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審決分類 審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A47L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A47L
管理番号 1104342
異議申立番号 異議2001-73199  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-11-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-11-28 
確定日 2004-07-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3170726号「電気掃除機」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3170726号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 [1]手続きの経緯
特許第3170726号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成4年4月15日に特許出願され、平成13年3月23日にその発明について特許権の設定登録がされた後、その特許について、平成13年11月28日に特許異議申立人近藤惠子より特許異議の申立てがなされ、平成14年6月18日に取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年8月19日に訂正請求がされたものである。

[2]訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
1)願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載を以下のとおり訂正する。
「【請求項1】 集塵室、ブロアモータ等を内蔵し、前車輪と一対の主車輪を備えた掃除機本体を移動させて床面上の塵埃等を吸引する電気掃除機において、
前記主車輪の外径が掃除機本体の全長の50%以上の大きさに設定され、その外周の一部が前記掃除機本体の後端面及び底面の外側にあり、前記掃除機本体の天面が前記主車輪の外周の外側にあり、
前記掃除機本体の重心が、前記前車輪と主車輪が床面に接触した状態で前記主車輪の外周内で前記主車輪の車軸の前方かつ上方であり、かつ前記主車輪と掃除機本体の後端面の天面側に突設された突起部が床面に接触した状態で前記主車輪の車軸を通り床面に垂直な線の天面側にある、
ように構成されたことを特徴とする電気掃除機。」
2)同明細書の段落【0002】を下記のとおり訂正する。
「図11は従来の電気掃除機の一例を示す側面図である。図において、1はブロワモードや集塵室などを内蔵した掃除機本体で、2はその前車輪、3は一対の主車輪、4は主車輪3の車軸、5は上ハンドルである。6は一端に掃除機本体1とのジョイント部7を有し、他端に手元スイッチを備えた手元パイプ8が設けられたホース、9は手元パイプ8に連結された延長パイプ、10は延長パイプ9の先端部に装着された床ブラシである。なお、25は床面、Gは掃除機本体1の重心である。」
3)同明細書の段落【0004】を、下記のとおり訂正する。
「しかしながら、棚の上、天井あるいはカーテンの上部等を掃除するような場合は、掃除機本体1をそのままの状態にしておいたのでは床ブラシ10(又は他のアタッチメント)が届かないので、上ハンドル5を持って掃除機本体1を持上げて掃除を行なうか、あるいは図12に示すようにホース6を引張って掃除機本体1を床面25上に立てて掃除を行なっていた。
このような操作は使用者の手や腕に相当な負担がかかるため、連続して上記のような立体掃除を行なうことは困難である。このような問題が発生するのは、掃除機本体1の重心Gと、主車輪3の車軸4間の距離Lgが長いためである。」
4)同明細書の段落【0005】を、下記のとおり訂正する。
「このような問題を解決するために、図13、図14、図16に示すような電気掃除機が提案されている。図13に示す電気掃除機は、掃除機本体1の両側に、掃除機本体1より大きい主車輪3を取付けたものであるが、このような電気掃除機においては、掃除中にホース6のジョイント部7が床面25に当り、床面25に傷をつけてしまうので、実用的ではない。」
5)同明細書の段落【0006】を、下記のとおり訂正する。
「また、図14に示す電気掃除機は、前車輪2と主車輪3を有し、特に主車輪3の外径Dを掃除機本体1の全高Hより大きく、かつ主車輪3の外周が掃除機本体1の後端面より後方にあるように掃除機本体1に装着したものである。
このような電気掃除機においては、主車輪3の外周が掃除機本体1の外端面より後方にあるため、掃除機本体1を立てて使用することができず、また、図15に示すような状態が発生すると、掃除機本体1の天面11の前部が床面25に衝突して床面25を傷つけてしまうので、常にホース6を引張って掃除機本体1の前部を持上げていなければならず、きわめて使い勝手が悪い。」
6)同明細書の段落【0007】を、下記のとおり訂正する。
「図16に示す電気掃除機は、主車輪3の車軸4を前方に移動させて重心Gに近づけたものであるが、この場合、図12のような状態で使用しようとすると、掃除機本体1の後端面13の角部が床面25に衝突し、床面25を傷つけてしまうという問題がある。また、図12のような使用状態にするため掃除機本体1を立たせようとすると、支点が掃除本体1の後端面13の角部になるため重心Gからの距離が離れてしまう。このため、腕などの負担は軽減されず、使用者の疲労が大きい。
7)同明細書の段落【0009】を、下記のとおり訂正する。
「【課題を解決するための手段】
本発明に係る電気掃除機は、主車輪の外径が掃除機本体の全長の50%以上の大きさに設定され、その外周の一部が前記掃除機本体の後端面及び底面の外側にあり、前記掃除機本体の天面が前記主車輪の外周の外側にあり、掃除機本体の重心が、前車輪と主車輪が床面に接触した状態で主車輪の外周内で主車輪の車軸の前方かつ上方であり、かつ主車輪と掃除機本体の後端面の天面側に突設された突起部が床面に接触した状態で主車輪の車軸を通り床面に垂直な線の天面側にある、ように構成されたことを特徴とするものである。」
