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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) D21H
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) D21H
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) D21H
管理番号 1105218
審判番号 無効2000-35284  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-01-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-05-29 
確定日 2004-10-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第3019249号発明「高吸油化粧用脂取り紙及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3019249号の請求項1〜6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続きの経緯
出願(特願平8-154272号) 平成8年6月14日
設定登録(特許第2888504号) 平成12年1月7日
無効審判請求 平成12年5月29日
答弁書・訂正請求書 平成12年9月4日
手続補正指令 平成13年2月16日
手続補正書(訂正請求書) 平成13年4月2日
弁駁書 平成13年6月19日
訂正拒絶理由通知 平成13年9月3日
意見書 平成13年11月6日
無効理由通知書 平成14年5月21日
訂正請求取下書 平成14年7月26日
意見書・訂正請求書(被請求人) 平成14年7月26日
手続補正指令 平成14年10月16日
書面審理通知 平成14年10月16日
手続補正書(方式) 平成14年11月21日
訂正拒絶理由通知 平成14年12月9日
意見書(被請求人) 平成15年2月10日
手続補正書(訂正請求書)(被請求人) 平成15年2月10日
II.訂正請求の適否について
1.平成15年2月10日付手続補正書について
該手続補正書は、平成14年7月26付訂正請求書の、(1)訂正事項aにおいて、「紙密度が0.7〜1.2g/cm3である」とあるのを、「かつ、紙密度が0.7〜1.2g/cm3である」と補正すること、(2)訂正事項cにおいて、「紙密度を0.7〜1.2g/cm3とする」とあるのを、「かつ、紙密度を0.7〜1.2g/cm3とする」と補正すること、(3)訂正事項gにおいて、「紙密度が0.7〜1.2g/cm3である」とあるのを、「かつ、紙密度が0.7〜1.2g/cm3である」と補正すること、(4)訂正事項kにおいて、「紙密度を0.7〜1.2g/cm3とする」とあるのを、「かつ、紙密度を0.7〜1.2g/cm3とする」と補正すること、そして、平成14年7月26付訂正請求書に添付した全文訂正明細書の記載も、同様に補正するものである。
該手続補正は、「かつ、」の加入により、補正前の訂正事項とは異なることになり、訂正請求書の要旨を変更するものであると認められるから、特許法第134条第5項で準用する特許法第131条第2項の規定により、採用することができない。
なお、被請求人は、該手続補正は、訂正請求書の要旨を変更しない範囲での軽微な補正である旨主張するが、上記したように許容できない補正であると認められる。
2.平成14年11月21日付手続補正書(方式)により補正された、平成14年7月26日付の訂正請求書は、以下の訂正事項a.〜l.よりなるものである。
訂正事項a.請求項1の記載「【請求項1】植物繊維を主成分とする原料からなる二層の抄紙であって、抄紙時、線経0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網にて片面又は両面に凹凸層が設けられていることを特徴とする高吸油化粧用脂取り紙。」を「【請求項1】植物繊維を主成分とする原料からなる二層の抄紙であって、抄紙時に抄紙機にて線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網にて片面又は両面に凹凸層が設けられ、紙密度が0.7〜1.2g/cm3であることを特徴とする高吸油化粧用脂取り紙。」と訂正すること、
訂正事項b.請求項5を請求項4とし、「【請求項4】紙の表面に金粉を混在させた請求項1乃至3のうちいずれかに記載の高吸油化粧用脂取り紙。」と訂正すること、
訂正事項c.請求項6を請求項5とし、「【請求項5】植物繊維を主成分とする原料を抄紙機にて2層に抄紙する高級油化粧用脂取り紙の製造方法であって、前記抄紙機では線経0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網を用いて抄紙の片面又は両面に凹凸層を形成し、紙密度を0.7〜1.2g/cm3とすることを特徴とする高吸油化粧用脂取り紙の製造方法。」と訂正すること、
訂正事項d.特許請求の範囲の訂正前の請求項4の記載を削除すること、
訂正事項e.明細書の段落0001の記載「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は、高吸化粧用脂取り紙及びその製造方法に関するものである。」を「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は、高吸油化粧用脂取り紙及びその製造方法に関するものである。」と訂正すること、
訂正事項f.明細書の段落0003の記載「【0003】又、箔打紙は箔打ちを15回ほど使用すると、箔を打ち延ばす働きがなくなり、これを女性の脂取り化粧紙として用いられている。名塩紙は箱打ち後、密度が0.94kg/cm3と常に高くなり、これを脂取り化粧紙として用いると、顔面の油脂分が除かれ、風呂に浴したようになるので、またの名を風呂屋紙として早くから用いられてきた。」を「【0003】又、箔打紙は箔打ちを15回ほど使用すると、箔を打ち延ばす働きがなくなり、これを女性の脂取り化粧紙として用いられている。名塩紙は箔打ち後、密度が0.94g/cm3と非常に高くなり、これを脂取り化粧紙として用いると、顔面の油脂分が除かれ、風呂に浴したようになるので、またの名を風呂屋紙として早くから用いられてきた。」と訂正すること、
