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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C30B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C30B
管理番号 1104476
異議申立番号 異議2003-72734  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-11-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-04 
確定日 2004-10-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第3410380号「単結晶引上装置及び高純度黒鉛材料」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3410380号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件は、昭和62年7月13日に出願された特願昭62-174398号の特許出願(以下、「親出願」という)の一部を、特許法第44条第1項の規定により分割して新たな特許出願として、平成9年3月19日に出願された特願平9-66023号とし、更に当該特願平9-66023号の特許出願の一部を、特許法第44条第1項の規定により分割して新たな特許出願として、平成11年3月5日に出願されたものであって、本件特許第3410380号(平成15年3月20日設定登録)の発明の要旨は、特許明細書の記載からみて、特許請求の範囲の第1項乃至第4項に記載されたとおりの、
「1.単結晶引上装置に於いて、黒鉛ルツボ、黒鉛ヒーター及び黒鉛保温筒の少なくとも1種が、その全部において全灰分が5ppm以下あるとともに、高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化された高純度黒鉛材料から成ることを特徴とする単結晶引上装置。
2.前記深層部が、減圧下で不活性ガスにより置換され、常圧に戻されている請求項1記載の単結晶引上装置。
3.材料の全部において全灰分が5ppm以下あるとともに、前記材料の高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化された高純度黒鉛材料。
4.前記深層部が、減圧下で不活性ガスにより置換され、常圧に戻されている請求項3記載の高純度黒鉛材料。」
にあると認める(以下、「本件第1発明」乃至「本件第4発明」という)。

2.特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人イビデン株式会社が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:石川 敏功、長沖 通著「新・炭素工業」第1版第1刷(昭和55年10月20日)株式会社近代編集社 p.39,222
甲第2号証:化学工業日報 昭和61年8月8日
甲第3号証:特願平11-058267号の平成14年10月11日付け意見書
甲第4号証:特開昭61-97117号公報
甲第5号証:特開昭64-18986号公報
そして、特許異議申立人は、特許異議申立書において、
理由1-1:本件第1発明及び本件第2発明は、上記甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明、又は、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件第3発明及び本件第4発明は、甲第2号証又は甲第4号証に記載された発明であるか、又は甲第2号証又は甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定により特許を受けることができないものである旨、
理由1-2:親出願において、平成5年6月30日付けでされた明細書の補正は、明細書の要旨を変更する補正にあたるから、親出願の出願日は上記手続補正書が提出された平成5年6月30日となり、その場合、本件の出願日も平成5年6月30日となるが、そうであれば、甲第5号証は、本件の出願前に頒布された刊行物と云えるから、本件第1発明乃至本件第4発明は、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨、
理由2:本件特許明細書は、当業者が容易にその発明を実施し得る程度に記載されていないから、特許法第36条第3項(なお、異議申立書には「第4項」と記載されているが、異議申立の内容からみて、上記のように認定する)の規定に違反するものである旨、