8)同明細書の段落【0010】【0012】【0023】【0024】【0025】【0026】【0027】【0042】を削除する。
9)同明細書の段落【0011】を、下記のとおり訂正する。
「【作用】
本発明のように主車輪の外径を掃除機本体の全長の50%以上の大きさにし、その外周の一部が掃除機本体の後端面及び底面の外側にあり、掃除機本体の天面が主車輪の外周の外側にあるように設定するとともに、掃除機本体の重心位置を主車輪の外周内でかつ掃除機本体を床面上に立てた状態下で主車輪の車軸を通り床面に垂直な線の天面側にあるように設定することにより、重心と車軸との距離が短かくなって、小さい持ち上げ力で掃除機本体を立てることができる。、また、掃除機本体を立てる際は掃除機本体を車軸を中心に回動させる操作だけでよく、しかも回動途中でその後端面が床面に接触することもなくなる。さらに、掃除機本体を床面上に立てたときに安定してその位置を保持させることができ、かつコンパクトに格納することができる。」
10)同明細書の段落【0015】を、下記のとおり訂正する。
「表1は本実施例に係る図2の掃除機本体1を差込部14を、持上げて床面25上に立てるときに要する力Fを実測したデータ、及び従来の掃除機本体を床面に立てるときに要する力Fを実測したデータを示すものである。なお、図2において、Lは掃除機本体1の全長、Lgは車軸4と重心G間の距離、Ldは車軸4と主車輪3の外周までの距離、したがって主車輪3の半径、Dは主車輪3の直径である。また、表1中のタイプAは本実施例に係る電気掃除機、タイプBは図11で説明した従来の電気掃除機、タイプCは図16で説明した従来の電気掃除機を示す。」
11)同明細書の段落【0016】の【表1】におけるタイプC1のLdの値「122」を「49.5」に、タイプC2のLdの値「75」を「71.5」に、タイプC3のLdの値「155」を「67」に、それぞれ訂正する。
12)同明細書の段落【0017】を、下記のとおり訂正する。
「表1から明らかなように、持ち上げ力Fは、重心Gと車軸4間の距離Lgが短かいほど小さくなることがわかる。しかしながら、タイプC(図16の電気掃除機)の場合は、持ち上げ力Fは途中まで比較的小さいが、掃除機本体1の後端面13が床面25に当接したのちは、持ち上げ力Fは非常に大きくなる。
したがって、本実施例のように構成すれば、重心Gと車軸4との間の距離Lgが短かくなるので、小さい持ち上げ力Fで掃除機本体1を立てることができ、途中で掃除機本体1の後端面が床面25に接触することもなく、立てたのちは安定してその位置に保持される。」
13)同明細書の段落【0018】を、下記のとおり訂正する。
「以上のように、例えば棚の上、天井、カーテンなとどの部屋の上部を立体的に掃除する場合も、掃除機本体1を小さい力で簡単に立てることができるので、手や腕などの負担を軽減することができる。
また、敷居などの段差を乗り越える場合も、前車輪2が簡単に床面25から離れるので、力を入れずに掃除機本体1を移動させることができる。さらに、直立した状態から通常の状態に戻す場合も、床面25に対する衝撃が小さいので、床面25に傷をつけることがない。」
14)同明細書の段落【0020】を、下記のとおり訂正する。
「一般に掃除機本体の重心は、その全長Lの2分1よりやや後方にある。これは、掃除機本体1の前方部に集塵室15が配設され、その後方にブロアモータなどが設けられているためである。本実施例によれば、簡単な構成で第1の実施例を実現することができる。」
15)同明細書の段落【0028】を、下記のとおり訂正する。
「実施例4
図5は本発明の第4の実施例の説明図である。本実施例においては、掃除機本体1を通常の状態で床面25上に置いた場合、重心Gが主車輪3の外周内において車軸4の前方でかつ上方、即ち、第2象限内に位置するように構成したものである。
このように構成した本実施例において、いま、下ハンドル16を持上げると、前車輪2が床面25から離れ、掃除機本体1は車軸4を中心として回転しながら立ち上り、最終的には床面25に当接して停止する。このとき、重心Gは車軸4を中心に時計回りで車軸4の真上を通過する(反対側の側面では重心Gは反時計回りになる)。そして、重心Gが車軸4の真上を通過したのちは、力を入れなくても掃除機本体1は自力で立ち上る。」
16)同明細書の段落【0031】を、下記のとおり訂正する。
「実施例5
図6は本発明の第5の実施例の説明図で、19は掃除機本体1に内蔵したブロワモータ、20は同じくコードリールである。
本実施例においては、モータ19及びコードリール20を、その重心GM及びGCがそれぞれ車軸4の前方かつ上方、即ち、第2象限に位置するように掃除機本体1内に配設したものである。」
17)同明細書の段落【0034】を、下記のとおり訂正する。
「実施例6
周知のように電気掃除機の使用にあたっては、掃除機本体をホースで引張りながら前後に移動させ、あるいは左右に旋回させて掃除を行なっている。この場合、前後の移動は主として主車輪に依存し、旋回は主として前車輪に依存しており、旋回にあたっては、小さい力でかつ小さい回転半径で操作しうることが望ましい。」
18)同明細書の段落【0035】を、下記のとおり訂正する。
「図7は本発明に係る第6の実施例の説明図である。本実施例においては、車軸4から前車輪2までの距離Lwを、車軸4から重心Gまでの距離Lgのほぼ2倍、即ち、2Lg≧Lwとし、その位置に前車輪2を設けたものである。」
19)同明細書の段落【0036】を、下記のとおり訂正する。
「本発明の発明者等は、本発明に係る掃除機本体1の旋回機能について種々試験を行ない、回転半径、回転力及び転倒について多くのデータを得た。ここに、回転半径とは、図8に示すように主車輪3の床面25への接触点3Pから前車輪2の旋回軌跡までの距離Wbをいい、回転力Tとは、ホース6をもって掃除機本体1を旋回させるときに要する力をいう。」
20)同明細書の段落【0037】を、下記のとおり訂正する。