訂正事項g.明細書の段落0007の記載「【0007】【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、この請求項1の発明においては、植物繊維を主成分とする原料からなる二層の抄紙であって、抄紙時、線経0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網にて片面又は両面に凹凸層が設けられていることを特徴とする高吸油化粧用脂取り紙をその要旨としている。」を「【0007】【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、この請求項1の発明においては、植物繊維を主成分とする原料からなる二層の抄紙であって、抄紙時に抄紙機にて線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網にて片面又は両面に凹凸層が設けられ、紙密度が0.7〜1.2g/cm3であることを特徴とする高吸油化粧用脂取り紙をその要旨としている。」と訂正すること、
訂正事項h.明細書の段落0011の記載「【0011】線径0.1mmから1.0mmの範囲で、かつ5メッシュ〜40メッシュの範囲の抄網を使用すると、凹凸層による吸油量及び紙層形成の点で好ましい。0.1mm未満の線径では、吸油量が増加しないため好ましくなく、1.0mmを越すと、紙層形成及び強度の点でよくない。又、5メッシュ未満では、吸油量の点で好ましくなく、40メッシュを越えると、凹凸層が形成できず好ましくない。」を「【0011】線径0.1mmから1.0mmの範囲で、かつ5メッシュ〜40メッシュの範囲の抄網を使用すると、凹凸層による吸油量及び紙層形成の点で好ましい。0.1mm未満の線径では、吸油量が増加しないため好ましくなく、1.0mmを越すと、紙層形成及び強度の点でよくない。又、5メッシュ未満では、吸油量の点で好ましくなく、40メッシュを越えると、凹凸層が形成できず好ましくない。また、0.7〜1.2g/cm3の範囲であると、高吸油し、更に使用後非常に透明性が上がる。紙密度が0.7g/cm3未満の場合は、使用後の透明性が悪くなり、1.2g/cm3を越えると、生産が困難となるため好ましくない。」と訂正すること、
訂正事項i.明細書の段落0014の記載を削除すること、
訂正事項j.明細書の段落0015の記載「【0015】請求項5の発明は、請求項1乃至4のうちいずれかにおいて、紙の表面層に金粉を混在させたことをその要旨としている。金粉を化粧用脂取り紙の表面に点在させることにより高級な名塩紙の様に金箔工程を通した様な意匠性のある化粧用脂取り紙を得ることができる。」を「【0015】請求項4の発明は、請求項1乃至3のうちいずれかにおいて、紙の表面層に金粉を混在させたことをその要旨としている。金粉を化粧用脂取り紙の表面に点在させることにより高級な名塩紙の様に金箔工程を通した様な意匠性のある化粧用脂取り紙を得ることができる。」と訂正すること、
訂正事項k.明細書の段落0016の記載「【0016】請求項6は、植物繊維を主成分とする原料を抄紙機にて2層を抄紙し、前記抄紙機は線経0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網で片面又は両面に凹凸層を形成する高吸油化粧用脂取り紙の製造方法をその要旨としている。」を「【0016】請求項5は、植物繊維を主成分とする原料を抄紙機にて2層に抄紙する高級油化粧用脂取り紙の製造方法であって、前記抄紙機では線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網を用いて抄紙の片面又は両面に凹凸層を形成し、紙密度を0.7〜1.2g/cm3とする高吸油化粧用脂取り紙の製造方法をその要旨としている。」と訂正すること、
訂正事項l.明細書の段落0040の記載「【0040】【発明の効果】以上詳述したようにこの発明は、化粧用脂取り紙の片面又は両面に網目等の凹凸層を設けたことにより、その凹部にて吸油量が大幅に増大し従来使用されている化粧用脂取り紙に比べて真の皮脂量を増大し、特に皮脂の発生量が多い場合の使用枚数を低減でき更に使用後の透明感が非常に高いので使用後の満足感が得られる化粧用脂取り紙とすることができる。」を「【0040】【発明の効果】以上詳述したようにこの発明は、化粧用脂取り紙の片面又は両面に網目等の凹凸層を設けたことにより、その凹部にて吸油量が大幅に増大し従来使用されている化粧用脂取り紙に比べて真の皮脂吸収量を増大し、特に皮脂の発生量が多い場合の使用枚数を低減でき更に使用後の透明感が非常に高いので使用後の満足感が得られる化粧用脂取り紙とすることができる。」と訂正すること。
2.訂正拒絶理由の概要
当審が平成14年12月9日付で通知した訂正拒絶理由の概要は、訂正事項a.及びc.による訂正は、実質上、特許請求の範囲を変更するものに該当すると認められるから、本件訂正請求は認められない、というものである。
3.訂正請求についての判断
(1)訂正事項aは、訂正前の請求項1「植物繊維を主成分とする原料からなる二層の抄紙であって、抄紙時、線経0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網にて片面又は両面に凹凸層が設けられていることを特徴とする高吸油化粧用脂取り紙。」を「植物繊維を主成分とする原料からなる二層の抄紙であって、抄紙時に抄紙機にて線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網により片面又は両面に凹凸層が設けられ、紙密度が0.7〜1.2g/cm3であることを特徴とする高吸油化粧用脂取り紙。」と訂正することにより、(1)抄紙時に抄紙機にて特定の抄網により凹凸層が設けられること、及び、(2)紙密度が0.7〜1.2g/cm3であることを特定するものである。
しかし、訂正後の請求項1には、抄紙時に抄紙機にて特定の抄網により設けられた凹凸層と、紙密度0.7〜1.2g/cm3の関係は、明確には規定されていない。そのため、訂正後の請求項1に係る発明は、所定の紙密度(0.7〜1.2g/cm3)に高密度化する処理により、抄紙時の(特定の抄網にて設けられた)「凹凸層」の凹凸が変形を受け、該「凹凸層」が失われる場合、すなわち、高吸油化粧用脂取り紙において、「抄紙時の(特定の抄網にて設けられた)凹凸層」が失われる場合を包含していると認められる。
上記したように、訂正後の請求項1に係る発明の高吸油化粧用脂取り紙は、「抄紙時に特定の抄網にて設けられた凹凸層」が失われる場合を包含すると解釈されるから、上記訂正事項aによる訂正は、実質上、特許請求の範囲を拡張するものであると認められる。