を主張し、本件特許を取り消すべき旨主張している。

3.甲各号証の記載事項
3-1.甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(1-A)「黒鉛化工程では、大部分の不純物は高温度によって揮発し純度は著しく向上する。表2.8は黒鉛化による不純物の減少を示す一例10)である。この表からも明らかなように不純物元素はその種類によって減少率が大きく異なり、特にVとBは耐火性炭化物(refractory carbide)を生成するため、除去し難い元素とされている。したがって、このような不純物をきらう原子炉用黒鉛やSi、Geなど高純度金属精錬用の黒鉛材料などには、更に、2,500℃以上の高温でのハロゲンガスによる精製処理(純化)11)が一般的に行われている。この処理による純化効果の一例は表2.912)のようである。」(第38頁右欄第9行〜第39頁左欄第9行)
(1-B)「表2.9 高温純化による不純物の減少の一例」(第39頁右欄)
(1-C)「近年著しい発展を見ている半導体用シリコンの単結晶引き上げ装置(CZ法)では、図3.28にその一例を示すように原料シリコンは、黒鉛るつぼに内挿した石英るつぼ中で溶融するが、この加熱には、たて形の切り込み付黒鉛発熱体(vertical slotted tube element)が使用され、大形のものでは発熱体直径400mm程度にも達している。この場合にはもちろん高純度黒鉛材料が要求される。またこの断熱材には専ら黒鉛繊維(フェルト状)が用いられている。」(第222頁左欄第27行〜右欄第11行)
(1-D)「図3.28 シリコン単結晶引上げ装置(Czochralski(CZ)法)」(第222頁右欄)
3-2.甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(2-A)「東洋炭素は、超高純度黒鉛の製造技術を確立、生産を開始した。通常の黒鉛は純度が九九%程度だが、同社は特殊なガス処理によって九九・九九九九%(シックスナイン)以上の超高純度化を実現、不純物を一ppm(百万分の一)以下にした。半導体製造用のルツボやヒーターなどのほか黒鉛サセプター向けに本格供給を始めている。」
(2-B)「東洋炭素は、こうした従来の方法では、高純度化に限度があるとし、ガス処理に独自のノウハウを加えて九九・九九九九%以上の超高純度黒鉛の開発に成功した。詳細な製法については明らかにしていないが、特殊なガスを二-三種併用したCVD(化学的気相成長)によるものだとしている。含有する不純物濃度は一ppm以下となっており、灰分が全く検出されないことを確認している。」
3-3.甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(3-A)「通常、包装、運送、引上げ装置内に装着する作業は、クリーンルーム内で行われており、汚染されたとしても、汚染された部分の全灰分量は5ppm以下になるものと、当業者の間で考えられています。また、汚染された場合であっても、その汚染因子は、材料の表面から内部に向って拡散していくことは、当業者にとって常識であり、前述しましたように、クリーンルーム内での作業のため、汚染因子となる汚染物の絶対量も少なく、汚染因子が材料の深層部にまで至らず、表面部分のみが汚染されることは当業者にとって常識でありました。」(第2/3頁第10行〜第16行)
3-4.甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(4-A)「1.見掛比重1.75以上及び真比重2.15以上の黒鉛材を用いた肉厚10mm以上の炭素材精製用黒鉛容器。」(特許請求の範囲)
(4-B)「実施例1
セイロン産鱗状黒鉛粉25重量部(-100Mesh 100%)、ピッチコークス粉30重量部(-150Mesh 100%)、軟化点75℃のタールピッチ45重量部を混練、粉砕した成形粉をラバープレスにより静水加圧(1.5t/cm2)成形し、1000℃で焼成及び2700℃で黒鉛化しφ500×1000l(mm)の黒鉛材を作つた。その見掛比重は1.75、真比重2.15てあつた。この黒鉛材から第1図に示すような外径φ430×内径φ410×高さ800l(mm)の黒鉛容器を作つた。尚第1図において6は黒鉛容器本体、7はその蓋である。この黒鉛容器の中へ純化精製すべきφ400×50t(mm)の炭素材の円板を8枚入れ、第2図に示すように精製用電気炉内の黒鉛カプセル3の中に4のように入れ、同時に比較例1として同じ炭素材の円板を裸のまま黒鉛容器4と隣り合わせ(点線位置)に5枚入れた。そして黒鉛カプセルに電流を通じて4時間で2600℃に昇温させたのちCCl2F2ガスを10モル/時の速度で導入し乍ら5時間保持した。そのあと黒鉛カプセルに通じる電流を止め、冷却しながら、2000℃までCCl2F2ガスを10モル/時の速度で導入した。そのあとCCl2F2ガスを止め、高純度窒素に切り換えて常温まで冷却した。こうして精製処理した炭素材についてその中心部及び表面部の純度を発光分光分析により分析した。不純物元素の濃度に対応する写真乾板のスペクトル強度(黒化度)を読みとり第1表に示した。」(第2頁右下欄第3行〜第3頁左上欄第11行)