「図9は車軸4と前車輪2間の距離Lwを、車軸4から重心Gまでの距離Lgの2倍以上、即ち、2Lg<Lwとした場合(以下ケースYとする)、図10はLg=Lwとした場合(以下ケースZとする)を示すものである。なお、図7に示した本実施例をケースXとする。
上記のようなX、Y、Zの各例についてそれぞれ5回ずつ試験を行なった結果を表2に示す。」
21)同明細書の段落【0041】を、下記のとおり訂正する。
「【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、主車輪の外径が掃除機本体の全長の50%以上の大きさに設定され、その外周の一部が前記掃除機本体の後端面及び底面の外側にあり、掃除機本体の天面が主車輪の外周の外側にあり、掃除機本体の重心が、前車輪と主車輪が床面に接触した状態で主車輪の外周内で主車輪の車軸の前方かつ上方であり、かつ主車輪と掃除機本体の後端面の天面側に突設された突起部が床面に接触した状態で主車輪の車軸を通り床面に垂直な線の天面側にあるように構成されたことで、重心と車軸との距離が短かくなって、小さい持ち上げ力で掃除機本体を立てることができ、立体掃除などの際に腕や手などへの負担を軽減することができる。また掃除機本体を立てる際は掃除機本体を車軸を中心に回動させる操作だけでよく、しかも回動途中でその後端面が床面に接触することがないため、床面を傷つけることもなくなる。さらに掃除機本体を床面上に立てたときに安定してその位置に保持させることができて、コンパクトなスペースに格納することができる。」
22)同明細書の図面の簡単な説明を、下記のとおり訂正する。
「【図1】
本発明の第1の実施例の説明図である。
【図2】
第1の実施例の作用説明図である。
【図3】
本発明の第2の実施例の説明図である。
【図4】
本発明の第3の実施例の説明図である。
【図5】
本発明の第4の実施例の説明図である。
【図6】
本発明の第5の実施例の説明図である。
【図7】
本発明の第6の実施例の説明図である。
【図8】
図7の底面図である。
【図9】
第6の実施例の比較例の説明図である。
【図10】
第6の実施例の比較例の説明図である。
【図11】
従来の電気掃除機の一例の説明図である。
【図12】
図11の電気掃除機の作用説明図である。
【図13】
従来の電気掃除機の他の例の説明図である。
【図14】
従来の電気掃除機の他の例の説明図である。
【図15】
図14の電気掃除機の作用説明図である。
【図16】
従来の電気掃除機の他の例の説明図である。
【符号の説明】
1 掃除機本体
2 前車輪
3 主車輪
4 車軸
11 天面
12 底面
13 後端面
15 集塵室
17 突起部
19 ブロアモータ
25 床面」
23)願書に添付した図面を、下記のとおり訂正する。
a)図4からθ、G1、P1及びその対応部分を削除する。
b)図6から符号18及びその引き出し線を削除する。
c)図5を削除し、以下図番を繰り上げ、図6〜図17を、図5〜図16とする。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項1)は、請求項2を削除するとともに、請求項1について、願書に添付した明細書の段落【0021】【0022】【0028】【0031】〜【0033】及び、図4、6、7の記載を根拠として「掃除機本体の重心」の位置を「前車輪と主車輪が床面に接触した状態で前記主車輪の外周内で前記主車輪の車軸の前方かつ上方であり、かつ前記主車輪と掃除機本体の後端面の天面側に突設された突起部が床面に接触した状態で前記主車輪の車軸を通り床面に垂直な線の天面側にある」と限定し、また、請求項1に「掃除機本体を床面上に立てた状態」とあったのを、「主車輪と掃除機本体の後端面の天面側に突設された突起部が床面に接触した状態」とすることにより、掃除機本体を立てた状態についてを明確化を図るものであるから、特許請求の範囲の減縮ないしは明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正事項23)は、上記訂正事項1)に伴い整合性を図るために、願書に添付した図4及び図6を修正し、図5を削除して以下図番を繰り上げたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、しかも、当該訂正事項は、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
訂正事項2)〜10)、13)、15)〜22)は、上記訂正事項1)及び23)に伴なって整合性を図るため、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明中の対応する箇所を訂正するものであるから、いずれも明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、しかも、当該訂正事項は、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
訂正事項11)は、願書に添付した明細書の段落【0015】に基づいて【表1】におけるタイプC1〜C3の各Ldの値を明確にしたものであり、明りょうでない記載の釈明を目的としたものに相当し、しかも、当該訂正事項は、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
訂正事項12)は、願書に添付した明細書に「持ち上げ力Fは、掃除機本体1の重量や主車輪3の径Dに関係なく、重心Gと車軸4間の距離Lgが短かいほど小さくなることがわかる」とあるのを、「持ち上げ力Fは、重心Gと車軸4間の距離Lgが短かいほど小さくなることがわかる」と訂正するものであるが、この訂正は、同明細書の【表1】に基づき、車軸と掃除機本体の重心との距離が持ち上げ力Fに影響することを正しく説明するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。また、当該訂正事項12)は、「図17」を「図16」とするものであるが、この訂正は、上記訂正事項23)に伴なって明細書と図面の整合性を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としたものに該当する。しかも、当該訂正事項は、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものとも認められない。