(2)訂正事項cによる訂正は、請求項6を請求項5とし、「請求項5 植物繊維を主成分とする原料を抄紙機にて2層に抄紙する高吸油化粧用脂取り紙の製造方法であって、前記抄紙機では線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網を用いて抄紙の片面又は両面に凹凸層を形成し、紙密度を0.7〜1.2g/cm3とすることを特徴とする高吸油化粧用脂取り紙の製造方法。」とするものであるが、上記(1)で述べた理由と同様の理由により、高吸油化粧用脂取り紙は、凹凸層と紙密度の関係上、「抄紙時の(特定の抄網にて設けられた)凹凸層」が失われる場合を包含することになるから、訂正事項cによる訂正は、実質上、特許請求の範囲を拡張するものであると認められる。
訂正事項a及びcによる訂正は、実質上、特許請求の範囲を拡張するものであり、本件訂正請求は、特許法第134条第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合しないから、訂正は認められない。
(3)被請求人の主張について
被請求人は、平成15年2月10日付意見書において、訂正拒絶理由に対して次の主張をしている。
(3-1)訂正後の請求項1の記載は、凹凸層がなくなる場合を包含するものではない。訂正後の請求項1の記載に関して、特許明細書の記載(実施例の開示)からすれば、抄網で凹凸層を形成した後、スーパーキャレンダー等により所定密度に高密度化させるという一連の工程が開示され、この実施例の製造方法において得られている製品としての化粧用脂取り紙は凹凸層が設けられているもののみであり、凹凸層のないものは含まれていない。訂正後の請求項1の発明の認定にあたり、「凹凸層」と「紙密度」との関係が明確でないのであれば、明細書の記載を参酌すべきであり、そうすれば、訂正後の請求項1において特定している化粧用脂取り紙は凹凸層が形成されているもののみを特定していることは明白である。したがって、訂正後の請求項1は、特許請求の範囲を拡張するものではない。(意見書第3頁第5行〜第4頁第5行)
(3-2)また、訂正後の請求項1の記載「抄網により片面又は両面に凹凸層が設けられ、紙密度が0.7〜1.2g/cm3であること」の解釈に関して、訂正後の請求項1は、訂正前の請求項4を独立項としたものであること、読点(、)を挟んでその前後に異なる状態(凹凸層と紙密度)を記載することにより、読点の前は、「凹凸層が設けられている」という要件、また読点の後ろは「紙密度が・・・である」という要件が並列して記載されていることから、凹凸層と紙密度との間に一連の関係があるような解釈(設けられた凹凸層がその後の高密度化によってなくなる等)は到底導き出すことはできない、凹凸層と紙密度との関係はいわゆるアンド条件として解釈するのが妥当である。(意見書第4頁第6行〜第5頁下から第8行)
(3-3)訂正事項cの訂正も、訂正事項aについて述べた理由と同様の理由により何ら特許請求の範囲を拡張するものではない、訂正後の請求項5の記載において「・・・凹凸層を形成し」と「紙密度を・・・とする」と両要件を読点(、)で挟んで記載していることからも、凹凸層と紙密度との関係はいわゆるアンド条件として解釈すべきであること、仮に他の解釈が可能であるとすれば、明細書の記載を参酌すべきである。(意見書第6頁第5行〜第6頁第3行)
しかし、「・・・凹凸層を形成」の抄紙工程と「紙密度を・・・とする」工程とは、別異の処理工程であり、特定の抄網を用いる抄紙工程により形成された凹凸層は、「紙密度を・・・とする」工程に付すことより、圧縮を受け、その凹凸の高さが変化することは、当業者に自明のことと認められる、そして、抄紙工程で形成された凹凸層を有する紙を、「紙密度を・・・・とする」工程によって、凹凸層の凹凸に与える影響をどの程度まで許容し得るのかについては何も記載はなく、「紙密度を・・・・とする」工程に付す前の紙の密度も限定されていないことからみても、高吸油化粧用脂取り紙は、「紙密度を・・・とする」工程によって、「抄紙工程で形成された凹凸層」がなくなる場合を包含していると認められる。
よって、高吸油化粧用脂取り紙は凹凸層がなくなる場合を包含するものではない旨の被請求人の主張は採用することができない。
被請求人は、特許明細書の記載(実施例の開示)からすれば、抄網で凹凸層を形成した後、スーパーキャレンダー等により所定密度に高密度化させるという一連の工程が開示され、この実施例の製造方法において得られている製品としての化粧用脂取り紙は凹凸層が設けられているもののみであり、凹凸層のないものは含まれていない、旨主張するので、明細書の記載を検討する。
本件明細書の実施例1では、特定の抄網(抄網の線径及びメッシュの選択による)を用いる抄紙工程で、一層には凹凸層のない層を形成し、他層には凹凸層を形成し、これら2層を抄き合わせ、抄紙の片面に凹凸層を形成しており、抄紙した後に、スーパーキャレンダーにより、特定の密度とした場合にも、該抄紙工程における特定の抄網により形成された、抄紙の凹凸層が、そのまま保持されたか否かについては明記されていない。(後記「VIII.当審の判断」「1.無効理由1について」「1-1.明細書の記載」における摘示記載a-9参照)
そして、実施例2には、特定の抄網(抄網の線径及びメッシュの選択による)を用いる抄紙工程で、一層には凹凸層のない層を形成し、他層には凹凸層を形成し、これら2層を抄き合わせ、抄紙の片面に凹凸層を形成したものに、金粉の懸濁液を流下させて金粉を付着させた後に、ヤンキードライヤーにより乾燥、熱キャレンダーによる処理をして、表面に凹凸層のある化粧紙を形成したこと、この化粧紙を裁断後重ねて箔打ち機にて処理し、表裏面とも平滑にしてから製本したことが記載されており、該「箔打ち機にて処理」後にも、該抄紙工程における特定の抄網(抄網の線径及びメッシュの選択による)により形成された、抄紙の凹凸層が、そのまま保持されたことについては明記されていない。(後記「VIII.当審の判断」「1.無効理由1について」「1-1.明細書の記載」における摘示記載a-10参照)
明細書の記載(実施例)を参酌しても、「凹凸層」と「紙密度」との関係が明確であるとはいえないから、被請求人の主張は、採用することができない。
III.本件発明
平成14年7月26日付訂正請求は認められないので、本件は、発明の名称を「高吸油化粧用脂取り紙及びその製造方法」とするものである。
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6には、次の記載がなされている。
「【請求項1】植物繊維を主成分とする原料からなる二層の抄紙であって、抄紙時、線経0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網にて片面又は両面に凹凸層が設けられていることを特徴とする高吸油化粧用脂取り紙。