(4-C)「第1表」(第3頁右上欄)
3-5.甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(5-A)「本発明の黒鉛材料は、その全灰分(不純分)が5ppm以下特に好ましくは1ppm以下という極めて高純度のものであり、後記実施例からも明らかな通り、従来の黒鉛材料或いは従来法による高純度化黒鉛材料に比しその純度が極めて高い。」(第3頁左上欄第6行〜第10行)
(5-B)「前記表1に於ける分析値に示す如く、本発明装置に適用される黒鉛材としては、高純度化反応装置から取り出された状態での全灰分量としては1ppm以下、実質的に0ppm(検出されない程度)に近いものであるが、取り出されたあと、包装、運送、引上げ装置内に装着する作業工程等において、取扱い中、若干の汚染は避けられず、このため少なくとも5ppmの高純度化炭素材を使用するものである。」(第6頁右下欄第15行〜第7頁左上欄第3行)
(5-C)「また分析方法は発光分光分析法及び原子吸光分析法によった。数字の単位はppm、(-)印は「検出されず」を表す。」(第6頁右下欄第10行〜第12行)
(5-D)「尚、本発明の何れの材料に於いても、全灰分が5ppm以下であることが必要である。」(第6頁右下欄第13行〜第14行)

4.特許異議申立の判断
4-1.理由1-1について
4-1-1.本件第1発明及び本件第2発明について
甲第1号証には、(1-A)及び(1-B)の記載からみて、炭素材料の黒鉛化工程では、大部分の不純物は高温度によって揮発し純度は著しく向上すること、不純物をきらう原子炉用黒鉛やSi、Geなど高純度金属精錬用の黒鉛材料などには、更に、2,500℃以上の高温でのハロゲンガスによる精製処理(純化)が一般的に行われていることが記載されており、そして、そのような高温純化による不純物の減少の一例として、総灰分が5ppmのものが記載されている。
また、甲第1号証には、(1-C)及び(1-D)の記載からみて、半導体用シリコンの単結晶引き上げ装置(CZ法)では、黒鉛るつぼ、黒鉛発熱体及び専ら黒鉛繊維が用いられる断熱材が使用されており、そこでは高純度黒鉛材料が要求されることも記載されている。
そして、上記記載からみて、甲第1号証には、半導体用シリコンの単結晶引き上げ装置の黒鉛るつぼ、黒鉛発熱体及び専ら黒鉛繊維が用いられる断熱材の少なくとも1種に、高純度黒鉛材料が要求されることが記載されていると云え、そのような材料としては、例えば総灰分が5ppmに高純度化された高純度黒鉛材料があり、かつ、総灰分が5ppmに高純度化された高純度黒鉛材料は、その全部において全灰分が5ppmに高純度化されたものであることは明らかである。
そこで、甲第1号証の記載事項を、本件第1発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、
「半導体用シリコンの単結晶引き上げ装置に於いて、黒鉛るつぼ、黒鉛発熱体及び専ら黒鉛繊維が用いられる断熱材の少なくとも1種が、その全部において全灰分が5ppmに高純度化された高純度黒鉛材料から成ることを特徴とする半導体用シリコンの単結晶引き上げ装置」
の発明が記載されていると云える。
ここで、半導体用シリコンの単結晶引き上げ装置は、「単結晶引上装置」であり、黒鉛るつぼ、黒鉛発熱体及び専ら黒鉛繊維が用いられる断熱材は、それぞれ「黒鉛ルツボ」、「黒鉛ヒータ」及び「黒鉛保温筒」と云えるものであって、「その全部において全灰分が5ppmに高純度化された高純度黒鉛材料」は、「その全部において全灰分が5ppm以下に高純度化された高純度黒鉛材料」と云えるから、そうすると、甲第1号証には、
「単結晶引上装置に於いて、黒鉛ルツボ、黒鉛ヒーター及び黒鉛保温筒の少なくとも1種が、その全部において全灰分が5ppm以下に高純度化された高純度黒鉛材料から成ることを特徴とする単結晶引上装置」
の発明が記載されていると云える。
そして、本件第1発明と甲第1号証に記載された発明とを比較すると、両者は、「単結晶引上装置に於いて、黒鉛ルツボ、黒鉛ヒーター及び黒鉛保温筒の少なくとも1種が、その全部において全灰分が5ppm以下に高純度化された高純度黒鉛材料から成ることを特徴とする単結晶引上装置」である点で一致し、高純度黒鉛材料が、前者においては、「高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」されているのに対して、後者においては、「高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」されているとは云えない点で相違している。