訂正事項14)は、願書に添付した明細書の「したがって、主車輪3の外形Dを掃除機本体1の全長Lの50%以上の大きさにすれば、仮りに重心Gの位置がわからなくても、重心Gが主車輪3の外周内に位置することになる。」なる記載を削除し、主車輪の外径を掃除機本体の全長の50%以上の大きさにしても、必ずしも掃除機本体の重心は上記主車輪の外周内に位置するわけではないことを明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、しかも、当該訂正事項は、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものとも認められない。
なお、訂正図面において、図1の「主軸」、図8の符号「4」は、それぞれ、「車軸」、「3P」の誤記であると認められる。

3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]特許異議の申立てについての判断
1.本件発明
上記[2]で示したように上記訂正は認められるから、本件発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。(上記[2]1.1)参照。)

2.異議申立ての理由
異議申立人は、甲第1号証(特開平5-285072号)、甲第2号証(意匠登録第521833号公報)、甲第3号証(特開昭61-52833号公報)を提示し、1)平成11年9月28日及び平成12年12月18日にした補正は、明細書及び図面の要旨を変更するものであるので、本件特許出願は、特許法の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第2条第2項の規定により、なお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第40条の規定により、本件特許出願は、手続補正書を提出した時にしたものとみなされ、特許法請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができない、2)請求項1及び2に係る発明は、甲第2号証および甲第3号証に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、3)請求項2に係る発明において、「支承部材」を設ける技術的意義が不明確であり、本件特許は、特許法第36条第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、当該特許は取り消されるべきであると主張している。

3.当審において通知した取消理由の概要
1)本件特許に係る特許出願は、特許法第36条第4項及び第5条に規定する要件を満たしていない。
2)請求項1及び2に係る発明は、刊行物1(異議申立人の提示した甲第3号証)に記載の発明及び刊行物2(異議申立人の提示した甲第2号証)に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.引用刊行物に記載された発明
1)当審が通知した取消理由において引用した上記刊行物1には、図面とともに次の事項が記載されている。
(i)「本発明は掃除機本体を立てた状態においても使用や格納ができるタイプの電気掃除機に関するものである。」(第1頁左下欄第16行乃至18行)
(ii)「本発明の電機掃除機は本体後部の下部、上部及びその中間部の3ケ所に上記本体を立てるためのレストを配置し、下部と中間部、中間部と上部のそれぞれ2ケ所のレストで2方向に本体を立てられるように構成し、本体の上面側に倒れることの防止や使用性の向上を図ったものである。」(第2頁左上欄第4行乃至第9行)
(iii)「前記本体下20の後部上方には本体上34を取り付けることにより電気掃除機24やコード巻取装置(図示せず)を内蔵保持するものである。35はバンパーで前記本体下20と本体上34及びダスト蓋29間に設置されている。」(第2頁右上欄第9行乃至第13行)
(iv)「39,40は本体下20の下部に配設した移動用の前輪と後輪である。前記後輪40はその外周面が本体下20の後面より突出するように配置されており、本体下20の後面上方に設けたレスト41と同一突出高さに設定して第5図に示すようにレストの役目もし掃除機本体を立てて使用したり、又格納ができるようになっている。42は前記レスト41のさらに上方かつ、前側に位置させて格納蓋38の後面部に設けた受部で、第6図の示すように若干上面側に傾斜した状態で立てられるようにしたものである。第5図、第6図の中に示すGは掃除機本体の重心で、第5図及び第6図のように立てた状態で重心Gは後輪40とレスト41の間及びレスト41と受部42の間にそれぞれ位置するように立てた状態での床面への接地部を配置したもので、立てた状態から本体が倒れにくいようにしている。」(第2頁右上欄第18行乃至左下欄第15行)
(v)「通常掃除機本体を立てて使用する場合は第5図に示す状態にするが、電動送風機23の運転、停止をしたり、手や足が当る等の振動や衝撃あるいはホース26に引張力が加わったりすると掃除機本体が倒れることがある。この場合、掃除機本体が上面側に倒れる場合は第6図の状態で倒れが停止されるようになっている。」(第2頁右下欄第1行乃至第8行)
(vi)また、第5、第6図等の記載からみて、「後輪」は「本体下」の底面側より突出するとともに「本体上」の天面は上記「後輪」の外周の外側にあり、また、「掃除機本体の重心」は、掃除機本体を立てた状態において「後輪」の車軸よりも上方にあるものと看取できる。
したがって、刊行物1には、上記記載事項及び図面の図示内容等からみて、
「電動送風機やコード巻取装置を内蔵し、移動用の前輪と後輪を掃除機本体に備えた電気掃除機において、後輪の外周が本体下の後面及び底面より突出するように配設され、本体上の天面が前記後輪の外周の外側にあり、掃除機本体の重心が、該本体を立てた状態で、後輪の車軸より上方であり、かつ、後輪と本体下の後面上方に設けたレストとの間に位置するように構成された電気掃除機。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