【請求項2】一層はフラットで他の層に凹凸層がある請求項1に記載の高吸油化粧用脂取り紙。
【請求項3】凹凸層は填料が混在する請求項1又は請求項2に記載の高吸油化粧用脂取り紙。
【請求項4】紙密度が0.7〜1.2g/cm3で請求項1乃至請求項3のうちいずれかに記載の高吸油化粧用脂取り紙。
【請求項5】紙の表面層に金粉を混在させた請求項1乃至請求項4のうちいずれかに記載の高吸油化粧用脂取り紙。
【請求項6】植物繊維を主成分とする原料を抄紙機にて2層を抄紙し、前記抄紙機は線経0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網で片面又は両面に凹凸層を形成することを特徴とする高吸油化粧用脂取り紙の製造方法。」
IV.請求人の主張
審判請求人は、本件特許第3019249号を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする趣旨の無効審判を請求し、証拠方法として、検甲第1号証の1〜検甲第4号証の2、下記の書証を提出して、無効理由1〜無効理由4により、本件特許は無効にされるべきであると主張する。
1.無効理由1
特許明細書の発明の詳細な説明は、省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しているとはいえず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、特許請求の範囲における請求項1ないし請求項6に係る発明は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。
2.無効理由2
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に係る発明の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。
3.無効理由3
特許明細書の特許請求の範囲における請求項1ないし請求項6に係る発明の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。
4.無効理由4
特許明細書の特許請求の範囲における請求項1ないし請求項6に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第10号証ないし甲第12号証、甲第14号証ないし甲第25号証に記載された発明に基づいて、または特許出願前に日本国内において公然知られ、若しくは公然実施された検甲第1号証の1〜検甲第1号証の3、検甲第2号証、甲第13号証および上記各甲号証の発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

証拠方法:
(平成12年5月29日付審判請求時に提出)
検甲第1号証の1〜3:「箔打紙の研究」(発行者:金沢美術工芸大学美術工芸研究所、発行日:平成8年3月31日)に貼布されている「名塩金箔打紙の標本紙」(検甲第1号証の1)、「中島金箔打紙の標本紙」(検甲第1号証の2)、「二俣金箔打紙の標本紙」(検甲第1号証の3)
検甲第2号証:株式会社金銀箔工芸作田の専務取締役である作田一則による宣誓供述書(甲第13号証)に貼布されている油とり紙「高級油とり紙」
検甲第3号証:大福製紙株式会社、株式会社箔一の製造、販売に係る化粧用脂取り紙「FACE PAPER」
検甲第4号証の1、2:大福製紙株式会社、株式会社箔一の製造、販売に係る化粧用脂取り紙「金箔打紙製法 箔一ふるや紙 高級あぶらとり紙 二十枚綴」
甲第1号証:本件特許の出願時の願書、明細書および図面
甲第2号証:本件特許の出願後に提出された優先審査に関する事情説明書
甲第3号証:本件特許の審査時における拒絶理由通知書
甲第4号証:本件特許の審査時に提出された意見書
甲第5号証:本件特許の審査時に提出された手続補正書
甲第6号証:本件特許の審査時における拒絶査定
甲第7号証:本件特許の審判請求時に提出された審判請求書
甲第8号証:本件特許の審判請求時に提出された審判請求理由補充書
甲第9号証:「仕上・化繊紙 合成紙・塗工」(発行所 紙パルプ技術協会、発行日:昭和45年9月18日)表紙、第7頁〜第11頁、奥付
甲第10号証:「箔打紙の研究」(発行者:金沢美術工芸大学美術工芸研究所、発行日:平成8年3月31日)表紙、中表紙、名塩金箔打紙の標本紙、中島金箔打紙の標本紙、二俣金箔打紙の標本紙、第4頁〜第7頁、第21頁〜第60頁、第65頁〜第70頁、第73頁〜第91頁、奥付
甲第11号証 :「石川県工業試験場研究報告」(発行者:石川県工業試験場、発行日:昭和61年3月28日)表紙、第41頁〜第51頁、奥付
甲第12号証:中島今吉著「和紙文化誌](発行所:毎日コミュニケーションズ、発行日:1990年10月5日)表紙、第469頁〜第478頁、奥付
甲第13号証:株式会社金銀箔工芸作田の専務取締役である作田一則による宣誓供述書
甲第14号証:「最新和紙手漉法」(発行者:丸善出版株式会社、発行日:昭和21年9月25日)表紙、第249頁〜第251頁、第310頁〜第313頁、奥付
甲第15号証:特開平6-319664号公報
甲第16号証:「和紙の製造 板紙の抄造」(発行所:紙パルプ技術協会、発行日:昭和43年12月17日)表紙、第51頁〜第52頁、第82頁〜第84頁、第189頁〜第190頁、奥付
甲第17号証:原啓志著「紙のおはなし」(発行所:財団法人日本規格協会、発行日:1992年6月20日)表紙、第102頁〜第111頁、奥付
甲第18号証:「オールペーパーガイド 紙の商品事典下巻生活篇」(発行所:株式会社紙業タイムス社、発行日:昭和58年12月1日)表紙、第55頁、奥付
甲第19号証:「JISハンドブック38 紙・パルプ 1991」(発行所:財団法人日本規格協会、発行日:1991年4月20日)表紙、第31頁、第32頁、第37頁、奥付
甲第20号証:堀洸著「小ロツト製紙工学」(発行所:株式会社紙業タイムス社、発行日:昭和43年8月25日)表紙、第332頁〜第339頁、第402頁〜第404頁、奥付
甲第21号証:カタログ「製紙用金網」(頒布者:日本フィルコン株式会社、頒布日:平成2年1月)
甲第22号証:「JIS G3556-1989 工業用織金網」(発行所財団法人日本規格協会、発行日:平成元年8月31日)表紙、第1頁〜第14頁、奥付
甲第23号証:特開平8-56867号公報
甲第24号証:「紙パルプの種類とその試験法」(発行所:紙パルプ技術協会、発行日:昭和41年7月25日)表紙、第106頁、第107頁、奥付