以下、上記相違点について検討する。
甲第2号証には、(2-A)の記載からみて、「不純物」を一ppm(百万分の一)以下にした「超高純度黒鉛」が記載されており、当該「超高純度黒鉛」は、(2-B)の記載からみて、含有する「不純物濃度」が一ppm以下となっており、かつ「灰分」が全く検出されないものである。
甲第3号証には、(3-A)の記載からみて、高純度黒鉛材料を包装、運送等する場合に、「汚染因子が材料の深層部にまで至らず、表面部分のみが汚染される」ことは、「当業者にとって常識」であった旨が記載されている。
甲第4号証には、(4-A)の記載からみて、見掛比重1.75以上及び真比重2.15以上の黒鉛材を用いた肉厚10mm以上の炭素材精製用黒鉛容器が記載されており、当該炭素材精製用黒鉛容器で精製処理した炭素材は、(4-B)及び(4-C)の記載からみて、「発光分光分析」により分析した中心部の「全不純物」が1ppm、表面部の「全不純物」が3ppmとなるものである。
ここで、本件第1発明における高純度黒鉛材料は、「高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」されているものであり、ここでいう「全灰分」とは、本件特許明細書の「因に、前記試料A、B及びCの全灰分量は、日本工業規格(JIS)R7223-1979に準拠して測定して、夫々1ppm、10ppm、410ppmであり、従って試料Aは本発明範囲内、試料B及びCは本発明範囲外である。」(段落【0037】)という記載からみて、日本工業規格(JIS)R7223-1979に準拠して測定したものであるが、甲第2号証乃至甲第4号証には、そのような「全灰分」に関して、高純度黒鉛材料を、「高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」することは、記載も示唆もされていない。
すなわち、甲第2号証には、「超高純度黒鉛」の「不純物」を一ppm以下とすることが記載されているが、上記「不純物」は、具体的な分析方法が不明であるから、本件第1発明における「全灰分」に相当するものとは云えないし、かつ、「不純物」の量と「灰分」の量とは必ずしも一致するものではない。
また、甲第2号証には、「超高純度黒鉛」において「灰分」が全く検出されない旨が記載されているが、「超高純度黒鉛」において「灰分」が検出されるか否かは、検出精度等により変化し得るものである。
そうすると、甲第2号証に、「超高純度黒鉛」の「不純物」を一ppm以下とすること、及び「超高純度黒鉛」において「灰分」が全く検出されないことが記載されているとしても、当該記載から、甲第2号証に記載された「超高純度黒鉛」が、「高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」されていると、直ちに云うことはできない。
甲第3号証は、平成14年10月11日に提出された意見書であり、本件出願前に頒布された刊行物とは云えないものであって、かつ、甲第3号証には、本件出願前に、高純度黒鉛材料を包装、運送等する場合に、「汚染因子が材料の深層部にまで至らず、表面部分のみが汚染される」ことが「当業者にとって常識」であったことを証明するに足る証拠が示されているわけでもないから、甲第3号証は、本件出願前に、高純度黒鉛材料を包装、運送等する場合に、「汚染因子が材料の深層部にまで至らず、表面部分のみが汚染される」ことが「当業者にとって常識」であったことを示すものではない。
甲第4号証には、中心部の「全不純物」が1ppm、表面部の「全不純物」が3ppmである「炭素材」が記載されているが、当該「全不純物」は、「発光分光分析」により分析したものであるから、本件第1発明における「全灰分」に相当するものとは云えないし、そのような「全不純物」の量と「灰分」の量とは必ずしも一致するものではないから、甲第4号証に記載された「炭素材」もまた、「高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」されていると云えるものではない。
そうすると、甲第2号証乃至甲第4号証には、高純度黒鉛材料を「高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」することが、記載も示唆もされていないのであるから、甲第1号証に記載された発明において、高純度黒鉛材料を「高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」することを、甲第2号証乃至甲第4号証の記載に基づいて、当業者が容易になし得るとは云えない。