2)同上記刊行物2には、第2頁各画図等からみて、「主車輪の外径が掃除機本体の全長の50%以上の大きさに設定され」ること(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

5.対比・判断
1)そこで、本件発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「電動送風機やコード巻取装置」は、電気掃除機が一般的に備える内蔵機器類を例示したものであるから、本件発明における「集塵室、ブロアモータ等」に相当し、「移動用の前輪と後輪を掃除機本体に備えた電気掃除機」は、移動させながら床面上の塵埃等を吸引除去するものに他ならないから、「前車輪と一対の主車輪を備えた掃除機本体を移動させて床面上の塵埃等を吸引する電気掃除機」に相当する。また、引用発明1において「後輪の外周が本体下の後面及び底面より突出するように配設され、本体上の天面が前記後輪の外周の外側にあり」とする点は、本件発明において、主車輪を、「その外周の一部が前記掃除機本体の後端面及び底面の外側にあり、前記掃除機本体の天面が前記主車輪の外周の外側にあり」とすることに相当する。さらに、引用発明1における「本体下の後面上方に設けたレスト」は、本件発明の「掃除機本体の後端面の天面側に突設された突起部」に相当するから、引用発明1において、掃除機本体の重心位置を「立てた状態で、後輪と本体下の後面上方に設けたレストとの間に位置するように構成」した点は、本件発明において、該重心位置を「主車輪と掃除機本体の後端面の天面側に突設された突起部が床面に接触した状態で前記主車輪の車軸を通り床面に垂直な線の天面側にある、ように構成」したことに相当する。
したがって、両者は、「集塵室、ブロアモータ等を内蔵し、前車輪と一対の主車輪を備えた掃除機本体を移動させて床面上の塵埃等を吸引する電気掃除機において、前記主車輪の外周の一部が前記掃除機本体の後端面及び底面の外側にあり、前記掃除機本体の天面が前記主車輪の外周の外側にあり、前記掃除機本体の重心が、前記主車輪と掃除機本体の後端面の天面側に突設された突起部が床面に接触した状態で前記主車輪の車軸を通り床面に垂直な線の天面側にある、ように構成された電気掃除機」である点で一致し、下記の点で相違する。
(a)本件発明では、主車輪の外径を、「掃除機本体の全長の50%以上の大きさに設定」するとともに、前記掃除機本体の重心を、「前車輪と主車輪が床面に接触した状態で前記主車輪の外周内で前記主車輪の車軸の前方かつ上方である」ように配設しているのに対し、引用発明1では、主車輪が掃除機本体に対してかかる大きさに設定されず、かつ、掃除機本体の重心について、前車輪と主車輪が床面に接触した状態での配設位置が明示されていない点。

2)上記相違点(a)について検討する。主車輪と掃除機本体の後端面とが床面に接触するように立てた状態を安定的に保持しうる条件について考察するに、仮に、掃除機本体の重心が前車輪と主車輪が床面に接触した状態において主車輪の車軸の下方にあったとすれば、これを上記立てた状態へと移行したときには、重心位置が主車輪の車軸を通り床面に垂直な線の天面側に位置するとは限らず、掃除機本体の底面側へ倒れやすく不安定な状態となり易いことは明白であるから、引用発明において、立てた状態での安定保持を図るために、重心を、前車輪と主車輪が床面に接触した状態において掃除機本体の立ち上げ方向に予め寄せておくこと、すなわち、主車輪の車軸の上方に配することは、当業者ならば普通に配慮し得ることというべきである。また、掃除機本体を持ち上げる際の使用者の労力を低減するために上記重心及び車軸間の距離を短くすることは、本件訂正明細書の段落【0004】等の記載をまつまでもなく当業者には広く認識されており、また、そのようにするためには、重心よりは車軸の位置を変更すれば良いことも当業者に明らかであるところ、掃除機本体に、大径の主車輪、例えば、該本体全長の50%以上の大きさの主車輪を配することが引用発明2に開示されているのであるから、引用発明1における上記距離を低減するために、引用発明2のように主車輪を大径化し車軸位置を重心に近づけることは、当業者であれば容易に想到しうることというべきである。さらに、主車輪の外径を掃除機本体全長の50%以上とすることの臨界的意義については、本件の明細書及び図面全体の記載を参酌しても見いだすことはできず、また、掃除機本体の重心が主車輪の外周内であるか否かが、掃除機本体の立設状態を安定的に保持するための条件とも認められないから、主車輪の外径を「掃除機本体の全長の50%以上の大きさに設定」した点、重心を「主車輪の外周内」とした点は、当業者が適宜設計変更し得るものというべきである。

なお付言すると、特許権者は、平成14年8月19日付けの意見書において、参考図1及び2を提示して引用発明1及び2の組み合わせからは本件発明は容易になし得ない旨主張しているが、参考図1のように、掃除機本体が前傾するような設計を為すことは、実用面を考慮すれば、当業者において通常はあり得ず、また、参考図2のように、通常使用状態で掃除機本体の重心を主車輪の軸心よりも下方に配置すると、掃除機本体を立てた状態で安定的に保持できないことは上記考察のとおりであるから、かかる配置とすることも当業者において通常行わないことというべきであるので、この主張は当を得ないものである。

[4]むすび
以上のとおり、本件発明は、上記刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電気掃除機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 集塵室、ブロアモータ等を内蔵し、前車輪と一対の主車輪を備えた掃除機本体を移動させて床面上の塵埃等を吸引する電気掃除機において、
前記主車輪の外径が掃除機本体の全長の50%以上の大きさに設定され、その外周の一部が前記掃除機本体の後端面及び底面の外側にあり、前記掃除機本体の天面が前記主車輪の外周の外側にあり、
前記掃除機本体の重心が、前記前車輪と主車輪が床面に接触した状態で前記主車輪の外周内で前記主車輪の車軸の前方かつ上方であり、かつ前記主車輪と掃除機本体の後端面の天面側に突設された突起部が床面に接触した状態で前記主車輪の車軸を通り床面に垂直な線の天面側にある、