甲第25号証:実用新案登録第3016736号公報
参考資料:特願平9-353475号出願の審査における関連書類(出願明細書、平成10年1月6日付手続補正書、委任状、拒絶理由通知書、平成11年12月22日付意見書及び平成11年12月22日付手続補正書)
(平成13年6月19日付弁駁書提出時に提出)
参考資料2:松岡義直著「板紙の製造」(発行所:株式会社紙業タイムス社、発行日:昭和48年9月15日再版発行)第211頁、第212頁、第219頁〜第221頁、第258頁、第259頁,第265頁〜第271頁、奥付
参考資料3:紙パルプ技術協会編「和紙の製造 板紙の抄造」(発行所:紙パルプ技術協会、発行日:昭和43年12月17日)第138頁〜第143頁、第158頁〜第161頁、奥付
参考資料4:堀洸著「小ロット生産の製紙実務」(発行所:株式会社紙業タイムス社、発行日:昭和58年8月20日)第211頁〜第215頁、奥付
参考資料5:磯田清藏著「最新製紙機械」(発売所:丸善株式会社、発行日:昭和26年10月1日再版発行)第492頁〜第497頁、奥付
V.被請求人の主張
被請求人は、「本件請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明の特許は無効とすることができない旨主張している。
1.無効理由1に対する被請求人の主張
(1)本件発明の効果を達成するためには、化粧用脂取り紙として片面又は両面に凹凸層を有するとともに、高密度化されている必要があるとの審判請求人の主張は、高密度化処理に関する請求項4における規定を、請求項1の要件とする訂正を行ったので、その主張の根拠がなくなった。
(2)「凹凸層」の解釈に関連した「凹凸層のない層(平滑層)」に関して、段落0019における「凹凸層のない層(平滑層)」と段落0035における「平滑して」は、異なる製造段階での状態を表すものであるから、「平滑して」を「凹凸層のない層(平滑層)」と解釈すべきではなく、段落0035の「平滑して」の意義は、抄紙段階で凹凸層が形成された化粧紙を箔打ち機によって処理することにより、抄紙時に比べて高密度化されたことにより適度な凹凸層が形成されたと解釈すべきである。
(3)本件発明の脂取り紙は抄紙段階において凹凸層を形成しており、この状態でスーパーカレンダーによる処理を行っても、抄紙時の凹凸層が全くなくなり凹凸層のない層(平滑層)が形成されることはあり得ない。
(4)線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網を使用して抄紙した場合に実際に形成される凹凸層は、線径とメッシュとの関係から理解されるように滑らかな凹凸となる。そのため、このような滑らかな凹凸状態の化粧用脂取り紙に対して箔打ち等を行った場合には、凹凸層全体がほぼ均一に高密度化されることとなり、エンボス加工を行った場合のような極端な密度差は生じない。
(5)皮脂の吸収量を増大させること及び使用後の透明感が非常に高いという本件発明の作用効果を同時に満足する構成が記載されていない旨の審判請求人の主張は、訂正請求により紙密度を所定の範囲とするように明細書が訂正されたので、その主張の根拠がなくなった。
したがって、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしている。(答弁書第2頁末行〜第5頁下から第6行)
2.無効理由2に対する被請求人の主張
2個の円網を用いて抄紙すれば、抄紙段階で二層に形成された湿紙は水分率が約98パーセント程度も存在する状態であり、フェルト5上にピックアップされた湿紙8に更に重ねられた湿紙7は空気を介して、そのまま湿紙8の凹部表面に接することとなる、この抄き合わせの状態で抄紙8,7をシリンダー2と回転ロール9により押圧されているフェルト5とにより挟持した場合には凸部が弾力性を有するフェルト側にも突出することとなり、結果的に両面に凹凸が形成されるので、抄き合わせされた二層の湿紙によって形成される凹凸層は円網側、即ち片側にのみ形成され、両面には形成されないというものではないから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に違反するものではない。(答弁書第5頁下から第5行〜第6頁第12行)
3.無効理由3に対する被請求人の主張
(1)本件発明の脂取り紙は、抄紙してから製品とするまでには、乾燥、高密度処理等の一般的工程を経るものであり、これらは当業者にとって自明の技術であるから、脂取り紙の構成のうち、抄紙段階及び高密度処理における限定事項のみを記載することによっては何ら特許法第36条第6項第2号に違反するものではない。(答弁書第6頁第13〜26行)
4.無効理由4に対する被請求人の主張
(1)甲第17〜20号証はいずれも一般的な抄き合わせの技術について記載されているにすきず、本件発明のように化粧用脂取り紙を二層で形成することにより高吸油性が得られる点について同証拠中にはこれを開示乃至示唆するいかなる記載もなされていない。
(2)甲第21、22号証には、線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網について記載されているが、「抄紙時、抄紙機にて線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網により片面又は両面に凹凸層が設けられ」るように抄紙することによって特有の作用効果が得られるような記載はない。
(3)甲第10、13、14、及び16号証には、5〜40メッシュの抄網にて抄紙し、紙表面に凹凸が形成される記載があるが、これらの証拠に記載された抄きはいずれも手漉きであり、本件発明のように抄紙機によって抄紙された化粧用脂取り紙に関しては何ら記載されておらず、また本件発明のように線径を0.1〜1.0mmに限定する点を開示乃至示唆するような記載もなされていない。
(4)甲第23号証は抄紙機によって抄紙される化粧用脂取り紙が記載されているが、抄網により凹凸層を形成する点について開示乃至示唆するような記載はなされていない。
(5)甲第11号証は、44頁表4に列挙された手漉き和紙の密度を求めたところ、その多くが0.7〜1.2g/cm3に含まれる旨が記載されているにすぎず、本件発明の他の構成要件についての記載はないことから、本件発明の化粧用脂取り紙の構成を何ら開示乃至示唆するものではない。
(6)甲第15号証には、「化粧用脂取り紙の緊度(密度)が0.7以上、好ましくは0.8以上」と記載されているが、本件明細書の段落0013の「1.2g/cm3を越えると生産が困難となる」旨は何ら記載されておらず、本件発明における前記のような紙密度の限定は何ら開示乃至示唆されていない。