そして、本件第1発明は、高純度黒鉛材料において上記の構成を採用することにより、明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件第1発明を、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとは云えない。
また、本件第2発明は、本件第1発明において、「深層部」を、「減圧下で不活性ガスにより置換され、常圧に戻されている」ものとするものであり、上記のとおり、本件第1発明は、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは云えないものであるから、本件第2発明も、これと同様に、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとは云えない。
4-1-2.本件第3発明及び本件第4発明について
甲第2号証の記載から、甲第2号証に記載された「超高純度黒鉛」が「高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」されていると、直ちに云うことはできないこと、及び、甲第4号証に記載された「炭素材」もまた、「高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」されているとは云えないことは、「4-1-1.本件第1発明及び本件第2発明について」に記載したとおりである。
そうすると、本件第3発明と甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明とを比較した場合、両者は、少なくとも、高純度黒鉛材料が、前者においては「材料の高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」されているのに対して、後者においては「材料の高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」されたものとは云えない点で相違していることは、明らかである。
そうすると、本件第3発明が、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明であるとは云えない。
更に、高純度黒鉛材料を「材料の高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」することを、甲第2号証乃至甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとは云えないこともまた、「4-1-1.本件第1発明及び本件第2発明について」に記載したとおりであるから、本件第3発明を、甲第2号証又は甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとも云えない。
また、本件第4発明は、本件第3発明において、「深層部」を、「減圧下で不活性ガスにより置換され、常圧に戻されている」ものとするものであり、上記のとおり、本件第3発明は、甲第2号証又は甲第4号証に記載された発明であるとも、甲第2号証又は甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとも云えないものであるから、本件第4発明も、これと同様に、甲第2号証又は甲第4号証に記載された発明であるとも、甲第2号証又は甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとも云えない。
なお、甲第1号証の記載内容についても検討しておくと、甲第1号証には、
「単結晶引上装置に於いて、黒鉛ルツボ、黒鉛ヒーター及び黒鉛保温筒の少なくとも1種が、その全部において全灰分が5ppm以下に高純度化された高純度黒鉛材料から成ることを特徴とする単結晶引上装置」
の発明が記載されていると云えることは、「4-1-1.本件第1発明及び本件第2発明について」に記載したとおりであるが、上記甲第1号証に記載された発明中の「黒鉛ルツボ、黒鉛ヒーター及び黒鉛保温筒の少なくとも1種」は、「高純度黒鉛材料」と云えるものであり、当該「高純度黒鉛材料」は、「その全部において全灰分が5ppm以下に高純度化された高純度黒鉛材料」であるのだから、甲第1号証には、
「材料の全部において全灰分が5ppm以下に高純度化された高純度黒鉛材料」
の発明が記載されていると云える。