ように構成されたことを特徴とする電気掃除機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は電気掃除機に係り、さらに詳しくは、集塵室、ブロアモータ等を内蔵した電気掃除機本体の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図11は従来の電気掃除機の一例を示す側面図である。図において、1はブロワモータや集塵室などを内蔵した掃除機本体で、2はその前車輪、3は一対の主車輪、4は主車輪3の車軸、5は上ハンドルである。6は一端に掃除機本体1とのジョイント部7を有し、他端に手元スイッチを備えた手元パイプ8が設けられたホース、9は手元パイプ8に連結された延長パイプ、10は延長パイプ9の先端部に装着された床ブラシである。なお、25は床面、Gは掃除機本体1の重心である。
【0003】
電気掃除機の使用にあたっては、コード(図示せず)を電源に差込み、ホース6のジョイント部7を掃除機本体1に接続する。そして、使用者は手元パイプ8を握って手元スイッチを操作し、床ブラシ10を床面25に沿って移動させ、床面上の塵埃などを吸引させて掃除を行なう。
掃除が進むにつれて前車輪2及び主車輪3は床面25上を回転し、掃除機本体1を移動させる。
【0004】
しかしながら、棚の上、天井あるいはカーテンの上部等を掃除するような場合は、掃除機本体1をそのままの状態にしておいたのでは床ブラシ10(又は他のアタッチメント)が届かないので、上ハンドル5を持って掃除機本体1を持上げて掃除を行なうか、あるいは図12に示すようにホース6を引張って掃除機本体1を床面25上に立てて掃除を行なっていた。
このような操作は使用者の手や腕に相当な負担がかかるため、連続して上記のような立体掃除を行なうことは困難である。このような問題が発生するのは、掃除機本体1の重心Gと、主車輪3の車軸4間の距離Lgが長いためである。
【0005】
このような問題を解決するために、図13、図14、図16に示すような電気掃除機が提案されている。図13に示す電気掃除機は、掃除機本体1の両側に、掃除機本体1より大きい主車輪3を取付けたものであるが、このような電気掃除機においては、掃除中にホース6のジョイント部7が床面25に当り、床面25に傷をつけてしまうので、実用的ではない。
【0006】
また、図14に示す電気掃除機は、前車輪2と主車輪3を有し、特に主車輪3の外径Dを掃除機本体1の全高Hより大きく、かつ主車輪3の外周が掃除機本体1の後端面より後方にあるように掃除機本体1に装着したものである。
このような電気掃除機においては、主車輪3の外周が掃除機本体1の外端面より後方にあるため、掃除機本体1を立てて格納することができず、また、図15に示すような状態が発生すると、掃除機本体1の天面11の前部が床面25に衝突して床面25を傷つけてしまうので、常にホース6を引張って掃除機本体1の前部を持上げていなければならず、きわめて使い勝手が悪い。
【0007】
図16に示す電気掃除機は、主車輪3の車軸4を前方に移動させて重心Gに近づけたものであるが、この場合、図12のような状態で使用しようとすると、掃除機本体1の後端面13の角部が床面25に衝突し、床面25を傷つけてしまうという問題がある。また、図12のような使用状態にするため掃除機本体1を立たせようとすると、支点が掃除本体1の後端面13の角部になるため重心Gからの距離が離れてしまう。このため、腕などの負担は軽減されず、使用者の疲労が大きい。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、使い勝手がよく、使用に際しては床面に傷をつけるおそれがなく、しかも不使用時はコンパクトに格納することのできる電気掃除機を得ることを目的としたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る電気掃除機は、主車輪の外径が掃除機本体の全長の50%以上の大きさに設定され、その外周の一部が掃除機本体の後端面及び底面の外側にあり、掃除機本体の天面が主車輪の外周の外側にあり、掃除機本体の重心が、前車輪と主車輪が床面に接触した状態で主車輪の外周内で主車輪の車軸の前方かつ上方であり、かつ主車輪と掃除機本体の後端面の天面側に突設された突起部が床面に接触した状態で主車輪の車軸を通り床面に垂直な線の天面側にあるように構成されたことを特徴とするものである。
【0010】
【0011】
【作用】
本発明のように主車輪の外径を掃除機本体の全長の50%以上の大きさにし、その外周の一部が掃除機本体の後端面及び底面の外側にあり、掃除機本体の天面が主車輪の外周の外側にあるように設定するとともに、掃除機本体の重心位置を主車輪の外周内でかつ掃除機本体を床面上に立てた状態下で主車輪の車軸を通り床面に垂直な線の天面側にあるように設定することにより、重心と車軸との距離が短かくなって、小さい持ち上げ力で掃除機本体を立てることができる。また、掃除機本体を立てる際は掃除機本体を車軸を中心に回動させる操作だけでよく、しかも回動途中でその後端面が床面に接触することもなくなる。さらに、掃除機本体を床面上に立てたときに安定してその位置に保持させることができ、かつコンパクトに格納することができる。
【0012】
【0013】
【実施例】
実施例1
図1は本発明の第1の実施例の説明図である。図において、1はブロワモータ、集塵室などを内蔵した掃除機本体で、11はその天面、12は底面、13は後端面である。2は底面12の前部側に取付けられた前車輪、3は掃除機本体1の両側後部に設けた一対の主車輪で、4はその車軸、5は天面11に設けた上ハンドルである。
6はホースで、一端には掃除機本体1の前面に設けた差込部14(図2)に連結するジョイント部7が設けられており、他端には手元スイッチを備えた手元パイプ(図示せず)が取付けられている。25は床面、Gは掃除機本体1の重心である。
【0014】
本実施例においては、図1に示すように、掃除機本体1の重心は、主車輪3の外周の内側に位置しており、また、主車輪3の外周の一部は、掃除機本体1の底面12及び後端面13より外側に位置している。このため、掃除機本体1の重心Gと主車輪3の車軸4間の距離Lgを従来より短かくすることができる。
【0015】