甲第10〜23号証をそれぞれ適用しても、示唆されるのは本件発明の構成要件のうち、「高密度化処理によって紙密度が0.7〜1.2g/cm3」である点にすぎず、他の構成要件である「二層の抄紙」及び「抄紙時、抄紙機にて線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網により片面又は両面に凹凸層が設けられ」る点については何ら開示乃至示唆されてはいないから、甲第10〜23号証に基づき当業者が容易に本件発明をすることができたとはいえない。
(7)本件請求項2〜4に係る発明は請求項1の従属項であり、上述のように本件発明(請求項1に記載した発明)が、特許法第29条第2項に違反していない以上、請求項2〜4に係る発明も当然に特許法第29条第2項に違反するものではない。
また、請求項5に係る発明は、本件発明の化粧用脂取り紙の製造方法に係る発明であり、本件発明とは発明のカテゴリーが相違するのみであるから、請求項5に係る発明も、本件発明と同様に特許法第29条第2項に違反するものではない。(答弁書第7頁第4行〜第11頁下から第4行)
VI.当審の通知した無効理由通知
1.請求項1の「凹凸層が設けられている高吸油化粧用脂取り紙」に関して、「高吸油化粧用脂取り紙」には、抄紙時、線経0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網にて・・・凹凸層を設けた「凹凸」があるとされている。請求項1を引用している請求項4では、紙密度が特定され、段落0014及び段落0022では、所定の紙密度にするために、箔打ち工程や、スーパーカレンダー及び高圧プレス等の処理がなされることが記載されていることからすると、請求項1の「凹凸」は、抄紙時に特定の抄網を用いて設けられたそのままのものだけを意味するとはいえないことは明らかである。抄紙時後に何も処理を行なわないのであれば、凹凸は上記記載により定義されているといえるが、たとえば、高密度化のための処理が抄紙後に施された場合(当然、凹凸は変化すると考えられる。)には、「凹凸層が設けられている高吸油化粧用脂取り紙」の凹凸を規定する記載はないから、凹凸層の「凹凸」はどの程度のものか明確ではない。
したがって、請求項1及び請求項1を引用して限定している請求項2〜5に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、本件は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.請求項6に係る発明において、「前記抄紙機は線経0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網で片面又は両面に凹凸層を形成すること」は、何が(主語)、どうあることで、何(対象物)に対して、どうするかが明らかでないため、特許を受けようとする発明(高吸油化粧用脂取り紙の製造方法)が明確であるとはいえない。
また、高吸油化粧用脂取り紙の製造方法の製造目的物である「高吸油化粧用脂取り紙」は、その抄紙時に特定の抄網を使用することで形成された凹凸層が高吸油化粧用脂取り紙の片面又は両面に存在しているものであると狭義には解されるが、明細書の記載からすると、広義には、処理工程が付加された方法による高吸油化粧用脂取り紙も包含すると認められる。そうすると、請求項1〜5で述べた理由と同様の理由により、その後の処理工程で変化を受ける場合に、凹凸層の「凹凸」は、どの程度のものか明確ではない。
したがって、請求項6に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、本件は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
VII.無効理由通知に対する被請求人の主張
1.請求項1に記載における化粧用脂取り紙に形成される「凹凸層」の凹凸とは、抄網の金網等により場所毎に繊維の多寡が生ずることによる厚みの違いを意味している、すなわち、紙面上において、抄紙時に金網がない場所では繊維(繊維間の空隙も含む)が多く抄かれて凸部となり、金網のある場所ではこの金網により繊維が少なく抄かれて凹部となり、この金網の有無に基づく繊維の多寡により凹凸が生じ凹凸層として認識される。また、紙の密度を0.7〜1.2g/cm3とするには紙の厚み方向から加圧を行う必要があり、この場合、加圧により個々の繊維それ自体が圧縮されるのではなく、繊維間に存在する空隙が押しつぶされて、化粧用脂取り紙全体としてみかけ上の密度が高まることになる。とすれば、抄紙後も加圧処理を施して凹凸が変化する場合であっても、抄網のメッシュ数及び線径が特定されることにより抄紙時に形成される凹凸層の凹凸が定義され、かつ目的とする紙密度が規定されれば、最終製品である化粧用脂取り紙に設けられている凹凸層の凹凸は一義的に決まるから、本件発明の化粧用脂取り紙に設けられている凹凸層の凹凸の内容は何ら不明確なものではない。(意見書第3頁第7行〜第5頁第3行)
2.訂正請求に訂正された化粧用脂取り紙の製造方法は、抄紙機では線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網を用いて抄紙することにより、抄紙の片面又は両面に凹凸層を形成するものであるから、何ら不明確であるとはいえない。(意見書第5頁第10〜末行)
3.本件発明における「凹凸」に関して、凹凸は繊維の多寡によることは、当業者が本件明細書の記載に基づいて導き出せる事項であり、明細書に記載された事項に等しい事項であるから、審判官の無効理由通知の記載は、妥当なものとはいえない。(訂正拒絶理由書に対する意見書第7頁第9〜18行)
VIII.当審の判断
1.無効理由1について
1-1.明細書の記載
無効理由1に関して、本件特許明細書の記載を検討する。
明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6には、前記III.の記載がされている。
さらに、明細書には、次の記載がされている。
a-1.「【発明が解決しようとする課題】従来の技術で使用されている、化粧用脂取り紙は手漉きのため量産するには限界があり、最近では靭皮繊維に特殊な無機填料、例えば、クレー、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン等を混合させた後、特殊な定着剤を投入した後、抄紙し更に化粧紙として使用後の透明性を上げるため、名塩紙のような高密度になるようにキャレンダー等により処理を行い、量産使用されている。