そして、本件第3発明と甲第1号証に記載された発明とを比較した場合、両者は、「材料の全部において全灰分が5ppm以下に高純度化された高純度黒鉛材料」である点で一致しており、高純度黒鉛材料が、前者においては、「材料の高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」されているのに対して、後者においては、「材料の高純度化処理後の作業工程により汚染される部分を除く深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化」されているとは云えない点で相違しているが、上記相違点は、「4-1-1.本件第1発明及び本件第2発明について」に記載した相違点と同じであるから、「4-1-1.本件第1発明及び本件第2発明について」に記載したのと同じ理由により、本件第3発明を、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとは云えない。
4-2.理由1-2について
特許異議申立人は、甲第5号証の(5-A)乃至(5-C)の記載からみて、特許権者は、親出願の出願当初、「全灰分」と「不純分」とを同義語として用いており、「灰分」、「灰分量」、「不純分」、「不純物量」といった用語は、全て「発光分光分析法及び原子吸光分析法によって測定される不純物量」であると推認されるから、親出願の出願当初の明細書には、実質的に全灰分5ppm以下の黒鉛材料について開示されていたとは云えないところ、親出願は、平成5年6月30日付けの手続補正書により、試料A乃至Cの全灰分量を日本工業規格に準拠して測定して、その測定結果を追加する補正がなされており、当該補正は明細書の要旨を変更する補正にあたるから、親出願の出願日は上記手続補正書が提出された平成5年6月30日となり、そうすると、本件の出願日も平成5年6月30日となるから、本件第1発明乃至本件第4発明は、甲第5号証に記載された発明に対して進歩性がない旨主張する。
以下、上記主張について検討すると、先ず、甲第5号証には、「灰分」、「全灰分」という用語と「不純分」、「不純物量」という用語とを同義語として用いる旨は明記されていない。
また、「灰分」とは、一般的には、「有機質が灰化されてあとに残った無機質または不燃性残留物をいう」(平成16年9月6日に提出された特許異議意見書に添付された乙第2号証参照)ものであって、「発光分光分析法及び原子吸光分析法」により分析された「不純分」、「不純物量」を、通常「灰分」とは云わないことは、技術常識からみて明らかである。
更に、「灰分」は、「有機物または生体中に天然に含まれている無機物だけでなく、不純物として混ざっているものの量をも示す」(上記乙第2号証参照)ものであることからみて、例えば甲第5号証(5-A)の「全灰分(不純分)」という記載は、「全灰分」として示される「不純分」を意味し、(5-B)の記載は、甲第5号証に記載の発明に係る試料において、「発光分光分析法及び原子吸光分析法」により分析された「不純分」、「不純物量」が極めて少ないことから、当該試料の「全灰分量」は「1ppm以下、実質的に0ppm(検出されない程度)に近い」ことを開示した記載とみるのが妥当であり、(5-C)の記載は「不純物量」の測定方法を開示した記載にすぎないから、当該(5-A)乃至(5-C)の記載が、甲第5号証において、「灰分」、「全灰分」という用語と「不純分」、「不純物量」という用語とを同義語として用いる旨を意味しているとは云えない。
故に、「灰分」、「灰分量」、「不純分」、「不純物量」といった用語が、全て「発光分光分析法及び原子吸光分析法によって測定される不純物量」であると推認できるものではない。
加えて、(5-D)の記載からみれば、親出願の出願当初の明細書には、実質的に全灰分5ppm以下の黒鉛材料について開示されており、かつ、黒鉛素材の灰分の測定方法は日本工業規格に規定があるのであるから、甲第5号証に記載された発明においても、「灰分」を日本工業規格の規定に準拠して測定すべきことは当業者にとって明らかであって、その測定結果を明細書に追加する補正をしたとしても、当該補正が明細書の要旨を変更すると直ちに云えるものでもないから、親出願において、平成5年6月30日付けの手続補正書によりした補正が、明細書の要旨を変更するものとまで云うことはできない。
そうすると、親出願の出願日も、本件の出願日も、平成5年6月30日となることはないから、本件第1発明乃至本件第4発明が、甲第5号証に記載された発明により進歩性がないとすることはできない。
4-3.理由1-1及び理由1-2についてのむすび
以上のとおりであるから、本件第1発明及び本件第2発明が、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明、又は、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、本件第3発明及び本件第4発明が、甲第2号証又は甲第4号証に記載された発明であるか、又は甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、云うことはできない。