表1は本実施例に係る図2の掃除機本体1を差込部14を、持上げて床面25上に立てるときに要する力Fを実測したデータ、及び従来の掃除機本体を床面に立てるときに要する力Fを実測したデータを示すものである。なお、図2において、Lは掃除機本体1の全長、Lgは車軸4と重心G間の距離、Ldは車軸4と主車輪3の外周までの距離、したがって主車輪3の半径、Dは主車輪3の直径である。また、表1中のタイプAは本実施例に係る電気掃除機、タイプBは図11で説明した従来の電気掃除機、タイプCは図16で説明した従来の電気掃除機を示す。
【0016】
【表1】

【0017】
表1から明らかなように、持ち上げ力Fは、重心Gと車軸4間の距離Lgが短かいほど小さくなることがわかる。しかしながら、タイプC(図16の電気掃除機)の場合は、持ち上げ力Fは途中まで比較的小さいが、掃除機本体1の後端面13が床面25に当接したのちは、持ち上げ力Fは非常に大きくなる。
したがって、本実施例のように構成すれば、重心Gと車軸4との間の距離Lgが短かくなるので、小さい持ち上げ力Fで掃除機本体1を立てることができ、途中で掃除機本体1の後端面が床面25に接触することもなく、立てたのちは安定してその位置に保持される。
【0018】
以上のように、例えば棚の上、天井、カーテンなどの部屋の上部を立体的に掃除する場合も、掃除機本体1を小さい力で簡単に立てることができるので、手や腕などの負担を軽減することができる。
また、敷居などの段差を乗り越える場合も、前車輪2が簡単に床面25から離れるので、力を入れずに掃除機本体1を移動させることができる。
さらに、直立した状態から通常の状態に戻す場合も、床面25に対する衝撃が小さいので、床面25に傷をつけることがない。
【0019】
実施例2
図3は本発明の第2の実施例の説明図である。なお、15は掃除機本体1内に配設された集塵室である。本実施例においては、第1の実施例において、主車輪3の径Dを掃除機本体1の全長Lの50%以上の大きさ、即ち、D>L/2としたものである。
【0020】
一般に掃除機本体の重心は、その全長Lの2分1よりやや後方にある。これは、掃除機本体1の前方部に集塵室15が配設され、その後方にブロアモータなどが設けられているためである。本実施例によれば、簡単な構成で第1の実施例を実現することができる。
【0021】
実施例3
図4は本発明の第3の実施例の説明図で、掃除機本体1を床面25上に立てた状態を示す。なお、16は掃除機本体1の底面に設けた下ハンドル、17は後端面13の天面11側に主車輪3の外周と同一平面までの高さに突設された突起部である。
本実施例においては、掃除機本体1を立てた状態で、主車輪3を車軸4を中心に右上から反時計回りで第1、第2、第3、第4象限とし、掃除機本体1を立てて主車輪3の外周と突起部17が床面25に当接して停止したときに、重心Gが第1象限、すなわち、車軸4を通る床面25に垂直な線Pより天面11側でかつ車軸4より前方に位置するように構成したものである。
【0022】
上記のように構成した本実施例において、いま、掃除機本体1を仮床面25a上に倒す(通常の状態に戻す)と、重心Gは第2象限に位置する。そして、下ハンドル16を持って掃除機本体1を徐々に立てると、重心Gは第2象限から第1象限に移り、突起部17が床面25に当接して停止する。
ここで、掃除機本体1を立てたとき、重心Gが第2象限上にあったとすれば、掃除機本体1は仮床面25a側に倒れ易く、きわめて不安定な状態にある。また、重心Gが第3象限に位置したとすれば、突起部17が床面25に当接しない状態で停止するため、大へん不安定な状態になる。しかし、本実施例のように構成することにより掃除機本体1を安定して立てることができるので、掃除中は勿論格納の際にもきわめて安定性がよく、電気掃除機をコンパクトに収納することができる。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
実施例4
図5は本発明の第4の実施例の説明図である。本実施例においては、掃除機本体1を通常の状態で床面25上に置いた場合、重心Gが主車輪3の外周内において車軸4の前方でかつ上方、即ち、第2象限内に位置するように構成したものである。
このように構成した本実施例において、いま、下ハンドル16を持上げると、前車輪2が床面25から離れ、掃除機本体1は車軸4を中心として回転しながら立ち上り、最終的には床面25に当接して停止する。このとき、重心Gは車軸4を中心に時計回りで車軸4の真上を通過する(反対側の側面では重心Gは反時計回りになる)。そして、重心Gが車軸4の真上を通過したのちは、力を入れなくても掃除機本体1は自力で立ち上る。
【0029】
ところで、掃除機本体1の重心Gが他の象限内に位置していた場合はどうであろうか。先ず、重心Gが第3象限に位置する場合は、上記のような動作において、重心Gが車軸4の真上に達したときは、掃除機本体1は直立を過ぎた状態になっているので、直立させるまで大きな力を必要とする。
一方、重心Gが第1象限又は第4象限にある場合は、前車輪2は床面25から離れた状態になっている。このため、掃除中前車輪2は床面25上を常に弾みながら移動するので、騒音が発生したり床面25に傷がついたりして好ましくなく、また、車軸4だけに荷重が加わるため、車軸4の磨耗が激しいなどの問題がある。
【0030】
本実施例においては重心Gが第2象限にあるため上記のような問題が発生せず、また、重心Gは掃除機本体1の中心部近傍に位置するため、上ハンドル5を手に持って移動する場合においてもバランスがよく、運搬に便利である。
【0031】
実施例5
図6は本発明の第5の実施例の説明図で、19は掃除機本体1に内蔵したブロワモータ、20は同じくコードリールである。
本実施例においては、モータ19及びコードリール20を、その重心GM及びGCがそれぞれ車軸4の前方かつ上方、即ち、第2象限に位置するように掃除機本体1内に配設したものである。
【0032】
掃除機本体1の重量は、通常、約3〜6kgであり、その中でモータ19は約1.5kg、コードリール20は約0.8〜1kgであって、これら2部品で掃除機本体1が内蔵する部品の総重量の大部分を占めており、したがって、掃除機本体1の重心Gの位置を左右する。
【0033】