しかし現行の化粧用脂取り紙では、使用後の透明性が高く油脂分が取れた様に見えるが、2回、3回と繰り返しても完全に顔面の油脂分が取れない問題点がある。
この発明は1回の使用で真の皮脂の高吸収性があり更に使用後の透明性が高い特性が得られる高吸油化粧用脂取り紙及びその製造方法を提供することにある。」(段落0004〜0006)
a-2.「【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、この請求項1の発明においては、植物繊維を主成分とする原料からなる二層の抄紙であって、抄紙時、線経0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網にて片面又は両面に凹凸層が設けられていることを特徴とする高吸油化粧用脂取り紙をその要旨としている。」(段落0007)
a-3.「凹凸層がない脂取り紙の場合、紙の厚さ方向のみで吸油するため、紙の厚さにより吸油量が制限される。又、使用時の肌触り・強度(使用時破けにくい)・使い易さより、紙の坪量は15〜25g/m2の範囲であり、使用時の吸油量には制限があり、特に顔面等の皮脂の多い場合一枚のみの使用では十分に取れないため、2〜3枚使用する場合も生ずる。紙の片面又は両面に凹凸層がある場合には、その凹部に皮脂が吸収され、凹凸層面の表層部並びに紙の厚さ方向にて吸油され高い吸油量が得られるため、特に顔面等の皮脂の多い場合一枚のみの使用でも十分な効果が得られる。
前記凹凸層は、抄紙の段階で抄紙機のシリンダーワイヤー上に金網又はプラスチックワイヤー又はシリンダーワイヤー上に部分的に目止めを行うことにより、一層又は二層から形成される。
線径0.1mmから1.0mmの範囲で、かつ5メッシュ〜40メッシュの範囲の抄網を使用すると、凹凸層による吸油量及び紙層形成の点で好ましい。0.1mm未満の線径では、吸油量が増加しないため好ましくなく、1.0mmを越すと、紙層形成及び強度の点でよくない。又、5メッシュ未満では、吸油量の点で好ましくなく、40メッシュを越えると、凹凸層が形成できず好ましくない。」(段落0007〜0011)
a-4.「請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のうちいずれかにおいて、紙密度が0.7〜1.2g/cm3であることをその要旨としている。0.7〜1.2g/cm3の範囲であると、高吸油し、更に使用後非常に透明性が上がる。紙密度が0.7g/cm3未満の場合は、使用後の透明性が悪くなり、1.2g/cm3を越えると、生産が困難となるため好ましくない。」(段落0014)
a-5.「請求項6は、植物繊維を主成分とする原料を抄紙機にて2層を抄紙し、前記抄紙機は線経0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網で片面又は両面に凹凸層を形成する高吸油化粧用脂取り紙の製造方法をその要旨としている。」(段落0016)
a-6.「その後、丸網抄紙機、短網抄紙機、長網抄紙機等の抄き網であって、抄き漕を2本として線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュのものを使用して網目模様にて図1(a)に示すように表層と裏層に凹凸層20を形成する。」(段落0018抜粋)
a-7.「又、二層抄き合わせの場合は第一抄き漕は金網60〜20メッシュを使用して凹凸層のない層(平滑層)22を形成し、更に第二抄き漕は線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュを使用又は部分的に金網の目を詰めることにより凹凸層21を形成し、坪量15〜25g/m2の紙を抄造する(図1(b)を参照)。」(段落0019)
a-8.「使用後の透明性を上げるには密度を0.7〜1.2g/cm3と高密度化する必要があり、所定の寸法に裁断した後、箔打ち工程で数百回〜数千回の処理を行う。なお、箔打ち工程の代りにスーパーキャレンダー及び高圧プレス等により紙の密度を向上する方法もある。」(段落0022)
a-9.実施例1には、「丸網抄紙機の1本目のバットの抄き網は線径0.132mm、90メッシュを使用して凹凸のない層を形成して、11g/m2にし、更に2本目のバットの抄き網は線径0.2mmで16メッシュを使用し、片面側に凹凸層を11g/m2にして坪量22g/m2の紙を抄き合わせ抄紙した後、スーパーキャレンダーにて密度1.0g/cm3にし化粧用脂取り紙とした。」こと(段落0023〜0025参照)
a-10.実施例2には、図2に示すように、少なくとも2個の円網12を備えた抄き合わせ抄紙機3を使用して、「第1円網1では実施例1と同じ紙料、無機填料、及び定着剤を使用したスラリー6から11g/m2に相当する湿紙8を形成してフェルト5でピックアップさせた。すなわち、前記第1円網1は金網90メッシュを使用して凹凸層のない層を形成」し、「第2円網2では、実施例1と同じ紙料、無機填料、定着剤を使用したスラリーにさらに抗菌填料としてのゼオライト系抗菌填料(ゼオライト、銀、亜鉛からなる抗菌填料)0.5部を添加したスラリー4から11g/m2に相当する湿紙7を形成させて抄き合わせを行う。なお、この第2円網2は線径0.3mmで20メッシュの金網を使用している。従って、この第2円網2において、凹凸層が形成される。そして、カーテンコーター10から金粉の懸濁液を流下させて、湿紙7の抗菌填料含有層面に金粉を付着させた。次にヤンキードライヤー(図示しない)で乾燥し、ついで熱キャレンダー(図示しない)を用いて処理し、抗菌性を有する重さ22g/m2の抗菌化粧紙を得た。」こと、そして、「この化粧紙は抗菌填料配合表面に凹凸層が形成されるとともに金粉も表面側に偏在することになる。この化粧紙を裁断後重ねて箔打ち機にて処理し、表裏面とも平滑してから製本した。」こと(段落0032〜0035参照)
a-11.実施例3には、両面が凹凸層のものの実施例であるとして、「実施例1と同一の原料・薬品にてスラリーを調成し、図2に示すように少なくとも2個の円網1,2を備えた抄き合わせ抄紙機3を使用した。抄紙機3の抄き網は2個の円網1,2とも線径0.2mmで20メッシュの金網を使用して各坪量11g/m2にて湿紙形成し、抄き合わせにて両面凹凸層がある22g/m2の紙を抄紙した。次いで熱キャレンダーを用い密度1.0g/cm3にして化粧用脂取り紙とした。」こと(段落0036〜0038参照)
1-2.判断
