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉インクにつき、本願発明が「顔料、熱可塑性樹脂、分散剤を水性媒体に含有させたインク」と限定しているのに対し、引用発明は格別限定していない点。
〈相違点2〉加熱手段につき、本願発明が「廃インクの熱可塑性樹脂を造膜させ、かつ前記廃インクの沸点以上に加熱する加熱手段」としているのに対し、引用発明の加熱温度は明確でない点。

3.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
(1)相違点1について
本願出願当時、インクジェット記録装置に使用するインクであって耐候性・インク定着性等に優れたインクとして、「顔料、熱可塑性樹脂、分散剤を水性媒体に含有させたインク」(以下「顔料分散インク」という。)は周知であり(例えば、特開平5-1254号公報、特開平8-258254号公報、特開平6-212106号公報、特開平7-34017号公報、特開平8-85218号公報、特開平7-32721号公報、特開平6-219039号公報又は特開平8-41394号公報を参照。)、この顔料分散インクを引用発明に使用できない理由はない。
すなわち、周知の顔料分散インクを引用発明のインクとして採用することにより、相違点1に係る本願発明の構成をなすことは設計事項である。

(2)相違点2について
引用例の記載エ,キによれば、引用発明の加熱手段は廃液(廃インク)が蒸発し終えるまで加熱し固形分だけを残すものであり、記載カには加熱温度を制御することも記載されている。そして、加熱温度が廃インクの沸点未満であれば、蒸発し終えるまでに相当の時間を要すること、及び加熱時間が長くなることが好ましくないことは自明である。
そうである以上、加熱温度を廃インクの沸点以上とすることは当業者にとって想到容易であるといわざるを得ない。
また、顔料分散インクを採用することが設計事項であることは(1)で述べたとおりであるが、顔料分散インク中の熱可塑性樹脂の多くは、その最低造膜温度(MFT)が100℃未満であり(例えば前掲特開平6-212106号公報参照)、このような熱可塑性樹脂を有する顔料分散インクを採用した場合に、廃インクの沸点以上(100℃以上)に加熱すれば廃インクの熱可塑性樹脂を造膜させることは理の当然である。そして、引用発明では、固形分だけを残すのであるから、固形分である熱可塑性樹脂が造膜して不都合な理由はない。
そうである以上、相違点2に係る本願発明の構成をなすことも、当業者にとって想到容易といわざるを得ない。

(3)本願発明の進歩性の判断
相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成を採用することは設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
請求人は「本願請求項7の発明は、インクを構成する熱可塑性樹脂の造膜作用を積極的に利用して、熱可塑性樹脂を造膜させて固化させて漏れ出しを防止するとともに、液成分を蒸発させて収容すべきインクの体積を減少させるという顕著な効果を奏するものである。」(平成14年4月11日付け手続補正書(方式)3頁12〜15行)と主張するが、熱可塑性樹脂が造膜すれば漏れ出しを防止できることは、熱可塑性樹脂の性質から当然予測できる作用効果にすぎない。
したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-08-03 
結審通知日 2004-08-04 
審決日 2004-08-17 
出願番号 特願平8-282730
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 圭伸  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 津田 俊明
小沢 和英
発明の名称 インクジェット記録装置用廃インクタンク及びインクジェット記録装置  
代理人 西川 慶治  
代理人 木村 勝彦  

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