従来の掃除機本体1の重心Gは、通常全高Hの約1/3の高さ位置にあった。ところで、第2の実施例(図3)のように、主車輪3の外径Dが掃除機本体1の全長Lの50%以上の大きさの電気掃除機においては、必然的に車軸4の位置が高くなり、掃除機本体1の重心Gは車軸4より下方になってしまう。
そこで、本実施例のように構成すれば、掃除機本体1の重心Gが高くなり、車軸4より上方に位置することになる。
【0034】
実施例6
周知のように電気掃除機の使用にあたっては、掃除機本体をホースで引張りながら前後に移動させ、あるいは左右に旋回させて掃除を行なっている。この場合、前後の移動は主として主車輪に依存し、旋回は主として前車輪に依存しており、旋回にあたっては、小さい力でかつ小さい回転半径で操作しうることが望ましい。
【0035】
図7は本発明に係る第6の実施例の説明図である。本実施例においては、車軸4から前車輪2までの距離Lwを、車軸4から重心Gまでの距離Lgのほぼ2倍、即ち、2Lg≧Lwとし、その位置に前車輪2を設けたものである。
【0036】
本発明の発明者等は、本発明に係る掃除機本体1の旋回機能について種々試験を行ない、回転半径、回転力及び転倒について多くのデータを得た。ここに、回転半径とは、図8に示すように主車輪3の床面25への接触点3Pから前車輪2の旋回軌跡までの距離Wbをいい、回転力Tとは、ホース6をもって掃除機本体1を旋回させるときに要する力をいう。
【0037】
図9は車軸4と前車輪2間の距離Lwを、車軸4から重心Gまでの距離Lgの2倍以上、即ち、2Lg<Lwとした場合(以下ケースYとする)、図10はLg=Lwとした場合(以下ケースZとする)を示すものである。なお、図7に示した本実施例をケースXとする。
上記のようなX、Y、Zの各例についてそれぞれ5回ずつ試験を行なった結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2から明らかなように、ケースYの例では回転力Tは小さく、また旋回に際して転倒することもないが、前車輪2が車軸4から離れた位置にあるため回転半径Wbが大きくなる。また、ケースZの例では回転半径Wbは小さいが、前車輪2は重心Gのほぼ直下にあるので、掃除機本体1の全重量が前車輪2に加わるため大きな回転力Tを必要とし、また、転倒も多くなる。
これに対してケースX、即ち本実施例においては、回転半径WbはケースYとZのほぼ中間にあり、回転力TはケースZの2分の1でケースYと等しく、転倒回数は0であった。
【0040】
このようなことから、車軸4と前車輪2間の距離Lwを、車軸4と重心Gまでの距離Lgのほぼ2倍、したがって、2Lg≧Lwとすることにより、小さい回転力Tにより小さい回転半径Wbで、転倒することなく掃除機本体1を旋回しうることが明らかになった。
【0041】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、主車輪の外径が掃除機本体の全長の50%以上の大きさに設定され、その外周の一部が掃除機本体の後端面及び底面の外側にあり、掃除機本体の天面が主車輪の外周の外側にあり、掃除機本体の重心が、前車輪と主車輪が床面に接触した状態で主車輪の外周内で主車輪の車軸の前方かつ上方であり、かつ主車輪と掃除機本体の後端面の天面側に突設された突起部が床面に接触した状態で主車輪の車軸を通り床面に垂直な線の天面側にあるように構成されたことで、重心と車軸との距離が短かくなって、小さい持ち上げ力で掃除機本体を立てることができ、立体掃除などの際に腕や手などへの負担を軽減することができる。また掃除機本体を立てる際は掃除機本体を車軸を中心に回動させる操作だけでよく、しかも回動途中でその後端面が床面に接触することがないため、床面を傷つけることもなくなる。さらに掃除機本体を床面上に立てたときに安定してその位置に保持させることができて、コンパクトなスペースに格納することができる。
【0042】
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の第1の実施例の説明図である。
【図2】
第1の実施例の作用説明図である。
【図3】
本発明の第2の実施例の説明図である。
【図4】
本発明の第3の実施例の説明図である。
【図5】
本発明の第4の実施例の説明図である。
【図6】
本発明の第5の実施例の説明図である。
【図7】
本発明の第6の実施例の説明図である。
【図8】
図7の底面図である。
【図9】
第6の実施例の比較例の説明図である。
【図10】
第6の実施例の比較例の説明図である。
【図11】
従来の電気掃除機の一例の説明図である。
【図12】
図11の電気掃除機の作用説明図である。
【図13】
従来の電気掃除機の他の例の説明図である。
【図14】
従来の電気掃除機の他の例の説明図である。
【図15】
図14の電気掃除機の作用説明図である。
【図16】
従来の電気掃除機の他の例の説明図である。
【符号の説明】
1 掃除機本体
2 前車輪
3 主車輪
4 車軸
11 天面
12 底面
13 後端面
15 集塵室
17 突起部
19 ブロアモータ
25 床面
【図面】
















 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2002-11-07 
出願番号 特願平4-95164
審決分類 P 1 651・ 832- ZA (A47L)
P 1 651・ 121- ZA (A47L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 増沢 誠一  
特許庁審判長 梅田 幸秀
特許庁審判官 門前 浩一
千壽 哲郎
登録日 2001-03-23 
登録番号 特許第3170726号(P3170726)
権利者 三菱電機株式会社 三菱電機ホーム機器株式会社
発明の名称 電気掃除機  
代理人 大村 昇  
代理人 大村 昇  
代理人 佐々木 宗治  
代理人 木村 三朗  
代理人 木村 三朗  
代理人 佐々木 宗治  
代理人 小林 久夫  
代理人 大村 昇  
代理人 小林 久夫  
代理人 小林 久夫  
代理人 木村 三朗  
代理人 佐々木 宗治  

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