本件の高吸油化粧用脂取り紙は、皮脂の吸収量を増大させること及び使用後の透明感が非常に高いという、発明の作用効果を同時に満足するためには、化粧用脂取り紙として片面又は両面に凹凸層を有するとともに、所定の密度に高密度化されている必要があるとされているところ(摘示記載a-1、a-4及びa-8参照)、抄紙時に特定の抄網(線径0.1〜1.0mmで5〜40メッシュ)を使用して抄紙工程で形成した凹凸層を有する紙に対して、箔打ちやスーパーキャレンダーなどにより高密度化のための処理を施せば、該凹凸層の凹凸は、技術常識上、平滑化処理を受けることになるから、抄紙され、箔打ちやスーパーキャレンダーなどにより高密度化のための処理を施された、化粧用脂取り紙は、高密度化のための処理の前後で、凹凸層の凹凸は変化することになる。
化粧用脂取り紙の片面又は両面にある凹凸層の凹凸が、スーパーカレンダーや箔打ちなどによる処理を受けて、平滑化されたと把握される場合のものと、箔打ちなどによる処理を受けても「化粧用脂取り紙の片面又は両面に凹凸層がある」と把握される場合のものを、明確に区別する基準(凹凸の定義)の記載がないから、本件明細書は、凹凸層が設けられた高吸油化粧用脂取り紙に関して、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているとはいえないと認められる。
凹凸層に関して、被請求人の「抄紙時に比べて高密度化されたことにより適度な凹凸層が形成されたと解釈すべき」、「抄紙段階において凹凸層を形成しており、この状態でスーパーカレンダーによる処理を行っても、抄紙時の凹凸層が全くなくなり凹凸層のない層(平滑層)が形成されることはあり得ない」、「滑らかな凹凸状態の化粧用脂取り紙に対して箔打ち等を行った場合には、凹凸層全体がほぼ均一に高密度化されることとなり、エンボス加工を行った場合のような極端な密度差は生じない」等の主張は、明細書の記載に基づくものではない上に、凹凸層の凹凸についてその内容を明確に示しているとはいえないので、採用することはできない。
2.当審が通知した無効理由について
被請求人は、訂正請求により、無効理由通知に対応したが、該訂正請求が認められないことは、「II.訂正請求の適否について」「3.訂正請求についての判断」に示したとおりであるから、特許請求の範囲に特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないとした、明細書の記載不備(請求項1の「凹凸層が設けられている高吸油化粧用脂取り紙」に関して、「凹凸層が設けられている高吸油化粧用脂取り紙」の凹凸を規定する記載はないから、凹凸層の「凹凸」はどの程度のものか明確でなく、請求項6の「前記抄紙機は線経0.1〜1.0mmで5〜40メッシュの抄網で片面又は両面に凹凸層を形成すること」の記載内容が明確でない)は、解消していない。
また、被請求人は、意見書において、「請求項1に記載における化粧用脂取り紙に形成される「凹凸層」の凹凸とは、抄網の金網等により場所毎に繊維の多寡が生ずることによる厚みの違いを意味している、すなわち、紙面上において、抄紙時に金網がない場所では繊維(繊維間の空隙も含む)が多く抄かれて凸部となり、金網のある場所ではこの金網により繊維が少なく抄かれて凹部となり、この金網の有無に基づく繊維の多寡により凹凸が生じ凹凸層として認識される。また、紙の密度を0.7〜1.2g/cm3とするには紙の厚み方向から加圧を行う必要があり、この場合、加圧により個々の繊維それ自体が圧縮されるのではなく、繊維間に存在する空隙が押しつぶされて、化粧用脂取り紙全体としてみかけ上の密度が高まることになる。とすれば、抄紙後も加圧処理を施して凹凸が変化する場合であっても、抄網のメッシュ数及び線径が特定されることにより抄紙時に形成される凹凸層の凹凸が定義され、かつ目的とする紙密度が規定されれば、最終製品である化粧用脂取り紙に設けられている凹凸層の凹凸は一義的に決まるから、本件発明の化粧用脂取り紙に設けられている凹凸層の凹凸の内容は何ら不明確なものではない」旨主張するが、明細書の記載に基づくものではないから採用することはできない。
また、高吸油化粧用脂取り紙における「凹凸」に関して、凹凸は、繊維の多寡によることは、当業者が本件明細書の記載に基づいて導き出せる事項であり、明細書に記載された事項に等しい事項である旨主張するが、仮に、被請求人の主張のように、金網の有無に基づく繊維の多寡により凹凸が生じ、抄網の金網等により場所毎に繊維の多寡が生ずることによる厚みの違いを意味しているとすると、金網の線径とメッシュの範囲では本件請求項1とは異なるものの、同じように抄網の金網(線径0.132mm、90メッシュ)を使用して片面に「凹凸のない層」を形成したことを明記している実施例1(摘示記載a-9参照)でも、抄網の金網等により場所毎に繊維の多寡が生ずることによる厚みの違いが生じ、「凹凸」があることになるから、明細書の「凹凸のない層」を形成したとの記載と矛盾するから、被請求人の主張は採用することはできない。
したがって、請求項1、請求項1を引用して限定している請求項2〜5、及び請求項6に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
IX.結論
以上のとおり、本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があり、特許法第36条第4項、特許法第36条6項第2号の規定を満足していない特許出願に対してなされたものであるから、その他の無効理由について検討するまでもなく、特許法第123条第1項第4号の規定によって、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-06-03 
結審通知日 2003-06-09 
審決日 2003-07-04 
出願番号 特願平8-154272
審決分類 P 1 112・ 537- ZB (D21H)
P 1 112・ 536- ZB (D21H)
P 1 112・ 855- ZB (D21H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松縄 正登  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 石井 克彦
石井 淑久
登録日 2000-01-07 
登録番号 特許第3019249号(P3019249)
発明の名称 高吸油化粧用脂取り紙及びその製造方法  
代理人 三宅 景介  
代理人 大場 常夫  
代理人 恩田 博宣  
代理人 大場 常夫  
代理人 恩田 博宣  
代理人 三宅 景介  

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