また、本件第1発明乃至本件第4発明の進歩性は、甲第5号証により否定されるものでもない。
故に、本件第1発明乃至本件第4発明が、特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定により特許を受けることができないものであるとは云えない。
4-4.理由2について
特許異議申立人は、本件第1発明及び本件第3発明に記載された「深層部の全灰分」について、本件特許明細書には、汚染された部分とその部分を除く「深層部」とをどのように区別して試料を採取するかについて規定されていないので、本件特許明細書には当業者が容易に実施できる程度に発明が記載されていない旨主張する。
そこで、上記「深層部」について、本件特許明細書の記載をみると、本件特許明細書には、
「前記表1に於ける分析値に示す如く、本発明装置に適用される黒鉛材としては、高純度化反応装置から取り出された状態での全灰分量としては1ppm以下、実質的に0ppm(検出されない程度)に近いものであるが、取り出されたあと、包装、運送、引上げ装置内に装着する作業工程等において、取扱い中、若干の汚染は避けられず、このため少なくとも5ppmの高純度化炭素材を使用するものである。
すなわち、本発明の高純度黒鉛材料では、その全部において全灰分が5ppm以下あるとともに、深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化されたものになっている。また、全灰分5ppm以下に高純度化され、前記高純度化の処理時に内部に残存する処理ガスが不活性ガスと置換されている。」(段落【0038】)
と記載されている。
そして、上記記載からみて、本件第1発明及び本件第3発明に記載された「高純度黒鉛材料」は、高純度化反応装置から取り出された状態での全灰分量としては1ppm以下、実質的に0ppmに近いものであるが、取り出されたあと、包装、運送、引上げ装置内に装着する作業工程等において、取扱い中、若干の汚染は避けられないので、上記「高純度黒鉛材料」では、その全部において全灰分が5ppm以下あるとともに、深層部の全灰分が1ppm以下に高純度化されたものとしているのである。
ここで、上記汚染は、若干汚染する程度のものであって、「高純度黒鉛材料」の表面から内部に向かって拡散するものであるから((3-A)参照)、本件特許明細書においては、上記「高純度黒鉛材料」内部の、汚染されずに、全灰分が1ppm以下に高純度化されたままの部分を指して「深層部」としていることは明らかであって、上記「深層部」は、「高純度黒鉛材料」の汚染されたと考えられる部分を切断する等適宜な方法で除去し、残りの部分の灰分量を測定することで確認できることもまた明らかである。
かつ、本件特許明細書の段落【0037】には、試料の灰分の測定は日本工業規格に準拠する旨が記載されているのであるから、そうすると、汚染された部分とその部分を除く「深層部」とをどのように区別するかについて、本件特許明細書に、当業者が容易に実施できる程度に発明が記載されていないとまでは云えない。
以上のとおりであるから、本件特許明細書は、当業者が容易にその発明を実施し得る程度に記載されていないとは云えないから、特許法第36条第3項の規定に違反するものであるとは云えない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件第1発明乃至本件第4発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件第1発明乃至本件第4発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-09-17 
出願番号 特願平11-58267
審決分類 P 1 651・ 531- Y (C30B)
P 1 651・ 121- Y (C30B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平塚 政宏五十棲 毅  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 岡田 和加子
金 公彦
登録日 2003-03-20 
登録番号 特許第3410380号(P3410380)
権利者 東洋炭素株式会社
発明の名称 単結晶引上装置及び高純度黒鉛材料  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  
代理人 梶 良之  
代理人 須原 誠  

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